GREAT CHIBAの観てきた!クチコミ一覧

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ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ

演劇企画集団THE・ガジラ

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2017/06/04 (日) ~ 2017/06/12 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/06/07 (水) 19:00

「生きていたのか呉青洲!」という、まんまの舞台でした。そこが凄いですよね。「ドグラマグラ」は一旦、読み手の解釈を加えたとたんに破綻してしまうような作品です。一生、直には見られない自分の顔のような、掴むことのできない雲のような、逃げられない影のような作品。作品との距離を付かず離れず、微妙なバランスで保ちながら演出するのは大変だったろうなと思います。忠実に忠実に、そのためには削除も厭わず、「ドグラマグラ」の神髄を抜き取り見せるような舞台でした。
(えっ?何を言っているか判らないですって。私はまだ胎児ですので許してください)

ネタバレBOX

壁掛け時計実際の時刻を示しているのですが、机の上の時計は止まったままで動いておりません。まさに止まった時間の中で、観客には明確に時間の経過を感じさせるということですね。
Die arabische Nacht|アラビアの夜

Die arabische Nacht|アラビアの夜

shelf

The 8th Gallery (CLASKA 8F)(東京都)

2017/06/02 (金) ~ 2017/06/05 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/06/02 (金) 19:00

ローラント・シンメルプフェニヒの「語りの演劇(Narratives Theater)」とはそういうことだったのか。本来、演劇とは「語るな、演じろ」ということが基軸だと思っていたし、説得力を感じていた。しかし、壁も扉も階段もない空間で、床に示されている位置や状況のみを説明する文言。登場人物は舞台装置の変換ではなく、自身の発する言葉で、今の自分の状況を示し心情を吐露する。始めは何とも違和感を感じたけれど、進行するうちに、その最小限とも言える身体表現が言葉で膨れ上がり、何よりも大きな説得力を持ってくるのである。なるほどね。

ネタバレBOX

フランツィスカは6歳の時、両親との旅行中イスタンブールで誘拐される。そして、とある首長の下に連れてこられ、第何番目かの妻として、たいそうかわいがられ、20歳にして本当の意味で妻となる。しかし、彼女への過大な寵愛を嫉妬した第1夫人は、フランツィスカにつらく当たるが、それを見咎めた首長は第1夫人を処刑。その時の呪詛の言葉が、現代のフランツィスカを覆っている。彼女は月を見ることができず(睡魔と記憶の欠如が毎夜彼女を襲う)、彼女と口づけをした者は死に至る。
カルパチ、カリルは次々と摩訶不思議な死を遂げるのだけれど、その後、ローマイヤーはどうなったのだろう。
矢野靖人氏は、パンフでこの芝居を「実存」というテーマで語っている。確かにそうした見立ては悪くない。でも一方で、伝奇であり幻想譚でもある。タイトルからも連想されるように舞台には終始アラビアンナイトの趣があり、何ともエキゾチックだ。
そして、よくよく思えば、かなりエロチックな芝居だ。
フランツィスカは終始ほとんど全裸なのだし、カルパチは覗きに精を出し、カリルは複数の女性と情を交わす。ローマイヤーの下心もあけすけだ。
矢野靖人さん今度は、もっと耽美的な演出ではいかがでしょうか。でも、そうなると全く別物になって、「語りの演劇(Narratives Theater)」ではなくなるでしょうね。
劇場ではないので四方に窓がある、夜の回だと、ちょうど舞台上の時間と重なるように、日の光が宵ばりに変化してとても舞台の雰囲気を盛り上げてくれた。
そう、この舞台が演じられたのは、舞台設定とおんなじ建物の8階なのです。
まつろわぬ民2017

まつろわぬ民2017

風煉ダンス

座・高円寺1(東京都)

2017/05/26 (金) ~ 2017/06/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/05/28 (日) 14:00

座席1階1列

いやあ、素晴らしい。白崎映美さんの女っぷりのよさに拍手拍手!!!!鬼、東北、ゴミ屋敷、行政、1000年。言わずもがなですが3.11が舞台の背景にあります。しかし、けしてそれを引き摺るではなく、そこを原点として前に進もうという意思であふれています。いやあ、歌とユーモアとダンスの奔流は2時間半を、物凄い強度で圧縮し、けして淀みを見せません。とにかく観てください。私の言葉などでは何も表現できません。

舞台を初めて観る方に、なぜ「絶対観るべし」がないのだろう、とちょっと意固地になります。

ネタバレBOX

ひたすら続くジャンプネタ、結構、観客の年齢層も高めだったし、どこまで観客の皆さん判っていたのだろうか。そして、ラスト近く、ヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」がかり、ジャンプの精霊(?)が出てくるのだけれど、若年層もあれ判ったかな
( ´艸`)
GIRLS(大好評終演御礼!次回MUは11月コメフェス、2018年2月下北沢駅前劇場・下北沢演劇祭へ参加!)

