屋根
富良野GROUP
新国立劇場 中劇場(東京都)
2016/02/05 (金) ~ 2016/02/07 (日)公演終了
満足度★★★★
流されて、見る夢
ラストシーンは何だか泣けてきた。朴訥で、一歩一歩踏みしめて生きるような最後の場面に、希望が透けて見える。
生まれ落ちて、家族で助け合って生活し、老いていく。世の中に流されるようにして生きるしかない私たち。その流れに抗するすべもなく、受け入れて生きていく。自分の生きる分だけ稼ぎ、家族と共にいるという、本当にささやかな幸せを願っている。
猟師の言葉が印象的だ。
自分は獲物を殺すが、自分が食べるためだ。戦争は人を殺すが、お前は人を食べるのか。
電気が通り、家財道具が増え、便利になっていく。舞台はそれを真正面から否定はしないが、「身の程」を考えさせる。国土を拡大する、電気を使うために原発を作る。いつの間にか「身の程」はどんどん大きくなっていく。
老夫婦が、縄をなう。材料は子どもたちが「いらない」として捨てた服だ。「この縄を見ると、写真のアルバムのようにその時のことを思い出す」とおばあちゃんは言うのだ。
大量の物品に囲まれるアンチテーゼとして、断捨離などという。
この舞台では、そのいずれも、「身の程」とは違うのではないかとそっと伝えているようだ。
今日が東京公演最終日。カーテンコールで拍手が鳴り止まない中、倉本聰さんが姿を見せた。見てよかった、と思える舞台だった。
同じ夢
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2016/02/05 (金) ~ 2016/02/21 (日)公演終了
満足度★★★
交わらない6本の線
一見、不思議な関係性を持った6人の登場人物。精肉店の店主とその娘、中年の店員。要介護状態にある先代店主(姿は見せない)を介護しに来るヘルパー。飲み仲間である近所の文房具店主。そして、10年前に交通事故で精肉店の店主の妻を死なせてしまった加害者の男性。
物語はこの6人が出入りする精肉店の居間・ダイニングキッチンで進行する。6人はそれぞれいろいろな背景を抱えているが、その背景が交わりそうですれ違っていく。結局、答えは出ない。私たちの日常生活のさまざまな問題や人間関係に、そう簡単に(舞台が行われている2時間という短時間では、特に)答えは出ないのだから、それでいいのかもしれない。
昨年、「オレアナ」で異彩を放った田中哲司に期待して見に行った。今回はどこにでもいそうな普通のおじさんを、しかし、ちょっと異色とも言える雰囲気を出しながら演じて見せたのはまあ、よかった。それよりも、私生活でも仕事の上でも人には言いづらい日常を抱えるヘルパーを演じた麻生久美子が、出色の出来だったと思う。
青春の門〜放浪篇〜
虚構の劇団
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2016/02/03 (水) ~ 2016/02/17 (水)公演終了
満足度★★★★★
世代を超えた微妙な空気
まず最初に思ったのは、この小説はとても演劇的な作品だったと再発見させられたこと。スペース雑遊のような濃密な小空間で上演するのにふさわしい熱量を持った小説だということだった。
原作は昭和30年代の若者たちの群像劇。これを今の若者たちが演じるわけだ。舞台からは当時の若者たちの熱さはガンガンと伝わってくるのだが、何だか微妙な空気感も流れている。何だろう、これは、とずっと思っていた。
帰りの電車でパンフレットに書かれている役者たちの感想を読んだ。この作品(台本)を読んだときの印象が書かれている。おそらくみんな20代の俳優たち。
「何か小難しいことで悩み、議論し合っているのが最初の印象」(三上陽永)
「正直、初めて読んだときは、全然理解できませんでした」(森田ひかり)
「最初はとても難しい本だと思いました。専門用語が出てきたり、時代も古いし」(池之上真菜)
「どうしてここに出てくる人たちはこんなにコロコロと変化し、面倒くさいんだろうと、共感を持てませんでした」(佐川健之輔)
それで分かったぞ。この微妙な空気感。青春の門を演じるとは、そういうことなのだ。この作品の空気感にどっぷり浸かれる世代はもう、今や高齢者である。高齢者には演じられないから、若い世代が引き継ぐわけだが、何とその難しいことか。空気感を受け継ぐというのは至難の業なんだね。
だが、舞台は素直に面白いと思った。この微妙な空気感のずれも楽しめた。濃密空間の小劇場マジックかもしれないが、とても満足できた。
今度は筑豊編から続けてやってほしい。是非とも要望します。
三人でシェイクスピア
劇団鳥獣戯画
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2016/02/02 (火) ~ 2016/02/03 (水)公演終了
満足度★★★
シェークスピア祭り
