〻のメルヘン
フロアトポロジー
APOCシアター(東京都)
2016/10/05 (水) ~ 2016/10/10 (月)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2016/10/08 (土)
『〻のメルヘン』は『おどりじのメルヘン』と読むのだそうだ。踊り字というのは、日本語の文章でつかわれる記述記号の一群で、々、ヽ、ゝなど、繰り返しや重ねることを示すもの、らしい。繰り返すこと、重ねること。確かにそれが物語の重要なモチーフとなっている。
白一色の舞台美術に囲まれた、昔読んだミステリーのような物語は、予想を裏切るラストシーンへ向かう。様々な仕掛けと奇妙な味を堪能する約90分。
流砂ゑ堕つ
野生児童
「劇」小劇場(東京都)
2016/09/29 (木) ~ 2016/10/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2016/10/01 (土)
近松門左衛門の『女殺油地獄』を元に、ユニット主宰で劇団鹿殺し所属の有田杏子さんが脚本をお書きになり、劇団居酒屋ベースボールの新里哲太郎さんが演出された作品。
観ている間、ヒリヒリするような緊張感で息が詰まりそうだった。主人公のやることなすことすべてが裏目に出る。馬鹿だよ、そっちに行っちゃダメだ、と見ていてハラハラしてしまう。悲劇へ向かっているのはわかっているのに、どうにもならない、悪い予感に似た緊張感。
流れ落ちる砂のように、掴もうとしても掴めないまま、落ちてゆく。彼がほんの少しだけ賢く生きられたら、すべて違ってきたはずなのに。それでも皆が彼を愛していたのだろう、そう思うといっそうやるせない。
もっけの幸いの「もっけ」ってモノノケの事なんだって。知ってる?
劇団ヘロヘロQカムパニー
シアターサンモール(東京都)
2016/09/26 (月) ~ 2016/10/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2016/10/01 (土)
めっちゃ笑ってめっちゃ泣いた。
王道エンタメの展開とツボを押さえた喜怒哀楽の中で、それぞれの想いをきちんと掘り下げて、人が(いや人ともののけが)誰かを想う気持ちを描く。
笑いもドキドキも涙もたっぷりで長めの上演時間もあっという間に感じられ、もののけも人間も、敵も味方もチャーミングで愛しく思えた。
覇道ナクシテ、泰平ヲミル【偽蝕劉曹編】
劇団ZTON
王子小劇場(東京都)
2016/09/22 (木) ~ 2016/09/25 (日)公演終了
満足度★★★★
疾風怒濤の時代を、その背景に龍神たちによる権力闘争を置いて、ある種のゲームにも似た面白さで描いていく。前評判通りスピード感のある殺陣がふんだんに登場し、物語にリズムを生み出す。加えて、キャラクターが明確で思い入れしやすい。
劉備玄徳と曹操の性格が、自分のイメージとは真逆で、それがなおのこと面白かった。ずる賢く立ち回り、非道に人を殺める劉備。そのくせ魅力的で、非道なことをしても憎めない。
三国志で言えば、まだ序盤の部分だけだったが、続編もあるらしいと伺ったので、そちらも機会があれば観てみたいと思った。
『OKINAWA1972』
流山児★事務所
Space早稲田(東京都)
2016/09/15 (木) ~ 2016/10/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2016/09/24 (土)
流山児★事務所も風琴工房も好きでよく拝見しているけれど、それぞれの持ち味が活かされて、絶妙のバランスとなっていた。
フィリピン人との混血の青年の半生を軸に、義賊めいて親しみやすい沖縄の裏社会の人々が、沖縄の日本返還で本土のヤクザに牛耳られることを恐れ、結託しようとする経緯と、時の総理大臣 佐藤栄作と首相の肝入りで返還の交渉に携わった政治学者の苦渋の選択。
重いテーマやさまざまなバックボーンを踏まえた物語なのだけれど、転換や解説もショーアップされて楽しく、至近距離で観るアクションの迫力に眼を奪われた。
沖縄の置かれた立場の矛盾も苦悩も伝えつつ、ストーリーの面白さに引き込まれ、さまざまな場面で笑い、手に汗握る。骨太でアングラで、でも緻密さやスマートさも感じさせる、絶妙のバランス。加えて、登場人物がそれぞれとても魅力的で、ああ、もう一度観たかったなぁ、と思った。
グッバイマイバッグ
