狂おしき怠惰
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2012/02/18 (土) ~ 2012/02/29 (水)公演終了
満足度★★★★
硬派ながらも楽しめる作品
前作で様々な賞を獲得し、現在岸田國士戯曲賞にもノミネート中とのことで興味を持ち、今回初めて観ました。
病院と製薬会社の関係を描いた物語から、医療のあるべき姿を考えさせられる作品で、休憩なしで3時間を超える上演時間を長く感じさせない静かな迫力がありました。
末期の癌で新薬の投与を受けている男が入院する病院を舞台に、男の家族や医師たちの様々な思いが描かれる前半と、その数年後、製薬会社の応接にて政治や経済との関係の中で医療はどうあるべきかが議論される後半との二部構成で、変に笑いを取ったりしようとせずに重いテーマを物語と演技の力だけで進めて行きながらも、社会派ドラマとしてただ問題点を掲げるだけの堅いものにはなっておらず、観客の心を引き込むエンターテインメント性も感じられるバランス感覚が素晴らしかったです。
丁寧に造り込まれたセット、分かりやすいストーリー展開、芝居掛っていない演技等によってすんなり物語の世界に入り込めましたが、リアリズムに傾き過ぎていて、見立てや省略といった舞台芸術ならではの表現があまり用いられておらず、演劇でなくむしろ映画やテレビドラマ向きな作品に感じられのが勿体なく思いました。
日常の会話と変わらないような抑えた声のトーンでありながら、はっきり聞き取れる台詞回しが耳に心地良く、絶叫するときとのコントラストも際立っていました。パンフレットを見ると役者たちの年齢はあまり離れていないのに、親子に見えたりとビジュアル面の作り込みも良かったです。
ナレーションと字幕が流れる数分の間に完全に別のセットに転換していたのが圧巻でした。どのような仕組みになっているのかとても気になりました。過度に劇的な効果を用いず、滑らかに明るさや照射位置が移行する照明も良かったです。
当日パンフレットも有料でも良いくらいのとても立派な作りと内容でした。
ノートルダム・ド・パリ
牧阿佐美バレヱ団
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2012/02/18 (土) ~ 2012/02/19 (日)公演終了
満足度★★★
エキサイティングなビジュアル表現
ヴィクトル・ユーゴーの長編小説の一部を昨年亡くなったローラン・プティがバレエ化した作品で、クラシックバレエでは用いられない動きも多く、モダンな感じでした。悲しい物語ですが、視覚的には賑やかで楽しかったです。
主要登場人物4人の内、女性は1人だけで、男性だけの群舞も多く、女性的で優雅という一般的なバレエに対してのイメージとは毛色が異なっていました。
エスメラルダを演じたボリショイバレエのプリンシパルであるマリーヤ・アレクサンドロワさんは立ち姿だけ圧倒的な存在感があり、難しい動きでも軸がぶれずに完璧なバランスを保っていて素晴らしかったです。カーテンコールでの余裕と可愛らしさを感じさせる振る舞いも魅力的でした。
カジモドを踊った菊地研さんは常に右肩を吊り上げた状態ながら軽やかに踊り、感情が伝わってくる演技でした。
打楽器協奏曲と言っても良い程に活躍する打楽器群の変拍子のリズムに乗って群舞があるときはゾンビの群れのように、あるときはキビキビと踊るのが気持良かったです。
舞台奥が階段上になっていて所々に開いた穴から床下で行き来できるようになっていたり、階段の手前に可動式のステージが暗転しないで両サイドから出てきたりと、バレエにしては大掛りなセットが目を引きました。
イヴ・サン=ローランによる衣装は有名なモンドリアン・ルックや、とても背の高い帽子、鮮やかな色彩など、当時のパリのモードの雰囲気を感じさせ、楽しかったです。
それぞれの要素はレベルが高いのにも関わらず、それらがドラマとしての表現に結び付かない感じがして、あまり心動かされれなかったのが残念でした。
カラス/Les Corbeaux
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2012/02/15 (水) ~ 2012/02/17 (金)公演終了
満足度★★★★★
繊細な静寂と闇
ダンサーとミュージシャンの2人よる、ダンス・音楽・美術の複合したパフォーマンスで、白/黒、光/闇、生物/無生物、東洋/西洋、子供/大人、原始的/洗練、美/醜、等といった様々な対立する要素が暗い空間と間の多い静かな時間の中で繊細に描かれていました。
