土反の観てきた!クチコミ一覧

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高野聖

高野聖

財団法人日本オペラ振興会 藤原歌劇団/日本オペラ協会

新国立劇場 中劇場(東京都)

2012/01/21 (土) ~ 2012/01/22 (日)公演終了

満足度★★★

分かり易くオペラ化
男を獣に変えてしまう魔力を持った山奥に住む女と、その女に魅了される若き僧侶の物語を妖艶に描いた泉鏡花の代表作をオペラ化し、原作では直接的には書かれていない、女の僧への想いが大きく取り扱われていて、恋愛要素が強く打ち出された分かり易い作品になっていました。

ある僧侶が若い頃に経験した不思議な出来事を、旅の道中で一緒になった「私」に語り聞かせるという体裁で、会話より情景描写や心の中で思ったことの説明の文が多い、舞台にはあまり向いてなさそうな原作が巧みな脚本化・演出でドラマとして立ち上がっていました。
第2幕の後半以降は原作にはないテクストを用いて、女が僧に対しての愛情を歌い上げ、プッチーニの作品の様なドラマチックな盛り上がりがあったのですが、それまでの展開が平板で中だるみを感じました。

具象的な美術、奇を衒わないオーソドックスな演出で、物語が分かり易く描かれていました。大量の蛭に襲われるシーンや、女に体を洗ってもらい女も裸になるシーンが舞台化に際して見せ場になると思いますが、原作の文章より気持悪さや官悩性が立ち上がって来なくて残念でした。
黒子の様な格好をして舞台上に佇む合唱のアンサンブルが魑魅魍魎や自然現象を表現していたのは、動きに大胆さがなくて中途半端な表現に見えました。

音楽はストラヴィンスキーやバルトーク、ラヴェル、シュトラウス等の響きを思わせる、調性感がある親しみ易いもので、おどろおどろしいシーンでは無調的旋律や不協和音を用いていたのが効果的でした。
水の音や馬の鳴き声は録音を用いていましたが、せっかくオーケストラと合唱という大規模な音色のパレットがあるのだから、それらの音も楽器や声で表現して欲しかったです。

アドバタイズドタイラント【ご来場ありがとうございました!!】

アドバタイズドタイラント【ご来場ありがとうございました!!】

The end of company ジエン社

d-倉庫(東京都)

2012/01/19 (木) ~ 2012/01/22 (日)公演終了

満足度★★★★

仕事・芸術・生活
広告業界の人達を中心に、複数の異なる時間や空間のエピソードが同時に進行する作品で、自虐的なブラックユーモアや男女関係のもつれを通じて、消極的な現状肯定あるいは否定がドライな感覚で描かれていました。

海をモチーフにしたCMが東日本大震災を想像させ不謹慎だとされて謝罪会見を開くことになったその当日に、東京でも大地震(?)が起き、会見どころではなくなってしまった広告会社での様子から始まり、その会社の社員や彼らに関わりのある人達の過去のエピソードが断片的に積み重なり次第に話が明らかになって行く構成でした。
それぞれのエピソードは夫婦や恋人、不倫といった男女関係にまつわるものが大半で、その会話のやり取りから、仕事や芸術や生活に対しての考え方の相違が浮かび上がり、混沌とした現代とどの様に向き合うのかを考えさせられました。物語構造を明快にする為に敢えてそうしたのかもしれませんが、ドラマとしての盛り上がりに欠けると思いました。
「役に立たない」、芸術活動をしている人や謙遜している様に振る舞いながら自慢する人を皮肉的に描写するセンスが楽しかったです。

時間や場所の異なるいくつものシーンが同時進行したり、転換を挟まずに瞬時に入れ替わったりしつつ、別々のシーン同士の台詞がシンクロしたり呼応したりと、とても凝った造りの脚本でしたが、観ていて分からなくなることのないスマートな演出で素晴らしかったです。ダイアローグの途中で1人が他のシーンに移って、そのままモノローグになったり、日常会話的な文体の中に突然芝居がかった台詞回しが現れたりと、台詞の扱い方も多様で面白かったです。

脚本と演技がかなり良かったので、ビジュアル面での演出が物足りなく感じました。斜面に埋まった様な室内のセットのコンセプトは面白かったのですが、造りが中途半端にリアルで逆に安っぽく感じられ、もっと抽象化した方が良いと思いました。ステージの広さ的に無理だとは思いますが、段状にしないで床全体を斜面にした方がこの作品の内容に合っていると思いました。
セットの造りとも関連するのですが、各シーンでの役者達の配置も絵としてあまり美しく感じられませんでした。先鋭的な脚本に相応しいスタイリッシュなビジュアル表現を見せて欲しかったです。
照明は何度かスポットライトが用いられる以外は色を使ったりもせず、あまり目を引く様な変化はありませんでしたが、微妙に明るさを変えたり細かく配慮されたデザインが施されていて、素晴らしかったです。

