満足度★★★
期待し過ぎたかも…
『芸劇eyes番外編 20年安泰。』で短編『帰りの合図、』を観て台詞と動きの新鮮な表現方法に興味を持ち、初めて本公演を観ました。使っている手法は同じでしたが、かなり雰囲気の異なる作品でした。
3年前に失踪したKちゃんの周囲の人達の、ある日の真夜中の数時間における短いエピソードを繰り返し、入れ替え、重ねることで描き、深夜独特の寂寥感のある雰囲気が立ち上がっていました。それぞれのエピソードを直線的に通して演じるとおそらく15分程度で収まりそうな内容を反復、増幅して、様々なイメージの響き合う時間となっていました。
向かい合ったり、一列に並んだり、四角形になるように立った役者達が位置を入れ換えて同じシーンを繰り返し、色々な角度からやりとりを見せる手法が全編に渡って使われていて、興味深い表現になっていたのですが、2時間ずっとそれがあまり代わり映えもなく続くのはくどさを感じました。激しく動き回りながら台詞を言うので、息が上がったり声がうわずったりしていて、さらに音楽の音量が大きめのため、台詞が聞き苦しかったです。感情から身体表現を生み出すのではなく、逆に身体表現から感情を生み出すアプローチを狙ったのだと思いますが、ドラマとしては盛り上がっているわけではないのに、疲労している体から声を振り絞ろうとする役者達だけが感極まっている様な状況になっていて、感情の流れに付いて行けず置いてけぼりをくらったような印象を受けました。
全員で単語を斉唱したり、「…なぁ~」と嘆きのニュアンスを付けた語尾など、子供時代を思い返させる様な演出が多く用いられ、ノスタルジックな雰囲気を喚起していましたが、これもくどさを感じました。
今回は内容より手法だけが目立ってしまい、鼻につくいやらしさを感じてしまいました。人数や時間をもっとコンパクトにして、もう少し観たいと思う腹八分目なところで終わる方が良いと思いました。
役者では、ヒップホップ的なリズム感に富んだ台詞回しと動きの尾野島慎太朗さんがとても印象に残りました。他の男性陣は台詞間回しが生っぽ過ぎると思いました。女性陣は憂いを含んだ佇まいが素敵でしたが、先述のように声や感情のコントロールが不安定だった(意図的なものかもしれませんが)のが残念でした。
チケットや当日パンフレットから、衣装や照明までビジュアルセンスの良さが感じられ、エレクトロニカを中心とした選曲も洒落ていて素敵でした。今回は好みの世界観ではなかったのですが、独特の手法と雰囲気に魅力があり、次回作も観てみたいと思いました。