土反の観てきた!クチコミ一覧

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Once in a Blue Moon

Once in a Blue Moon

Voice Project

カメリアホール(東京都)

2013/05/21 (火) ~ 2013/05/22 (水)公演終了

満足度★★

切れの良いダンス
ジャズダンス系のダンサーによる公演で、小難しいをこと考えずに、音楽に合わせて身体を躍動させる楽しみが伝わって来ました。

基本的に1曲毎に作品として完結していて、前半6作品、後半7作品ありました。
前半初めの3作品は真面目な雰囲気の作品でしたが、4番目は『踊る大捜査線』のパロディーで、衣装や小道具で笑わせようとする安っぽい受け狙いが残念でした。
後半1番目はマイケル・ジャクソンの曲を用いていて、振付もMJを意識した鋭角的なもので迫力がありました。
3番目はインド映画の大勢でのダンスシーンを思わせる作品で、他の作品が感情を表現する叙情的な振付だった中で、叙事的な振付が異彩を放っていました。
白シャツ・黒パンツ・眼鏡の揃いの格好で椅子に座って踊った5番目の作品は、音楽の雰囲気も含めて、オハッド・ナハリンさんの代表作である『アナフェイズ』に似ていて、オリジナリティーが感じられませんでした。

全体的に音楽が表現する情感に乗っかり過ぎている用に思われ、振付も客席に向かって心情を訴えかけるようなものが多くて、自身を格好良く見せようとするナルシシズムを少々感じましたが、動き自体はダイナミックで切れが良く、また作品毎に衣装も着替えていたので、視覚的に楽しかったです。
物語や感情を感じさせずに、純粋にムーブメントやフォーメーションを見せるアブストラクトなタイプの作品も入れると、良いアクセントになると思いました。

メメント・モリ

メメント・モリ

ウンプテンプ・カンパニー

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2013/05/16 (木) ~ 2013/05/27 (月)公演終了

満足度★★

異端の存在
世間から疎外される少女の短い人生を、ピアノの生演奏や歌を盛り込んだ音楽劇の形で描いた、独特の雰囲気がある作品でした。

南米のある貴族の娘が犬に咬まれてから様子が変になり、修道院に預けられ、悪魔が憑いたと彼女を忌避したり、逆に彼女に破滅的に惹かれて行ったりと、周りの人々を惑わす物語で、文学的な重厚感とおどろおどろしさが、レトロな雰囲気を醸し出していました。

異端の存在を巡る物語は現代に通じる所もあって惹かれるものがありましたが、演出や演技の方向性がまとまっていなくて、求心力に欠けると思いました。
前半ではコミカルな表現や歌が多く用いられていましたが、作品の雰囲気に合っていなくてチグハグさを感じ、コミカルな要素無しの方が魅力的になると思いました。
演技のスタイルも、大仰な台詞回しが板についている人とそうでない人のギャップがあり、まとまりが感じられませんでした。1人だけ男性の役を女性が演じていたのも、意図が分かりませんでした。
最初と最後の合唱で物語の寓話性を強調していましたが、物語の重さに比べてあっけらかんとした響きで、違和感を覚えました。
2時間を越える作品なので、長くなり過ぎないように配慮した結果なのかもしれませんが、台詞の間が短くて、もう少し溜めが欲しい場面が何度もありました。

衣装のクオリティーが高く、雰囲気を高めていました。中央に置かれたテーブルとそれをくるむ布の使い方が見事でした。
プリペアドピアノ(あるいは内部奏法)を用いた不穏な響きが印象的でした。

あばずれな母親と禁欲的な修道女の両方を演じた中川安奈さんの演じ分けが素晴らしかったです。

SPIEL/シュピール・遊戯

SPIEL/シュピール・遊戯

笠井叡

アサヒ・アートスクエア(東京都)

2013/05/17 (金) ~ 2013/05/19 (日)公演終了

満足度★★★★

愛のある、アナーキーなダンス論
日本人男性の笠井叡さんと、フランス人女性のエマニュエル・ユインさんという対照的なダンサー2人のデュオで、どこまで構成されていてるのか分からない、やりたい放題に見えるパフォーマンスの中に、ユーモアと愛のあるダンス論が表現されていて、心を動かされました。