これは、シェークスピア・ライブ・エンターテイメント・ショー。劇団鳥獣戯画の石丸有里子さんによる舞台後の説明では、空いている小劇場を断続的に押さえてこの演目の公演を続けている、とか。チラシにも「跳び跳びロングラン14年目!」とある。
私の興味は、シェークスピア37戯曲をたった3人でどうやって全部上演するのか、というところにあった。実は、そういう切り口で会場に出向くと「何だこれ」、ということになるので、この際、頭を真っ白にして最初から笑いに行くぞ、と会場に行った方がいい。なにせこの舞台は、全編ギャグのてんこ盛りなのだから。
私が帰り際、石丸さんに「もっと上演時間を長くしてもいいから37戯曲をばっちり取り扱ったらどうでしょう」と言うと、「それはちょっとつまらないかもしれませんよ」と彼女は言った。なるほど、自分で言ってみて、確かに彼女の言うとおりかな、とも思った。
でもやっぱり、しっかり取り上げたのがロミオとジュリエットとハムレットだけではちょっと寂しい。劇団鳥獣戯画がやれば、おもいっきり笑えるシェークスピア戯曲はほかにもまだ、ありますから。せっかくのロングランなので、まだ、別の戯曲を取り上げて笑わせるライブ・エンタテイメントを期待したい。
プリズンホテル 夏
砂岡事務所
シアター代官山(東京都)
2016/01/21 (木) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★
ヤクザなのに家庭的な雰囲気
浅田次郎原作の舞台化。場面転換も素早く、分かりやすい物語の展開だ。ヤクザの親分が経営し、従業員もお客もその筋の皆さまばかり、という話なのだが、なぜか家族的な雰囲気が流れる。任侠の人たちは強い絆で結ばれているのだから、あまり驚くべきことではないのかもしれないが。
プロデュースは砂岡事務所で、劇団ひまわりの子役たちも出ている。客席には応援の家族か友人たちだろうか。発表会というか、そんな雰囲気も漂った舞台だった。
俺の酒が呑めない
劇団青年座
青年座劇場(東京都)
2016/01/22 (金) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
青年座劇場が酒蔵に
いつもの青年座劇場が、酒蔵に変身している。しかも、そこはかとなく日本酒の香りも漂っていて。客席に向かう通路には木桶や、出荷先の張り出し物など何と芸が細かいこと。
もちろん、舞台にも酔った。福島・会津の造り酒屋を舞台にした家族と仲間の物語。酒蔵の現状や、風評被害で苦しんだ場面も盛り込まれていて、とても丁寧で共感できる脚本だった。作家の古川貴義氏は故郷の言葉会津弁でこれを書き上げて見せた。それを青年座の若手からベテランまでがきれいに演じて見せた。
造り酒屋と言えば杉玉だが、舞台暗転で天井付近の杉玉にスポットが当たる演出がなかなかしゃれている。入り口でこの舞台のモデルになった造り酒屋のお酒の即売会も。そりゃ売れるって、この舞台を見た後なら(笑)
プロキュストの寝台
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2016/01/27 (水) ~ 2016/02/01 (月)公演終了
満足度★★★★
盗賊は今も、死んではいない
劇作家の嶽本あゆ美は、彼女の名作「太平洋食堂」の取材中からこの物語が生まれた、と言っている。ギリシャの伝説を日本の幕末の村に舞台設定し、そのメッセージを今に伝えた秀作だ。
彼女は「プロキュストは誰でしょう」と問い掛ける。それは時の政府であり、自らの隣人であるかもしれない。電車で隣り合わせた人が、プロキュストだったりする現代社会だ。そこまで空想が及ぶような舞台を演じた、Pカンパニーの力演もすばらしかった。子役の熱演も光った。
一幕ものであるが、この長い物語を一つの舞台の上に象徴的と言ってもよい寝台、まあ、単なる台なのであるけど、これを中央に配置した演出もとても印象的だった。劇作家の思いを、演出が心の底から理解し、演者が強烈なメッセージとして発信する。この流れが本当にうまくでている舞台だった。
壊れたガラス
阿佐ヶ谷 Picasso
阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)
2016/01/27 (水) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
この濃密な舞台空間
アーサー・ミラーのこの戯曲を、濃密な舞台空間に詰め込む。役者たちは演劇集団円などからの実力派だから、客席はその世界に釘付けになる。
戦前のあの時代、ユダヤ人であることが夫婦を縛り付けていたと読めるが、実はもっと違う見えない縄がたくさんあったのではないか。狂気が一瞬にして切れるラストシーンを見ると、その一瞬にいろんな縄が心の中に浮かび上がってきた。
値千金のキャバレー
