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もしも日々が続くから

もしも日々が続くから

劇団水中ランナー

OFF OFFシアター(東京都)

2024/06/26 (水) ~ 2024/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

すばらしかったです。ふとしたトラブルでいろんな人の人生が思わぬ方向に動き出し、そして意外な方向に動き出した人生でまたいろんな出会いがあり…というのはある程度年を重ねるとあるよなーと。演出もすばらしく楽しめました。

しまって、あけないで

しまって、あけないで

ーヨドミー

TACCS1179(東京都)

2024/06/26 (水) ~ 2024/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

テンポ感よく、人間の苦しみに光を当てながら、コメディー要素もあり、タイトルの深みも感じた。涙している人も多数。時間を作って見に行くべき芝居!

おちょこの傘持つメリー・ポピンズ

おちょこの傘持つメリー・ポピンズ

新宿梁山泊

新宿花園神社境内特設紫テント(東京都)

2024/06/15 (土) ~ 2024/06/25 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「豪華布陣によるきらびやかな言葉の応酬」

 1976年に状況劇場が初演し現代でも頻繁に再演される名作を、長年唐十郎作品を手がけている新宿梁山泊が上演した。劇団のチームワークと豪華な外部出演陣が合わさり素晴らしい成果をあげた。

ネタバレBOX

 すえたドブ川のたもとにあるうらぶれた傘屋のおちょこ(中村勘九郎)は、傘の修理を依頼してきた石川カナ(寺島しのぶ)に恋をしていて、彼女の傘をメリー・ポピンズのように空飛べるものにしようと、居候の檜垣(豊川悦司)を相手に実験に勤しんでいる。やがて姿を現したカナは檜垣とは古馴染みであった。ふたりにはある大物歌手のスキャンダルを巡る因縁があったことがここでわかる。

 おちょこのもとには、じつはいかかがわしい生業をしているカナを目当てに来たトラックドライバーの男(六平直政)や、檜垣と旧知の仲である芸能マネージャーの釜鍋(風間杜夫)らが入り込んできて騒がしい。カナは故郷の下関に戻ろうとしているが、その目的は? そしてじょじょに追い詰められるカナは逃げきることができるのか……

 実際のスキャンダルに取材したという本作は、他の唐作品同様に一癖も二癖もある登場人物たちが絡み合い、地名や初演時の風俗、映画や歌謡曲といったさまざまなイメージを散りばめた言葉の応酬が見ものである。

 勘九郎のおちょこは自由自在、流れるような台詞回しが群をぬいている。NODA・MAP『走れメルス』(2004年)や野田版歌舞伎4作で磨いたのであろう力量が生きており、歌舞伎公演で観るよりもイキイキ軽々とした身のこなしである。テント芝居ではよくある客イジりもなく、アドリブはほどほどに、戯曲の要求した生真面目で一本気なおちょこを熱演していた。寺島しのぶのカナは黒いドレスと傘で花道から登場したその出から目が離せず、恋に生きる謎めいた女性に見えて時折品のない言葉を挟む達者ぶりで、Project Nyx『伯爵令嬢小鷹狩鞠子の七つの大罪』(2011年)にも通じるアングラ芝居の世界を十分に生きていた。そのカナを案じる豊川悦司の檜垣の凛とした立ち姿、胸を抑えながらタバコをくゆらせる色気に見惚れた観客は少なくないだろう。これまで数々の映像で寺島と組んできた盟友ならではの安定感であった。

 六平直政が鼻血をおさえたティッシュを客席に投げたり、風間杜夫が歌手のモノマネをして大爆笑をとるなど、ベテランたちは客席を大いに湧かせていた。私が鑑賞した回でおちょこの店を訪れる元女優の保健所員を演じた三輪桂古のクセのある色気、終盤で保健所所長(松田洋治)の先導でカナを捕らえにやってきた大勢の所員の群像など、端役にいたるまで抜群のアンサンブルであった。

 カナをとられ檜垣を失い悲しみにくれるおちょこが預かった傘で空を飛ぶラストは、舞台奥が開き紅葉のなかの宙乗りを見せ圧巻である。かつて十八代目勘三郎が紅テントをヒントに平成中村座を作り、その実子である勘九郎がテント芝居をするというめぐり合わせに胸が熱くなった。