ステージ奥に5脚の椅子が置かれていて、その手前で全身黒尽くめの衣装を着た2人がお互いの動きを模倣することから始まり、日本語、フランス語、ドイツ語、英語でダンスや愛についてユーモラスに語りながら踊り、ニジンスキーの『牧神の午後』や歌舞伎の『三番叟』(と言いつつ実は『助六』)の引用があり、最後は揃いのワンピースに着替えてユニゾンで踊る構成でした。

進行に従って服を脱いで行き、笠井さんはパンツすらギリギリ迄でずりおろしていましたが、変な嫌らしさは感じられず、肉体の存在感を見せていました。
客席にいる笠井さんの知人をいじったり、舞台に引っ張り出して踊らせたりと即興的な要素で笑いを誘っていましたが、それがその場限りの受け狙いで終わらずに、作品全体を通して訴えかけるものとリンクしているように感じられました。

クラシック音楽とノイズをエディットした音楽が素晴らしく、歪んだような音響処理が施された『牧神の午後への前奏曲』が不思議な雰囲気を生み出していて印象的でした。

ダンス系の公演には珍しい程の熱狂的なカーテンコールが続き、拍手の中をさらに踊り続ける姿が美しかったです。

鴉よ、おれたちは弾丸をこめる

鴉よ、おれたちは弾丸をこめる

さいたまゴールド・シアター

彩の国さいたま芸術劇場・NINAGAWA STUDIO(大稽古場)(埼玉県)

2013/05/16 (木) ~ 2013/05/19 (日)公演終了

満足度★★★

エネルギー溢れる老婆達
老婆達が法廷を占拠するという過激な物語を、熱さとユーモア、少しの諦念を持って描いていて、役者達のエネルギーに圧倒されました。

真っ暗な空間の床に格子状に整然と並べられた水槽の中にうずくまる役者達がモノローグ的な台詞を繋げて語る静謐なシーンから一転して、法廷のセットへ一気に切り替わるという、蜷川さんらしい手法が盛り込まれた序盤に続き、アナーキーで個性豊かな老婆達が裁判官や弁護士を現状に対して何もしていないと次々に断罪していくシーンが展開し、心に切実な思いを秘めつつ奔放な振る舞う老婆達の姿が爽快でした。
最後には自分の孫ですら殺してしまう物語にギリシャ悲劇の様な厳かさを感じました。クライマックスで一斉射撃を受ける時に若返った姿になる場面で、ネクスト・シアターのメンバーと入れ替わるのがとても鮮やかで印象に残りました。

体制側の人間を演じた男性陣が(おそらく)演技ではなく実際に台詞が出て来なかったり呂律が回ってなかったりする度に女性陣から「聞こえない」、「はっきり喋れ」と野次られているのが物語的にもマッチしていて、この劇団ならでは強い表現になっていました。
詩的な台詞や当時の左翼運動的な回りくどい言い回しの台詞が多く、物語としては捉え切れない部分もありましたが、体を張ったパワフルな演技に引き込まれました。

ぼくの国、パパの国

ぼくの国、パパの国

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/05/17 (金) ~ 2013/05/19 (日)公演終了

満足度★★

紅茶と煙草
イギリスでフイッシュ&チップスの店を営んで暮らすパキスタン人の父、イギリス人の母、その間の6人(+登場しない1人)の子供達が国籍や宗教にまつわるアイデンティティーに悩む姿を描いた作品で、あまり馴染みのない文化の話ですが分かり易い物語で、下ネタやドタバタの笑いの中にシリアスな要素が垣間見えるのが興味深かったです。

前半では、イスラムの文化を高圧的に押し付ける父と、それに反発しながらも面と向かっては何も出来ない子供達がコミカルに描かれていました。
父親が勝手に決めた婚約相手の父親が訪問してくる終盤のシーンで、イギリスに移住してもイスラム的価値観に固執する両父親に対して母親とその友人が宗教ネタを用いて皮肉的に攻める様子が爽快でした。
様々なシーンで紅茶と煙草を飲んでいたのが印象的でした。

