満足度★★★★★
鑑賞日2016/08/10 (水)
演劇のショーケースイベントは他にもいろいろあるだろうけれど、長年にわたって実績を重ねてきたこの「15分のヤツ」は、舞台に関心のある人にとって信頼のある催しとなっている。
そんな『15 minutes made』の今回の顔ぶれは、日本のラジオ、ぬいぐるみハンター、キュイ、かわいいコンビニ店員飯田さん、キ上の空論、Mrs.fictionsの6団体。3つあった初見の団体がどれも気になっていたところだったりして、いろいろ楽しい時間となった。
『日々が黒くなるその前に…って、』
10年ぶりに会った若い男女。2人の会話から、幼なじみ以上恋人未満な関係かと思って観ていると実は……兄と妹。叶わぬ想いの……叶えてはならない想いの切実さ。まっすぐな女の子の想いの強さが物語を牽引する。兄の選んだ結婚相手が妹に少し似ているようにも思えて、いっそう切なく感じられた。
『みゆき』
当パンに書かれていたように、無自覚に周囲の男を翻弄し、同時に翻弄されてきたみゆきの生涯を、誕生日を軸に15分で描けるだけ描いた作品。20歳の誕生日、役者を目指しつつ改めて自分の人生を振り返る彼女に、王子役の青年が「お誕生日おめでとう」と声をかける。テンポよく進むポップでにぎやかな物語は、大団円的なカーテンコールを裏切って、まだまだ続くようにも見えた。
『ハーバート』
クトゥルフ神話という架空の神話については聞いたことがあったけれど、『ハーバート』というタイトルや劇中に出てくるいくつかの単語を聞いて、その場でピンときた訳ではなかった。詳しい方がご覧になったら、いっそう面白いのだろうとは思うが、実感としてはそういう知識なしでも充分印象的な作品だった。ストーリー自体はベタと言ってもいいくらいなのに、会話するときの奇妙な距離や違和感を感じさせる反応に、観ていてゾクゾクした。「キミのところにはないですか、イタズラ電話」と編集者に尋ねる教授の声がなぜあんなに深刻だったのか、2回観て初めて気がついた。そうか、そういうことか、と思ったけれど、観るたびにまたあれこれ考えたりしてしまう。
『虹はどしゃぶりの雨で咲く』
男の浮気を疑う彼女と、男の友人らしきもう一人の男。実は浮気相手はその友人で、しかも、男は彼女にある提案をするのだけれど……。奇妙な三角関係のあれこれ以上に、え~っ!ダブルキャストでこんな違うの?結末まで違うじゃん!!というインパクト。そういうお芝居の作り方もあるんだなぁ、というのが実は一番面白かった。虹の持つ意味については、他の方の感想を読んで、(なるほど……)と思ったけど、そこを軸にしている訳ではないようにも見えた。常識を疑うことやそれを人に伝えようとするところに重点がおかれてるのかな、とも思ったけれど、実はもう少し単純に笑ってしまってよかったのかもしれない。
『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』
直接的に暴力を描く脚本を、相手に指1本触れずに立体化した演出と、耳に残る独特の語彙。登場人物がこんなにアレな感じのヤツばっかりって、いったいどういうことだろう。世界はこんなに狂ってしまっているのだろうか。好き嫌いはともかく、独特のインパクトのある作品だった。
『上手 (かみて)も下手(しもて )もないけれど』
楽屋でメイクをする男。そこへ現れる金髪にそばかす、真っ赤な頬の女の子は新人のアンサンブル。2人の会話は昔の海外ドラマの吹替えみたいな調子で、ややコミカルに進む。やがて2人は恋人同士の役を演じ、結婚式のシーンや親戚への挨拶回りのシーンなどに続いていく。いつの間にか月日が重なり、舞台と人生が二重写しになっていく。直接描かれているのは楽屋の鏡前でメイクし続ける2人の会話だけれど、劇中の2人が演じているであろう場面が、観ている我々にも思い当たる人生の中のいろいろな場面と重なっていく。
出入口をくぐったその向こうに、照明が当たる舞台がある。私は私の2人芝居をちゃんと生きられているだろうか。終演後にふとそんなことを思った。あいまいなところはないのに、観る者によって、あるいは観るたびに、いろいろな想いで受け取ることのできる作品で、何度でも繰り返し観ていたい気がした。