しのぶの観てきた!クチコミ一覧

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しずかミラクル

しずかミラクル

コトリ会議

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/06/13 (水) ~ 2018/06/17 (日)公演終了

人類滅亡が目前にせまる寂寥としたディストピアで、とぼけた会話や素っ頓狂なギャグが独特のタイミングで繰り出されます。狙ったチープさにも味わいがあり、この劇団にしか作れない作品だろうと思いました。
出演者・制作の若旦那家康さんの心の込もった丁寧な前説がとてもよかったです。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/06/14/9896/

巛

ゆうめい

OFF OFFシアター(東京都)

2018/03/02 (金) ~ 2018/03/04 (日)公演終了

満足度★★★★

 会社員役の主人公が客席に向かって話しかけつつ、他の登場人物たちとも会話をしていく現代口語劇でした。下手奥に斜めに設置された平台(おそらく)は、表面が緑の芝生のように加工されています。上手にはイスが数脚と棚があり、移動して場面転換します。軽やかでシームレスな場面転換がかっこ良かったです。

 弱くて優しい現代の若者が努力するゆえに失敗し、さらに苦しむ様子に、胸がキュっと締め付けられる瞬間が沢山ありました。
 ただ、俳優は泣く振り、怒る振り、話しかける振りをしているようでした。ライブ・パフォーマンスはその場、その瞬間に生々しい出来事が起こるもので、次に何が起こるかわからないのが面白いんですよね。その状態を作るのは演じる側にとってはリスキーですが、個人的にはそれが会話劇の前提であって欲しいと常々思っています。

ネタバレBOX

 デパートのディスプレイ施工を担当する会社員・川田(森山智寛)の中学生時代からの友人・桜井(小松大二郎)が、妻・南(深澤しほ)と保育園児の娘・なおを残して自殺します。桜井はカードローンで借りた金で風俗通いをしており、偶然、自分の車で愛猫を轢き殺してしまっていました。シングルマザーになった南は生活保護を受けながら子育て中。桜井の姉・美郷(児玉磨利)は母の介護をするかたわら、ねずみ講ビジネスにハマっています。

 ねずみ講の話が出た瞬間がとてもスリリングで可笑しくて、一気に物語に入り込めました。川田がデザインフェスタで出品した消しゴムハンコを買った客も、ねずみ講の仲間だったという落ちも効いていましたね。

 川田はタルパと呼ばれる桜井の分身を想像できるようになり、死んだはずの桜井と会話をします。桜井役の俳優がスルリと現世の会話に参加してくるのが楽しいです。タルパにはもっと大胆に活躍して欲しかったかもしれません。

 川田の職場に新しく配属された清水(田中祐希)は、会社の文化に無理に馴染もうとして突然坊主頭で出社するなど、痛々しい行動がリアルです。次にやってきた新人の中野(古賀友樹)は不真面目で、清水とは対照的。登場人物は皆、現代の若者ですが、普段の言葉づかいが微妙に違います。発語や仕草の工夫によって、それぞれの個性を粒立たせられていたと思います。

 クリスマスの大仕事を自分ひとりに押し付けられた川田が、本当は近所ではない保育園の発表会会場やセブンイレブンなどを、実際に自転車に乗って飛び回るのが痛快です。ただ2017年9月に拝見した『弟兄』に比べると大人しい目で、照明も、演技も、もっと派手にしてもいいのではないかと思いました。
 「デイドリーム・ビリーバー」が流れた時は、ちょっと音楽の主張が強すぎる気がしました。
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しあわせ学級崩壊

ART THEATER 上野小劇場(東京都)

