タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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最終回のそのあと

最終回のそのあと

獏天

Geki地下Liberty(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/09 (水)公演終了

満足度★★★★

表層は軽量だが、中身は重量
苛烈な戦闘(跡)場の光景と個人の卑小な欲望が繋がって行く。その妙笑はまぎれもなく面白いのだが...。

子供たちのヒーロー「ウルトラマン」が登場したのが1966年だから、今から半世紀も前のこと。本公演はそのパロディ化しつつ、ウルトラマン(本公演では別の呼び名)と怪獣の戦闘後、その廃墟のような場所で暮らしている人々を通して、現代日本の姿(問題)に重ねる。表層的にはコメディであるが、その描く中身は重厚なもの。

(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台セットはほぼ素舞台。あるとすれば上手・下手に固定された椅子2脚。上手側に2階部分を設け、別場所をイメージさせる。設定は毎週定刻に始まるウルトラマン(物語では「ウルターマン」)と怪獣の戦闘によって破壊された街の一角。南伏見第七高校の体育館、そこに避難している卒業生などの人々の会話を通して、今の日本の問題が炙り出される。
人間の身近な感情としてそこに居る男女の恋愛話が入ってくる。「国家」と「個人」の問題を往還させ、世界観をより面白く観せるところが巧み。

その問題は、(老齢)年金・(消費)税金・(平和)海外派遣など広範囲にわたる。そこには戦闘は国家責任ではない=制限的な復興支援策。一方、復興事業による大手ゼネコンが潤うという、他人の不幸は蜜という構図が見える。明らかに震災に絡めた問題の投げかけである。
特にウルターマンは世界最強の兵器として海外派兵できるか。その陰謀とともに徴兵制の姿がちらほら見え隠れするところが怖い。

元になっている「ウルトラマン」に登場する「バルタン星人」(本公演でも同じ)は、故郷の星が核実験で住めなくなり、宇宙難民になったために地球にやってくる。最初は地球人との共生を試みるが、それを断られたので...。名前の命名は、当時戦争の火薬庫であったバルカン半島に由来するらしい。
また、劇中でマイクを持ってアイドルが歌うシーンがあるが、これは「アイドルを探せ」などのヒット曲でしられる歌手シルヴィ・バルタンの名から付けたとの話があるため、挿入したのだろうか。いずれにしてもパロディという柔らかい皮で包み、中身はしっかり硬(高)質に仕上げており、観応え十分である。

さて、素舞台であるだけに役者陣の演技力が内容の良し悪しに影響する。本公演では総じて若い役者であるが、一様に大声、というか怒鳴り声のようで感情表現が単調のように感じた。もう少し状況・情景描写に配慮した演技があればよかった。その点が少し残念であった。

次回公演を楽しみにしております。
着メロはお気に召すまま!

着メロはお気に召すまま!

CAPTAIN CHIMPANZEE

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★

面白いが...
物語は荒唐滑稽の展開であるが、飽きさせることなく観せる。その要因は場面の観せ方や構成が分かり易く、テンポがよかったことだと思う。その意味で丁寧な作り方であった。

物語の設定は近未来のようであり、少し時代を遡るような...時代背景や場面設定を曖昧にすることでリアリティに距離を置いている。そうすることで、ファンタジーとして(多くのツッコミ所を含め)、非現実世界であることを表している。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

素舞台...それだけに役者陣の演技力が重要になっている。梗概...家庭用ロボット販売営業所の中年女性社員・海野渚(池上映子サン)が主人公。性格・生活態度は受動的で、仕事一筋に生きてきたが、最近は後輩にも営業成績を抜かれ恋愛も仕事も思うようにならない。そんな時、誤って携帯電話を噴水に落としてしまう。そこに現れたのが少し怪しげな女神。 「お前が落としたのはこの金の携帯か銀の携帯か、それともスマホか…」 、もちろん正直に落とした電話を指すが渡してきたのが金の携帯電話である。寓話「金の斧、銀の斧」のパロディシーンである。そしていつの間にか、外国の王女の護衛をするはめになり、その婚約者の王子ともども悪の手から二人を守るような展開へ。金の携帯電話には、掛けた相手に一時的に変身でき、また相手の本心が分かるという”力”が秘められている。戸惑いながらもその”力”を駆使し...いつの間にか能動的になっている自分がいる。

公演は少し誇張かもしれないが、”メタ・フィクション”のような気がする。いわゆる劇中劇...主人公の周りの人々や出来事が彼女自身の成長へ繋がって行く。彼女の正直な気持(流される面)の表れと行動が周囲へ影響を与え次の場面へ誘う。もちろん”力”によって変身(登場人物としての役者が入れ替わる)などの演出が見られる。

彼女の成長・変化という まじめパート、ヒーローとダーティの格闘シーンにおけるドタバタパートが絶妙なバランスで成り立っている(本筋だけ追うなら不要だと思う)。そのどちらのパートもコメディという大枠の中で生き(人)活き(ロボット)と描かれていた。また携帯電話の新旧機種に準(なぞら)えた教訓的なことも垣間見える。

どこにでもいそうな(普通)人物の成長という堅い話をドタバタ騒動の中で面白可笑しく観(魅)せる。その演技...役者は熱演であったと思うが、それでも想像力をフル回転させなければ...。

次回公演を楽しみにしております。
パートタイムチィーチャー

パートタイムチィーチャー

遊々団★ヴェール

TACCS1179(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★

分かり易く楽しめる!
勧善懲悪のような分かり易い物語のように思っていたが、終盤近くに公演テーマが浮き彫りになってくる秀作。少し遊び心が多いような気がするが、本筋を引き立たせていると思えば卑小なこと。
タイトルから教師が主人公であることは明らかであるが、その職業に限らず、人の素の部分を描いている。この公演、教師と生徒などの登場人物だけではなく、観客である自分自身でも考えるところがあった。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

舞台セットは教室内。下手に教壇、それ以外は生徒の机・椅子、上手・下手側に出入り口扉。舞台億は高くなっているが、廊下という設定のようだ。役者の立ち位置、特に校長はその立場において上から目線をイメージさせる。
登場人物は多いが、そのキャラを立ち上げ彩り豊かにしている。また演技のバランスもよくテンポも心地よい。

梗概...教員採用試験に合格できない女教師・武田海未(川崎香織サン)が主人公である。そんな彼女が産休中の教師に代わり教壇に立つことになった。この学校は定時制を併設している私立学校、担当はその定時制で卒業まであと半年の4年1組の担任である。就任早々4人の転校生が転入してくるが、これは今後の展開の伏線である。定時制というシチュエーションは、学校(教室)というよりは、その在校生一人ひとりの境遇・経歴に焦点が当てられる。
本公演もその王道的な観せ方を踏まえ...全日制と違い年齢や境遇の違いを面白可笑しく、時にしんみりと描き、物語に引き込んでいく。

