満足度★★★★★
一年に及ぶ高速道路の渋滞の列。幻想のコミュニティーの生活。実に切ない赤堀雅秋さんが印象的で。
恒常化した高速道路の渋滞。
並ぶ車に乗る人々は、いつしか会話し、食料や水を分け合い、数人ごとに小さな村のようなグループに分かれ、共同生活のようなものが始まっていた。
渋滞は、もはや数か月に及び、日が経つとともに人々は絆をより深く結びつつ、ついには1年に及ぼうとしていた…。
いつ解消するかわからない渋滞の車の列。
日常的な渋滞は、いつか非日常的な世界となる。
そのあり得ない状況は、幻想であるかのごとく思える現実の社会。
パンフレットには、レベッカ・ソルニットの「災害ユートピア」(A PARADISE BUILT IN HELL)が紹介されている。
3.11のような大災害後には、地位も性別も年代も越えて、自然と善意の連帯のコミュニティーが生まれ、善意の助け合いの社会、
地獄の中のパラダイスのような「理想的社会」が形成される。
しかし、すべてのユートピアが幻想であるのと同じく、災害ユートピアも例に漏れず、この幻想はやがて打ち砕かれる。
避難所も、仮設住宅も、いずれは解体し、人々は日常生活に戻っていく。
すると災害時にはあれだけ、地位・性別・年代を忘れていたのに、日常に戻ると同時に、その格差も一気に戻ってしまうのだ。
出演者は、皆、車に乗っている人々。
彼らは自然と互いに、乗っている車の車種で呼び合う様になる。
やはり自然に、そのたたづまいに目が行ってしまう真木よう子さんの存在感。
渋滞で並んでいるうちに、居なくなってしまう梅沢昌代さんら、高齢者の哀しさ、はかなさ。
バス運転手の赤堀雅秋さんと少しずつ交流を深めていく、江口のりこさんのスレた何とも言えない独特の雰囲気。
特に、最初は荒れていたのに、徐々にうちとけていった赤堀雅秋さんが、いきなりの展開の中でラストに向けて、
その変化に戸惑い、これまでの現実を見失って行くような様子は、実に実に切なくて、心に残ります。