アルジャーノンに花束を
演劇集団キャラメルボックス
サンシャイン劇場(東京都)
2012/07/21 (土) ~ 2012/08/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
せつない、泣いた。
かの有名な同名SF小説を、見事に舞台化。
ダブルキャスト、私は渡辺さんファンなので<アクア=多田直人、渡邊安理>を観劇。
知能が上がるにつれて、これまでは、友達の善意としか考えられなかったことも、
それは実は、悪意、嘲笑であったのだ、ということに気付いてしまう悲しさと憤り。
知能指数は急激に上がっても、感情が追いつかない。
悲劇性が強いストーリーにもかかわらず、クライマックス・終盤にかけて、ハートウォーミングな方向に盛り上がる。
うまくまとまりすぎ、ととられるかもしれませんが、それはそれで皮肉にも取れます。
さうが、キャラメルボックス、単なるお涙頂戴ではない、甘さも辛さも抱え込んだ傑作です。
原作は、さまざまな方面で映像化されているし、部分的に引用されているものも含めると、その影響は計り知れない。
(ちなみに私は真っ先に「スペクトルマン」を思い出します。暗くて、切なくて、悲しかった!)
果敢に挑戦を続けるキャラメルボックス!
この調子で、是非、是非、海外有名SF小説を舞台化していってほしいです!!
クリンドルクラックス!
石井光三オフィス
世田谷パブリックシアター(東京都)
2012/07/28 (土) ~ 2012/08/05 (日)公演終了
満足度★★★
誠実な演出、手作り感満載の少年向きの冒険ストーリー。
「トカゲ大通り」に住む11歳の少年は、そこの地下に棲むと言われる巨大トカゲ「クリンドルクラックス」から町の人々を守るために退治することを決意する。
いつもは人情喜劇が多い、石井光三オフィスの作品。
内容は、少年向きの冒険ストーリー。
下水に逃げた子ワニが、汚水の中で成長し巨大ワニとなり、夜な夜な人間を襲うという超有名な都市伝説に材をとった原作。
「トカゲ大通り」の住民たちのお祭りの衣装と、まさに手作り感満載の舞台。
イケメン俳優が中心となって三人の11歳の少年を演じ、
他には、酒井敏也、大河内浩、鈴木勝秀、ぼくもとさきこ、西本裕行、ROLLY、安寿ミラ らといった個性派+バラエティに富んだ俳優陣の取り合わせが面白い。
観ることに決めた理由は、この上記に上げた俳優さんたち。
特に、ぼくもとさきこ さんに注目してたのですが今回は思いっきり普通の役を、普通に演じられていました。
また、十数年ぶりに役者として舞台に立つスズカツこと鈴木勝彦さんは、スキンヘッドとクールな面持ちで好演。
西本裕行さん(初代スナフキン声優)の、独特の温厚な感じが良かった。
ROLLY は、いつもながらの怪演ですが、多少、青少年向けにまとまってた感じです。カテコでは、弾き語りも披露。
演出の陰山恭行さんは、終演後の「トーク」に出席、あ、この人(男優)だったのか!と。
少年役3人に対する演技指導など、本当に誠実に演出されていたことがわかります。
そのこともあってか、どこかパンチに欠ける、大人しめの印象があります。
十三人の刺客
TBS
赤坂ACTシアター(東京都)
2012/08/04 (土) ~ 2012/08/18 (土)公演終了
満足度★★
殺陣が・・・舞台装置が・・・
あの原作を、今度は舞台化!!
