土反の観てきた!クチコミ一覧

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醜い男

醜い男

冨士山アネット

東京芸術劇場アトリエイースト(東京都)

2014/09/05 (金) ~ 2014/09/16 (火)公演終了

満足度★★★★

アイデンティティー
シンプルな設えの中での90分弱の4人芝居というコンパクトな作りで、趣向を凝らした脚本と演出によるブラックユーモアが楽しく怖かったです。

醜い顔の為に自身が開発した製品のプレゼンに立たせて貰えない男が、手術によって美しい顔になってポジティヴそして傲慢になって行くものの、同じ手術を受けて同じ顔になった人達が街に現れ始めて自己の存在について確信が持てなくなる物語で、美醜の価値やアイデンティティーについて考えさせられる内容でした。
エロティックな表現や下ネタが観客の気を引く為の表層的なものではなく、テーマに上手く絡めてあるのも洒落ていました。

出演者は常に舞台上にいて、主人公以外の3人の役者は何役かを瞬時に切り替えながら進行するのですが、それが手法的な面白さだけでなく、アイデンティティーについて問い掛ける作品の内容にも対応しているのが良かったです。

ライブカメラを使った映像がシンプルながら効果的で、手術シーンの独創的な手法や、終盤の自己が無限後退するイメージが印象的でした。
小道具で使われていた果物が顔のパーツを想起させるだけでなく、ドイツ語では頭と関連がある(何か象徴的な意味が掛けてあるのか気になってアフタートークで質問したところ、そういう返答でした)のが、興味深かったのですが、作中ではそれが分からないのが勿体なく思いました。

グラフィカルなファブリックを用いた衣装がファッショナブルで素敵でした。

日中韓芸術祭2014

日中韓芸術祭2014

日中韓芸術祭2014事務局

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2014/09/04 (木) ~ 2014/09/04 (木)公演終了

満足度★★★

多彩な出演者
日本・中国・韓国のダンスや音楽のグループが出演するガラ公演で、伝統芸能から舞踏、アイドルグループまである、とりとめの無いセレクションが楽しかったです。

福建省梨園戯劇実験劇団(中国)
実験と名乗っていますが伝統的な作風のグループでした。しっとりしたソロの歌と踊りの演目と、いかにも中国的な色彩鮮やかでユーモラスな演目との対比が目を引きました。

泉州南少林武術団(中国)
拳法のデモンストレーションで、全員での型の披露から始まり、3種の武術を3人が同時に行ったり、目隠しをして棒術の組み合いをしたりと、スリリングで引き込まれました。

伝統国楽室内楽団「律(ユル)」(韓国)
日本の雅楽に似た編成で、古典曲、韓国の笛・ピリの独奏と舞踊と映像作品のコラボレーション、パンソリに基づくリズミカルな曲が上演され、力強い響きが印象的でした。

LDP(Laboratory Dance Project)(韓国)
大勢の男性ダンサーからなるカンパニーで、ヒップホップのテクニックを用いた、コンテンポラリーとポップスの振付の中間的な作風でした。抑圧された感情が解き放たれた様なムーブメントに迫力を感じました。

でんぱ組.inc(日本)
他の出演者達と全く異質なアイドルグループで、公演全体の中で良いアクセントとなっていました。芸術といった感じではないものの、今の東京の一面が反映されている様に感じられました。

山海塾(日本)
舞踏を代表するグループの過去作のダイジェスト版で、独特の美意識が際立った密度の高いパフォーマンスでした。序盤で一人一人が静かに舞台袖から現れるのが印象的でした。

コンドルズ(日本)
学ラン姿で踊るグループで、言葉や世代を問わない分かり易いユーモアと
迫力のある群舞が魅力的でした。舞台両脇の足下から照らす照明の中でソロで踊る近藤良平さんのダンスが格好良かったです。

序盤は様々なタイプの出演者と人形劇による3カ国語の司会進行に戸惑いの空気感がありましたが、最後に出演者と客全員でオリジナルの盆踊りを踊って賑やかに終わりました。

シディ・ラルビ・シェルカウイ + ダミアン・ジャレ「バベル BABEL(words) 」

シディ・ラルビ・シェルカウイ + ダミアン・ジャレ「バベル BABEL(words) 」

PROMAX

東急シアターオーブ(東京都)

