うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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その頬、熱線に焼かれ

その頬、熱線に焼かれ

On7

こまばアゴラ劇場(東京都)

2015/09/10 (木) ~ 2015/09/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

ヒロシマの25人
原爆乙女と呼ばれた女性たちがケロイドの治療の為に渡米したことは聞いていたが
選ばれた25人の、その選択がどれほど苦悩に満ちたものであったか、
改めて等身大の女性たちの声として聴く思いがした。
戦後70年に相応しく、また女優7人のユニットに相応しい脚本が
声高でないだけに、じわりと沁みこんで素晴らしい。
隙のない演技の応酬が見応え満点、会話劇の醍醐味を味わった。

ネタバレBOX

対面式の客席に挟まれた舞台は極めてシンプル、ボックス型の椅子が4つのみ。
冒頭、アメリカに到着したばかりの原爆乙女を代表して敏子(尾身美詞)が挨拶をする。
長い髪でケロイドを隠すように俯きがちに話したあと、まるで義務のようにケロイドを晒す。
大きな音でフラッシュがたかれ、その音に思わずたじろぐ。
25人の原爆乙女たちは順番に手術をうけるのだが、
ある日、簡単な手術といわれていた智子(安藤瞳)が、麻酔から覚めないまま死亡する。
善意で無報酬の手術を引き受けてきたドクター側にも、原爆乙女たちにも衝撃が走る。
これで手術が中止になるのは嫌だという者、手術が怖くて受けたくないという者、
双方の意見が対立する中、死んだ智子と交わした会話を思い出しながら
初めてそれぞれの思いを吐露していく…。

麻酔から覚めずに死んでしまった智子が狂言回しの役割を果たす構成が秀逸。
他者を受け入れる優しさと包容力を持った彼女は、生前ほかのメンバー達と
深いところで触れ合う会話を交わしていた。
そんな彼女との会話を思い出しながら、皆否応なく自分をさらけ出していく。
同じようにケロイドがありながら審査に落ちた仲間たち、
傷の程度を比較しては幸せを計り、妬んだり羨んだりする被爆者の社会、
日本ではマスクして歩いていたがアメリカでは顔を出して歩けるという開放感、
ピカによって損なわれた人生、容貌、可能性を、ただ想像するだけの生き方でなく
アメリカで手術を受けることで変えようとする強い意志…。
舞台はそれらを反戦や正義感から声高に訴えるのではなく、
等身大の女性に語らせることで一層切なく理不尽さを突き付ける。

「死に顔をきれいにしたい」という弘子(渋谷はるか)の言動が良きスパイスになっている。
前向きに仲間同士励まし合って…という流れに逆らい、ひとり突っかかっていく弘子の
緊張感のあるキャラの構築が素晴らしい。

北風と太陽のように、じわじわと頑な弘子の懐に入っていく
智子の強い優しさが印象に残る。
安藤瞳さんの淡々と語りながら包み込むようなまなざしが、
この作品全体を俯瞰している。

片腕を失って尚、いつも周囲を励ます信江(小暮智美)が
たった一人の身内である祖母の話をした時は涙が止まらなかった。

ラスト、帰国した敏子は、髪を一つにまとめてまだケロイドが残る頬をすっきりと出し
力強く感謝の意と希望を述べて挨拶をする。
死んだ智子が微笑みながらそれを見ている。
この終わり方が一筋の救いとなって、観ている私たちも少しほっとする。

私はこんなに傷ついた身体になっても“生きていることに感謝”できるだろうか。
木っ端みじんになった人生を立て直す気になれるだろうか。
ヒロシマ・ガールズたちの強さは、そのまま哀しみの目盛りに重なる。
昨今は学校における原爆教育そのものが敬遠されがちになっているとも聞くが、
平和ボケ甚だしい日本にあって、このような意義のある作品に感謝したいと思う。
Vol.2『健康"・指・露的・回転盤』終演◎ご来場ありがとうございました!

Vol.2『健康"・指・露的・回転盤』終演◎ご来場ありがとうございました!

ド・M(マリーシア)野郎の宴

Geki地下Liberty(東京都)

2015/08/27 (木) ~ 2015/08/30 (日)公演終了

満足度★★★★

死にたい男
重すぎる、答えのないテーマに果敢に挑戦していることに感心した。
しかも無理や背伸びをせず、等身大の矛盾に悩む姿を素直に映して好感度大。
これをコメディにした脚本の力を感じる。
死刑囚のキャラ設定や、彼と1対1で向き合った時の会話が素晴らしい。
コメディシーンでちょっと脚本の台詞に役者がついて行ききれていないのが残念。
一番客席が湧いた“ビンタ”の場面、あの“タメ”と勢いがもっと欲しい。
しかしこの”死にたいのに死なない男“、いいねえ!


ネタバレBOX

いつもながら感じの良い受付と案内で地下へ降りる。
客席から見てもこの劇場の造り、本当に使い勝手良さげで面白いと思う。

5人の死刑執行官が並んでボタンを押す指示を待っているところから始まる。
誰のボタンで執行されたかわからないように5人が一斉にボタンを押すのだが、
この仕事に疑問を持つ者、ことさら軽いノリでやり過ごす者、淡々とこなす者、
とそれぞれ思うところありながら職務についている。
ところが今日の死刑囚のひとりは、執行後も死ななかった。
そして意識を取り戻した彼は、病院を抜け出して刑務所へと戻って来る…。

ごく普通の感覚で描いているから、死刑をめぐる意見の多様性が身近に感じられる。
ああいう仕事をする人たちも、きっといろんな思いで働いているんだろうなと思う。
熱血漢で繊細な菅谷(佐々木祐磨)の、矛盾に対する疑問の眼差しが純粋で
思わず一緒に考えさせられる。
佐々木さんはここ何作かで急に上手くなったと感じる(エラそうにすみません)。
内に秘めた思いを持つ福本(森山匡史)や副所長(紀平悠樹)のキャラもとても良かった。

キャラと言えば、何といっても死刑囚笠井川(大浦力)が魅力的。
雨の日に仕掛けを施した傘で、2年間で女性ばかり16人を殺したという伝説の殺人鬼・・・、
ってもうそれだけで1本芝居が出来そうなキャラじゃないか!
自分を生んで死んだ母親の歳が34歳だったから、自分もそれまでに死にたいという
“死刑願望”を持つというのも、このテーマに一石を投じるのに十分な要素だ。
大浦さんは台詞の多い役も面白いが、こういう寡黙な役の時の表情が良い。
最初に登場するところ、刑が執行される直前客席の前を横切って行くのだが、
その横顔が“屈折した殺人鬼”のそれを感じさせて素晴らしい。
どんな経緯で罪を犯したのか興味を掻き立てる顔だった。
このキャラがあって初めて成立するストーリーだと思う。

ギャグとシリアスの割合は良いが、ギャグの部分が弱い印象。
テンポを優先するあまり台詞が流れて引っかかりがないまま滑って行く感じが残念。
ユルイ会話の面白さを出すのは一番難しい事だと思うが
工夫次第でもっと笑いがとれるはず。
ボケとツッコミを整理して1時間30分くらいにしたらシャープになると思う。

ラスト、再執行されてもまた死なないというオチが秀逸。
死にたい男は死なない、死ねないという皮肉が効いている。
彼にとっては死ねないことこそが罰だろう。

しかしこのテーマにこのセンス、私は好きだなあ。
次も楽しみにしています (^_-)-☆

ゴースト・ゴースト・ゥライター

ゴースト・ゴースト・ゥライター

東京パイクリート

OFF OFFシアター(東京都)

2015/08/19 (水) ~ 2015/08/23 (日)公演終了

満足度★★★★

物書きがいる!
怒涛の台詞が鍛えられた役者陣から繰り出され、
シチュエーションだけに頼らず脚本の面白さでも大変楽しめた。
職業人の裏話と悲哀に支えられながらカラッと明るい。
舞台が大きく動くのは中盤からだが、前半の振れ幅の大きい演技が
中途半端でないことが、後半の展開を支えている。
内海詩野さんとさわまさしさんの掛け合いが絶妙で素晴らしい。

ネタバレBOX

中央に大きなベッド、下手にはソファ、上手に細長い机、机の上には書類の山。
ここは古いホテルの一室で、脚本家の千葉真(内藤羊吉)がカンヅメになっている。
最後の章が書けなくて悩んでいる彼の元へ、催促にやってくる編集者堂本(加藤玲子)、
歴史家(?)の江沢(用松亮)、そしてず~っと以前からここにいる地縛霊が二人。
なかなか書けない千葉ちゃんを助けようと
元物書きの地縛霊たちが立ち上がるのだが…。

