タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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GK最強リーグ戦2019

GK最強リーグ戦2019

演劇制作体V-NET

TACCS1179(東京都)

2019/05/11 (土) ~ 2019/05/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

最終日観劇。当日は1位ラビット番長「影の人」、2位大和企画「行ってみたいな、よその国」と閉会式という構成。それまでの期間にGK最強リーグ戦...GK史上最大の6チームが参加し、2作品ずつガチンコ上演。そして観客投票によって勝敗を決めてきた結果、先の2作品が残った。
最終日の2作品は奇しくも戦争に係る内容を、テーマ「路地裏」に絡めて描くというもの。それぞれ戦争を題材にしても違った印象を持つことができ、改めて演劇の魅力・面白さを知った。
(上演時間50分×2作品 途中休憩10分 閉会式40分)

ネタバレBOX

ラビット番長と大和企画、どちらも戦争に関わった路地裏である。
強いて言えば、ラビット番長「影の人」は音楽隊員を戦時中から戦後、そして現代という時代の流れの中に描く。音楽隊員の衣装は戦時中にも関わらず上下、白ブラウス・黒ズボンといった一見喪服のようでもあり音楽隊らしい服装である。その印象は、戦中・戦後にも関わらず汚れもなくスタイリッシュといったところ。内容的には心象風景を見るようで、その意味で外見はあまり気にならない。

一方、大和企画「行ってみたいな、よその国」はヨコハマメリーの待ち人という動かない佇まいと、戦後の混乱期を逞しく生きる女を描く。メリーさんの顔は白粉を塗り、フリルのついた純白のドレス。彼女以外の女の衣装は派手で、復員兵はボロボロという対照的なもので、全体的にバタくさいような印象である。まさしく生活感に溢れ、今日をどう生き延びるかという現実風景を観るようだ。

その物語の広がり方や視覚に訴える印象に違いがある。どちらが好みかは観客によって違うだろう。この企画はそうした観客の価値感の違いを前提に、それでも演劇的な質の向上を目指しているところが素晴らしい。

舞台セットは基本的に同じ。上手・下手側に家屋らしきものがあるが、そこからの出入りはない。中央は路地裏通路に街灯、その左右に3~4段高くし路地をイメージさせる。上手壁がレンガ作りで、所どころ剥げ落ちている。下手壁は波トタンで、どちらも”路地裏”の一角を連想させる。2公演に違いがあるとすれば、箱馬の位置が多少違うところと、「影の人」では上手側の家にマットのようなものを敷いたことぐらい。全体的に質素で陰影あるセットは、”路地裏”というテーマにぴったりの舞台美術であり、こちらも見所の一つ。照明は窓外の暖色光が寂しい(夕焼け)イメージ。共通テーマを設定するからには、それを観せ支える舞台美術や技術は重要である。

結果はネットで発表済であるが、次のとおりであった。

<個人賞>
助演女優 B:猿組「腹ペコの魔法使い」助手役 北川純子サン
助演男優 A:ラビット番長「影の人」西川役 西川智宏サン
主演女優 E:大和企画 「行ってみたいな、よその国」マリー役 野田あゆみサン
主演男優 A:ラビット番長「影の人」渡辺役 渡辺あつしサン
MVP A:ラビット番長「影の人」渡辺役 渡辺あつしサン

<作品・脚本・演出等の各賞>
作品賞 ラビット番長「影の人」
脚本賞 ラビット番長「影の人」脚本 井保三兎氏
演出賞 ラビット番長「影の人」演出 井保三兎氏
準優勝  大和企画 「行ってみたいな、よその国」
総合優勝 ラビット番長「影の人」

ラビット番長の名前が多いのは気のせいか?
次回からは全作品を観劇し、自分なりのジャッジをしてみたい。
次回「GK最強リーグ戦」を楽しみにしております。
「ダルマdeシアター2019」

「ダルマdeシアター2019」

チームホッシーナ

西新宿きさらぎクリニック(東京都)

2019/05/18 (土) ~ 2019/06/02 (日)公演終了

満足度★★★★

2012年カフェ公演として始めた「ダルマdeシアター」が、今回初めてクリニック公演になったらしい。「あなたの心と体、癒すつもりです」と言う謳い文句通りしっかり癒してもらった。フライヤーには「外用薬」と書かれていたが、「効用薬」と言ってもよいほどだ。役者と観客が一体となって盛り上げ楽しむ公演。いや~面白かった。
(上演時間50分)

ネタバレBOX

会場は本当に「西新宿きさらぎクリニック」という病院。その待合室のような所で演じる芝居は、半ばミュージカル仕立てで観客が座っている(待合室にある)ベンチに役者も座り歌う。歌に合わせて観客も手拍子をしたりして場を盛り上げる。

梗概…病院が日中は診療をし、その裏で劇団を作り患者の慰問を計画する。そのためのオーディションという設定。それぞれが得意な演目を披露するが、誰もが歌をうたい舞う光景が華やかで賑やかでもある。物語の展開というよりは、個々人の思いを表現(自己顕示)する。そこにはオーディションを通して、入団者の自信のなさ、不安などを昇華(自己再生)していく側面も描く。人が併せ持つ感情を垣間見せるあたりは秀逸。もちろん結果は予定調和のハッピーエンドである。ラストはオーディションが終わって流れ解散のようであったが、出来れば慰問に行くといった明るい展望が見える締め括りをしてほしかったが…。

役者の演技力は確かで、その掛け合いの息もピッタリ。この公演の魅力は個々の役者のパフォーマンス”力”に負うところが大きいが、同時にその観せるバランスが素晴らしい。今まではカフェ公演を行っていたということだが、どのような演出だったのか興味を惹く。
次回公演も楽しみにしております。
ねこのはこにわ

ねこのはこにわ

teamキーチェーン

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2019/05/17 (金) ~ 2019/05/21 (火)公演終了

満足度★★★★★

自分好みの公演...終演後、脚本・演出のAzuki女史に思わず番外公演かと訊ねてしまった。
確かに本公演とは違うフライヤーの作り、そしてチケットには鍵が付いており劇団名を思わせる。さらにラストシーンの哀(愛)惜に繋がる重要な”鍵”が…。細やかな仕掛けというか配慮が嬉しい。

物語は市井の暮らしの中、個性豊かな人々がそれぞれの事情に悩み苦しみながら、それでも明日を信じて逞しく生きようとする姿を描く。同時に2020年東京オリンピック・パラリンピックにわき立つ世相にチクリと物申す。表層的には何となく可笑しみを覚えるが、現実にありそうな出来事だけに身につまされる。現実と非現実が付かず離れず展開する、その芝居ならではの醍醐味を感じさせる好公演。