柳家さん喬 独演会

柳家さん喬 独演会

公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/06/22 (土) ~ 2024/06/22 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「円熟の話芸と新たな息吹」

 半年に1度の柳家さん喬による三鷹市芸術文化センターの独演会である。今回は東京では初となる桂枝光改め四代目桂梅枝の襲名披露を兼ねた盛会となった。

ネタバレBOX

 夜の部はさん喬門下の前座小きちによる「芋俵」で幕が開く。芋俵に隠れて大店に侵入した泥棒だったが、身体を逆さにされたまま土間に置かれたうえ、夜半空腹を覚えた女中に俵越しに体を弄られたりして辟易する様をコミカルに描く。大きな目とまっすぐな声の小きちの語りが印象に残る。

 同じくさん喬門下の兄弟子㐂三郎は出た側から客席にVサインを向け湧かせる。「このご時世ですが吉原の噺を…」と切り出した「徳ちゃん」は、粗末な部屋に案内された若い噺家が不格好な女郎に追い回されて痛い目に遭うという筋である。郭の呼び込みから浅薄な噺家ふたり、そして芋をバリバリ食いながらゴジラよろしく入室する女郎と自在な演じ分けに観客は大喜びであった。

 お待ちかねのさん喬が披露したのは「天狗裁き」である。夢の内容を妻に問われても答えず、長屋の隣人から大家、そして奉行果ては天狗に問われても答えない、というよりそもそも夢を見ていないから答えられない…という悪夢にうなされる男の滑稽さを、愛嬌ある話しぶりで披露してくれた。

 中入り前は柳家門下の花緑による「あたま山」。吝嗇な男が落ちているさくらんぼを食べすぎたばかりに頭に桜の木が生え、格好の見物となったものの煩わしくなり木を抜くと、今度はそこにできた穴に水が溜まり皆が釣りをして……やや過剰なほどのリアクションと声音の使い方で主人公や隣家の年寄りを演じ分けた花緑は、襲名にそぐわないとサゲを独自にアレンジしたのが印象に残った。

 中入り後の襲名披露口上には前座を除くここまでの出演者に加え、新梅枝と三鷹市芸術文化センターの森元隆樹が並ぶ。新梅枝の妻がデザインしたという浅葱色に桃色の花、萌黄色の鳥と定紋があしらわれた祝幕を背景に各人が新梅枝の人柄を述べ、三本締めで今後の活躍を祈った。

 本日二度目となるさん喬は「八五郎出世」で、朴訥な八五郎が大名に貰われた妹のお鶴との再会をおかしくもしみじみと語って聞き応えがあった。大名の屋敷にあがり田舎言葉で大名家の人々とやり合うくだりはまさに自在である。

 トリの新梅枝は高座を飛び出さんばかりのオーバーリアクションでさん喬やほかの噺家との逸話を披露しまずはドッカンドッカン湧かせる。放蕩の限りを尽くし蔵に囚われた若旦那を待ちわびる芸者小糸がやがて亡くなってしまうという悲劇「立ち切れ線香」で、まくらとは打って変わった静けさが客席を占め、皆の新梅枝への注目を感じさせた。小糸が何度も送った恋文が若旦那のもとには届かなかったことを女将が回想するくだりは特に印象に残った。
「囚・囚・囚!(トラ・トラ・トラ!)」

「囚・囚・囚!(トラ・トラ・トラ!)」

Oi-SCALE

サイスタジオコモネAスタジオ(東京都)

2024/06/10 (月) ~ 2024/06/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/06/16 (日) 13:00

【SIDE A】
タイトル通り「囚われた」人々を描いた短編集だが、いずれも切り口や味わいが異なり「そういう視点もアリか♪」というのが面白い。
一方、夢(それも悪夢?)をを見ているように変幻自在だったりつかみどころがなかったり、どこか都市伝説っぽかったりという点は共通。普段のOI-SCALE作品と趣が異なるがこれはこれで佳き。
あと、4編目「しの6」での居酒屋の皿、ジョッキからつまみまで段ボールで表現した小道具に感服。
また、3編目「Remember」で、独房の壁を人物と接する部分だけ登場した黒衣が表現するのも面白かった。