勧善懲悪における悪者と悪事に準(なぞら)えているのは、校長が定時制の廃止を企み、その原因・責任を新任教師のせいにしようとしていること。経営的な立場から定時制の悪イメージ(全日制の生徒への暴力行為)の払拭、少子化対策として進学校への転換を図ること。私立学校としての発想、そこで校長の立場が鮮明になる。しかし、校長である前に校長”先生”であり教育者であることを諭す者が現れ...。実は校長は定時制高校出身者で、苦労した教員人生だったことが明かされる。「定時制」の存在が苦労の出発点のような。

この校長先生の表裏の意図は終盤近くに分かってくるが、それまでは教師と生徒が一丸となって定時制廃止反対(別の退学問題が契機)の示威行動。教育現場は生徒の教育だけではなく、教師にとっての成長の場でもある。問題が直面した時、その解決の糸口として自分はどうしたいのか、その本心に従って行動する。少し教訓めいているが教師に限らず人の生き様そのものではないだろうか。
公演はドタバタコメディであるが、観終わってみれば清々しい気持にさせてくれる。
そういえば、校長は新任教師を陥れようとしたり、生徒の弱みに付け込んでスパイ行為をさせているが...その責任はどうなったのだろうか。

次回公演を楽しみにしております。
ドラマ>リーディング『近・現代戯曲を読む』

ドラマ>リーディング『近・現代戯曲を読む』

Minami Produce

ルーサイト・ギャラリー(東京都)

2016/11/03 (木) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

早く書かずにはいられない公演【昼の部】
会場は、浅草橋にある古民家ルーサイト・ギャラリー 、自分は初めて訪れた。隅田川沿いにあり、対岸には旧安田庭園、両国国技館がある。上演後、ベランダに出るとスカイツリーも見える。そんな風景を借景するような演出が巧み。
(上演時間70分)

ネタバレBOX

ドラマとリーディングで中途半端な演出になるかと思ったが、動作は最低限に抑え、台詞(言葉)による感情表現に力が入る。それゆえ、観客の想像力を刺激してくる。それだけ役者の表現力が素晴らしいということ。

さて演目は昼・夜で異なる。
昼の部
【星にリボン(作・荻原伸次)】
真夜中。あるビルの屋上に一人佇む若い女が死神と語らう。夜空に飛び出す覚悟を決めた女に、死神は手をさしのばす。しかし踏ん切りがつかず...。私の存在、そして生きている世界はどこなの。そんな自問自答の末に死神から言われた言葉...この死神、天死(天使)のような。

【日射し-家族の歴史-第一部のみ(作・長堀博士)】
目を瞑るとまばゆい日射し。ひび割れた大地を水のタンクを運ぶイメージの旅。三姉妹には兄(名は「太陽」)がいたが、長女が生まれる前に亡くなってしまった。しかし、いつも家族の中にその存在を感じていた。母と父の馴れ初め、三人姉妹の成長と現在の姿。そして亡き母の思い出が回想される。
二部は、父が芸者と懇ろになり、てんやわんらの騒動になるとの紹介が...。実に興味を惹かせる。そういえば、この会場の住所は柳橋一丁目、芸者が多くいた場所(花街)ではないか。

「星にリボン」は、もちろん夜の話で、場内は雨戸を閉めたまま。「日射し」は一転、日(陽)を感じる物語であるから、雨戸を開け太陽光を取り入れる。そして後景は隅田川、JR総武線が走るのが見える。この二話の間には休憩がなく、一気に暗・明の転換するような印象付けをする。
そして、欄間の木枠から橙色の柔らかく優しい(間接)照明が...。

とても素晴らしいドラマ>リーディングであった。
次回公演を楽しみにしております。

ちなみに、夜の部は次の二作品である。
・班女(作・三島由紀夫)
・葵上(作・三島由紀夫)
ホテル・ミラクル4

ホテル・ミラクル4

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2016/10/28 (金) ~ 2016/11/07 (月)公演終了

満足度★★★★

ラブホテル・ミラクルでの一夜
ラブホテルのイメージは、欲望と情念のようなジュクジュクした感情が滲み出てくるもの。本公演は、その陰湿・猥雑よりは、どちらかと言えばカラッと乾いた印象である。

短編5本はどれも面白いが、それは単純にギャク的なことではなく物語...男女の距離感をしっかり表現している。
上演時間2時間、それは新宿ラブホテルの一般的な休憩時間をイメージさせるもので、観客がソッと隙間から覗いている気分にさせる。

ネタバレBOX

客席はL字型ひな壇で、ホテル室内の肢体・痴態を覗いている。
薄暗い部屋...ダブルベットとサイドテーブル、ソファー、テーブルと椅子2脚。出入り口近くにスモークガラスのシャワールーム。ベットにそうように黒ソファーがあったが、芝居で使用することはなかった。帰り際に聞いたところ、客席だったようだが、誰も座らなかった。

梗概(5編)は次のとおり。
1.「ホンバンの前に4」
  前説を兼ねており、特に携帯電話の電源OFF。

2.「メキシコ」
  冴えない童貞男とかわいい女の訳あり一夜。女は彼氏を殺し警察の捜査から逃げている。そのために童貞男とラブホヘ逃避行?

3.「楽しい家族計画」
  男が家族のために部屋を改装したい、その相談事をラブホで行う。男・女(建築士)とも既婚者で、改装相談が、いつの間にか男女の人格・性癖へ話が逸れて...。男はこのラブホの経営者で、この部屋を改装したいと。

4.「後戻り出来ない女(まもる 2016年版)」
  出会い系サイトで知り合った年の差カップル。女性は独身キャリアウーマン、ミラクル4ならぬアラフォー。男性は24歳。ホテルへ入ったはいいが、年の差で話題やカラオケの選曲が合わない。この2人は特別な関係であり、それを解き明かす第三の男が登場する。

5.「グリーブランド」
  酔い潰れた女とラブホで一夜を過ごすが...。ヤるチャンスがあったのに行為をしない男に向って女は、明日遠くへ行くという。それはグリーブランド...それってどこにある国なの。女の誘惑にも優柔不断な態度の男。女が部屋から出たところで...一言。

どの物語にもクスッと笑えるオチがある。全作品にラブホという少し妖しげな雰囲気の中で、男女の距離感が伸び縮みする。または話を適度にねじり、巧みに流れに渦を作り掻き回す。室内の濃密な関係が、軽快なテンポで繰り広げられる。このアンバランスのような演出がたまらない。
シャワーを浴び、バスローブ姿の女優陣がエロティックでドキドキ、そして展開にハラハラして楽しめる。

