甘神
ムシラセ
サンモールスタジオ(東京都)
2010/12/01 (水) ~ 2010/12/05 (日)公演終了
満足度★★★
甘い考え/甘くない世界
マルチ商法にはまって行く若者たちの心の弱さや身勝手さが描かれていて、チラシのビジュアルや説明文のイメージとは裏腹に、シリアスなドラマとなっていました。個人的にも、マルチにはまって疎遠になってしまった友達がいるので、共感できる話でした。
ある女性の彼氏が姿を消して、探し出すと宗教じみたマルチにはまっていて、彼を助けようとしてるうちに彼女もその世界にはまってしまい、当初の目的が忘れ去れているという物語で、登場人物全員が悪い方向に向かって行く救いのない雰囲気がリアルでした。
登場人物のネーミングが「甘さ」や「白」に関連付けられているのがアイロニカルが面白かったです。ファションショーのランウェイを模したセットや照明、音楽も浮ついた気分を表現するのに合っていたと思います。小道具の白い箱も角砂糖、ダンボール箱、椅子と様々な意味を持たせて上手く使っていて良かったです。
春琴(しゅんきん)
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2010/12/02 (木) ~ 2010/12/11 (土)公演終了
満足度★★★★★
鮮烈な演劇的イリュージョン
谷崎潤一郎の『春琴抄』を映像、身体表現、人形などを駆使して幻想的に描き、実験的でありながら美しくて品のある素晴らしい作品でした。度重なる再演や海外公演が行われているのも納得です。
単純に『春琴抄』の物語が演じられるのではなく、ナレーターによって読まれるラジオドラマや谷崎潤一郎のモノローグ、『春琴抄』の登場人物の回想といった異なるレイヤーが同時進行する構成が巧妙で、フィクション性とリアリティが両立していました。
ビジュアル面では同じ谷崎の『陰翳礼讃』からインスパイアされていて、全編に渡ってステージ上が全て明るくなることはなく、暗いシーンがほとんどで幻想的な雰囲気が出ていました。映像はただ壁に投影するのではなく、様々なものに投影して、幽霊のような不思議な存在感が出ていました。セットも非常に簡素でありながら、少ない物と人による「見立て」で多様なものを表現していて、豊かな空間になっていました。
そして、春琴を演じる/操る深津絵里さんの演技が圧巻でした。いかにも主役といった前に出てくる演技ではなく、控えめな感じなのですが、幼少の頃から大人の女性まで巧みに声色を使い分け、強い存在感がありました。
様々な演出のアイディアが必然性を持って使われ、耽美的な物語との組み合わせが非常に上手く行っていて、舞台芸術だからこそ表現可能な独特の質感が強く感じられました。
空気ノ機械ノ尾ッポvol.16
空気ノ機械ノ尾ッポ
テアトルBONBON(東京都)
2010/12/01 (水) ~ 2010/12/05 (日)公演終了
満足度★★
ポップな哲学劇
地面の穴を巡る対話と、終わりのない労働が交互に現れる、不思議なテイストの作品でした。抽象的な内容をスノッブな感じにはせず、エンターテインメント系の舞台に見られるようなエネルギーが溢れる演出で表現しているのが新鮮でした。
抽象的概念について考えさせる、ドラマ性を排したプロットは興味深かったのですが、大袈裟な台詞まわしや身振りはテンションが高過ぎて空回りしているように感じました。特に、あまり面白いとは思えない台詞のやりとりで役者が大笑いするシーンが多すぎて、置き去りにされた感じを受けました。
「ハコーボ」という不思議な副題は劇中で言及されませんが、観れば納得のダブルミーニングのネーミングでした。身近な素材を使った手作り感が溢れる美術も可愛いらしかったです。
測量
タテヨコ企画
笹塚ファクトリー(東京都)
2010/12/01 (水) ~ 2010/12/05 (日)公演終了
満足度★★★
三姉妹の距離
三姉妹のそれぞれのキャラクターが活かされた、しっとりとした作品でした。BGMや照明による演出もほとんどない、演技を見せる舞台になっていました。
三姉妹の会話は心の機微が描かれていて良かったのですが、他の役のエピソードの扱いが少々雑に感じました。特に長髪メガネの男性とジャージの女性は一発ネタ的な笑いのためだけに登場しているように見えて、もったいないと思いました。
架空の民話、「蛇奥様」に絡めた、ちょっとミステリアスな展開が面白かったので、もう少し話を膨らませて欲しかったです。