びんぼう君

びんぼう君

五反田団

アトリエヘリコプター(東京都)

2012/01/17 (火) ~ 2012/01/29 (日)公演終了

満足度★★★

ふざけているようで真面目
冴えない父と小学生の息子のところにクラスメイトの女の子がやって来る話で、3人の関係が色々と入れ替わる様子がユーモラスに描かれていて、楽しかったです。

テレビも買えない程に貧乏なのに妙にポジティブな父、学校でクラスメイトと仲良くなれず心の揺れ動く息子、ませた部分と幼さとの対比が可笑しい女の子、というそれぞれのキャラクターの造形がしっかりしていて、台詞回しや間合いの取り方も絶妙で、シュールな状況にもリアリティが感じられました。

畳2枚と窓枠だけの簡素なセットの中で音響や照明の効果も使わず、また劇的な展開や凝った構成もなく、役者の演技だけで中だるみなしに何度も笑わせながら90分間を持続させていて、表面的にはグダグダでありながらも脚本と演技が良く練られていると思いました。

アフタートークでは、演技における「コントラスト」、「情報量」をキーワードにして前田さんの演技論が語られ、興味深かったです。作品の脱力的な雰囲気とは裏腹に、とても丁寧に作品を作っているのが伝わって来ました。

下谷万年町物語

下谷万年町物語

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2012/01/06 (金) ~ 2012/02/12 (日)公演終了

満足度★★★

戦後の風景
戦後間もない頃の、上野の近くにあって今では地名として残っていない下谷万年町にあるオカマのレビュー小屋を舞台にして、歴史の表舞台には出てこないようなマイノリティーの物語を猥雑的かつ幻想的に描いた作品でした。

下谷でに住む男2人と、かって男装の女優として舞台に出ていた女を中心に話が進み、「六本指」、「空気」、「水」、「ヒロポン」といったキーワードの関連が次第に明らかになっていく詩的な物語で、一度観ただけでは少々把握し難い内容でした。
第1幕は賑やかな場面が多く笑える所も多く、話が進むに従ってシリアスな雰囲気になって行き、第2幕後半はかなり重い雰囲気でした。ハッピーエンドでもアンハッピーエンドでもないような不思議なラストシーンが印象的でした。

水や鏡を用いたり、客席の通路を役者が通ったり、猥雑なお祭り騒ぎのシーン、音楽の使い方等、いかにも蜷川さんらしい演出でした。演出として悪くはないのですが、既視感を覚えることが多かったです。
大規模な長屋のセットや大きな池は迫力があって良かったです。

唯一の本物の女性の出演者である宮沢りえさんは最初に出てくるまでが結構長かったのですが、その後はほとんど出ずっぱりで華がありました。男装の女優という役でしたが、ダンディーな感じではなく少年の様な快活さが強い演技で、もう少し渋い感じも観せて欲しかったです。

ニジンスキー・ガラ

ニジンスキー・ガラ

公益財団法人日本舞台芸術振興会

東京文化会館 大ホール(東京都)

2012/01/12 (木) ~ 2012/01/14 (土)公演終了

満足度★★★★

古典からモダンへ
伝説のダンサー、ヴァツラフ・ニジンスキーが踊った作品の上演で、いかにもバレエ的なクラシカルなものからモダンなものまで、バラエティ豊かな4演目でした。

『薔薇の精』
男女デュオの小品で優しい雰囲気が漂っていました。
タマズラカルさんの演じる薔薇の精は芯がしっかりした安定感のある踊りでした。吉川留衣さんが演じた少女は健康的な感じがありました。

『牧神の午後』
正面を向かずに側面ばかりを見せ、回転や跳躍など躍動感のある動きも使わず、さらに自慰行為を露骨に表現するといった、反バレエ的な振付で有名な作品で、今観ても新鮮でした。古代文明を思わせる雰囲気が素敵でした。

『レ・シルフィード』
オーケストラに編曲したショパンのピアノ曲の調べに乗せて、真っ白な衣装の女性アンサンブルと1人の男性ソリストによって柔らかな空気が表現されていました。美しかったのですが、いまいちインパクトに欠ける印象がありました。