(上演時間1時間40分) 後日追記

ネタバレBOX

セットはグリーンハイツ内の6部屋...それぞれ炬燵、ベット、布団などを置き特徴を出している。真ん中は廊下であるが、斜めに配置することで遠近法効果によって奥行き感が出て広く感じる。2階建をイメージさせるため、上手・下手側に少しの段差を設けるあたりも細かい工夫。客席は基本的に凹形であるが、下手側奥に逆L字にいくつか椅子が置かれ、そこからどのように観えるのか興味があった。着座に迷っていると先入場の人が親切にも凹の最前列ど真ん中が空いていることを示してくれたので、その席へ。

梗概…グリーンハイツの住人はそれぞれに悩みや苦しみ、何らかの事情を抱えている人々。その人たちが緩い近所付き合いをしながら慎ましやかに暮らしている。東京のどこかにありそうな風景であるが、住人の1人がトラブルに巻き込まれ、それを契機に繋がりを深めていく。ちなみに冒頭流れるナレーションは203号室住人の両親のことのようだが…(後日追記)
あさどらさん

あさどらさん

十七戦地

座・高円寺2(東京都)

2019/05/16 (木) ~ 2019/05/17 (金)公演終了

満足度★★★★

TV朝ドラのダイジェスト版のような公演。脚本が柳井祥緒氏(十七戦地)、演出が望月清一郎氏(鬼の居ぬ間に)という組み合わせが、このような化学変化をし人間+社会ドラマを紡ぐとは...面白かった!
今まで観た「十七戦地」の公演は、どちらかと言えば社会派のようで、時事問題等への問いかけが多かった。また「鬼の居ぬ間に」は、ドロドロとした人間関係を通して人の深淵を狂覗するような印象を持っている。本公演とは違うイメージの公演を行ってきた2人が、まさしく”朝ドラ”イメージの公演を行ったことに驚いている。

卑小なことだが、劇場スペースが物語の展開(世界観)より広いように思える。年代を往還しながら展開するが、役者が演じている時代以外でも舞台上にいる。それは時間の流れ、人(家族)の繋がりをイメージさせるという演出効果と同時に、広いスペースを持て余すことを示すように感じられたのが気になるところ。
それと公演日が2日間(3公演)と少ないことが如何にも残念だ。
(上演時間2時間) 後日追記

いいヒト

いいヒト

トツゲキ倶楽部

「劇」小劇場(東京都)

2019/05/15 (水) ~ 2019/05/20 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

登場する もの はタイトル通り「いいヒト」ばかりである。公演の魅力は観終わって仄々とした優しさに包まれ、自分の気持も清々しくなるようなところ。冒頭の拘りは、この公演のテーマの暗示。好みの拘りは大切、一方それに拘り過ぎると価値判断が狭小になるかも...。「もの」もそうだが、「ヒト」も一面だけではなく、いろいろな接し方をして自分なりに判断する。そんな人間観察を意図しているような公演は、コメディという範疇を超えて面白かった。
卑小なことだが、物語の展開は難しくないが、存在と不在の関係にある もの の動きにぎこちなさが観えたのが少し残念なところ。
(上演時間1時間55分) 2019.5.19追記

ネタバレBOX

舞台セットは、大きな横長テーブルと椅子のみ。ここは老舗人形店の居間といったところ。冒頭は目玉焼きにかけるのがソースかしょう油かで言い合う父娘のシーンから始まる。人には何らかの拘りがあり、またその家にはそれなりの味付けなりがある。そんな違いを飲み込んでしまうのが業績不振なこと。そんな時、娘が付き合っている彼氏を連れてくるという。養子ゆえの社長、父親として悩み心配事は尽きない、そんな悲喜交々とした物語が本筋。

一方見えないであろう幽霊が…その性別・年代の異なる非存在が物語に割って入ってくる奇知。これが脇筋であるが、本筋に絶妙なバランスで絡んでくる。
社長、父親の悩みなど知らず賑やかな居間風景が滑稽に観える。現実問題である経営再建を秘密裏に行っている謎行動、そして娘の彼氏が幽霊を見えるという超自然現象的なことを言い出し、除霊師も加わってドタバタ騒動が起きる。登場人物はすべて善人で前向き。

トツゲキ倶楽部らしい、優しく心温まるユーモラスな雰囲気を漂わせ、同時に商店として厳しい状況にあるという独特な緊張感を描く巧みさ。シャッター商店街という地域の閉塞感が垣間見えてくる。また今を生きている人と幽霊、直接言葉を交わすわけではなく、この店の先祖や縁者が見守るという繊細さ。ドタバタと面白可笑しい展開の中に人を思い遣る細やかな心配りが観える、見事な公演であった。
次回公演を楽しみにしております。
Pancetta 10th performance “図”

Pancetta 10th performance “図”

PANCETTA

調布市せんがわ劇場(東京都)

2019/05/08 (水) ~ 2019/05/12 (日)公演終了

満足度★★★★

第9回せんがわ劇場演劇コンクール・グランプリ受賞公演/【2ヶ月連続受賞公演】第2弾。
自分も2ケ月連続で観劇するが、この公演は人の気持やある出来事のように視覚で捉えられない、または説明することが難しいことをパフォーマンス仕立てで描く。その描き方はシュールにして実に印象的である。
(上演時間1時間15分) 後日追記

【大好き】センパイを双子コーデでコロしてみた!

【大好き】センパイを双子コーデでコロしてみた!

舞台センコロ

cafe&bar 木星劇場(東京都)

2019/05/11 (土) ~ 2019/05/12 (日)公演終了

満足度★★★

タイトルから推察できるように、憧れの先輩の容姿、趣味趣向を真似た少女の模倣・独占欲を描いた少し不気味な物語。先輩と自分という2人だけの密やかな生活かと思えば、それを第三者に向けて配信するという自己顕示もある不思議な芝居。真似をされた人は、それが嬉しいと思うのか気味が悪い(ウザイ)と思うのか、どちらだろうか?そこに相手との距離感が見て取れる。一方的ながら、その感情表現は上手く表されていた。
(上演時間30分、アフタートーク30分) 【長谷川栞サン Ver】 2019.5.13追記