GIRLS(大好評終演御礼!次回MUは11月コメフェス、2018年2月下北沢駅前劇場・下北沢演劇祭へ参加!)

MU

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2017/05/24 (水) ~ 2017/05/30 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/05/24 (水) 19:30

座席1列

MUの男優陣(青木友哉さん、成川知也さん)は体に自信があるんだなあ、という意味のないツッコミはおいておいて、、、MUの皆さん含め全員、初日にもかかわらず、セリフを噛まないことはもちろん、淀みがなくいリズムのある進行は、さすが10年選手MUの舞台でした。ただ、「めんどうくさい女」「SUPER ANIMAL」共に、もっとテンポは上げられると思うので、2日目以降のアップテンポに期待します。そうすると、両作ともほとんどがベッド周りのまったりした芝居なので、笑いどころも、思い入れどころもメリハリが効くように思います。
兎洞大さんの活舌とリアクションは、キレキレでしたねえ。本当にノン気なのかどうか???な、微妙な感じがよく出ておりました
温井さん、天動虫入団後、初外部出演おめでとうございます。(中野の公演時は、まだ入団前でしたよね)でも、「SUPER ANIMAL]ああゆうテイストの芝居はちょっと照れます(汗)ただ、まだまだ成川知也さんのリードで進んでいますので、千秋楽には彼に汗をかかせないほどの立場で演じきってくれればと思いました。遠慮はいりませんよ。MUさんは、なかなか懐の深い劇団さんですから。それと、すぐ横で拝見した時、右肘の傷が気になりました。お大事にしてください。稽古のときにできたのなら、ハセガワさんの命(タマ)取りに行きますけん! (笑)

ネタバレBOX

「めんどうくさい女」は秀作でしたね。青い鳥の喩は主人公花江の心情(生きていいるだけでストレスで自死ししてしまう)なのでしょうが、彼女が欲しがるばかりに、捕獲され輸送され、そのストレスで死んでしまう説話は、ラスト以降に暗示される主人公の運命を予感させます。(おそらく、青い鳥は手に入らず、彼女が自死する。あるいは、青い鳥が手に入ったものの、青い鳥が自死する)
真嶋一歌さん、次回ご指名は私を宜しくお願いします!
23階の笑い

23階の笑い

Grass919

小劇場B1(東京都)

2017/05/23 (火) ~ 2017/05/28 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/05/23 (火) 19:00

座席1列

今となっては、せっかく直近で博品館でも、同演目の舞台があったので見比べてみたかった。というのも、こちらGrass919の芝居が、どこまでオリジナルで、どこまで演出なのかがよく解らなかったから。別にオリジナルと演出どちらがよいということではなく、オリジナルが判ると演出の妙が味わえるし、他の演出と比べれば面白さが一層堪能できたのかと思えるからだ。
喜劇作家が詰める事務所の場所が、23階らしい。舞台上では語られないので、タイトルそのままということになるのだと思う。
サイモンの自伝的作品ということで、1950代の雰囲気がとてもよく出ている。
マッカーシーの赤狩りや、スターリンの死去、ソ連の核兵器保持などの政治ネタ、果てはマーロン・ブランドの映画「ジュリアス・シーザー」がこけたというネタまで盛り込まれ、移動する窓枠をうまく使い屋外の活況のニューヨークをうまく表現して見せている。
喜劇作家の1人、真那胡敬二、コメディアンのMaxこと大森博史、この2人の壊れっぷりもよい。(本当に壊れているのか、と思うくらい)ラストの挨拶の時の、常人ぶりにほっとしたものだ。