『ペトルーシュカ』
音楽も振付も同時に複数の要素が存在するモダンな作品で、『薔薇の精』や『レ・シルフィード』と同じ振付家とは思えない程、新しい印象になっていました。モダンさと素朴さのバランスが絶妙で、楽しさと悲しさが表現されていました。
マラーホフさん演じるペトルーシュカの寂しさを感じさせる滑稽さと、佐伯知香さん演じるバレリーナ人形の可愛らしさが素晴らしかったです。

踊りは満足出来るレベルでしたが、オーケストラの演奏はミスが多く、少々頼りげなかったのが残念でした。
マラーホフさんは牧神とペトルーシュカを演じ、とても素晴らしかったのですが、どちらも個性的な役柄でバレエらしい動きがあまりなかったので、正当派な役での姿も観たかったです。

ハムレット

ハムレット

劇団東京乾電池

ザ・スズナリ(東京都)

2012/01/04 (水) ~ 2012/01/15 (日)公演終了

満足度★★★

ヘタウマ的
カットされた場面はあるものの概ね原作通りの上演でした。技術が伴っていないのか、わざとそうしているのか判別し難い、棒読み&早口の台詞回しに奇妙な魅力があり、全然長さを感じさせずに観ることが出来ました(実際、2時間弱と短めの上演時間でしたが)。

素の板張りの床の舞台の中央に大きな円形の台が置かれただけの簡素な空間の中で、段ボールや日用品を加工した衣装や小道具、シンプルな照明など、チープさを際立たせ、台詞や動きも古典の格式といったものを感じさせず、他の人が台詞を言っている間は棒立ちにする等、わざと下手に見える様な演技をしていたのに、ちゃんと『ハムレット』になっていて、戯曲の強さを再確認させられました。

劇団設立時からのメンバーの柄本さん、綾田さん、ベンガルさんの3人は台詞の間合いが絶妙で、特別可笑しいことをしていないのに可笑しみが漂っていました。
ポローニアスを演じた杉山恵一さんの独特な変な感じが印象的でした。オフィーリアを演じた高尾祥子さんの悲痛さを感じさせない狂気の表現の仕方が新鮮でした。
一部の役者は台詞が聞き取り難かったのが残念でした。

初めて『ハムレット』を観る人でもどのような話か分かる演出でしたが、戯曲やオーソドックスな演出を知っていると、その微妙な脱力感をより一層楽しみながら観ることが出来るかと思いました。

吐くほどに眠る

吐くほどに眠る

ガレキの太鼓

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/01/06 (金) ~ 2012/01/15 (日)公演終了

満足度★★★

ある女性の半生
トラウマを抱えた平凡な女性の半生を描き、重い後味が残る作品でした。現在時制で語る主人公1人以外の7人の役者も入れ替わり立ち代わりで主人公を演じ、衣装および美術として大量の服が使われていたのが印象的でした。

舞台上手に置かれたパイプ椅子に座る女性が幼い頃から現在までの家族や友人との関係を語り、その様子が場面毎に役者を変えながら再現され、次第に自分のトラウマを見い出していく物語で、悪気はないのに人間関係が良くない方向へ進んで行く人生が痛々しかったです。

ラックに掛けられた大量の服を場面毎に着替え、床に巻き散らしていくのがビジュアル的に印象的でした。しかし、服を着替えて時間の推移を表す手法が一番効果的に使われていたのが、中心的な筋からは少し離れたシーンだったので、もったいなく感じました。

アゴラ劇場の構造を上手く使った演出が良かったです。中央に設置された可動式のステージは、その大きさに見合う程の効果が感じられず、むしろ視界を遮ってしまうデメリットの方が大きいと思いました。

レニングラード国立バレエ―ミハイロフスキー劇場―『白鳥の湖』

レニングラード国立バレエ―ミハイロフスキー劇場―『白鳥の湖』

光藍社

東京国際フォーラム ホールA(東京都)

2012/01/07 (土) ~ 2012/01/08 (日)公演終了

満足度★★★

王道
クラシカルな演出による上演で、早めのテンポの演奏に乗せて踊る群舞が美しかったです。ラストにオデットが死なないハッピーエンド版でしたが、あっけらかんと展開して、ドラマとして盛り上がりに欠ける様に感じました。