序盤の騒がしい展開と、ぎこちなさが感じられる演技の為に、物語の世界に入り込み難くく、台詞の言い方や間の取り方のピントが少し合っていなくて、もっと笑えそうな場面でも空回り感があったのが残念でした。
全員20代の出演者が子供から50代までの役を演じるのは演劇の醍醐味ではありますが、少々力不足に感じられました。

床面にイギリス的アイコンがポップに描かれた回り舞台と周りの緑色の床面の鮮やかな対比は印象的でしたが、転換の際に流れを滞らせていて、せっかくの機構を活用出来てないように思いました。
衣装やセットに70年代の感じが出ていて(リアルタイムでは経験していませんが)、良かったです。

シュナイダー

シュナイダー

青年団若手自主企画 マキタ企画

アトリエ春風舎(東京都)

2013/05/15 (水) ~ 2013/05/19 (日)公演終了

満足度★★★

死と償い
オーソドックスなストレートプレイの形式を用いて、人間の負の部分を猟奇的なエピソードでショッキングに描いた作品で、底知れない気味の悪さが印象に残りました。

自殺の名所の森の近くにある小さな喫茶店に出入りする人達の、お互いに罪を犯し、償う歪んだ関係を描いた物語で、全てを明示せず、前後に何があったかを観客に想像させる構成が特徴的でした。
前半で描かれる敵対関係がある出来事をきっかけに解消し、暖かな雰囲気で終わると思わせておいて、急展開する終盤が壮絶でした(心臓の弱い人は覚悟しておいた方が良いです)。
単純に憎むのではなく、相手に対して優しい顔を見せるのが却って怖さを引き立てていました。

春風舎の公演ではあまり見掛けないタイプの、リアルに作り込んだセットの中で、リアリズムの演出で演じていながらも、どこか非現実感が漂っていたのが興味深かったです。

嫌な感じでありながら、憎めない可愛らしさもある女を演じた齋藤晴香さんが魅力的で、酔っている演技もリアルで良かったです。
逆説的な台詞を語る男を演じた寺井義貴さんの不気味さもインパクトがありました。

アジア温泉

アジア温泉

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2013/05/10 (金) ~ 2013/05/26 (日)公演終了

満足度★★★★

アジア的雰囲気×シェイクスピア的物語
ある島の土地の所有権を巡るいざこざをきっかけにを起こる物語を、歌や演奏や踊りをが多く盛り込んだ祝祭的な演出で描いた作品で、意外性や斬新さはないものの、引き込まれる魅力がありました。

祖父がその島の出身である兄弟が、温泉が出るということで土地を買収しにやって来るものの、他所者扱いされる中、弟がその島の長老の娘と恋に落ち、悲しい末路を辿り、その島特有の儀式が行われるというストーリーで、在日韓国人のこと想起させつつも、それだけにとどまらない、普遍性のある、家族や掟について考えさせられる内容でした。
コミカルな1幕とは対照的に、2幕はまるでシェイクスピアの悲劇作品を思わせる展開と台詞でした。

跳躍や省略のない分かり易いベタな脚本・演出で、ギャグに関しては少々くどさを感じましたが、全体的には土着的雰囲気の賑やかさがありながら、すっきりとしたモダンなセンスも感じられ、このようなタイプの作品でありがちな必要以上にガチャガチャ騒ぐ感じが無かったのが良かったです。
舞台と客席の間に段差がなく、役者達は最初から最後まで舞台上にいて、出番ではない時は舞台の両脇にあるベンチに座っていて、楽器や着替える衣装も全て舞台上に配置してあるというスタイルで、一体感のある親密な雰囲気がありました。
終盤までは役者主体で舞台美術的な要素は動きがないので、ラストの儀式のシーンでの劇場空間の高さ・奥行を活用した演出が際立っていて、幻想的な美しさと高揚感が強く印象に残りました。

あかいくらやみ~天狗党幻譚~

あかいくらやみ~天狗党幻譚~

阿佐ヶ谷スパイダース

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2013/05/05 (日) ~ 2013/05/26 (日)公演終了