悪行の限りを尽くす明石藩藩主・松平左兵衛督斉韶と
松平を守る53人の侍・対・13人の刺客の死闘を通して、封建的な「武家社会」を描く。
松平左兵衛督斉韶の悪行は、舞台向けに割と足早に描き、
ドラマの中心は、島田新左衛門・高橋克典と鬼頭半兵ヱ・坂口憲二、
そして奈緒・釈由美子の敵味方双方に分かれてしまった若者三人の
友情とその後の運命を重心においています。
やはり最大のイベントは、延々と続く13人対53人の死闘。
あの、実に「映画的な」死闘を、舞台でどう表現するのか…。
結局、舞台上に、橋と、移動する大きなコンテナのような箱を3台配置。
狭い道に追い込む戦法などを表現していましたが、何とも中途半端で、
罠となる宿場町の地理的条件を表現するのは、やはり難しかった。
また、開演間もないからか、殺陣において、刀の先が相手に刺さる様子が
上手く定まらなかったり、血糊が噴き出す様子が不自然すぎたりして、
なんともおさまりが悪かったのは残念。
同じくマキノノゾミ脚本の「浪人街」での血しぶきと、水びたしの
迫力満点だった殺陣とは比較にならない出来だったのが残念。
高橋克典は、爽やかに夫婦愛を演じ、
また、坂口憲二は、引き締まった面長の面様がまったくもって時代劇にぴったりで、
普段の顔の表情とは全く違っていて最初誰かわからなかった程。
この変わりようは見事。
釈由美子は舞台版「天才バカボン」に次ぐ舞台出演で、新左衛門の妻を好演。
原作にはない、三人の青春劇は印象に残りました。
ふくすけ
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2012/08/01 (水) ~ 2012/09/02 (日)公演終了
満足度★★★★
「危ない」 「おぞましい」 フリークス、奇形児、騒乱主婦、売春婦、盲目の教祖、新興宗教…そして放送禁止用語の連打!
フリークス、奇形児、騒乱主婦、売春婦、盲目の教祖、新興宗教…危ない問題の数々を、放送禁止用語の連打で描く!
おぞましいキャラクターと強烈な内容を、豪華キャストで、しかも渋谷、シアターコクーンで上演。
吃音(どもり)の夫を演じる古田さんは、他ではなかなか見れない気弱なキャラクターが面白い。
タクトを振る姿も良し!
盲目の女性を平岩紙さんが丁寧に演じて、健気さがよく出ています。
同じ松尾さん演出の「農業少女」で賞総なめ、「サロメ」も高評価だった多部美華子さんは、
通りの良い高い声、これだけの面子の中では、違う種類の存在感を残す。
その意味では、江本純子さんも他の方々とはやはり「種類」が違うキャラクター性を主張していたし、
これだけ個性豊かな面々が揃うと、一人ひとりが色んなことを常に仕掛けて来ていて、本当に面白い。
第二幕休憩明けの携帯電話などの諸注意を、係の人が説明していたかと思うと、そのまま舞台上に飛び乗って演技を始めるし。
もちろん、俳優の演技だけでなく、本も演出も、細かいところにも少しでも笑いを入れる凝りよう(犬の人形のところとか)にも感心。
純度の濃い闇鍋(毒入り)状態と言うか…良い意味で。
2時間45分、まさに映画でもテレビでもない、舞台の贅沢を味わっている充実感があって、本当に、満腹でした。
進化とみなしていいでしょう
クロムモリブデン
赤坂RED/THEATER(東京都)
2012/07/28 (土) ~ 2012/08/14 (火)公演終了
満足度★★★★
音楽に合わせたポージングのカタルシス!カッコイイ!気持ちいい!小説の世界と脳内と現実が入り乱れ・・・進化とみなしていいでしょうか?
リピートしたくなる!