当日パンフにあるように「楽屋」を“女優”から“脚本家”に置き換えたという作品。
これが、コメディに徹することで全く違うものになった。
まず地縛霊の強烈なキャラが面白い。
地縛霊安孫子(さわまさし)と馬場(内海詩野)の二人の明治か大正のようないでたち、
“眠っている人の身体を借りて自分が書いてやろう”と言い出す安孫子と
“色恋”しか書けない馬場の、
ズレながらもテンポ良く交わされる会話が楽しくて引き込まれる。
バカバカしい会話なのに勢いがあって無駄がない、この脚本が大変面白い。

平凡な脚本家の男が、死者と対話することで自分の“逃げの人生”を振り返り、
人生をやり直す前向きな方向性が明るくて心地よい。
そもそも地縛霊や、死の床にある作家の代わりにゴーストライターが書く、という設定が
十分重いのだから、そこで泣かせなくてもベースには既に悲哀が横たわっている。
ゴーストたちが何気に口にする台詞がまたいい。
欲や世間に翻弄される生者が見失っているものを、さらりと提示してくれる。

欲を言えば、安孫子と江沢と本当の作者(名前忘れました)の3人が
見た目もキャラも近かったかな、と言う気がする。
全く違うキャラ設定の方が、憑依が明らかでより面白かったと思う。
編集者堂本に憑依した時も、もっとジイサンと若い女性の振れ幅が大きい方がいい。
声を変えるのは大変かもしれないが話し方で変化はつけられる。
そのあたりの工夫がされたら、もっと爆笑が起こるはず。
せっかくのこのアイデアと脚本、更なる進化に期待したい。
ヘルメスの媚薬

ヘルメスの媚薬

BELGANAL

新宿眼科画廊(東京都)

2015/07/31 (金) ~ 2015/08/05 (水)公演終了

満足度★★★★★

危機管理
60分の中に、人間の欲とプライド、他人を観察して面白がる冷めた視線が交差して
濃密な“嘘つきドラマ”が展開。
“大人の崖っぷち感“満載の登場人物が「人は信じたいものしか信じない」なんて
素敵な台詞を吐きながら蠢くあたり、作家柳井氏の若いのに老成した部分が全開。
不気味なBGMも良かった。

ネタバレBOX

入り口から見ると奥へと延びる長方形のアクティングスペースには
たくさんの白っぽいくしゃくしゃの紙が敷き詰められている。
目を引くのは正面の壁を覆う、一瞬血しぶきかと思うような荒々しいタッチの抽象画。
それを三方から囲むように客席が設けられている。

暗転の後、車いすの男性がゆっくりとその絵の前に進み、絵を見つめている。
表情は暗く、生気がない。
彼は日向記念病院の病院長志郎(西地修哉)、妹百合は看護師長(林田沙希絵)、
弟直樹(朝川優)は事務長、という一族が経営する病院である。
ここで原因不明の病気により、5人の患者が次々と死亡した。
スキャンダルを怖れる病院が呼んだのは、かつてこの病院の医師で、
今は医療危機管理センターの主席コンサルタント大神(鶴町憲)である。
情報分析に長けた門野(北村雄大)と共に、副院長の牛尾(狩野和馬)や
カウンセラーの兵藤(岸野聡子)らからも聞き取り調査を開始するが、
全員何かを隠している様子でなかなか核心にたどり着けない。
そんな中、事務長の直樹が提出した資料から、内部告発の手紙が出て来る…。

率直かつ素直なのはコンサルタントの大神だけで、
他は皆怪し気で嘘をついているように見える。
だからつい大神の視点で真相に迫ろうとしてしまう。
「人は信じたいものしか信じない」という台詞は、
大神と同時に観ている私にも向けられている。

隙のない役者陣が素晴らしく、緊張感が途切れないままラストまでなだれ込む。
一度もハケない鶴町さん、屈託のある立場で真実を追求する姿にリアリティがあった。
車椅子の病院長役西地修哉さん、積極性をとことん消した表情と声が巧い。
事務長を演じた朝川優さん、チャラいぼんぼんの感じが巧くて、
その後の行動とのギャップが鮮やかだった。
KYな助手門野が医療部門の専門家でなく、観客と同じ目線で
質問したり解説を求めたりしたのが理解を助けてくれて良かった。。

大人の嘘は“何かを守るため”、その何かとは“自分を守ってくれるもの”なのだ。
そして嘘をついた人間は、どこかでそれを告白したくてたまらない。
その衝動は嘘の大きさに比例して強くなり、ついには耐えきれなくなって爆発する。
告白すれば楽になるが、同時にその人間の終わりも意味する。

抑制の効いた人生の最後に”媚薬”を持ってくるところが
単なる医療問題にとどまらない奥深さがあって素晴らしい。
無駄なせりふ無し、こってり気味の演技も謎解きにはプラス、
事件の15年前も、事件の今後も気になる含みを持たせた構成も巧い。

本当にこのあと、病院はどうなるのだろう?
誰一人爽やかな笑顔を見せなかったこの物語の、今後が気になって仕方がない。
そしてすべての始まりであった15年前の物語もまた観てみたいと思う。
空恐ろしい15歳の少女の物語を。



君原毬子の消息

君原毬子の消息

劇26.25団

駅前劇場(東京都)

2015/07/30 (木) ~ 2015/08/03 (月)公演終了

満足度★★★★

動機
「歌う映画スター」君原夢子の突然の死の謎を追いつつ、描かれていく家族の裏側。
天才女優は私生活も奔放で、夫も養子の子どもたちも、人生丸ごと振り回されてきた。
いびつな家族の内面が次第に明らかになる過程が、サスペンスフルで意外性に富んでいる。
夢子役のリサリーサさんがはまり役で、華やかさと同時に退廃的な雰囲気が素晴らしい。
「この世には女と男と女優しかいない」という、その女優の毒がたっぷり味わえる。
まさに「君原毬子の消息」がカギとなる、このタイトルも秀逸。

ネタバレBOX

舞台は横長で正面にベンチ椅子といくつかの椅子、下手に小道具が並んだ棚。
棚の小道具は、テレビの生放送ドラマが出てきたころのスタジオシーンで使われる。
上手には庭と池があるという想定。

冒頭、自宅の池で“歌う映画女優”君原夢子が死に、大騒ぎとなるところから始まる。
夫英夫(田辺日太)との間に子どもは無く、夫婦は5人の子どもを養子に迎えていた。
しかし現場に残されていた「M.K」のイニシャルが入ったネックレスに疑問を抱いた刑事は
夢子が夫の出征中に妊娠、出産した毬子という娘の存在を英夫に告白させる。
17年前親類に預けたままの毬子が母親を殺しに来たのか…、という衝撃の中
養子たちの事情が次々と明らかになり、使用人セツ(林佳代)も秘密を抱えていた…。

よくある、刑事が聞き取りによって次第に犯人を割り出すというパターンではなく
一家の日常と過去の再現シーンとで次第に観客に解き明かしていく展開が面白い。
また英夫と長男正巳(長尾長幸)が出演する、テレビドラマの撮影現場を挿入すること、
そのドラマが、君原夢子の残された家族の物語であること、などから
一家を見る世間の好奇の目や、演じる英夫の役者としての葛藤などが伝わってくる。

この“現在と過去”、“現実とドラマ”が交互に描かれる構成が上手い。
「自分の子どもには何をしてもいい」と言い放つ夢子の身勝手さと
どうしようもない孤独が浮かび上がる。

夢子を演じたリサリーサさんの歌唱力と貫禄ある大女優ぶりに魅せられた。
夫役の田辺日太さん、長男役の長尾長幸さんの繊細でリアルな演技が印象的。
対称的に養子虹子を演じた梢栄さん、珠子役の犬井のぞみさんの濃い目の演技が
全体にメリハリをつけてこれもまた強い印象を残した。
ラスト、ここから本当に残された家族が共に歩み始めるような温かさがあって
救われた気持ちになった。
猫と洞窟と夏についての試論

猫と洞窟と夏についての試論

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2015/07/23 (木) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★

10代の事情
十七戦地で柳井氏が見せるミステリーの重厚さが“大人の事情”から発するならば
10代には“10代の事情”が存在して、人生を左右するほどの重みを持っているのだ。
彼らの若さゆえの行動が連鎖するところは説得力があるが
主軸となるキャラの設定や演出等に、若干の疑問も。

ネタバレBOX

小さな会議室に長テーブルが並び、丸椅子が置かれている。
下手は会議室の外、廊下へとつながるスペース。

歌舞伎町のビルの一室に集まった7人の男女は、皆同じ手紙に呼ばれて来た。
彼らは「高校生科学技術コンクール」出場常連校だった
大江学院高校科学部の元メンバーで
5年前、全国大会を目前にある不祥事から出場資格をはく奪され、
関係者は重い処分を受けた。
メンバーのその後にも大きな影響を与えたこの出来事が、
1通の手紙によってもう一度検証されようとしている。
手紙の差出人は誰なのか、そして不祥事は本当にあったのか…?