満足度★★★

多層的で幻想的な時代劇
原作未読で、天狗党についても全く知識がなかったため、多少取っ付き難さを感じましたが、単なる時代劇ではなく、いくつもの時代が折り重なった怪奇的で幻想的な雰囲気の中で報復の連鎖の虚しさを描いていて印象的でした。

戦争の音~玉音放送~ジャズと時代を駆け抜ける様なコラージュ音響の後に、第二次世界大戦直後の時代設定で若い男女が山奥の宿に辿り着くところから始まり、幕末時代の人々の亡霊が当時、あるいはさらに若かった時代を再現し、時系列がシャッフルされる中、次第に登場人物達の呪われた関係が明らかになって行き、ラストでは舞台上で描かれていることが現代まで続いていると感じさせる物語で、シリアスなメッセージを抑制されたトーンで訴えていました。

中央が円形の回り舞台になっている真っ黒な舞台で、具象的なセットがないので、異なる時代の格好をした人が並んでいても、意外と違和感がありませんでした。黒い空間に赤い衣装や旗が並ぶ絵柄が美しかったです。
天井にあった美術は時折赤く照らされていましたが、どのような意味があるのか分からず、ビジュアル的にも効果が感じられず勿体なく思いました。

暗い雰囲気が強かったせいか、所々にあったユーモラスなシーンであまり笑いが起こらず少々空回り感がありましたが、くどくないので白けた感じにはならなかったのが良かったです。

白石加代子さんの迫力のある台詞が舞台を引き締めていて、素晴らしかったです。いくつもの役を演じた原田夏希さんは声の表情が硬くて、役柄の実直な性格は伝わって来ましたが、周りと溶け込んでいない様に感じました。

杮葺落五月大歌舞伎

杮葺落五月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2013/05/03 (金) ~ 2013/05/29 (水)公演終了

満足度★★★

第二部鑑賞
杮落とし公演ということでベテランの有名どころが多く出演していて、見応えがありました。

『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ) 御殿、床下』
抜粋なので物語としては中途半端に終わった印象でした。
坂田藤十郎さんが演じる政岡が子供の死を嘆くシーンが、悲痛な感情が伝わって来て良かったです。
松本幸四郎さんと中村吉右衛門さんの兄弟の演技バトルが見られると期待していたのですが、直接の絡みがなかったのが残念でした。

『廓文章(くるわぶんしょう) 吉田屋』
ストーリーは他愛のないものでしたが、各役者の演技が充実していて、楽しめました。
片岡仁左衛門さんの演じる若旦那の表情や動きがとてもコミカルで愛らしく、魅力的でした。坂東玉三郎さんは後半になってからの登場でしたが、場の空気を一瞬で変えるような存在感がありました。流麗な動きが美しかったです。

劇場の構造的な問題だと思うので、すぐには直せないとは思いますが、太鼓や附けといったアタックが強い音に対して変なエコーが掛かってしまっていて、気になりました。

パリ×ダンス

パリ×ダンス

KARAS

東京国際フォーラム ホールC(東京都)

2013/05/05 (日) ~ 2013/05/05 (日)公演終了

満足度★★★

静謐な時間
ラ・フォル・ジュルネ恒例の、クラシック音楽の演奏と勅使川原三郎さんのダンスのコラボレーションで、去年に引き続きアカペラ合唱との共演でした。

グレゴリオ聖歌と、それをベースに作曲された、デュリュフレとプーランクの曲が交互に歌われる構成で、合唱団のメンバーがそれぞれグレゴリオ聖歌の1フレーズを歌いながらステージに登場する印象的な冒頭からノンストップで45分程度の心地良い緊張感のあるパフォーマンスが続きました。

ダンスは勅使川原さんと佐東利穂子さんのソロとデュオが中心で、時折カンパニーメンバーの3人が現れるという、いつものパターンで、構成にマンネリ感を覚えましたが、流れるようなムーブメントの美しさはやはり魅力的でした。
最後のメシアンの曲では、独特の色彩感があるハーモニーと、浮遊感のあるダンスが組み合わさって、恍惚的な永遠性が感じられました。

床面を四角や直線状に照らす照明の精度がいつもに比べて低かったのが残念でした。

マクベス

マクベス

東京二期会

東京文化会館 大ホール(東京都)