オデット/オディールを演じたボルチェンコさんはとても細い腕で繊細に感情を表現していました。2役の演じ分けもハッキリ違いが出ていて、オデットの時のキメのポーズがました。ジークフリートを演じたシェミウノフさんはかなり身長が高い人でしたが体の重さを感じさせず、高貴な雰囲気がありました。優雅な動きは良かったのですが、あまりキレが良くないので、のんびりした感じの王子になっていました。
第2幕の白鳥の群舞が動き・形とも整っていて美しかったです。 第4幕の群舞は少し乱れが気になりなした。第3幕のポーランドの踊りがかなり速いテンポでエキサイティングでした。

美術は古風な書き割り的なもので、湖面の絵に波紋の様な照明が当てられ、奇麗でした。
国際フォーラムのホールAでのバレエ公演は今回初めて観ましたが、会場が広過ぎるため、ステージまでの距離がかなりあって細かい動きが見えにくく、オーケストラの音も拡散して迫力が失われてしまった様に感じました。

今回の来日公演は他の演目もクラシック系ばかりですが、せっかくナチョ・ドゥアトさんが芸術監督なのだから、コンテンポラリー系の作品も上演して欲しいです。

Ato-Saki

Ato-Saki

VOGA

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2012/01/06 (金) ~ 2012/01/09 (月)公演終了

満足度★★

幻想的
関西で活動する劇団の初の東京公演で、第二次大戦でニューギニアの戦地に赴いた兵士の物語を、ビートに乗せた台詞と身体表現で描いた、休憩込みで2時間40分の大作でした。

終戦後数年経ってから帰国した男が苦悩する話がファンタスティックに描かれていましたが、戦争の虚しさを訴えるといった様なテーマではなく、生きている人と死んだ人の繋がりをテーマにしていると感じました。ただ、あまり発展しないエピソードが多く、テーマが浮き上がって来ず停滞感があったので、もっと削ぎ落として2時間以内に納めた方が良いと思いました。

作・演出の近藤さんは維新派の出身とのことで、その経歴を感じさせる、関西弁でのラップの様な台詞回しやカクカクとした動きの様式性の強い表現が多用されていました。音楽に合わせたパフォーマンス的なシーンと普通の芝居のシーンが交互に続く構成でしたが、まとまりがなくて統一感に欠けると思いました。
演出が要求する空間のサイズに対して実際のステージが狭く感じられ、窮屈な印象がありました。もう一回り大きなステージで観てみたく思いました。

映像はほとんどモノトーンのシンプルな表現ながらも、とても効果的に使われていて素晴らしかったです。リバーブを用いて声に浮遊感を持たせた音響も、台詞が生々しくなり過ぎず良かったです。

深呼吸する惑星

深呼吸する惑星

サードステージ

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2011/12/28 (水) ~ 2011/12/31 (土)公演終了

満足度★★

期待し過ぎました
80年代に大人気で、2001年に活動を封印した劇団の封印解除&解散公演で、最盛期の頃はまだ幼くて観る機会がなく、今回初めて観ました。古臭さを感じるのは敢えてそうしたのかも知れませんが、過去の経歴から(勝手ながらにも)期待していたレベルに全然達していませんでした。

地球と友好関係を持っているある惑星を舞台にした、映画『惑星ソラリス』を思わせるSF的設定の物語で、現代の日本を皮肉るネタやベタなギャグ、劇団自体について言及する様なエピソードを織り混ぜながら、死んでいなくなった人との関係を描いていました。
現代の日本とアメリカの関係を思わせる場面等、政治的なトピックも触れられていましたが、あまり深く掘り下げられずに描かれているので、ただ「社会的なことも考えていますよ」というポーズを取っている様にしか見えず残念でした。

役者達は流石ベテランと思わせる場面もありましたが、会話のやり取りの間が良くなくて、ただ決められている通りに台詞を喋っているだけに見える箇所も多く気になりました(特に男性陣)。
終盤の映像を用いた演出は効果的でしたが、それ以外の美術や照明、衣装等の視覚的表現は劇場のサイズに合ってなくて貧相に感じました。

オープニングのダンス、BGMの使い方、ギャグの多用等、個人的に苦手なタイプの作品でしたが、今回の作品がこの劇団が活動していた当時と同じ作風であるのならば、その様なスタイルの源流として今でも若い劇団に影響を与えていることに凄さを感じました。

core of bellsの公開撮影!

core of bellsの公開撮影!

core of bells

南池袋 ミュージック・オルグ(東京都)

2011/12/29 (木) ~ 2011/12/29 (木)公演終了

満足度★★★

独特の構成
ハードコアパンク的な激しい演奏とコミカルな演劇的要素が組み合わされたパフォーマンスで、独特な雰囲気が楽しかったです。
ミュージカルの様に歌詞が物語仕立てになっている訳ではなく、演奏はあくまで演奏として扱い、数曲の演奏と曲間のトークをセットにして1つの演目として構成している点がユニークでした。