ネタバレBOX

ゲロ(嘔吐物)ネタが多いなあ。
ニール・サイモンの作品はあまり見ていないけれど、舞台だと「名医先生」、映画だと「名探偵登場」などのように、時代設定や舞台設定を彼の経験と話したところで芝居を作ると、こちらも解りやすい(共感しやすい)のだけれども、彼の時代そのままを芝居にすると、どうも解りにくいことが多い。
この芝居でも、劇中劇で「ジュリアス・シーザー」のコントをやるのだけれど、ひたすらシーザーを切りつける場面の繰り返しとリアクションに面白みはあっても、それ以外の面白さが全然解らない。「タクシー」って何が面白にのやら。シーザーが皆と歌うローマの歌も、楽しいのだけれど面白さがサッパリ?完全に時代の空気に引っ張られている面白さなので、これは辛かった。観客から浮いてしまっていた。
ロシア訛りの喜劇作家のセリフも、どうしてもただの地方訛りのようにしかできないし(そもそもロシア訛りがどういうものか判らない)、作家同士が面白い名前を言い合ってけんかの勝敗をつけようという場面も、言っている名前の何が面白いのか、、、、
最後に事務所が解散するときの静謐な別れの場面は、とてもよかったけれど。
『あぁ、自殺生活。』4月~6月/365

『あぁ、自殺生活。』4月~6月/365

劇団夢現舎

新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)

2016/12/31 (土) ~ 2017/05/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/05/15 (月) 19:30

まず、導入が怖いです。主人公たる2人が薄明りの中、こちらに歩いてきます。何かそのままとびかかってくるのかという緊張感。最前列の私はひたすら怖い。そうでなくても、会場の雰囲気が、開演前からどうも尋常じゃないのですから。
かなり怪しい舞台だな、と思っており、会話劇ということは理解していましたが、何やかやと細かい所作が連綿と続きます。その1つが、体に巻き付いたラップをはがしていくところ。この行為に何を見るかで、演劇の印象はかなり変わると思います。

自殺する生活、それはひたすら自身を殺し続ける(精神的な意味で)生活を意味するのかなと思っていましたが、違ったようです。絶え間ない生への執着を持つがゆえ、自殺してやろうという意思に自身の生の喜びを見つける所作。自身を頬をつねりながら、その痛みで生の実感を得るようなものでしょうか。

舞台の上では、ひたすら狂気が漂い、言葉の暴走が起き、そしてしょーもないダジャレが飛び交います。これはすごく不安な空間でもあり、またどこに連れて行かれるかわからない心地よい空間でもあります。

自殺志願の男の鬱屈した目と、彼を諫める男の焦点の定まらない目、舞台が終わると、お2人とも、至極まっとうな方々で、安心しました。リピーター割があるので、少ししてからまた観に行きたいなあ。今度は芝居好きの子供を連れて。

ネタバレBOX

延々と続く会話は、自殺の話からごみの分別の話、リサイクルの話、認知症の話とひたすら流転して、また自殺の話へと戻っていきます。今度は自殺の主体が入れ替わって。

体に巻き付いたラップ(いわゆる食品保存用ラップ)や、ラップを会場に張り付けるのは、今年4月以降の演出とのこと。このラップの意味は何なのか。回答はないようですが、彼らが自殺に踏み切れない、この世の業のようなものに思えました。そのラップが全てはがれてしまった先で、1人は事故死的に(周囲の評価では自殺ととらえられたかもいしれない)死に、もう1人は自殺を試みることから離れていく(このことは、取りも直さず、生死への執着の喪失であり、彼はその意味で精神的に死んだのかもしれません)。
歌舞伎ミュージカル「不知火譚」

歌舞伎ミュージカル「不知火譚」

劇団鳥獣戯画

本多劇場(東京都)

2017/05/10 (水) ~ 2017/05/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/05/11 (木) 19:30

座席1階E列

奇しくも今年正月に、国立劇場で上演された歌舞伎「しらぬい譚」と同じ原作の歌舞伎ミュージカル。「奇しくも」というのは、この演目自体が「復活通し狂言」と銘打たれるくらいに滅多に上演されないので、ジャンルとしては異なりますが、このスパンで上演されること自体が奇蹟に近いのです。
歌舞伎では、天草四郎などのお家転覆のファクターはなく、あくまで鳥山親子VS若菜姫、化猫(別に連合軍ではない)の図式で進んでいきます。
鳥獣戯画は3部作で、この大長編戯作を、できるだけ原作に近づけて(といっても、十分に歌舞伎以上に傾いてくれるのですが)演りとげる所存のようです。
まずは第一段。けして派手ではないですが、舞台転換をさくさくと進めながらテンポよく話は進んでいきます。仕掛けは凝っており、若菜姫が蜘蛛の精に連れ去られた後の空中演舞、後の天草四郎が亡き父の亡霊と会うときの演出、殺される悪女とその色との首ダンス、ラストの大掛かりな〇〇登場と蜘蛛の巣のセット。
いやあ、お世辞抜きで、笑いあり、活劇あり(殺陣もしっかりしているんですよね)、ダンスありの舞台はまさにエンターティメントの粋をいっております。適度に歌舞伎の所作・ルールを意識しているところなど心憎い。
石丸さんの悪女ぶりがいいですね。小股が切れ上がった痛快な悪、でも、今回で死んでしまい残念。(次回からはナレーターやるのだそうな)
出演人数も多く華やかで、ラスト出演者全員でのレビューは圧巻です。舐めるなよ伝統芸能!!!とい喝采を上げたくなりますね。