薄暗い舞台の中央にアコシュ・セレヴェニさんが現れ、サックスを通して声を出してディジュリドゥまたは声明のような音を奏でて始めり、上手に設置された横にスクロールするスクリーンの裏に頭に長方形の板を付けたシルエット姿で見えるナジさんがスプレーで絵を描き、自身の影と描いた絵が対話するようなユーモラスなシークエンスが続きました。
上手に吊された2連の三角錘からこぼれ落ちる砂状の金属(?)を複数の金属製の筒で受けて微細な音色を聞かせ、筒同士をぶつけ合ってガムランのような響きを生みだし神秘的でした。下手に移動したナジさんがようやくダンス的な動きをするシーンはいびつな姿で崩れ落ちる姿が人間ではないものに見え、とても印象的でした。
鼻だけを黒く塗り、帽子を被り、両足首に白い鳥の羽を取り付け両手を真っ黒な顔料に浸し、背面のスクリーンにアクションペインティングのように抽象的な絵を描き殴り、その後、顔料を溜めた巨大な壺にナジさんが身体をゆっくり沈み込ませ、全身真っ黒に光輝くの異様かつ神々しい姿で床に絵を描いて静かに去り、暗闇の中を楽器の音だけが鳴り響いて終わりました。
日本的な要素が強く感じられる作品でしたが、ヨーロッパなアーティストが陥りがちな変なジャポニスムになっておらず、東欧的な暗さとシニカルな雰囲気と融合して独特な荒涼とした世界観が魅力的でした。
ナジさんの動きはダンスというよりはマイム的で目を引く派手さはありませんが、身体の隅々までコントロールされていて、孤独な美しさと醜さが同時に感じられ素晴らしかったです。
セレヴェニさんの演奏は普通の奏法はほとんど用いないサックスを主体に、横に寝かせたチェロ(?)や複数のゴングを用い、時間を音で埋め尽くさずに間を大事にしたもので、緊張感があって良かったです。
今回が初ナジ作品だった一緒に行った友人がとても感動し、楽屋に押し掛けてお話させてもらったところ、作品の中で絵を描いたスクリーンを譲っていただくことになりました。舞台上の虚ろで孤独な雰囲気とは全然異なる、優しい雰囲気の素敵なおじさまでした。
前回の来日公演から5年も空いての公演でしたが、次はもっと早いペースで来て欲しいです。
楽園!
工藤俊作プロデュース プロジェクトKUTO-10
こまばアゴラ劇場(東京都)
2012/02/15 (水) ~ 2012/02/19 (日)公演終了
満足度★★★
楽園を探し求めて
関西で活動する作家、演出家、役者、スタッフによるプロデュース公演の東京での初の公演で、関西弁の響きや東京の劇団にはない質感を感じさせる演出が独特の雰囲気を出していました。
職を失ったOLが、同居している謎の男、布団を売りに来たセールスマンの3人で楽園を目指して旅をし、その途中で曰くありげな人達に出会う物語でした。ちょっと脱力感のある序盤から次第に人の心の闇の部分を感じさせる不穏な雰囲気になり、終盤は寓話的な世界観が広がる構成が興味深かったです。
理想郷を求めつつも、いったい何が人にとっての理想郷なのか分からず、引き込もったり、怪しい宗教に嵌ったりする描写に恐ろしさを感じました。
舞台上には奥のドアがついている壁、柱状のオブジェ、椅子として使われる箱型のオブジェが用いられていましたが、オブジェの扱い方には必然性が感じられず残念でした。
写真、台詞やト書きの文章、ライブ映像を壁に写し出す、映像を多用した演出が効果的で印象に残りました。
トヨタコレオグラフィーアワード ショーイング
TPAM・国際舞台芸術ミーティング
KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)
2012/02/14 (火) ~ 2012/02/14 (火)公演終了
満足度★★★
豪華出演者
2001年から行われているトヨタコレオグラフィーアワードの「次代を担う振付家賞」受賞者の内の5人が15分の短編を上演する公演で、日本のコンテンポラリーダンスの状況が分かるショーケースとなっていました。500円という破格の値段も懐に優しく、良い企画でした。
東野祥子『「私たちは眠らない」より"not part of humanitarian war"』
外からの力によって動かされている人形のような奇妙でシャープな動きのダンスと、刺激的な音響や照明が合わさって鋭い印象を残す作品でした。
白井剛『静物画』
昨年の秋に上演した作品の抜粋版で、物や重力との関わり方を描くには15分では短く感じましたが、ユーモラスな雰囲気が増したように感じました。
