満足度★★★★
硬派ながらも楽しめる作品
前作で様々な賞を獲得し、現在岸田國士戯曲賞にもノミネート中とのことで興味を持ち、今回初めて観ました。
病院と製薬会社の関係を描いた物語から、医療のあるべき姿を考えさせられる作品で、休憩なしで3時間を超える上演時間を長く感じさせない静かな迫力がありました。
末期の癌で新薬の投与を受けている男が入院する病院を舞台に、男の家族や医師たちの様々な思いが描かれる前半と、その数年後、製薬会社の応接にて政治や経済との関係の中で医療はどうあるべきかが議論される後半との二部構成で、変に笑いを取ったりしようとせずに重いテーマを物語と演技の力だけで進めて行きながらも、社会派ドラマとしてただ問題点を掲げるだけの堅いものにはなっておらず、観客の心を引き込むエンターテインメント性も感じられるバランス感覚が素晴らしかったです。
丁寧に造り込まれたセット、分かりやすいストーリー展開、芝居掛っていない演技等によってすんなり物語の世界に入り込めましたが、リアリズムに傾き過ぎていて、見立てや省略といった舞台芸術ならではの表現があまり用いられておらず、演劇でなくむしろ映画やテレビドラマ向きな作品に感じられのが勿体なく思いました。
日常の会話と変わらないような抑えた声のトーンでありながら、はっきり聞き取れる台詞回しが耳に心地良く、絶叫するときとのコントラストも際立っていました。パンフレットを見ると役者たちの年齢はあまり離れていないのに、親子に見えたりとビジュアル面の作り込みも良かったです。
ナレーションと字幕が流れる数分の間に完全に別のセットに転換していたのが圧巻でした。どのような仕組みになっているのかとても気になりました。過度に劇的な効果を用いず、滑らかに明るさや照射位置が移行する照明も良かったです。
当日パンフレットも有料でも良いくらいのとても立派な作りと内容でした。