ネタバレBOX

セットは、人気動画配信者MAYUが住んでいる一室。上手側にパソコンとプリンター、中央にミニテーブルと客席寄り三脚に据えられた配信用カメラ。セットは作り込んでいないことから生活感は漂わない。むしろ人物造形を観せるにはシンプルなセットの方が分かり易い。MAYUは、「ミツハラマリ」という人物について語りだす。高校時代に憧れていた先輩のようになりたい。そして同じ大学に入学し住むところもルームシェアする。アクセサリーのような小物から、ついには容姿まで...。仲睦まじい先輩と後輩の間に何が起こり、「最後の動画」とは何を意味するのか。

全てを真似することによって自己は埋没もしくは消滅し、先輩の中に自己投影して生きるような不気味さを感じる。同時に、先輩「ミツハラマリ」は慕ってくる後輩を愛おしく思う反面、うっとうしく感じるのではないか。MAYUが色々なことに干渉し、管理下に置こうとするような怖さもある。2人の関係は先輩・後輩という間柄から、人間として独占欲というか支配したいという欲望が感じられる。

1人芝居であるからほとんどMAYUの1人称として淡々と語られる。これが2人芝居であれば自我の衝突か、もしくは親密度が増しある種、淫靡な関係をも想像してしまう。どちらにしても独占=究極の排他はこの結末になるのかもしれない。この物語にシェークスピアの有名な戯曲を絡めたラストは予定通りの展開で意外性がないのが残念。
演技は、MAYU=長谷川栞サンが等身大の女性のようで、その意味で動画配信している女性の部屋を狂視しているような錯覚に陥るようだった。

次回公演も楽しみにしております。
叫べ!生きる、黒い肌で

叫べ!生きる、黒い肌で

アブラクサス

サンモールスタジオ(東京都)

2019/05/09 (木) ~ 2019/05/12 (日)公演終了

満足度★★★★

物語はシバーナ(ニーナ・シモン)とビリー・ハンズベリー(ロレイン・ハンズベリー)という2人の黒人女性の交流(フィクション?)を通して描いた”反黒人差別”という人間+社会ドラマのようだ。
内容はドキュメンタリーを観るような重苦しさがあるが、回想手法と劇中歌によって演劇公演としての面白さを観せている。その視点は黒人側であるが、当時のアメリカの状況と黒人が抱いていたであろう感情は分かり易く描けていた。
できれば、差別行為がもう少し具体(視覚)的に分かると感情移入がしやすいと思うが…。
(上演時間2時間) 2019.5.13追記

ネタバレBOX

セットは段差を設け、上手側にテーブルと椅子、下手側に金モールのようなシャンデリアとピアノ。中央部は店内ステージや楽屋・控室をイメージさせる。舞台はシンプルであるが、それはセットによる物的印象よりも心象形成を大事にしたいとの表れか。

物語は、1986年から1953年へ遡行し、アフリカ系アメリカ人のシバーナ(Setsukoサン)の娘サラ・ウェイマンが祖母や叔父を訪ね、若かりし頃の母親のことを訊ねるところから始まる。シバーナは、幼い頃から黒人ではじめてのクラッシックピアニストになるための教育を受けてきたが、大学に入れずピアニストを諦め生活のために酒場でピアノを弾くことになる。そこでビリー・ハンズベリー(羽杏サン)と出会い、交流を深めることによって黒人への人種差別反対運動へ身を投じていく。その活動を通して当時のアメリカ社会における人種差別の実態が浮き彫りになっていく。タイトルにある”生きる”は、本人の生き様であると同時に、宿した”命”の生きるにも通じ、将来への希望(人種差別のない)を指すように思える。それゆえ回想シーンによって始まるのでは?

この公演は、黒人歌手の人物描写に力点を置いたのか、人種差別という社会問題に重点があるのか。もちろん、歌手である前に黒”人”であり、その境遇に不平等があれば改善運動をする。その活動は、その人の生き様であり人格そのものでもある。しかし芝居としては、人の内面心情を描くのか、その人が生きた社会環境を描くのか、その視点・力点によって脚本・演出が異なるのではないだろうか。
例えば、内面心情を描くのであれば、歌手という職業柄もっと歌うシーンを増やし、場合によってはピアノ演奏も行う。一方、黒人への人種差別反対という社会性を強調するのであれば、もっと虐げられたシーンを入れる必要があると思う。確かにレストランにおける着座の差別シーンはあったが、それ以外は台詞(選挙権なし等)によるもの。視覚に訴えることが出来る芝居の特長をもっと活かしてほしいところ。

物語の力点は判然としなかったが、シバーナという黒人女性歌手を通して1960~70年代のアメリカにおける人種差別が浮き彫りになってくる。繊細な感情表現、緻密なプロットという細微という丁寧さと同時に、骨太なテーマを据えた力作。役者はキャラクターと立場を際立たせた熱演。感情表現に濃淡がありバランス的には粗も見えるが、公演全体(脚本・演出等)の力強さが役者個々の演技にも好影響を及ぼしていたと思う。
次回公演も楽しみにしております。
無敵望遠鏡

無敵望遠鏡

宇宙食堂

吉祥寺シアター(東京都)

2019/05/09 (木) ~ 2019/05/14 (火)公演終了

満足度★★★★

アニミズムとテクノロジーが綯い交ぜになった異星の世界観。エンターテイメントな観せ方の中に色々な課題・問題を提起する社会性を潜ませた公演。タイトルにちなんだラストの台詞が印象的だ。
物語はある時期の日本の情勢を想起させるところがあり、それに鑑みるとこの公演はある目的地に行くまでの過程を描いている。できればその後の行動(何をするか)をもう少し鮮明にしておくと深みが増す公演になったと思う。それはある程度、物語の中で示唆するか観客の”想像力”に委ねてもよいが…。
(上演時間2時間)【Bチーム】 2019.5.13追記

ネタバレBOX

セットは、2層になっており2階中央に映写幕のような半円、1階中央に神社門(門に鉄鋲)があり左右対称に1/4円の階段があり2階に繋がっている。舞台と客席との間に紗幕があり、宇宙空間・浮遊感あるイメージの映像(ラストは羽の舞い落ち)を映す。

梗概…2169年(150年後)の異星-ガニメデ星における閉鎖的な状況下から物語は始まる。夜の外出禁止令は、夜空を眺めること、特に地球を望遠鏡で見ることは出来ない。この星を含めた4惑星(総称:ガリレオ惑星)はもともと地球からの移住者であり、地球が汚染し人類が住めなくなったことが発端。しかし、地球は汚染を除去しもとの美しい姿を取り戻していた。ガニメデ星は岩石星で資源が乏しい、また他の3惑星は食物の多交配を進めた結果、危険食が増え生命が脅かされている状況。そのため地球へ...。