『MYSTERY ROCK』
ロウソクが置かれたテーブルを前にしてバンドのメンバーが横一列に並んで座り、一人一人が語る怖い話と演奏が交互に続き1本ずつロウソクを消していく展開で、不意にテーブルがガタつき始め、最後の曲ではヴォーカルの人がテーブルの下に引きずり込まれるという、テレビの怪談モノをパロディ―にしたような作品でした。

『ミトポンプリマ』
テーブルを囲んでの雑談と演奏で、「ミトポンプリマ」という生物(?)がメンバーの一人と入れ替わっている疑いがあって、お互い探り合いながら会話や演奏をする作品でした。偽物を匂わせる言動があった瞬間、全員が木の枝や大型の洗濯バサミ、ソーセージ等を構えて一発触発な状態になるのが可笑しかったです。

『峠の屋台村』
「おでん」と書かれた提灯の下で雨合羽を着たメンバーがテーブルを挟んで無言のまま数分間が経ち、突如演奏が始まり、その後、お酒を勧める場面と演奏が交互に続く構成でした。最後はヴォーカル2人が前に出ていかにもロック歌手といった感じの動きをするのに対して、ギターとベースは背を向けて座ったままで微動だにせず演奏していたのが変な絵で楽しかったです。

テンポと拍子の頻繁な変化と、絶叫するヴォーカル(歌詞はあまり聞き取れませんでした…)によるテンションの高さと、演奏していないときのグダグダ感とのギャップが印象的でした。

若手演出家サミット2011

若手演出家サミット2011

アトリエ春風舎

アトリエ春風舎(東京都)

2011/12/15 (木) ~ 2011/12/25 (日)公演終了

満足度★★★

充実した企画
5人の演出家による10時間ずつのワークショップの成果発表と演出家達のトークを合わせて約2時間半のイベントで、演出家の個性の違いがはっきり出ていて興味深かったです。

柴幸男『来年の新作の練習』
ある女性の歴史や住む街を説明する1ページ分程度のテキストを用い、始めは1人で普通に読み上げ、身体表現を加えたり、複数名に割り振ったりして、後半はずっとテキストをループしながら色々演技の仕方を試していました。柴さんが流れを止めずに役者に指示を出していく様子がまるでスポーツの練習みたいで、躍動感がありました。

藤田貴大『まいにちを朗読する』
役者それぞれが会場の春風舎までどのようにして来たのか訊いたインタビューが「3年前東京湾に打ち上げられたおばあちゃん」を媒介にして、うっすら繋がりつつ東京の地図が生成される作品でした。マームとジプシーの作品で良く使われる、同じシークエンスを角度を変えつつ繰り返す手法は用いられていませんでしたが、藤田さんらしさが感じられました。

船岩祐太『シーンスタディx12』
当日パンフレットに記されたタイトルとは異なり、船岩さんが演技論をひたすら喋り続けるという内容でした。演技における「設定」について、役者同士がお互い設定を共有する必要はない等といった示唆に富む話が面白いエピソードを織り込みながら展開されていました。予備校の熱血講師の様なスタイルでまくし立てる岩船さんの姿がパフォーマンスとしても楽しめました。

中屋敷法仁『圧倒的なフィクションを求めて』
冒頭に中屋敷さんによる演劇におけるフィクションについての話があり、その後レビュー仕立てのショートパフォーマンスが上演されました。圧倒的な馬鹿馬鹿しさが楽しかったです。言葉と身体をバラバラに使うゲームを取り入れた即興性の高いパフォーマンスでしたが、独特の方法論によって、完全に中屋敷ワールドになっていました。

奥山雄太『「恩名野中学綱引き部の練習@キャプテンジュンの自宅の居間」の練習』
他の演出家の様に確固とした方法論を持っていないので、と前置きに続いて奥山さんの過去の作品の抜粋が上演されました。綱引きの練習風景を描いた分かりやすいお笑い系の作品で、個人的にはあまり興味を持てませんでしたが、今回の演目の中では一般的な意味での演技力が一番如実に現れるものだったと思います。

発表の後の演出家達のトークは、笑いの多い楽しい雰囲気の中にもそれぞれの演劇観が真剣に語られていて、充実した内容でした。

ワールド・イズ・ネバーランド

ワールド・イズ・ネバーランド

ブルーノプロデュース

王子小劇場(東京都)

