『心中天の網島』 公演情報 木ノ下歌舞伎「『心中天の網島』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    不安定な恋
    役者は熱演、大事なものを失った人間が死を選ぶプロセスも鮮やかな、
    ストーリーも秀逸。
    だから歌わなくても完結しているところへ熱く歌うものだからちょっと過剰な印象。
    それはたぶん歌舞伎の台詞そのものが音楽的でメロディアスだから。
    全員が西田夏奈子さんくらいに歌えたらまた少し変わったのかもしれないけれど。
    それにしても生きるか死ぬかの苦悩する人を表現するのに、
    歌舞伎の台詞はなんと相応しい事だろう。


    ネタバレBOX

    白い平均台が網の目のように並べられ、あるいは立てかけられた舞台。
    明転すると役者が歌いながらそれを平らに均していく。

    遊女小春(島田桃子)に入れあげた治兵衛(日高啓介)は心中の約束をする。
    ある日治兵衛は小春が「本当は死にたくない」と口にするのを聞き激怒。
    小春を罵って別れを告げる。
    だが小春は治兵衛の妻おさん(伊東沙保)に頼まれわざと愛想尽かしをしたのだった。
    やがて真実を知った治兵衛は、意に染まぬ身請けを受け入れた小春が
    ひとりで死ぬつもりであることを悟る。
    おさんも、自分の願いを黙って聞き届けた小春の気持ちを知り、
    死なせるわけにはいかないと決意。
    夫婦は財産を投げ打ってでも小春を助けようと二人で力を合わせる。
    しかしおさんの父は、遊女に入れあげる治兵衛を責め、無理やり夫婦を別れさせる。
    妻も、小春を助ける金も失った治兵衛は、今度こそ本当に
    小春と死ぬしかないと心を決める。
    二人はいくつもの橋を渡り、死出の旅に出るのであった…。

    冒頭の歌が、パワーはあるもののもう少し上手かったらなあ、と思ってしまった。
    “役者の歌は上手さではない”と言うけれどやっぱり気になる。

    不安定な平均台の上をそろりそろりと歩く人々は、それだけでもう
    人生の危うさを感じさせる。
    いつかは落ちてしまうであろう事の成り行きを暗示していて上手い。
    一方治兵衛とおさんの家はベニヤ板を敷いて家庭の安定感を出している。
    ただし堅牢なものではない。ベニヤの下はやはり平均台なのだ。

    治兵衛とおさんが、小春を助けるために家財を売って金を工面しようとする場面、
    小春を挟んで二人が互いの大切さを思い出す、皮肉ながら温かい場面である。
    おさんの人柄がとても繊細に描かれていて良かった。
    ここでは歌が効果的に使われていると感じた。

    小春の真意を知りながら治兵衛を諭す、兄の孫右衛門(武谷公雄)の台詞に
    味わいと慈しみがあった。
    おさんの母役西田夏奈子さんは歌唱力、ギャグの間など随所で芸達者ぶりを発揮、
    舞台全体をけん引していて素晴らしい。

    人生に絶望した治兵衛とおさんが心中するところ、そのリアルなやり取りがよかった。
    単なる形だけの心中ではなく、最期まで弱く、往生際が悪く、人間臭さが出ていた。

    治兵衛が心中を決意する理由のひとつに、おさんを失ったことがあるとすれば
    この心中は、男の論理と翻弄されつつそれを許す女の哀れさに満ちている。
    この“浮気の構造”を紐解いて見せる近松さん、やっぱりすごいわ。

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    2015/10/07 22:33

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