木の格子で出来たセットが和風モダンな感じで素敵でした。
トリアージ
Trigger Line
小劇場 楽園(東京都)
2010/11/26 (金) ~ 2010/12/01 (水)公演終了
満足度★★★★
骨太なドラマ
実際にあった事故をモチーフにした、人のが人の命を選別することについて考えさせられる、重厚なテーマの作品でした。
小さな劇場で大勢の出演者がいる公演でしたが、空間を上手く使って小気味よい転換が続き、飽きさせないように工夫されていました。
テーマやモチーフは良かったのですが、台詞や音楽が説明的過ぎるように感じました。良くも悪くもテレビドラマ的な、良く出来ている脚本でした。もっと余白を残して、観客に想像する余白を残して欲しいと思いました。
冒頭のトリッキーな始まり方が面白かったのですが、以降はストレートな演出だったので、生の舞台ならではの演劇的仕掛けをもっと入れて欲しかったです。
ここ数ヶ月の間に何十回も劇場に行っていますが、チラシが折り込まれているのを見たのは一度だけ、当日の折り込みチラシも1枚だけと、意図してかそうでないのか分かりませんが、小演劇界から距離を置いているように見えるのが気になりました。個人的には好みの作風ではありませんでしたが、多くの人に訴えかける力のある作品に感じたので、アピール不足がもったいなく感じました。
時々の友シリーズ3 『with UA-2』
時々自動
吉祥寺スターパインズカフェ(東京都)
2010/11/26 (金) ~ 2010/11/26 (金)公演終了
満足度★★★
異色な競演
ゲストのUAさんが時々自動の曲を歌い、時々自動がUAさんの曲を歌うという珍しい組み合わせのライブでした。
バイオリンやアコーディオン、木琴が入った、チェンバー・ロック的なアレンジが新鮮で面白かったです。
『サバンナ』という時々自動の曲が、まるでUAさんの持ち歌のようにはまっていて素敵でした。
後半冒頭で上演された『連続ラジオドラマ』と題されたナンセンスな朗読とオブジェのパフォーマンスをUAさんが真面目に演じていたのがおかしかったです。
今回はコンサートだったのでパフォーマンス的な要素は少なかったのが少々残念でしたが、UAさんがトークで時々自動の公演を良く観に行ってると言っていたので、ぜひ舞台作品でも共演して欲しいです。
THE HONEST VILLAGE
ジーモ・コーヨ!
OFF OFFシアター(東京都)
2010/11/24 (水) ~ 2010/11/28 (日)公演終了
満足度★★★
嘘の嘘
会社の悪事を告発して辞めさせられた男が、嘘をついてはいけない「正直村」にやって来て起こる出来事を描いた話で、善意の嘘/悪意の嘘について考えさせる作品でした。コメディと謳っている割にはあまり笑えませんでしたが、興味深いテーマでした。
最初はコメディタッチで軽い感じなのですが、面白いギャグがほとんどなく、2時間ずっとこの調子だと辛いなあと思っていると、中盤から予想外の展開で少しシリアスな雰囲気になり、次第に引き込まれました。
それぞれの登場人物の嘘にまつわるエピソードや思いが明らかになっていきますが、事前にそれを匂わせる要素がなくて、若干唐突に感じました。
クライマックスの後、コミカルな雰囲気に戻るエピローグが長くて、メインディッシュを食べた後にケーキが丸ごと出てきた感じでした。さらっと終わって欲しかったです。
安部公房の短編小説を思わせる反転が仕込まれた物語の骨格は良かったので、笑いの部分がブラッシュアップされれば、バランスの取れた良作になると思います。
空を見上げる
HOTSKY
cafe MURIWUI(東京都)
2010/11/23 (火) ~ 2010/11/28 (日)公演終了
満足度★★★
親密な時間と空間
小さなビルの屋上にある素朴なインテリアのカフェで飲み物を飲みながら気楽に鑑賞できる1時間弱の作品で、居心地が良かったです。
30代に突入した大学時代の女友達3人がカフェに集まってガールズトーク。最初は軽いトーンだったのが、年月が経ったからこそ言えるようになった事実を明らかにして少し重い雰囲気になりますが、お互いに認め合って和やかに終わる物語でした。
3人ともいかにも実際にいそうなキャラクターで、声を張らずに自然体な話し方だったので、会話がとてもリアルに感じました。外部のノイズで会話が聞き取りにくくなるのも、逆にリアリティーが増して良かったです。