ホチキス
座・高円寺1(東京都)
2016/01/23 (土) ~ 2016/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
参加できるライブエンタテインメント
初めて見る人にとっては、想像をはるかに超えるライブエンタテインメントだ。衝撃のラストは観客参加型。体験の価値は、あります。オーバーな言い方だけど、ひょっとしたら、演劇の固定観念を破壊してくれるかも。
歌と踊り、涙と笑いというフレーズは、よくある宣伝文句だろう。座高円寺が出したこの舞台宣伝にもあったと思うが、私はこの舞台の真髄は意外性、驚きだと思う。驚きを先に開陳するわけにはいかないから仕方ないのかもしれないが、これに気づくまでは少し眠い。だが、一旦走り出したら止まらない。
最初から、いや、途中からも今ひとつ乗り損ねてちょっと損したというか、早く真髄に気付かなくてごめんなさい。
魔笛
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2016/01/24 (日) ~ 2016/01/30 (土)公演終了
満足度★★★★
見どころ満載のオペラ
モーツァルトの最後のオペラという。とても演劇的な舞台だから、視覚を楽しませる工夫が満載だ。新国立劇場の舞台装置だからできる仕掛けも多い。空中を降りてくるゴンドラなどは、テーマパークのようだ。
オーケストラは演出に合わせて少し控え目のようだ。だが、超低音のバスと超高音ソプラノの競演には感動する。
城塞
劇団俳優座
シアタートラム(東京都)
2016/01/06 (水) ~ 2016/01/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
この衝撃はすごい
安部公房は初演のパンフレットで「これは喜劇なんです」と書いたという。確かに、見終わってから思い起こすメタファーとしてはそう感じられるところもある。だが、これは父と息子の強烈な舞台だ。時間を止めてしまった父を破壊することで、息子も自らを破壊してしまった。戦争で財を成した家族にとっては、まだ戦争は終わっていないのだ。
特に後半の演出、そして登場する5人の俳優が見事にその仕事をやってのけた。最後の暗転で、座席に釘付けになるような衝撃はすごい。舞台芸術ならではの体験だ。
JAM TOWN
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2016/01/13 (水) ~ 2016/01/30 (土)公演終了
満足度★★★
見どころはダンス
ストリートダンスのYOSHIEの振り付けだけあって、見どころはやっぱりダンス。物語の展開はともかく、音楽も切れがよくライブ感覚が満載だ。演出はそのコンセプトにマッチしていてなかなかの出来。横浜という雰囲気が強調され過ぎかとも思うが、テイストは好きです。
王女メディア
幹の会+リリック
東京グローブ座(東京都)
2016/01/09 (土) ~ 2016/01/16 (土)公演終了
満足度★★★★
魂を揺さぶる平幹二朗
一世一代の再演である。平幹二朗の鬼気迫る舞台に客席は静まりかえった。80歳を超えて、この迫力。
演出は、昨年亡くなった高瀬久男さんがタッチしている。
シンプルだが、妥協策を許さない厳しさがある。9人の男性俳優がぶつかり合う。そういう視点で見ると、二人の息子を人形にしたのは効果的だと思う。
やはり、平幹二朗に始まり平幹二朗に終わる舞台。一世一代に立ち会えて幸せだ。
街と飛行船
劇団昴
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2016/01/09 (土) ~ 2016/01/13 (水)公演終了
満足度★★★★
現代を映し出す不条理劇
仮装家族とか、レンタル家族とか。今ではそれほど珍しくないお話が、既に別役作品で1970年代に世の中に提示されていた。その先見性に驚くと共に、この作品を鵜山仁演出で、シュールな舞台に仕上げたところは大いに見る価値がある。
劇団昴の生きのいい役者たちが、街の住人たちを演じている。創立メンバーである北村総一朗が高齢の市長役で登場する。小室等作曲で劇の語りとしての音楽が効果的だ。
仮想の街に月のように浮かぶ飛行船が何を表しているのか、というのが観劇後の酒のつまみになるだろう。見る人が十人十色で語ることができるのは、やっぱり別役作品なんである。
花より男子 The Musical
東宝・キューブ・ネルケプランニング
シアタークリエ(東京都)
2016/01/05 (火) ~ 2016/01/24 (日)公演終了
楽しめます
原作が好きな人はもちろん、あまり知らない人も楽しめます。会話劇の得意な青木豪さんのなせるわざかな。
でも、一部の人の歌唱に若干の不安も。尻上がりに調子が上がることに期待!