千秋楽まで、まだまだ日がありますね。
ミュージカル『サンセット大通り』
ホリプロ
赤坂ACTシアター(東京都)
2012/06/16 (土) ~ 2012/07/01 (日)公演終了
満足度★★★
まだまだ若くてギラギラした安蘭けいさんのノーマ,
映画では古典中の古典、有名な『サンセット大通り』のミュージカル版です。
トーキーという映画の波に乗れずに自宅の豪邸に引きこもってしまった
サイレント映画時代の大スター・ノーマは、売れない若き脚本家・ジョーに、
復帰作となる自伝のシナリオを書かせるため、自宅に住まわせるが、
やがてジョーに恋してしまう。
最初は巻きこまれながらもノーマの財力を利用するジョー・田代万里生さん、
ノーマを育てた元監督であり、元夫でもあった執事野マックス・鈴木綜馬さん、
映画の夢と挫折が渦巻くハリウッド。
登場人物は皆、一癖もふたくせもありそうな人ばかりで、
ヒロインである彩吹真央さんの役ですら、婚約者の不在中にジョーと恋に堕ちるんだから。
安蘭けいさんのノーマは、まだまだ若くてギラギラした夢と欲望を
抱いていて、老いや枯れた様子は、全く感じさせない。
歌声ももちろん素晴らしい。
世の中の動きを冷静に見ることができない、世間とは感覚が全く違う
「大女優」の、哀しさ、滑稽さを、生き生きと演じられていました。
そのため、ラストで少し驚かせる場面があるのも、なかなかうまい。
ホリプロ主催なことや、ノーマには安欄さんはまだ若いこととか、
前評判は決して良くない作品でしたが、それほど悪くないと思います。
但し、最初のほうのアンサンブルやジョーの歌のいくつかは、
抑揚が少なくて乗りにくさを感じました。
それにしても、かの有名なセシル・B・デミルだけ実名で役があるのは
なぜなんでしょうね?(映画版も同じく)
ちなみに同映画にリスペクトした、本当にたくさんの他の舞台のうち、
最近観たものでは、大スター役に
小柳ルミ子さん(「ミュージカル・スターは夢を見る」2009年/劇団とっても便利)とか、
三田佳子さん(「印獣」2009年/ねずみの三銃士)が演ってられましたね。
南部高速道路
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2012/06/04 (月) ~ 2012/06/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
一年に及ぶ高速道路の渋滞の列。幻想のコミュニティーの生活。実に切ない赤堀雅秋さんが印象的で。
恒常化した高速道路の渋滞。
並ぶ車に乗る人々は、いつしか会話し、食料や水を分け合い、数人ごとに小さな村のようなグループに分かれ、共同生活のようなものが始まっていた。
渋滞は、もはや数か月に及び、日が経つとともに人々は絆をより深く結びつつ、ついには1年に及ぼうとしていた…。
いつ解消するかわからない渋滞の車の列。
日常的な渋滞は、いつか非日常的な世界となる。
そのあり得ない状況は、幻想であるかのごとく思える現実の社会。
パンフレットには、レベッカ・ソルニットの「災害ユートピア」(A PARADISE BUILT IN HELL)が紹介されている。
3.11のような大災害後には、地位も性別も年代も越えて、自然と善意の連帯のコミュニティーが生まれ、善意の助け合いの社会、
地獄の中のパラダイスのような「理想的社会」が形成される。
しかし、すべてのユートピアが幻想であるのと同じく、災害ユートピアも例に漏れず、この幻想はやがて打ち砕かれる。
避難所も、仮設住宅も、いずれは解体し、人々は日常生活に戻っていく。
すると災害時にはあれだけ、地位・性別・年代を忘れていたのに、日常に戻ると同時に、その格差も一気に戻ってしまうのだ。
出演者は、皆、車に乗っている人々。
彼らは自然と互いに、乗っている車の車種で呼び合う様になる。
やはり自然に、そのたたづまいに目が行ってしまう真木よう子さんの存在感。
渋滞で並んでいるうちに、居なくなってしまう梅沢昌代さんら、高齢者の哀しさ、はかなさ。
バス運転手の赤堀雅秋さんと少しずつ交流を深めていく、江口のりこさんのスレた何とも言えない独特の雰囲気。
特に、最初は荒れていたのに、徐々にうちとけていった赤堀雅秋さんが、いきなりの展開の中でラストに向けて、
その変化に戸惑い、これまでの現実を見失って行くような様子は、実に実に切なくて、心に残ります。
ええから加減
東宝
シアタークリエ(東京都)
2012/07/01 (日) ~ 2012/07/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
藤山直美さん、高畑敦子さん、サイコーです。笑って泣いて、ノンストップで駆け抜ける。
千秋楽 最高です!