2011/12/23 (金) ~ 2011/12/25 (日)公演終了

満足度★★

ドキュメンタリーとフィクション
それぞれの役者の子供の頃のエピソードを基に作られた作品で、フィクション/ノンフィクション、役柄/役者の関係性を探求する姿勢が感じられました。

前半は自分のエピソードを語るモノローグと大勢が騒ぐシーンが交互に配置され、音楽付きの幻想的なシーンを経てからは次第にシュールな方向に話が展開する構成で、ポストドラマ系の先鋭的な作品を踏まえた要素を感じさせつつ、ポップでエモーショナルな雰囲気もありました。
客席は四方から舞台を囲む形式で、同時に複数の人が話すシーンでは座る場所によって聞こえてくる台詞が異なり、情報を均等に客席に届けようとしていないのが面白かったです。

興味深い領域を探求しているのですが、やろうとしていることに比べて演出と演技の精度が低く、学生の身内ウケの馬鹿騒ぎにしか見えなくて残念でした。前作、前々作で感じられたスタイリッシュさを捨て、敢えてダサい失笑系の方向にしたのだと思いますが、上手く行ってないと思いました。そういう方向性で行くなら出演者がもっと少ない方が良いと思いました。

中盤の大量の小道具と終盤に登場した小道具と言うにはかなり大きい物には驚かされましたが、作品の内容的にはあまり必然性が感じられず、一発ネタにとどまっていたのが勿体なかったです。

鴎座クレンズドプロジェクト「浄化。」

鴎座クレンズドプロジェクト「浄化。」

鴎座

SPACE EDGE(東京都)

2011/12/22 (木) ~ 2011/12/25 (日)公演終了

満足度★★★

刺激的
断片的な台詞が多く、ほとんど物語の内容は掴めませんでしたが、刺激的なパフォーマンスによってギスギスとした雰囲気が伝わってくる作品でした。

自ら奏でるパーカッションのリズムに乗せて2人の対話を1人で演じて始まり、服を脱いだり、ビニール傘を切り刻んだり、床に投げ捨てられるチョコレートを延々口に詰め込み続けたり、大きな布に黄色のペンキを塗りたくり、マッチで火を着けて燃やしたり、靴を大量に床に並べたりと何を意味しているのかが分からないながらも印象的なシーンが沢山あり、60分の間で飽きることはありませんでした。
ダンス的な身体表現と歌や楽器演奏の音楽が多用されていたのが効果的で良かったです。

出演者に訊いたところ、台詞は戯曲通りで解体や再構成はしていなくて、舞台上で実現できないようなト書きについては他の表現に置き換えたとのことです。パフォーマンスとして楽しめましたが、どのようなプロセスでこの様な表現になったのかが気になりました。

途中まで入り口のシャッターを開けっ放しにしていた為、外部の雑音が大きくて台詞が聞き取り難かったのが残念でした。

来年、さらにブラッシュアップして本公演として上演するとのことで楽しみです。

くるみ割り人形

くるみ割り人形

松山バレエ団

ゆうぽうとホール(東京都)

2011/12/23 (金) ~ 2011/12/25 (日)公演終了

満足度★★★

カラフルで華やか
原典のプティパ&イワーノフ版とは異なる振付・演出が施され、より一層クリスマスにふさわしい華やかな雰囲気の作品になっていました。

1幕でくるみ割り人形が王子に変わるシーンは人形の着ぐるみがバラバラになって中から王子が出てくる演出になっていて面白かったです。原典版よりコミカルな雰囲気が強くなっていたと思います。
冒頭から第2幕の水の国までは落ち着いた色調だったのが、お菓子の国のシーンに入った途端にカラフルな衣装と明るい照明になり、強烈なインパクトがありました。キャラクターダンスが続くシーンではそれを観ているという設定のアンサンブルのダンサー達にも少し振付が施されていて、楽しげでした。『中国の踊り』が長い帯をなびかせるダンスで良かったです。
第2幕の終曲に入る前にヴァイオリンのソロがフィーチャーされた曲でクララと王子が踊る、ちょっと切ないシーンが追加されていて、あまりドラマ性のない第2幕にもそれを与えようとしているのは面白い試みでしたが、少々長すぎると思いました。

アンコールとしてクリスマスメドレーがあり、出演者全員(100人近くいたと思います)が舞台に登場しクリスマス気分を盛り上げていました。欲を言えば、アンコールでももう少し踊って欲しかったです。

