満足度★★★★★
際立つ様式美
河竹黙阿弥の9時間に及ぶ原作をギュッと縮めてそれでも5時間、
日本語のことばの面白さが凝縮された素晴らしい舞台だった。
歌舞伎を観て泣いたことはないのに、木ノ下歌舞伎はなぜ泣けてしまうのだろう。
あり得ないほど“世間は狭い”的な物語である。
生き別れた親子、別々に育った双子の兄妹、血の盃を交わした義兄弟の家族、
彼らが出会ってしまう入り組んだ偶然は、解り易い現代語で語られ、
その上で、ハイライトの痛切な心情が七五調で語られる。
七五調のリズムは、登場人物の“言い切った感”がストレートに伝わるから不思議だ。
見栄を切るのさえ自然に感じられる。
平易な現代語の台詞の中で、歌舞伎の様式美がひときわ際立ち、
かたちを超えた芝居の面白さを感じさせてくれる。
和尚吉三の大村わたるさん、お坊吉三の大橋一輝さん、土左衛門伝吉の武谷公雄さん
の台詞が耳に残る。
女性陣の滑らかな声が違和感なく歌舞伎に溶け込んでいて心地よい。
木ノ下裕一さん、杉原邦生さんの“偉大なるいいとこ取り”には、
古典への愛が溢れている。
膨大な作業によって成り立つ創作とセンスに感服する。