ネタバレBOX

鳥獣戯画というと、当然、主演はちねんさんとなるのですが、相変わらずの活舌の良さが時代劇の雰囲気を盛り上げてくれます。しかし、あれは意識したギャグなのか、いかにもなちょんまげかつらは何なんでしょう。他の出演者がナチュラルに決まっているだけに、浮き気味です。また、どうしても、他の男性演者と比較すると、体格で劣るので、次回以降、一層の活躍が期待される中で、殺陣が増えてくると(上手下手ではなく)絵面で少し心配です。
次回はスズナリとのこと。箱が小さくなる分活劇度が心配、今回のようなダイナミズムを失わないように宜しくお願い致します。でも、来年秋はちょっと長いなあ。せめて1年後にして欲しかった。
最後にアンケートについて一言。今回は出しませんでした。理由は単純裏面に、登場人物の相関図が印刷されており、これ販売されているパンフにも掲載がないのですよ。となれば、次回観劇の際の記憶の必須アイテムです。これは、別紙面にしてくれないといけません。
1999の恋人

1999の恋人

NICE STALKER

駅前劇場(東京都)

2017/05/04 (木) ~ 2017/05/08 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/05/08 (月)

千秋楽拝見しました。盛況でしたね。
軽快なテンポで進む舞台は、老若男女を問わず巻き込める不思議な空間でした。

イグロヒデアキさんは、あそこまで想われているんだから観念すべきです。
そんなに、女性に縁があった人生とは思えないしね。

でも、高校生以下100円以下というのは、1999年に生きていなかった方々へのハンデキャップ料金という意味合いですよね。

ネタバレBOX

1999年ではなく、滅亡の日がくるとされたのはいったい何年なのでしょう。スマホを使っていることから2017年と考えることもできるのですが、そうしますと2人とも34歳くらいになっているはずなのですが。
僕は僕する

僕は僕する

劇団天動虫

要町アトリエ第七秘密基地(東京都)

2017/05/03 (水) ~ 2017/05/07 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/05/04 (木) 13:00

私は寺山修司を作品(戯曲、舞台、詩、映像)として知らない。(人物としては、経歴などそれなりには知っているが)まあ、興味がない。なので、天動虫の公演でなければ(この劇団には「飛び火」でやられて、それ以降逃げられない)観なかったと思う。そうした個人の感想としては、それでも面白かった。

1時間がもっともっと長く感じられた。終わったときに時計を見て信じられなかった。
それだけ濃密な時間だったのだと思う。

言葉はいくら引用だとしても、それを誰がどのように使って、何を表現しようとするかによって、本来の持たせられた意味や背景を逸脱していくものだ。学術の分野でそれは許されないが、創作の分野ではそれをしないことが許されないと思う。

そうした意味では、帆足知子さんが寺山修司の言葉をコラージュし、声と身体表現で見せたのものだとして十分に楽しめた。

帆足さん自身、私が観た時点で振付が固まっていないところが幾つかあると言っていた。役者の方々の動きに取り決めがあるのは当然として、多分に各人の情動に任されているのだろう。戯曲のセリフと違い、言葉のコラージュはその日その日の感じ方が違っていくことは容易に想像がつく。そうであれば、役者同士の感情表現の相互性が、常に新たな舞台を生成しているということなのだろう。

私はそうしたパフォーマンス生成の連続が面白かったのだと思う。

感想を書かれていたzeezoさん、ちなみに別売りのパンフにも、セリフの抜粋はありませんよ。でも、ご意見はごもっともと思いました。

最期にジョニーさん、舞台共々パンフレット作製、大変お疲れさまでした。

「蝉の詩」

「蝉の詩」

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2017/04/25 (火) ~ 2017/05/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