隅地茉歩『ひとが二人いるとそこには』
ダンサーにしては少々太めな男女がフレンチジャズと日本民謡に乗せてコミカルに踊る作品でした。15分の作品として構成がしっかりしていて楽しめました。
鈴木ユキオ『揮発性身体論‐EVANESCERE』と黒田育世『おたる鳥をよぶ準備』の2作品は時間の都合で観ることが出来ませんでした。両作品とも以前に観たことがあるものだったので、どう取捨選択して15分にまとめあげたかを観てみたかったです。
トカトントンと
地点
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2012/02/09 (木) ~ 2012/02/14 (火)公演終了
満足度★★★★★
洗練された視覚的・音響的デザイン
太宰治の『トカトントン』をベースに、同じ作者の『斜陽』や玉音放送、日本国憲法も取り込んだテクストを特異な台詞回しで語る作品で、視覚的にも聴覚的にも非常に洗練された演出を以て、戦後の日本が知的かつユーモラスに描かれていました。
玉音放送のテクストを語るところから始まり、『トカトントン』が文章の順番を多少入れ替えながら進行し、「手紙」や「戦後」といった共通要素を持つ『斜陽』にシームレスに接続し、「天皇」から日本国憲法や君が代が持ち出される展開でした。狂気じみた怖さと少々のユーモアを感じさせる、原作終盤での「トカトントン」という単語の羅列が、その部分を子供に担わせることによって希望のシグナルのように感じられました。他の出演者は昭和初期の看板をプリントした、くすんだ色の衣装なのに対し、子供だけが鮮やかな色の衣装で、あたかも未来を覗く為のものであるように見える双眼鏡を携えていたのが印象的でした。
他にも、アコーディオンで君が代を弾き最高音だけが楽器の音域外で音がなくなってしまったり、「トカトントン」に合わせて送風機の音と連動して揺らめく壁が、最後だけは録音の音を流し送風機の音はするのに壁は静止したまま等、はっきりと意味は分からないながらも印象的なシーンがたくさんありました。
いつもの地点の作品に比べて笑えるシーンが多いのが新鮮でした。金槌を持ち出して床を文字通り「トカトントン」と叩く中、1人だけ杭打ち用の特大の金槌を持ってきたり、金槌でリズムが刻まれる中で客に「トカトントン」のコール&レスポンスを要求したり、金槌をマイクに見立ててブルース風に熱唱するシーンは、他の部分が緊張感があるだけにギャップが楽しかったです。
建築家の山本理顕さんによる空間美術は、ただオブジェとして存在するのではなく、役者の動きや音や光と関連付けられていて素晴らしかったです。10cm角程度の金属製のパネルが垂直にグリッド状に並べられた巨大な壁は、壁は背後からの送風機の風を受けて各ピースがバラバラに揺らめいて照明を反射し、きらめく波紋のような模様を描き、映像の特殊効果よりも複雑で美しかったです。奥から手前に向かって上がっていく斜面の床は役者の足元が見えず、寝転がると視界から消えてしまう、不思議な遠近感があって非現実感が漂っていました。
渡辺美帆子企画展「点にまつわるあらゆる線」
青年団若手自主企画 渡辺企画
アトリエ春風舎(東京都)
2012/02/05 (日) ~ 2012/02/12 (日)公演終了
満足度★★
演劇についての演劇
「人間」を展示すると題して、展覧会のように観客が自由に動きながら観る、演劇という表現形式について考えさせる作品でした。
4方の壁や天井から吊り下げられた紐に「彼女」の様々なデータが記されている劇場の一画にカーテンとロールスクリーンで囲われた四畳半程度のエリアがあり、その中で「彼女」が2月3日の朝から夜までを何度も繰り返し演じ、次第に周囲でリアルでない要素が発生し、複数のシークエンスが同時に演じられたり、「彼女」が他の役者に入れ替わったりして、虚構性を強調する展開でした。
演劇における虚構性や、見る/見られるの関係性といった要素をただ提示しているだけで、そこから先の生の舞台ならではの質感の表現が不足していて、頭でっかちで行儀の良いメタ演劇に感じられました。
現代美術の世界でもノンフィクションに見せかけたフィクションを提示するスタイルがありますが、絵や写真や物の展示に比べて演劇では人がその場で演じることによる虚構性の表現の可能性があるのにそれを活かしきれていないと思いました。
中途半端にキャッチーな要素がありましたが、もっとポップな方向に持って行くか、あるいはそれらを排除して観客がイライラするくらいストイックで退屈な構成にした方が、狙いがはっきり浮かび上がると思いました。
