土反の観てきた!クチコミ一覧

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『出合頭』DEAIGASHIRA

『出合頭』DEAIGASHIRA

イデビアン・クルー

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2011/10/25 (火) ~ 2011/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★

祝・結成20 周年
今年で結成20年になるカンパニーの実力を見せつける、バラエティに富んだ作品でした。

舞台奥に赤いベルベットのカーテンが吊され、黒のリノリウムの床の上に大きな白いステージが設置された空間の中で、冒頭から無音で動きも少ないシーンが長く続き、作風を変えて実験的な感じの作品なのかと思っていたら、音楽が鳴り始まるといつも通りの緩急織り混ぜたダンスがノンストップで60分間続き、気持良い躍動感に引き込まれました。

最近のイデビアン作品で特徴的な、各ダンサーにキャラクターを与える演劇的手法が今回は控え目で、キャラクターの関係性から生じるドラマ性ではなく、ダンス自体を強く打ち出していました。特定のキャラクターが割り振られていなくても佇まいや動きに各ダンサーの個性が強く出ていて面白かったです。
様々なジャンルの音楽を用いるのもこのカンパニーの魅力ですが、今回はバッハの大曲、『ゴルトベルク変奏曲』丸々1曲のみを使用するという、大胆な構成でした。各変奏の雰囲気に合った振付が良かったです。特にテンポの早い変奏で全員がバラバラに踊ったり、またはユニゾンで踊るシーンはとてもダイナミックで爽快感がありました。

各自バラバラの稽古着風の衣装にイデビアンのロゴがプリント(刺繍?)されてあって、チャーミングでした。トレーニング音響や照明も遊び心があって楽しめました。

狼少年ニ星屑ヲ 総動員数773人!

狼少年ニ星屑ヲ 総動員数773人!

おぼんろ

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2011/10/19 (水) ~ 2011/10/31 (月)公演終了

満足度★★★

嘘による悲劇
特殊な風習が存在する、ある村を舞台にした善意の嘘から引き起こされる悲劇的な話ですが、ただ悲しいだけではなくて希望を感じさせる内容で、観劇後に温かい気分になる作品でした。

段ボールやビニール傘などチープな素材で作られた美術やすすけた色合いの衣装も大人の為のビターな童話といった趣きの世界観にとてもマッチしていて効果的でした。ヨーロピアントラッドを中心にした音楽も
雰囲気にあっていました。

5人の役者達の表情豊かな熱い演技が魅力的でした。台詞まわしも安定していて聞き取りやすく、良かったです。複数の役を演じたり、現在と子供時代が行ったり来たりするのですが、それがちょっとした道具やメイクによって解り易く演出されていました。

客席を含めた劇場全体を縦横無尽に走り回ったり、作業を手伝わせたりして客を作品世界に巻き込む、人懐っこい作風がとてもユニークで、個人的には好みのタイプの物語ではありませんでしたが、次第に引き込まれていきました。
チケットの価格が自己申告制で決められるシステムも作品に体する自信と観客への信頼があってこそ出来ることで、興味深い試みだと思いました。

TAO

TAO

TBS

赤坂ACTシアター(東京都)

2011/10/21 (金) ~ 2011/10/24 (月)公演終了

満足度★★★★

完成度の高いエンターテインメント
20人弱のパフォーマーが和太鼓の演奏を中心に、笛や三味線、筝を演奏したり、踊ったり、コントみたいなシーンもあったりと客を飽きさせない構成が巧みなエンターテインメントショーでした。アンプを通してリバーブのかかった音で奏でられる西洋音楽の要素が強い音楽は和楽器ならではの味わいを薄めていましたが、古典邦楽に馴染みのない人に親しみ易く、和楽器を聞くきっかけになると思いました。

ショーアップされた一糸乱れぬ動きでの太鼓の演奏はもちろん良かったのですが、和太鼓グループにありがちな男っぽい力強さや気合いだけでなく、ユーモアや女性的な美しさも表現されていたのが良かったです。特に団扇太鼓を卓球のラケットに見立て、音でボールのやりとりをしている様に見せるシーンはミュージシャンならではパントマイムで面白かったです。後半のステージ冒頭で太鼓の2人の息が合わまくてなかなか演奏が始められず、やっと始まるかと思いきや他の人が始めてしまうというコント仕立てのシーンも子供達に受けていて、家族連れの客でも楽しめる内容でした。
水墨画的な書き割りの舞台美術も美しく、大きさの異なるステージを組み合わせて、様々な立体的な空間を作り出しているのも良かったです。