私は月1回、母親と演劇を観に行きます。歌舞伎(たまにオぺラ)ということもありますが、新劇が多い傾向にあります。母は戦前の生まれ、あまり突飛なものにならないことや、割とゆったり観れること、そしてできれば彼女の生きた時代と重ねられることなどを思うことからそうした傾向になっているのだと思います。

ですから、小劇場などはまず想定していなかったのですが、桟敷童子とチョコレートケーキには、母親にも観るべき何かがあるという気がしておりました。

そこで求められるのは、昭和の風景です(必ずしも明るく快いものばかりではありません)。しかし、俳優座でも民藝でも文学座でも、昭和という時代を見せてくれくれる舞台には出会えません。苦しさは個人の感情に還元されてしまい、明るさもお茶の間的なほのぼのさとしてしか表現されないのです。

そして、「蝉の詩」。初めての小劇場でしたが、見せてよかった。それは私もうろ覚えながら知っている昭和であり、感じてきた昭和がありました。生きることへの執着のある時代。これほど見事な世界を作り出すとは。

この舞台の高い悲劇性・悲惨さも、人間のリビドーが作り出す笑いでうまく中和されています。それが素直な観客の涙につながるのでしょう。けして悲劇への感情移入が涙を流させるのではなく、ひたすら湧き上がる高揚感が涙を流させるのです。桟敷童子の力量の高さです。母に見せて正解でした。

ネタバレBOX

ラストの描き方について幾つかのご意見があるようです。

織江のその後の数十年が判らないのでラストでの感情移入ができない、ましてや、ホームレスの老人になった織江に、今は亡き皆が「もっと生きろ」と言うことに何の意味があるのか、というご批判はごもっともです。

確かに描かれない、織江の生きた数十年に観客が想いを馳せるのは困難です。亀吉から相続したであろう遺産はどうしたのか、夫はいつどうして死んだのか、子供はいないのか、なぜアイスクリーム屋は失敗したのか。判りません。
ただ辛いだけの人生ではなかったのだろうとは、織江が姉の言葉(まっすぐに生きろ)を今も忠実に守っていることから推察できます。

ラストで皆が「もっと生きろ」ということの意味は、題名でもあり劇中で創作される「蝉の詩」にあるのではないかと思いました。

蝉は「みん」と鳴く、「死にたきゃねえ」と鳴く

人は死ぬと蝉に転生すると劇中で語られています。また黄金色の蝉を見つけると一生幸せに暮らせるとも。

織江はその最期を考えれば、黄金色の蝉を見つけることはできなかったのかもしれません。でも蝉に転生した時、彼女が黄金色の蝉になっているかもしれません。それで人を幸せにして、7日目に「みん」と鳴くのでしょう。

きっと、そうした意味でも織江に、皆はもっと生きろと言ったのではないでしょうか。

確かに織江は、まだみんなのところ(姉達や亀吉のところー黄泉の国)に行けないのかい、と一瞬嘆きます。ただ、彼らのエールはそんな弱気じゃだめだよ、「みん」と言ってみろということではないでしょうか。織江が最後に、気を取り直してアイスクリームの旗を振るのは、彼女なりの鳴き方だったのではないかと思えて仕方ないのです。
すこやかに遺棄る

すこやかに遺棄る

芝居流通センターデス電所

OFF OFFシアター(東京都)

2017/04/26 (水) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

これほどの娯楽性と「禍々しさ」が同居した舞台は観たことがない。確かに笑う笑う、そしてその背景にあるぞっとするような禍根の渦。ぱっくりと笑劇を割くように姿を見せる絶望感。何とも言えぬ居心地悪さが襲う。
チラシのストーリー書きを読むと、その曖昧な表現が醸し出すオカルト色に惹かれたのだけれど、どうみてもタイトルはしゃっれぽいし、何かかわいらしいイラストは入っているし、いったいどうなっているのと思ったけれど、双方正解。そういうことだったのね、という舞台でした。
入場の際に、あんな物を配ったり、配られた紙面にあんなことを書いたり、煽ってくれますが、これも演出なのかな。是非、芝居に
一期一会を求めるのであれば観てみるべき1作。

ただし、5人という限られた人数が劇中の回想含めて演じているので、服装がそのままで別の人物を演じなければならなかったのは、ちょっと興が削がれるなあ。
それと、あそこまで朗々とセリフがうまくはまっていたのに、ハブ・サービスさん頑張ってよ!