2013/05/01 (水) ~ 2013/05/04 (土)公演終了

満足度★★★★★

魔女達の喜劇
通常の解釈と異なる奇抜なことをしつつも、分かり易く説得力があるというコンヴィチュニーさんらしさがはっきりと打ち出された演出で、エンターテインメント性と社会に対するメッセージ性のバランスが良く楽しめました。

悲劇の物語にも関わらずヴェルディが作曲した音楽は妙に軽やかだったり和やかだったりするのに合わせて、皮肉的・喜劇的な面を強調しつつ、物語中で描かれる男性優位の権力闘争が現代でも止むことなく続いていることについて考えさせる演出でした。

幕が開くとカラフルな現代的な格好をした魔女達の集まるキッチンで、そこに現代の軍服とベレー帽を身に付けたマクベス達が現れて始まり、スロープ状になった巨大な回り舞台を用いながら物語としては原作通りに展開しました。

開演前から最後まで舞台手前の下手に、死者が出るたびに「正」の字記が書き加えられる黒板が置かれていたり、元々のト書きでは出て来ない場面にも頻繁に現れる魔女達はいかにも作り物な着け鼻をしていて、血は赤い手袋や紙吹雪で表現されたりと、意図的にチープでコミカルな表現を多用して、権力を巡って争う男達を嘲笑うかの様でした。
魔女が様々な動物を材料に釜でスープを作る場面では、材料がパソコンや銃、放射性廃棄物等に置き換えれていたり、歴代の王の幻影が現れるシーンでは、先代の王を次の王が殺すシークエンスをシルエットで演じたりと、ブラックジョークが効いていました。

シェイクスピアの原作にはなくヴェルディが書き足した、混乱の続く虐げられた祖国の状況を嘆く合唱のシーンでは、それまでのコミカルさが皆無で、客電の灯った客席を直立不動で凝視しながら歌い、現在でも戦乱が続いていることをシリアスに描いていて強く印象に残りました。
普通なら、マクベスが倒された後に勇ましい大団円の合唱で終わるのですが、クライマックスの途中でオーケストラと合唱が演奏を止めて、セットが冒頭の魔女のキッチンに替わり、ラジカセから流れる録音を魔女達が聴いているシーンで終わるという大胆でシニカルな演出となっていて、壮大なエンディングを期待するオペラファンを挑発する態度がとても衝撃的でした。

走りながらや、宙吊りの状態や、高い脚立の上で歌ったりと歌手にとっては過酷な演出でしたが、歌がおろそかにならずしっかりとした歌唱で、聴き応えがありました。荒々しさを感じさせるマクベス夫人を演じた板波利加さんと、気弱なマクベスを演じた小森輝彦さんの対比が良かったです。
オーケストラもまとまりのあるドライブ感がある演奏で、気持ち良かったです。

ヴォイツェック

ヴォイツェック

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2013/05/01 (水) ~ 2013/05/05 (日)公演終了

満足度★★★

椅子だけで表現
韓国にフィジカルシアターの公演で、椅子だけを用いて様々なシーンを表現する手法がエネルギッシュで印象的でした。

『ヴォイツェック』は先鋭的かつ陰鬱な演出で上演されることの多い戯曲ですが、このカンパニーのヴァージョンは意外とエンターテインメント的な面が強く、社会とヴォイツェックの関係よりも、ヴォイツェックと妻の関係に焦点を当てていている様に感じました。

椅子だけで小道具やセットを表現し、物語上で重要な意味を持つイヤリングやナイフも小物として用いないで展開してましたが、身体表現が的確で、動作だけで何を持っているのかがはっきり分かりました。
数秒の暗転毎に椅子や役者の配置が変化しているのが鮮やかで魅力的でした。ユニゾンのムーヴメントや台詞のタイミングが揃っていて技術の高さを感じました。
ミニマルな道具立ての演出のわりには、椅子を他の物に見立てるという、舞台ならではのマジカルな味わいが期待していた程には感じられず、直接的な表現が多かったのが残念に思いました。冒頭のバラバラになる椅子のような隠喩に富んだ演出をもっと見せて欲しかったです。