ナイロン100℃ 49th SESSION 「江戸時代の思い出」

ナイロン100℃ 49th SESSION 「江戸時代の思い出」

ナイロン100℃

本多劇場(東京都)

2024/06/22 (土) ~ 2024/07/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ナイロン100℃初の時代劇。劇作家として幅広い作品群を持つKERAさんなので、少し意外な気もするし、楽しみでもある。公演チラシのテイストから「ナンセンス強め」を想像しましたが、やはりナンセンス度合いは高く、時代劇×ナンセンスな笑いという珍しい一作。ナイロンらしいとも言える。

ネタバレBOX

「江戸時代の思い出」というと、明治時代を生きた人が過去を回想する…という設定が想像できるが、今作は、「江戸時代の侍が自身の思い出話をしようとして、途中を飛ばそうと時間を先送りしているうちに、なぜか令和の思い出話を語ってしまう」というトリッキーな設定。つまり、江戸と令和を行き来する展開になる。ただ、この時間往来がずっと続く訳ではなく、数々のナンセンスが全編至る所に散りばめられている。あの手この手で「ナンセンスな笑い」が繰り広げられ、その手数の豊富さは「さすがナイロン」と言いたい。この笑いも、力技よりも巧みの洗練さが感じられ、どこか上品にすら感じる。これらは劇団員をはじめとした出演俳優の洗練によるものかもしれない。ラストシーンは余韻の残る爽やかな印象で、やはり全体的に上品な一作に感じられた。
いつか思い出してくれますように

いつか思い出してくれますように

完全右脳アルコロジー

中板橋 新生館スタジオ(東京都)

2024/06/26 (水) ~ 2024/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

アル組を観劇しました。
優しいファンタジーという印象で、面白かったです。
正直、混乱する部分があり、ラストも自分の理解で良いのか?と思われましたが、ボクは誰なのか?ボクとソウイチロウの関係は?と、惹き込まれました。
優しい気持ちになる舞台で、良い舞台でした。

生活と革命 vol.2

生活と革命 vol.2

マチルダアパルトマン

イズモギャラリー(東京都)

2024/06/26 (水) ~ 2024/07/03 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

何かぼんやりとしてしまう。毎日の生活を繰り返すだけの日々に底知れぬ不安と無力感、そして虚しさ。暗い穴をじっと覗き込んでいるようだ。

小久音さんはコリー・フェルドマン系の顔。

ネタバレBOX

①前説 池亀三太氏。我が市の紹介。郷土の偉人である文化人と彼の研究したオオアリクイにちなんだ公園について。

②「たらいまわしのウィンドウ」⑴坂本七秋氏。地底アイドルの推し活に人生を注ぎ込んだ男。いつも現場で一緒になるヲタ三人衆だったが、実は他の二人は父親と彼氏だった。披露宴に招待されることに。

③「なけなし3000」 ⑴早舩聖さん、樋口双葉さん。男に金を騙し取られた二人は殺害計画を練る。

④「あれはてたガーデン」坂本七秋氏、小久音さん、つぼみちゆきさん。突然福岡の実家に帰宅した兄。父親が死んでからというもの、誰も手入れしない為荒れ果てている庭。母親は韓流アイドルの追っ掛けとフラダンスに夢中。冷蔵庫に大根とペットボトルの烏龍茶を一緒に入れるのが気になった。

⑤「たらいまわしのウィンドウ」⑵久間健裕氏。カニコロッケでご飯を食べる女について。

⑥「なけなし3000」⑵トリカブトを買う為にバイトをすることに。

⑦「たらいまわしのウィンドウ」⑶早舩聖さん。鳥葬に憧れチベットに行こうとパスポートを申請する女。

⑧「いけずのハネムーン」久間健裕氏、樋口双葉さん。婚姻届を書いている二人と数年後離婚届を書いている二人を混在させて描く。

⑨「たらいまわしのウィンドウ」⑷樋口双葉さん。離婚届を出しに行く。

⑩「けしかけたドッグ」池亀三太氏、早舩聖さん。犬に噛まれて怪我をした男の家に飼い主の女がクッキーを持って謝罪に来る。池亀三太氏はバカリズムに見えた。

(11)「たらいまわしのウィンドウ」⑸小久音さん。家ではいつも裸族の女がカーテンを引きっ放し。近所の小学生の間で化物が住んでいると噂になりピンポンダッシュをされる。