シアターパントマイム企画maimuima
シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京都)
2016/09/17 (土) ~ 2016/09/19 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2016/09/19 (月)
テイストの異なるいくつかの作品によるオムニバス……かと思ったら、ひとつのかばんを軸に1本の物語につながっていく。黒服の男たちに追われている人物と、ふとしたことで鞄を取り違えられた男。追われていた男の鞄には、一見ガラクタにも見える奇妙なモノたちが入っていた。
それらのモノを題材にしたいくつかの断片。笑いを誘う話、シニカルなパントマイム。古い映画を思わせるリリカルなもの、シュールなコントめいたものやアニメのパロディを意外な形で見せるもの。
多彩な発想と身体表現、洒脱なユーモア、そしてある種の驚きと発見の感覚は、そうか、センス オブ ワンダーってこういうことじゃない?と思わせた。
嘘より、甘い
タカハ劇団
小劇場B1(東京都)
2016/09/07 (水) ~ 2016/09/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2016/09/10 (土)
舞台は歌舞伎町の喫茶店。その店には、なぜかカモを求めるいかがわしい連中ばかり集まって。と、窓の外を見ると、隣のビルから人が落ちていく……という幕開け。
マルチ商法、風俗のスカウトマン、宗教団体の引き留め、左翼グループの先輩と後輩、何かに怯える少女、足の不自由なお店のママ、先生と呼ばれる2階の住人。信仰・主義・金銭・セックス、何を信じて何にすがるか。
彼らの会話の中で、しだいに明らかになっていくいくつかのこと。その中でも特に、「先生」の過去が、物語を動かしていく。ほとんど会話劇なのに、目を離せない緊張感。ラストで、それまで観ていた人物像と関係性が逆転し、あっ!と思わされた。
脚本の面白さに加え、手練れなキャストが揃って見応えたっぷりの90分だった。
この町に手紙は来ない
monophonic orchestra
3331 Arts Chiyoda(東京都)
2016/09/02 (金) ~ 2016/09/07 (水)公演終了
満足度★★★★★
一つひとつの物語は饒舌ではない。どちらかといえば素っ気ないほどシンプルに感じられるのに、それらが重なるうちに、それまでの会話や人物像に込められた多くの情報や想いがじわじわと見えてくる。
創り手が、観客を信頼しているのだ、と思った。
気づいてみると、冒頭の物語が最後の物語につながっていく。少人数のキャストで描く200年以上の年月。ラストまで観て思う。これは、ある種の贖罪の物語なのだ、と。
人々がそれぞれの罪を背負いながら生き続けていく姿を柔らかく描く。罪の象徴とも言えるある種の欠落さえ、責めるのではなく、罪も含めて生きることを肯定しているように感じられた。
ずっと昔読んだ懐かしい小説のような、セピア色に染まる遠い思い出のような、そういう舞台だった。
無情
MCR
ザ・スズナリ(東京都)
2016/08/24 (水) ~ 2016/08/30 (火)公演終了
満足度★★★★★
絶望的な立場の女性2人のストーリーが交差しつつ物語は進む。2人を取り巻く登場人物の言動が強烈だ。身勝手だったり非常識だったり厚かましかったりし過ぎて、その理不尽さについ笑ってしまう。
ふたつの物語はゆるくつながりつつ進んでいく。場面を重ねるうちに、状況はどんどん絶望に向かっていく。しかしその一方で、破天荒に見えた人々の柔らかな心のひだが感じられてきて、序盤の笑いとは違う、何か切実な想いが観る者の胸を満たし始める。
絶望的な状況の中で人々がポツリと見せる、心の芯のところにあるピュアな何か。そしてそれが確かに愛する相手に伝わっているのだと思える静かな救い。思い返すと、今もまだ言葉にならない想いが胸を満たす。くそう、なんだよこれ、なんなんだよ。ズルいじゃない、こんなの。
この脚本で、このキャストで、これを観ることができてよかった。
春蝉の声、なお遠く
Flying Trip
CBGKシブゲキ!!(東京都)
2016/08/24 (水) ~ 2016/08/28 (日)公演終了
満足度★★★
昼の世界が思い通りにいかないなら、せめて眠ってみる夢の中では、思い通りに生きてみたい。これは、そんな「夢のような」カウンセリングを行う医師と、その患者たちの物語だ。過去に囚われて歩き出せない兄弟と、空っぽのまま歩き続けてきた少女と。