最後に、薄明かりの中で次作品のベットメイキングをしているが、出来れば女優陣(ラブホのベットメイキング=女性のイメージ)のほうが艶めかしいかも。

次回公演を楽しみにしております。
治天ノ君【次回公演は来年5月!】

治天ノ君【次回公演は来年5月!】

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2016/10/27 (木) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

骨太・重厚作品…素晴らしい!
「天皇とは何か」劇中の台詞である。多くの臣下はその問いに答えられない。大隈重信だけが…。シンプルな舞台セットであるにも関わらず、骨太な内容を濃密な会話で紡いでいく。謁見の間であろうか、その場は緊張感に包まれているが、役者は生き活きと演じている。その一言ひと言の台詞に史実(フィクションと説明)が透けて見えてくる。明治はもちろん、大正時代も遠くなったと思っていたが、最近11月3日を「明治の日」にしようと祝日法改正運動が進められているらしい。
本公演は、戦争と平和、天皇家における父親と息子、さらには疾病への偏見(新聞報道)など、現代に通じる問題提起をしている。

ネタバレBOX

舞台セットは、背凭れに菊の紋が入った椅子(玉座)、床に斜めに敷かれた緋絨毯が色鮮やか。上手側・下手側に出入り口、客席花道も利用し奥行き感を作り出す。

物語は大正天皇が皇太子の時から、後の昭和天皇になる皇太子裕仁が摂政に就くまでを中心(1900年頃から1921年頃)に、その間に東宮輔導・有栖川宮威仁との親交、九条節子との結婚などのエピソードを交え、「天皇」を全うする姿を力強く描いた秀作。シンプルな舞台ゆえに、役者の演技力が重要であるが、全ての登場人物がその立場・役割を体現しており、圧倒的な存在感は観客(自分)の心を揺さぶる。明治天皇の感情を持たない姿、一方大正天皇の人間天皇に近いイメージの対比が国家・時代の違いを際立たせる。
大隈重信曰く「(明治)天皇」とは近代日本が列強に対抗するため「神」として祀り上げた神棚のようなもの。奉るが拝みはしない、と辛辣に言い放つ。舞台は骨太い、重厚という雰囲気であるが、その中に反骨精神も垣間見える。

皇太子裕仁によれば、父(大正天皇)は早く生まれすぎたかもしれないと。摂政(大正10年)から僅か25年で皇太子(昭和天皇)自らが”人間宣言”することになろうとは...。明治と昭和に挟まれた15年という短い期間(時代)、それは天皇の人柄を反映したかのような落ち着きと自由・解放さ、”大正デモクラシー”という言葉が表しているようだ。

暗君と揶揄され、明治・昭和天皇のように誕生日(生まれたこと)が無かったことにされる。後世の国家・政治的な思惑で作られた偶像とも観て取れる。
このような狭間(はざま)時代と取り上げにくい「天皇」を題材にする勇気というか大胆さに驚かされる。国家は体制・権力を守ることに専念し、人は歴史の中に消えていく。それは「天皇」であっても例外ではないのかもしれない、と強く感じつつ、改めて現代の色々な問題を考えるきっかけになった。

次回公演を楽しみにしております。
『みんなしねばいいのに』

『みんなしねばいいのに』

うさぎストライプ

アトリエ春風舎(東京都)

2016/10/23 (日) ~ 2016/11/05 (土)公演終了

満足度★★★

室内が騒がしく面白いが...
ハロウィン、万聖節(11月1日)の前夜祭、悪霊を追う払う日...子供たちが仮装しカボチャに目鼻を刳り抜いたおばけランタンを持って家々を回る。
本公演は、女性専用のマンションに住んでいる私の室にも本物の幽霊がいる。この私の室以外に2部屋の住人が錯綜するように登場し、不条理ならぬ理不尽な振る舞いが...みんな死ねばいいのに。
場面ごとの面白さと全体を通してみた時の平凡さのギャップというか落差が勿体無い。同時に、上演時間75分にも関わらず、気になることが...。

ネタバレBOX

舞台セットは、中央にマンションの部屋...その奥壁は中央が窓、それ以外は飾り棚。そのBOXには ぬいぐるみ などの小物が置かれている。またいくつかのBOXはランタンイメージの照明が配置されている。そして上手側にテーブル・イス、下手側にベットが置かれている。若い女性が住んでいるイメージ。その部屋の周りは街路。またミラーボールがいくつか吊るされている。
3部屋は同じ間取りという設定、住んでいる住人が登場することで、誰の部屋か区別できる。その演出は分かり易く巧み。

女性専用のマンションに何故か男が出入りしている。マンションの私の部屋以外に上階とその隣室の住人が絡んでくる。外はハロウィンに浮かれているという設定であるが、その騒動は感じられない。逆にこの3部屋での出来事のほうが騒がしい。3組の女性が体験する厄介で迷惑な話々。

当日パンフの劇団紹介では、不条理を描くようなことが記載されていたが、この公演では、その道理というよりは不可解な印象のほうが強い。男の闖入してきた状況は理解の範囲であるが、半同棲のような状況はどうしてか。各室内の騒動は気味悪く、少し怖い雰囲気が漂う。この不可解な状況も含め、物語全体が仮想(装)の中に溶け込んでいるようだ。

さて気になるのは、上演時間75分という比較的短い物語において、カラオケで歌うシーンが多いこと、角(ツノ)男が窓から落ちて再生してくるリターンが多く話の展開が足踏みしているように感じる。不条理というよりも理不尽という印象であるが、その居直り的な不気味さ、不思議さは公演を面白可笑しくしているだけに繰り返しの多さが勿体無い。

次回公演を楽しみにしております。
愛よりも青い海

愛よりも青い海

斧頭会

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2016/09/14 (水) ~ 2016/09/19 (月)公演終了

満足度★★★

もう少し捻りが...
確かに、「二つの物語が同時進行し交錯するハートフルコメディー」であるが、どこかで観たことがあるような...新鮮味が感じられず、少し残念であった。

ネタバレBOX

梗概...マンションの一室で、男は幽霊と同居しており、その友人達とともに幽霊を成仏させる為に奮闘する。別の一室では、病状の妹の世話で長期休暇している男を職場復帰させようと同僚達が奮闘する。
実は、人見知りの女性が参加した小旅行時、交通事故が起きて彼女だけ生き残った。その事実を受け入れられない女性の心情、亡くなった人々からの想いで間接的にその事実を伝える。この過程を面白可笑しく展開する。

亡くなったことを意識している「霊」と、生きていることを自覚できない「魂」が交錯する、そんな不思議で少し悲しい物語である。誰が生きているのか、亡くなっているのか、その表現方法は登場人物の衣装に電飾または蛍光を取り付け、暗転することで姿(外形)を浮き上がらせる。そのシーンが多く、印象付けを意識した芝居のようであるが、現世・来世であろうと役者の表情や動作は観ておきたい。