この公演は明治維新を想起させる。鎖国政策は国内統治の観点では重要であったが、世界という枠組みからすると視野狭窄のような。確かに独自の技術や文化等はあったが多面的とは言い難い。その後開国し富国強兵への途を辿ったことは言うまでもない。
さて、ガリレオ惑星の状況は生存そのものの危機が迫り、何とか地球に打開策を求めるというもの。この求めているものが何なのか? 物語は地球へ行くための飛行技術のコンペや神への生け贄のような神事が展開されるが、あくまで”宇宙飛行の過程”のようで、具体的な目的(成果)が明らかになっていないのが物足りない。ここにラストの「想像力こそ無敵だ」という台詞を適用するわけではないだろう。

演出...神事(古代迷信イメージ)と飛行(未来科学イメージ)を融合したような世界観は奇妙であるが面白い。それを舞踊とアクションという異なったパフォーマンスで具現化しており上手い。この劇場の天井高の特長を生かし、1階と2階で自星と他惑星という異空間をイメージさせ、また飛行コンテスト等の跳躍・躍動感を演出する巧さ。内容はやや表層的に思えるが、それでもエンターテイメント性に富んだ楽しめる作品。同時に色々なことを考えさせる公演で、観応えがあった。
次回公演も楽しみにしております。
天狗ON THE RADIO

天狗ON THE RADIO

ものづくり計画

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2019/05/02 (木) ~ 2019/05/06 (月)公演終了

満足度★★★★★

地方のFM局の在り方をテーマにし、そこに関わる人々の人間模様を面白可笑しく描いた物語。平成から令和への時代の移ろいもそれとなく感じさせる抒情性ある好公演だ。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

舞台は天狗町(FM)ラジオ局内、上手にスタッフルーム、下手にスタジオ、下手2階部に別スペースを設け物語に空間的広がりを持たせる。セットはしっかり作り込んでおり、会場内に入ると一瞬にしてその場に引き込まれる。ラストはラジオの公開生放送という設定であるから、さしずめ観客は町民視聴者ということになるような。

梗概は、天狗町にあるコミュニティラジオ局「てんぐFM」。平成6年に始まり地域住民に愛されてきたが、資金難などにより閉局が決定。しかし過疎化が進み娯楽の少ない町の人達にとって、「てんぐFM」はコミュニケーションツールであることから、局の人達は起死回生を狙い公開生放送をするという妙案を思いつく。そこで天狗町出身で東京で活躍している有名なラジオパソナリティーを迎えて…。

冒頭、各地方大学の合否電報の文面を紹介する放送から始まる。もちろん”地方”というラジオ局をイメージさせるもの。放送エリア...けっしてマスメディアでは取り上げない地域密着メディアとして独自性を持った番組(地域の行政や地元情報)を発信をする。一方、賀間乳業のような出資者の意向も無視できない皮肉もチクリ。また天狗舞子などのボランティア(地元アイドル)?の活用など地方局ならではの特徴をさりげなく描く。そして防災・災害放送という重要な役割をラストの感動シーンへ繋げる。この多様・凝縮?した出来事と期間(平成31年3月22日~令和元年5月3日というわずか1カ月半程度)の緊密性が相まって面白く、そして考えさせる内容になっている。その展開の上手さは実に見事だ。
地方(FM)ラジオ局の内実をしっかり伝え、そこにリアルとユーモアを交えたドラマを描く。その脚本・演出は秀逸だ。 以降は千穐楽後に追記。
『浮世行脚』(うきよあんぎゃ)

『浮世行脚』(うきよあんぎゃ)

片肌☆倶利伽羅紋紋一座「ざ☆くりもん」

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/01/04 (金) ~ 2019/01/14 (月)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2019「特別参加公演」。新春3館同時公演の1つ。
「六道追分」に出てくる 鬼アザミという義賊一味の1人が主人公。3館同時公演でそれぞれ繋がりがあるが、当館だけ観劇しても楽しめる。「六道追分」に比べると艶やかさは薄れるが、逆に庶民の可憐だが強かさが滲み出ている。
(上演時間2時間) *ちなみに3館同時公演だから、上演時間は少し違え出演調整をしている。

ネタバレBOX

格子とジグザクに組んだ道のようなもの。舞台美術は簡素であるが、物語を牽引する上で必要な情景は組み込んでいる。逆に作り込んでしまうと、旅物として動きが封じ込められるような。

梗概…時・場所は江戸。三吉は冥途から鬼達が迎えにきて臨終を待った。ところが息を引き取ろうとした時、ある事からこの世に呼び戻ってしまう。死ぬに死ねなくなった三吉は家を出て旅に出ることに…。この三吉、「六道追分」で妻が病弱でいつか医者になりたかった男の後日談。同時に鬼アザミ一味に加わる契機も描く。この公演の謳い文句”人生の終着点に向かう男とそれを見送る女達の、馬鹿馬鹿しくも切ない人生道中。冥途と東海道を舞台に、人情味溢れる葬送の旅”が始まる。

この公演の魅力は「六道追分」との関連性で観ると分かり易い。六道追分では追手が迫る中、兄貴分が三吉を庇い逃がしてくれた。その後、真っ当に勉学に励み町医者になったと繋がる。前の悪行を清算するかのような善人ぶりが本公演。
この公演だけ観れば、江戸庶民の暮らしに寄り添った町医者、愛妻家であり、そんな男がひょんなことから旅に出るという人情喜劇のようだ。どちらにしても人情豊かな芝居を堪能できる。

前説でもあったが、3館同時上演だから登場シーンに役者が間に合わない場合がある。その時には大目に見てほしいと。自分が観た回は他館から来るのが遅れ、当館では同じシーン(旅物だから、同じところを何度も歩く)を繰り返し時間稼ぎをしていた。もちろん、観客は承知の上であるから笑い笑いの和やかな雰囲気だ。まさしく演劇はライブであると同時に観客と一体になって舞台を作るを実感する。同時に新春公演に相応しい温かさを感じた。
次回公演を楽しみにしております。
『六道追分』(ろくどうおいわけ)

『六道追分』(ろくどうおいわけ)

片肌☆倶利伽羅紋紋一座「ざ☆くりもん」

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2019/01/04 (金) ~ 2019/01/14 (月)公演終了

満足度★★★★★

グリーンフェスタ2019「特別参加公演」。新春3館同時公演の1つ。
新春、3公演は観応えがあったと書きたいところだが、実は「夫婦明暮(BASE THEATER)」を観ることが出来なかった。予約しておいたが、用事が出来て泣く泣く観劇を諦めた。
さて、この「六道追分」は”鼠小僧治郎吉”のような伝承義賊を扱った物語で、新春に相応しく笑い、時にしんみりとさせるメリハリの利いた好公演。時は江戸時代、吉原遊郭という舞台は妖艶で華やか、もちろん衣装は着物姿で艶やか。新春早々”眼福”であった。
(上演時間2時間15分)

ネタバレBOX

時は江戸、場所は吉原遊郭。このシアターグリーンBIG TREE THEATERの天井の高さを利用した2層舞台で、1階部はその場(土地)に足を着け、2階部は旅先を思わせるような時間・場所の空間の違い、その広がりを感じさせる。もちろん、衣装はその状況に応じて変えるから、吉原の花魁が旅路姿になったときは今に見る着物になる。同時に化粧も変えているような?