1卓のテーブルでただ会話が続くだけですが、会場の環境と作品の内容が良く合っていて、心に染み入る作品になっていました。
最後、拍手をしにくいタイミングで役者たちの礼をするのが残念でした。一旦そのまま捌けてから、戻ってきて一礼の方が良いかと思います。
のら猫たちは麗しの島をめざす
榴華殿(RUKADEN)
タイニイアリス(東京都)
2010/11/20 (土) ~ 2010/11/23 (火)公演終了
満足度★★★
国を越えて
日本・韓国・台湾の役者たちによるコメディで、字幕なしでそれぞれの母国語で話すのですが、言葉が分からなくても楽しめるように作られていました。
ある劇団一座が借金取りから逃げてアジアを回るという話に、妹を探す依頼を受けた探偵の話が絡む物語でした。
韓国語・中国語は日本の役者が空耳、推測がふんだんに入った翻訳をして、なんとなく分かる感じなのが楽しかったです。
客入れ時の宮嶋美子さんによる「怖い話」(といっても実は駄洒落の一発芸)からそのまま劇中劇的に始まる構成で、劇場の空気を暖めて笑いやすい雰囲気に持って行くのが上手かったです。
どの役者もくどくなり過ぎない程度に個性のあるキャラを演じていてチャーミングでした。特に、以前にユニークポイントの『通りゃんせ』で印象的だった金世一さんが今回も佇まいだけでコミカルな雰囲気が出ていて面白かったです。
外国の役者と一緒だからと気張らずに(稽古は大変だったと思いますが)、徹底的に笑いで押し通していたのが爽快でした。
地点『ーところでアルトーさん、』
フェスティバル/トーキョー実行委員会
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2010/11/19 (金) ~ 2010/11/23 (火)公演終了
満足度★★★★
鮮烈な声
普通ではない発声/発話法で語られる言葉と、シンプルで無機質な美術/照明によって、アルトーが書いたテキストが提示される、不思議な緊張感のある作品でした。
役者の扱い方が独特で、役を演じているわけでもなく、役者本人として舞台に存在しているわけでもなく、何かの機械の様な佇まいでした。奇妙な発声法の生声やエフェクターで変調された様々な声の響きが凄かったです(特にヘッドホンをしながらCDの早回しの様な発声をしていた女性は圧倒的でした)。言葉というより声そのものコンポジションでした。
身体表現も派手な要素はないのですが長時間静止していることが多く、役者の方は大変だったと思います。
大きなプールと、その中に立つアンテナ、後方にはアルトーの肖像(巻き上げられるようになっていて、その後ろには映像投影用のスクリーン)の空間がスタイリッシュでした。
ラジオ用に書かれたテキストを用いていることから、ラジオスタジオ的なブースがあったり、「放屁」という単語に対して口でその音を真似たりプールの底から大きな泡が出たりと案外テキストとベタに照応した演出もあって意外でした。
途中で流れた唯一のBGM、ビーチボーイズの『サーファー・ガール』が、この作品の中で一番普通な要素なのに一番異質に感じられたのが新鮮でした。
開演前と最後の聞こえるか聞こえない程度のホワイトノイズも効果的でした。
語られるテキストの内容はほとんど理解できませんでしたが、まさにライブでしか味わえない「演劇性」が強く感じられて良かったです。
架空の箱庭療法
Nichecraft
東中野レンタルスペース(東京都)
2010/11/20 (土) ~ 2010/11/23 (火)公演終了
満足度★★★
演劇→美術
架空の演劇作品の舞台美術の模型と、それに役者の写真を切り抜いて配置して撮った写真の展示でした。
美術家が演劇的なフォーマットで表現をするのはレベッカ・ホルンさんやヴァネッサ・ビークロフトさんなど多くの例がありますが、逆はあまりない様な気がするので(自分が知らないだけかもしれませんが)、新鮮で面白かったです。少ない情報から色々物語を想像するのも楽しいです。写真はもっと大判で展示して欲しかったです。
今後、架空の演劇作品に限らず、実際に公演のあった舞台美術の模型の展覧会もあったら良いなと思いました。
死と再生とロックに
ロ字ック
明石スタジオ(東京都)
2010/11/20 (土) ~ 2010/11/23 (火)公演終了
満足度★
うーん…
色々なところでチラシを目にしていた□字ック、今回初めて観たのですが好みの作風ではありませんでした。