(12)「なけなし3000」⑶早舩聖さんは殺害計画を「やめない?」と訊き、樋口双葉さんは「やめない!」と返す。

何か魔法がかかっていない気がした。「あれはてたガーデン」はこれじゃ勿体ない。「けしかけたドッグ」はキャスティングが違う。「いけずのハネムーン」は流石の出来だが、もっと胸を打つものになる筈。全体として何かパーツが嵌っていない。全く別の話だったのに一つの帰結に誘導していかないと。日常を革命する、ちょっとした視点の呈示に期待。
野球

野球

エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ・Office ENDLESS・DisGOONie

天王洲 銀河劇場(東京都)

2024/06/22 (土) ~ 2024/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

タイトルがズバリ「野球」とあるだけに丸々一試合描かれるプレイシーンの表現力が素晴らしい!
グラウンドとなる舞台はいわゆる八百屋舞台
その傾斜があるおかげで絶妙な遠近感(奥行)と臨場感が生まれ、しかも様々なアングルで見せてくれるものだからその都度目を見張ってしまう
キャスティングから鑑みても若い女性客が中心で、会場中にすすり泣きが拡がっていくのは必然というものだけれど、これって一番涙腺が崩壊してしまうのは思わず我が子を登場人物に重ねてしまう母親(父親)世代ではないかと

野球

野球

エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ・Office ENDLESS・DisGOONie

天王洲 銀河劇場(東京都)

2024/06/22 (土) ~ 2024/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

泣きました!もう途中から目頭がじんわりして、最後にはどっと溢れ出た!多分キャストの大半が2.5次元でカラコン、カラーウィッグ、キラキラ衣装で華やかにステージに立っていることが多いんじゃないかと思います。が、今回の作品、髪をきりっとまとめて、汗や砂ぼこりにまみれた地味なユニフォーム。実に地味です。だけど、その分、彼らの真っすぐで汚れのない、内側から溢れるキラキラした輝きがまぶしいほどの舞台でした。

新ハムレット

新ハムレット

早坂彩 トレモロ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2024/03/22 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

太宰治の小説『新ハムレット』を舞台化した本作は、小劇場でありながら大掛かりで完成度の高い舞台美術と照明、そして俳優の演技に魅了される作品となっていた。

ネタバレBOX

『新ハムレット』は(小説の冒頭に太宰の言葉で説明されており、それは上演作品の冒頭でも読まれていたが)元々戯曲として描かれたのではなく、しかもシェイクスピアの『ハムレット』とは展開も結末もかなり違っている。したがって、戯曲としてというよりは太宰の小説として楽しむテキストであるが、トレモロはそのことについて明らかに自覚的であった。というのも、俳優は大振りな演技でもって太宰の書いたセリフを演じており、その文体を存分に聞かせるものとなっていたからである。太宰を連想させる人物が舞台上を徘徊していることからも、観客に太宰を常に意識させる造りになっていることは明白である。
特筆すべきは舞台美術と照明、衣装の美しさである。昭和モダンの雰囲気を醸しつつも完全な昭和時代のリアリズムにはせず、ファンタジーとの折衷的世界が展開されていた。こまばアゴラ劇場は決して広い空間ではないが、実際よりもかなり広いように感じられたことから空間演出の秀逸さが窺えた。
他方で、なぜ『新ハムレット』を取り上げたのか、という点についてはわからないままだったのが残念だった。すなわち、『ハムレット』でもなく太宰の他のテキストでもなく、なぜ太宰の『新ハムレット』だったのかを観客に納得させるだけのテーマが見えて来なかったのである。確かに太宰の文体は面白いのだが、それは読んでもわかることである。太宰自体が小説であるという点を強調している以上、この点についての演劇側の解釈や応答はそれなりのものでないと説得力がない。空間演出や俳優の演技が豪華であっただけに、もったいない上演だったと言わざるを得ない。
波間