さすが、藤山直美さん、高畑敦子さんです。
凄いです。
終始、笑いっぱなし、そして泣ける、人情喜劇、しかし、古臭くない。
悲しいわけではなくて、誰かが死んだりしたわけでもないのに、泣ける芝居はいい。
漫才シーンではないのに普通の会話が、いつの間にか漫才になってしまう、お二人のシーンはうまい。
自然すぎて演技に見えない。長年のコンビのようです。
藤山さんといえば、松竹の顔。その藤山さんの、東宝直営劇場での初出演と言うことで、
千秋楽最後のあいさつでは自分らのことは置いといて、「とにかくシアタークリエをごひいきに、シアタークリエにまた来てください」と何度も「小屋(劇場)を立てる」挨拶をする、座長としての気遣い。
そして、休憩時間を告げるシーンでも、コネタをはさむ、
何回かのカーテンコールで、舞台からはけるときは、その都度、何かして笑いを取ろうとする、その姿勢に参りました。
ちにみに、加藤義宗さんは、加藤健一さんの御子息。後で知りました。イケメン若手漫才師を好演。
カラテカ矢部さんも、あの個性的な演技を全開。最近有名タイトルの舞台出演が続いています。
三倉佳奈ちゃんは、最近は姉妹別出演。なかなかスムーズに、漫才のボケ演技を自然に演技してます。
逢坂じゅん(レッツゴーじゅん)さんは、相方に先立たれてしまった漫才の師匠を好演、されてます。
洗坂係長さんは、もちネタも披露。最近ミュージカルなどでも活躍されていますね。
田山涼成さん、赤井英和さんは、主演のお二人を立てる役回り。手堅い演技で脇をしっかり支えてます。
先日の「菊次郎とさき」といい、何事も不安定な今の世の中で、「今のセンスで通用する」誰もが安心して楽しめる人情喜劇が、観ていてとっても心地いい、今日この頃です。
いつか見た男達~ジェネシス~
劇団500歳の会
本多劇場(東京都)
2012/07/28 (土) ~ 2012/08/05 (日)公演終了
満足度★★★
50歳の男女優が、今、熱く演じる!
「××の子」と蔑まされた少年たちのグループは、転校生のマドンナを迎えて、
芝居「どん底」を上演することになったが彼女が妊娠したことで解散。
30年後-
彼らのもとに同じ手紙が届き、日光のある旅館を訪問することになったが、
そこには、マドンナとその子がいた…。
50歳の俳優たちが10人揃って、ドタバタと、全力で必死に演技する。
これまで積み上げたものは全て投げ捨てて、自分をさらけ出し、ゼロから稽古して積み上げる原点に返る。
中でも、渡辺いっけい さんのテンションは終始上がりっぱなしで、スゴイ!
いまにも血管が切れるのではないかと心配してしまう程の熱気。
テレビドラマや他作品では見れない、いっけい さんが観れた!
飛び加藤 ~幻惑使いの不惑の忍者~
東宝
シアタークリエ(東京都)
2012/06/10 (日) ~ 2012/06/26 (火)公演終了
満足度★★★★
日本伝統奇術「手妻」の使い手,忍者"飛び加藤"波乱万丈の冒険!筧さん得意のキャラ。
日本古来の伝統的奇術・手品「手妻」を使い、卓越した忍術で恐れられた伝説の伊賀忍者・「飛び加藤」こと加藤段蔵の活躍を描く。
実際の「手妻」の継承者、藤山新太郎を案内役にしたことで、講談のような独特の雰囲気がでて、まずその軽妙な語りが心地良く始まります。
天真爛漫なヒロインの佐津川愛美ちゃんは、あくまでもストレートでかわいらしく元気!