心安らぐ夢に救われる者もいれば、夢と現実のギャップに苦しむ者もいる。あるいは夢の世界に溺れ、現実から逃げてしまいそうになる者もいる。
単純なハッピーエンドとはいえない。けれど、新しい一歩を踏み出していく人々と、とりあえず自分の足で立ち上がろうとする人と、誰もがそれぞれの傷を抱えながら、それでも生きていく。……そういう物語。
きんとと
クロジ
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2016/08/24 (水) ~ 2016/08/28 (日)公演終了
満足度★★★★
観終わって、改めて『きんとと』というタイトルがしみた。
娼館いづみやに暮らす男女と金魚鉢の中の金魚。鮮やかな紅の着物をまとい長い帯を垂らして暮らす、耕したり紡いだり組み立てたり、そういう仕事には向かない、いや向かない以前に試す機会さえ与えられたことのない人々が、可憐に泳ぐ小さな生き物と重なる。閉鎖された小さな世界で、登場人物それぞれが切実な想いを抱いている様子が繊細に描かれていく。
行き場のないいくつもの想いが行き交いすれ違う様子に、観ていてやるせなくなってしまう。それでも、すべてを燃やし尽くす炎のあとで、ほのめかされる結末に救いがあった。
夜に薫る花のような、濃密な物語。会場をあとにするとき、きっと夢から醒めたような顔をしていたに違いない。
~ハートフルコメディの章~ライオンのたてがみ
演劇ユニットCorneliusCockBlue(s)
シアター711(東京都)
2016/08/25 (木) ~ 2016/08/28 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2016/08/26 (金)
お笑いの方が主宰をされている劇団だけあって、アドリブを含めた笑いが多めになっている。いや、6ヶ月連続公演でさまざまなタイプの芝居を上演されたそうなので、笑いの多い芝居ばかりではなかったのだろうけれど、今回のはハートフルコメディとのこと。
前説から登場した劇団主宰マスダヒロユキ氏が演じたのは、発掘分野で才能と実績のある、やや強引な男。彼とともに発掘に携わり、ほのかな想いを抱く女。仕事に夢中な彼に不安を感じている恋人。彼の才能と才気に嫉妬する教授。
そういう、彼を巡る人間模様を一方の軸に、貴重な遺跡であろうと期待される現場での捏造疑惑と発掘調査の存続を、もうひとつの軸に物語は進む。
発掘チームの面々に加えて、女性官僚と不動産屋、落ち目の歌手とマネージャー、発掘への資金援助を検討している企業の社長とその恋人、花火見物の場所を物色するギャルズなどが入り乱れ、ややドタバタ気味に笑わせていく。
そして、それぞれが収まるべきところへ収まった印象のあるラストシーンで、登場人物たちが花火を見上げる。賑やかに笑いと混乱を重ねてきた物語が、ある種の充足感を感じさせながらしっとりと終わりを迎える様子が印象に残った。
観終わってなんだか花火が見たくなった。
15 Minutes Made Volume14
Mrs.fictions
王子小劇場(東京都)
2016/08/10 (水) ~ 2016/08/16 (火)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2016/08/10 (水)
演劇のショーケースイベントは他にもいろいろあるだろうけれど、長年にわたって実績を重ねてきたこの「15分のヤツ」は、舞台に関心のある人にとって信頼のある催しとなっている。
そんな『15 minutes made』の今回の顔ぶれは、日本のラジオ、ぬいぐるみハンター、キュイ、かわいいコンビニ店員飯田さん、キ上の空論、Mrs.fictionsの6団体。3つあった初見の団体がどれも気になっていたところだったりして、いろいろ楽しい時間となった。
『日々が黒くなるその前に…って、』
10年ぶりに会った若い男女。2人の会話から、幼なじみ以上恋人未満な関係かと思って観ていると実は……兄と妹。叶わぬ想いの……叶えてはならない想いの切実さ。まっすぐな女の子の想いの強さが物語を牽引する。兄の選んだ結婚相手が妹に少し似ているようにも思えて、いっそう切なく感じられた。
『みゆき』