東京裁判 pit北/区域閉館公演
パラドックス定数
pit北/区域(東京都)
2015/12/22 (火) ~ 2015/12/31 (木)公演終了
満足度★★★★★
見事な裁判劇
青年座の「外交官」を見てから、野木萌葱さんのファンになった。この「東京裁判」は絶対に見たいと思っていた。なんと年末押し迫ってまでやっている。しかも、パラドックス定数が劇団化したときに「東京裁判」を上演したその、東京・王子の小劇場で。その小劇場は年内で閉館という。これはもう、絶対に行くしかない。
会場は若い観客で超満員だった。ものすごい熱気の中繰り広げられた会話劇は、A級戦犯たちを弁護する5人の男たち。右上の裁判官に向かい、正面の検察官に向かい、男たちは奮闘する。戦勝国の論理で裁かれる敗戦国の政治指導者たち。私は個人的には、国家を破滅に導いた指導者たちはそれ相応の責任を取るべきだと思っているが、この弁護の男たちは、それぞれ個人的に様々な物語を抱えていて、それが、この裁判劇を奥深いものにした。
この脚本は見事だ。それを演じきった5人の俳優にも拍手を送りたい。
ガーデン~空の海、風の国~
オフィス3〇〇
ザ・スズナリ(東京都)
2015/12/16 (水) ~ 2015/12/29 (火)公演終了
満足度★★★★
命をつなぐ水を、庭にまく
渡辺えりが約20年の時を超えて再演。中嶋朋子を迎えての舞台は、小劇場に力強く、不思議でしかも妙に現実感あふれる世界観を描いてみせた。
庭にまかれる水が、原始からの命をつないでいく。演出家としての渡辺えりが思いを込めたのは、小さなころから苦労のし通しだった実のお母さんへの物語という。各所で小さな笑いを取りながら、不思議な感覚のまま進んでいくのは、女性という生き物の人生を微妙な変化をつけて描いているからだろう。
渡辺えりと中嶋朋子の早変わりがすごい。この実力派女優の力演を間近で見られる。それだけでも見る価値があるが、初演時とは比べものにならないほど不安定さを増した今だからこそ、体全体で受け止めたい世界観だ。
<不思議の国のアリス>の帽子屋さんのお茶の会
演劇集団円
シアターX(東京都)
2015/12/19 (土) ~ 2015/12/27 (日)公演終了
満足度★★★★
不条理を優しく包むファンタジー
不条理劇の別役実作品。別役フェスティバルでは、以前に俳協が上演したものを見たが、冬休みの子ども向けにアレンジしてあって毒味を優しく包み込むような出来映えだ。ドタバタのギャグを織り込み、子ども客の笑いを引き出して、とても明るい舞台だ。
といっても、単なるコメディ仕立てではなく、やっぱり別役作品。辛口の部分もたっぷり。子どもにもちゃんと、世の中、そう簡単でないよと語りかけている。
熱海殺人事件
ホリプロ
紀伊國屋ホール(東京都)
2015/12/08 (火) ~ 2015/12/26 (土)公演終了
満足度★★★★
今しか見られない再演
つかこうへいの名作を、つかとともに演じてきた風間杜夫と平田満。そして、つかの愛娘というメンバーで見られる機会は今後また、巡ってくるのか。そう思うと、今しか見られない再演と言えるのかもしれない。
つか作品独自のスピード感が、何だか心地よい。愛原実花も本当によく、食らいついていた。演出のいのうえひでのりは、この作品に特別な思い入れがあるという。昭和テイストを絶妙にアレンジしているのも、思いの強いの表れだと思う。
口笛は誰でも吹ける(Anyone Can Whistle)
タチ・ワールド
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2015/12/17 (木) ~ 2015/12/23 (水)公演終了
満足度★★★
失敗作とは思えない
あのソンドハイムの作品なのに、ブロードウェイではあっという間に打ち切りになったという。それゆえ、ほとんど上演されなかったというミュージカルを見る機会に恵まれた。
派手さはなく、多少理屈っぽい感じもあるが、駄作とは思えない。「世の中全部狂っているが、確かなものはある」というくだりも、共感できる。
演じた俳優たちも、なかなかの実力派だ。エコー劇場はそれほど大きな舞台ではないが、演出もシンプル。ただ、長尺のセリフに聞き取りにくいところがあって、舞台から視線が外れることも。