しのぶが投票した舞台芸術アワード!

2015年度 1-10位と総評
マンザナ、わが町

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マンザナ、わが町

こまつ座

終戦間際の米国加州日系人強制収容所が舞台の、明暗が常に同居する歴史娯楽劇。タイムリーな題材。鵜山仁演出。泣きすぎてメイク全部取れた…。女優5人が明晰な日本語を駆使し心&技尽くしのパワフル演技合戦。俳優の力見せつけられた!土居裕子、熊谷真実、笹本玲奈、吉沢梨絵というキャリアある実力派女優の中でイキウメの伊勢佳世が大健闘。前半は野太い声でがさつなおバカさんを好演し、イメージ一新!井上ひさし作品が若い世代へとバトンタッチされていくことにも感動。

蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~

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蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~

グループる・ばる

題材は1945年に19歳で終戦を迎え、2006年に亡くなった詩人、エッセイストの茨木のり子。のり子の人生はそのまま戦後日本史となり、血の通った歴史の証言を浴びるような時間。知的で、繊細で、純粋で、成熟していて、野太いセリフたちに胸打たれ、後半は涙が流れっぱなし。心身の奥深いところで、つかみとった大切な事柄を誰にでもわかる易しい言葉でつづったのが茨木作品だとすれば、このお芝居もまさにそう。

アロリー・ゴエルジェ &アントワンヌ・ドゥフォール HALORY GOERGER & ANTOINE DEFOORT 『GERMINAL(ジェルミナル)』

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アロリー・ゴエルジェ &アントワンヌ・ドゥフォール HALORY GOERGER & ANTOINE DEFOORT 『GERMINAL(ジェルミナル)』

KAAT神奈川芸術劇場

世界をつくってみることで世界の成り立ちと機能を知っていくパフォーマンス。一見何もない空間で照明、音響、装置を駆使し、根源的なテーマをユーモラスに。見事な日本語字幕映像に感謝。

ミュージカル『HEADS UP !』

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ミュージカル『HEADS UP !』

KAAT神奈川芸術劇場

ミュージカルの裏方たちが主役で、表方、裏方、そして観客がいて初めて成り立つ舞台芸術という儚い奇跡が、素舞台で生まれて消えるまでを描く。観客が劇場内の出来事を共に体験していく劇中劇中劇の構造で、作り手と観客の「共犯関係」が前提であることを冒頭で確認してから進行する。歌もダンスも楽しいし、ギャグも笑える。レミゼみたいにずっと上演されていって欲しい。

世界の果てからこんにちは

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世界の果てからこんにちは

SCOT

人口500人弱という地域の野外劇場が、約700人の観客でほぼ満席に。たった数百人のために上がる花火なんて生まれて初めて!眼前に広がる、例年の1.5倍という大盤振る舞いの見事な花火が、第二次世界大戦中の無数の砲弾や、撃ち落とされ燃え上がる零戦の機体に見えるなんて。興奮、喜び、悲しみが入り交じり、涙。

残夏-1945-(ざんげ)

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残夏-1945-(ざんげ)

サイン アート プロジェクト.アジアン

発話、手話、字幕、生演奏で伝えるお芝居。ろう者の母を捨てた健常者の主人公は記者になるが、結婚して授かった娘はろう者だった。夫と離婚し、娘と不和が続く日々。ある時、戦後70年の特集記事でろう者の母の被爆体験を取材しようと一大決心し、故郷に帰る。「知らないから、知りたい、地続きになりたい」という思いに感動。耳が聴こえる俳優も、聴こえない俳優も、伝えようとする意志が強く真っ直ぐで、嘘がない。ジェニー・シーレイさんのワークショップ↓で感じた、
http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2006/1114173736.html
あの真実の時間がここにも。

アンチゴーヌ

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アンチゴーヌ

新国立劇場演劇研修所

日本唯一の国立の俳優養成所の修了公演(なんと無料!)。演出は紫綬褒章受賞者の栗山民也さん。ギリシャ悲劇をもとにした1940年代の仏戯曲で、当時の独仏関係が背景にあることは衣装でも示される。十字路の舞台で長台詞をたっぷりと。Aキャストが素晴らしかった!サッパリとして、清々しくて、どっしりしていて、静か。そんな本物の悲劇があった。

分身

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分身

カンパニーデラシネラ

超楽しかった!わくわくドキドキの連続で飽きさせない。おしゃれでコミカル、残酷でシニカル。アクロバティックな振付がスリリングで、息を合わせた群舞が美しい。無名のダンサー、俳優が心をひとつにして作品のためにまい進しているのが伝わってくるとても嬉しい時間でした。こういう公演が増えて欲しい。

聖★腹話術学園

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聖★腹話術学園

SPAC・静岡県舞台芸術センター

アングラがテーマの2015年ふじのくに⇆せかい演劇祭の海外演目ではダントツに好み。俳優が等身大の人形を身にまとい、人形を操るやら、操られるやら。とんでもなく卑猥で不道徳極まりないのに、超面白かった!ポワン・ゼロは、演劇学校時代の仲間と設立したというベルギーの劇団。学校は5年間あるそうで、日本の俳優教育との差を痛感。

『地域の物語2015 あっちはこっち、こっちはあっち~介助・介護をかんがえる』発表会

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『地域の物語2015 あっちはこっち、こっちはあっち~介助・介護をかんがえる』発表会

世田谷パブリックシアター

介助・介護の現場にいる/いた市民による演劇発表会。厳しい現実を生々しく提示するだけでなく、ダンスや歌、身体表現も加えて演劇的に構成された、本格的な舞台作品でした。参加者らの姿は堂々たるもので、心の交流も豊か。老化は誰にも身近なこと。完成度の高さに驚くとともに、心身にグサっと刺さった。

総評

毎年「10本なんて少なすぎて選べない」と悩んできましたが、今回は5本しか選べず。6位以降は記憶に留めておきたい公演を選びました。質の高いストレート・プレイを観たい、作品のために心を開いて生き生き、伸び伸びと交流するアンサンブルが観たい(下手な俳優は観たくない)。その気持ちが年々強くなった結果だと思います。ナショナル・シアター・ライヴの影響も大きいですね。2016年も演技の基礎を学んだ俳優に注目しいていきたいと思います。

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