当時1年生だったメンバーが議事進行役、それを補佐するのは
5年前に唯一学校に対して好意的な記事を書いたフリーライターの男である。
事実を検証し直していくうちに少しずつ嘘が露見していく様が面白い。
10代の、彼らなりに切羽詰まった世界がリアルに描かれていて、
嘘をつく事情に説得力がある。

ただ、唯一大人として参加しているフリーライター(池田智哉)が
中盤やり込められてオタオタするところは少しキャラに違和感を覚えた。
彼もまた忸怩たる思いで参加している不完全な人間だとしても
だからこそ真摯に、大人ならではのアプローチをしてほしかった。
牽引する立場の人間は魅力的な方が観ている方は素直について行ける。

手紙と、それに同封されたという写真を
客席のパンフの中に入れた演出が素晴らしい。
あれで共有する情報が一気に増え、一緒に謎解きをする面白さにつながった。

あのスペースをほぼ半分に区切って会議室を小さくしたのはなぜだろう?
もう少し広い空間にしたら、進行役が客席に背を向けなくても良いだろうし、
テーブルの間を移動するのもスムーズになったかもしれないと思う。
空間と配置に工夫の余地があるような気がした。

カッとなりやすい短絡的なパン屋を演じた前田ちまきさん、
エリートコースを歩む多田を演じた室田渓人さん、
岡山の蓮農家の男を演じた三宅勝さんが印象に残った。


祝祭

祝祭

Trigger Line

小劇場B1(東京都)

2015/07/18 (土) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

誰かのために生きる
フィクションとノンフィクションを織り交ぜた作品だというが、その境界線を
全く意識させない怒涛の展開が素晴らしい。
大統領の思惑と言動、完全に “外交負け”している日本の政治家など
“あるある”感満載で説得力ありまくり。
息もつかせぬ緊張感と無駄のない台詞、巧みなキャラの配置によって
たっぷりと伏線が張られ、驚きのラストまで一気に見せる。
私には初めて拝見する役者さんも多かったが、そのあまりのハマりっぷりに、
もうこれ以外の配役が考えられない。
3か所の出入り口を生かしたスピーディーな出ハケと場面転換の巧さにも感心した。
繊細な照明も素晴らしい。
それにしても終盤のあの演出、もう一度別の角度から彼の表情を見てみたい。


ネタバレBOX

1996年12月、レセプションが開かれていたペルーの日本大使公邸が
“革命家”を名乗る集団に乗っ取られ、
大使はじめ政府関係者や民間人など約600人が人質となった。
最終的に日本人24人を含む72人が数か月間拘束され続けた。
「平和的解決」を強く要請する日本政府の要求が通るかに見えた頃、
ペルー大統領は、日本政府に事前通告もなく特殊部隊を突入させる。
偶然にも日本人は全員無事に救出されたが、そこには驚愕の真実が隠されていた…。

日系大統領がヒーロー扱いされたあの当時、強行突入の理由を声高に問うよりも
人質が無事に帰って来た喜びの報道の方が断然多かったと思う。
物語は、その隠された真実をドラマチックに描いて
“何も知らない、知ろうとしない日本人”に鋭い問いを投げかける。

彫りの深い、陰影のある登場人物が大変魅力的で惹かれる。
大統領から交渉役に抜擢された国家治安情報局のカタオカ局長(佐川和正)は
端正な居ずまいと沈着冷静な話しぶりで「静」のイメージだったが、
大統領のバカ息子を一喝する迫力との鮮やかなギャップが素晴らしかった。
一方では過去の辛い経験と、それをテロリストに打ち明ける弱さと素直さを見せる。
彼の心の傷が、人質事件最大の謎に絡むところがダイナミック。

テロリストの指揮官ホセ(西岡野人)も実に魅力的な人物として描かれている。
知識と教養を持ち合わせ、交渉役の言葉に内省する謙虚さもある。
“金は出すが実情を知らない”日本人に対する言葉には説得力があった。
ほかのメンバーも、強行策を主張するサンチェス(今西哲也)の暴走寸前の緊迫感や
日本人に興味を持ち、のちにサンチェスを諭すミゲル(藍原直樹)の人の良さなど
一人ひとりのエピソードが的確で、事件の背景をはっきりと浮かび上がらせる。

そして常に「ハレルヤ」と唱える神父(林田一高)の、
人が良すぎて逆に胡散臭いキャラ。
林田さんが“ただ人の良い神父”を演じるはずはないと思っていたが
まさかあんなことになるとは予想していなかった。

しかし当時誰も予想しなかったのは、
“人質とテロリストが心を通わせるようになった”ことだろう。
この手の犯罪の解決に最も必要な「理解と共感」は、
まさに事件現場で実践されていた。
しかもそれをぶち壊したのは政治家であり、
その政治家を盲目的に支持したのは日本だった。
作品を通して、ノー天気なことはそれ自体罪だと思い知らされる。

ミゲルがサンチェスに言った言葉が忘れられない。
「誰かのために死ぬんじゃなくて、誰かのために生きるんだ」
およそ政治家には、どちらも思い及ばないことだろう。
「自分のため」にしか動かない人種だから。

イヌジニ

イヌジニ

雀組ホエールズ

OFF OFFシアター(東京都)

2015/07/15 (水) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★

犬猫目線
必要悪みたいに容認されている動物の殺処分、そこに疑問を抱くところから発生した
センチメンタルコメディ。
素晴らしいのはそれが単なる動物愛護スローガンではなく、“犬猫目線”であること。
オリビア、一緒に遠吠えしちゃったよ。アオーン!

ネタバレBOX

明転すると黒ずくめの男が中央に座っている。
片足を伸ばしてうらぶれた様子の彼に、作業服姿の男性が声をかける。
「お前は、まだ大丈夫そうだな」
それには答えず、「ふん、犬殺し!」と小さく罵って立ち去る黒い男…。

作業服の男は安西と言い、動物愛護センターに勤務する公務員だ。
そこでの彼の仕事は、持ち込まれた犬猫の殺処分。
娘のサクラはそんな父の仕事を激しく批判する。
そのサクラが突然飼っている犬の言葉がわかるようになったから大混乱。
飼い主から見捨てられ、殺されるのを待つ犬猫たちの気持ちを代弁するサクラ。
自分の仕事に疑問を持ち始め、殺処分でない別の方法を模索しようとする安西。
そしてついに上司と全面対決することになる…。

様々な理由から飼い主に見捨てられた犬猫たちのキャラが豊かで面白い。
中でも出色は阪本浩之さん演じる黒い犬オリビア。
その不自由な足と一緒に凄惨な過去も一緒に引きずる、人間不信に陥った犬だ。
人間に対する距離を置いた視点が、哲学的で一貫している。

「犬猫は人間の言葉を覚えるが人間は犬猫の言葉を覚えようとしない、
その方が都合がいいからだ。
人間は動物を裏切るが、自分たち動物はそんな人間を裏切らない。」

このクールで突き放したオリビアの価値観が、ラストで効いてくる。
元の飼い主を語るところ、そしてラストの遠吠え…。
マジで泣かせる。
阪本さんのキャラづくりに深みがあって、冒頭から台詞に過去をにじませる。
笑いの多い作品の中で、批判精神がきらりと光る。

父親を批判するサクラの台詞に具体性が無く、
繰り返す「命」という言葉が一本調子になりがち。
犬猫の言葉を理解できるようになる、という体験を通して得たものが見えにくく残念。
父の仕事や世の飼い主たちの無責任ぶりを批判するだけでなく、
劇的な体験を通して彼女自身も大きく成長し、行動も変化するという構図が見えたら
もっと“通訳”として魅力的なポジションを得たのではないかという気がした。