演奏テクニックもレベルが高く、曲調もいわゆる和太鼓的なものから4つ打ちテクノやサンバもありバラエティに富んでいましたが、単純な曲が多いのが残念に感じました。せっかくテクニックがあるので、1曲くらいはポリリズムなどを駆使した少し難しい感じの曲があっても良いと思いました。

おねしょ沼の終わらない温かさについて

おねしょ沼の終わらない温かさについて

鳥公園

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2011/10/19 (水) ~ 2011/10/24 (月)公演終了

満足度★★

社会からはぐれた女達
難民をテーマにしているとのことでしたが、政治的な意味ではなく精神的な意味での難民を描いていて、具体的な設定がなく、物語としてもクライマックスのない、不思議な質感の作品でした。

下手部分が三角形に背丈程の高くなっていて、上手には沼を表すビニールプールが設置された舞台で、都会から逃げ出して沼のほとりに住む女達の恋愛、セックス、結婚、出産などについての会話が綴られ、朗らかな雰囲気の中に閉塞感が感じられました。

表現されている内容はシリアスな様にも感じられたのですが、コントみたいな場面や、児童劇みたい場面など、敢えておちゃらけた雰囲気にしているシーンが多く、どう解釈するべきか戸惑い、独特な世界観に入り込めませんでした。こういうタイプの作品だと分かる人だけが分かるネタを入れてスノッブな感じになりがちですが、そういう感じでもなく、先鋭的な現代演劇のモードを参照しつつオリジナルな言葉、演出で作品を作ろうとする作・演出家の姿勢が興味深かったのですが、いまいち伝わってくるものがありませんでした。

平成23年秋季雅楽演奏会

平成23年秋季雅楽演奏会

宮内庁式部職楽部

宮内庁楽部(東京都)

2011/10/21 (金) ~ 2011/10/23 (日)公演終了

満足度★★★

左舞と右舞
毎年皇居にて行われている雅楽の演奏会に初めて当選して観に行きました。器楽による「管絃」だけでなく、舞の付く「舞楽」も演奏され、「左舞」と「右舞」の違いを楽しみました。

『裏頭楽』
中国系の左舞で、橙色の装束と形の特徴的な帽子を被った4人による舞われ、緩やかな動きが美しかったです。片足を上げるポーズが印象的でした。同じ動きの繰り返しで永遠に続くような感じが心地良かったです。舞人の入退場の際の退吹での演奏が混沌としていて印象に残りました

『長保楽』
朝鮮系の右舞、鶯色の装束に冠の姿で舞い、斜めの軸を強調したポーズや、足を上げた後に踵だけ付ける動きが印象的でした。ちょっとユーモラスなポーズもあり、そのままコンテンポラリーダンスの作品に使われても良さそうに思いました。笙の入らない編成での演奏でリズムが際立ち、空間を揺るがす様な強烈な太鼓の音が凄かったです。

雅楽は千年以上も前の芸能で静かなイメージを持ちがちですが、生で見聞きするとワイルドな要素もかなりあり、エキサイティングでした。

足立智美コンサート『ぬぉ』

足立智美コンサート『ぬぉ』

東京文化発信プロジェクト室

東京都中央卸売市場足立市場(東京都)

2011/10/22 (土) ~ 2011/10/22 (土)公演終了

満足度★★★

場所を活かしたパフォーマンス
都内で唯一の水産物専門の中央卸売市場である足立市場の様々な場所を使った、70人近くの演奏家による音楽パフォーマンスでした。具体的な物語があるわけではないのですが、特殊な場所の文脈や空間を巧みに取り入れた作品で、ただの音楽作品ではなく、演劇的要素の強い作品でした。

チューバを中心とした10人ほどの低音楽器奏者達は演奏場所の屋根の色である青の服、その他の楽器奏者は建物の鉄骨の赤の服、合唱団は魚を運ぶターレットトラックの黄の服を着て3つのグループに分かれ、離れた場所で同時多発的に起こるイベントを観客は歩き回って見聞きするスタイルでした。
最初は合唱団は屋上で歌い、器楽隊は離れの建物の廊下の様なスペースで演奏し、次第に広い駐車スペースに移動して音楽的にもテンションが高くなり、クライマックスでは本物の競り人が登場し、競りの時の様に鐘を手に持ち楽器名を呼び挙げて即興のソロを指名して演奏させていました。楽器として車も使われていて、ワイパーや窓ガラス、ラジオが楽譜の指示によって演奏されていて、60分に及ぶパフォーマンスの最後は3台の車のクラクションで締め括られました。
合唱団が駐車スペースの周りを振りを付けながら歩き、その中でターレットトラックが合唱メンバー3人を乗せて走り回るシーンや、トロンボーン奏者3人が市場の入り口からメインの演奏スペースまで200m程の距離を演奏しながらゆっくり歩いて来るシーンが印象的でした。
空間が広すぎて音響的に散漫になってしまったのと、集団即興演奏にありがちなカオスの状態に陥りがちだったのが残念でした。