役者が演じていることよりも、普段見られることに慣れていないために見られていることを意識せずに振る舞う観客の姿や、それを他の観客が見ていることを更に他の観客が見ているという入れ子状の関係性が興味深かったです。
プラシーボ
LUG HUB
上野ストアハウス(東京都)
2012/02/03 (金) ~ 2012/02/12 (日)公演終了
満足度★★
時間、幸福の相対性
ある男の決断する/しないについての話が途中までは断片的なシーンの連なりで描かれ、終盤に向けて1つに収束する構成で、時間や幸福というものが相対的であることを通して、生き方について考えさせる作品でした。
登場人物の名前が明示されないまま進行し、その理由が最後に明らかになるという、小説では表現しにくい話になっていて演劇作品として作った意義が感じられましたが、話の流れでなんとなく分かることを終盤に全部言葉で説明することによって演劇ならではの表現力が失われていたのが残念でした。また、登場人物の関係や時系列の関係が必要以上に話を複雑にしているように感じました。
自己啓発的、あるいは宗教的なポジティブな台詞が多く、単純にそのようなメッセージを訴えているのではなく、相対的に扱っているのは理解できるのですが、個人的には全然共感できず、乗れませんでした。
1段上がった回り舞台、宙に吊された額縁、ベッドや椅子など全てに木の年輪が描かれていて時間という要素が視覚化されていたのが良かったです。回り舞台は回転軸が偏芯していて、角度によって客席との距離が変化して空間に遠近感を与えていて効果的でした。
過度に盛り上げたりしない、サティやラヴェルの静かな雰囲気のピアノ曲中心の選曲は良かったのですが、音楽の多用や大袈裟な感じの効果音、また役者の声の大きさのバランス等といった音のデザイン面があまり上手く行ってないように感じました。
バロックオペラ『プラテー』
キョードー東京
渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール(東京都)
2012/02/08 (水) ~ 2012/02/09 (木)公演終了
満足度★★★
理不尽な物語
バロック時代のフランスの代表的な作曲家、ラモーがルイ15世の息子の結婚式のために書いたオペラの日本初演でした。
バレエダンサーによるダンスシーンが沢山あり、祝祭的な雰囲気がありました。
醜い姿の沼の精の女王、プラテーがギリシャの神々に魅力的だとおだてられ、雷の神ジュピテルと結婚式を挙げることになるのですが、式の途中でからかわれていることに気付き、怒り嘆くという理不尽な話で、あまりメリハリもない物語でしたが、躍動感のある音楽が舞台の進行をリードしていました。
日本初演にふさわしいオーソドックスな演出で分かり易く表現されていました。演奏は当時の様式に則したものであったのに対して、ダンスはもっと後の時代のクラシックバレエのスタイルで、少々違和感を覚えました。
プラテーの役はテノールの武井基治さんが女装というか仮装した姿で演じ、演技も歌唱も表情豊かで可愛らしく、とても良かったです。
歌手、ダンサーともレベルがまちまちなため、上手い人が目立ち過ぎていてバランスが悪く感じられたのが残念でした。
珍しくかつ親しみ易い作品で、古楽のスペシャリスト武久源造さんも参加していたのに、空席が目立った(平日の昼公演ということもありますが)のがもったいなかったです。
カラマーゾフの兄弟
カンパニーデラシネラ
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2012/02/08 (水) ~ 2012/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
マジカルな舞台表現
ドストエフスキーの長大な小説をほとんど台詞を用いずに身体表現で描き出し、90分弱のコンパクトな作品にまとめあげていました。
原作を読んだことがなく、概要もほとんど知らない状態で観たので、原作をどのようにアレンジしたかを楽しむことはできませんでしたが、動きだけで人の様々な感情が表現されていて、知識がなくてもとても楽しめました。
一段上がった床が舞台の中央に組まれていて、そこに大きなテーブルと数脚の椅子が配置された空間の中を所狭しと動き回り、同じシーンを繰り返したり、時系列を入れ換えたりしながら、カラマーゾフ家の3兄弟とその父の関係が描かれていました。