芝居では、亡くなった人々がさも生きており、生き残った女性が死んだと思い込んでいる。その逆転したような脚本・演出は、どこかで観たような表現方法であり、新鮮味が感じられなかったのが残念である。優しくゆったりとしたテンポで心地よいが、話の見せ場(核)となる意外性の種明かしも早い段階で分かってしまう。もう少し物語に驚き・インパクト、さらに余韻が感じられれば魅力ある公演になったと思う。

次回公演を楽しみにしております。
永遠の一秒

永遠の一秒

インヘリット東京

川崎市産業振興会館(神奈川県)

2016/10/20 (木) ~ 2016/10/22 (土)公演終了

満足度★★★★

命の繋がり
本公演は、第27回(2015年)池袋演劇祭優秀賞受賞作品で昨年観たかったが、都合が合わず観ていなかった。今年も東京公演はスケジュールが合わず諦めかけていたが、神奈川の千穐楽・最終公演回を観ることが出来た。

この公演、カーテンコールで脚本・演出の畠山貴憲氏から「命の繋がり」がテーマである旨、挨拶があった。当日パンフにも「永遠の一秒」は特攻隊をモチーフに、命の繋がりを描いていると。

とても面白く感動していたが、終盤近くにその余韻を損なうような演出があり、少し勿体なく残念でもあった。
(上演時間1時間45分)

ネタバレBOX

舞台セットは、紗幕・縦長の木枠が3つ。まるで棺桶のような感じでもあるが、そこを爆撃機「銀河」の操縦席に見立てたり、1945年と2016年を繋ぐ橋のようなイメージにも受け取れる。

梗概...1945年-海軍宮崎赤江基地
特攻隊員である3人の若者が、怪我を負い出撃できなくなった仲間の原口に遺言を託し、爆撃機「銀河」に乗り込み、敵艦へ特攻した。そして21年という短い生涯を終えた…はずであったが。
目覚めた彼らがいた場所は、戦後70有余年を過ぎた現代の日本。状況を理解できず、現代を「死後の世界」(六道の一つ)と思い込む。そのうち就職・家探しを通じていつの間にか、原口の残した子や孫を通じて本人(原口)の元へと導かれていく...。

一度出撃すれば、二度と生きて戻れない、まさしく人間爆弾である。爆撃機「銀河」に見立てた箱、その狭い空間の中で悔しい自分の死を嘆くこともできない。本公演では、その極限状態を描き、単に表層の平和のみを主張した作品とは違う。特攻兵を現代へ呼び戻し、戦時と現代を対比させながら、観客一人ひとりに考えさせる。ヒロイズムや救いのなさ、生き残る者の感傷もないような...。原口は出撃できず生き残ってしまった、この老人の死んでいた戦友の亡霊とともにのみ生き延びてきた。その最期を看取るかのように現れた3人との魂の共鳴が感動的である。

現代の平和...そこには戦時を生き残り、命を繋いだ人々の苦しみ痛みの上にある、ということを忘れてはならない。この忘れてはならない記憶、それを直接知る世代が少なくなっている。体験を次世代に伝えるのが戦争体験者の責任だ、といわれる。それでは戦争を知らない者はどうすべきか。
戦争・戦後の混乱の記憶も今は風化しつつ、年表の記載に閉じ込められそうである。様々な思い出を抱えた世代は、どう対応するのだろうか。語るべきか、それとも心中に黙するのか。戦争(後)を知らない世代は、その未体験をどう受け取り、次世代へ語り繋ぐか、それが問題だ。

さて、気になるところ...終盤に紗幕に記録映像(実写)を映写していたが、あまりに直裁的であり、芝居らしい余韻が興醒めしてしまう。
物語は、原口の死期が近くなり、3人が迎えに来た。または原口の走馬灯のような回顧録であったかもしれない。どちらにしても夢か現か幻か...、映像よりは役者の息遣いに、今を生きていると感じていたかった。
そして音楽...クラシック、宗教音楽、軍歌などが挿入されているが、場当たり的な印象を受けたのが残念。

次回公演を楽しみにしております。
刺毛-シモウ-

刺毛-シモウ-

はぶ談戯

テアトルBONBON(東京都)

2016/10/19 (水) ~ 2016/10/24 (月)公演終了

満足度★★★★

極夜の世界...その観照は見事に描かれた
本公演...人によって好き嫌いが分かれそうな気がするが、この醜悪とも思えるような行為も人の一面(姿)であると自分に言い聞かす。

公演全体は妖しく、シーンによっては妖艶のような。色気と狂気の両方を見事に表現していた。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

人が潜在的に持っているであろう、嗜虐的・暴力性...それを主人公・御園陽一(加藤靖久サン)が一見怪しげながら、心に傷を秘めた男を静かに激しく演じていた。
表面を取り繕った言葉から、もっとドロドロとした本音を聞きたい。その行為は、相手(人間性)を壊し、自らも破滅に追い込む。むしろそれを望んでいるような破滅型人格を描いている。

舞台は、山奥の避暑地。 コテージが2棟並び、狗尾草(エノコログサ)が 別荘の廻りを囲んで生えている。上手側にはベンチが、下手側には壊れかけた物置がある。
主人公夫妻、若いカップル、それに職場の同僚(女性3人組)が宿泊客。そこに珍しい動画配信を目的に男2人。さらに浮気相手などが紛れ込み...。
人間性を壊す行為は、人の心の隙間にソッと入り込み、心と体を弄ぶ。全編そんな危うさと嫌(厭)らしさが漂っている。その表現として、スワッピング、同性愛などの艶(エロ)・性(サガ)の嬌(狂)態が随所に織り込まれる。

主人公の屈折は、子供の頃のトラウマ。隙間から覗いた両親の嬌態を見、また父の母への加虐行為への興奮か。その光景を妹と見ており、何時しか妹と...。その妹もこのコテージ物置の隙間から兄・陽一の行為を見つめていた。陽一が妹・根本恵里菜(佐河ゆいサン)と邂逅した時の慟哭が憐れ。そして妹がそれぞれの登場人物の台詞に沿う語り掛けが印象的である。

登場人物の描きは、生身・肉感的であるが、所々に詩的な表現があり興味深い。例えば兄・妹の母が自殺したであろう表現は、光(陽)の中で吊下がっていたと。役者の体現と台詞のギャップが面白い。

最後に、登場人物(役者)のカラオケシーンは必要であろうか。渡り芸人の楽曲は、嫌悪感に対する緩衝的役割を担っていたかもしれないが、頻繁に挿入されるカラオケは好まない。