今年のF/Tは野外劇を目玉として打ち出していますが、それに劣らない場所の活かし方を見せた作品だったと思います。客は地元の人や出演者の知り合いが多いみたいで、演劇ファンはあまりいない様で、勿体なく思いました。
ちなみに終演後に千寿葱と鮪のスープ「ねぎま鍋」が振る舞われ、とても美味しかったです。

遊園地再生事業団『トータル・リビング 1986-2011』

遊園地再生事業団『トータル・リビング 1986-2011』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2011/10/14 (金) ~ 2011/10/24 (月)公演終了

満足度★★★

欠落と忘却
欠落と忘却を繰り返す人間の姿が、声高なメッセージとしてではなく、普通の人々の日常の言葉として描かれ、シリアスなテーマを扱いながらも飄々とした脱力的な笑いもあり、浮遊感のある不思議な雰囲気のある作品でした。2回の10分休憩を含めて計150分と長めの作品でしたが、各パートの長さが丁度良くて、あまり座り心地が良いとは言えない椅子での鑑賞でも疲れを感じませんでした。

奥に手摺壁があり、両脇に高い壁がそびえ立つ間に、真っ白な空間に椅子やテーブル、日常的な小物が配置され、舞台奥上空には何も描かれていない巨大な屋上看板という、ビルの屋上をミニマルに模した空間の中で、3.11を経験した2011年と、バブルで浮足立ち、チェルノブイリ原発事故やアイドルの飛び降り自殺があった1986年が交錯する物語でした。「忘却の灯台守」と「欠落の女」いう名の謎めいた2人の同じ会話が何度も繰り返され、25年間経っても変わらない、人の忘れっぽさが描かれていました。日常的な物と言葉で構成された最後のシーンは、そのレイアウトの仕方が良くて、とても美しかったです。
場面が変わっても変化しないシンプルなセットや、現在のシーンの次に過去を再現するシーンが続く構成などから能の作品を連想しました。

スタンドにセットされていたり、役者が持ち歩く複数のビデオカメラによって撮られるリアルタイムの映像が真っ白な看板に映し出され、目の前の舞台で演じている姿よりむしろ映像の中の姿にリアリティが感じられて、メディアに侵食された現代について考えさせれられました。役者がカメラを持つことによって、舞台を収録した映像では見られないような、登場人物の視点でのフレーミングが可能になり、それを活かしたちょっとユーモラスなアングルの画作りがされていたのが印象に残りました。

Kと真夜中のほとりで

Kと真夜中のほとりで

マームとジプシー

こまばアゴラ劇場(東京都)

2011/10/14 (金) ~ 2011/10/24 (月)公演終了

満足度★★★

期待し過ぎたかも…
『芸劇eyes番外編 20年安泰。』で短編『帰りの合図、』を観て台詞と動きの新鮮な表現方法に興味を持ち、初めて本公演を観ました。使っている手法は同じでしたが、かなり雰囲気の異なる作品でした。

3年前に失踪したKちゃんの周囲の人達の、ある日の真夜中の数時間における短いエピソードを繰り返し、入れ替え、重ねることで描き、深夜独特の寂寥感のある雰囲気が立ち上がっていました。それぞれのエピソードを直線的に通して演じるとおそらく15分程度で収まりそうな内容を反復、増幅して、様々なイメージの響き合う時間となっていました。

向かい合ったり、一列に並んだり、四角形になるように立った役者達が位置を入れ換えて同じシーンを繰り返し、色々な角度からやりとりを見せる手法が全編に渡って使われていて、興味深い表現になっていたのですが、2時間ずっとそれがあまり代わり映えもなく続くのはくどさを感じました。激しく動き回りながら台詞を言うので、息が上がったり声がうわずったりしていて、さらに音楽の音量が大きめのため、台詞が聞き苦しかったです。感情から身体表現を生み出すのではなく、逆に身体表現から感情を生み出すアプローチを狙ったのだと思いますが、ドラマとしては盛り上がっているわけではないのに、疲労している体から声を振り絞ろうとする役者達だけが感極まっている様な状況になっていて、感情の流れに付いて行けず置いてけぼりをくらったような印象を受けました。
全員で単語を斉唱したり、「…なぁ~」と嘆きのニュアンスを付けた語尾など、子供時代を思い返させる様な演出が多く用いられ、ノスタルジックな雰囲気を喚起していましたが、これもくどさを感じました。
今回は内容より手法だけが目立ってしまい、鼻につくいやらしさを感じてしまいました。人数や時間をもっとコンパクトにして、もう少し観たいと思う腹八分目なところで終わる方が良いと思いました。