ストップモーションやスローモーションなどマイム的な手法を用いて生身の体だけで時間や空間が歪んで感じられるマジカルな効果を出していて、舞台ならではの魅力が溢れていました。客の視線を上手くコントロールして、手品的な技を見せたり、シーンの転換をシームレスに行ったりと、そろぞれの動きに必然性が感じられました。衣服やコップ等の小物の使い方が巧みで楽しかったです。
作品のヴォリュームに対してウケを狙った演出が多すぎると思いました。ユーモラスで面白かったのですが、もっとシリアスな表現が続いても全然飽きさせないと思いました。
唯一の女性出演者である藤田桃子さんが怪我をして急遽江角由加さんに交代になっていましたが、そのことを感じさせないクオリティの高さで素晴らしかったです。
LOVE02
ロロ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2012/02/05 (日) ~ 2012/02/13 (月)公演終了
満足度★★★★
ひねくれつつもストレート
若々しい愛の形をベタにかつシュールに描いた作品で、いつもながらの作風でしたが、マンネリを感じさせない新鮮な台詞や演出が魅力的でした。
体が光る女や200年生きている男や既に死んでいる男等、非現実的なキャラクターが他の現実的なキャラクターにすんなりと受け入れられている不思議な世界観の中で、なかなか成就しなかったり、ささいなことで喧嘩したりといった恋愛の様々な側面が描かれていました。
音楽や美術が幻想的な雰囲気を引き立てる終盤の展開は観ていて恥ずかしくなるくらいストレートな表現でしたが、高揚感が素晴らしかったです。
電球や脚立等の既製品をそのままの形で見せつつ、他のものを想像させる演出が良かったです。役者達はマンガ的なキャラクターを絶妙なバランスで演じていて、軽さの中に時には深遠さも感じられました。
観に行った回が男性割引の回だったとはいえ、男性客率がとても高かったのが印象的でした。一見、可愛らしい表現で女性に受けそうな作風ですが、男性のノスタルジーを刺激する要素が詰め込まれていると感じました。
揮発性身体論「EVANESCERE」/「 密かな儀式の目撃者」
金魚(鈴木ユキオ)
シアタートラム(東京都)
2012/02/03 (金) ~ 2012/02/05 (日)公演終了
満足度★★
真摯な身体の探求
鈴木ユキオさん振付作品2本立ての公演で、両作品ともギミック的な要素を用いず身体と空間の関係性を丁寧に探求していて、ストイックな雰囲気に包まれていました。
『EVANESCERE』
鈴木さんのソロで、恐る恐る空間と触れ合おうとする序盤から次第に動きの自由度が増して行き、後半は床に置かれた3つの電球と接しながら静かに踊る作品でした。人の生から死への過程を象徴的に描いているように感じられました。
前半のためらいつつ動くロボットダンス的な動きが目に見えない空気の存在を意識させるようで印象的でした。静けさの中に漂う緊張感が気持ち良く、密度の高い作品でした。
『密かな儀式の目撃者』
昨年の夏にこまばアゴラ劇場で上演された作品ですが、女性ダンサー4人によって踊られること以外は全く異なる作品に変わっていました。
それぞれ異なる格好の4人が動きも独立して動き、いつの間にかその内の2人が同じ動きをするシークエンスが繰り返される構成で、かなり長い間、立ち姿や寝姿で静止しているのが特徴的でしたが、あまりにも展開が緩慢で途中で退屈さを感じることが何度もありました。
やりたいことは分かるのですが、観客の意識を引き寄せるいう点ではアピールが弱いと思いました。
龍を撫でた男
オリガト・プラスティコ
本多劇場(東京都)
2012/02/03 (金) ~ 2012/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
正常と異常
どこか変な人々を描いた物語で、チェーホフの戯曲を思わせる雰囲気の中に、60年前の作品とは思えないちょっとシュールなところもある作品でした。
ケラさんの自身による脚本ではないので、ナイロン100℃の公演に比べて笑いはかなり控え目でしたが、登場人物全員が狂っている様子が怖くてかつ可笑しかったです。
ある年の元旦、精神科医である夫と妻、妻の弟が住む家に、劇作家と女優の兄妹がやって来て、それぞれの下心が見え隠れしながら「家庭」や「気違い」についての会話が繰り広げられ、そこに怪しげな男2人組もやって来て、次第に奇妙な方向へ話が進んでいく物語でした。