台詞は韓国語の他に英語と日本語で話されていて、ポストパフォーマンストークでの演出家の話によると身体表現を見てもらいたいので、キーになる台詞は字幕を見なくて良いように、上演する国の言葉で話すことにしているとこのことで、一理あると思いましたが、片言気味に話される為にあまり感情が伝わって来ないデメリットもあって、諸刃の剣に感じられました。

甲高い声を出したり、バタバタと動き回ったりする、稚気を強調した表現は悪い意味で安っぽく感じ、好みの表現ではありませんでした。

Les Girafes(レ ジラフ)

Les Girafes(レ ジラフ)

森ビル株式会社

六本木ヒルズ内各所(東京都)

2013/04/26 (金) ~ 2013/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★

サーカス+オペラのメロドラマ
大規模な屋外パフォーマンスを行うフランスのカンパニーの初来日公演で、道路を封鎖して人で溢れ返った祝祭的な雰囲気で次第に日が沈んで行く中、不倫モノのメロドラマが大掛かりに演じられるというミスマッチ感が楽しかったです。

不細工な見掛けの男が白いコートを着た女に何度もアプローチして遂に結ばれ、愛の偉大さを語る(このシーンは日本語で話していました)ものの、他の女に誘惑され一緒に寝ている所を目撃されて修羅場になり、2番目の女は逃げ、男は反省の念から自害し、それを見て1番目の女も自害する、という物語でした。

サーカスの手法を用いながらオペラを上演するような感じの作品で、大きな仕掛けもほとんどが人力によって動かされていたのが印象的でした。2人で操作する巨大な赤いキリンの人形9体が道路を歩き回り、3人の役者も背の高い台に乗ったまま演じたり歌ったりしていて、迫力がありました。

観客がキリンや台車の近くまで寄れる様にしていて、場所を移動する際にホイッスルや拡声器の声がけたたましく鳴らされるのが高揚感を高めていました。
服を脱いだり、下半身をまさぐったりと、公道上で行うパフォーマンスにしては性描写が露骨で、フランスのお国柄を感じました。
美術だけでなく、誘導員や装置の操作をする人達が着ていた警察の制服風の衣装も赤で統一されていて洒落ていました。キリンのシルエットが、ケヤキ通りの奥に見える東京タワーと相似していて美しかったです。

レミング ~世界の涯までつれてって~

レミング ~世界の涯までつれてって~

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2013/04/21 (日) ~ 2013/05/16 (木)公演終了

満足度★★★

無彩色のドライな質感
寺山修司の作品ですが、妖しさや熱さや猥雑さといった、いわゆるアングラ的なテイストが希薄で、ドライなノスタルジーが印象的な舞台でした。

太郎と次郎(劇中では言及されませんが同一人物の様でした)が住むアパートの隣の住戸との壁がなくなるところから始まり、いつの間にか映画の撮影中や夢の中という設定になっていたりして、何が現実で何が虚構か分からなくなる様な幻想的な物語でした。

有名な芸能人が出演する商業系の劇場の公演であっても、松本雄吉さんはいつもの維新派のスタイルを前面に押し出していて、迎合して分かり易くしない姿勢が気持良かったです(但し、独特の演出に乗れずに寝てしまっている客も多くいましたが)。
同じ格好をした人達が直線や格子状に並んで立ち、5拍子や7拍子のビートに乗せて台詞を喋り、機械的な動きを反復する、「ヂャンヂャン☆オペラ」の様式が幻想的でありながらも整然とした、独特な雰囲気を醸し出していました。

メインキャスト4人の内の男性3人はコミカルな役割を多く担っていて、意外と笑える所が多い作品になっていました。特に、不思議な設定のキャラクターを演じた松重豊さんの怪演が楽しかったです。
常盤貴子さんは立ち振る舞いは美しかったものの、台詞回しが硬くて作品の世界観に溶け込んでいないよう感じました。

Decadence

Decadence

森ビル株式会社

六本木ヒルズアリーナ、66プラザ(東京都)