2018/05/30 (水) ~ 2018/06/03 (日)公演終了

満足度★★

 開場中から舞台下手奥のDJブースで演奏があり、出演者は舞台上で柔軟運動や発声をしながら待機していました。舞台面上部には割れたコンクリートがむき出しになっており、廃墟とおぼしき空間の中央には木製のイス5脚とテーブルが1つ。上下(かみしも)に数本立っている細い木の柱に、凧糸のような白い紐がゆわえつけられ、数本の白い線になって舞台を横切っています。舞台面の上下(かみしも)には舞台と客席を遮る木の柵もあり、出演者は舞台上に閉じ込められているようでもありました。

 物語があって出演者が役柄を演じるのですが、DJが流す大音量の音楽に合わせてマイクを通してセリフを言うことが多く、次々に楽曲を披露していく音楽イベントのようにも思えました。

 当日パンフレットによると脚本・演出・演奏を手掛ける僻みひなたさんは24歳になられたそうで、「24年間のことと、その1日1日のことを思い出しながら、劇を作った」とのこと。登場人物は皆、作者の分身なのかしらと想像しながら拝見しました。

 開場時刻が10分ほど遅れ、初日はあいにくの雨だったこともあり、細い階段から客席への誘導は少し手間取っていらっしゃいました。全席自由ですので劇場へはお早目にどうぞ。ロビーで本作の戯曲本を購入しました(800円)。

ネタバレBOX

 出演者は白い衣装を着た女性5人と男性1人。DJブースの男性1人もそのまま演奏を続けます。女性は10代の五人姉妹のようです。男性は“これから生まれるはずの命”らしく、しきりに“お母様”を探し頼っていました。丈が長い目の白いスカートに裸足、髪には白いリボンというスタイリングはいかにも少女らしく、現代日本で男性が女性に求めるのは相変わらず母性と少女性なのかと考えることになりました。

 自分勝手で悲観的な若者たちが甘えたりケンカしたりしながら、悲劇の主人公のように悩みや怒りをぶちまけていきます。「特別な人間になれなかったのは自分のせいだ、私が悪いんです」という自省と自己嫌悪がするりと自己憐憫に変化し、結果的には他人のせいするような会話が多い印象を受けました。「ごめんね」という謝罪のセリフもありましたが、大きな声で相手にぶつけるので、「このままの私を受け入れて許せ」と要求しているようでした。「いつまで許しを請えばいいんですか?」と怒鳴って開き直ることもありました。「名前をください」などと言い、他者に頼らなければ自己を確立できない未熟さもさらされます。個人的には、そういう姿を俯瞰して、より滑稽に見せて欲しかったです。

 2011年3月10日から12日までの3日間を示すセリフが繰り返され、東日本大震災が起こった日とその前後も描かれたようでした。僻みひなたさんは当時17歳ぐらいだったのでしょうか。ご自身の人生において大きな事件だったのだろうと思います(私にとってもそうです)。ただ、東日本大震災は東京電力福島第一原発事故も含め、現在進行形の複雑極まる災害であり人災です。なんでもない日常に亀裂が入るという意味で用いる題材としては、ふさわしくない気がします。

 ラップはままごと『わが星』、繰り返しはマームとジプシーに似ていると感じることが幾度かありました。残念ながらありふれた言葉の繰り返しにはあまり効果が感じられず、テキストを刈り込んで上演時間を短くしてもいいのではないかと思いました。
SUPERHUMAN

SUPERHUMAN

ヌトミック

北千住BUoY(東京都)

2018/03/23 (金) ~ 2018/03/25 (日)公演終了

満足度★★★

 開演前に脚本・演出の額田大志さんから、上演中は写真撮影可能でネット上への公開も可能とアナウンスがあり、2階のカフェで販売している飲み物を飲んでもOKと、何度も丁寧に話しかけてくださいました。砂埃が立つ可能性があるので希望者にはマスクも配布。行き届いた心遣いに触れ、開幕前から気持ちが明るくなりました。

 終演後のトークではAokidさんと額田さんのお話を聞くことが出来ました。質問の時間では、観客の意見をそのまま素直に受け取って、正直な言葉で応えてくださったように思います。前説もそうでしたが、とても風通しがよくて、公平で、気持ちのいいコミュニケーションができました。