役者では、ヒップホップ的なリズム感に富んだ台詞回しと動きの尾野島慎太朗さんがとても印象に残りました。他の男性陣は台詞間回しが生っぽ過ぎると思いました。女性陣は憂いを含んだ佇まいが素敵でしたが、先述のように声や感情のコントロールが不安定だった(意図的なものかもしれませんが)のが残念でした。

チケットや当日パンフレットから、衣装や照明までビジュアルセンスの良さが感じられ、エレクトロニカを中心とした選曲も洒落ていて素敵でした。今回は好みの世界観ではなかったのですが、独特の手法と雰囲気に魅力があり、次回作も観てみたいと思いました。

Lock'n'Roll

Lock'n'Roll

大川興業

ザ・スズナリ(東京都)

2011/10/14 (金) ~ 2011/10/16 (日)公演終了

満足度★★★

真っ暗闇
大川興業というと芸人のイメージしかなく、興味がなかったのですが、2時間ずっと真っ暗の舞台の中で役者が普通に演技するという「暗闇演劇」(登録商標とのことです)という独特のスタイルに惹かれて、公演を観て来ました。

身体を一切動かすことが出来ず、自分の意思を他人に伝えることが出来ない「閉じ込め症候群」の状況を暗闇に重ね合わせ、情報が伝わらないもどかしさを笑いを交えて描いてました。事故で意思を伝えられない体になってしまった、ちょっと行き過ぎた自殺防止活動をしていた男が、病院にやって来る人達の会話にツッコミを入れるのを基本にして、教育やニートなど社会的トピックも織り込んだ物語の内容・構成はあまり興味を引くものではなかったのですが、視覚情報が無いために聴覚が研ぎ澄まされ、声や物音が鮮明に伝わって来る感覚が新鮮で良かったです。
役者達は台詞を言うだけでなく実際に動いて演技をしているので、朗読劇とも異なる空気の流れが感じられました。見えないことによって逆に舞台上で何が行われているのか想像が膨らむ効果があり、楽しめました。

冒頭の、何重にも吊られた紗幕に投影された幾何学的な映像に不思議な立体感があって引き込まれましたが、映像を用いることに必然性が感じられず、残念に思いました。

維新派『風景画―東京・池袋』

維新派『風景画―東京・池袋』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

西武池袋本店 4階まつりの広場(東京都)

2011/10/07 (金) ~ 2011/10/16 (日)公演終了

満足度★★

都市の風景
維新派を観るのは今回が初めてだったのですが、写真で見たことあるのものより小ぢんまりした印象でした。

男女とも白の半袖シャツと黒の半ズボンで揃えた24人の役者達がフォーメーションを変えながら行う身体表現と奇数拍子のリズムに乗せた台詞を駆使した作品でしたが、ユニゾンでの動きが不揃いで緊張感がない反復が続き、退屈さを感じることが度々ありました。ダンス作品のようなダイナミックなユニゾンにする必要はないと思いますが、もう少し全体的に精度を高めて欲しいと思いました。
ところどころに面白い表現があったのですが、それが作品全体としての強度に繋がっていなかったのが残念でした。

池袋の真ん中という面白いロケーションなのですが、周りの賑やかさから隔離されたような空間で、線路に対してしか開かれていない場所だったので、期待していた程には都市の中での野外劇という特殊性が現れていなかったように思います。通行人や他のビルから見ることが可能な場所であれば、役者を見る観客、観客を見る人々、という入れ子構造が生まれて面白くなると思いました。
舞台奥にずらっと並べられた東京のビルの木製ミニチュアもそのような環境であれば「都市の中の都市」としてもっと効果的に感じられたと思います。

音楽で使われていた音色が本物のストリングスやピアノのものではなく、シンセサイザーの音だったのが安っぽく感じました。スモークや照明効果の多用も逆に役者の存在感を弱めていたと思います。