ネタバレBOX

児童虐待で死んでいった子供たちの物語。その悲惨に出会った3人がそれこそを糧に変えて、自らの新たに生きる道を探す物語。(もう1人は悔恨の上に死を選ぶのだけれど)グロテスクな表現も秀逸で、舞台上には見えないものを音とセリフだけで見させることへの執着まで感じました。べったりしそうな舞台をダンスが心地よく洗い流してくれるし、オカルト的な身体表現もよく練られています。
「遍在、或いは、いつもの軽く憂鬱な水曜日について」

「遍在、或いは、いつもの軽く憂鬱な水曜日について」

ヘアピン倶楽部

シアター711(東京都)

2017/04/26 (水) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/04/26 (水) 18:30

「遍在」つまりどこにでもある話だ。考えるだに、展開を追い続けていると恐ろしくなっていく舞台である。結婚パーティの夜、そこに集う男女5人。この5人は、お互いの存在に気づかないのか、それとも気づこうとしないのか、話は双方向的になることもなく、ひたすらすれ違っていく。もちろん、彼らも相手を全く無視するというわけではない。一瞬、お互いを受け入れようとするが、そのささやかな努力さえも、失われたものを取り戻すことができない。その失われた状況は私たちの日常に遍在しており、明日の水曜日の朝を迎えることへの軽い憂鬱さを招いている。安部公房かルイス・ブニュエルの作品を思い出す、真実を露出させることによって成立した素晴らしい不条理劇。

ネタバレBOX

では、何がどこにでもあるのか。それはコミュニケーションの喪失。そもそも、結婚したという男女は存在したのか?そのような存在はなかったのではないか。どれだけ広い邸宅なのか判らないが、5人しかおらず、その5人はお互いの存在への意識は希薄だ。空間の喪失。彼らの時計は壊れるか、捨てられており、時間の観念も喪失している。テーブルに残された遺物のみが、彼らの存在を証明するかのようだ。一緒の行動(日の出を観に出かけたり、相手の似顔絵を描いたり、お茶を入れてあげたり、一緒に鏡を使ったり、そしてSEXも)は、常に自己の表明ではあっても、相互性を獲得することがない。
また、いつもの軽く憂鬱な水曜日はやってくるのだろう、日常という名の仮面を付けて。
ラストには、本当にぞっとした。「実存」という言葉を久々に思い出した。コミュニケーションなんて存在しない、それは束の間に現れる幻想だという表明は、私を暗澹とさせた。滅多に買わない台本を買った、もう一度この舞台の恐怖を確かめたくなったから。ただ、観客を選ぶだろうから、お勧めはしない。
大神家の一億

大神家の一億

劇団ハッピータイム

ブックカフェ二十世紀(東京都)

2017/04/22 (土) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★

鑑賞日2017/04/23 (日) 18:00

とてもコメディーに真摯な劇団だと思います。
まずは、お詫びです。「大神家」だったのですね。「族」と「億」の韻だけに目が行っておりましてそこ観ておりませんでした。
誘拐されたのは、、、そしてその理由は、、、というのは、設定として面白かったのですが、設定自体に真摯な分(一定の合理性を確保しているので)、かなりラストがベタな展開過ぎて、、、ちょっと残念でした。

ネタバレBOX

1億円当選した宝くじを皆で奪い合うといった展開、それを最後は複数人が取り合う。
いかに1億円を作るかといった上で宝くじに頼るとか、当たった宝くじがあるという前提でも、最後に笑ったのは誰かとか、話の展開の中で宝くじが忘れられていくとかいうような捻りがあればよかったのですが。
最後は紙切れ1枚を全員で取り合うというドタバタは、学生の部活の粋を出ない感じがします。


ふくろう

ふくろう

劇団昴

Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)

2017/04/17 (月) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/04/18 (火) 19:00

ふくろうはもちろん出てこない。鳴き声で暗示されるだけ。それでも、かなり新藤兼人さんのシナリオに忠実に作ってあり、新藤監督が意図していた一幕物を舞台という空間で忠実に作り上げています。戦中戦後の苦しみが親子の身体性と、「花」の歌詞を通じて見事に描かれています。
北村さんは、長い芸歴の中でこれが初演出というのは意外な感じがしましたが、ご本人いわく役者の方が楽しみが多いからだったそうです。
田渕真弓さんは、怪しい魅力のある方ですね。