 喫茶店やレストランなどが記載された劇場周辺の地図が配布されており、私の知人はそこに載っているお店に食事に行きました。劇場と地域をつないで、観劇だけで終わらせない演出をしてくださいました。

ネタバレBOX

 床に置かれた四角い枠の中に白い石が敷き詰められており、コンクリートの柱に巻かれた綱から縄文時代を連想しました。演技スペースをL字型に囲む客席から一番遠い舞台奥には、大きなパネルがあり、映像が映されます。カラフルで寒々しいLED照明はプラスチックのような人工的な軽々しさが感じられ、石や綱と対照的でした。

 20代の自分たちが今、ここ(北千住)にいることを身体と言葉で確認しつつ、地球の裏側や時空の彼方へと思考を飛ばしていきます。現代口語会話や身体表現、映像中継などを繰り出して、今、ここ、この時代に自分たちが何をするのか、しないのか、するとしたら何ができるのか…と問うているようでした。

 類人猿からヒトに進化した人類が火の使用をする…といった原始時代の表現がありましたが、暴力的な野生が感じ取れず残念。踏みしめるコンクリートから砂、地層へと想像を広げていく際、床に対する向き合い方が軽いのが気になりました。出演者が「ざっばーん」と発語しても海を想像できませんでした。遠い昔の大海なのか、現代の近場のビーチなのか、イメージ映像なのか、ただの「ざっばーん」という音なのか、詳細に感じ取りたかったです。

 Aokidさんが競泳用水着でダンスを踊ったり、深澤しほさんがラップをしたり、山崎皓司さんがゴリラを演じたりするのは、それぞれの得意技披露だったのでしょうか。素材を活かすことが額田さんの演出方針なのだと思いますが、個人的にはその演技自体を鑑賞するにとどまってしまい物足りなかったです。

 観客に向かって話しかける演技をしても、本当には話しかけていないため、どう受け取っていいのかわからなかったです。出演者の演技については感情とイメージが足りないのではないかと思いました。徐々に単調に感じるようになってしまったこともあり、できれば額田さんの音楽をもっと聴きたかったですね。

 ※ポスト・パフォーマンス・トークで質問したところ、額田さんは俳優がセリフを言う時の感情やイメージは特に指定していないとのこと。口から発する音としての声を重要視されているようでした。
春母夏母秋母冬母

春母夏母秋母冬母

FUKAIPRODUCE羽衣

吉祥寺シアター(東京都)

2018/05/24 (木) ~ 2018/05/28 (月)公演終了

「母」をテーマにした音楽劇。出演者は深井順子さんと森下亮さん2人だけ。ほぼ全編、私は涙を流しっぱなし!卑近な日常に既にある愛を、輝かしいく、みっともなく、可笑しく描いてくださいました。糸井さんの楽曲はぜひアイドルにも歌ってほしいと思ってきましたが(今も思っていますが)、今回はNHKの「みんなのうた」で流れて欲しいと思いました。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/05/24/9733/

人間万事金世中

人間万事金世中

劇団前進座

国立劇場 大劇場(東京都)

2018/05/12 (土) ~ 2018/05/22 (火)公演終了

1879年に初演された河竹黙阿弥の戯曲で、原作は英国作家リットン作『THE MONEY』。和洋折衷空間に三味線と長唄が聴こえるのが趣き深いです。歌舞伎は歌と音楽と舞なのだなぁと改めて感じました。上演時間は約3時間5分、途中休憩30分を含む。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/05/19/9666/

Ten Commandments

Ten Commandments

ミナモザ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/03/21 (水) ~ 2018/03/31 (土)公演終了

満足度★★★★

 青く光る鏡面の床に白いイスとテーブル。上手奥には音響卓とオペレーターがいて、白い衣装の男女が登場する抽象空間です。作・演出の瀬戸山美咲さんご本人であろう女性劇作家(占部房子)とその夫(浅倉洋介)の家、または彼女の脳内あるいは宇宙空間であるようにも受け取れました。