誰が正常で誰が異常か分からなくなる終盤は不思議なドライさと滑稽さがあり、印象的でした。
会話の中でドストエフスキーやチェーホフの名前が上がったり、『どん底』の劇中歌が歌われたりされるように、内容自体もロシア文学のテイストが感じられました。
チラシの文章に「エロティックで」とありますが、演出の仕方によっては妖艶になるシーンが笑える表現になっていたのがケラさんらしいと思いました。不穏な印象を与える音楽や映像が効果的に用いられて、人の心の怖さを引き立てていました。
妻を演じた広岡由里子さんは情緒不安定な感じが台詞回しに良く出ていて、時折差し挟まれるコミカルな動きが楽しかったです。激しやすい人達の中で山崎一さんの常に落ち着いた演技が逆に怖さを漂わせていて、印象的でした。緒川たまきさんがいつもより低いトーンの声で悪女っぽさがあり新鮮でした。
スパルタクス
JAPAN ARTS
東京文化会館 大ホール(東京都)
2012/01/31 (火) ~ 2012/02/02 (木)公演終了
満足度★★★★
圧倒的なエネルギー
古代ローマ帝国時代、反乱を起こしたものの悲しい結幕を迎える奴隷の男、スパルタクスの物語を、エネルギッシュで勇壮なダンスと音楽で描いた作品で、この作品を十八番としているボリショイ劇場が10年ぶりに日本での上演を行いました。
ダンサー達とオーケストラの強烈な迫力に圧倒されました。
物語が展開するシーンは舞台全体を使ったダイナミックな群舞で進め、登場人物の心情を描くシーンは紗幕を下ろした手前で青みがかった薄暗い中をスポットライトを浴びて踊るソロとなる、分かりやすい構成の演出が単調に感じられましたが、他のバレエ作品では見ることの稀な、20人以上の男性だけで踊られるロシアの民族舞踊を取り入れた群舞の躍動感が素晴らしかったです。
男性アンサンブルの迫力に比べて2人の男性ソリストは序盤は存在感が弱く感じられましたが、次第に乗ってきて激しい跳躍や回転を連発し、見応えがありました。スパルタクス役のパヴェル・ドミトリチェンコさんは連続ジャンプや片手でのリフトなど難度の高い技を決めつつ、苦悩する青年の感情も良く出ていました。
ローマ軍指揮官の愛人、エギナを演じたマリーヤ・アレクサンドロワさんは精度の高い身体のコントロールで安定感を保ちながら表現力豊かに踊り、とても魅力的でした。
曲自体は当時のソ連の文化的状況もあって、1950年代に書かれたものにしては古風で展開に乏しい感もありましたが、オーケストラがいかにもロシアのオケといった感じの特徴的な音色と豪快な演奏で、堪能しました。
オケピットに入っての演奏なので、小さめの編成だったのですが、演奏会での大編成オーケストラに劣らない音量が圧巻でした。
女性ダンサーが中心となって繊細な情感を表現するという一般的なバレエ観とかなり異なる作品で、スポーツを観ているような爽快感が溢れていて、多少の粗も気にならずに楽しめました。
新春能・狂言鑑賞会【解説付】
ルネこだいら
小平市民文化会館 ルネこだいら 大ホール(東京都)
2012/01/29 (日) ~ 2012/01/29 (日)公演終了
満足度★★★
華やか
新春公演に相応しい華やかな演目を並べ、最初に解説もあり、親しみやすい内容の公演でした。
仕舞『融(とおる)』
源融が月光の下で奥州塩釜を思って舞う話の舞の部分が東日本大震災の犠牲者の追悼として演じられました。
シテの高橋忍さんは流れるような動きと張りのある謡で、エネルギーが感じられました。
能『猩々(しょうじょう)』
1月に上演するのにふさわしい、目出度い雰囲気の作品でした。30分程と能にしては比較的短い上演時間なので、集中して観ることが出来ました。
酒飲みの妖精「猩々」は鮮やかな赤の髪に朱色の装束という派手な出で立ちで舞い、謡われる内容と相俟って明るい雰囲気でした。
狂言『唐相撲(とうずもう)』
出演者が20人以上いて、しかも1人以外は中国人という設定の、賑やかでコミカルな作品でした。日本人の相撲取りに中国の帝王の配下達が次々に勝負を挑む話で、アクロバティックな技や馬鹿馬鹿しい遣り取りが繰り広げられ、賑やかな雰囲気が楽しかったです。
帝王役の山本東次郎さんのエセ中国後の台詞回しが滑稽で面白かったです。日本人役の山本則重さんの芯のある通る声が素敵でした。
ホールでの公演だったので2階席から、能楽堂では不可能な見下ろすアングルで観ることが出来て興味深かったです。
ステージの手前半分に仮設の舞台を組み、鏡板がなくて奥の何もない空間をそのまま見せていて間が抜けていたのが残念でした。幕でも良いので松の絵があった方が空間が引き締まったと思います。