2014/08/29 (金) ~ 2014/08/31 (日)公演終了

満足度★★★

異言語・異文化の衝突と融和
様々な国のダンサーとミュージシャンによるパフォーマンスで、異なる言語や文化に属する人同士のコミュニケーションの難しさと可能性を躍動的に描いていました。

高い身体能力を活かしたダンス繰り広げる格好良いシーンから、人類の過去と未来をイメージさせる原始人やアンドロイドをコミカルに演じるシーンまでバラエティーに富んだ構成でした。
後半は良かったのですが、前半は少し間伸びしている様に感じられて、もう少しコンパクトな展開でも良いと思いました。

上半身裸の男女のデュオでのアクロバティックな動きにエロスとはまた異なる身体のコミュニケーションが感じられて印象的でした。
終盤で横一列に並んで隣のダンサーの足の甲に足を置いて一体となって踊るシーンが美しかったです。

ダンスが中心的な作品ですがダンサーが話す場面も多く(字幕がありました)、文化の多様性や英語(=アメリカ)の帝国主義的な側面がユーモラスに描かれていました。

それぞれサイズが異なる金属製の巨大な直方体のフレーム5個を並び換えたり回転させたりして空間をダイナミックに変化させていて迫力がありました。
様々な言語に対応するかの様に多くの民族楽器を用いた生演奏による音楽が魅力的でした。

妥協点P

妥協点P

劇団うりんこ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/08/27 (水) ~ 2014/08/31 (日)公演終了

満足度★★★

妥協の難しさ
異なる意見を擦り合わせる難しさがユーモラスに描かれた、考えさせる短編でした。

文化祭の出し物として生徒が書いた演劇の台本に教師と生徒の恋愛を描いているのが不適切とされ、変更させるものの、変更を加える度に新たな問題が生じ、話がややこしくなって行く物語で、意外な展開が続くのが楽しかったです。
役者5人が揃って出て来て開演前のアナウンスを行うのに違和感を覚えましたが、物語が進むに従ってそのことにも意味があったことが判明するのが洒落ていました。
物語中で起きていることが取り込まれメタ的に更新されていく台本や、台本を書いた生徒がすぐには登場せず、現れてからもなかなか台詞を言わない構成のプロットが巧みで、引き込まれました。ただし、笑いを取ろうとして本筋とあまり関係の無いネタで引っ張る箇所が所々にあったのがしつこく感じられました。

先生役の4人はコミカルな雰囲気を生み出していましたが、大袈裟な演技スタイルだったので、芝居掛った演技をするシーンが活きていなかったのがもったいなかったです。

音楽を用いず、照明効果の使用もわずかに留めて、シンプルに意見の食い違いをを見せる演出が、観客にテーマについて考えさせる余白を残していて良かったです。

同時期に公演のあった、同じく柴幸男さん作・演出の『わたしの星』も高校生の文化祭で上演する演劇をモチーフにしていながら、テーマやテイストが全く異なり、柴さんの作風の幅の広さが感じられました。

21世紀の応答

21世紀の応答

サントリー芸術財団

サントリーホール 大ホール(東京都)

2014/08/30 (土) ~ 2014/08/30 (土)公演終了

満足度★★★

年を数える
年を数えることをテーマにした、儀式的なパフォーマンスを伴う2曲の公演で、その数える行為に対してのポジティヴさとネガティヴさの対比が際立っていました。

『オペラ《リヒト》から〈火曜日〉第一幕 歴年』(カールハインツ・シュトックハウゼン作曲、佐藤信演出)
この公演の2日前に上演された雅楽版(感想→http://stage.corich.jp/stage_done_detail.php?stage_id=58002)を延べ29時間の長大なオペラの中の1幕に組み込んだバージョンで、楽器が洋楽器になり、天使と悪魔役の歌手が2人追加されていました。
演出的には床の数字が2014となり、それぞれの数字の上を舞う人が能楽師・舞踏家・ダンサー・パフォーマーとなっていたものの、基本的には雅楽版と同じで、もっと違うものを観たかったです。