赤色エレジー

赤色エレジー

オフィスコットーネ

ザ・スズナリ(東京都)

2011/10/08 (土) ~ 2011/10/12 (水)公演終了

満足度★★★

反転しながら反復
昭和時代の男女2人の生活を様々な手法を用いて幻想的に描いた作品でした。原作の漫画および、あがた森魚さんの曲も見聞きしたことがないので、どの程度舞台化に際して変わったのかは分かりませんが、どんどん世界が引っくり返って行くような展開が楽しかったです。

基本的には一郎を演じる寺十吾さんと幸子を演じる緒川たまきさんの2人芝居で、そこに石丸だいこさんが演じる幸子の分身的な存在が時折現れたり、あがた森魚さんがギターを抱えて歌いながら舞台に現れる構成でした。2人が言い合いになるシーンが何度もあり、片側の言い分が正しく見えていたのが、同じやりとりが再度繰り返されるときには小道具の処理によって正誤が逆転する演出が面白かったです。

膨大でしかも繰り返しが多くてややこしい台詞を相手に2人とも奮闘していたとは思いますが、寺十さんのミスが目立ったのが残念でした。キャラクターとしてはうだつが上がらない男の感じが良く出ていて良かったです。緒川さんは様々な声色を使い分け、可愛らしさの中にうっすら狂気を感じさせて魅力的でした。最近エキセントリックな役が続いているので異なるタイプの役も見てみたいです。

あがたさんの歌は味があってとても良かったのですが、舞台の進行にあまり絡んでいなくて唐突に感じました。チラシには書いていなかったのですが、5人編成のタンゴバンドも演奏し、迫力があってよかったです。前半はあまり出番がないのに舞台上に座っているのは観客としても演奏者としてもメリットが無い様に思いました。

しりとりになって延々と繋がる台詞や、手品みたいな瞬時の転換、映像に写し出されるシルエットと同期して動く役者など、天野天街さんならではの手法が沢山使われていましたが、それが物語から浮いていてまとまりがなく、間延びした印象になっていたのが残念でした。終演後に緒川さんと少し話したのですが、稽古時間が少なくて独特なメソッドを体得するのに苦労したとのことでした。もっと時間をかけて作れば手法や形式と内容が合致した統一感のある作品になったと思います。

 『Zoo Zoo Scene (ずうずうしい)』

『Zoo Zoo Scene (ずうずうしい)』

急な坂スタジオ

横浜市立野毛山動物園(神奈川県)

2011/10/08 (土) ~ 2011/10/10 (月)公演終了

満足度★★★

人間と動物
野毛山動物園の中の広場での野外公演で、子供や動物の声が響く中で、動物園のイベントでありがちな可愛く楽しいものでなはく、シリアスなパフォーマンスが繰り広げられました。

空高く投げて落ちてきたソーセージを奪い合う3人のシーンに続いて「こうして僕達は動物を奪い合って来たのです」との台詞があり、次にお互いが頭に被っているビニール袋を払い落とし、「見ないの?」と詰問するシーン、袋を奪い取って「何が入っているの?」と訪ねるシーンが続き、食べ物としてパッケージングされた動物と人間の関係がダンス的ではない暴力的な動きを通して描かれていました。次にシューベルトの『アヴェ・マリア』が流れる中を柔らかな動きで踊ったて平穏な雰囲気になり、ペットの犬とのエピソードが各ダンサーや録音で多重的に語られ、最後はシャボン玉を吹いて希望を感じさせる終わり方でした。
劇場では凝縮されたエネルギーとして感じられるであろう表現が屋外空間だと拡散した印象になっていたのが、少々残念でした。

抽象的な表現でありながら人間と動物の関係を考えさせるメッセージが比較的分かり易く表現されていて、アフタートークでも解説があったりと、普段コンテンポラリーなパフォーマンスを観ない人にもコンタクトしようとする姿勢が印象に残りました。

MI♪CHIKU♪SA

MI♪CHIKU♪SA

イデビアン・クルー

国立新美術館(東京都)

2011/10/09 (日) ~ 2011/10/09 (日)公演終了

満足度★★★

和やかな30 分間
震災の影響で中止になった、3月の『六本木アートナイト』内の企画の復活公演で、タイトル通り道草をしている様なのどかな雰囲気が漂っていました。

そろばんを持って現れた斉藤美音子さんはそれをどうすることもなく床に置き、アコーディオンをケースから取り出し、知久寿焼さんと一緒に演奏するのかと思いきや弾き真似をするだけと、人をはぐらかすかの様に始まり、1曲ごとに歌詞に合わせたダンスが踊られました。激しい動きや強い感情を表すような動きはなく、ポーカーフェイスで踊り、たまに流れを崩す様なユーモラスな動きが入るのが昼下がりの時間帯に自然光に照らされるというシチュエーションにマッチしていたと思います。