集団自殺をするために、寂れた山荘に人が集まって、その中の1人の希望を叶えようとドタバタが繰り広げられる物語でした。
ストーリーも演出もありきたりで、笑えないギャグがハイテンションで続き、とても疲れました。舞台の作りが少し変わっていましたが、あまり活かされていなく、むしろ見切れることが多く見辛かったです。
物語に絡む形でクラシックの某有名曲が1曲出てくるのですが、ストーリー上その曲である意味があまりなく、その曲のジャズバージョンの既成の音源があるから選んだだけに見えたのも残念でした。
もう少し芝居として骨のあるものを作った上に笑いを入れないと、ただ上滑りした感じになってしまうと思いました。
クリストフ・マルターラー『巨大なるブッツバッハ村ーある永遠のコロニー
フェスティバル/トーキョー実行委員会
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2010/11/19 (金) ~ 2010/11/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
感情豊かな前衛作品
巨匠演出家クリストフ・マルターラーさんの巧みな演出が光る、面白い作品でした。全編ゆったりした時間進行で静かな場面が多く、ストーリーもほとんどないのですが、全然眠くならずに観ることが出来ました。噂の通り、合唱も本格的なレベルで素晴らしかったです。
室内に見えるけど、ガレージや街灯がある不思議な空間の中で十数人の役者たちがちぐはぐな対話やモノローグを話すのを通じて、資本主義社会において取り残された人々の希望と諦観が滲み出るように表現されていました。ダンスやマイムとも違う身体表現も乾いたユーモアが感じられました。壁や家具をこすって出すノイズで構成された音楽、というか音響もジャーマンプログレを思わせる音で印象に残りました。
合唱はこのメンバーで普通に演奏会をしても良いくらい上手で、とくに微かに聞こえるピアニッシモの神秘的な表現は息をするのもためらわれるくらいの美しさでした。
クラシック音楽の知識がなくても音楽としても美しく楽しめますが、知っているとその曲を使っている意図でも楽しめます(シューマンやシューベルトの希望を歌う曲が歌に入る前にイントロだけで中断されるシーンなどがあります)。
1曲だけポップスが使われていて(ビージーズの「ステイン・アライブ」で皆が踊ります)、その曲だけが伴奏が生演奏でなかったのがアイロニカルでした。しかも、この賑やかな曲の直後に歌われるのが耽美的な寂寥感の溢れるベルクの歌曲で、その対比が非常に鮮やかでした。
終盤の展開は緩慢ながらも、とても刺激的でした。バッハの有名なカンタータをBGMにファッションショーが繰り広げられ、それぞれランウェイのフロントでのポージングのときに小ネタを入れて笑わせるのですが、次第に着ている服がみすぼらしくなり、爽やかなバッハの旋律に「キリエ・エレイソン」とミサの文句が乗せられ、サティの「貧者のミサ」(この曲の歌詞も「キリエ・エレイソン」で始まります)に接続される流れは、笑いと虚無感が一緒になった複雑な情感を醸し出していて素晴らしかったです。
そして最後のシーンは希望が見えたと歌う、ベートヴェンのオペラ『フィデリオ』の曲が繰り返し歌われるのですが、繰り返すたびに低い調に転調して重苦しい響きになってくのに合わせて照明も暗くなって行くという、寂しいものでしたが、優しさを感じさせるものでした。
昨年パリのオペラ・バスティーユで観たマルターラーさんの演出したベルクのオペラ『ヴォツェック』が初マルターラー体験で、その時はあまり印象に残らなかったのですが、今回は音楽を使って何とも言えない感情を引き出す手腕に引き込まれました。オリジナル作品の方が自由に音楽を扱えるので、やりやすいのでしょうか。
ロドリゴ・ガルシア『ヴァーサス』
フェスティバル/トーキョー実行委員会
にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)
2010/11/20 (土) ~ 2010/11/24 (水)公演終了
満足度★★
意外にシリアス
挑発的な宣伝文句からどれだけぶっ飛んだ作品なのかと期待していたのですが、想像していたよりもまとまりのある作品でした。テキストの比重が高く(しかもモノローグや字幕ばかり)、翻訳を通じてしかそのテキストに触れられないのがもどかしく感じました。