『59049年カウンター ―2人の詠人、10人の桁人と音具を奏でる傍観者たちのための―』(三輪眞弘)
それぞれ異なる色のTシャツの上に防護服の様なレインコートを着たパフォーマー5人のチームが上手と下手に1組ずついて、アルゴリズム(地点の『光のない。』の合唱で用いたものと同様のものらしいです)に則って移動するのと同時に、パフォーマーと1対1対応をしている演奏家が音を出し、舞台奥上部のスクリーンには各パフォーマーへ3種の動きの指示と、それを3進法の10桁の数字として見たときの10進法表記数字を年号として表示し、各エリアの中心に立つ歌手がパフォーマーから藤井貞和さんの詩の断片が書かれた紙を手渡されそれを歌いあげる構成でした。
淡々としていてかつ緊張感のある時間の流れが放射性廃棄物の放射能がなくなるまでの想像を絶する長い年月を思わせました。『歴年』で用いられたカウンターが2011を示したまま止まっていて、傍観者と名付けられたミュージシャン達は自分が演奏しない時は雑談したり写真を撮ったりしていたのが、当事者以外の人々を象徴していて怖かったです。
声高には言葉では表さないもののパフォーマンス自体から強いメッセージが伝わって来ました。

KOMA'

KOMA'

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)

2014/08/28 (木) ~ 2014/08/31 (日)公演終了

満足度★★★

高齢者ならではの身体表現
台詞劇ではなく身体表現を中心としたタンツテアター公演で、長い人生を経験した人ならではの表現となっていて印象的でした。

静かに舞台に現れた1人の女性が舞台の縁をクルクルと回りながら通り過ぎる場面から始まり、スタンドマイクの前に立ちソロで踊って新たな名前を名乗る、箱馬を積んで高い所へ手を伸ばす、天井から水が滴る中をじっと佇む、前を歩く人の肩を掴みながら群れて行く等、印象的なシーンがコラージュ的に連なり、最後は瀬山亜津咲さんがマイクで語り掛ける声に合わせてクールダウンのストレッチをしながら暗転して終わり、そのまま現実に繋がる構成となっていました。
一般的にイメージするダンス的な動きはあまり無いものの、ちょっとした動作にも積み重ねた年月が感じられ、それを意識させる演出が良かったです。所々に挟まれた、パフォーマンスではなく素に戻っためいた体裁で演技をする寸劇めいたシークエンスが逆にわざとらしく感じられて不要だと思いました。

終演後に特にアナウンスもなく稽古中の映像がステージ奥の壁に大きく写し出され、稽古の段階ではリズミカルな音楽に合わせたダンサンブルな振付も試していたのが分かりました。
最終的にはそのような場面はほとんどありませんでしたが、踊りらしい踊りも見てみたかったです。

コリオレイナス

コリオレイナス

地点

あうるすぽっと(東京都)

2014/08/28 (木) ~ 2014/08/31 (日)公演終了

満足度★★★

為政者と民衆
ローマを治めつつも民衆との関係が上手く行かず死ぬことになってしまう男の物語が、地点ならではの多彩な声の表現でシニカルに描かれていました。

コリオレイナスのみ配役が固定されていて、4人が他の多くの役を演じる形式で、その他に1人が別世界の人の様に時々現れながら進行しました。
前半は滑稽な雰囲気が強かったのが、いつの間にかドラマティックになっていて引き込まれました。
大幅なシーンの組み換えは無く、台詞回しも奇妙な分節はあまり用いずに声のトーンの変化で表現していたので、地点の作品の中では分かり易いものとなっていたと思います。

藍染めの衣装や仮面のデザインがアジア的な雰囲気を醸し出す中で、バゲットを剣に見立てて手に持っていたのが異質でユーモラスでした。
舞台奥に金屏風が並び、その中央にはアップライトピアノが置かれ、その手前に音楽家2人が演奏するスペース、中程の両サイドには初演会場のロンドングローブ座にある柱を想定したオブジェがあるだけのシンプルな空間で、近年の強烈な空間演出に比べると物足りなさを感じました。

コリオレイナスを演じた石田大さんの変現自在な声が、コリオレイナスの強さと弱さを表現していて魅力的でした。

20世紀の伝言

20世紀の伝言

サントリー芸術財団

サントリーホール 大ホール(東京都)

2014/08/28 (木) ~ 2014/08/28 (木)公演終了

満足度★★★

37年ぶりの再演
20世紀前衛音楽を代表的する作曲家、カールハインツ・シュトックハウゼンが雅楽の奏者と舞人の為に書いた作品で、初演が酷評に晒されて長らく再演されなかったのがある意味理解出来つつも、そこまで悪く言われる内容でもないと思いつつ楽しめました。