一見ユルい感じのダンスでしたが、繊細に身体をコントロールしていて、静止している姿も動いている姿も美しかったです。
知久さんの個性的な歌声とちょっとシュールな歌詞も良かったです。

現代能『春と修羅』

現代能『春と修羅』

錬肉工房

明治学院大学白金校舎 アートホール(東京都)

2011/10/08 (土) ~ 2011/10/08 (土)公演終了

満足度★★★

女達によって語られる宮沢賢治
『春と修羅』を中心にした宮沢賢治のテキストの断片を能の様式を用いて語り、静かで緊張感のある作品でした。

暗闇の中で7人の役者達が『かしわばやしの夜』の一節にある「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン」の「ぽ」の音を断続的に発音し、次第に前後の文字が増えてきて文章になるという実験的なシークエンスから始まり、『春と修羅』の序文の一節やエッセイ、童話が能ならではのゆったりと発声と動きで読みあげられました。「ドドドド…」と言いながら床を踏み鳴らすクライマックスを経て、また『春と修羅』の一節が語られ終わり、真っ暗で静寂な時間が印象的でした。

黒い床と奥の壁で照明も薄暗く、動きの少ない役者達だけが浮き出て見えるような幻想的な雰囲気が美しかったです。能装束の雰囲気を残しながらもモダンな感じの衣装も素敵でした。

望月京さんが担当した音楽は聞き覚えのある響きがあったので、おそらく書き下ろしではなく、過去に発表したアンサンブルやオーケストラの曲を使っていたと思います。新鮮な響きがたくさんあって音楽単体としては面白かったのですが、フルオーケストラの音楽はこのような静かな作品には大仰過ぎると思いました。また『春と修羅』の序文のシーンで流れるピアノ主体の曲(たぶんこの曲は望月さんの作品ではありません)は叙情的過ぎて緊張感を途切れさせている様に感じました。

能の様式を現代的に解釈した演出は面白かったのですが、全員で同じ台詞を言うシーンなどはもっと精度が良くなると思いました。来年、赤坂REDシアターでの完全版の公演では更に洗練された作品になっていること期待しています。

少年探偵団

少年探偵団

ネルケプランニング

青山円形劇場(東京都)

2011/10/05 (水) ~ 2011/10/16 (日)公演終了

満足度★★★

人形とカセットテープ
出演者は全員男性で、円形劇場を有効に使ったレトロな雰囲気のある作品でした。
地の文的な台詞があったり、異なる場所でのシーンをストップモーションを使って同じ場所で演じたりと、趣向を凝らした演出が面白かったです。人形とカセットテープを物語中で出てくるシーンだけで出すのではなく、作品全体に対して関わる演出要素として使っていたのが洒落ていました。

ちょっとおぞましい人形のデザインが江戸川乱歩の怪奇的な雰囲気を出していて良かったです。細いスチールパイプで作られた2階建てのコンパクトなセットが立体的な空間性を生み出し、階段や2階を歩くときの足音がサスペンス感を醸し出していて効果的でした。

少年探偵団のメンバーを演じた若手6人は小学生という設定もあり、あまり難しい感情表現が要求されず、素直な演技でした。演技での見せ場はベテランの2人が担い、舞台を締めていました。

パンフレットの類は有料のものしかなく、公式サイトを見ても脚本と演出以外のスタッフの名前がクレジットされていなくて、美術や音響を担当した人が分からず、残念です。全ての客が役者だけを目当てに観に来ているわけではないので、紙ペラ1枚か公演のチラシでも良いので配役とスタッフが分かるものを配って欲しく思いました。

その手に余る仔の名を呼んで

その手に余る仔の名を呼んで

ユニット「みずのわ」

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2011/10/04 (火) ~ 2011/10/06 (木)公演終了

満足度★★

演目を変更して2 人芝居
本来はユニット「みずのわ」の立ち上げ公演として書き下ろしの新作を上演する予定だったのが脚本が完成しなかったため、『ふたりぼっちの会』と題して2人の役者による朗読劇と芝居の2本立ての公演に変更になっていました。