 原子力とそれを研究する人、作った人、使った人について調べ、思考の海に深く潜るうちに、瀬戸山さんは言葉を扱う劇作家であるご自身の責任を問うことになったのだと思います。その苦闘の過程がさらけ出されました。瀬戸山さんがたどり着いた絶望的な境地と、そこから這い上がる姿を観て涙が絞り出され、終演後はしばらく席を立てませんでした。瀬戸山さんの勇気に感銘を受けました。ありがとうございました。

 私は過去にミナモザ『ホットパーティクル』(2011年9月)を拝見したことがあり、今回も冒頭あたりから“セルフ・ドキュメンタリー”であることがわかったので、その心構えで観ることができました。手紙を読み続ける時間が長く、朗読劇のように見えるのは改善の余地ありではないでしょうか。この上演を土台に新しい“物語”を立ち上げる機会を見計らってもらえればと期待します。

 主人公を演じた占部房子さんは瀬戸山さんの苦悩を自身のこととして受けとめ、心を尽くして全身で演じてくださっていたように思います。浅倉洋介さんは包容力のある物静かな夫役で、柔和ながらずっしりとした存在感に説得力がありました。私が知らなかった浅倉さんの一面を発見できました。

ネタバレBOX

 科学者レオ・シラードが1940年にまとめた「十戒(Ten Commandments)」を紹介し、アインシュタインへの手紙、生まれてくるかもしれない子供への手紙、まだ出会っていない未来の妻への手紙(本折最強さとしさんが読む)などが読まれました。俳優は手に紙を持っており、朗読の形式です。個人的には、演劇作品の上演として完成度が高いとは思えませんでした。

 「原爆を落とした人が悪いのか、作った人が悪いのか、いや、悪いのは言葉だ」という結論に目を覚まさせられた心地でした。爆弾の化学式は記号(=言葉)でしょうし、研究も投下命令も人間の言葉で行われます。人間が獲得した言葉こそが、人間がまき散らす害悪、犯した罪の発端であるという認識を、常に持っていなければと思いました。

 最後には、何年間も言葉を発していなかった女性劇作家が、とうとう夫に話しかけます。生まれたのはたわいない日常会話で、岸田國士戯曲のようにとてつもない優しさを湛えたものでした。こういう言葉で他者と交わっていきたいものですね。
 
 前説で山森大輔さんが左手に付けていた腕時計がおしゃれでした。
青春超特急

青春超特急

20歳の国

サンモールスタジオ(東京都)

2018/04/19 (木) ~ 2018/04/29 (日)公演終了

満足度★★★

 高校3年の卒業式当日から始まり、過去3年間の高校生活を振り返る群像劇でした。大道具は学校によくある机と椅子のみで、それらを移動させたり組み立てたりして場面転換します。俳優が高校生らしい服装をしていることもあり、説明がなくても最初から高校生活を覗き見する気分になれました。物の助けがなくても物語が立ち上がる、シンプルな演劇の魅力があります。

 『青春超特急』という題名ほど猛スピードな印象はなく、ちょくちょく停車する準急ぐらいの感触でしょうか。会話の間(ま)を長く取りすぎだと感じることが多かったです。個人的には過ぎ去る日々への感傷よりも、前のめりの疾走を観たかったかもしれません。

 音楽に疎い私も耳にしたことがある日本の歌謡曲が流れ、歌われました。歌そのものに聞きごたえがある上に、歌詞や音調がエピソードに合っていて、高揚感がありました。ミラーボールもいいですね。照明、音響、群舞による晴れやかで躍動感のある場面を作るのがお上手だと思います。