床に大きく1997(初演の年号)と書かれていて、4人の舞人がそれぞれの数字の上で舞うのに合わせて舞台奥に設置されたカウンターの数字が増えて行き1997に達するという基本構造に、悪魔の誘惑と天使の煽揚を描いた寸劇が4回挿入される展開でした。
進行役の能楽師が冒頭と最後で謡曲を引用したり、舞人の動きは舞楽のものをベースにしていて古典的な味わいがありつつ、音楽や全体の構成はアヴァンギャルドで、独特の儀式的雰囲気が漂っていました。
寸劇では被り物の猿、コック、バイク、裸の女といったキッチュな要素が現れて空気を一変させていました。、全体を統一するシステムの中に敢えてそれを壊す異物を挿入する手法がいかにもこの作曲家らしくて興味深かったものの、この悪趣味なユーモアセンスが不評に繋がったのが想像出来ました。

特に物語がある訳ではありませんが、悪魔の誘惑に負けずに時間を進む姿に人類の未来に対してのあっけらかんとした肯定が感じられ、現代音楽特有の小難しさが無いのが良かったです。

楽器は雅楽の標準的な編成で、極端な特殊奏法は用いてない様でしたが、古典曲とは全く異なる響きがして新鮮でした。

休憩後に一柳慧さんの新曲『時の佇い』が演奏されましたが、こちらはパフォーマンス的要素が無い、純粋な音楽作品でした。

わたしの星

わたしの星

ままごと

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2014/08/21 (木) ~ 2014/08/31 (日)公演終了

満足度★★★★

エンドレス・サマー
ままごとの作品に特徴的な形式性は控えめにしてストレートに物語が描かれていて、高校生キャストによる活き活きとした演技が魅力的でした。

温暖化によって住めなくなりつつある地球から人々が火星へ行く様になった近未来において、未だ地球に留まっているわずかな高校生達の夏休みの最後の1日を描いた物語で、嫌らしくない程度に社会性を含んだSF的設定の中で、友情や恋愛といった学園ドラマ的な要素が繰り広げられて楽しい場面も切ない場面も沢山ある、多くの人が共感が出来る内容でした。泣かせる場面でも過度に盛り上げずに笑いを入れるバランス感覚が心地好かったです。
文化祭で発表しようとしている作品が『わが星』を思わせる内容で、『わが星』からの引用があったのも内容に合っていて良かったです。

10人の役者はそれぞれが個性的でありながら自然体に感じられ、個人的には騒がしい演技は好みではないのですが、この作品においてはそれが気になることもなく物語の世界に引き込まれました。
高校生がそのまま高校生を演じていているので、演技の上手下手とは異なる質のリアリティーがあり、文化祭の為に稽古をする姿が夏休み中に稽古し公演をしている役者達自身と重なって見えて、ドキュメンタリー的な面白さも感じられました。

照明が印象的で、序盤で床に円形の光が広がって行く場面がとても美しかったです。

安部公房の冒険

安部公房の冒険

アロッタファジャイナ

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2014/08/23 (土) ~ 2014/08/31 (日)公演終了

満足度★★

作品と作者は別物
ミューズとしての愛人との関係を通して、芸術論と同時に男としてのみっともない姿が描かれていましたが、安部公房の小説や戯曲に見られる様な立場や価値観の逆転も見られず、安部公房的なテイストが感じられなかったのが物足りなかったです。

大学の演劇のゼミに入って来た女学生と愛人としての関係を持ち、小説よりも演劇に力を入れる様になりつつも思った様には評価が得られず、妻と愛人、小説と演劇の間で悩む、人間的な卑近さを持った人物として描かれていました。
安部公房・妻・愛人の3人のやりとりがメインで、そこに狂言回しを担う道化役が所々で絡む構成となっていましたが、道化役の立ち位置が中途半端に感じられました。
安部公房の独特の世界観が好きで作品は大半を読んでいたものの作者のプライヴェートに関しては特に興味を持っていないので(個人的には、作家や画家や作曲家の作品が好きでも、その作者自身については知ろうとは思いません)、安部公房だったら書かない様な私小説的なドラマにはあまり惹かれませんでした。

上手下手で床の色が異なっていて、左右に行き来することで異なる場所を表現しているのは二項対立に悩む安部公房の姿を視覚化していて良かったのですが、照明のコントラストが甘くて使っていない側のエリアで役者が捌けたり、スタッフが転換作業をしたりしているのが見えていたのが残念でした。
中央のステージの両サイドに小さなステージが4つずつ並べられていたものの一度も使われることが無く、それを置いた意図が分かりませんでした。