波間

ブルーエゴナク

森下スタジオ(東京都)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

正直に告白すると、ブルーエゴナグ『波間』は扱っているテーマからやや警戒していた。自死を扱っていたからである。しかしそれは杞憂に終わり、本作は自死を直接的には描いていなかったし、それどころか、(よくある傾向に反して)自死へ向かうプロセスをドラマチックには描かず、したがって観客が登場人物に安易に同情したり共感したりしない構成になっていた点において、作者への信頼がおけた。

ネタバレBOX

自死は美化していなかったが、作品それ自体はとても美しいものだった。かなり特徴的な空間と言える森下スタジオを、その特徴を活かす形で用いていたのも評価できる。体育館のような空間で、登場人物たちの学校生活をテーマにした作品ということで相性も良かったのだろうが、演出はその場に合わせて変えているというからその臨機応変さが功を奏したのだろう。
「安易に同情したり共感したりしない構成」と前述したが、本作は登場人物の過去と夢の景色が混在しており、物語内容を把握することがやや難しくなっている。だがそれは観客の思考も茫洋としていくのを楽しめるような構成だった。別の言い方をすれば、見る人をやや選ぶ造りであろう。そのような作品を見慣れている人からすれば楽しめるのだが、ドラマ的な造りに慣れている人からすればややストレスに感じることもあるのではないだろうか。
演出や照明、音響は非常に美しかったのだが難点があったとすれば、機材が古いのか、スモークが焚かれた瞬間に喉と鼻がやられたことである。恐らく制作サイドもそれを把握しており、各座席にマスクと飴が置かれていたが、それらを用いても防ぎ切れない程だったのには閉口した。
雨降りのヌエ

雨降りのヌエ

コトリ会議

扇町ミュージアムキューブ・CUBE05(大阪府)

2024/03/09 (土) ~ 2024/03/30 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

コトリ会議は書類選考の段階で期待値が非常に高かった。作品単体もさることながら企画のコンセプトに惹かれたのも大きい。会場となる扇町ミュージアムキューブを終日開放し、観客は好きなだけいることができるというアイデアは、「劇場」という場の本来のあり方、すなわち広場的役割を果たそうとしている。結果としてその期待値を裏切らなかったと評価できる。

ネタバレBOX

『雨降りのヌエ』はオムニバス作品群であり、全5作品の中から2作品ずつの上演が、期間中の日に2回ある。対象となった作品は「第夜話:縫いの鼎」で、離婚届を出そうとする夫婦を、死んだはずの兄が、離婚届に「クマさんハンコ」を押すことで妨害する話である。話の内容から分かるように、深刻な雰囲気が笑いへと転換されるユーモアの技術は秀逸である。短編でありながら不条理劇さえ想起させる。そのユーモアは俳優3人に共通しているが、特に「死んだ兄」役の若旦那家康の存在感は抜きん出ている。直前まで前説を和やかに行っていた彼が、突然「死んだ兄」としてそこにおり、無表情なのに、いや無表情だからこそ、やっていることのくだらなさが際立つ。
感想を書いてボードに貼れる付箋が当日パンフレットと共に配られたり、壁にかけてあるコンセプトボード(絵画)が日ごと増えたりというアイデアは、劇場がただ上演作品を見るだけの場所ではないことを観客に思い出させる。私はどうしても時間が取れず、開演直前に着いて終演直後に東京に蜻蛉返りせざるを得なかったのだが、スケジュールをキャンセルしてもその場に残ろうかと思ったぐらい居心地が良かった。
小規模でありながら劇場本来のあり方を模索する、深刻な状況でも笑える…そのような二重性を感じさせるコトリ会議の構成力と制作力は、アイデア落ちではなく、どこまでも観客思いの温かいものだった。
この世界は、だれのもの

この世界は、だれのもの

ながめくらしつ

現代座会館(東京都)