次回公演を楽しみにしております。
四則演算

四則演算

sugarless

ART THEATER かもめ座(東京都)

2016/10/20 (木) ~ 2016/10/23 (日)公演終了

満足度★★★★

想い、重い物語...面白い!
人に危害を 加え、相手の気を 引いて、思いを 掛ける、そして友情を 割って...そんなことをして廻り回って心が満ち 足りるのだろうか。

物語は雑然・殺伐とした空間、緊張・緊密な雰囲気、登場人物の息遣い...独特なセンスが汗のように迸(ほとばし)る。大人の色香を漂わせ、カプセル兵団とは違う、新たな魅力を開花させた主人公・彩(中山泰香サン)。その脇を固める役者陣の演技も確かで濃密な物語に仕上がっている。

人によって好みが分かれるかもしれないが、この嫌悪感はけっこう好みである。脚本(物語)はわかり易く、むしろ公演の魅力は演出と演技がしっかり合って、迫力ある展開が見所であろう。

少し気になるところも...。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台セットは、地下倉庫という設定で周りの壁際にダンボール箱が積み重ねてある。中央にソファーとテーブルが置かれ、上手側奥に柵のような扉がある。舞台と客席の間を鎖(上演前・後)で仕切る。

梗概...突然地下倉庫に監禁された夫婦。なぜこのような目に遭うのか、その理由が判らない。戸惑う2人だが、この夫婦(特に夫人)の過去が明らかになるに従い、犯人・彩の心情が痛いほど解ってくる。彩は孤児院(希望の里)育ちで、卒院時に院の先生から両親の所在地を知らされる。その所在地には自称小説家の壊れた父がいた。母はそんな父を支えきれず、彩を置き別の男と結婚し、子・鈴夏(清水りさ子サン)まで産んで幸せに暮らしていた。その鈴夏と彩は偶然にも親友関係にあり、自分の不遇を嘆き、愛情が憎悪、復讐(監禁)へ向かう。

その狂気がすさまじく迫力がある。自分を棄てた母、それでも愛情で心の隙間を満たしてほしい。表している嫌悪、その一方、心情は生き生きと輝き美しく観えてくる。求め ねじれた母娘のサスペンスは観応え十分であった。

人は救いや希望がないことを受け入れた時、気持が楽になるという。絶望から立ち上がる微笑みのことをユーモアと呼ぶらしい。翻って本公演の緩いインプロはユーモアにはほど遠いような。序盤と終盤での印象(演出)落差がねらいであろうか。できれば、全編を「想い」と「重い」で一貫して描いてほしかった。たとえそれが嫌悪の極みであろうと...。

最後に、カーテンコールの際、前説での禁止事項(場内飲食禁止など)を言い忘れたと説明していた。当日(20日)の昼間に千葉県北東部を中心に大きな地震があったが、危機管理の点から、留意事項はしっかりとお願いします。

次回公演を楽しみにしております。
100人のタナカ!

100人のタナカ!

PocketSheepS

TACCS1179(東京都)

2016/10/13 (木) ~ 2016/10/16 (日)公演終了

満足度★★★★

観た目より深い内容
「世界がもし100人の村だったら 」という話...世界には60億人強の人がいるが、それを100人の村に縮めるとどうなるか。インターネットを通じて世界的に流布した人々の相互理解、相互受容を訴えかけるもの。世界には人種、性別などいろいろな人がいて、それぞれが認め合いながら生きている。しかし、実態(現実)は色々な意味で差別などがある。

本公演は、現実の世界ではなく、天才科学者である田中士郎の脳内とシンクロする仮想もの。人の感情は時や場所、状況などによって違うし変化もする。その感情表現は100どころではないだろう。人は時として自分自身をも持て余す色々な感情を抱え、その気持にうまく折り合いをつけて生きている。
物語の発端は「愛」であるが、その人間的感情と”AI”が絡むような面白さもあった。
(上演時間2時間10分)

ネタバレBOX

物語は、人間の脳へのアクセスを可能にするコンピューター『QUEEN』 その開発途中、手違いで開発者が意識不明になるという事故が起きる。 そのためには彼の脳に入り込み、原因を取り除くこと。

彼を愛している女性・藤乃杏梨(和泉奈々サン)が彼の脳内へ行く。その世界にはいろいろなキャラクター存在する。その衣装も様々で、一瞬コスプレ行事かと勘違いするような。しかし、その現れる人たちは全てタナカであり、彼の感情のようである。例えば当日パンフによるタイプ別...インディアン(情深い)・女王・魔女(孤高・世話好き)・裁判長(判断力)・将軍(自尊心)があり、物語にも登場する。それぞれの衣装もそれに相応しい。それぞれは田中士郎(崎嶋勇人サン)の感情を担った擬態である。それらが闘いもするが、彼自信の葛藤の表れであろう。

この物語で重要なのは、「愛」という思い。士郎が事故を起こしたのも恋している女性のことを考えていたから。もちろん長時間・過密労働という事情もあろう。そして、この士郎の脳内へ危険も顧みず浸入するのも、彼を愛しているからこそ。
この愛=AI「人工知能」にも通じるようで、人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする、その感情操作のような少し怖い面も感じる。

さて、意識が回復しない原因は、田中士郎本人の感情にあるようだ。脳内に現れる田中士郎は「建前」、女王(QUEEN)は「弱さ」...そして「本音」の擬態化は誰か。また、杏梨の恋は成就するのか...。
闘いアクションや笑いネタ、伏線もめぐらせ面白いが、物語を収束させる力や納得度が弱い。なにより余韻が…。
それでも意味深で、面白味のある公演であった。

次回公演も楽しみにしております。
MOLOK

MOLOK

劇団メリケンギョウル

明石スタジオ(東京都)

2016/10/14 (金) ~ 2016/10/16 (日)公演終了

満足度★★★

骨太作品が…
この公演は、史実に基づく「マクベス」と、旧約聖書にある神話・悪魔的なモロクの物語を綯い交ぜにしたもの。劇団の謳い文句である“忠実×虚構“のハイブリッド新生「マクベス」...その脚本は骨太で面白い。

しかし、脚本の力・面白さを演出・演技が削いだようで勿体ない。もしくは脚本の力に演出・演技が追いつかないといった感じで惜しい。
本公演は「マクベス」をベースにしているが、シェイクスピア版における暴君ではなく、どちらかと言えば名君のような描き方である。その試みは良かったが...。

(上演時間:前説では1時間45分、実際は2時間強)


ネタバレBOX

勇猛果敢な将軍マクベス(本公演ではマクベタッド)は、妻(グロウク)に唆されて主君を 暗殺し王位に就くが、内面・外面の重圧に耐えきれず錯乱していく...というのがマクベス。
一方モロクは、古代の中東で崇拝された男神の名で、元来は「王」の意だという。「涙の国の君主」、「母親の 涙と子供達の血に塗れた魔王」とも呼ばれており、人身供犠が行われたことで知られると。王の初男子が炉にくべられ、王家が代々繁栄するという。