ネタバレBOX

殺人を繰り返す親子の怨嗟の声が、笑いの中で脳内に響いてきます。この殺人の繰り返しがどこまで続くのか、と思わせる中で、1人1人が一言ずつ発しながら観客に愉悦さえ感じさせて死のストーリーは進んでいきます。最後は大きな慟哭を感じさせるような死の連鎖があり、芝居は1年後をもって終焉します。あの母娘はどこに行ったのだろうか。シベリア、ブラジル、それとも、、、、、
正味2時間の部隊で途中15分の休憩は、どうかなと思いましたが、前半の弛緩したような空気と、後半の怒涛の展開とにうまくメリハリをつけてくれています。
わが兄の弟

わが兄の弟

劇団青年座

紀伊國屋ホール(東京都)

2017/04/07 (金) ~ 2017/04/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

遠近法を強調するかのような、前傾になった舞台。皆さん三半規管大丈夫なのだろうか。舞台上の明るい会話もユーモアも、全てにほんのりと死の影を漂わせる舞台です。
ただ、舞台上では誰も死にません、それは語られるに過ぎず、故に死の現実は夢幻のように虚ろで、ただ香り立つしかないのです。
「贋作」いいじゃないですが、立派なチェーホフ傳ですよ。

ネタバレBOX

第一幕のアントンとニーナの軽妙なやりとりから始まり、第二幕に少しだけ影を落とす。その影は、第三幕で確信となり、第四幕で決定的になる。それでも、希望は消えない。アントンが天上の亡き兄ニコライに自分の心情を吐露する部分が素敵だ。目の前には、悲惨な現状(ニーナにとっても、そしてアントンにとっても)が突きつけられているのに、人間は希望と喜びを見いだせるのだなあ。
チェーホフの30歳、なぞのシベリア訪問に材を取った本作は、ラストまで影を濃く濃くし、彼の苦悩を大きく大きくしながら、一気に駆け抜けるように魅せる爽快感も素敵です。そこか、アントンはそこへ行きたかったのだね。この時点で余命14年か。
先月、俳優座で観た「彼の町」で、鈴木瑞穂演ずる老演出家がラスト近くで発する、「チェーホフは、もっと生きたかったのだと思うよ」というセリフが浮かんできて、なぜかとても感傷的になってしまった。
セリーヌの世紀

セリーヌの世紀

劇団解体社

左内坂スタジオ(東京都)

2017/03/22 (水) ~ 2017/03/31 (金)公演終了

満足度★★★★

セリーヌという名前は、どこかで聞いたことがある。まあ、フランス風の名前なので、そう思い込んでいただけなのかとの思いながらも、予備知識なしで観に行った。
セリーヌに関するデンマークのピーター・ラウゲセンという現代詩人へのインタビュー映像とその訳文を投影し、そこにセリーヌの世界を再現していく。演劇というよりは、身体表現。セリーヌって何なの?暗澹とする空間と抑圧的な台詞に、ただただ聴覚・視覚をゆだねることの不安と恍惚。何なんだこれは?説明不能というか、言葉を持てない。せなお、帰ってセリーヌを調べると、、、、今から30年以上前、神田の幾つかの古書店で見かけた、あの分厚く濃朱のカバーを付けた本が出てきました。ああ、あれを書いた作家なのか、天井裏の書庫に1冊くらいあったかもしれない。でも読んではいないな。

ネタバレBOX

というと、かなり劇団の方々は変わった方(失礼)なのかと思いきや、公演後の飲み会では、皆さんかなりフランク。清水信臣さんを中心にした、演劇話は楽しい時間でした。そうか、アングラの古典作家を手厳しく批評し、あの人やあの人を呼び捨てにできるだけの年季が十分にあるのですね。私など演劇鑑賞でも、ただのひよこ(いや、卵かな)ですから、敬服至極。終電近くまで長居してすみません。でもまだあ、宴は続きそうでしたけれど。
だいこん・珍奇なゴドー

だいこん・珍奇なゴドー

流山児★事務所

ザ・スズナリ(東京都)

2017/03/15 (水) ~ 2017/03/22 (水)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/03/22 (水) 17:00

座席1階A列6番

この作品もやはりゴドーは来ない。というか、ゴドーという存在がいない。エストラゴンもウラディミールも、ポッツオもラッキーも、使者の少年もいない。でも、やはり「ゴドーを待ちながら」なんだよね。「だいこん」への執着はよくわからないけれど。
立派な音楽劇でもあります。
ちなみに、X・Y席に座ると、思わぬプレゼントがもらえるかも。
珍奇な珍奇なゴドーです。解説も評価も不要。