SHIP IN A VIEW
パパ・タラフマラ
THEATRE1010(東京都)
2012/01/27 (金) ~ 2012/01/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
ノスタルジックな風景
結成30周年を迎えた今年に解散することが決定しているパフォーマンスカンパニーの代表作の公演で、ダンス、歌、オブジェ、照明等、様々な要素が高いクオリティでスタイリッシュに纏め上げられた、詩情溢れる美しい作品でした。
物語性をうっすらと感じさせる程度に断片化された表現で港町の風景をノスタルジックに描き、観る人に様々な想像を働き掛ける抽象と具象のバランスが絶妙でした。
バレエから舞踏、日常動作まで様々なボキャブラリーを組み合わせた振付が、静謐さから激しさまでを表現していました。ホーメイ、ヨーデル、ブルガリアン・ヴォイス、島唄といった様々な民族的歌唱法を歌も面白い響きで不思議な無国籍感が漂っていました。殊更に日本らしさを強調している訳ではないのですが、コンテンポラリーな表現の間にアジア的な垣間見えるのが興味深かったです。
パパタラの作品は稚気や猥雑な俗っぽさを露悪的に表現することがしばしば見られ、個人的には好みではない演出なのですが、この作品ではそのような要素があまりなく、程良い緊張感のある凛とした空気が持続していて心地良かったです。
水平線を模した舞台奥の線状の照明や、天井から床面まで降りて来て複雑なパターンで点滅する多数の電球など、光源自体を見せる照明デザインが美しかったです。機械仕掛けで単独で動く船のミニチュアや自転車の車輪などのオブジェが夢のような印象を醸し出していて素敵でした。
カンパニーの看板パフォーマーで最近は出演の機会が少なかった小川摩利子さんの圧倒的な声と体の存在感が素晴らしかったです。品のある大人の女性の雰囲気が魅力的でした。他のパフォーマー達もそれぞれ固有の魅力がありました。
テレビで見掛けるような有名人が出演している訳でもない国内カンパニーのダンス系の公演としてはチケットが高額ですが、その値段分の価値があると思いました。
金閣寺 The Temple of the Golden Pavilion
パルコ・プロデュース
赤坂ACTシアター(東京都)
2012/01/27 (金) ~ 2012/02/12 (日)公演終了
満足度★★★
原作とは別物
美と自意識について悩む青年の思いが手記の体裁を以て流麗な文体で描写された、三島由紀夫の名作の舞台化で、商業系の劇場にしては先進的な演出が印象的でした。
視覚的、聴覚的に多くの趣向が盛り込まれていて、休憩込みで3時間弱と長めの上演時間の間で飽きることはありませんでしたが、小説の文章から立ち上がって来る濃厚な味わいは感じられませんでした。
物語自体を楽しむのではなく、原作を読んだ上で、様々な場面がどのように作られるのかを楽しむ作品だと思いました。
開演前から役者達が『金閣寺』の為とは思えないデザインの舞台上を行き来し、セットは椅子やテーブルを組み合わせて表現しながら第1幕は概ね原作通りに話が進み、第2幕中盤から原作とかなり異なる演劇的な演出で畳み掛けるという構成になっていました。
かなり話を端折ってダイジェスト的な構成にしていたので、原作を知っていないと話の流れが追い難いと思いました。個人的に重要に思える場面が省略されていたり、省略した部分を繋げるために原作にはない設定や場面があったりして、違和感を覚えました。特に「認識」と「行為」についての思索がかなり削られていたのが残念でした。
学生の溝口、鶴川、柏木を演じた若手3人はそれぞれのキャラクターが確立されていて、想像以上に魅力的でした。足が不自由でありながら強気に生きる柏木を演じた高岡蒼甫さんが特に良かったです。意外な役を演じ、さらに様々な効果音を声で表現していた山川冬樹さんの存在感が強烈でした。大駱駝艦のメンバーによるアンサンブルも細かいところまで作り込まれていて、観ていて楽しかったです。
映像、照明等のスタッフワークがスタイリッシュで良かったです。特に小野寺修二さんによる振付はいわゆるダンスではなく、舞台の進行や転換と密接に繋がる動きで構成されていて、素晴らしかったです。
ただし、音響に関してはBGMや効果音を多用していて、視覚的表現に比べて安易な表現に感じました。
青春漂流記
劇団鹿殺し
紀伊國屋ホール(東京都)