ヒロインの役をのびのびと、バッチリ務めきってます。
そして、一目ぼれした相手を探すため、筧さんの忍者加藤を巻き込んで冒険の旅にでる。
筧さんは、もう「いつもの」得意のキャラクターそのまんまです。
でも、あのセリフの語り方は、いつ聞いてもいいですね。
軽くていい加減な三枚目、頼りになる優しいおじさん、でも哀しい過去がある。
対するライバルは三上さん、こちらは渋い役回り。
最大のポイントは、涼風真世さんの代わり身ぶり、老婆と若い女の演じ分けが見事です。
それぞれに適度にデフォルメされていて、全く違う声質も、声量も、さすがです!
いい意味でアニメの声優のように、通る声が気持ちいいです。
笑いと、手品と、忍者アクション、ちょっぴり悲しい恋や顛末もあり、琴の生演奏もある、楽しく観れた娯楽編でした。
この辺の手堅い演出、まとめ振りは、さすが河原雅彦さんです。
「何でもちゃんとしたレベルで対応できてしまう。」
もう、演劇界の三池崇史と勝手に呼びたい。^^;)
(蛇足)
手品の語源が「手妻」じゃないかと思ったのですが、パンフレットにもどこでも一切触れられていないので、偶然なんですかね…。
シレンとラギ
劇団☆新感線
青山劇場(東京都)
2012/05/24 (木) ~ 2012/07/02 (月)公演終了
満足度★★★
高橋克実さんの悪役と、中谷さとみさんの暴走!がステキ!
同じ日に、青山円形劇場 → 青山劇場のハシゴです。
ぜったい外れがない、劇団☆新感線。
今回は、言ってしまえば、新感線が得意な、無国籍的時代活劇?
敵味方、騙され裏切られ、陰謀・策略が渦巻く世界。
凝った衣装にアクションなど、良くいえば安定感のある、悪く言えば…マンネリ化か?
藤原竜也さんは普通にカッコよく、
永作博美さんは小柄ながらも代々続く殺し屋役だけに、クールな演技。
「悪」へ変貌する古田新太さんは貫録あり、
橋本じゅんさんは観客の笑いと共感?を一手に引き受けて盛り上がる。
三宅弘城さんのバカ殿は、失笑させながらも、最後はホッとさせ、
北村有起哉さんは少し損な役柄だったかほ完全燃焼のような…
こう見ると結構皆さん想像できる範囲の得意な役を上手く演じられているのですが、
もう一段階盛り上がらないというか…。
その中で、一番ぐっときたのが、高橋克実さん!
人間的な存在感のある悪役が素晴らしかった。
それと、高田聖子さんの娘役、中谷さとみさんの暴走演技が凄くて、
超印象的でした。
ポスト高田聖子さんでしょうか?
Hysteric・D・Band「神様の観覧車」
LDH JAPAN
青山円形劇場(東京都)
2012/06/06 (水) ~ 2012/06/17 (日)公演終了
満足度★★★★
美山加恋ちゃんに尽きる!いわゆる「難病もの」で、メルヘンチックで…
いわゆる「難病もの」は、普段は、どうかと思うのですが、
主演の元天才子役?の、美山加恋ちゃんには、マイッタ。
盲目で、しっかり者の名演技が、ストレートに飛んできて、胸を打つ。
3人の兄を持つ妹は、ある事件で両親を亡くし、失明してしまう。
それでも気丈に兄達を支えて、親のいない家を盛りたてていた。
そして15年たった今、彼女の余命がわずかなことを知った3人の
兄たちは、妹の夢をかなえようと協力するが…。
とにかく案の定、泣ける、泣ける。
楽しいはずの遊園地で、観覧車の事故、しかも真相はもっと悲惨、
しかも、盲目のまま若くして病死。
この悲惨さとは正反対に楽しい、盲目の彼女にしか見えない、
「最後に見たぬいぐるみ」の妖精たち。
どこまでもファンシーでメルヘンチックな夢物語に、大の大人の私は少し気恥ずかしい。
少女の最後の夢のために、周りにいるおじさん、お兄さんたちは
協力して、その夢をかなえてあげようとする。
この物語の中の構図は、そのまま、加恋ちゃんを中心にして、
舞台上の俳優さんたちの関係にも見える。
例えば「あの」福田転球さんが、シルクハットにスティック持って
燕尾服で踊る、シャボン玉飛び交う中で。
リリオム
こどもの城 青山円形劇場/ネルケプランニング
青山円形劇場(東京都)
2012/05/25 (金) ~ 2012/06/03 (日)公演終了
満足度★★★
話さなくても通じ合える。言葉にすると駄目になる。"あいまいさ"をあいまいなまま共有する関係。
青山円形劇場の大ファンです。
冒頭、真っ暗な舞台の中央に回る筒、その内側に照明があり、筒に「切りぬかれた回転木馬」の形が、円形劇場の客席側の壁にぐるりと投影されて、回っています。
(こんな説明で伝わってますでしょうか?)