当パンに書かれていたように、無自覚に周囲の男を翻弄し、同時に翻弄されてきたみゆきの生涯を、誕生日を軸に15分で描けるだけ描いた作品。20歳の誕生日、役者を目指しつつ改めて自分の人生を振り返る彼女に、王子役の青年が「お誕生日おめでとう」と声をかける。テンポよく進むポップでにぎやかな物語は、大団円的なカーテンコールを裏切って、まだまだ続くようにも見えた。
『ハーバート』
クトゥルフ神話という架空の神話については聞いたことがあったけれど、『ハーバート』というタイトルや劇中に出てくるいくつかの単語を聞いて、その場でピンときた訳ではなかった。詳しい方がご覧になったら、いっそう面白いのだろうとは思うが、実感としてはそういう知識なしでも充分印象的な作品だった。ストーリー自体はベタと言ってもいいくらいなのに、会話するときの奇妙な距離や違和感を感じさせる反応に、観ていてゾクゾクした。「キミのところにはないですか、イタズラ電話」と編集者に尋ねる教授の声がなぜあんなに深刻だったのか、2回観て初めて気がついた。そうか、そういうことか、と思ったけれど、観るたびにまたあれこれ考えたりしてしまう。
『虹はどしゃぶりの雨で咲く』
男の浮気を疑う彼女と、男の友人らしきもう一人の男。実は浮気相手はその友人で、しかも、男は彼女にある提案をするのだけれど……。奇妙な三角関係のあれこれ以上に、え~っ!ダブルキャストでこんな違うの?結末まで違うじゃん!!というインパクト。そういうお芝居の作り方もあるんだなぁ、というのが実は一番面白かった。虹の持つ意味については、他の方の感想を読んで、(なるほど……)と思ったけど、そこを軸にしている訳ではないようにも見えた。常識を疑うことやそれを人に伝えようとするところに重点がおかれてるのかな、とも思ったけれど、実はもう少し単純に笑ってしまってよかったのかもしれない。
『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』
直接的に暴力を描く脚本を、相手に指1本触れずに立体化した演出と、耳に残る独特の語彙。登場人物がこんなにアレな感じのヤツばっかりって、いったいどういうことだろう。世界はこんなに狂ってしまっているのだろうか。好き嫌いはともかく、独特のインパクトのある作品だった。
『上手 (かみて)も下手(しもて )もないけれど』
楽屋でメイクをする男。そこへ現れる金髪にそばかす、真っ赤な頬の女の子は新人のアンサンブル。2人の会話は昔の海外ドラマの吹替えみたいな調子で、ややコミカルに進む。やがて2人は恋人同士の役を演じ、結婚式のシーンや親戚への挨拶回りのシーンなどに続いていく。いつの間にか月日が重なり、舞台と人生が二重写しになっていく。直接描かれているのは楽屋の鏡前でメイクし続ける2人の会話だけれど、劇中の2人が演じているであろう場面が、観ている我々にも思い当たる人生の中のいろいろな場面と重なっていく。
出入口をくぐったその向こうに、照明が当たる舞台がある。私は私の2人芝居をちゃんと生きられているだろうか。終演後にふとそんなことを思った。あいまいなところはないのに、観る者によって、あるいは観るたびに、いろいろな想いで受け取ることのできる作品で、何度でも繰り返し観ていたい気がした。
ご不幸
江古田のガールズ
「劇」小劇場(東京都)
2016/08/10 (水) ~ 2016/08/21 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2016/08/16 (火)
2つのバージョン中、『白の人々』を拝見。
不動産屋を訪れた客。なぜか訳ありの物件を探しているらしい。不動産屋は、事故物件ばかりをまとめたファイルを開いて、特に問題ありの物件について、そこで何があったか説明し始める……。
ひとつめの事件は、ある劇団の主宰が住んでいたときの話。訪れた数人の劇団員とのやり取りが軽妙に進む中、奇妙な隣人の話になって……。
途中から、ゾクゾクするような緊張感が漂ってきて、話の運びに引き込まれ、登場人物が怖がる様子に違和感なく同調できる。しだいに見えてくる隣人の正体(!?)と結末、そしてラストに登場した年配の女性がふいにニヤッと笑った瞬間、声を上げそうなくらい怖かった。
その笑いと、メインのストーリーと別に登場してくる、人々の目には見えないらしい(霊感の強い女にだけ見えている)黒衣の男が、次の話へと繋がっていく。
そして、2つ目の事件。さきほどの部屋で暮らすミュージシャン崩れの男と、その誕生日に集まったガールフレンドや友人カップル。いつの間にか、常軌を逸して干渉してくる大家の話題になり、すぐに大家本人も姿を現して。