2012/01/19 (木) ~ 2012/01/29 (日)公演終了
満足度★★
苦い青春
あまり順調ではない生活を送る30代の5人の青春を描いた物語が、歌ありダンスあり、泣きあり笑いありのエンターテインメント性の高い王道的な演出で熱く描かれていました。
幼い頃に「モトコー5」というグループで人気者になったものの、メンバーの1人が行方をくらまして解散し、その後も過去の栄光に未練を持ち、くすぶった生活を続けていた残りの4人が、消えたメンバーが戻って来ることによって、再度活動しようともがくほろ苦い姿を描いた物語で、分かり易い話の展開でした。心情を台詞や演技で説明しすぎていて、薄っぺらく感じました。もう少し観客の想像に任せても良いのではと思いました。大人としての青春との距離に取り方を感じさせる展開だったので仕方がないのかも知れませんが、ラストがあまり盛り上がらず、ちょっと拍子抜けでした。
廣川三憲さんの複数の役の演じ分けは同じ人とは感じさせない程見事で楽しかったです。高田聖子さんは男気溢れる姉の役を演じていて、ともて役にはまっていました。激しく動きながら長台詞をこなすバイタリティや体の張り方が凄かったです。
客入れ時のBGMを含めて、1990年前後のカルチャーが引用されたりパロディにされていましたが、一緒に観に行った友人はその時代を知らない世代だったので全然分からなかったそうで、30歳以上でないと付いて行けないかと思います。パロディはもっと元ネタに対するリスペクトあるいは皮肉を感じさせて欲しかったです。
何度か挿入されるダンスは個人的に好みではないタイプの振付でしたが、全身をダイナミックに使っていて迫力がありました。
存亡の秋 (そんぼうのとき)
NPO法人 魁文舎
スパイラルガーデン(東京都)
2012/01/24 (火) ~ 2012/01/25 (水)公演終了
満足度★★★
鎮魂の典礼
9.11テロの犠牲者を追悼するために書かれた声明曲の3.11の震災を承けての再演で、照明や動きの演出を伴った舞台作品として演奏されました。日常と異なる時間感覚で響く声や打楽器の音が神秘的でした。
前讃「無常偈」、唄「如来唄」「始段唄」、散華「散華上段・下段」、錫杖「三條錫杖」、総回向「生死」、終讃「無常偈」という式次第で進み、暗闇から始まり、青白い光、彼岸花を思わせる赤へ移行し、そしてまた暗闇に戻る色彩構成が人の一生を描いているようでした。「無常」と「生死」はネイティブ・アメリカンの言葉が歌詞として使われ、宗教を越えた普遍性が感じられました。
螺旋スロープや長い廊下が特徴的な空間を活かして僧侶達が極めてゆっくりと行列しながら進んで行く様子が美しかったです。「生死」では舞台上で独唱が歌われる中、他の20名以上の僧達達がそれぞれ自分のテンポでお経を唱えながら客席の両脇を通り過ぎて行き、さらにスピーカーから英語でネイティブ・アメリカンの言葉を読み上げる声が流れ、視覚的にも聴覚的にもインパクトがありました。
絶えずゆったりとした時間の流れの中で豊かな倍音が鳴り響き、80分弱の時間が一瞬でかつ永遠であるような不思議な感覚が心地良かったです。
平成中村座 壽初春大歌舞伎
松竹
隅田公園内 特設会場(東京都)
2012/01/02 (月) ~ 2012/01/26 (木)公演終了
満足度★★★
夜の部鑑賞
隅田公園に建てられた仮設劇場(といっても立派な造りでした)での公演で、新年最初の公演に相応しい華やかな作品2本でした。歌舞伎は数回しか観たことがないので、あまり深いところまでは感じ取れなかったのですが、休憩を含めての4時間を飽きることなく楽しめました。
『寿曽我対面』
五郎、十郎の曽我兄弟が父の敵である工藤祐経の所へやって来る物語で、古めかしい台詞や、ギリシャ劇のコロスの様に一列に並び順に台詞を繋げて行ったり、何度も見得を切ったりと非常に様式化された演出が興味深い作品でした。
勘三郎さん演じる兄・十郎の慎重さと橋之助さん演じる弟・五郎の気の荒さの対比が楽しかったです。派手な化粧や衣装も華やかで素敵でした。
『於染久松色読販』
お染と久松の悲恋の物語を中心に様々なエピソードが絡み合い、陰惨なシーンからコミカルなシーンまで盛り沢山な作品でした。お染、久松を初めとして7役を次々に演じた七之助さんの演じ分けが見事でした。小道具やセット、身代わりの役者を用いての早替りが楽しかったです。第3幕は舞踊が中心で繊細な表現から豪快なアクションまであり、華やかでした。
大道具が可動式になっていて、幕を閉じないまま行われるダイナミックな転換も楽しかったです。