満足度★★★★
言葉と動き
シェイクスピアの『オセロー』とそれをオペラ化したヴェルディの『オテロ』を2部構成にしていて、安易に歌とダンスのコラボレーションの様な形にせず、それぞれのジャンルの様式を尊重した公演となっていました。
第1部はヴェルディ作曲のオペラ『オテロ』の抜粋を中心にした構成で、イヤーゴのモノローグで始まり、オペラの中でイヤーゴが歌う部分をピアノ独奏に編曲した曲の演奏があり、その後にオテロとデスデーモナのアリアが演技付きで演奏されました。
能楽師の津村禮次郎さんが演じるイヤーゴは一音一音を引き伸ばす能の台詞回しはあまり用いていなくて、言葉が聞き取り易かったです。言葉の繰り返しが効果的に使われていました。
デモーニッシュな楽想のピアノ独奏はオテロとデスデーモナの歌の楽想との対比を意図したのだと思いますが、そこでドラマ性が途切れてしまっていた様に感じました
オペラは能楽堂の空間を活かした立ち位置で、何も舞台美術が無くても視覚的に美しかったです。小さな空間でピアノ伴奏だったので無理に声を張り上げることも無く、繊細な表現を楽しめました。
第2部は最終幕の場面がダンスで演じられ、ドラマティックでスピード感のある鋭敏な振付が格好良くて魅力的でした。
森優貴さんと酒井はなさんは一つ一つの動きが美しく、言葉が無くても感情が伝わってきました。難しそうなリフトでも危なげな所が無く、物語の世界に引き込まれました。
津村さんは第2部にもイアーゴーとして出演していて(第1部は装束的な衣装だったのに対して、第2部ではスーツ姿でした)、こちらでは一言も発せずにダンサー2人と同様な動きをしていて、70歳を超える人とは思えませんでした。
音楽はドミトリ・ショスタコーヴィチ、マックス・リヒター、アルヴォ・ペルトといった20世紀以降の作品が用いられ、第1部のヴェルディの叙情性とのコントラストが鮮やかでした。
能、ピアノ、オペラ、ダンスのそれぞれをじっくり楽しめる贅沢な公演でしたが、ピアノ独奏が無い方が、言葉をフィーチャーした第1部と、動きをフィーチャーした第2部という構成が明確になったと思います。