2024/03/01 (金) ~ 2024/03/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ながめくらしつの作品を拝見するのは初めてであり、ジャグリングと音楽をメインとするパフォーマンス集団と聞き、また過去作品の映像も見ていたことから、元々期待値は高かった。作品における技術面でのクオリティは、その期待を決して裏切ることはなかった。

ネタバレBOX

「他者への関心」をテーマとする本作では、各人が他の出演者と、ダンスやジャグリングを通して距離を縮めたり広げたりする様が描かれた。それが時に暴力的になったり、慈しみを感じさせたりする表現力からは、技術力の高さだけではなく各パフォーマーの演技力と協調性の高さも窺えた。
特筆したいのは照明と音楽の美しさである。観客との距離が近い劇場でのパフォーマンスは、しばしば観客に閉塞感も感じさせがちであるが、照明は劇場を本来よりも広くかつ幻想的なものに感じさせており、そこに加わるイーガルによる音楽も、それだけでパフォーマンスとして成立する程に観客を惹き込むものであった。
総じて技術力の高い上演であったが、(むしろ各人の技術力の高さゆえか)全体としてまとまりがあったとは言い難い。テーマとなる「他者への関心」についても、深掘りできていたとは言えず、観客の方が寄り添ってようやくテーマが見えてくるものとなっていたと言わざるを得ない。コロナを経て他者という主題について観客もより敏感になっているため、その点についてはより深める必要があっただろう。
したがって、技術力の高さと比較して、作品としてのまとまりに欠ける散漫な印象を受ける公演となっていた。
エアスイミング

エアスイミング

カリンカ

小劇場 楽園(東京都)

2024/02/28 (水) ~ 2024/03/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

カリンカ『エアスイミング』は、女性が社会的に囚われている「規範」の窮屈さ、それによる抑圧を見事に具現化した作品になっていた。

ネタバレBOX

シャーロット・ジョーンズによる『エアスイミング』は、1920年代のイギリスを舞台に、「精神異常」という烙印を押された女性2人が、病棟で夢を見ながら生きていく話である。2人が互いをケアしながら、傍目から見れば絶望のどん底で夢を見る様は可憐である。小口ふみかと橘花梨による熱量の高い演技は、最初はお互いに警戒していたがやがて強い絆で結ばれていくシスターフッドを見事に表現していた。
堀越涼による演出は、2人が囚われている病院そしてそれが象徴する堅牢な社会的規範の狭さを観客にも感じさせるものだった。劇場となった小劇場楽園ともよく調和しており、殺風景な病院の浴室が幻想的な夢の世界へと変化する様は見事だった。
他方で、テキストに見られる解放感が今ひとつ感じられなかったのは残念だった。狭い空間でそれを描くのは至難の業であるが、本作品はそれがなくては片手落ちになってしまう。また、夢の世界を本当にただの妄想とするのか、それとも潜在的な未来の姿とするのか、解釈が分かれるところではあるが、そのいずれであるのかを観客にもっとわかりやすく伝えても良かったのではないだろうか。
男女格差や女性の抑圧が問題となっている現代日本社会において『エアスイミング』を取り上げたという点において、その問題意識の持ち方や社会に対する感度の高さが評価に値する。他方で、その問題やテキストの掘り下げはやや不満が残るものとなり、惜しい作品となっていたと言わざるを得ない。
波間

波間

ブルーエゴナク

森下スタジオ(東京都)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

上演される森下スタジオで創作されたことの効果を感じさせる、空間との丁寧な融合が印象的でした。とくに、横長の空間が、光により伸び縮みするさまは、夢とも記憶とも知れないあわいの空気を醸成しています。

ネタバレBOX

そこ(舞台上)に人がいるのにどこか現実感がなく、でも生々しさも顔を覗かせます。それこそ波間のように曖昧模糊としながらも、隙のない緻密さ。この空間の集中力をつくりあげた総合力と胆力が素晴らしかったです。

しかし使われているのは、イスやハンガー掛けなど、おそらく会場施設で手に入りやすいものばかり。その現実的な物体たちも、あわいに溶けていくような、物質としての違和感がなくむしろ曖昧な存在として成立していくのは、組み立てられた動線と、やはり照明を主とした空間の構築にあると思います。