“飼い主の責任”ばかりが取り沙汰される問題の中で、
人間に裏切られてもなお人間を信頼して生きる、動物たちの哀しいほど誠実な習性。
そこに焦点を当てた、繊細さと優しさあふれる作品だった。
僕の中にある静けさに降る、騒がしくて眩しくて赤くて紅い雪

僕の中にある静けさに降る、騒がしくて眩しくて赤くて紅い雪

天幕旅団

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2015/07/09 (木) ~ 2015/07/13 (月)公演終了

満足度★★★★★

カラフル版
本当は両方観たかったが、初演を観ているのでカラフル版を観劇。
文字通りカラフルな舞台で衣装も大変美しい。
初演の時も、毛糸の赤い血やゴムで形作る鏡の枠などに感動したが
今回のアイデアもまた素晴らしく繊細で効果的。
スローモーションの安定感と美しさ、計算された緻密な動き、
音響と照明の効果も素晴らしく
スピーディーな展開であっという間に平和な日常は崩壊する。
初演の時は「日常を喪う怖ろしさ」が印象に残ったが、
今回のカラフル版でビシビシ伝わって来たのは
「守ってあげられない自分、守ってもらおうと思っていない女」に対する
絶望と怒りだった。
“大人の男”としての王子に対する嫉妬と敵意をむき出しにした小人の心情が超リアル。
ハッピーエンドどころか誰もハッピーにならない白雪姫、でも私はこの方が断然好きだ。

ネタバレBOX

一段高く四方囲み舞台が設えてあり、色とりどりの布が敷き詰められている。
舞台下、四隅には小道具が整然と用意されていて、この劇団らしい几帳面な印象。
登場した4人の役者さんはみな裸足で、それが布を敷き詰めた床に相応しく柔らかい。

女王も白雪姫も、そして七人の小人もストールで装う。
特に多重人格の小人はストールの色で人格を表現、めまぐるしい変化が
視覚にも訴えて来る。
モノクロ版では表に出すまいとする感情がくっきりと浮かび上がった。
カラフル版では人の心の多様性に焦点が当てられているように感じた。

“多重人格の小人”という衝撃的な設定の素晴らしさはそのままに、
そうせずにいられなかった小人の孤独と、それ故に白雪姫を失いたくないという欲望、
王子に対する敵対心や、自分を子ども扱いする白雪姫に対する怒りと悲しみが
プリズムのように現れるところが素晴らしい。

女王が己のしたことを悔いてとどめを刺さずに立ち去るところ、
本当は継母に愛されたかった白雪姫の、指先まで神経の行き届いた動きの美しさ、
王子の善人というだけでない、どこか小人のコンプレックスを見透かしたような
勝ち誇ったような上から目線、
それらがキャラに奥行きを与え、登場人物を一層立体的に見せる。

冒頭に逮捕された小人を提示し、そこから時間を巻き戻す構成が成功して、
“サスペンスファンタジー”の名にふさわしい見事な本歌取りになっている。
このあっと驚くような、それでいて極めて人の心に忠実な設定こそが、
天幕旅団の真骨頂で作・演出の渡辺望さんの豊かな発想力が存分に発揮されている。
衣装のセンスの良さや効果的な照明も相まって、チーム力の高さも天幕の魅力だ。
舞台の下で待機している時の、あの表情もまた見たくなる4人なのである。
明烏 -akegarasu-

明烏 -akegarasu-

ブラボーカンパニー

駅前劇場(東京都)

2015/07/01 (水) ~ 2015/07/05 (日)公演終了

満足度★★★★

東京湾
落語の「芝浜」と「品川心中」をベースにキャラの立った登場人物が大活躍。
廓話を場末のホストクラブに置き換えたのも成功していて、うら悲しさが上手く出ている。
ピンポイントで大いに笑わせるがつなぎの部分が若干もたついた印象。
特筆すべきは安藤聖さんの大熱演。
素晴らしくブッ飛んだキャラを隙のないなりきりぶりで緊張感をキープ。
小顔で細い方だが、最初の登場からパワー全開で線の細さを微塵も感じさせず素晴らしい。
男性陣のホストぶりも「マジでいけるんじゃないか」というほど見事にハマっていて楽しい。

ネタバレBOX

新宿歌舞伎町のホストクラブの事務所が舞台。
入り口のカーテンを開けると店のBGMが聞こえる辺り、芸が細かい。
ここで働く人々の悲喜こもごもが露呈する場所としてうってつけのシチュエーション。

借金の返済に困っている男が偶然ギャンブルで大儲けしてどんちゃん騒ぎ、
目が覚めてみれば周りから「夢でもみたんだろ、それより借金返済どうするんだよ?!」
と言われる始末。
混乱する男、そこへアフリカから来た女が“金が無いのに遊んだ”と連れて来られる。
借金取りに追われ、指名もない、金が入ったと思ったら夢だった、と絶望した男は
アフリカ女と心中しようとして、女を先に海へ突き落す。
自分もすぐに行こうと思ったら、「金が出来た!」と父親が駆け込んできて思いとどまる。
もう二度とこんな借金はしないと誓う男に「実はギャンブルの金はあったんだ」
と皆が告白。
改心させるために、協力して芝居を打ったのだと謝る。

夢ネタは「芝浜」から、心中ネタは「品川心中」から取った本歌取りだが、
歌舞伎町のしがないホストクラブという設定が効いていてなかなかリアル。
根っからの悪人が出てこないほのぼのした原作の雰囲気が良く出ている。

アフリカのどこかの国から家出してきたという女が強烈で、パンチの効いたキャラが秀逸。
安藤聖さんの隙のないなりきりぶりが功を奏して、コントにならず大変面白かった。
ホスト達がまた「バイト出来そう」なくらい似合ってる。
店長やチャラ男、銀行員みたいなホストまでいて、大いに笑った。
新入りで態度のデカいホストが、ネタバレ後急におどおどするところなど
とても可笑しかった。
「仕事明けのお前たちはカラスだ、俺はそんなカラスが好きなんだ」という言葉、
いい事言うねえ、店長!
三人吉三

三人吉三

木ノ下歌舞伎

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2015/06/13 (土) ~ 2015/06/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

際立つ様式美
河竹黙阿弥の9時間に及ぶ原作をギュッと縮めてそれでも5時間、
日本語のことばの面白さが凝縮された素晴らしい舞台だった。
歌舞伎を観て泣いたことはないのに、木ノ下歌舞伎はなぜ泣けてしまうのだろう。
あり得ないほど“世間は狭い”的な物語である。
生き別れた親子、別々に育った双子の兄妹、血の盃を交わした義兄弟の家族、
彼らが出会ってしまう入り組んだ偶然は、解り易い現代語で語られ、
その上で、ハイライトの痛切な心情が七五調で語られる。
七五調のリズムは、登場人物の“言い切った感”がストレートに伝わるから不思議だ。
見栄を切るのさえ自然に感じられる。
平易な現代語の台詞の中で、歌舞伎の様式美がひときわ際立ち、
かたちを超えた芝居の面白さを感じさせてくれる。
和尚吉三の大村わたるさん、お坊吉三の大橋一輝さん、土左衛門伝吉の武谷公雄さん
の台詞が耳に残る。
女性陣の滑らかな声が違和感なく歌舞伎に溶け込んでいて心地よい。
木ノ下裕一さん、杉原邦生さんの“偉大なるいいとこ取り”には、
古典への愛が溢れている。
膨大な作業によって成り立つ創作とセンスに感服する。







ネタバレBOX

舞台の奥に「E・D・O」の巨大な3文字が佇んでいる。
(中盤から「D・O・G」に変わってその世界観にやられた)
舞台中央に「TOKYO」の小さい立札、そこに三人吉三が三方向から登場して開演となる。
客入れのBGMがカッコよくてこれから始まる舞台のワクワク感が倍増、
でも開演時の大音響はちょっと耳に痛い。
あんなに大きい音でなければダメなのかしら。

吉三郎という同じ名前の盗人3人が出会って意気投合、義兄弟の盃を交わす。
和尚吉三・・・元小坊主で今は小悪党。
        父土左衛門伝吉は、かつては大変な悪党だった。
        安森の屋敷から宝刀を盗み、その際犬を斬ったのが祟って双子を授かる。
        不吉とされていた双子に慄き、女の子を手元に残して男の子を寺に捨てる。
        この双子が将来出会って恋に落ちるという因果をもたらす。
        和尚吉三にとって双子は弟・妹である。
お坊吉三・・・宝刀を盗まれてお家取り潰しに遭った安森家の息子。
        宝刀を取り戻してお家再興を望んでいるが
        なかなかうまくいかず、盗人稼業に。
        妹の一重は花魁で、刀剣商の文里が熱心に通って来ている。
お嬢吉三・・・父は八百屋久兵衛だが5歳の時に誘拐され、
        旅役者に育てられる。
        ある時女装していて言い寄られ、その相手から簡単に
        頂戴できたのが最初の盗み。
        久兵衛は寺で拾った赤ん坊を引き取って育て、
        その子十三郎は刀剣商文里の店で働くまでになった。
        しかし十三郎が、宝刀を売った店の金百両を盗まれてしまい、
        責任を感じた久兵衛は金策に走り回ることになる。