役者はそれぞれキャラクターが立っていて魅力的でしたが、台詞の言い間違いが目立っていたのが勿体なく思いました。

子どもを蝕む“ヘルパトロール脳”の恐怖

子どもを蝕む“ヘルパトロール脳”の恐怖

core of bells

SuperDeluxe(東京都)

2014/08/20 (水) ~ 2014/08/20 (水)公演終了

満足度

地獄の迷宮
バンドの形態で演劇的なパフォーマンスをするグループが、悪魔のしるしの危口統之さんと組んだ公演で、今回は全く演奏しないという暴挙(?)に出ていて、内容も酷かったのですが、その潔さに清々しさを感じました。

会場全体がプラダン製の壁で細かく仕切られて巨大な迷路になっていてる中で、「ヘルパトロール」と題された人狼ゲームに似たゲームを観客が行う趣向で、ゲームが進むに従って迷路が破壊される展開でした。どういうオチが用意されているのか期待しながら、目を瞑ってひたすら足踏みをさせられる時間を過ごしていると、何もないまま終わってしまいました。

いきなり行うには複雑な割りにはゲームとしてバランスしていないルールや、会場中央の一段上がった所に設置された一度も演奏されないドラムセットの存在といった様々な要素が思わせ振りで、芸術的・政治的な深読みを誘う意図も感じられましたが、参加型イベントとして全然楽しくなく(これも意図されたものかもしれませんが)、お金と時間を無駄にしたように感じました。

バンドの公演なのに演奏しなかったり、1回の公演の為だけに大掛りな美術を組む様な大胆さは良いと思いますが、その大胆さに説得力が欲しかったです。

八月納涼歌舞伎

八月納涼歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2014/08/05 (火) ~ 2014/08/27 (水)公演終了

満足度★★★

第三部鑑賞
納涼歌舞伎の名にふさわしい、夏祭りの光景を描いた舞踊と怪談物の2本立てでエンターテインメント性に富んでいて気楽に観ることが出来ました。

『勢獅子』
祭の御神酒所で曽我兄弟の仇討ちの物語や獅子舞を披露するレビューショウ的な趣向で、華やかな色彩と大らかな雰囲気が祭の賑やかな気分を盛り上げていました。
坂東三津五郎さんの愛嬌のある踊りが印象的でした。

『怪談乳房榎』
怪談と謳ってはいるものの殺された者が化けて出て来ること以外は怖さも無く、物語としてはあまり深みを感じませんでしたが、様々な趣向が凝らされた楽しい作品でした。クライマックスでは大量の本水を用い、その中で立ち回りが繰り広げられて爽快でした。終わり方が歌舞伎には珍しい構造となっていて興味深かったです。
ニューヨーク公演の為に追加された、場面転換中の幕前での英語による寸劇がユーモラスで、上手く場を繋いでいました。
中村勘九郎さんが主要な3つの役を演じていて、早替りで瞬時に異なる役に替わるのが見事でした。

薄荷する体温

薄荷する体温

前澤秀登

喫茶茶会記(東京都)

2014/08/16 (土) ~ 2014/08/17 (日)公演終了

満足度★★

2日目鑑賞
2組のダンサーとミュージシャンによる即興性の高いパフォーマンスで、即興の面白さと難しさの両面が感じられました。

nan!ka?(シバタ+長谷川真子)×加藤律+金子愛帆
チープな電子音響が鳴る中で、中国茶を煎れたりキャベツを切ったり、その光景の写真を撮ったりと淡々と続くシークエンスが暗転で断ち切られ、後半ではダンサー2人が手に持った小さな照明を付けたり消したりしながら踊り、最後に4人でかき氷を食べて終わるという、1950~60年代の「ハプニング」を思わせるパフォーマンスでした。
意図的に熟練性を除外していたのだとは思いますが、その面白さが伝わって来ませんでした。

小暮香帆×舩橋陽
アップライトピアノの鍵盤の蓋の上に置かれた砂時計を触るシーンから始まり、内省的な静かな踊りから次第に激しい動きになっていく展開で、緊張感がありました。後半は単調に感じられる箇所もあり、はっきりした構成が無しでの40分間のパフォーマンスは長過ぎると思いました。
微分音のロングトーンやアルペジオを用いたチェロ演奏が独特の雰囲気を醸し出していました。