セットや衣装が手の凝んだ立派な作りで可愛らしく素敵でした。普通は船で表現される雪の国への乗り物が上から降りてくる木馬のゴンドラになっていたり、くるみ割り人形とネズミの決闘シーンでもお互い木馬に乗っていて、木馬が大活躍なのが印象的でした。
オーケストラに目立つミスやメロディーと伴奏の音量バランスの悪さがが散見されたのが残念でした。

『三月の5日間』100回公演記念ツアー

『三月の5日間』100回公演記念ツアー

チェルフィッチュ

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2011/12/16 (金) ~ 2011/12/23 (金)公演終了

満足度★★★★

戦争と日常
イラク戦争が始まった日を挟んだ5日間における、日本の若者の様子を斬新な語りと身体表現のスタイルを用いた作品で、はっきりとした物語のない、とりとめのない言葉の羅列の中から、現代日本の若者が持つ何とも言えない浮遊感が立ち上がっり、社会批評的な視線も感じられました。

基本的には渋谷のラブホテルに泊まり続けた男女の話で、そこに渋谷から赤坂へ向かう戦争反対のデモのエピソードが交わるのですが、役者と役の関係が固定されていなくて、他の人が言っていたことを伝聞型で話しているかと思いきやいつの間にか一人称での話になったり、対話の相手役に入れ替わっていたりと、変化し続ける様子が印象的で、物語の展開があまり気にならない不思議な魅力がありました。
台詞も途中で話題が脱線し続け、主語と述語が対応していない様なダラダラとした文体で、日常では普通な会話が舞台で行われると強烈な違和感があるのが興味深かったです。

背後に大きな白い壁が立つだけのシンプルな空間で、壁や床にロシア構成主義的な形の照明が当てられるのがスタイリッシュで素敵した。

初演から7年経っている現在に観ても新鮮で刺激的で、普遍的な魅力のある作品だと思います。

Weekly4【PAIN(ペイン)】

Weekly4【PAIN(ペイン)】

アヴァンセ プロデュース

シアター711(東京都)

2011/12/22 (木) ~ 2011/12/28 (水)公演終了

満足度★★★

痛みを抱える人々
人がそれぞれ持つ心の闇の部分を一切の笑いを排してシリアスに描き、90分弱と比較的短い上演時間ながらヘビーな印象を与える作品でした。

小学生から医師まで様々な属性の人達が、いじめ、殺人、愛人、隠蔽、アルコール中毒、破産等といった負の要素で関連し合い、破滅に向かう救いの無い物語でした。静かな雰囲気で始まり、次第にテンションが高まって後半は感情が爆発するという振り幅の大きさを見せたかったのだと思いますが、ちょっとペースが早過ぎる様に思いました。

基本的に2人の会話が組み合わせを変えながら次々と続く構成で、同じ様なやりとりが異なるペアで行われる後半が面白かったです。
次のシーンに変わる前から次のシーンの登場人物が現れることによって行われるスムーズな切り替えとオーソドックスな暗転での切り替えの使い分けがはっきりしていて、見通しの良い形式感がありました。

初日の為、台詞を噛んだり間違いかけたりしていましたが、演技に関しては日常的なリアリズムのスタイルなので、間違いもリアルな会話に見えて、あまり気になりませんでした。

ITI世界の秀作短編研究シリーズ ドイツ編

ITI世界の秀作短編研究シリーズ ドイツ編

公益社団法人 国際演劇協会 日本センター

ドイツ文化会館ホール(OAGホール)(東京都)

2011/12/19 (月) ~ 2011/12/20 (火)公演終了

満足度★★★

『イドメネウス』鑑賞
モーツァルトのオペラ『イドメネオ』で有名な、クレタの王イドメネウスとその息子イダマンテスの物語をベースに、登場人物の1人であるエレクトラの家族間での殺し合いのエピソードも接合しながら、様々な「もしも~だったら」と別の話の展開を見せては分岐点に戻って進む作品で、どの選択が正しいのか、また、正しい選択とは何を根拠にしているのかを考えさせられました。

白い会議机が集められた周りに黒い箱状の椅子が点在していて、机の上や椅子、さらには客席内の椅子に場面毎に座る位置を変えながら物語が展開しました。元の物語と異なる展開になる時は明け透けなエロティシズムや猟奇的なグロテスクさを強調する方向へ行きがちなのが、いかにも現代ドイツ演劇らしいと思いました。

役者と役あるいは語り手の関係が固定されていなくて、様々な役者の声で立体的にテクストが読まれ、役者達の台詞回しがしっかりしていて、視覚的な表現がなくても十分楽しめました。
舞台となっている地中海地域を感じさせる雰囲気があるギターの生演奏による音楽が良かったです。

