満足度★★★★★
洗練された視覚的・音響的デザイン
太宰治の『トカトントン』をベースに、同じ作者の『斜陽』や玉音放送、日本国憲法も取り込んだテクストを特異な台詞回しで語る作品で、視覚的にも聴覚的にも非常に洗練された演出を以て、戦後の日本が知的かつユーモラスに描かれていました。
玉音放送のテクストを語るところから始まり、『トカトントン』が文章の順番を多少入れ替えながら進行し、「手紙」や「戦後」といった共通要素を持つ『斜陽』にシームレスに接続し、「天皇」から日本国憲法や君が代が持ち出される展開でした。狂気じみた怖さと少々のユーモアを感じさせる、原作終盤での「トカトントン」という単語の羅列が、その部分を子供に担わせることによって希望のシグナルのように感じられました。他の出演者は昭和初期の看板をプリントした、くすんだ色の衣装なのに対し、子供だけが鮮やかな色の衣装で、あたかも未来を覗く為のものであるように見える双眼鏡を携えていたのが印象的でした。
他にも、アコーディオンで君が代を弾き最高音だけが楽器の音域外で音がなくなってしまったり、「トカトントン」に合わせて送風機の音と連動して揺らめく壁が、最後だけは録音の音を流し送風機の音はするのに壁は静止したまま等、はっきりと意味は分からないながらも印象的なシーンがたくさんありました。
いつもの地点の作品に比べて笑えるシーンが多いのが新鮮でした。金槌を持ち出して床を文字通り「トカトントン」と叩く中、1人だけ杭打ち用の特大の金槌を持ってきたり、金槌でリズムが刻まれる中で客に「トカトントン」のコール&レスポンスを要求したり、金槌をマイクに見立ててブルース風に熱唱するシーンは、他の部分が緊張感があるだけにギャップが楽しかったです。
建築家の山本理顕さんによる空間美術は、ただオブジェとして存在するのではなく、役者の動きや音や光と関連付けられていて素晴らしかったです。10cm角程度の金属製のパネルが垂直にグリッド状に並べられた巨大な壁は、壁は背後からの送風機の風を受けて各ピースがバラバラに揺らめいて照明を反射し、きらめく波紋のような模様を描き、映像の特殊効果よりも複雑で美しかったです。奥から手前に向かって上がっていく斜面の床は役者の足元が見えず、寝転がると視界から消えてしまう、不思議な遠近感があって非現実感が漂っていました。