冒頭は世界各国でピザを食べる子供を見たという他愛のないとぼけた話(グローバリゼーションや浪費社会の皮肉だったのでしょうが、話しっぷりにユーモアがありました)から始まるのですが、孤独や愛を音楽や映像を伴って暴力的に描き、痛々しいシーンが多かったです。体を拘束したり、無理矢理水を飲ませたり、全裸になったりと体を張った演技が壮絶でした。
本や水、牛乳、パスタの散乱する光景は舞台空間が広すぎたのか、あまりインパクトを感じませんでした。役者は出番でないときはステージ両袖に待機していて、タバコを吸ったりしていて、役を演じているのではなく役者本人として存在していることを感じさせる演出になっていて、いっそう痛々しさが引き立っていました。
今回の作品は残念ながら心を動かされるところがあまりありませんでしたが、当日パンフに書いてあった、『自分の墓穴を掘るための鋤をイケアで買ったよ』や『ユーロディズニーで私の遺灰を散骨する』等の過去の作品タイトルが興味深く、旧作もぜひ日本でも上演して欲しく思いました。
現代能楽集Ⅴ『「春独丸」「俊寛さん」「愛の鼓動」』
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2010/11/16 (火) ~ 2010/11/28 (日)公演終了
満足度★★★
形式と物語
能の作品を現代的に翻案した3本オムニバスの公演。キャスト、スタッフとも豪華で期待していたのですが、ちょっと物足りなく感じました。
『春独丸』
親と子の愛憎の物語で久世星佳さんと岡本健一さんの演技が良かったです。アンサンブルの役者6人によるダンス/マイム的表現はいかにも小野寺さん的な動きで面白かったです。しかし、やはりダンサーでないとちょっと難しいかもと思いました。
『俊寛さん』
島流しになった者たちの物語で、狂言のスタイルで演じられました。
ゆるいギャグが多い、気楽に観られる作品でした。
『愛の鼓動』
女に騙される男の話で、ある特殊な職業に設定されていたのが効果的でした。ベンガルさんの冴えない中年男性っぷりと、西田尚美さんの気の強い女性の対比が印象的でした。天井高のある空間を生かした美術も素敵でした。
3本の構成が能の公演の舞ー狂言ー能みたいになっていたり、それぞれの作品で現代の政治的な話題を取り入れていたりと趣向を凝らしていたのですが、オリジナルの能の方が作品として強いと思いました。
個人的に能は物語より形式に独自性があると思うので、現代劇の形式で音響や照明などの要素があればあるほど、逆に想像力を働かせる余白がなくなってしまって、奥深さが失われているように感じました。
来月、同じ演目を日芸の学生たちが上演するので、そちらも楽しみです。
そんなの俺の朝じゃない!
ライオン・パーマ
王子小劇場(東京都)
2010/11/18 (木) ~ 2010/11/21 (日)公演終了
満足度★★★
素朴な味わい
チラシや説明文の雰囲気からコメディかと思っていたのですが、意外に泣ける要素もある作品で楽しめました。
ある大事な1日を迎える男とそのライバルとの戦いの物語で、根っからの悪人が出て来ない、和やかな雰囲気でした。
美術のショボさ(今日が初日なのに可動のセットがもう壊れそうになっていました…)や台詞を噛んだり間違ったりするのが、逆にいい味を出していました。ギャグもベタなものが多かったのですが、若くはない役者たちが無理をせず出来る範囲で楽しみながら作っている雰囲気が伝わって来て、つい笑ってしまいました。
今月はF/T絡みで実験的な舞台を観ることが多かったので、良い息抜きになりました。
自殺対策基本法
旧劇団スカイフィッシュ
自由学園明日館 講堂(東京都)
2010/11/17 (水) ~ 2010/11/19 (金)公演終了
満足度★★★
声の力
『日本国憲法』と同様に声の表現力に重点を置いた作品でした。
F/Tのチラシや公式サイトではスタンディングと書いてありますが、着席しての鑑賞でした。開演すると照明が消え、60分弱の間、窓から入ってくる外の明かりだけでの上演でした。役者の動きもほとんどなく、入ってくる情報は役者の声(しかし、上演時間の約半分は黙っています)や会場の外の音のみでした。『自殺対策基本法』をテキストにしているみたいですが、文章として聞き取れる部分はほとんどありません。
