I元が投票した舞台芸術アワード!

2020年度 1-10位と総評
黒い砂礫

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黒い砂礫

オレンヂスタ

総論として、ヂスタ得意の演出「描く対象とは異質の素材を使った美術/道具の運用により、具象と抽象の狭間で揺れ動いている感覚」は今回も秀でて、身体表現とも相性が良い。ドミノノで培ったモノが高密度に圧縮され、七ツ寺の近距離で身体/心理が迫る力は小劇場の醍醐味そのもの。

そして綺麗事では済まない登山の裏側を感じさせる現実味にも痺れた。マイナーな中にも厳然と存在する悪意なきマジョリティとの軋轢、否応なくカテゴライズされ切り捨てられる個人としての存在。一般的に山屋(登山家)のドラマとして注目されそうな、自己と極限状態との闘いではなく、多分に…題材として「個人と社会の軋轢そのもの」をそのままライブで提供している感触でした。結果として問題解決としての切り込みの甘さは否めませんでしたが、その渦中で思い悩み苦しむ人物の表現は人間ドラマとしての魅力に長けていました。

『煙草とguyについて』『どうせなにもみえない』

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『煙草とguyについて』『どうせなにもみえない』

演り人知らズ

2作の45分の中編が観れる公演。
「どうせなにもみえない」は、役者を1人増やしてのリメイクで、前作と重ねてみると、解釈が深まって面白い。
「煙草とguyについて」は新作だが、コミカルで理屈っぽい出だしから、次第に極めてシニカルで男の身には耳の痛い切り口が満載。ダンサーでもある役者の登用で生まれる… ヤバいシーンの演出にも面白みがあった。

ともに優れた作品でしたが、この順位は特に「煙草とguyについて」を推してのものです。

劇王2020

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劇王2020

日本劇作家協会東海支部

決勝に残った
「残像」
「死ぬ時に思い出さない今日という一日」
「天国と地獄」
…はいずれも極めて秀逸で、かなり趣味にも合いました。

人ノ形

4

人ノ形

オレンヂスタ、演劇ユニットnoyR

オレンヂスタ 『光の園』は上演中止になってしまいましたが、noyR『アイデアル』がとても面白かったのでかなり満足。

夫の母の死後、若き夫婦の元に吹いた一陣の風。夫のカミングアウトはセクシャリティに留まらず、彼に纏わりつき…摺り込まれ… 歪められた価値観を露わにしていく。しかし…拒絶された妻もまた"普通"じゃなかった。描かれる人ノ形、愛ノ形、数多の理想。

戯曲自体かなり面白いが、演出としてコンテンポラリーダンスも交えて描写される出来事は… 抽象と具象が入り混じった感覚を与え… 言葉以上に演技で訴え掛ける情報も多くて、想像が膨らむのが素晴らしい。

ラクダ

5

ラクダ

16号室

2018年に私の観劇で年間ベスト5の逸品がトリプルキャストを引っ提げて再々演。

演出の基本路線は前回の再演を踏襲した印象でしたが、客席も取り込む様に作り込まれた店内装飾は相変わらずの絶品、中盤から終始ヒリヒリする場の空気の作り込みは秀逸でしたねぇ。そして、舞と後藤… 2人の冴えない人間が、それまでの生き方を180°反転させる転機を得て、足掻き、寄り添い、対峙する展開には何度観ても滅多刺しですわ。

INDEPENDENT:20

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INDEPENDENT:20

INDEPENDENT

コロナ禍の中、今年もなんとか観に来れて、出来もとても良質で本当に良かった… 幸せ。最後に来年実施の4SS(4th Season Selection)の告知もありましたが、私は観始めが3SSだったから、ちょうど1Season廻ったなと感慨深かったです。

とりあえずオーソドックス系では「くいくがりのなみだ」の作りがピカイチに好み…心理弄ばれたわ〜 さすが関戸さんのホン。

一方、全く想定外から攻めてきた「このカラダ」「七転罵倒」のインパクトが凄い… 特に前者は筆舌に尽くし難い異次元のモノだ。

「Lisa」はエンタメをギュウギュウに詰め込んで鳩川さんの演技が心地よかったなぁ。

「YAKISOBA」はまさしく「今」に刺さる芝居として今回挑んでくれて良かったなぁ… ただ上手客に超厳しい笑。

「02:解なし」は反則やん笑、失業夫婦の一体感の見事さに対するご祝儀なのでしょうか?、客にとっては楽しけりゃ良いんですけど、あるいは次シーズンに向けての運営の布石なんでしょうか?… な〜んて。

燈籠

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燈籠

perky pat presents

実に味わい甲斐のある芝居をされていました。TLでは不幸が似合いすぎると評判でしたが(笑)、そこからの反動たる凛とした空気、狂ったかと見紛う主張の強さ…そしてそれらが…さき子が受け続けた抑鬱や理不尽ゆえと窺わせてくれる深みが… ある種の社会風刺まで感じさせてくれて、何重にも美味しい芝居でした。


かもめ

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かもめ

第七劇場

原作の後日談的な時系列の中、フラッシュバック的に「かもめ」のシーンが差し挟まれる構成。自らの夢の挫折と… コーチャスの自殺への自責の念で心を病み、精神病棟に隔離された独自設定の「ニーナ」を核に展開する。潤色/翻案というよりスピンオフ的な切り口で原作の中にある「弱き者への眼差し」に絞って再構成された様にも感じました。いや… のみならず、この中には… シチュエーションに合わせてか、作中10分程がチェーホフの他作「六号室」等のテキストの引用だそうで、チェーホフのこの思想のエッセンスになっている…と言えるのかもしれません。

けむりのゆううつ

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けむりのゆううつ

劇団芝居屋かいとうらんま

想い人達の“逢いたい想い“が… “逢えない社会事情“に翻弄される悲恋の名作「八百屋お七」を… コロナ禍での想いも込めて大胆アレンジ。禍難の愛のみならず… 周囲が作り出す「身勝手な真実」にも比重を置き、社会風刺としても刺さる。

#456789の舞台

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#456789の舞台

とよた演劇祭

人類がその個性として 1677万種のコードで識別される "色" を生まれ持ち… 色相における反対色を持つ者同士は… 触れ合うだけで物理的な危険が及んでしまう分断社会。

星新一を彷彿とさせる… 日常にSFを滑り込ませた様な設定にまず引き込まれる。そして、それに対する人と社会の在り様が…しっかりと「現実」を暗喩し…シニカルな風味になっていることもまた然り。上質なショートショートの佇まいでした。

親から子へと繋がっていく物語構成も… 人の想いと時の流れの重奏な響きを作り出していて、メッセージに深みを添えていましたね。

色というモチーフを反映した… シンプルだけど印象的な衣装に… それを味付けする様々な効果。映像を照明の様に投影し… 光・水・波紋といったイメージで彩る演出も眺めていて心地よかった。

そして本作の象徴とも言える「赤い海に青い夕陽」の絵画… それそのものは舞台上には現れませんが、その絵画を前にして驚きに包まれるソラとアサヒ… その2人の少女のえも言われぬ表情は… 本当に見事にその感動を表していて素敵でした…とても好きなシーン。

彼女たちが眺めているその絵画の素晴らしさを… 見事にその表情に写し取っていて、観る者にそのまま伝えてくれていた感じでした。

総評

コロナの影響でそもそも公演自体が激減したため、生での観劇は昨年の半分に減りました。
しかし、そんな中でも公演に踏み切ろうと作品群はやはり気合いに並々ならぬものがあるのを感じました。

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