八月納涼歌舞伎

八月納涼歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2014/08/05 (火) ~ 2014/08/27 (水)公演終了

満足度★★★

第一部鑑賞
若手中心の座組による2本立てで、全体で約3時間と歌舞伎にしては短めの上演時間が丁度良かったです。

『恐怖時代』
権力や恋愛関係を巡る騙し合いの末に登場人物のほぼ全員が死ぬという凄絶な物語で、血糊や生首といったグロテスクな描写も多いのですが、意外に笑える場面も多く、眈美的というよりもB級スプラッター映画の様に感じる所もありました。
場面転換の前後における時間の流れの扱いや、死んだ人が舞台上にずっといる演出が新鮮でした。
中村七之助さんが演じる少年の冷酷な殺しっぷりと中村勘九郎さんが演じる臆病な茶坊主の滑稽な言動の対比が鮮やかでした。

『龍虎』
龍と虎の戦いを描いた舞踊劇で、セリで登場して衣装や化粧を替えつつ勇壮に踊る姿が格好良かったです。毛振りが続き後半はエネルギー切れに感じられたのが残念でした。
歌舞伎には珍しく銅羅を多用した音楽が勇ましい雰囲気を盛り上げていて良かったです。

Cross grip × Tryout 2

Cross grip × Tryout 2

スタジオアーキタンツ

studio ARCHITANZ(東京都)

2014/08/16 (土) ~ 2014/08/16 (土)公演終了

満足度★★★★

複雑系のダンス
1月に発表した作品の改訂版とワークショップ受講生によるショウイングで、ミニマルなモチーフやルールから複雑な現象が生まれるのが興味深かったです。

『ローザス・ダンス・ローザスより』(ワークショップ受講生)
ローザスの初期の代表作の振付の一部分を、数グループに分かれた大人数の為に構成した作品で、子供と大人の間の女性を思わせる独特なムーブメントが幾何学的に展開するのが印象的でした。

『周辺視覚』(ワークショップ受講生)
手前から奥にピラミッド状に並んだ出演者達が一番前の人の動きを模倣する作品で、タイミングやフォーメーションのズレが波や風、あるいは鳥や魚の群れを思わせる動きになっていました。


『クロスグリップ』
以前に発表した物にバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ(リュート版)を加えた3つのパートからなる構成となっていて、最初の2つのパートは基本的に前回(その時の感想→http://stage.corich.jp/stage_done_detail.php?stage_id=52966)と同じでしたが、更に洗練された印象を受けました。
追加されたパートは前2つ程にはストイックな方法論に基づいていないみたいで、いかにもダンス的な躍動感溢れるムーブメントがあったり、遊び心を感じさせる場面があったりと身体性を純粋に楽しめる内容でした。

渋谷金王丸伝説・スペシャル版「冒険の章」 カブキ国への誘い

渋谷金王丸伝説・スペシャル版「冒険の章」 カブキ国への誘い

フジテレビKIDS/渋谷区

渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール(東京都)

2014/08/15 (金) ~ 2014/08/17 (日)公演終了

満足度★★

ポップな舞踊劇
市川染五郎さんの演出による舞踊劇で、レクチャー的要素が織り込まれた、歌舞伎を観たことが無い人でも分かり易い作品でした。

渋谷金王丸伝説を下敷きにしたロールプレイングゲームを模した冒険物語でしたが、物語性はほとんど無くて踊りが続く構成でした。
日本舞踊の踊り手だけでなく、ジャズダンス系のダンサーも出演していて単調にならない様に工夫されていました。
見得や大向こうやダンスを観客も一緒に行うシーンがありましたが、個人的にはこの様なタイプの観客参加の演出は好みではありませんでした。

邦楽器を取り入れたロックやテクノ調の音楽が大音量で響き、それに負けない為に役者達はマイクを用いていましたが、声の位置感覚が失われて、常磐津に合わせて演じるシーンもその面白さが分かり難くなっていたと思います。

美術と衣装がひびのこづえさんらしい可愛いらしいデザインで良かったです。沢山の雲型のパネルを吊した大道具を使ってブレヒト幕の手法を用いていましたが、向こう側が隙間から見えていて本来の効果が出ていなかったのが残念でした。