『風が吹くとき』(レイモンド・ブリッグズ)
核戦争が始まった時代にイギリスの田舎で生活する1組の老夫婦を描いたグラフィック・ノベルを朗読劇として上演しました。時折流れる爆弾への注意を呼び掛けるラジオ放送に対して呑気な会話を続ける夫婦が最初はユーモラスに見えるのですが、放射線に被曝して次第に体に異常を来たし出しても放射線のせいだとは分からず、普通に生きようとする姿が切なかったです。
役者2人が時間の経過を示すジングルをチャイムで演奏していたのが可愛らしかったです。

『ジョンとジョー』(アゴタ・クリストフ)
パリのとあるカフェを舞台に、貧乏な男2人がお金の貸し借りを巡って珍妙なやりとりを展開する、落語でも似たような話がありそうなコメディ作品でした。
いかにも海外モノな文体に少々違和感を覚えました。わざと翻訳劇調に演出したのならもっとオーバーに演じて欲しかったです。もしそのような意図でないのなら、台詞をもう少し自然な言い回しに置き換えた方が思いました。
会場のカフェのオーナーが給仕役としてちょこっと出演していましたが、無愛想な感じがユーモラスで良かったです。

演目変更で時間もあまりなかったとは思いますが、2人とももっと良い演技を見せてくれそうな片鱗は感じさせるのに魅力を出しきれていないように感じられ、勿体なく思いました。

ローエングリン

ローエングリン

公益財団法人日本舞台芸術振興会

NHKホール(東京都)

2011/09/25 (日) ~ 2011/10/02 (日)公演終了

満足度★★★★

謎のラスト
ワーグナーの名作を少し設定を変えた演出で上演し、最近ヨーロッパで良くある様なセンセーショナルで元の物語からかけ離れた演出になることもなく、適度に現代的で軽やかな雰囲気に仕上がっていました。

背後に大きな橋がある以外はほとんど何もない舞台の真ん中に開演前から製図板の前に人が座っていて、前奏曲に合わせて2階建ての家の設計図を描き、その後は時間の進行に従って実際にその家を建てて行くという、エルザの幸福度を表象した様な演出がダイナミックでした。幸せに結ばれたかに見えたエルザとローエングリンが別れざるを得なくなったとき、家に火が点けられるという分かりやすい演出でした。
有名な第3幕への前奏曲が流れる時には家の前に花で文字を作る作業がダンスっぽい動きで行われて、この公演で唯一のユーモラスなシーンになっていました。その後に続く結婚式のシーンも素朴で暖かみがあり、のちに訪れる別れとの対比が強く打ち出されていました。
ローエングリンが自分の正体を明かす最終場では家が撤去され、沢山の小さなステージがまるで墓のように整然と並べられ、恐ろしさを感じさせつつも美しかったです。最後は舞台上空のスクリーンにピストルの絵が写し出され、100人近くの合唱の人たちが自分の顔にピストルを向けて暗転という後味の悪いもので、そこまでは比較的ポップな雰囲気で展開していたのに最後に急変して、どう解釈するべきなのか悩む終わり方でした。

セットや照明の演出はカラフルで効果的でしたが、演技に関しての演出は比較的オーソドックスで、メインキャストも合唱も動かず立ちっぱなしのことが多く、演劇的観点からは面白味に欠けました。

演奏は流石世界最高レベルの歌手・指揮者・オーケストラ・合唱で繊細なピアニッシモから圧倒的なフォルティシモまで美しい響きを堪能しました。タイトルロールを演じたヨハン・ボータさんは力士の様な体格で神聖な騎士には見えないのが残念でしたが、力強く輝く声が素晴らしかったです。オルトルートを演じたワルトラウト・マイヤーさん魔性の女っぷりが凄かったです。

しながわアーティスト展 2011

しながわアーティスト展 2011

品川文化振興事業団

メイプルカルチャーセンター(東京都)

2011/10/01 (土) ~ 2011/10/02 (日)公演終了

満足度

子供向けイベント
改装する前のカルチャーセンターを自由に使って展示とパフォーマンスが行われ、子供向けの色合いが強い、手作り感溢れるイベントでした。

時間の都合上、栩秋太洋さんのダンスは観ることが出来ず、古舘奈津子さんのダンスだけ観ました。
古舘さんの作品は『ユニフォーム』というタイトルで、その名の通り施設のユニフォームを着て踊るものでした。お茶を入れた湯飲みを持ちながら体の揺れを次第に大きくして行くシーン、窓から身を乗り出したり壁の開口部を行き来したりと空間との関係性を見せるシーン、クラシックバレエの感情表現的な様々なポーズを繰り返すシーンからなる10分ちょっとの小品で、最近の古館さんのアンチダンス的な作風を継ぐものでした。キャッチーな要素がない辛口の作品は、たくさんいた小さな子供の興味は引けなかった様で走り回ったり騒いだりしていましたが、それはそれで面白い状況でした。