梗概…清吉(通称・鬼アザミ)は子分の粂次郎、三吉(妻が病弱でいつか医者になりたい)と共に世を騒がせる”義賊”。いつしか守銭奴達を懲らしめる清吉一味は、江戸庶民の憂さを晴らす存在になっていた。しかし奉行所の取り締まりは厳しくなり、これを潮時と最後に選んだ場所が不夜城「吉原」である。特に悪どいやり方で暴利を貪る大店の「玉川屋」に忍び込む。一方、玉川屋の花魁は刃傷沙汰を起こし、足抜けを余儀なくされていた。そんな時、忍び込んだ鬼アザミ一家と出会い...。この公演の謳い文句”六道を彷徨う善人達の、馬鹿馬鹿しくも切ない人生道中。吉原と東海道を舞台に、人情味溢れる逃亡劇”が始まる。
この芝居は3館同時上演であるから、他の館との繋がりを用意している。それがこんな形で連動するとは...見事である。

物語の展開は分かり易く、気楽に観ていられる。内容的には追われる身であり、この先どうなるのかハラハラドキドキといった、気を揉むといった面白さがある。この旅ものの場面を動かしているのが、舞台美術であろう。2層にした効果を最大限に利用し、1階部ではその土地に留まっている状況を表し、2階部は旅路の歩を進める様子を描く。その場面状況が分かり易く、テンポ良く観られる。

新春公演に相応しく華やかな雰囲気。それは出演者(特に女性)が吉原という場所柄、花魁姿の艶やかさを出し、旅に出てからは町娘に扮しての可憐さなど、いずれにしてもその”艶技”であろう。冒頭は定番_出演者全員によるダンスはその圧巻シーンである。
次回公演も楽しみにしております。
新しい星

新しい星

甲斐ファクトリー

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2019/02/20 (水) ~ 2019/02/24 (日)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2019参加作品。
物語はSFジャンルに入るのであろうか。しかしその底流に描かれているのは、現代日本のみならず世界で起きている問題を連想させる。物語の展開や状況説明等は、丁寧な台詞運びであまり混乱することなく観ることができる。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

セットは、荒廃した雰囲気を漂わすコンクリート壁(照明効果でそう見える?)、中央に出入口があり、上手に机・椅子、パソコンが置かれている。ほぼ素舞台で、空間の広がりを確保しアクションスペースを作っている。

梗概…あるウィルス(体内のミトコンドリア、DNA等が変化し と説明あり)に感染すると高熱を発してほとんど死亡する。原因を探るため世界各国へ出かける研究者。そのうち罹患しても僅かな確率で生存する者がおり、新たに"新人類"として勢力を増してくる。明晰な頭脳を持ち、旧人類をせん滅するような行動をとり、ここに新旧人類の戦いが始まると…。ラスト歪んだ思想のリーダーによる核ミサイルの発射を止められず、原爆投下を思わせる映像が映され…。

公演では新旧人類の戦いとして描いているが、これは今世界のどこかで起きている紛争やテロ行為を連想する。卑近なニュースでは移民等の受け入れによる民族、宗教またはそれら複数が錯綜した問題として考えられる。仮に移民を受け入れた国が、受け入れによって自国の伝統や文化が侵され始めたと…そんな光景を思い浮かべる。政治経済ほか色々な問題を内包し、理屈を言えば人によって主義主張が異なる危な(怖)いテーマを扱っているような気がする。

描くのに気をつかうテーマ、それをウィルス感染、新旧人類といった変化球で観せる巧みさ。ただストーリー性重視のためか、登場人物の心情表現が弱いようだ。
また日本を意識して描いている地名(八ヶ岳など)が聞かれると、近い将来、日本はどのような(外国人受け入れ)政策をするのかを考えてしまう。この公演ではディストピアのような世界観を見せられただけに。
物語として展開しやすいのかもしれないが、単純に新旧人類の対立(戦い)で良かったのか。このテーマだからこそ、その対立の結果(幸・不幸どちらでも)見える世界は?…をもっと鮮明にし(観客に)委ねるようなラストシーンにしても良かったのではないか。
次回公演も楽しみにしております。
forever for ever~太陽とつばさ~

forever for ever~太陽とつばさ~

映像・舞台企画集団ハルベリー

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2019/01/17 (木) ~ 2019/01/21 (月)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2019参加作品。
冒頭から華やかなダンスシーンで観(魅)せ、舞台(キャバレー)とそこで働く娘の華麗で妖艶さを印象付ける。
説明からは、ファンタジーのようなイメージを持っていたが、少し違うような結末か?そのラストへの繋がりが解り難かった。
(上演時間1時間55分)

ネタバレBOX

セットはやや上手にカウンターとボトル棚、下手客席寄りにボックスシートを置き、中央にはパフォーマンススペースを確保する。天井にはシャンデリアを吊るし、蘭花、絵画等を飾り豪華な雰囲気を演出する。また客席の一部にスペースを設え、そこでもポールダンスを披露する。

梗概…時は平成31(2019)年1月。この公演に合わせているような。キャバレー「サンライズ」のオーナー・雄一の余命はあと数カ月。そして栄華を極めたサンライズも斜陽の一途を辿り閉店間際の状態である。そんな時、つばさ(塩月綾香サン)と名乗る女が入店する。彼女は30年前(1989年)にこの店で働いていた女・陽子(2役)と瓜二つであり気になる(好意を寄せていた)。そしてこの女の存在は雄一にしか見えず、つばさは誰かの体に憑依して行動をし言動を発する。
物語はつばさと陽子の関係は?、そして雄一と陽子の出会いと悲恋になった理由が、時代を往還しながらだんだん明らかにされる。陽子は当時妊娠しており、その養育費を稼ぐためにサンライズで働くことにした。となればおのずと つばさ の正体は分かるようだが…。

