三人吉三 公演情報 木ノ下歌舞伎「三人吉三」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    際立つ様式美
    河竹黙阿弥の9時間に及ぶ原作をギュッと縮めてそれでも5時間、
    日本語のことばの面白さが凝縮された素晴らしい舞台だった。
    歌舞伎を観て泣いたことはないのに、木ノ下歌舞伎はなぜ泣けてしまうのだろう。
    あり得ないほど“世間は狭い”的な物語である。
    生き別れた親子、別々に育った双子の兄妹、血の盃を交わした義兄弟の家族、
    彼らが出会ってしまう入り組んだ偶然は、解り易い現代語で語られ、
    その上で、ハイライトの痛切な心情が七五調で語られる。
    七五調のリズムは、登場人物の“言い切った感”がストレートに伝わるから不思議だ。
    見栄を切るのさえ自然に感じられる。
    平易な現代語の台詞の中で、歌舞伎の様式美がひときわ際立ち、
    かたちを超えた芝居の面白さを感じさせてくれる。
    和尚吉三の大村わたるさん、お坊吉三の大橋一輝さん、土左衛門伝吉の武谷公雄さん
    の台詞が耳に残る。
    女性陣の滑らかな声が違和感なく歌舞伎に溶け込んでいて心地よい。
    木ノ下裕一さん、杉原邦生さんの“偉大なるいいとこ取り”には、
    古典への愛が溢れている。
    膨大な作業によって成り立つ創作とセンスに感服する。







    ネタバレBOX

    舞台の奥に「E・D・O」の巨大な3文字が佇んでいる。
    (中盤から「D・O・G」に変わってその世界観にやられた)
    舞台中央に「TOKYO」の小さい立札、そこに三人吉三が三方向から登場して開演となる。
    客入れのBGMがカッコよくてこれから始まる舞台のワクワク感が倍増、
    でも開演時の大音響はちょっと耳に痛い。
    あんなに大きい音でなければダメなのかしら。

    吉三郎という同じ名前の盗人3人が出会って意気投合、義兄弟の盃を交わす。
    和尚吉三・・・元小坊主で今は小悪党。
            父土左衛門伝吉は、かつては大変な悪党だった。
            安森の屋敷から宝刀を盗み、その際犬を斬ったのが祟って双子を授かる。
            不吉とされていた双子に慄き、女の子を手元に残して男の子を寺に捨てる。
            この双子が将来出会って恋に落ちるという因果をもたらす。
            和尚吉三にとって双子は弟・妹である。
    お坊吉三・・・宝刀を盗まれてお家取り潰しに遭った安森家の息子。
            宝刀を取り戻してお家再興を望んでいるが
            なかなかうまくいかず、盗人稼業に。
            妹の一重は花魁で、刀剣商の文里が熱心に通って来ている。
    お嬢吉三・・・父は八百屋久兵衛だが5歳の時に誘拐され、
            旅役者に育てられる。
            ある時女装していて言い寄られ、その相手から簡単に
            頂戴できたのが最初の盗み。
            久兵衛は寺で拾った赤ん坊を引き取って育て、
            その子十三郎は刀剣商文里の店で働くまでになった。
            しかし十三郎が、宝刀を売った店の金百両を盗まれてしまい、
            責任を感じた久兵衛は金策に走り回ることになる。

    金百両と宝刀が奪い合いの末ぐるぐる回り、それにつれて
    人々も出会ったり対立したりする。
    元々の脚本が緻密で、極小コミュニティで起こる濃密な因果関係が無駄なく描かれる。

    木ノ下版では現代語によって話がスピーディーに進行し、
    重要な感情表現はたっぷりの七五調で語られる。
    その対比が鮮やかで、結果オリジナルの台詞が生き生きと立ち上がった。
    歌舞伎は形式の芸術だと思っていたが、こんなに感情の濃い表現の芸術なんだと
    改めて実感させてくれる。

    歌舞伎では割愛される「地獄の場」が、アフタートークで「脚本を忠実に」と聞きびっくり。
    改めて歌舞伎の発想の自由さ、シリアスと滑稽のメリハリの効果を思い知らされる。

    終盤、三人が捕り方に追いつめられながら覚悟して斬りこんで行く悲痛な姿が印象的。
    土左衛門伝吉の若き日の罪を悔いる台詞や、何としてもなさねばならぬと思えば
    どんな相手にでも頭を下げる腹のくくり方に、その心情が色濃くにじんで素晴らしい。
    最初長髪で登場した和尚吉三が、次に清々しい坊主頭で現れたときには
    そのキャラの変化と自在な台詞にすっかり魅了された。
    堀越涼さんのお嬢ぶりは鉄板で安定感抜群。
    圧巻の群像劇であった。

    台詞や衣装にこれほど大胆な解釈をしながら、結局は古典の良さを存分に際立たせる。
    オリジナルを読み込み選択するセンス、古典へのリスペクトと愛情あふれる膨大な作業、
    木ノ下氏の豊富な知識と、杉原氏の柔軟な発想の賜物と言えるだろう。
    終演後のアフタートークで、丁寧に解説するお二人の姿勢にいつも感心する。
    中学時代、「歌舞伎教室」でこんなに丁寧に解説してもらったら
    どれほど歌舞伎好きになっただろう。
    次回は近松門左衛門の「心中天の網島」だというが、もう今から楽しみでならない。

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    2015/06/19 02:48

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