ネタバレBOX

 入学、部活、恋、文化祭、受験、卒業、そしてそれぞれの進路。思春期の青春ど真ん中のエピソードがランダムに演じられます。20代以上の大人の俳優が制服姿で高校生を演じること自体に無理があるので、出演者全員が激しいダンスを披露することで、虚構の世界へと誘い込んでくれるのがありがたかったです。

 個人的に、現役高校生が高校生役を演じる高校演劇をよく拝見してきたので、大人だからこそできる高校生の群像劇を観たかった気もしました。たとえば“ヤングアダルト青春劇”と銘打たれた2016年の『保健体育B』は、濃厚なキスを含むラブシーンが山盛りで、20歳の国だからこそできる作品だと思えました。今作は登場人物全員が高校生です。有無を言わせない“高校生らしさ”を見せつけるのが難しければ、どこかに“高校生の世界”を俯瞰する視点を置いても良かったのではないでしょうか。

 セリフで発せられる名前が誰のことなのかすぐにわからず、何年生の時のエピソードなのかの予想もつきづらくて、なかなか物語の深部に入っていけませんでした。12人の高校生全員がはっきりとした個性を持つ魅力的な人物だったので、十分に味わえなかったのが残念です。

 バスケ部のイケメン越川(亀山浩史)と彼に告白したチハル(篠原彩)のキス・シーンがありました。越川は、自分のかっこ悪いところがバレて見捨てられるのが怖くて、チハルに「俺、そこそこかっこいいから(遠くから)見ててよ(だからもう別れよう)!」と言い放ちます(※セリフは正確ではありません)。初めてお互いに付き合っていることを確認して、キスもしたばかりなのに!(笑) とても可笑しくて可愛らしい場面でした。
iaku演劇作品集

iaku演劇作品集

iaku

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/05/16 (水) ~ 2018/05/28 (月)公演終了

満足度★★★★

 一人掛けの丸いベンチが数脚あるのみのシンプルな空間での会話劇です。登場するのは末期がんの母を心配する兄弟、子供を産むかどうか迷う夫婦、そして題名通り粛々と運針をしている謎の女性2人の合計6人。家族2組のコミカルなやりとりから、子供がないアラフォー世代の切実な悩みがあぶり出され、運針する2人ののどかな会話からは、命についての根源的な問いかけがなされます。現代日本人の等身大の会話に数々の社会問題を凝縮し、緻密に編み上げた戯曲でした。

 ロビーの物販が充実していて、初日からDVDや戯曲に売り切れが出る盛況でした。個人的希望としては、当日パンフレットに配役表が欲しかったですね。4作品分の情報が掲載されているのでスペースの都合もあったのだろうと思います。※初日時点

ネタバレBOX

 築野一(尾方宣久)とその弟・紘(近藤フク)、田熊應介(市原文太郎)とその妻・沙都子(伊藤えりこ)、白い布に運針する結(佐藤幸子)と糸(橋爪未萠里)という3グループの会話が個別に描かれ、やがて混ざり合います。

 がんで入院した70歳の母に恋人・金沢を紹介された一と紘は、戸惑いながら家の相続や墓の管理などについて初めて話し合うことに。41歳フリーターの一はひどい甘えん坊ですが優しい性格で、理知的で冷静な紘と好対照です。母が尊厳死を望んでいると金沢から聞かされた2人は、延命治療やクオリティー・オブ・ライフについて意見を戦わせます。

 田熊夫妻は子供を作らないと約束して結婚しましたが、沙都子が妊娠の可能性を漏らすと應介は方針転換を提案。子育てと仕事の両立、一戸建て新居の35年ローン、母になることの重圧など、沙都子が子供を望まない理由には説得力があり、現代の日本人女性が抱かざるを得ない深刻な悩みを代弁しているようでした。自分たちの都合で命を奪ってはいけないという應介の主張にも納得できます。

 結は一と紘の母で、糸はこれから生まれるかもしれない沙都子のお腹の中の命でした。結は糸に、公共事業が民間委託され、立派な桜並木が伐採された思い出を語ります。切られた桜の気持ちや木の寿命などについて話し合ううちに、命は誰のものか、どんな始まりと終わりが望ましいかといった大きな問いが提示され、2組の家族が抱える問題と重なっていきます。