金百両と宝刀が奪い合いの末ぐるぐる回り、それにつれて
人々も出会ったり対立したりする。
元々の脚本が緻密で、極小コミュニティで起こる濃密な因果関係が無駄なく描かれる。

木ノ下版では現代語によって話がスピーディーに進行し、
重要な感情表現はたっぷりの七五調で語られる。
その対比が鮮やかで、結果オリジナルの台詞が生き生きと立ち上がった。
歌舞伎は形式の芸術だと思っていたが、こんなに感情の濃い表現の芸術なんだと
改めて実感させてくれる。

歌舞伎では割愛される「地獄の場」が、アフタートークで「脚本を忠実に」と聞きびっくり。
改めて歌舞伎の発想の自由さ、シリアスと滑稽のメリハリの効果を思い知らされる。

終盤、三人が捕り方に追いつめられながら覚悟して斬りこんで行く悲痛な姿が印象的。
土左衛門伝吉の若き日の罪を悔いる台詞や、何としてもなさねばならぬと思えば
どんな相手にでも頭を下げる腹のくくり方に、その心情が色濃くにじんで素晴らしい。
最初長髪で登場した和尚吉三が、次に清々しい坊主頭で現れたときには
そのキャラの変化と自在な台詞にすっかり魅了された。
堀越涼さんのお嬢ぶりは鉄板で安定感抜群。
圧巻の群像劇であった。

台詞や衣装にこれほど大胆な解釈をしながら、結局は古典の良さを存分に際立たせる。
オリジナルを読み込み選択するセンス、古典へのリスペクトと愛情あふれる膨大な作業、
木ノ下氏の豊富な知識と、杉原氏の柔軟な発想の賜物と言えるだろう。
終演後のアフタートークで、丁寧に解説するお二人の姿勢にいつも感心する。
中学時代、「歌舞伎教室」でこんなに丁寧に解説してもらったら
どれほど歌舞伎好きになっただろう。
次回は近松門左衛門の「心中天の網島」だというが、もう今から楽しみでならない。
ソリテュードボーイ・イノセンス

ソリテュードボーイ・イノセンス

初級教室

OFF OFFシアター(東京都)

2015/06/04 (木) ~ 2015/06/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

どう死にたいか?~Aを観劇~
初日のぎこちなさは尻上がりに滑らかさをまし、圧巻の終盤へとなだれ込む。
死んでしまった孤独な青年が少しずつ輪郭を現してくるエピソードが素晴らしい。
このエピソードがどれも深くて上手いので、冒頭の多少無理やり感を忘れさせる。
ネタバレ後にどっと泣かせる展開が見事で、役者さんもボロ泣きだが私もボロ泣きした。

ネタバレBOX

舞台上には小さいワンルームマンションのような部屋が再現されている。
下手側に玄関へ続く出入り口、上手にベッドが置かれている。
ブティックのような白いディスプレイ用の棚があり、靴や小物が並んでいる。
女の子の部屋のようだが、靴など見ると男の子の部屋のようでもある。

ひとりの青年がこの部屋で亡くなり、その青年からの葉書を持って
6人の人々が集まってくる。
テレビの再現ドラマに時々出る女優、タウン誌のライター、うどん屋の青年、
メイド喫茶の店長、クリニックの看護師、元アイドルのOL。
彼らは、“大した付き合いはないけど”と言いつつ、青年と自分との関りを語り始める。
次第に明らかになる驚きの事実。
そして7人目が登場する…。

“じゃあ、どんな風に知り合ったのか、再現してみましょうよ”みたいな持って行き方が
若干苦しいかな、と思いながら観ていたが、個々のエピソードのリアルな展開に
ぐんぐん引き込まれ、一気に入り込んだ。

6人がそれぞれ全く違う立場で彼と接していて、その距離感のバランスが良い。
そのため彼の人物像がとても立体的で多面的になった。
年齢も職業も違う人々の再現ドラマの中で、青年は生き生きと甦り、歩き出す。
そして最後にこの会の趣旨が明らかにされ、全体像が見えてからが泣けた。

なんだろう?
話は解ったし、過去のいきさつも解った、後は“贈る言葉”でしょ、と
そこまで読めるのに、演じる方も観ている方もボロ泣きしてしまう。
素直な力の抜けた台詞が、本当に優しくて弱くて切ない。
彼が、誰かの人生を変えるきっかけだったことが伝わってくる。

金子大輝さんの、控えめながら喜びを表す表情が
高校生らしい初々しさを含んでいて良かった。
亡くなった青年に一番近い人物像を体現して秀逸。
素なのか演技なのかわからないラインで成功している気がした。

当日パンフにある出演者への質問、「どう死にたいか?」に
この部屋の青年は黙って最高の答えを出してくれたのだった。
いしだ壱成主演「俺の兄貴はブラームス」

いしだ壱成主演「俺の兄貴はブラームス」

劇団東京イボンヌ

スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)

2015/06/03 (水) ~ 2015/06/05 (金)公演終了

満足度★★★★★

”コラボ”から”融合”へ
東京イボンヌは2度目だが、改めてこの表現形式に衝撃を受けた。
オーケストラと声楽家、それにバレエダンサーのレベルが非常に高い。
下手すると芝居を食ってしまいそうなクラシックの迫力だが、
やはり芝居がなければ成立しない作品であるところが素晴らしい。
世に認められた天才ヨハネス・ブラームスと、才能のない弟フリッツ・ブラームス。
それぞれ孤独な葛藤を抱えつつも、互いを思い合う兄弟のストーリーがあり、
そこから生まれた音楽やウィットに富んだ挿入歌が背景を得て生き生きと立ち上がる。
以前観た時はクラシックと演劇との単なる“コラボレーション”だと思ったが、
今回は“融合”という印象を受けた。
若干脚本の無理が感じられるところはあるが、全体の流れがそれを上回って自然だった。

ネタバレBOX

むせ返るような花の香りのロビーで受付を済ませて中へ入ると
舞台正面奥、一段高くなっているところに既にオーケストラが控えている。
下手にピアノ、その手前にバーカウンターと止まり木、上手にはソファとテーブルがある。

作曲家ヨハネス・ブラームス(モリタモリオ)は、才能はあるが人づきあいが下手、
自意識過剰で心配性。
その弟フリッツ・ブラームス(いしだ壱成)は、人懐っこくて明るく楽天家、彼女もいるし
誰からも好かれる。
弟は兄を励まし、作品を見ておらおうと一緒に大作曲家シューマン(吉川拳生)を訪ねる。
ヨハネスの才能にほれ込んだシューマンのおかげで、
彼は一躍有名作曲家の仲間入りを果たす。
ところが彼はシューマンの妻、知性と気品溢れるクララ(川添美和)を愛してしまう…。

かの天才ブラームスに、才能に恵まれない弟、という対比が面白かった。
天才は何かが欠落しているものだというところに説得力がある。
互いに孤独な葛藤を抱え、それを初めて終盤さらけ出すところが良い。
その時明らかにされるクララとの隠されたエピソードも効いている。

そして兄弟のストーリーを柱に随所に演奏されるクラシック音楽が本当に素晴らしい。
他人の作品を自分が生み出したと勘違いする性格のフリッツ…という設定には笑ったけど
そのおかげで自由な選曲が可能になったのは楽しい。
藤原歌劇団の鳥木弥生さんのカルメン、一瞬にして舞台で花になる存在感がすごい。
表情豊かな歌声、ビシッと決まる仕草と振りで
「このカルメンもっと観たい聴きたい!」と思わせる。

阪井麻美さんのバレエも素晴らしかった。
絵のような美しい動きに目が釘づけになった。

余計なお世話だが、マネジメントも稽古も大変だっただろうなあと思った。
クラシック音楽もバレエも演劇も、本来分かれていたファンが一堂に会した感じ。
幕の内的楽しさ満載でアイデアの素晴らしさを感じる。
そのうちの一つだけを愛したい人は、それだけを追いかければ良い。
でもいろんなものが融合すれば、相乗作用でこんなに豊かな空間が広がることを
今回改めて知った以上、私はこれを新しいジャンルとして存分に味わいたい。

