各団体の採点
闇の中を、行き着く先もないと分かってもなお、「手応え」を求めて走り続ける登場人物たち。その疾走感に興奮し、安易なオチに流されまいとする姿勢にシンパシーを感じました。
エンターテインメント性の高い演出、演技は、舞台と客席の間の壁を突き破るような「突破力」を感じさせるものでしたが、もう少し、表現に濃淡があるといいですね。時には引いてみることで、この劇団、戯曲の持つ確かな質量を実感させる??という方法もあるのではないでしょうか。
オープニングの暗闇までは興味をそそられたのですが、声が聴こえた途端に興ざめしてしまいました。若い役者さんが客席に向かって大きな声を出し、身体を元気に動かす様子を見どころとするタイプのお芝居で、演技の精度が低く、残念ながら全体的に集中できませんでした。作・演出・出演(ジャパン役)の山崎彬さんは、『駄々の塊です』で岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされ、『嘘ツキ、号泣』ではOMS戯曲賞佳作を受賞されています。せめて言葉だけでも味わえないかと自分なりに努力はしたのですが、役者さんが叫べば叫ぶほど、セリフが耳に入って来ませんでした。
衣装は派手な装飾と際どい色使いで工夫が凝らされていました。キャラクターをわかりやすく表す配慮は良かったと思いますが、安っぽさが気になっていまいました。テカっとまんべんなく白く照らす照明のせいで、粗が見えてしまったせいもあります。そう、LEDの照明がとても苦手でした。装置や俳優だけでなく、劇場の壁も客席もすべて白々しく照らしてしまうのです。闇と対比させる効果を狙ったのかもしれませんが、青白くて明るい光に照らされ、隅々まで晒されることにはリスクもあります。
劇団でバンド活動もされていて、毎公演終了後に無料で短いライブを披露しているとのこと。私が観た回の後もライブが行われていました。やりたいことをやるというストレートな実行力は作品にも表れていましたし、三都市ツアーを敢行する力を備えてるのも素晴らしいと思います。劇団独特の魅力があり、ファンを獲得していることにも納得でした。チラシのイラストがアーティスティックで、形も質感も独特で目を引きました。タイトルもキャッチコピーにもそそられました。
いつもより、ポップでキャッチなテイストで進行しながら、中身は悪い芝居そのもの。日常の中に潜む狂気と非日常を見事に描いている。そして「闇」というテーマは、悪い芝居のすべての作品に通じるテーマだろう。心の闇という単純なものではなく、もっと悪意に満ちたあるいはすべての欺瞞的なものを象徴していると感じた。
今回スタッフワークがとても良かった。特に舞台美術と衣装は秀逸。場面転換さえ、楽しかった。
「小劇場演劇」と聞いてパっと思い浮かべたら、こんなお芝居なんじゃないでしょうか。
若い役者さんがおしゃれな衣装をまとって、声を張り上げて客席を向いてセリフをしゃべり、やみくもに動いたり、長い暗転があったり…演劇でしかできないことを実践されていて、昔の小劇場のイメージがビジュアライズされたように感じました。
LEDの照明も、装置も動かすセットチェンジも見どころがあって特にオープニングの照明が良かったです。
なかでも一番好感を持ったのは衣装ですね。
キャラクターの背景がわかるので区別もつきやすく、一生懸命工夫されていると思いました。
ポンチョやカメラに文字を描いていたり、“先生”が着ていた変なガウンも面白かったです。
役者さんは皆さん、とてもがんばってると思いました。
女優さんが可愛いかったですし、“スピード”役の人の体のキレが良いのも印象に残りました。
たとえば劇団鹿殺しだったら菜月チョビさんと丸尾丸一郎さん、柿喰う客だったら玉置玲央さんなど、劇団を象徴する肉体を持つ俳優が出てくれば、“悪い芝居”をまた観に行きたくなると思います。
3つの物語が並行して語られる。(1)手術で目が見えるようになった女、夫、愛人の三角関係の物語。(2)すぐに記憶を忘れてしまう青年とその友人や先生との物語。(3)とにかく早く走ることに命を燃やしている女、ライバル、コーチ、ドキュメンタリー映像作家(?)の物語。
それらは「現在」に閉じ込められた人々の逃走(の反復と失敗)の物語、という意味で共通性を持っている、と徐々に(わたしには)理解されてきたのだが、その諒解に至るまでの時間があまりにも長すぎたし、待たされたわりには、何かパッと明瞭に像を結ぶようなカタルシスがあるわけでもなく、しかもずいぶんと頭を使わなければ理解できないものになっているので(見える? 見えない? え? みたいな)、もっと体感的な説得力を持っていてほしかった。そのせいか、ところどころでは良いセリフがあったとも思うけれど、それらも、物語から浮いた決めぜりふで終わってしまった感がある。
悪い芝居はこれまでも何度か観ているので、彼らの熱い演技=演出方法に馴染みがないわけではないし、愛すべき人たちだと思う気持ちもないわけではない。ただ、この作品のメッセージを乗せるにあたって、果たしてこの演技方法でいいのかどうか、という点においては疑問を感じざるをえなかった。俳優がダメということではない。むしろ特に大川原瑞穂や池川貴清にはこれまで以上の達成が感じられたんだけれども……。
また戯曲も、いささか風呂敷をひろげすぎた感がある。「闇」にしても、「過去・現在・未来」にしても、「運命」にしても、ただハイテンションで押しきれるテーマではないし、ひとつひとつをもう少し丁寧に掘り下げて、解像度を上げていく必要を感じる。
ハリボテの岩を動かすことで自在に変化する床面(舞台美術)と、それを使いこなすテクニックはお見事。
また、衣装が良かった。時代を超越した感のある色合い。
音に関しては、選曲や作曲も含め、もう少し繊細さが必要だったかも。特に開演前の客入れ時は圧迫感があった。(開始して最初の数分の完全な闇と、光がもたらされる瞬間までは好きだったけど)。