 築野兄弟と田熊夫妻という赤の他人同士が論争を始めるところからグっと面白くなり、見守っていた結と糸も加わって、時空を超えた議論が白熱していきます。頻繁な反論の応酬を作り出すために、登場人物にわざと反抗的な発言をさせているのではないか…と感じたところがあったのは残念。私が言動の根拠をきっちりと受け取れなかったせいかもしれません。

 紘が「家族のため、みんなのためと言いながら、実際は自分のことしか考えてない」と言い、一を看破したのが痛快でした。沙都子にしか聞こえなかった猫の鳴き声が應介にも聞こえるようになったのは、彼が本気で妻の心の声に耳を傾けるようになったからでしょうか。腹を割って話し合うことで人間が変化するという、奇跡と希望を描いてくださったように思います。また、糸を人物として存在させ、お腹の中の命には意志があると示したことに、強く賛同したい気持ちです。

 結と糸が運針をあらわす擬音語を「ちくちく」「たくたく」と言い、やがて「チクタクチクタク」と時計の針が進む音になっていくのが可愛らしかったです。誰にも平等に与えられ、止まることなく確実に過ぎ去っていく時間の物語でもあるんですね。
ワレワレのモロモロ  ゴールド・シアター2018春

ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場・NINAGAWA STUDIO(大稽古場)(埼玉県)

2018/05/10 (木) ~ 2018/05/20 (日)公演終了

「平均年齢78.4歳のさいたまゴールド・シアターのメンバーが、自身に起きたできごとを台本化し自ら演じる」という公演で、構成・演出は岩井秀人さん。
実体験のエピソードは美しくて、愛らしくて、切実で、残酷で…少し滑稽。素晴らしかったです。戦争経験者が物語の形式で体験を語って下さるのも貴重だと思います。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/05/11/9522/

Brand new OZAWA mermaid!

Brand new OZAWA mermaid!

EPOCH MAN〈エポックマン〉

APOCシアター(東京都)

2018/05/05 (土) ~ 2018/05/20 (日)公演終了

現代の東京が舞台のアダルトな「人魚姫」コメディーで、1人で何役も軽快に演じ分ける面白さに加え、ハイテンションのギャグや気の利いたブラックユーモアが満載です。小さな劇場に建て込まれた美術は照明と仕掛けも贅沢で、衣装もヘアメイクも小道具も工夫が凝らされていて見応えあり。俳優1人でこんなにまで出来ちゃうなんて…!カーテンコールは拍手が鳴り止まず計3回。私も拍手し続けました。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/05/15/9582/

たいこどんどん

たいこどんどん

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2018/05/05 (土) ~ 2018/05/20 (日)公演終了

9年にわたる東北の珍道中を描く、江戸時代末期が舞台の3時間超えのお芝居ですが、テンポよく進み、パワフルかつコミカルな歌と踊りもあって飽きさせない演出でした。お笑いあり、お色気あり、批評精神ありの時代もので、方言を含む長い語りもしっかり聴かせるエンターテインメントでした。“新しいこまつ座”を観せていただいた気がします。上演時間は約3時間15分、途中休憩20分を含む。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/05/06/9444/

いたこといたろう

いたこといたろう

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2018/05/01 (火) ~ 2018/05/06 (日)公演終了

約1時間25分。作・演出は畑澤聖悟さん。青森のイタコと、ホトケオロシを頼みにきたワケあり女性の二人芝居。ホラーやお笑いのネタを散りばめた濃厚な愛憎ドラマ。降霊術だけでなく、二人が語る言葉も不確かさを増していき…。軽やかかつ繊細で、振れ幅大きく変化する三上晴佳さんがまたもや素晴らしい。高校生はワンコイン500円。一般3000円。「愛とか死とか見つめて」と二本で一般5000円。