大家の奇妙な振る舞いに翻弄される入居者やその仲間とともに、観客も固唾を飲んで成り行きを見守った。
なるほど、人間の怖さについての物語だったなぁ、と思う。
「黒の人々」は、この話の続きになっているとのことなので、できれば両方観たかったな、と思った。
艶情☆夏の夜の夢
柿喰う客
吉祥寺シアター(東京都)
2016/08/04 (木) ~ 2016/08/14 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2016/08/10 (水)
8人の女優が魅せる『夏の夜の夢』。夏の夜の開放感と祝祭性をふんだんにまとった、艶やかなシェイクスピア。歯切れのいい演出とパワフルなキャスト陣の活躍で、盛夏にふさわしい濃密な時間を過ごすことができた。
出演者が発表になった時点で、岡田あがささんのティターニア、七味まゆ味さんか深谷由梨香さんのパック……などが頭に浮かんだが、予想はまったく外れていた。しかし、意外に感じていたキャスティングも実際に観てみればぴったりハマって、見どころの多い舞台となっていた。
たった8人での上演なので、(パック役の千葉雅子さんをのぞいて)アテネの人々と妖精たちと職人たちと、3つの役をそれぞれ演じていく。
大公とハーミア役の役者さんがオーベロンとティターニアをも演じるパターンは割に見かけるけれど、それをひとつひねって、大公を演じた岡本あずささんがティターニアを、ハーミア役の七味まゆ味さんがオーベロンを演じるのもオール女性キャストらしい配役で面白かった。
千葉雅子さんの飄々としたパックの存在感、深谷由梨香さんの演じるボトムのチャーミングさ、岡田あがささんのやたらイケメンなディミートリアス、葉丸あすかさんの可憐なヘレナなど、バリバリに存在感のある女優陣に、初々しさを感じさせるライサンダー役の長尾友里花さんとパンチの効いたハーミア役の福井夏さんの健闘も印象に残った。
麦とクシャミ
ホエイ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2016/08/06 (土) ~ 2016/08/14 (日)公演終了
満足度★★★★★
初めて拝見する団体ながら、過去の作品に対する観劇仲間の感想などから、きっと好みに合うだろう、と期待していた。そしてその期待以上に好みの作品だったと思う。
歴史に題材を取つつ、人の暮らしに寄り添うように進んでいく物語は、大地の変動と戦争による時代の激動の中で、人が生きていくということを確かな手応えで描き出す。それぞれの理由でその土地に暮らす一人ひとりのお国言葉が、彼らの背景に厚みを加える。
火山の噴火により大地が鳴動し隆起していくという稀有な事態に加えて、戦争末期であるという非常事態。そんな中でも人々は山菜を採り、花火を見上げ、サイダーを飲む。時代に翻弄され、それでも生き抜こうとする人々の強さが愛おしい。
鳴動し続けている火山を、小さな郵便局の局長さんが淡々と観察し続ける。彼の息子は戦地から戻らない。満州帰りの軍人が広島弁で語った戦地の様子と、彼の故郷に落ちた新型爆弾のウワサ。
女たちや男たちの、キレイごとでない喜怒哀楽が笑いを誘いながら、しだいにそれぞれの切実な想いを浮かび上がらせていく。
声高にメッセージを語るのではなく、平凡な人々の暮らしぶりを丁寧に描きながら、それを通して感じられる明確な意思が全編を貫く。温かみのある骨太な物語が、ある種の古典めいた軸の強さを感じさせた。
【ご来場ありがとうございました】雑種 花月夜
あやめ十八番
王子小劇場(東京都)
2016/08/02 (火) ~ 2016/08/07 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2016/08/03 (水)
神社の参道に連なるお団子屋さんを舞台にした、やわらかな土地の訛りが美しく響く物語。三人姉妹のそれぞれの個性やお母さんのチャーミングさ。蜜に想いを寄せる梢の、電話での母親との温かいやり取り。蜜の幼馴染である鵜澤の言葉にしきれない誠実さ。兄の死に際したときの久保木の表情。ミュー研メンバーとの懐かしいやり取り。劇中劇での、昔の洋画の吹き替えめいて不自然なくらい歯切れのいい台詞。
登場人物の一人ひとり、劇中劇の場面のあれこれ。語り始めたらキリがない。