物語の展開はそれほど難しくはないが、序盤の憑依騒動との関連が解り難い。この物語は最初から夢物語であったのだろうか? 謳い文句に「場沫のキャバレーを舞台に、平成最後の年と最初の年が交錯する…」とあり、一世を風靡したキャバレー「サンライズ」の栄華を背景に、淡い恋心を抱いた30年前を夢みていたのだろうか。この時代往還の関連性をもう少し鮮明にしてほしかった。

演出は、わかばやしめぐみ(おぼんろ)で観(魅)せることには手馴れている。冒頭こそキャバレー=妖艶なダンスシーンという定番であった。もちろん、女優一人ひとりの”華”を引き出し華麗な雰囲気作りが前提の公演だからであろう。そして一転して つばさが入店するシーンではミステリアスな展開を予想させる。その手腕は見事であった。
次回公演をたのしみにしております。
清少納言

清少納言

千夜一夜座

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2019/02/08 (金) ~ 2019/02/11 (月)公演終了

満足度★★★

グリーンフェスタ2019参加作品。
子役が出演していること、その演技から上質な学芸会といった雰囲気。一方で清少納言の「枕草子」に秘められた謎という大人物語という異なった劇風の公演で、感想を書くのが難しい作品である。

ネタバレBOX

セットはシンプル。BASE THERTERという舞台空間にしっかり作り込んでしまうと立ち居振る舞いに支障がありそうで、その意味で本公演は最小必要限に止めたようだ。また平安時代における和装は優雅、華やかさを演出しており楽しめた。

梗概…現代の小学生が「枕草子」に関わるような、一転して時は平安時代中期の宮中へ遡り、清少納言が慕い仕える (中宮)定子と和歌読み競いするシーンへ。この現代と平安時代を交差させ物語は展開するが、この公演で「現代の小学生」「漫画のような家庭」の場面は何を意図したものであろうか。現代と平安時代を特定人物が往還するわけでもなく、単に時代を交差させているだけのように思える。
清少納言が生きた時代、その時に起きた「長徳の変(花山院闘乱事件)」に関わった人物達のこと、当時の状況や心情などを密かに和歌に認めたというもの。そこにはこよなく愛した人を守るために隠された真実を「枕草子」の回想章段に秘めたと解釈している。現代と平安時代の繋がりが分からないが、一種の啓蒙作品であろうか。

演出は舞台中央に一段高くした畳の台座があり宮廷内もしくは貴族の屋敷内を思わせる。現代はもちろん洋服だが、平安時代を演じる役者は当時の衣装。特に女優陣は着物姿でその立ち居振る舞いが良かった。和歌の詠み競いは、知っている歌もあり久しぶりに学生時代に戻ったように思う。当日配付された「清少納言~千年のかくしごと~」で伝えたいこと、それは「ことば」だと書かれている。その意図は、和歌の詠み競いのシーンに昇華させているようだ。

演技は、現代と平安時代を演じた役者の間に演技力の差があり、場面転換というか時代交差のたびに集中力が途切れそうになる。出来れば物語は頻繁に現代・平安時代を交差させず、清少納言が生きた時代を中心に描いても良かった。
次回公演を楽しみにしております。
陽だまりの中で

陽だまりの中で

林家畳

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2019/01/23 (水) ~ 2019/01/27 (日)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2019参加作品。
実話を基に紡いだヒューマンドラマ。物語は平成時代から昭和時代へ遡り、基本的にはその時代での時間軸で順々に進む。その意味では分かり易い展開で、観劇歴が短い人でも十分楽しめる公演である。
全体的には人情物語であるが、ときどき享楽的な場面を入れ笑いを誘っている。どうにか笑いを取り入れたいのかもしれないが、流れとしては不自然または違和感のようなものを持ってしまう。

ネタバレBOX

舞台セットが素晴らしく、ある地方都市の街角を出現させている。もちろん中心はスナック「新月」店内。上手側にはカウンター、そこにピンク電話。ほぼ中央に赤いBoxシート席、ボトル棚など調度品を設えている。下手側には後景2層部への階段や街路樹などが見える。一目で物語の設定空間へ誘われる。
また音響効果は、場面転換時に当時の流行歌などが流れ、ある年齢以上の観客には懐かしかったと思う。もちろん若い人にも聞き覚えがあるかもしれず、観客の心を掴んで集中力を逸らさない工夫は良かった。また劇中カラオケで歌うなど、雰囲気を盛り上げる。また音量で店内・外の区別、例えば鳥の囀りなど細かい配慮をしている。

梗概…蕎麦屋「新月亭」の店主が開店準備をするところから物語は始まる。暗転後、店主が高校生の時代に遡り、店もスナック「新月」に変わる。時代設定は流れる歌謡曲から”昭和”と思われる。母と高校生の息子の2人暮らし。母はスナック「新月」を営み生計を立てているが、息子は水商売を快く思っていない。高校生という思春期の反抗、何かにつけて母の行うことが気に食わない。一方、母はそんな息子を温かく見守る。特に父親がいないという負い目を持たせないよう気遣う姿が印象的である。スナックには近所の常連客や歌手志望の女、さらにはヤクザのような男が出入りする。その意味で、このスナック「新月」という場所も重要な位置を占める。
サラリーマンの他愛ない話、息子の同級生との戯れ・喧嘩・淡い恋心、歌手志望の女の悲哀、ヤクザ男の金取り立てなど、脈略なく展開されるが、そこに日々の暮らしのリアリティが表され、自然な時間の流れを感じる。ラストは父不在の理由や母の思いが手紙という形で明かされ、愛情の深さに心が揺さぶられる。

演出は、場内に入った途端、既にスナック「新月」の店内を思わせるほどしっかり作り込んでいる。BIG TREE THEATERの特長である高さを活かし、後景に街路を思わせる横長空間を作り出す。一方、店前(客席側)にも通路を設けているが、この2つの道は異空間であり、その間にある店を置くことで“街”を演出している。それゆえ、店に出入りする人々が顔見知りで会話に弾みが生まれ、生き活きとした人間活劇になっている。場面転換には当時の流行歌を流すなど観客の気を引き付けておく工夫をしている。全体的に丁寧な作りをしている。冒頭とラストが現在を現しているが、それは全体の中のほんの数分で、ほとんどは遡った時代の中で順々と時間が経過していくため、素直に展開を観ることが出来ることから感情移入がし易い。