ネタバレBOX

イタコを訪ねた女性の、育ての母はイタコだった。互いに憑依を繰り返すなかで、本音と事実が語られていく。もはやどちらがイタコで、何が本当かは重要ではない。現実を凌駕する虚構が、心の中の真実を明るみに出していく。
愛とか死とか見つめて

愛とか死とか見つめて

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2018/05/03 (木) ~ 2018/05/06 (日)公演終了

約1時間15分。少子高齢化、過疎、市町村の統廃合、核廃棄物再処理場の誘致などを背景に、ごく身近な愛と死を見つめた「いたこ」コメディー。急展開の物語に引き込まれ、突然降りかかる不幸とやり切れない思いのひとつの着地点に納得。見せる場面転換がスマートで、各人物の個性、役割もはっきり。さすがの工藤千夏作・演出作。高校生はワンコイン500円!

ネタバレBOX

残された妻は、死んだ夫が乗り移ったとされる「いたこ」に対して、思いをひたすら告げて、どうにか心を落ち着かせる。生者の思いを受け止める者(いたこ)が必要なんだな…と思う。
さようなら

さようなら

オパンポン創造社

王子小劇場(東京都)

2018/04/19 (木) ~ 2018/04/22 (日)公演終了

満足度★★★★

 淡路島でほそぼそと生きる平凡な人々の小さなコミュニティーに、「変わりたい」と強く願った1人の女性が激震を起こします。

 黒い幕と壁でほぼ真っ黒な額縁舞台でした。舞台奥に膝の高さぐらいの黒い通路が横切り、道具は椅子が数脚あるのみです。場面転換はシャープでリズミカル。ドアの開閉はマイムと音響で表し、飲み物やタバコもマイムです。シンプルな空間で演劇的効果を生かした、密度の濃い会話劇でした。80分という短時間に収まっているのもいいですね。

 登場人物それぞれの人物造形がはっきりしていて、全員に魅力があります。怒鳴っても、威張っても、いじけても、どこかに愛らしさがあり憎めません。演技だけでなく設定やセリフで、人物像がふくよかに肉付けされていると思います。

 大阪ならではの、方言を活かしたコミュニケーションがとても心地よかったです。特にスナックのママ(美香本響)と客との会話で、大阪らしさを感じました。ママの機転の利かせ方、セクハラやクレームの受け流し方、切り返し方が見事で、大阪の女性の優しさとたくましさを感じ取れました。積極的に繰り出されたギャグや笑いのネタが、観客に媚びていないことも好印象でした。

ネタバレBOX

 高校中退してから18年、ネジ工場で働いている宮崎(川添公二)は、仕事が終わるとスロットに行き、朝までスナックで飲んでそのまま出勤するという自堕落な生活を送っており、後輩の柴田(野村有志)を無理やり同行させています。絵に描いたようなパワハラです。宮崎がスナックのママに対して取る態度もパワハラかつセクハラで、後に登場する社長(殿村ゆたか)のセクハラはさらに下品で露骨でした。そんな関係性を肯定的に受け取れたのは、演技にリアリティーがあるだけでなく、物語全体を俯瞰する視点が保たれていたからだろうと思います。

 両親を亡くし一人で暮らす、冴えない女性事務員の末田(一瀬尚代)が、社長が脱税して貯め込んだ2000万円を盗む計画を立てます。彼女はとにかく東京に行って、人生を変えたいと思っているのです。末田は、風俗狂いで奇行が多い中国人チェン(伊藤駿九郎)と2人で社長の自宅に侵入するから、宮崎と柴田には、社長をスナックに足止めしてもらいたいと依頼します。しかしながら、末田とチェンが金を持ち逃げし、盗難に気づいた社長は宮崎と柴田が犯人だと思いこむ想定外の事態に。結果的にはチェンが全ての金を持って逃亡してしまいます。