丁寧に編み、計算された人とモノの動き。世界観を全員で作り上げ、こまやかに行き届いていた良さの反面、それゆえか俳優の動きにときに制限があるようにすこし見えてしまうところがあったのは残念に感じもしました。

物語に散りばめられた、自死に至る人物の、手触りのあるエピソード。その人の生活や小さなこだわりが見えることで、いつかのどこかの誰かの死や喪失ではなく、形をもった人間にとっての生と死となっていくようでした。

スモークがたかれているため、事前に飴とマスクが配られた配慮に助かりました。全員に配られているので、飴の袋をあけることにもそこまで罪悪感が強くなかったのもありがたかったです。
べつのほしにいくまえに

べつのほしにいくまえに

趣向

スタジオ「HIKARI」(神奈川県)

2024/05/23 (木) ~ 2024/05/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

自助グループのシーンと、シェイクスピア作品の、交差が鮮やかでした。丁寧で控えめでありながら、堅実に大胆に確実に。“ケア”への理解と知識とともに、演劇の知識や技術が折り重なって、安定感のある作品でした。

ネタバレBOX

丁寧な脚本もさることながら、俳優がいずれの方も良かったです。『夏の夜の夢』をはじめシェイクスピア作品の役柄を背負いつつ、そのぶんそれぞれの役割が明確だったのかもしれません。ひとつひとつの台詞を各立場からしっかりと置きつつ、各人の良い面も悪い面も描かれています。
とくに前半と後半で大きく役回りの変わるロビングッドフェロー役の和田華子さんは、軽やかさがありながら、要素の多い物語を安定して繋いでいました。自助会主催者のコーデリア役の梅村綾子さんは、緩急の効いた演技でロビングッドフェローとはまた違う作品の目となります。台詞を確実に置いていく技術の一方で、後半、その繊細な一言で「舞台上と客席を繋いだ」「観客を当事者にした」と思われる場面もありました。作品を跳ねさせ観客を沸かせていた小林春世さん(ティターニア役)の思いきり良い強さや、戸惑いのなかに芯の強さを少しずつ見え隠れさせていくKAKAZUさん(ヒポリタ)など、挙げればきりがないですが全員が個性と役割を持ち魅力的でした。
演技体は違う面々を、ひとつの舞台で入り見だせさせつつわかりやすく見せた演出も安定しています。趣向過去作のなかでも、オノマリコさんの脚本と、扇田拓也さんの演出が良いマッチングだったと思います。

生き方が違うだけで、どこにも悪い人がいない。それぞれにとってのより良いあり方がある。さまざまな立場の人へ行き渡る戯曲そのものが、ケアを丁寧に実践しています。
すでにある枠組み(夏の夜の夢)や、それほど具体的に推敲されるわけではない「互助・共助のための結婚制度」など、現実に対してファンタージに思える要素が大きいけれど、それはそれで良いのだと思います。
余談ですが、隣りの席の観客が、いつ舞台に上がるんじゃないかと思うほどのめり込んでいました。位置的にも仕込みの俳優かと思ったほどです。それほどまでに、客席を当事者として誘う作品だったと思います。特定のテーマによる自助グループという設定もあり、その親和性は観客によるだろうけれど、この舞台に救われ、人生を支えられる人はいるだろうなと心強く思いました。
さるヒト、いるヒト、くる

さるヒト、いるヒト、くる

ポケット企画

扇谷記念スタジオ・シアターZOO(北海道)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

北海道をめぐる歴史や課題にかかわるワードやエピソードが散りばめられている本作。

ネタバレBOX

説明的ではないことに表現としての矜持や生活の手ざわりの重要性を感じる一方で、どこまで誰に伝わるのだろう?という疑問もありました。これは私が北海道で生活してきている人ではないからかもしれません。(ただ、東京でも上演する、ということだったので、ワードをふんわりと知っているけれどその地に実感を持たない観客がもしいるのなら、作品としてどう受け取られるのかの懸念もありました)