前半では5人の役者が音程のある声を次第に大きくして行き、声の重なりから豊かな倍音が生じて、とても神秘的な音環境が生まれていました。その後、ほとんど何も起こらない時間が20分ほど続き、終盤はテキストの読み上げと民謡調の歌が入り交じり、カオスな感じでした。テキストリーディングと歌の混ざり具合が柴田南雄さんのシアターピースの名作『追分節考』を思わせました。
特異な環境の中で、雨音と時折通る車のライトによって生じる光と影の運動が印象的でした。
演劇のフォーマットからはかけ離れた作品ですが、リアルタイムで体験しないと分からない質感はとても演劇的だと思いました。
視覚情報をほとんど消去し、聴覚だけになった本作のあとにどのような作品を作るのか楽しみです。
日本国憲法
旧劇団スカイフィッシュ
自由学園明日館 講堂(東京都)
2010/11/16 (火) ~ 2010/11/20 (土)公演終了
満足度★★★
声の力
学校の講堂(フランク・ロイド・ライト設計の丁寧な作りの名建築です)で5人の役者が日本国憲法の文章を喋り、観客はそれを自由に動き回って聞くという、実験的な作品でした。
ジョン・ケージのハプニング作品みたいに別々の場所でお互いに無関係な出来事が生じていて、観る人によって全く異なる経験をする、開かれた作品だったと思います。1時間弱かけて静(沈黙)から動(歌、手拍子)へ推移して行く様子が日常的な時間感覚と全く違っていて、不思議な感じでした。もっと長い時間体験してみたかったです(上演時間は1時間弱でした)。
説明にある「日本国憲法と自殺問題を観客自身が当事者として体験する試み」という風には感じませんでしたが、ささやき声にも満たない声から、朗々とした歌声まで、言葉ではなく、声そのものの存在感を強く感じさせてくれました。
いわゆる「演劇」とは全く異なる作品ですが、音楽的を聴くように鑑賞すると楽しめると思います。
『自殺対策基本法』も観に行こうと思います。
牡丹江非恋歌
ウンプテンプ・カンパニー
d-倉庫(東京都)
2010/11/11 (木) ~ 2010/11/16 (火)公演終了
満足度★★★
古典的雰囲気の作品
脚本をはじめ、演出、照明、衣装など総合的に丁寧に作られた、文学的な作品で、戦争時の思惑の交錯の中に人間の弱さと強さが描かれていました。
満州国があった頃の、ある船の中が舞台で、現実的な話で始まり、次第にオンディーヌの物語に接続され、幻想的な雰囲気になり、悲劇的な結幕を迎えますが、その後に和やかな雰囲気のエピローグが続き、重くなり過ぎないようになっていました。
独白やト書き(役者が自身が読み上げます)、レトリカルな言い回しを多用する文体がシェイクスピアを思わせました。
神田晋一郎さんのピアノ演奏は叙情的で、時折入るアヴァンギャルドなパッセージが良いアクセントになっていて美しかったです。
女優の皆さんの歌もなかなか上手でした。
バランス良く仕上がっていたのですが、話のテンポが緩やかで、演技も今一つ突き抜けたものを感じることが出来ませんでした。キャストもスタッフも実力のある方々だと思いますので、この劇団ならではの個性を打ち出して欲しいと思いました。
【公演終了!ご声援ありがとうございました!】マウンテンみるく、波打つ
市ヶ谷アウトレットスクウェア
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2010/11/12 (金) ~ 2010/11/14 (日)公演終了
満足度★
学芸会
女子高生が神様とバレーボールで対決という物語で、ハチャメチャなコメディを期待していたのですが、設定が飛んでいるだけで、物語や演出は凡庸だった(漫画やゲーム、テレビ的でした)ので全然笑えず、たった70分の作品なのにとても長く感じてしまいました。
学芸会レベルの台詞回しや動きは笑いを狙ってわざとそうしていたのだと思いますが、台詞も聞き取りにくく、本当に下手なだけに見えてしまっていました。「敢えてやってます」感をもっと出して欲しかったです。
舞台後方の左右の可動式の壁にそれぞれ1文字ずつ投影して片側だけ文字を変えて違う単語にしたり、へんとつくりに分解したりしていたのは面白い趣向でしたが、単語の連結から新鮮なイメージが拡がるようなこともなく、単なる言葉遊びに終わっていて残念でした。
あと、舞台上のプロジェクターの台を箱で囲って美術として見せていたのは、芝居に全然絡まないので、ただ邪魔なオブジェにしか見えませんでした。天井が低いので天井吊りが出来なかったのでしょうけど、裏や袖から打つとか、プロジェクターでなくディスプレイを使うなど方法があったと思います。