市川猿弥さんがコミカルな演技で客席を沸かせていました。丁度観た日が猿弥さんの誕生日だったそうで、出演者達にサプライズお祝いをされてあたふたしている様子が楽しかったです。

『睡眠―Sleep―』 (世界初演)

『睡眠―Sleep―』 (世界初演)

公益財団法人愛知県文化振興事業団

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2014/08/14 (木) ~ 2014/08/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

モノトーンのシュルレアリスム
トップクラスのバレエダンサーのオーレリー・デュポンさんをゲストに迎えた作品で、モノトーンで統一された衣装・美術・照明のストイックで精緻な表現の中に豊かな広がりが感じられました。

特に物語らしい展開も無く、楽しいとか悲しいといった感情を打ち出す訴える様な振付でもないのに身体や空間の存在感や美しさそのものに心を打たれるという、言葉では表現出来ないダンス作品ならではの魅力が80分の間途切れることことなくストレートに伝わって来て圧倒されました。音楽・音響やダンサーの配置の構成や展開の仕方にシュルレアリスム的な雰囲気を感じました。

デュポンさんは前半はポーズとポーズの間を繋いで行く様なある意味バレエダンサーらしい動きの質感が、勅使川原三郎さんや佐東利穂子さん達の流動的な動きと対照的に感じられましたが、いつの間にか動きが一体化していて、終盤の女性4人のユニゾンのシーンでは違和感無く溶け込んでいました。ターンや腕を大きく回す時の空気感との関わり方が繊細でありながら力強くて印象的でした。『合奏協奏曲第1番』(アルフレート・シュニトケ作曲)が流れる中でデュポンさんと佐藤さんが踊るシーンは2人の身体性の相違が際立っていて、とても緊張感があって素晴らしかったです。

透明のアクリルのパネルや同じ素材で出来たフレーム状の家具型のオブジェが吊られてれていて、シーン毎に静かに上下し、照明の効果と相俟って反射・透過・影が変化して行って非現実感の漂う不思議な空間性が生みだされていました。
具象的な作品ではないにも関わらず衣装替えが頻繁にあり、飽きさせずに緊張感を保っていたのが良かったです。

音楽はバッハをメインにクラシック中心の選曲で、そこに効果音やノイズやドローンを被せていて独特の雰囲気がありました。中盤の静謐で美しいシーンでは『鏡の中の鏡』(アルヴォ・ペルト作曲)が使われていて、アクリル板にダンサー達の姿が反射する光景が曲名にも合っていたのですが、様々な演劇やダンス公演で頻繁に頻繁に使われている曲なので、個人的には変な色を感じてしまい少し現実に戻されました。しかし、後に続くシーンではベタなバレエ音楽を使ったり(しかもそのシーンでは敢えてデュポンさんは登場せず)、ローリングストーンズの曲を使ったりとユーモラスな選曲センスを感じたので、『鏡の中の鏡』も一種のユーモアだったのかもしれないと思いました。

インザマッド(ただし太陽の下)

インザマッド(ただし太陽の下)

範宙遊泳

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/08/09 (土) ~ 2014/08/17 (日)公演終了

満足度★★★

戦後と戦前
映像と非リアリズムな動きを多用した演出で、ポップな表現の中にシリアスなテーマが描かれていました。

坂口安吾の『堕落論』が原案とのことで、戦後の人々の姿を個性豊かなキャラクター達で描いた物語でした。
前半でスポーツ(おそらくサッカー)の試合を戦争のメタファーとして表現しているのかと思わせて、途中から実際の戦争の話題が現れたのは個人的に説明的過ぎる様に感じられ、最後までスポーツの比喩の世界で物語を展開して欲しかったです。

白い伸縮性のある生地が舞台奥に漫画の吹き出しあるいは爆発の表現の様な形状に張られ、役者が演じない登場人物の台詞や場所を表す写真が投影されていたのがスタイリッシュでした。役者が映像の中の文字を動かしている様な演出が、あまり派手な効果は用いてなかったものの、色々な可能性が感じられました。
スクリーンは映像を投影するだけでなく、裏に役者が立って影で演技したり、もたれ掛かったり摘んだりして3次元的に変形させていたのが印象的でした。
プロジェクターが映像だけでなく照明としても用いられていて、天井からのライティングがシンプルだったのも、設備の整っていない会場でも上演出来そうで興味深かったです。