北海道やアイヌに関わる言葉や背景以外にも、台本を読んで初めて気づいたことが多くありました。気づかなくても成立していますし、作品を損なうものではありませんが、伝わっている方が面白がれたかも…と思うことも。

ツアー公演を踏まえてだと思いますが、風船などをつかった移動しやすい舞台美術は、明るさと暗さをあわせもち、自然の雰囲気もよく出ていて良かったです。音響も、音量や方向性など意図的に配されていました。全編をとおして、手をかけ頭を悩ませた創作の堅実さを感じました。

上演では、広い道内の同世代の作品との同時上演を企画したり(しかも新作)、トークテーマを「北海道の演劇についてトーク!北海道での生活、アートとの関わり方が作品創作にどんな影響を与えているのかを考えてみます」としたりと、自分達のいる場所、自分達の立つ足元を踏みしめようと感じられる、地に足のついた創作と上演に真摯さと力強さを感じました。
北海道の演劇の未来がとても楽しみです。
天の秤

天の秤

風雷紡

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

実際の事件をもとにしているため展開は想像がつくものの、人物の描き方によって、正義とはなにかや、後進を育てる立場のあり方など、ある程度の年齢や立場となった大人の迷いや覚悟が浮き彫りになっていきます。ハイジャックという特異なシチュエーションだからこそ、おそらくだれしもがいつか社会のなかでぶちあたる、育てられるものから、育てるものへの移行の困難が感じられたようでした。

ネタバレBOX

会場となる楽園は、二面舞台でその間に柱があります。今回、アクティングエリアを柱をまたいで奥まで設けたことで、視界の悪さがハイジャックされた機内と重なり、良いストレスとなりました。
緊迫感や人間ドラマなど基本はずっとシリアス。とくに機内は、たった1人でハイジャック犯役として健闘していた杉浦直さんは、なかなかの荷を背負ってのことだったと思いますが、(現実の事件でも)考え方が甘いと言わざるを得ない若者なりの信念には芯が通っていました。地上も右往左往していましたが、日本航空専務役の高橋亮次さんなど、緊迫したままにその頼りなさに頼りなさを感じさせ、かつ客席を沸かせることも何度かあり、私自身もその緩急のおかげで集中し続けられました。

余談ですが、終演後が誘導により1列ずつの退席だったため、待ち時間のあいだに隣席の年配の男性から「よど号って知ってる?」と聞かれました。その、どこかのめり込んだような口調から、リアルタイムでニュースを見聞きしていた方の感想は、また違うのだろうなと、思いました。
(あたらしい)ジュラシックパーク

(あたらしい)ジュラシックパーク

南極ゴジラ

王子小劇場(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

段ボールなどで作った小道具は「お、南極ゴジラ!」という感覚にもなり、またそれが良く機能していました。

ネタバレBOX

舞台では、アラの見える小道具はそれが少量であろうとあえてであろうと劇世界を壊すにはじゅうぶんなので、そうならないために、映像やダンスを用いたり、マイムや語りで説明したりという表現はよくあることです。
けれども今作で、いかにも段ボールなどで作ったものたちが成立していたのは、まず物量が多かったという点にあるかなと思います。空間に対して要素が多く視点を散らす美術や、キャラクターを立たせテンポよく展開させる俳優たち、全1,324話のうちの1~4話である設定など、100人キャパの王子小劇場に空間も時間も詰め込んだ、詰め合わせボックスのような世界観のスジが通っており、それが熱量と魅力になっていました。

また、小道具などの手作り感に反して、たとえばシャークウィーク役の瀬安勇志さんが後半姿が変わってからの躍動感ある動きは、世界観への大きな説得力となっていました。

全編とおして、湾田ほんとの成長譚です。それを描き切った胆力と、その一貫性が、要素とキャラクターが多い作品のなかで観客の視点を引っ張っていました。一方で、湾田を主観的に描いていくため、変化やその後がわかりにくいキャラクターがいたり、彼らを振り返らず自分の人生に邁進していく湾田に「その生き方でいいのだろうか」と応援しきれないところもありながら、カタルシスを感じさせる勢いがありました。

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