本公演で登場するマクベタッド(弟はバンクォ)は双子という設定で、魔女に当たる予言師・レギオンが囁く。そして原作通り前王を殺すが、実は前王(女王・ドナハ)の実息子の仕業である。この実子が無能であり、王位を継承させたくないとの思いが悲劇を招く。
名君マクベタッドは、ドナハの願いとは言え、自分が王位に就いたことを悔いている。眠れなくなり酒に溺れる。その苦悩がしっかり伝わる。人は聖人でもあり狂人にもなる。その心の持ちよう...人間が矛盾を抱えているということを表すため、シェイクスピアはオクシモロン(撞着語法)という手法を用いているが、この芝居でも「きれいは汚い、汚いはきれい」と...。しっかりと面白いところは引用している。
この芝居では、マクベタッド(弟はバンクォ)は移民という設定。その受入れ取り立ててくれた恩・義と偽・贋の狭間での生き苦しさ。その心情をモロクに出てくる王の初男子が炉へ、という犠牲の場面がマクベス物語にしっかり組み込まれている。その“忠実×虚構“の物語は観(魅)せてくれた。

脚本は重厚であるが、演出は多くの箇所で笑いネタを入れ軽量にしてしまった。演技は役者間での力量差が大きくバランスが良くない。できれば笑いネタは控え、全編通して骨太作品として仕上げてほしかった。

次回公演を楽しみにしております。
ゲシュタルト家の崩壊

ゲシュタルト家の崩壊

めがね堂

【閉館】SPACE 梟門(東京都)

2016/10/13 (木) ~ 2016/10/16 (日)公演終了

満足度★★★★

面白い!
極上のサスペンス・ミステリーという印象である。説明にある「難しいことはおきません。ある家族の崩壊を覗くだけ」とあるが、その観せ方が秀逸である。
少しネタバレになるかもしれないが、文章(脚本)倒置法を利用したような展開で、終盤までその謎を引っ張る力は見事であった。
公演全体に不気味な雰囲気が漂い、謎の展開と相まって緊密感が…。
(上演時間1時間45分)

ネタバレBOX

基本的に室内と屋外(路上)という場面構成である。舞台上は室内という設定で、上手側にテーブルと椅子、下手側にソファーとローテーブルが置かれている。屋外は、客席中央通路を路上に見立て、何度か客席後方から登場する。この小空間を最大限に利用し物語の情景・状況を立体化しているようだ。この部屋は高層階にあり、その遠望は素晴らしいと...同じ窓から見える景色が東京タワーであり、スカイツリーでもある。その辻褄が合わない台詞など、ちょっとした状況や言葉に謎が隠されているようで、それを見逃すまいと物語に集中する。

さて、物語は倒置したような展開で始まる。
冒頭、消えた妻を探して雨の夜道をさまよい歩き、 家族を構成する部分が遊離した男(職業・作家)の顛末...実は若かりし頃に遡って話が始まるのだが、今の境遇を強く印象付ける。本公演の場合は、その謎を序盤で展開させ、どうしてそうなって行くのかという過程を順々に観せる。そうすることで、サスペンス・ミステリーの世界に容易に引き込むことが出来る。実に巧みな構成であった。

有名作家の娘と結婚した男、自分は文才があると信じ原稿を書くが締め切りに間に合いそうにない。そのため妻が代わって執筆してしまい、その小説が話題になり賞まで受賞した。以降、男の代わりに妻が執筆する。この妻の父に結婚を申し込んだ際、将来作家になると言っていたが...。父の才能を受け継いでいた妻への嫉妬、自分への嫌悪のような感情の沸々。

義理姉やその夫から消息の手掛かりになる写真(アルバム)を入手。さらに興信所へ妻の捜索を依頼する。その際も(正面)写真の提供を依頼される。本当の妻の顔とは...正面からの写真がない=妻と向き合っていたのか、という暗示のようでもある。消息場面に風俗勤務なども挿入し意味深さを増す。
これらの謎を妻本人が、夫のゴーストライターであることを新人ルポライターに暴露する形で解き明かす。この1人称語りという手法がシンプルかつ説得力があり観応え十分であった。

緊密感の中に小さな笑いも織り込む。例えば、妻の顔写真を卒業アルバムから、それも集合写真から探すなど有り得ないだろう。しかもそのページを客席に見せる。緊密さに適度な弛緩の挿入バランスも巧い。

次回公演も楽しみにしております。
「月見ドロボー物語」

「月見ドロボー物語」

劇団暴創族

上野ストアハウス(東京都)

2016/10/12 (水) ~ 2016/10/16 (日)公演終了

満足度★★★

収束できたのだろうか【Aチーム】
和菓子店「遠月堂」を中心にしたドタバタ騒動物語。主人公は人物というよりは、店そのもののようだ。この店の家族、従業員、近所の人、そして店を訪れた人々の勘違い、思い違いの連鎖が面白おかしく描かれる。
劇団暴創族の謳い文句...2016年「秋」公演 ドタバタゴーストシチュエーションコメディ‼、その物語は収束できたのだろうか。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

当日パンフに主宰・大坪雅俊氏が「『お月見泥棒』とは実際に日本に存在する風習のひとつで 月の使いとされる子供たちが近所の家々を回り お菓子やお月見のお供え物を貰い歩く」と書いている。そのファンタジックな雰囲気は感じられつつも、やはり騒動という娯楽重視の観せ方だと思う。その物語に引き込む舞台セットは、上手側に店の家族(遠野家)宅、中央奥は向かいの美容院・沼部、客席側は遠月堂店内(和菓子ケース、テーブル・椅子、暖簾など)で、和風の雰囲気をしっかり漂わす。

梗概...今日は亡き妻の七回忌前日。二人姉妹のうち、長女は引篭もりでインターネットによるマンガ配信。この長女に霊能力(オカルト研究家)がある来訪者。一方妹は東京で仕事をしている。帰省する妹を自称婚約者が追いかけてくる。周囲は、この婚約者の相手(姉妹)の取り違え・勘違いなどてんやわんやの騒動が起きる。他方、和菓子店「遠月堂」 は大手百貨店が主催する和菓子展への出展を目指し忙しい。さらに妻が亡霊として現れ、霊能力者とシンクロし、異次元(幽霊・子役)の世界まで出現させて...。これがお月見泥棒というタイトルの掛け合わせのようだ。

登場人物の中で、この錯綜した騒動を説明できる人がいるのだろうか。
たしかに現実においても全ての状況を掴んでいることは稀で、ほとんどは自分の見聞きした範囲、または自分勝手な思い込みによる辻褄合わせで判断していることが多いかもしれない。