非常にロマンチックな演出。
これだけでも円形劇場でやる意味がある。
「回転木馬」のバーのボーイ、リリオムは女中のユリと暮らし始める。
リリオムは、非常に粗暴で、ユリにも普段から暴力を振るうが、ユリは彼にも優しいところがあるといい、周囲の心配にも動じない。
しかし彼は、一向にまじめに働く様子もない。
やがて、二人の間に子供ができると、リリオムは悪友に誘われて、大金が手に入る計画に乗るのだが…。
リリオムは、口下手で要領も悪く、物事を上手く伝えられないために、そのもどかしさが「暴力」としてあらわれてしまう。
そのことを、ユリはよく理解している。
話さなくても通じ合える。
言葉にすると駄目になる。
あいまいさ"をあいまいなまま共有する関係。
二人の関係は、その二人にしかわからない絆があるのかもしれない。
物語は、中盤で、大きく転換し、何と天国で裁きを受ける場面に。
これは全く予想していなかった。
時は過ぎ、リリオムは、少し大きくなった自分の娘と話そうとするが、やはりうまくいかず、彼女の手をはたいてしまう。
しかし、娘は「痛くなかった、叩かれたのに温かかった」と、ユリに話すのでした。
自分の心を上手く伝えられない男の哀しさ、と言いたいところかもしれませんが、
私には、何か、DVの言い訳、DVの加害者に都合のいい解釈、夢の話に見えてしまい、どうも釈然としませんでした。
殴る蹴るは愛情表現で、その後は急に優しくなる、まさにこれまでさんざん聞いてきた夫婦間の暴力の話に…。
美波さんの存在感は、優しくてりりしい。さすがです。
娘役、初舞台の武田杏香ちゃんは、素直で、危うい、透き通ったようなそのままの存在感がよかった。
これは、100年前にハンガリーの作家が描いた話で、ミュージカルや映画「回転木馬」になったとのこと。
その話が、今の日本で上演されているという、なんと「奇跡」のような話だと思う。
第93話「お文の影」 第94話「ばんば憑き」
メジャーリーグ
THEATRE1010(東京都)
2012/06/17 (日) ~ 2012/06/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
宮部みゆきの江戸怪談は、可笑しく、悲しく、怖い。白石さんは現代の「語りべ」。
先日の第三十夜『新宿鮫「毒猿」』に続き、
『白石加代子「百物語」シリーズ 第二十九夜』
会場は、昨日「容疑者Xの献身」大千秋楽を観たシアター1010です。
お題は、宮部みゆき作の江戸怪談。
前述の「新宿鮫」も良かったですが、時代物、怪談物は、まさに白石さんの語りの真骨頂が楽しめました。
その語りと表情、表現は堅苦しくもなく、素晴らしく、大昔から語り次がれてきた物語の「語りべ」を思わせます。
第93話「お文の影」長屋の道端、影踏みをしている子供たち。
でも影が一人分多いことに気がついた。
その長屋の場所には、悲しい事件があった…。
親分の捕り物話をすべて覚えているという「おでこ」の表情をする白石さんの顔は
可笑しくて、影踏みの女の子の話にホロっとくる、世代や性別を選ばない
いつの時代にも必要な、だれでも楽しめて泣ける、いい話です。
第94話「ばんば憑き」
小間物商の若夫婦は、湯治の旅を終え戸塚宿に逗留していた。
雨で足止めになった宿で相部屋となった老女は、
深夜、50年前の恐ろしい出来事を語り始めた…。
恐ろしい「ばんば憑き」の話と、ぞっとする結末。
若夫婦の妻のかんしゃくは、最初はよくある多少は微笑ましかったのに、
怖い結末に向かうにつれて、その妻の態度すらだんだんとシリアスに
暗めになってくるのも、ありきたりではない何かを感じます。
フィッシュストーリー
東京ハートブレイカーズ
テアトルBONBON(東京都)
2012/06/19 (火) ~ 2012/06/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
アツイゼ!首藤さんの熱い思いに集まった小劇団の個性派俳優さんたち!