変に弄くり回さず、戯曲の魅力がそのまま伝わって来る様な素直な演出でしたが、もう少しアクがあっても良いと思いました。

ITI世界の秀作短編研究シリーズ ドイツ編

ITI世界の秀作短編研究シリーズ ドイツ編

公益社団法人 国際演劇協会 日本センター

ドイツ文化会館ホール(OAGホール)(東京都)

2011/12/19 (月) ~ 2011/12/20 (火)公演終了

満足度★★★

『氷の下』鑑賞
コンサルタント会社を舞台にして、効率を追求する資本主義やマスメディアによって社会から人間性が失われていく様をシニカルに描いた、政治的な作品でした。感情移入が出来るようなドラマが展開されるわけではないのですが、抽象的で取っ付きにくい感じはなく、素直に笑ったり怖さを感じたり出来ました。

横一列に並べられた机と椅子、机の上にはマイクと水の入ったペットボトル、背後にはスクリーンというシンポジウムの様なセッティングの中、コンサルタント会社に転職してきた冴えない感じの中年男性とやり手な感じの2人の若い社員のモノローグが交互に語られる構成で、若い2人のポジティブな営業トークが空虚に連呼され、人間がいない、物達自身が経済活動を行うというシュールなディストピアが浮かび上がってくる物語でした。
ドライな質感の台詞が続く中に、ユーモラスなミュージカルの描写があり、重いテーマとのギャップが面白かったです。

役者達は本ではなくiPadを用いて台詞を読み上げるのが作品のテーマに合っていました。
タイトルそのままに氷(のイミテーション)を使った演出は分かりやすく視覚的にも聴覚的にも上手く使われていましたが、表現がリテラル過ぎる様に感じられました。「氷」をもう少し象徴的に扱い、観客の心の中でイメージさせる方がその冷ややかさが伝わってきたと思います。
最後に流れる、この公演の為に作られた歌がタイムリーで且つ皮肉が効いていて良かったです。

戯曲は興味深い内容だったのですが、役者の台詞回しがぎこちなかったのが残念でした。

ITI世界の秀作短編研究シリーズ ドイツ編

ITI世界の秀作短編研究シリーズ ドイツ編

公益社団法人 国際演劇協会 日本センター

イワト劇場(東京都)

2011/12/16 (金) ~ 2011/12/18 (日)公演終了

満足度★★★★

『光のない。』鑑賞
福島の原発事故を受けて書かれた作品の日本初演で、リーディング公演と銘打っていますが、台本を持つという演出で作られた本格的な公演と言って良い程の圧倒的な力を感じさせる公演でした。

数台の脚立が立てられたり倒されたりしている空間の中に、防護服を思わせる白の上下と長靴姿でダンサー、ミュージシャン、役者2人の順番に現れ、役者は脚立の上で対話になっていない様な膨大な量の対話を続け、ダンサーがおそらく台本にある注釈を役者の台詞に重ねて読み上げたり身体表現で雰囲気を伝え、ミュージシャンは音楽というよりかは効果音的な不穏な音響を作り出していました。
役者はオーケストラ(あるいは弦楽四重奏でしょうか?)の第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンという設定で、原発事故に対する反応や不安が様々なレトリックを用いて語られていました。脚立の上から水の入ったペットボトルが床に投げつけられたり、床に並べられたプラスチック製の半球をダンサーが踏み潰したり、ミュージシャンが物を叩き壊したりと物が客席まで飛んで来る様な暴力的な表現が際立っていました。最後は天井にぶら下がった役者が床に落下して悲観的な未来像を感じさせました。

普通に話す時の倍以上のスピードで台詞が次々と畳み掛けられ、しかも台詞回しがおそらくドイツ語の響きを意識したと思われる、強烈なアクセントを伴うイントネーションや語尾の強調を多用するため、正直な所半分程度しか何を言っているのかが聞き取れませんでした。話している内容も引用や専門用語やダブルミーニングが大量に用いられていて、理解する間もないままに言葉を浴びせられる感じでした。それでもこの戯曲が持つ切迫感がリアルに伝わって来て、引き込まれっぱなしでした。

言葉が聞き取れないため「海外の戯曲を紹介する」という目的は全然達せていないとは思いますが、同時代の海外の戯曲をリアリティを持って体感出来ました。さすがに役者の2人はかなり苦戦している様でしたが、この方向性のままブラッシュアップすればとても良い作品になると思うので、ぜひちゃんと稽古期間を取った上で再演して欲しいです。

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