役者達の癖のある演技が魅力的で、特に武谷公雄さんと中林舞さんは身体表現にも惹き付けられるものがありました。

オセロー&オテロ

オセロー&オテロ

スタジオアーキタンツ

セルリアンタワー能楽堂(東京都)

2014/08/07 (木) ~ 2014/08/09 (土)公演終了

満足度★★★★

言葉と動き
シェイクスピアの『オセロー』とそれをオペラ化したヴェルディの『オテロ』を2部構成にしていて、安易に歌とダンスのコラボレーションの様な形にせず、それぞれのジャンルの様式を尊重した公演となっていました。

第1部はヴェルディ作曲のオペラ『オテロ』の抜粋を中心にした構成で、イヤーゴのモノローグで始まり、オペラの中でイヤーゴが歌う部分をピアノ独奏に編曲した曲の演奏があり、その後にオテロとデスデーモナのアリアが演技付きで演奏されました。
能楽師の津村禮次郎さんが演じるイヤーゴは一音一音を引き伸ばす能の台詞回しはあまり用いていなくて、言葉が聞き取り易かったです。言葉の繰り返しが効果的に使われていました。
デモーニッシュな楽想のピアノ独奏はオテロとデスデーモナの歌の楽想との対比を意図したのだと思いますが、そこでドラマ性が途切れてしまっていた様に感じました
オペラは能楽堂の空間を活かした立ち位置で、何も舞台美術が無くても視覚的に美しかったです。小さな空間でピアノ伴奏だったので無理に声を張り上げることも無く、繊細な表現を楽しめました。

第2部は最終幕の場面がダンスで演じられ、ドラマティックでスピード感のある鋭敏な振付が格好良くて魅力的でした。
森優貴さんと酒井はなさんは一つ一つの動きが美しく、言葉が無くても感情が伝わってきました。難しそうなリフトでも危なげな所が無く、物語の世界に引き込まれました。
津村さんは第2部にもイアーゴーとして出演していて(第1部は装束的な衣装だったのに対して、第2部ではスーツ姿でした)、こちらでは一言も発せずにダンサー2人と同様な動きをしていて、70歳を超える人とは思えませんでした。
音楽はドミトリ・ショスタコーヴィチ、マックス・リヒター、アルヴォ・ペルトといった20世紀以降の作品が用いられ、第1部のヴェルディの叙情性とのコントラストが鮮やかでした。

能、ピアノ、オペラ、ダンスのそれぞれをじっくり楽しめる贅沢な公演でしたが、ピアノ独奏が無い方が、言葉をフィーチャーした第1部と、動きをフィーチャーした第2部という構成が明確になったと思います。

解散

解散

江古田のガールズ

本多劇場(東京都)

2014/08/05 (火) ~ 2014/08/06 (水)公演終了

満足度★★

底の浅い笑い
創立5年で本多劇場に進出とのことで興味を持ち観に行きましたが、単純に楽しめる内容ではあるものの笑いの取り方が軽薄で、本多劇場で公演をする水準には達していないと思いました。

江古田のガールズ自身を思わせる初めて本多劇場で公演を行う劇団を描いたバックステージ物で、劇中劇で始まり、そのクライマックスで主役が怪我をしてしまい、翌日の千秋楽をどうするかで劇団の制作や舞台監督達が右往左往する物語が現実の時刻に対応して進行し、普段表に出て来ない人達の思いや悩みが分かり易く描かれていました。トラブルを克服し何とか公演を中止せずに済みそうになったところで新たな事故が起き、ハッピーエンドとはならなかったのが良かったです。

冒頭の歌と踊りのシーンは、失敗作という設定通り、子供っぽくて全然笑えない内容(『ライオンキング』を猿の社会に置き換えたパロディー)なのに結構な時間を割いていたのは意味が無いと思いました。また物語が終わった後に続く全員でのレビュー的シーンがあったのは冒頭の劇中劇とは違って必然性も感じられず、また振付・ダンスもレベルが低く、無い方が良いと思いました。
演劇業界をネタにした台詞のやりとりで笑わせる箇所もありましたが、下ネタや男性が脱ぐ、何度も叩くといった学生演劇の様なノリでウケを狙うことが多くて残念に思いました。
この様なタイプの作品だと演技も大袈裟になることが多いのですが、そうはならずにバランス良く役柄の個性を打ち出していたのが良かったです。物語と演技の力で笑わせるポテンシャルを感じたので、安易なウケ狙いに頼らない作品を作って欲しく思いました。

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