ネタバレBOX

でも、登場人物たちは、ゴドーを待つのを止めて、新たな可能性を求めて旅立って行くのでした。「不条理なんて大嫌いだ!」なるほど。。。
彼の町

彼の町

劇団銅鑼

俳優座劇場(東京都)

2017/03/15 (水) ~ 2017/03/20 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/03/19 (日) 15:00

この舞台のよさは、劇中劇という形でチェーホフの短編をつなげることで、細々とせずにチェーホフの短編を幾つも観られること。そして、チェーホフ劇を演じる役者役の役者さんたちが、自身のチェーホフへの思いを体現しているように感じられること。構成・演出の勝利です。

ネタバレBOX

老演出家と若手女優の会話(正確ではありません)
女優「チェーホフは死を待っていたのではないでしょうか」
演出家「やはり、チェーホフは生きたかったのだと思う。何十年後も新たな作品を作り    出して、それを観てもらいたかったのだと思うよ。」
老演出家役の鈴木瑞穂さんには、チェーホフが望んだように永遠に作品を作り上げてもらいたいです。
泥の子と狭い家の物語

泥の子と狭い家の物語

こぐれ塾

浅草木馬亭(東京都)

2017/03/22 (水) ~ 2017/03/26 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/03/22 (水) 19:30

座席1階2列

「観たい」に投稿されている方同様に、鵺的「フォトジェニック」後、小崎愛美理さん主演の舞台ということで観劇に参りました。また、1人の人物(魔女)が家庭内に入り込み家庭崩壊を招く、それに16歳の娘が立ちはだかるというストーリーにも興味がありました。
元は大阪を舞台としたラジオドラマだったそうですが、今回は公演場所の木馬座がある浅草に舞台を移し、原作に若干のアレンジを施したそうです。
大阪から東京に舞台を移すとなると、やはり言葉の問題があります。単に言葉を変えるだけではなく、大阪弁特有のニュアンスもあるでしょうから。「悲喜劇」とうたっている以上、喜劇の部分に不安がありましたが、そこは無理せず。大阪弁のところは、酒井さんと浅野さんが担当し、小崎さんが興奮すると関西弁を時折混ぜることで、笑いの部分は十分クリアしていました。言葉のギャップとして、むしろ標準語がメインになることで、悲劇性を高めることができたようにも感じます。
小崎さんは、「フォトジェニック」の倒錯的な演技とは打って変わり、なななんと16歳の娘を、ある時は情熱的に、ある時は淡々と演じきっております。パンフレットでは、「一筋縄ではいかない女優」と評されていましたが、まさに言いえて妙。あの憂いのある目元は変わらないのですが、これほど演じ分けができるのですね。
浅野彰一さんのコメディーリリーフも素晴らしい。
舞台変換はほとんどないのですが、それでも幕を閉じることで屋外を描き出して、そこでのやりとりが浅草の小演劇を彷彿させます。(ただし、屋外の場では笑いがまったくないので趣向としてですが)一見の価値があります。

ネタバレBOX

ただ、2点指摘を。
牛嶋裕太さんと村田実紗さんの役柄の背景がよく解らなかりません。この2人は、主人公・小豆の大事な友人であり、この2人と疎遠になったことについて小豆が後悔していることは判るのですが。なぜ役として必要だったのか。最後に活躍する浅野さん1人で押し通してもよかったのではないかと。
また、やはり魔女を倒すには、母娘の愛情ということに落ち着くしかなかったのかな。
ちょっと凡庸な感じがしました。16歳の小豆が知恵と感性を駆使し、皆の助けを借りて魔女を倒すという展開が観てみたかったなと。
炎 アンサンディ

炎 アンサンディ

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2017/03/04 (土) ~ 2017/03/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/03/11 (土) 13:00

パンフレットを読む限りでは、役者の皆さん(再演がそもそも好きじゃないのか)、今回の再演には乗り気ではなかったみたい。それでも、オファーがあり、それに誰一人として欠けることなく出演したのは、この作品には、まだまだ演れることがあるという判断なんだろうな。
麻実れいさん毅然とした演技、娘時代の演技との乖離が素晴らしい。
岡本さんが後半出てくると(前半にも他の役で出てくるんだけれども)、舞台の重さは、とたんに軽くなると同時に陰惨さを纏い、雪崩を打つように悲劇色を濃くしていく、こういう役はうまいよなあ。那須さんも、童女のようなあどけなさを演じられる稀有な役者さんだし。
3時間強があっという間でした。

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