演技は、登場人物の性格付けがしっかりされ、その役柄にあった心情表現は上手い。コミカルな演技、情感あふれる演技など、人の喜怒哀楽という感情が場面に応じてメリハリを付け際立たせる。観客からすれば、芝居と分かって一歩引いた目線で観ているはずが、いつの間にか演技+演出と相まって感情(心)を引っ張り込む”力”があった。もちろん役者の演技力のバランスもよい。

演出面であろうが、馴染めなかった場面を記しておく。
鞭等を用いた享楽的シーンは必要であったのか。展開の中では異質であり、流れが停滞したかのように感じる。またラストにも、風俗店の出店や店長になったなどの台詞が飛び出す。なぜ緩い笑いが必要だったのか疑問が残る。
次回公演も楽しみにしております。
WEEK END

WEEK END

劇団ピンクメロンパン

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/02/20 (水) ~ 2019/02/24 (日)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2019参加作品。
生死の境にいる人が他の人の体に憑依し、人間の本質を凝視するような物語。人が次から次に殺されるダーク、ノアールといった内容であるが、不思議な力強さ魅力がある。異様な空間(生死の境界、黄泉のような)から俯瞰することによって客観的な視点で観るようだ。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

セットは、2層構造にすることで場面・状況が分かり易い。上手側にある窓ある壁が折り畳むことで、街にある食堂へ早転換する。何となく上手側に洗濯物などが干してあり下町風情が漂い、下手側に陶台や絵画が飾られ富裕さを感じさせる。全体が廃屋らしく寂れた感じがするが、その中でも階層社会を暗示するような舞台セットは見事。深層表現としての照明技術は印象深い。固定照射ではなく、照明光を回転させることによって不安定・不安という情況を思わせる。スポットライトの多用は、観客をその人物に注視させ、しっかり伝えるべきことを印象付ける効果があった。

梗概…富豪家の息子とその花嫁が新婚旅行先の事故で亡くなった。その葬儀で新婦の姉は新郎の妹と出会う。2人はそれぞれ秘密を抱え、葬儀に参列する。 他方、車で人を引き殺したと思った医師と看護師、しかし轢かれた当人は何故か元気な姿を見せ同乗してくる。さらに別場面...ある街に劇団が訪れるが、看板俳優が突如その舞台を降板してしまう。この街には”家族スープ”という看板料理を掲げた店がある。一見無関係な人々がある街を目指してやって来る。そこで繰り広げられる人々の思惑、憎悪、狂気など負の感情で溢れる。死人から見た生者の営み、その滑稽で哀れな姿を俯瞰することで、人間とは...その本質を抉り描こうとしている。
 
気になるのは、設定が変わったのかという疑問である。富豪(ローナン産業会長)が生死の境を彷徨っているが、まだ亡くなってはいない。車に轢かれたのは若い男で、その男に会長が憑依したという設定だと思っていた。たしかに物語途中で会長は亡くなるが、それより前に黄泉へ逝ったようで判然としない。異体間による心と体の融合のような現象は、現世なのか来世なのか。また精神科医と偽看護師(実は精神疾患患者)の生死の関わり時点はいつなのかも解り難い。

生きている時には見えず、亡くなってから分かるという皮肉。生きること、そこに内在する野望・嫉妬・裏切などの感情が人の心(目)を曇らす。その描き方は、「出会いによって人々が混ざり合い、混沌と混乱が生まれる。孤独と矛盾を抱えつつそれでも生きる意味、存在証明のために足掻いて生きようとする人々を丁寧な会話劇とスピーディーな構成によって残酷なまでに見つめた物語」という謳い文句通り。しかし多くの登場人物、多くのエピソードを交錯させるため物語の展開を追うだけに終始し、先の謳い文句を十分吟味し楽しむには難しい。表層的に眺めるだけの公演では勿体ない視点と発想だと思う。
黄泉の住人か、その案内人は物語の展開に必要だろうか。ダークゆえに少し面白可笑しくユーモアを取り入れたかったのだろうか。逆に物語の世界観が中和されたようで中途半端な印象を残したように思う。もっと話の流れ、雰囲気を大事にしても良かった。

演技は、カタカナ表記の名前の役者17人が織り成す群像劇。名前は覚えきれず役柄で印象付けるしかないのがもどかしい。とは言え、役者1人ひとりの演技力は素晴らしく、ダークで醒めたような表情の裏に隠された悪意が見え隠れする。登場人物のほとんどが人間らしい厭らしさを持ち、人物の立場や状況によってその表れ方が違う。それを怒気、粘質ある台詞回しで上手く表現していた。表現的に適切かどうか分からないが、熱演だったと思う。
次回公演も楽しみにしております。
紡ぐ。

紡ぐ。

劇団ヨロタミ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2019/02/14 (木) ~ 2019/02/18 (月)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2019参加作品。
「それぞれの人生が織りなす物語、の筈だった……。」という説明文にやられた。後日(4/8)、作・演出の坂本直季氏に詰め寄ったが、「筈だった...。」と書いてあったでしょ と切り返された。確かにそうだが、出だしは「舞台は北国の無人駅ー。」とあり、寂寥風景を想像した自分がヨロタミの人情劇にハマり先入観を持ったのが誤りだと気がついた。
しかしね~、説明と真逆のような公演は…。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

セットは「北国の無人駅」の構内のようで、上手に出札口や時刻表、下手に駅舎窓や今は珍しい伝言板が掛けられている。客席寄りにベンチやストーブが置かれ、このセットだけを見れば”しっとりとした”物語が紡がれると思った。もっとも、伝言板にはヨロタミらしく忘れ物-結婚指輪、教科書一式などユーモアな一面も見られた。

梗概…説明にある都会へと旅立つ若者、見送る父、救うことが出来なかった恋人、とあるがこれは芝居の稽古風景である。劇中劇として普段の稽古場の様子が面白可笑しく描かれる。劇中劇では俚言で話し、稽古中として見せる時には標準語?という台詞の切り替えは上手い。劇中のラーメン談や演奏(南井貴子サン)は場繋ぎか(失礼)。

興味深かったのは、別所役(坂本サン)が本公演同様、演出家という役割だが、その演出手法が秀逸だ。劇団員1人ひとりの性格や特徴を捉え、その人物に合わせた演出で動かす。そこには演出家として役者をどう使い、どう芝居を観せるかという演劇(職業)人としての顔が見えてくる。これは会社等の組織でも同じで、人材を適材適所に配し働かせるということに通じる。だだ、演劇は役者の意見の取入れが多く、時として演出家の思惑を大きく逸脱することがあるようだ。稽古と素に戻った場面を交錯しながら、普段の劇団内の様子や事情を曝け出していく。その一例として、劇団員は生活のためアルバイト等をしており、稽古に来られない時があるという。これも坂本氏から聞いた話であるが、座長(寺林伸悟サン)は海外へ出る職業(自分も同様の資格を得ているが、まだ活用していない)だから、稽古期間中は代役を立てることが多いという。苦労の一端が窺える。