しかし、これは芝居...観客として騒動の一部始終を知っている以上、この騒動をどう収束していくのか、という過程が楽しみになる。本公演では、散らかった騒動(誤解など)を回収しきれず、月に持って行ったようだ。その余韻とも思えないラストが少し残念である。

次回公演を楽しみにしております。
ひずむ月【本日千秋楽!当日券若干あり】

ひずむ月【本日千秋楽!当日券若干あり】

劇26.25団

OFF OFFシアター(東京都)

2016/10/12 (水) ~ 2016/10/17 (月)公演終了

満足度★★★★

地震学の先駆者
「関東大震災(1923)」の地震の前と後で、評価が大きく変わった学者...今村明恒東京帝国大学教授(博士)。 地震前は「ホラ吹き」と罵(ののし)られていたのが、地震後には「地震の神様」となった。

本公演は、地震やそれに連なる災害を描くというよりは、数奇な運命を辿った男の人生譚といった物語である。その家族や職場である東京帝国大学地震学教室の人物との交流を中心に展開していく。ほぼ年代順に進み、時々の風潮が織り込まれる。

タイトル「ひずむ月」...地震は地球上に起こる現象であるが、それは(歪む)月になぞらえて民衆の心(変わり)を投影しているような...。
(上演時間約2時間)

ネタバレBOX

公演やそれを取り上げた新聞記事等の中で、将来起こりうる関東地方での地震への対策を訴える。「ホラ吹きの今村」と中傷されるも、彼の警告は関東大震災によって現実のものとなる。その後、幅広い震災対策を呼びかける一方で、現在の「地震学会」設立に尽力する。本公演では、関東大震災までの辛苦の時代を中心に描き、地震に対する独自の視点と研究成果へ自信、その信念の強さを窺い知ることが出来る。

物語は、今村明恒が東京帝国大学地震学教室に勤務(無給)しているところから始まる。その後は、彼の家庭と職場、外部での公演とその新聞記事により騒動が交錯するように描かれる。この時代、金銭的に苦労したことにより子供を亡くしている。子(特に長男を通して)への愛情、接し方も明治男の気骨を思わせる。

また、今村の長男・武雄と朝鮮飴売りのアンさんの交流は、関東大震災時に流布された朝鮮人行動に結びつける伏線であることは明らかである。今村教授の職場内での不遇、家庭内の不幸、夫々への苛立ちも垣間見え、けっして聖人君子のような人物でなかったことも描き出す。そこに人間味=この芝居の魅力が表れていると思う。

役者陣の演技力は確かでバランスも良い。その演技をさらに効果的に演出しているのが、舞台セット・衣装(和服)である。上手側に段差のある舞台を設け、今村家や街路に見立てる。舞台中央は職場、そこに机が置かれている。また可動する背もたれの高い椅子、見ようによっては衝立をいくつか用意し、玄関戸、汽車内の座席。その簡易な道具によって見る面白さが加わる。

本公演まで名前さえ知らなかった男の半生...関東大震災以降、阪神淡路大震災、東日本大震災など幾度となく地震災害の痛みを受けている。今村教授の教訓は生かされていたのであろうか。冒頭や中盤でのダンスシーンが、災害対策への啓蒙と大正時代の遊興の対比(皮肉)として描かれているような気がして…。

次回公演を楽しみにしております。
遠い国から来た、良き日

遠い国から来た、良き日

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2016/10/14 (金) ~ 2016/10/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

次代へどう語り継ぐか、それが問題だ
ずばりテーマは「平和」...プロパガンダになりそうな内容を中学3年生の視点から捉えることで、問題を素朴に浮き上がらせている。広島県は第2の故郷であり、夏に何度も行っている。そのたびに感じていること、特に原爆投下された日は、朝から地元TV、新聞はそのニュースが流れ続ける。

本公演は遠い国から来た転校生と、広島県の中学生が「平和」について向き合う場面が印象的である。「平和」が当たり前と思っている中学生、そのありがたさを自ら考える平和学習...。この公演は、観客も自ら考える、そんな投げかけがある。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

広島県の中学生にしても「平和」は空気のようなもので、その状況が当たり前のようである。一方イラクから来た男子転校生は自国での内戦で、平和のありがたさ、戦争の悲惨・痛みを十分すぎるほど体験してきている。しかし、そのギャップを際立った対立点として描かず、恋愛感情を織り込みプロパガンダを巧くコントロールしている。観客にも感性に訴える、または問いかけるという域に止めている。

日本国内の事情として、少し強引であるが大学生の就職活動を絡めている。一見無関係と思われる事柄を、国内の諸々の格差問題への不満を”イスラム国”への興味という形で結びつける。「ママの台所で爆弾を作ろう」...イスラム過激派組織が発行したとされる雑誌記事がインターネットで拡散。簡単に爆弾が出来るらしが、その蜂起を促すため、英語で書かれていたという。本公演でも英語で、という台詞があった。その平和を脅かす事(戦争とテロを同義語にできない)がこんなにも身近にあるという怖さ。

人は自分が見聞きした、その体験の範囲でしか実感できない。その先にある事を想像し我が事のように思いを馳せることは難しい。ましてや中学生では自国の悲劇を直視することは...。文献にあたり人の話を聞き、自分の中へ取り込む。机上学習のしたり顔になる怖さ、しかし現実に戦争を体験していないゆえの「平和」をどう次世代へ語り継ぐか、自分への問いかけでもある。

当日パンフにある作・演出の古城十忍氏の「『取りあえずやり過ごす』この処世術が自分がこれまで、どれほど大事なものを...」という思いは同感である。大きな感情の振幅があれば、と思う。

最後に、舞台セットは教室と山田家ダイニングキッチンがいとも簡単にイメージ転換する巧みさ。役者陣はワンツーワークス劇団員の確かな演技、若手役者の真摯な演技が光る。何より重くなりそうな言葉・台詞は方言(広島弁)という独特な柔らかさが緩衝の役割を果たしていたのも好ましい。
本公演は尻切れトンボ感のするラストシーン...過去の愚行・諦観から何を感じとるか、それを物語として描ききらず切って棄てたようだが、そこは思索と余韻として受け取ることにした。

次回公演を楽しみにしています。



ディギング・あ・ホール

ディギング・あ・ホール

劇団芝居屋かいとうらんま

OFF OFFシアター(東京都)