「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない…」
売れないパンク・バンド最後のレコーディング曲の間奏に、怒りと存在の証として残した、突然の「1分間の無音部分」。
車で曲を聞いている最中、無音のときに、「周囲の声が聞こえたこと」で、起きた”奇跡”は、
30年以上の時を越えて、世界滅亡から人類を救うかもしれない!
劇中の曲は出演者が生演奏、首藤さんがヴォーカルを担当し、冒頭のフィッシュストーリーはじめ何曲かを生演奏、
アンコールもあって、ライブ感が素晴らしい!
その首藤さんの熱気に共感した小劇団の、これだけの個性派俳優さんたちが、あの狭いBONBONに勢ぞろい。
キャラメルの西川さん岡田さん、ナイロンの みのすけ さん、℃)、林修司さん(ルドビコ★)、
クロムモリブデンの久保貫太郎さん、柿喰う客の永島敬三さん、紅一点の競泳水着・細野今日子さん…これはすごい。
セットも、ほとんどなしの、手作り感満載の熱い芝居、よかった!
容疑者χの献身
演劇集団キャラメルボックス
サンシャイン劇場(東京都)
2012/05/12 (土) ~ 2012/06/03 (日)公演終了
満足度★★★★★
人力で回る舞台の上、今日も繰り返される人の営みは、それだけで、ある時は人の命を救うことがある。
3年ぶりの再演。前回、石神をキャラメルボックスの西川浩幸が好演していましたが、
今回は同劇団出身の近江谷さんにバトンタッチ。
西川さんは、地味で寡黙だけれども善人そうな研究者、
近江谷さんは、地味で寡黙で狂気を隠していそうな研究者、という印象。
さらに近江谷さんは、ポスターやチラシの撮影後に、髪を短く(五分刈りくらい)切っていたので
見ようによっては、刑務所の受刑者のようにも見えて、少し怖い。
初演を観て、映画をDVDで観て、さらに今回観て最も感じたのは、当然ながら決して許せない石神の独善的な振る舞い。
純愛?献身?などとは決して思えない。
石神のしたことによって、結果としてより一層彼女を苦しめることになる。
(映画版では、映画の内容でも、宣伝でも、評判でも、静かな純愛を讃えているように感じて、あくまで自分が感じただけかもしれないが、許せなかった)
また、「人は生活しているだけで、誰かを救うことがあるのだ」というところ。
この話の中で、数少ない「救い」であり、暖かくて、何度観ても泣けてしまう。
出演者による手押しの回り舞台は、物語を人間が動かしている感じも良くて、
派手さはないのですがピンスポットが効果的な照明や、
また、さらに、ピアノと弦楽器による音楽が素晴らしい。
初演時には、劇場で迷わずCDを買いました。
静かで優しい。力強い。人間らしい…。
今も繰り返し、聞いてます。
容疑者χの献身
演劇集団キャラメルボックス
THEATRE1010(東京都)
2012/06/15 (金) ~ 2012/06/16 (土)公演終了
ミッション
イキウメ
シアタートラム(東京都)
2012/05/11 (金) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★★
人が無意識にとる行動にこそ、きっと何らかの意味がある。
「これは自分の使命だ。自分は世界を守っているのだ。」
日常に起きた不思議なエピソードが、じわじわと浸食し、増幅し…。
ここに登場人物たちの感情を巻きこみ、
そして緊張のクライマックス、意外な決着を見る。
…というような展開の印象がある、劇団イキウメと前川知大の脚本作品。
人が無意識にとる行動にこそ、きっと何らかの意味がある。