これは着想と脚本にかかっている。
主宰の福島氏が言うように「必然的に出来るモノ」だったのかもしれない。
だが必然的なものは不自然さに対して厳しく、小さな違和感が破たんを招く。
誰に注目して、どんなキャラ設定にして、何を聴かせるか。
期待の風を孕んで大きく船出した東京イボンヌ、舵取りに注目しつつ応援したいと思う。

ひとつ、終盤のフランツの号泣、いしだ壱成さんだからついやらせたくなるのも分かるけど
あそこまで悲痛にならなくても、フランツの苦悩は切なく伝わるような気がした。
それにしてもブラームスのあの髭が、ストレスのせいだったとは、妙に納得したのだった(笑)
死んだらさすがに愛しく思え

死んだらさすがに愛しく思え

MCR

ザ・スズナリ(東京都)

2015/05/29 (金) ~ 2015/06/02 (火)公演終了

満足度★★★★★

白い紙VS色とりどりの金平糖
オープニングの強烈さったらなかった。
伊達香苗さんの素晴らしいクソ母親ぶりに嫌悪感全開。
その後の主人公と刑事のやり取りにがつんとやられた。
「白い紙」VS「色とりどりの金平糖」、これがその後のすべてを物語っている。

ネタバレBOX

川島(川島潤哉)の母親(伊達香苗)は売春婦である。
自宅で客を取るのを平気で小学生の息子に見せ、時には仕事を手伝わせたりしていた。
大人になった川島が、彼女と暮らしたいから家を出ると告げた時(彼女が告げた)、
高笑いしながら「お前は一生あたしの奴隷なんだ」と言われ、ついに母親を手にかける。
そこから川島の新しい人生が始まった。
相棒の奥田(奥田洋平)とその妹飛鳥(後藤飛鳥)と3人で旅を続けている。
奥田と川島はそれぞれ人を殺すのが楽しくて行く先々で連続殺人を重ねる。
飛鳥はそんな川島を「何をしてもいいからずっと一緒にいる」と言い、二人は恋人同士だ。
だがある町で3人は櫻井刑事(櫻井智也)と小川刑事(おがわじゅんや)と出会い、
奥田は平然と、刑事を挑発するような発言をする…。

当日パンフに、作者がかつて傾倒した「ヘンリー・リー・ルーカス」という殺人者のことを
ベースにした作品だとある。
マスコミや世間の人々が、“その原因”を探るのが大好きな“連続殺人鬼”が主人公だ。
登場する2人の殺人者の性格が対照的だ。
川島は母親から虐待に近い扱いを受けて育ち、根底に人間不信と憎しみ・蔑みがある。
コミュニケーションの手段を持たず、自分と意見を異にする人間は殺すことしか知らない。
奥田はどちらかと言うと“快楽殺人者”か。
殺すことが楽しくて、常にきっかけを探しては殺したいと思っている。
奥田が刑事を挑発するような不敵な発言をするところ、
不気味にねちっこくて異常者っぽい目つきなど素晴らしかった。
川島も奥田も、最初は強い憎しみから始まったのだろうと思わせるが
この二人のキャラがくっきりしていて大変面白い。

「お前にとって人間って何だ?」と問う櫻井刑事に対して川島はこう答える。
「白い紙だ。そういう刑事さんにとって人間って何だ?」問われて刑事は答える。
「色とりどりの金平糖だ」
実際はギャグの連打の合間に交わされる会話なのだが
作品を貫く価値観の対峙を端的に表している。

殺人鬼の陰湿なストーリーかと思っていると、
突然有川(有川マコト)と澤(澤唯)の夢と重なったりして笑いは満載。
相変わらず熱く語る、友人の堀(堀靖明)のほっぺぶるぶるさせるところなんか最高!
ベースの陰湿さをシュールな展開で一気に転がすバランスが素晴らしい。

川島が堀を殺さなかったのは、ただ一人”川島に期待してくれる”人間だからだ。
こんな自分を「大丈夫だ、きっとできる」と愚かなまでに信じてくれているからだ。
心のどこかで自分もそう信じたいと思っていただろう。

マドンナ後藤飛鳥さんが、今回は自然で天然キャラがとてもはまっていた。
いずれ殺されるのを見通していたかのようなまなざしが印象的だった。
ラストシーン、唯一の“殺したくなかった人間”飛鳥に向かって
手を伸ばそうとするかのような川島のてのひらが、息苦しくなるほど孤独で哀しい。
ゴベリンドン

ゴベリンドン

おぼんろ

吉祥寺シアター(東京都)

2015/05/21 (木) ~ 2015/06/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

やっぱりモンスター劇団
今公演2回目の観劇。
完成度の高さが感じられる舞台だった。
繊細で美しい照明の中、語り部たち一人ひとりが日々変化し進化している。
例えばゴベリンドンが己の罪を語ったのちの苦痛に歪んだ姿と咆哮。
17ステージ目にして声の枯れもなく、この物語の核となる“絵”を強烈に焼き付ける。
おぼんろ、やっぱりモンスターだ。

個々の場面のクオリティが深化&進化している。
先に述べたゴベリンドンの苦痛と咆哮の場面、「俺は死ねないんだ」という叫びが
観る者を息苦しくさせるほど迫ってくる。

ゴベリンドンの襲撃に失敗して怖気づくザビーに対し、
畳みかけるようにシグルムの葉を投げ落として彼女の欲を刺激するトシモリが
ちらりと狂気の入り口を見せるところ。

てるてる坊主のような死体がザビーの手によって
無造作に深い穴へと落とされていく場面の妙にリアルな手触り。

個々のシーンの濃度が増しているだけに、気になる部分がより浮上した感がある。
走り回るタクマのバタバタという足音や、無垢で幼いキャラ設定、
ちょっと台詞が流れてしまった弁士のシーンなど…。
だが「ゴベリンドン」は、それらを補って余りある圧倒的な世界観を表出して見せる。
この唯一無二の世界観は最強だと思う。
この完結した世界観を前にすると、私の好みなどどうでもよくなってしまう。

私は5人が作り出した世界に浸りたくて劇場へ向かう。
あの5人が無我夢中で目指すものを見たくて客席に座る。
ただのファンであることの幸せを感じながら、もう次を楽しみにしている。



ゴベリンドン

ゴベリンドン

おぼんろ

吉祥寺シアター(東京都)

2015/05/21 (木) ~ 2015/06/07 (日)公演終了

満足度★★★★

陰影あるキャラに魅了される
改めて脚本の素晴らしさを思い知らされる舞台だった。
吉祥寺シアターの高さのある空間、舞台の穴を上手く利用した設定も効果的だ。
複雑で深い陰影を見せる登場人物が実に魅力的。
異形の者、ゴベリンドンのなんと愚かしく哀しい、孤独な姿だろう。
高橋倫平という役者の身体能力を100%生かした動きが、彼の苦悩をリアルに体現する。
欲と孤独がミルフィーユのように層を成す“死体洗いのザビー”(さひがしジュンペイ)、
弟に呼びかける第一声が、もう既に愛情と苦悩に満ちている兄トシモリ(藤井としもり)、
運命を告げる慈愛に満ちた“沼の精”(わかばやしめぐみ)の歌声は、
一瞬で劇場の空気をミステリアスな色に変える。
そして無邪気な弟(末原拓馬)は、最後に究極の選択をして“大人になる”…。
“あの感動をもう一度”、という意味では確かに成功している。
分かっていてもやっぱり泣けてしまう。
だがあの“なんだ、この廃工場でやってる芝居は!”という驚きは鳴りを潜めた感があって、
そこが大きくなった劇団に共通の課題なのだろうと思う。
再現の一歩先を見せて欲しい、という我儘と期待感で★は4.5とします。


ネタバレBOX

四方囲み舞台の中央は深い穴、吉祥寺シアターの地下へと続く穴が、
この物語の沼の淵となっている。
天井からは“一反もめん”みたいな布が何枚も膨らんで吊り下げられている。
いつものように「目を閉じて想像してください」と物語へ誘うあたりは手慣れたもの。
所々笑いをはさみながら、ダークな物語へと引き込んでいく。

