1
つぐない
劇団あおきりみかん
「サイコミステリー」だと思っています…それもかなり洗練された。
仕組まれる数多のミスリード…その最たるものが「彼女自身の全ての記憶と発言」という大胆さ。
事実に反して、彼女の発言・行動の全てに掛かっていた自己否定のバイアス。
その果てに、逆に周囲に「罪悪感がない」と映る構図が巧妙。
そして、本作が只のミステリーで終わらなかったところが、…その話のピースたちの接着剤に、…「罪の意識」、自滅に誘う「過剰な献身」等の人間の根源的な命題を使ったところ。
ミステリーが、とても深淵な人間ドラマになっていった。
至った結論ではなく、そこに至るまでの2人の苦悩と過程こそ、本作の核心なんでしょう。
2
声の温度
よこしまブロッコリー
むちゃくちゃ好みのお話でした。
コミュニケーションの研究者 ツバキの物言いにゾクゾクする。対比的な構成、役者の演技も効果的。
コミュニケーションはあくまで双方向のもの。受け手の適切な姿勢があればこその難しさ…そして可能性か…。そして本作で、文字コミュニケーションに活路を見出そうとする姿勢は、劇作家の姿勢ならではかも。戯曲も、演出や演技次第で…さらに観客の受け取り次第で、演劇は変わっていくものね。
最後に、奇しくも前週に公演のあった「空宙空地」と対比する。
「声にならない」で声とは「言葉」そのもの。言葉を外に出すのが声だったと思う。「声の温度」では言葉に「感情・真意」を乗せるのが声だ。共に不自由さに喘ぐ人たち。類似のキーワードで良い芝居を立て続けに観れて大満足。
3
声にならない
空宙空地
驚いた。
いつもは分かりやすく心に響く空宙空地ですが、印象をどう表現すべきか直ぐには言葉が出なかった。
こんな表現の仕方があるんだなと目から鱗。
空宙空地は今まで伝わる言葉で観る人の心を震わせてきた。
今、敢えて「伝わらない言葉」で迫ってきたと思う。想いを表現する語彙を持たない…そもそも自分にも自分の想いが分からない…発散する術を持たずにもがき苦しむ人が主題なのだろうか。
…どんな人にも寄り添う「空宙空地」真骨頂の、また新しい一面でした。
4
『夫のオリカタ』
演り人知らズ
いばさんがちょっと今までと違う作風の作品を書き始めた感じがありますが、その装いこそ…今までと違うトレートな感じはあるのですが、やはり後味は今までと同様に…一本筋の通った「既存の価値観に抗うもの」ではないかと思えました。
…それは個人の「幸せのアリカタ」。
故人に囚われて生きることを、社会一般では良しとしないことが多いし、創作の世界ですら…それを乗り越えて現実を歩き出す結末が多い気がします。
でも、そんなの社会の都合に過ぎないんじゃないか…と思わせる後味。
5
アナウメ
廃墟文藝部
哀しい結末しか想像できない…非常に統一感のある空気作り。特に舞台美術、音楽、そしてアンサンブルキャストたちの声と動きによる「空気」の支配力の高さが非常に際立った。脇役と見られがちなモノたちによる…観客の心理を誘導する力強い影響力は見事でした。
6
車窓から、世界の
iaku
舞台は地味なプラットホーム。日常の様でいて何か違和感含みのイントロ。恋人同士の関西特有の他愛の無いやりとりから、見え隠れし始める異常事態。固唾を呑むとはこのこと。原因定かでない悲惨な事件を核として、次々と剥がれて見えてくるショッキングな事実。サスペンス感だけで相当な重みだが、その実…やはりiakuの十八番、議論芝居の真骨頂。
7
きんかく九相
劇団芝居屋かいとうらんま
全般的にしっかりコンセプトに即した…統一感と美しさと奥深さを感じる舞台美術。
そこに、ただでさえ窮屈な世相の中で、自身の障碍から波及する精神の著しい閉塞感を役者が表現し、そして…そこから生まれる美しいものへの渇望と憎しみ、身勝手な理想から溢れ出す「狂気」を舞台上に映し出した。そして最後のどんでん返し?… 原作から一歩抜け出した印象です。
8
悪い癖
匿名劇壇
決っして解決しない悩みを…現代でより強まるこの無力感・虚無感を…より鮮明に見せてくれた感じ。今回のメタ感の強さがザ匿名劇壇なのかな。にわかファンなので今回の再演は凄く嬉しかった。
9
無風
オイスターズ
不条理感漂わせながら、思わず法則性を探してしまう… 引き込まれる感。
旬の女優7人体制というのがまた美味しかった。
10
さんじょのおつや
劇団 いがいと女子
さすが天野脚本、唸るわ、この仕掛け。
ホンワカいが女面子の絡みが…徐々に放電家族ばりのミステリー感を纏い、更にそれで終わらない人間ドラマを構築。
クセ者作演ペアお見事。いが女メンツに客演男子が凄く効いてて、かなり幅の拡がったお芝居でした。