 ママが宮崎に愛層を尽かした瞬間や、「これからも今までどおり淡路島で暮らせばいい」と説得する柴田に対して、初めて末田が大きな声で反発する場面など、直接衝突する一対一の会話に緊張感がありました。宮崎が、社長からも後輩の柴田からも「人に頼るな、自分で動け、一人でなんとかしろ」と説教されるのが爽快でした。

 チェンが整形をして、末田そっくりの姿になって帰って来るという顛末は、意外性があって笑える上に、小さな希望を示す微笑ましいものでした。「自分たちのようなつまらない人間は変わることが出来ない」と信じ込んでいた柴田が、チェンを見て笑い、終幕します。終演後のトークで作・演出の野村さんがおっしゃっていたとおり、末田も、スナックのママも宮崎も姿を消していましたから、人間は変わることができるんですよね。とはいえ、金さえあれば解決できることが山ほどあるという現実は、やはり悲しいなとも思いました。

 スナックのママを快活に演じた美香本響さんは、タクシーの運転手役も面白かったです。
 毎日のルーチンを示す場面を繰り返し演じ、徐々にルーチンの時間を短縮していくという、照明と音響と身体表現を組み合わせた演出は楽しいですね。カーテンコールの後にも見せてくださってありがとうございました。
地底妖精

地底妖精

Q

早稲田小劇場どらま館(東京都)

2018/04/20 (金) ~ 2018/04/23 (月)公演終了

すごく刺激的で面白かったです。目に見えていないものは存在していないのと同じ。人間の目には見えない(はずの)妖精と、目がないもぐらが登場して、私たちがあえて見ないようにしていること、見えてない振り(演技)をしていることを、乱暴に炙り出していきます。

メリー・ポピンズ

メリー・ポピンズ

ホリプロ/東宝/TBS/梅田芸術劇場

東急シアターオーブ(東京都)

2018/03/18 (日) ~ 2018/05/07 (月)公演終了

絵本の中のような舞台装置と衣装が豪華!照明や映像とのコンビネーションも華やか!カラフルな空間での群舞が迫力!歌と踊り、そして大勢の人間が心を合わせるミュージカルの力が、ストレートに届きました。シンプルでわかりやすい、ハートウォーミングな物語ですが、「決して説明はしない」という信念を持つ子守りのポピンズさんと、彼女の魔法が引き起こす微笑ましい奇跡から、学ぶことも多かったです。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/03/27/8945/

Take Me Out 2018

Take Me Out 2018

シーエイティプロデュース

DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京都)

2018/03/30 (金) ~ 2018/05/01 (火)公演終了

2016年の日本初演がとっても面白かった、2003年度トニー賞受賞作の再演。上演時間はカテコ込みで約2時間5分。スポーツ苦手な私が「野球スゲー!」って感化された(笑)。友情、恋、家族、差別、階級社会、忖度、怒りの連鎖、殺人、赦し…。高評価の初演をまっさらにして再創作した藤田俊太郎さんの新しい座組みに感謝。翻訳は小川絵梨子さん。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/04/05/9028/

砂塵のニケ

砂塵のニケ

劇団青年座

青年座劇場(東京都)

2018/03/23 (金) ~ 2018/03/31 (土)公演終了

日本、フランス、ギリシャに想像を飛躍させることが出来る、熱い恋愛あり、家族ドラマあり、有名絵画、古代遺跡ネタありのエンターテインメントでした。
詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/03/28/8954/

5DAYS

5DAYS

ワタナベエンターテインメント

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2018/04/03 (火) ~ 2018/04/23 (月)公演終了

シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』を下地にしていますが、創作部分がとても多く、結末にも驚かされました。上演時間は約2時間、休憩なし。小劇場のミュージカルは贅沢。手が届く距離で俳優の演技が観られますし、走り抜ける風も届きました♪
少し詳しい目の感想:http://shinobutakano.com/2018/04/04/9016/

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