満足度★★
作品と作者は別物
ミューズとしての愛人との関係を通して、芸術論と同時に男としてのみっともない姿が描かれていましたが、安部公房の小説や戯曲に見られる様な立場や価値観の逆転も見られず、安部公房的なテイストが感じられなかったのが物足りなかったです。
大学の演劇のゼミに入って来た女学生と愛人としての関係を持ち、小説よりも演劇に力を入れる様になりつつも思った様には評価が得られず、妻と愛人、小説と演劇の間で悩む、人間的な卑近さを持った人物として描かれていました。
安部公房・妻・愛人の3人のやりとりがメインで、そこに狂言回しを担う道化役が所々で絡む構成となっていましたが、道化役の立ち位置が中途半端に感じられました。
安部公房の独特の世界観が好きで作品は大半を読んでいたものの作者のプライヴェートに関しては特に興味を持っていないので(個人的には、作家や画家や作曲家の作品が好きでも、その作者自身については知ろうとは思いません)、安部公房だったら書かない様な私小説的なドラマにはあまり惹かれませんでした。
上手下手で床の色が異なっていて、左右に行き来することで異なる場所を表現しているのは二項対立に悩む安部公房の姿を視覚化していて良かったのですが、照明のコントラストが甘くて使っていない側のエリアで役者が捌けたり、スタッフが転換作業をしたりしているのが見えていたのが残念でした。
中央のステージの両サイドに小さなステージが4つずつ並べられていたものの一度も使われることが無く、それを置いた意図が分かりませんでした。
役者はそれぞれキャラクターが立っていて魅力的でしたが、台詞の言い間違いが目立っていたのが勿体なく思いました。