満足度★★★★★
モノトーンのシュルレアリスム
トップクラスのバレエダンサーのオーレリー・デュポンさんをゲストに迎えた作品で、モノトーンで統一された衣装・美術・照明のストイックで精緻な表現の中に豊かな広がりが感じられました。
特に物語らしい展開も無く、楽しいとか悲しいといった感情を打ち出す訴える様な振付でもないのに身体や空間の存在感や美しさそのものに心を打たれるという、言葉では表現出来ないダンス作品ならではの魅力が80分の間途切れることことなくストレートに伝わって来て圧倒されました。音楽・音響やダンサーの配置の構成や展開の仕方にシュルレアリスム的な雰囲気を感じました。
デュポンさんは前半はポーズとポーズの間を繋いで行く様なある意味バレエダンサーらしい動きの質感が、勅使川原三郎さんや佐東利穂子さん達の流動的な動きと対照的に感じられましたが、いつの間にか動きが一体化していて、終盤の女性4人のユニゾンのシーンでは違和感無く溶け込んでいました。ターンや腕を大きく回す時の空気感との関わり方が繊細でありながら力強くて印象的でした。『合奏協奏曲第1番』(アルフレート・シュニトケ作曲)が流れる中でデュポンさんと佐藤さんが踊るシーンは2人の身体性の相違が際立っていて、とても緊張感があって素晴らしかったです。
透明のアクリルのパネルや同じ素材で出来たフレーム状の家具型のオブジェが吊られてれていて、シーン毎に静かに上下し、照明の効果と相俟って反射・透過・影が変化して行って非現実感の漂う不思議な空間性が生みだされていました。
具象的な作品ではないにも関わらず衣装替えが頻繁にあり、飽きさせずに緊張感を保っていたのが良かったです。
音楽はバッハをメインにクラシック中心の選曲で、そこに効果音やノイズやドローンを被せていて独特の雰囲気がありました。中盤の静謐で美しいシーンでは『鏡の中の鏡』(アルヴォ・ペルト作曲)が使われていて、アクリル板にダンサー達の姿が反射する光景が曲名にも合っていたのですが、様々な演劇やダンス公演で頻繁に頻繁に使われている曲なので、個人的には変な色を感じてしまい少し現実に戻されました。しかし、後に続くシーンではベタなバレエ音楽を使ったり(しかもそのシーンでは敢えてデュポンさんは登場せず)、ローリングストーンズの曲を使ったりとユーモラスな選曲センスを感じたので、『鏡の中の鏡』も一種のユーモアだったのかもしれないと思いました。