iaku演劇作品集 公演情報 iaku「iaku演劇作品集」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     一人掛けの丸いベンチが数脚あるのみのシンプルな空間での会話劇です。登場するのは末期がんの母を心配する兄弟、子供を産むかどうか迷う夫婦、そして題名通り粛々と運針をしている謎の女性2人の合計6人。家族2組のコミカルなやりとりから、子供がないアラフォー世代の切実な悩みがあぶり出され、運針する2人ののどかな会話からは、命についての根源的な問いかけがなされます。現代日本人の等身大の会話に数々の社会問題を凝縮し、緻密に編み上げた戯曲でした。

     ロビーの物販が充実していて、初日からDVDや戯曲に売り切れが出る盛況でした。個人的希望としては、当日パンフレットに配役表が欲しかったですね。4作品分の情報が掲載されているのでスペースの都合もあったのだろうと思います。※初日時点

    ネタバレBOX

     築野一(尾方宣久)とその弟・紘(近藤フク)、田熊應介(市原文太郎)とその妻・沙都子(伊藤えりこ)、白い布に運針する結(佐藤幸子)と糸(橋爪未萠里)という3グループの会話が個別に描かれ、やがて混ざり合います。

     がんで入院した70歳の母に恋人・金沢を紹介された一と紘は、戸惑いながら家の相続や墓の管理などについて初めて話し合うことに。41歳フリーターの一はひどい甘えん坊ですが優しい性格で、理知的で冷静な紘と好対照です。母が尊厳死を望んでいると金沢から聞かされた2人は、延命治療やクオリティー・オブ・ライフについて意見を戦わせます。

     田熊夫妻は子供を作らないと約束して結婚しましたが、沙都子が妊娠の可能性を漏らすと應介は方針転換を提案。子育てと仕事の両立、一戸建て新居の35年ローン、母になることの重圧など、沙都子が子供を望まない理由には説得力があり、現代の日本人女性が抱かざるを得ない深刻な悩みを代弁しているようでした。自分たちの都合で命を奪ってはいけないという應介の主張にも納得できます。

     結は一と紘の母で、糸はこれから生まれるかもしれない沙都子のお腹の中の命でした。結は糸に、公共事業が民間委託され、立派な桜並木が伐採された思い出を語ります。切られた桜の気持ちや木の寿命などについて話し合ううちに、命は誰のものか、どんな始まりと終わりが望ましいかといった大きな問いが提示され、2組の家族が抱える問題と重なっていきます。

     築野兄弟と田熊夫妻という赤の他人同士が論争を始めるところからグっと面白くなり、見守っていた結と糸も加わって、時空を超えた議論が白熱していきます。頻繁な反論の応酬を作り出すために、登場人物にわざと反抗的な発言をさせているのではないか…と感じたところがあったのは残念。私が言動の根拠をきっちりと受け取れなかったせいかもしれません。

     紘が「家族のため、みんなのためと言いながら、実際は自分のことしか考えてない」と言い、一を看破したのが痛快でした。沙都子にしか聞こえなかった猫の鳴き声が應介にも聞こえるようになったのは、彼が本気で妻の心の声に耳を傾けるようになったからでしょうか。腹を割って話し合うことで人間が変化するという、奇跡と希望を描いてくださったように思います。また、糸を人物として存在させ、お腹の中の命には意志があると示したことに、強く賛同したい気持ちです。

     結と糸が運針をあらわす擬音語を「ちくちく」「たくたく」と言い、やがて「チクタクチクタク」と時計の針が進む音になっていくのが可愛らしかったです。誰にも平等に与えられ、止まることなく確実に過ぎ去っていく時間の物語でもあるんですね。

    0

    2018/05/17 01:56

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大