毎日の自分の行動が、世界を守っている。
思い込みか、シャレか、本気か。
エスカレートしていく感情が、ねじ曲がって暴走してしまう怖さ。
それでも、家族を、パートナーを気遣う人の心に、救いがあるところが
イキウメと前川知大さんの魅力です。
ハンドダウンキッチン
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2012/05/12 (土) ~ 2012/06/03 (日)公演終了
満足度★★★★
蓬莱さんのセリフ、問いかけるものは、いちいち凄い。そして、終始、静かで少し重いものが残った。
郊外の人気有名レストランに、また一人、新たなコックが加わることになった。
しかし、そこで見たものは、外から見たイメージとは異なるものだった。
地味でも本当に「おいしいものをお客様に提供する」という、これまで当たり前と考えていたことに、疑問符が投げかけられる。
料理の値段は適当に決められ、毎日の特別メニューは、味ではなく、見た目のインパクトや派手さが重視される。
本当においしいものは何なのか。
客は、何を求めてここに来るのか。
矛盾や問題を突き付ける蓬莱さんのセリフは、重く、いちいち納得、考えさせられてしまいます。
やさぐれた感じの仲村トオルさんの静かな迫力、
こちらも静かで独特の雰囲気のYOUさん、
江守徹さんは、終始穏やかに語る。死別した妻のスープを再現しようと色々試すのですが…。
いつもはおっとりした感じの柄本佑さんは、ひとり、一番普通の常識人を演じる。
ベテランぞろいの面子も面白く、見た後、何か、ずしりとしたものが残された気がしました。
新宿鮫「毒猿」
メジャーリーグ
岩波ホール(東京都)
2012/05/26 (土) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
あのバイオレンス・アクションを白石さんが大迫力で自由自在に表現!ラストの温かさに泣ける。
白石さんのライフワークのごとき、朗読劇シリーズ。
今回初めてその存在を知ったのですが、
まさか大沢在昌の「新宿鮫・毒猿」を演じられるとは驚きです。
ほとんど小説なんか読まない私が、当時、珍しく猛スピードで完読!
小説のラストシーンに泣いた、名作でした。
あれから20年!
その「毒猿」を演じられると聞いて、早速拝見したのですが・・・
素晴らしい!絶句。
シンプルな舞台は、新宿のネオン街や「歌舞伎町」と書かれたアーケードを簡単に書いた書き割りの壁と、黒い壁、椅子が置かれているだけ。
黒のパンツスーツでキメて登場した白石さんは、ホンを片手に渋い声で語りだす。
まだにぎやかだった夜の歌舞伎町の人混み。
風俗店の様子、風俗嬢たちと嫌味な店長、こき使われている不法就労の中国人。
そして事件は動き始める。
新宿署刑事「新宿鮫」鮫島は、凶悪なプロの殺し屋「毒猿」が台湾から潜入していることを知る。
新宿に暗躍する毒猿は、遂に暴走し、未明の新宿御苑は地獄と化す。
新宿、歌舞伎町、新宿御苑は、まさによく行くところばかりなので、臨場感もなおさら。
白石さんは、身振り手振りを交えて、ある時は歩きまわりながら、当然のことながらすべての役を1人でこなす。
若い女性から、ドスの利いた暴力団の幹部、若頭、チンピラ、そして中国人の捜査官、殺し屋…
ラブシーンから、クライマックスの殺し合いの阿鼻叫喚の様まで演じる白石さんの語りに、ただただ引き込まれるばかり。
本当に、すごい表現力です。
そして迎える、ラストシーン。
次々に人は死ぬのに、穏やかで温かい話の結末に、昔、本で読んだ時以来久々に、またしても涙してしまったのでした。