ダンス作品や先進的な演劇作品に音響で数多く携わっている牛川紀政さんは、建物内の別の場所の音をリアルタイムで流すインスタレーションを展示していました。
青年団周辺の公演で毎回印象的な美術を手掛けている杉山至さんは流木と画材と工具をたくさん並べて、絵を描いたりオブジェを作るワークショップを開催していて、いつものキレのある美術を観ることが出来ず残念でした。
栩秋さんは参加型のちょっとシュールなインスタレーションも出展していました。

東野祥子『そこへたどりつくために』

東野祥子『そこへたどりつくために』

Dance Company BABY-Q

横浜関内ホール(神奈川県)

2011/09/30 (金) ~ 2011/10/01 (土)公演終了

満足度★★

不穏な空気
間口より奥行きの方が長い空間の中で、ダンスと映像と音楽が衝突し、観客に媚ることのないハードな雰囲気の作品でした。

ロシア風の帽子、赤いコート、ハイヒールの東野さんが舞台奥の木の幹のような複数の布のオブジェの間を行ったり来たりするところから始まり、コートや靴を脱ぎ捨て、舞台前面に出てきて激しく踊ったりのたうち回ったりし音楽も激しくなって行きました。音楽が中断し明かりも明るくなる中、東野さんが何かを訴え掛ける様に客席を凝視したのち、壁や床に幾何学的なパターンが投影される中を踊り、最後は客席に向かって招く様な仕草を繰り返しながらゆっくりと暗い舞台奥へと消えて行って終わりました。

東野さんの壊れたロボットのような無機的な色気が魅力的でした。今回は踊り切らず、8割ぐらいの力で踊っているように見えました。もっと踊りまくって欲しかったです。
伊東篤宏さんと鈴木學さんによる生演奏は電子的なノイズが大音量で鳴り響き、迫力がありました。伊東さんの演奏する、蛍光灯を改造した創作楽器オプトロンは演奏に際して光るので、映像と干渉しているときがあったのが残念でした。
映像はクラブで流れる様なフッテージのコラージュや東野さんのシルエットが溶け出す様に見えるパターン投影など、色々な手法を用いて面白かったです。特に光の3原色を高速で入れ換えることによって静止していたりゆっくり動いているときは普通の色に見えるのに、早く動くと青・緑・赤の残像が見える効果が良かったです。
それぞれの要素は良かったのですが作品としての統一感が弱く、ぼやけた感じになっていたと思います。

家電のように解り合えない

家電のように解り合えない

あうるすぽっと

あうるすぽっと(東京都)

2011/09/24 (土) ~ 2011/10/02 (日)公演終了

満足度★★★★

潔い
「解り合えない」ことをそのまま舞台に乗せた作品で、よく分からない表現がそのままテーマに繋がっていて、ある意味とても解りやすい内容でした。いつもの岡田さん作品と同様に文法的には破綻しているけどリアルなダラダラと続く台詞と、誇張して反復される日常のノイズ的な動きが印象的でしたが、他の作品より控え目ですっきりとした感じがありました。

バックヤードまで露にした素舞台の上に、ありふれたプラスチック製品を組み合わせて家電を模したオブジェが並び、詩人が掃除機や洗濯機について詩(とはいっても全然詩らしくない脱力的な味わいの文章でした)を読むのと、森山さんも同じ家電をテーマにしたダンスを踊るのが平行的に同時進行して、解り合えない様が描かれていました。
始まってからだいぶ時間が経って初めて森山さんと女性2人の会話があり、女性2人に森山さんが振り付けるシーンになるのですが、森山さんと2人の身体能力の差が如実に現れていてユーモラスでした。
終盤では作品に対しての自己言及的な台詞があり、主客反転して舞台上での世界がそのまま現実世界に接続される様な展開がスリリングでした。

『ボレロ』をリミックスした曲と『春の祭典』で森山さん長時間踊りまくる姿が堪能出来て良かったです。ベジャール版の動きが一瞬だけ引用されていて笑えました。青柳さん、安藤さんの2人もぶっきらぼうな話し方と間の空け方が絶妙でチャーミングでした。金氏さんの美術も今までの作風の上に、とぼけた感じのギミックが施されていて面白かったです。

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