さて、公演のジャンルは悲劇、喜劇、シリアス等、喧々諤々でその方向性が決まるのか?この公演は抒情的な物語から喜劇的な公演に変容させたような。当初の方向性(初めから喜劇か?)を劇中劇に追いやり、自分たちの日常をメインに据える、その自由度と発想の豊かさに感心させられる。今後も期待通りなのか、期待が良い意味で裏切られるのか、観届けたい。
次回公演(第31回池袋演劇祭参加)も楽しみにしております。
クレイジー☆ラブ

クレイジー☆ラブ

enji

吉祥寺シアター(東京都)

2019/04/26 (金) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★

本公演のテーマは「愛」であるが、その描き方は”歪な愛”である。二転三転する展開でラストはサスペンス風な結末で印象付ける。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

舞台は2階建てのボロアパートというか診療施設であり、そこに住んでいる住人...犯罪者またはその予備軍の”歪な愛”を滑稽であり、時に悲哀を込めて描く。レンガ作りの2階建で1・2階にそれぞれ3室あり、2階中央の部屋が診療部屋のようである。上手奥に洗濯機、客席よりに花壇がある。下手には2階への外付け階段がある。またゴミ収集箱や空き缶入れの箱が置かれている。周りの風景は木の葉で囲われており、都会から隔離された場所をイメージさせる。
ここに住む男女の性癖のようなものが”愛”と言えるのか、その治療法と心理的な理屈が面白可笑しく表される。

純愛とストーカーの境界は何か?思い込みの度合いか行動性の違いか、その解釈は相手がどう感じ取るかという曖昧なもの。自分の気持の押し付けによってはストーカーとして訴えられ警察沙汰になる。この公演ではストーカーとして訴えられ、その性癖を治療するため強制的に引っ越しをさせられる男の無情と悲哀といったシーンから始まる。
この男は、自分が悪いことをしているという自覚はなく相手の女性とは恋愛関係にあると主張するが、警察は認めない。この件は状況は違うが、誤認による痴漢行為=警察での取調べ・裁判になった映画「それでもボクはやってない」(周防正行監督)を連想させ、チクリと警察批判をしているようだ。

この公演は、ストーカーと言われる人々を”治療施設”という一か所に集め、その人たちの典型的な思考と行動パターンを面白可笑しく観せる。それによって相手との恋愛が成り立っているのか、ストーカーなのかを観客に見極めさせているかのようだ。ストーカーの視点で描いていることから、何となくその気持に感情移入してしまう。相手がどう思っているかは描いておらず、欠落した描写ゆえにストーカーの強い思いが自由奔放に展開できている。

さて、冒頭の男がストーカーだと決めつけ、心理学的な話と治療が必要な説明があったが、特に動物的な本能行動の制御の無さがストーカー行為を引き起こすと…。その説明とラストの心療内科助手の行動が解り難い。冒頭、男とその彼女を引き離し、その後その彼女を自分の好きな男に引き合わせ、さらにその男が自ら諦めるように仕向ける。その深謀遠慮の行動こそが、違う意味でのストーカー行為のようで、タイトル「クレイージー☆ラブ」そのもの。理屈を考えると表層のコメディタッチが活きてこないので、ここは観たままを受け入れたほうが面白い。そしてラストはサスペンス風の深(怖)い愛を思わせる、見事な幕切れであった。
次回公演を楽しみにしております。
演劇♡顧問

演劇♡顧問

神保町花月

神保町花月(東京都)

2019/04/26 (金) ~ 2019/05/06 (月)公演終了

満足度★★★★

久しぶりに神保町花月で観劇。その公演「演劇♡顧問」は、人の心の間隙を突くような面白さと、考えさせるを併せ持つような好作品。
高校演劇地区予選後の演劇顧問による打ち上げ会というワンシチュエーション。そこでは教師という聖職者(職業)ではなく、一人ひとりの生身の人間が描かれ会社組織のような一般的な社会組織にも通じる描き方で、多くの人に楽しめる内容になっている。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台は居酒屋の座敷。壁にはビール会社のポスターや品書きが貼られている。上手にはカラオケセット、下手は出入口と下駄箱が据えられ、その上に片目が入ったダルマと大徳利オブジェがあり居酒屋の雰囲気は十分表している。
冒頭、「蒲田行進曲」をカラオケで歌っているシーンから始まるが、これによって宴会ということが一瞬にして解る導入の巧さ。この後の暗転が少し長いような。
この選曲は後々「演劇論」に発展したときの伏線になっている。またマイクを握り喋るシーンがあるが、それは議論が白熱し騒々しさの中で素に戻って激白する、その客観的な姿が滑稽という場面に流されず自己主張しているという硬質感を生む。

高校演劇の(東京都)地区予選の打ち上げ会といったバックヤードを描いた公演は、選ばれた高校(教師)への嫉妬と羨望に止まらず、演目テーマ(不倫)にケチを付け非難するような展開へ。そして議論は、いつの間にか現実の不倫(三角関係)や高校時代の同級生同士(しずる)の生き方、考え方の違いの言い争いから人間としての優劣に発展する(盗みはやり過ぎか?)。また演劇顧問になっているが、好き好んでなっている訳ではなく、押し付けられてやっているという愚痴と本音。たびたび出てくる台詞...「普通だよ」は、教職は特別ではなく、ここでの騒動原因のような醜態・色恋沙汰も起こすという自虐のようにも聞こえる。

演劇論はほとんど聞かれないが、それでも つかこうへい の名前が挙がる。しかしいやいや演劇顧問を引き受けている人にとってみれば、その人は誰?ということになる。劇中での無関心は、逆に つかこうへい をオマージュしたような騒々しさの中に「普通」の人間像が立ち上がってくるようで面白い。役名を言い間違えるのも愛嬌と思えるような親しみ溢れるものだ。でもこの人たち面白すぎて「普通」じゃないよな~。

しずる×ロ字ックの初コラボらしいが、実に自然な演技・バランスだ。熱量は つか作品を彷彿とさせるが、暗喩や皮肉は感じられず思い切り楽しんでいるといった印象だ。それは観客を楽しませると同時に、演劇に対する情熱の現れだろう。
次回公演も楽しみにしております。

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