その村には武器がなかった。
昔ある王様が「この世で一番美しい銃を作った鍛冶屋を残し、ほかの者は死刑にする」
というお触れを出した。
娘のためにも死にたくない鍛冶屋は、殺した人間の血で銃を作るが
どうしても望む銃が作れない。
99人の血を以てしてもダメだったが、ある日理想の銃が完成する。
王様から「お前の銃が最も素晴らしい」と言われて命が助かった鍛冶屋は
喜び勇んで娘に知らせようとすると、釜の前に娘の髪飾りが落ちていた。
100人目の血が娘のものであったと知り、鍛冶屋は気がふれて以後行方不明になった。

そんな言い伝えが残る村に、タクマとトシモリの兄弟が住んでいた。
タクマの成人式を前にしたある日、トシモリが姿を消した。
やがて平和な村で次々と人が行方不明になる。
タクマはトシモリを捜して“決して入ってはいけない”と言われていた森に入っていく。
そしてそこで、魔物と呼ばれるゴベリンドンと出会う・・・。

廃工場での衝撃的な初演を観ていると、どうしても比較したくなるけれど
あれは“よく知らない劇団がびっくりするほど面白い芝居を見せた”公演だった。
以後注目度も格段に増し、期待値Maxでみんなが“採点”しようと固唾をのんでいる状態で
“さらにびっくりさせてくれ”という厳しい条件の元での本公演。
気になったのは、あの廃工場の「ゴベリンドン」をできるだけ忠実に
再現しようとした演出だろうか。
初演は、限られた選択肢の中での公演だった。
場所も美術も衣装も、“手に入るもので何とかやりくりした”結果の大成功だった。
工夫すればこんなすごいことが出来るのかと、心底驚いた。
今回、衣装もメイクも目に見えてお金がかかっていて、それは美しく素敵だった。
広くなったスペースを縦横無尽に走るスタイルも、高低差を生かした演出も健在。
再現された「ゴベリンドン」はやっぱり圧倒的に絶望的で美しくて哀しい物語だった。

ただ、少し違う演出で観てみたいという気もした。
例えば三方囲み舞台だったら、
例えばある場面は中央の小さい空間で芝居をしたら、
例えばあの魅力的な沼の精の歌を、あと1回増やしたら…。
といろいろ考えて想像してしまうのも、若干芝居が“拡散”した印象があるから。
もっと接近戦でぶつかる場面があってもよいのではないか。
兄弟のシーンを除けば、離れたところから呼びかけるような台詞が多かったように思う。
ハコが大きくなったらそこが気になった。

力のある脚本だけに、ハコが変われば見せ方も変わるようなバリエーションが欲しい。
強力な普遍性を持つこの美しい物語を、何度も再演を重ねて欲しいから。




かべぎわのカレンダリオ

かべぎわのカレンダリオ

バンタムクラスステージ

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2015/05/14 (木) ~ 2015/05/25 (月)公演終了

満足度★★★★★

A公演~銃声の意味
いやー、大変面白かった。
ギャングの抗争、裏切りと復讐というよくある設定なのに、
登場人物が魅力的で魅せる。
主人公のカレンダー(福地教光)のクールなだけでない隠れた苦悩や、
ピストーネ(上杉逸平)の含蓄ある台詞、
ヒステリックに怒鳴り散らしながら必死で不安を押し殺そうとするヴァンチュラ(土屋兼久)、
日和見主義のピアス(ガラかつとし)の世渡りぶりなど
人物像の陰影がくっきりしていてストーリーに厚みがあるのが素晴らしい。
私の大好きなバンタムの銃声に“意味”を持たせるのは、このキャラの奥行きに他ならない。
完璧なタイミングで放つ銃声と死に方、薬莢の乾いた音にたまらなく震える。

ネタバレBOX

ローマを牛耳るボス、ピストーネ(上杉逸平)が、手下のピアス(ガラかつとし)に裏切られ
撃たれて死ぬところから物語は始まる。
後継者ヴァンチュラ(土屋兼久)は、ピストーネが守って来た街の映画館を潰そうと計画、
赤字を立て直すと称して映画館に会計士を送り込むが、この会計士が、
実は殺し屋のカレンダー(福地教光)だった。
ラウラ(椎名亜音)とマレーネ(宮島小百合)が二人で切り回す小さな映画館は、
会計士の指示で少しずつ売り上げを伸ばしていく。
マレーネの暗殺を命じられたカレンダーの真意はどこにあるのか。
やがてマレーネがピストーネの娘であることや、カレンダーの悲痛な過去が明かされる…。

舞台上で殺し屋ほど魅力的な役はないと思う。
究極の緊張を伴い、人としてある部分が欠落していなければできない職業だけに
その抑制の効いた行動とコンプレックスのギャップがアンバランスで面白い。
カレンダーもその一人で、自信たっぷりだったかと思うと弱々しい過去を晒したり
会計士として誠実に腕を振るったかと思えば、女の殺し屋をあっさり葬る。
福地さんはその振れ幅が大きくてきれいなのが最大の魅力だ。

ピストーネの映画に関する深い台詞もいいし、
裏切者ピアスの日和った生き方も味がある。
神父で殺し屋という超アンビバレントな職業を自在に行き来する男も面白かった。
演じる小川大悟さんの2丁拳銃がかっこよかったし、カレンダーを助ける男気がいい。
サイショモンドダスト★さんの抑えた声と崩れない姿勢が、とても印象的だった。
女優さんがみなクラシックな雰囲気を持っていて綺麗。

スピーディーな場転と出ハケ、時間と場所を瞬時に切り替える照明も効果的で
教会の場面や回想シーンなど映画のようにドラマチック。

結局マレーネを守ろうとした男たちは、誰かに守られて生き延びる。
それが最後に温かな手触りを残すので、途中結構凄惨な場面もあったはずなのに
何となくめでたし感を以て終わる。
細川氏の向日性が感じられてちょっと嬉しい。
カレンダーがいつか客席に座る日を、私も密かに待っている。


マリーシア兄弟

マリーシア兄弟

劇団マリーシア兄弟

Geki地下Liberty(東京都)

2015/05/14 (木) ~ 2015/05/17 (日)公演終了

満足度★★★★

泣かせる兄弟
血のつながらない5人の兄弟という設定とそれぞれのキャラがうまくかみ合って
“家族って何だ?”という大きなテーマにひとつの答えを差し出している。
ストレートな作りながら、泣かせる台詞がバランスよくちりばめられて飽きさせない。
暗転の多さとか、長男についての多くを次男が語る等の構成はもう少し工夫すると
さらに見せ場が際立つのに、と勿体ない気がした。
しかし、いい兄弟だな。みんないいキャラで、これ定番シリーズにしてまた観せて欲しい。
兄弟たちの仕事や別居、里親のこと、そうそう、長男の結婚とかぜひ観てみたいなあ。

ネタバレBOX

リキ(大浦力)、サトシ(吉田哲也)、イツキ(紀平祐樹)、ユウ(佐々木祐磨)、
ヒカル(坂田光穂)の5人は、里親に引き取られた血のつながらない兄弟だ。
その里親は20年前、ヨーロッパへ里子システムの視察に行った先で事故死した。
一番下のヒカルはその後この家にやって来た。
そのヒカルが、海外で働きたいと言い出したから、海外嫌いの長男リキは大反対。
だが、サトシは「20年も経っているのに一番立ち直っていないのはリキだ」と言う。
里親の死後、予定通りヒカルを引き取ったのも周囲の反対を押し切ってリキが決めた。
自分の知らなかったリキの思いを知り、ヒカルは初めて
リキときちんと向き合おうとする…。

一番上の兄ちゃんが高校辞めて家具職人になって、それが頑固で横暴で自己チューで
だけど弟たちのことを一番考えている、不器用な兄ちゃん…ってもうこれが泣ける設定。
施設が長く、なかなか里親に心を開けなかったリキ、ようやく信頼して
頼って生きることを知った途端に里親が死んでしまって
「父親にならなければ…」と決意が空回りする…という展開が上手い。

バラバラになっていた兄弟が集結して同居する…と言うのはテレビドラマでもあったが
里子5人が同居しているというストーリーが新鮮。
“血縁”なんて、家族や兄弟に絶対不可欠な条件ではない、というスタンスが素晴らしい。

一見横暴な長男をほかの兄弟が理解し、見守っている情景が大変温かく心惹かれる。
毎朝仏壇に手を合わせる習慣や、夕ご飯は一緒に食べるという約束が、
この兄の信じる“家族の象徴”として繰り返されるのも良い。