2016/10/08 (土) ~ 2016/10/09 (日)公演終了

満足度★★★★

好物な...
物語のシチュエーションは奇抜(妙)であるが、そこに居(入)るのは普通の人々。もっとも説明文では、変人のような紹介...自称ツキのない男、身寄りのない偏屈ババア、 無責任な介護士と 俺様何様な男らが登場することになっているが、それは人が持っている性格を登場人物一人ひとりに役割として担わせるようなもの。
自分では、冒頭シーンが意味深で、これから展開していくストーリーは、現在進行なのか、過去回想なのか判然としなくなった。
しかし、穴の中という土・埃(ほこり)、不衛生という状況・環境にも関わらず、その光景には清々しさを感じた。その不思議空間に集まっている人たちの騒々しくも切なく哀しい物語。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台セットは、穴を支える柱・板、コンクリート破片のようなものが乱雑に組み合わされている。
上手は少し広い空間...掘る進行方向のようである。下手にベットが置かれている。
この穴には、銀行強盗(地下金庫を目指)を企む男たちと、閉鎖された老人ホームに入居していた老女が、行き先がなく住みかにしている。この2グループの人たちと、その人たちに関わる人(老人ホームの介護職員など)との交流を通して、小市民の人生を浮き彫りにする。
    
地下金庫(ゴール)まであと10メートル...もう少しで目的達成できるにも関わらず、もたつく男たち。人生もあと少し、小さな幸福を掴みかけているが手に出来ない。そのもどかしい気持を穴掘りに準(なぞら)えた比喩として描く。

物語は、主人公・熊坂長次(ごとうたくやサン)の一人称語りのようだ。登場人物の紹介は、約束事のように冒頭シーン...全員が横たわっているが、亡くなっているような気にもさせる。終盤には爆発・崩落という設定であり、そのループするような展開を想起させる。

芝居では、この穴を寝ぐらにしている偏屈婆さん...梅田タエ子(浅井唯香サン)のお茶目、愛らしく、それでいて切なく哀しい演技が心に響く。実年齢よりはるかに上の年代を演じているが、メイクで老け役にしている。外見の違和感を超越した滋味ある老女の言葉...自分の実娘との確執、それを例にしながら「家族を持つことは山を登るようなもので、簡単には登れない。」、何か事を成し遂げようとすることにも通じる。
教訓のように聞こえる台詞だが、婆ちゃんが言うと...実に魅力的に聞こえる。
役者陣の演技力は確かであり、バランスも良かった。その中で熊坂・梅田役の二人の会話、本当に素晴らしかった。

次回公演を楽しみにしております。
本公演、下北沢上演であったが、穴掘り地図は大垣公演用のもの?                             
「66~ロクロク~」

「66~ロクロク~」

円盤ライダー

シダックス カルチャービレッジ6階(東京都)

2016/10/08 (土) ~ 2016/10/10 (月)公演終了

満足度★★★★

渋谷シダックスで...面白い!
第2回渋谷総合文化祭の一環として参加...だから舞台は渋谷シダックス6階のオフィス。舞台と客席の区別はあるが、役者陣は客席内を動くこともあった。その一体感はドキュメンタリーという感じでもある。

ネタバレBOX

渋谷駅にほど近いシダックスビルに念願のオフィスを構えて喜ぶ男5人、というシチュエーションのようにも思える。仕事の未来を語り、過去を省みつつ、今この場所にいる。
この男たちには10年前に袂を分かち、アメリカンドリームを求めて渡米した仲間がいた。男たちのリーダーが今日の成功を見せたかったのか、相手の近況を知りたかったのか、その理由は定かではないが、いずれにしても音信不通になっている男へ連絡したところ...。
そういう心境になったことは理由が明らかにされないが、そんなことは矮小なことと一笑に付してしまうほど面白い。

この男たちの名前が、なぜか東京-千葉間を走る総武線の駅名のような。リーダーは平井、以下...(下総)中山・船橋・大久保・市川、そして渡米した男が秋葉。台詞呼び名であるから漢字表記は分からないが、偶然か。そして秋葉...正確には秋葉原であり、少し違えるあたりに作為を感じる。

この舞台...本当のオフィスでの芝居は、男たちの熱演で時間の経過を忘れるほどであった。この熱き芝居を観やすくするため、椅子を自在に移動させることも出来た。舞台美術・技術(照明・音響)もない、まさに演技力勝負の芝居であったが観応え十分であった。「少人数、腕のある役者のみのガチ芝居 乞うご期待」という説明、謳い文句は嘘ではない。

この熱き男たちの企業理念...人の夢と希望を与えるような、または手助けしたいような趣旨を標榜する。そっくりそのまま観客(自分)の心を捉え、楽しませてくれた。

次回公演も楽しみにしております。
はい、カット!

はい、カット!

さるしばい

萬劇場(東京都)

2016/10/06 (木) ~ 2016/10/10 (月)公演終了

満足度★★★★

昭和の雰囲気が漂うような...
劇場内に入ると商店街の舞台セットがしっかり作られており、それだけでワクワクし期待が高まる。タイトルから映画にちなんだ物語であることは容易に想像がつくが、描かれた物語は昔ながらの人情ものであった。

フライヤーはA3二つ折り(当日パンフは同様の絵柄でA4二つ折)で、その表裏一体で街風景が印刷されている。風景の中央にしめ縄がある神木、両面に街並み(大空商店街の看板)。そこを路面電車が走る...素朴な味わいの風景である。舞台はその街の一角を切り取って表しているようだ。

(上演時間2時間)

ネタバレBOX

舞台中央に純喫茶店(さぼてん)、上手・下手側の対象するような店が並ぶ。店先には商品陳列棚、秤、黒電話などの小物も置かれちょっとしたリアリティが見られる。最近では地中化が進む電柱も見られる。

梗概...幼馴染で映画好きの女子高生2人が主人公。いつか自分たちの手で映画制作を夢見る乙女が、ある事故をキッカケに気まずい関係になる。それを気遣う周囲の人々、この街を訪れている観光客などを巻き込んで、何とか仲直りさせたい。その契機として映画制作...この自主映画制作の始まるまでのドタバタを面白可笑しく描く。もちろん全編を通してのヒューマンコメディというタッチの描きである。
いろいろなハプニングが起きるが、そこには市井の人々が抱える普遍的な悩み事や心配事が投影されている。それを街という大きな器の温もり、そこに住んでいる家族、近所の人々の見守り、その「地」と「血」の繋がりに、懐かしき日本の原風景を見るようだ。

公演のテーマらしき台詞「(本当の)優しさとは何か」、その人によって表し方が違うことを、それぞれの登場人物の悩みとして担わせ、柔らかく包み込むように(解決・氷解)導く。この劇団の真骨頂の観せ方である。

この公演、いや自分が観た過去公演も含め、会話の合間あいまに早戸裕サン(今回は権田恒二役)の軽妙洒脱なツッコミ発言が面白い。それが物語の展開に心地よいテンポをもたらしている。

次回公演も楽しみにしております。

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