しかも今回はミュージカルということで、上手な方の歌はもちろん、場面やキャラクターの雰囲気に合わせた素朴な歌声も、さまざまな場面で演奏されるたくさんの楽器も、雨戸の開け立てやカエルの声などの効果音を生でつけていく様子も、それぞれに物語を彩っていた。
パンフレットや台本にも歌詞が記されていて、読んでいると、場面とともに自然にメロディが浮かんでくるのだ。
たくさんの歌と楽器に彩られた物語は、土地の訛りや華やかな稚児行列や剣舞、お囃子の響きなどに支えられて、ひとつの歴史を持った架空の町を浮かび上がらせていく。
訛りも桜の咲く季節も違う土地から来た人にも、他所の土地に行ってしまった人たちにも、そして小堀屋の人々にも季節は巡り、また新しい物語を連れてくるのだろうか。
あの町で、また彼女たちに出逢える日が待ち遠しい。
うちの犬はサイコロを振るのをやめた
ポップンマッシュルームチキン野郎
シアターサンモール(東京都)
2016/07/23 (土) ~ 2016/07/31 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2016/07/30 (土)
未来を観ることができる犬のたどった数奇な運命と彼が出逢った一人の少女の物語なんだけど、これが、ファンタジーめいたじんわり温かいストーリー……になんかどうしたってならないのだ。
その犬 ゴルバチョフが、未来を観ることができるようになった経緯は物語の中にあるけれど、彼が人間の言葉をしゃべれるということ自体はもうそのまま受け入れるしかないし、彼の仲間となる連中が、なんだこれ~!という奇妙なキャラクターたちだ。
けれど、そういう破天荒な外見から立ち上ってくる作品の骨格は、無私の愛情を描いた温かい物語だった。ラストでゴルバチョフが観た(未来の)シヅ子があまりにもキレイで涙が出そうになった。破天荒で馬鹿馬鹿しくてくだらなくて、でも、ピュアでセンチメンタルな、そういう舞台。思い切り楽しませていただきました。
insider
風琴工房
Half Moon Hall(東京都)
2016/07/21 (木) ~ 2016/07/31 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2016/07/29 (金)
シャープな、ときに笑いを含んだテンポの良い会話で、前半はバイアウト・ファンドなどの用語や意味と、登場人物の人となりを観客に伝えていく。中盤から後半にかけては、調べる側と調べられる側の緊迫したやり取りで、出来事の背景や重さを感じさせる。
証券取引等監視委員会の特別調査の目的は、インサイダー取引の犯人探しだが、マチュリティの中の誰がそれをやったのか……という謎解きは、実はさほど難しくない。
それよりも、なぜ彼がそれをやったのか、というところに焦点がある。いや、なぜ、というより、どんなふうにそこへ追い詰められていったのか、という方がいいだろうか。動機めいたものは、実はさほど詳しくは語られない。少なくとも自分はそういう印象を受けた。しかしその一方で、この物語そのものが、彼がそれをしてしまうことになった理由を語っているのだとも思えた。
ストーリーが進む中で、前作の場面が何度もインサートされる。予想以上に続編であることを意識した造りだった、と感じられた。
喰うか喰われるか、という印象もある金融の世界で、ある種の理想のもとに会社を立ち上げていった前作の高揚と、いつの間にか歯車が狂ってしまった今作の中の彼ら、いや彼と。
いったいなぜ……。観客席にいてさえ、何度も何度もその問いに立ち戻る、そういう物語だったのかもしれない。
かやくごはんと煮っころがし2016
しゅうくりー夢
テアトルBONBON(東京都)
2016/07/21 (木) ~ 2016/07/25 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2016/07/23 (土)
突然の事故で死んでしまった青年と、彼を巡る人々。それぞれの関係がいつのまにかつながりあい、過去と今が結び合って、そうして、ある魂が安らかにこの世を去ることができるまでを描く物語。何度観ても泣いてしまうけれど、この劇団らしく、人が人を想う気持ちを描いて温かい。
暁の妻 凛を演じた劇団員の宮田さんの哀しみに耐えようとする笑顔や泣き笑いの表情がせつなくて、それでも彼女が笑えるようになるラストシーンに、暁と同様ホッした気持ちになった。
舞台上の一人ひとりが、確実にそれぞれの過去や未来を背負って生きている、そういう作品だったように思えた。