兄弟5人のキャラが立っていて、役割分担が明確でストーリー展開に無理がなく、
想定の範囲内の結末なのにそれが心地よく、思わずほろりとさせられる。

金髪のややヘタレなユウとか、母親みたいな太った次男サトシ(体型は関係ないか)とか、
いい兄ちゃん達がいて、幸せな家庭だなあと思う。

菓子パンを半分だけたべるとか、「行ってきます」を言わないとか
奇妙な習慣に理由があると明かされるタイミングも良かった。

これまで兄たちに迷惑をかけないように気を使って暮らして来たヒカルが、
長男を説得するためにほかの兄弟ひとりひとりにアドバイスを求める、そのプロセスで
長男とのエピソードやここへ来た皆の事情、顔も知らない里親のことを少しずつ理解し、
改めて「家族」を信じて海外へ飛び立つ…という構図がもっと明確になったら
兄弟ひとり一人によりスポットライトが当たったかもしれない、と思った。
そう思うのも、5人のキャラが魅力的だから。

これはまさに“劇団という血のつながりのない兄弟たち”の話だ。
そうだったのか、マリーシア兄弟。
ぜひシリーズ化してください、この兄弟にまた会いたいです。


舞首ー三つ巴の里ー

舞首ー三つ巴の里ー

鬼の居ぬ間に

シアター711(東京都)

2015/05/06 (水) ~ 2015/05/10 (日)公演終了

満足度★★★★

ごろん
独特で迷いのない世界観は主宰で作・演出の望月氏の
ぶれないスタンスによるものだと思う。
設定も展開も暗澹とした物語だが、全ては人間の慾から生じたもので
その普遍性が共感を呼ぶ。
スピーディーな出ハケや的確な照明でとても解り易く進行する。
過酷な掟と里を束ねる浅水の因縁や葛藤が描かれたら
さらに奥行きが出たかと思う。
浅水のキャラが魅力的なだけに、もっと彼女のことが知りたいと思わせる。
島田雅之さん、山本佳希さんが強く印象に残る。
冒頭の読経が厳かで大変良かった。ありがたや。

ネタバレBOX

薄暗い舞台の奥に、鬱蒼とした木と巴淵と呼ばれる深い淵がある。
巴の里は貧しく、田畑の共同作業、食べ物も配給制である。
赤ん坊が生まれれば、誰かひとりが巴淵に身を沈めなければ立ち行かなくなる。
里を治める里長・浅水(吉田多希)はこの掟に疑問を抱いているが
30年間助役として里を取り仕切ってきた貞蔵(山本佳希)は必要悪と割り切っている。
ある日「新・助役を募る」という知らせが幸平(島田雅之)と播磨(生野和人)の元に届く。
二人はそれぞれ自分が助役になってこんな掟を廃止してやると意気込むが
貞蔵は、自分以外の者にこの任が務まるはずはないと、退く気もない。
かつて里長・浅水と幸平の姉静祢(長藤粧子)はよく遊んだ仲であり、
野犬に襲われた浅水をかばって静祢が負傷、以来足を引きずっている静祢は
里のお荷物として、今度赤ん坊が生まれる前に口減らしに巴淵へ沈む運命だ。
幸平は何としてもこの姉を助けたい一心で、死んだと見せかけ自宅にこっそりかくまう。
しかしそれを播磨が知ってしまった…。

仏教の「三毒」“慾と怒りと愚かさ”をそれぞれ3人の男たちに当てはめて
「絵本百物語~舞首~」の“死して尚口から火を吹いて諍う妖怪”「舞首」に重ねる。
この構造が3人の男たちの煩悩を鮮やかに浮き彫りにする。

弱者であるはずの姉を頼る幸平の優しさと不甲斐なさがリアルで切ない。
掟を破るというとんでもないことをしでかすのも、
全てはこの姉に生きていて欲しい一心であり、
島田雅之さんの甘えん坊な弟キャラが、次第に狂気を帯びる変化が素晴らしい。
姉の死後、仏像を彫りつつ「笑ってくれない」と悲しむ様が哀れの極み。
この純粋さが、究極の手段までためらわず突き進む理由かと思わせて説得力がある。

30年の汚れ仕事で里を運営してきた自負と利権を手放すことが、
何としても受け入れられない貞蔵の固執ぶりがリアル。
山本佳希さんの押し出しの良い立ち姿も見事で、政治家と言う人種を見せて秀逸。
一瞬、職を解かれて家族の元に戻ったかに見えながら、
やはり隙あらば復活してやるという展開に、業の深さが見事に露わになる。

幸平の姉を演じた長藤粧子さん、常に死を覚悟して生きる姿勢が表情や言葉にあり
芯の強さと潔さを感じさせて上手い。

男言葉で必要最低限の言葉しか発しない超クールな里長・浅水役の吉田多希さん、
たぶんこの里でもっとも孤独な立場の人物をよく頑張ったと思う。
この謎の里長のことをもっと知りたいと思わせるものがあった。

結局首が3つごろんと落ちたが、巴淵の底で尚諍いは続くのだろう。
さてこれでこの里は不条理な掟がなくなって平和になるのだろうか…?
それとも歴史はいつか再び繰り返すのだろうか…?
仏の教えによって誰も救われていないという事実も虚しい。
暗い余韻の残る作品だった。
海峡の7姉妹〜青函連絡船物語〜

海峡の7姉妹〜青函連絡船物語〜

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2015/05/03 (日) ~ 2015/05/06 (水)公演終了

満足度★★★★★

被り物とサブちゃんに泣くがいい
下北沢スズナリで渡辺源四郎商店の「海峡の7姉妹」を観る。
高度成長期の物流を支えた青函連絡船の歴史を、詩情豊かな“被り物”で語る。
7姉妹に擬人化された船たちのバラエティに富んだキャラ設定と
きょうだい喧嘩もあるホームドラマ仕立ての身近な展開が素晴らしく
私にとって遠い北の海峡の歴史は、一気に血の通った物語となった。

“頭に船の模型を載せてあご紐で抑える”という
あまりにも直球ストレートないでたちに笑って始まったのに
それはすぐ何の違和感もなく海峡を往復する優雅な船となり
7人の思いが集結して最高潮に達するラストの高揚感にはただただ圧倒された。
「は~るばるきたぜ函館~♪」という歌は過去に数えきれないほど聴いたが、
こんなに声をあげて泣きたいと思ったことがあっただろうか。

7姉妹の長女役工藤由佳子さん、次女の三上晴佳さん、五女の音喜多咲子さんが
突出して素晴らしく、その台詞の絶妙な味わいを堪能した。
脚本とあまりに相性の良い挿入歌の出会いが最高の相乗効果を生んでいる。
この先サブちゃんを聴く度に、私は泣かずにいられないだろう。

ネタバレBOX

船の模型を頭に載せる辺りから、ストレートな持って行き方だなぁ、と可笑しかったが、
三上晴香さんがやるとすんなり載るからまたこれが可笑しい。
青函連絡船が国鉄で、列車を積み込んでそのまま輸送するのだとは知らなかった。
なんとなくほかの連絡船と同じように荷物や人を運ぶだけだと思っていた。
そういう“基本のき”から、歴史、スペック等の情報がとてもうまく盛り込まれており、
また長女が妹たちに説明するという形を取るので、お勉強臭くならずに入ってくる。

いかにも長女らしい津軽丸Ⅱ役の工藤由佳子さんが素晴らしく、
(今回はあの屈折した色気を封印している)
利発で働き者、妹たちを励ましまとめながら柔らかな雰囲気もあるキャラにぴったり。
三上晴香さん演じる八甲田丸が、長女引退後健気に妹たちを引っ張っていくのも良い。
専門用語も良くこなす台詞術に引き込まれた。
八甲田丸と確執のある摩周丸Ⅱを演じた音喜多咲子さん、相変わらず突き放したような
ぶっきらぼうな台詞に味があって強烈に印象に残る。
三上さんとの掛け合いなど、その間や呼吸はすでに熟練の域だと思う。

“船を擬人化する”という手法以外に、ここまで説得力と共感を持たせる方法を
ほかに思いつかないほど嵌っている。
脚本・構成、無駄のない台詞、そしてラスト怒涛の「函館の女」の
大合唱の迫力と切なさといったら、海峡の大きなうねりの中にいるようだった。
あの後私は何度も「函館の女」を口ずさんでいるが、それはもう私にとって
ただの懐メロではなくなっている。
歌うたびに泣きたくなって、海峡の風景とあの被り物が浮かんでくるのがその証拠だ。

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