2013/04/27 (土) ~ 2013/04/29 (月)公演終了

満足度★★

毒のないパフォーマンス
ロシアのストリートパフォーマンスの劇団の初来日公演で、ブラックな表現のない、子供でも楽しめる和やかで可愛い作風でした。

全身オフホワイトの衣装に身を包み、少々不気味な仮面を着けた集団がステージから遠く離れた3階からゆっくり階段を降りていき、観客にちょっかいを出しつつ客席をぐるっと回ってステージに登場し、他愛のないやりとりがユーモラスに行われ、観客をステージに引っ張り出しダンスを踊ったり、楽器の弾き真似をさせたりと客いじりを多く用いて客席との親密感を生み出していました。

台詞はほとんどなく、ゴニョゴニョと話す台詞も多分ちゃんとした言葉ではなく、体の動きで感情や関係を表現していて、身体のコントロールが素晴らしかったです。日本の劇団にない不思議な雰囲気は魅力的でしたが、特に目を引くような技や演出がなくてインパクトに欠けると思いました。

パフォーマンス自体は期待していたよりも内容が薄くて残念でしたが、シャボン玉や紙飛行機を飛ばすと子供達が一斉にステージに駆けて行くのが可愛らしく、ストリートパフォーマンスならではの光景で印象に残りました。

エンゲキ555号公演『W氏の帰れない夜』

エンゲキ555号公演『W氏の帰れない夜』

エンゲキ555号

小劇場 楽園(東京都)

2013/04/23 (火) ~ 2013/04/29 (月)公演終了

満足度★★★

極小空間で宇宙SF
狭い空間を椅子と少しの小道具だけで宇宙空間に感じさせる、巧みというか強引な設定で描く物語で、笑いの中に道徳的なメッセージが込められていて、ただ楽しいだけではない作品となっていました。

ユーモラスな開演前のアナウンスから自然に主人公が観客に語りかけるモノローグに移行し、そのまま一気に舞台が宇宙へと飛ぶ導入部に続いて、ドタバタなコント的シーンの中で戦争や命について考えさせられ、後半は演劇ならではの見立てを用いたファンタスティックなシーンに展開し、意外と胸を打つ内容でした。

大声での馬鹿馬鹿しいやりとりや唐突に始まるダンスは好みではありせんでしたが、客席の存在を物語に上手く取り込んだ、狭い会場に合った内容になっていて良かったです。
小松原貴士さんのボトルネック奏法を用いたブルージーなギターの生演奏が効果的でした。

主役を演じた森一弥さんは普段は芸人をしているとのことですが、声の使い方や間の取り方が良くて魅力的でした。
男性陣に対して女性陣の演技が薄っぺらく感じられたのが残念でした。

ブルーノ・シュルツ『マネキン 人形論』

ブルーノ・シュルツ『マネキン 人形論』

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2013/04/25 (木) ~ 2013/04/28 (日)公演終了

満足度★★★

政治的なマネキン人形論
ポーランドの劇団による3人芝居で、独特の湿っぽく暗くてグロテスクな雰囲気が印象的でした。

原作を読んでいないので、どこからが脚色なのか分かりませんが、マネキン人形/物質/生命といった話題から次第に20世紀前半の戦争や独裁者達についての話になって行き、全体主義による人間のマネキン化という不気味なイメージが喚起されました。
赤や黄色に変色されて奥の壁に映し出された、ブニュエル、チャップリン、エイゼンシュタインの映画が、物質/生命と、政治の2つのテーマを繋ぎ合わせていて興味深かったです。

ガラクタを寄せ集めたかのような美術やアコーディオンで奏でられる寂しげな音楽、全体的に暗い照明がカビ臭さを感じるような古びた雰囲気を醸し出していて、逆に新鮮でした。
「人間を演じるマネキン」を役者が演じる体裁となっていて、人形的なギクシャクとした動きで演じていたのですが、それがユーモラスに見えず、むしろ怖さを増していました。

海外の前衛的な劇団の公演が字幕もありながら1000円で観られて、素晴らしい企画だと思います。字幕のオペレーションがかなり乱れていたのが残念でした。

根っこ

根っこ

地人会新社

赤坂RED/THEATER(東京都)

2013/04/04 (木) ~ 2013/04/28 (日)公演終了

満足度★★★★

蛙の子は蛙
ドラマティックな照明やBGMを用いずに役者の演技力だけで引っ張っていくオーソドックスな演出による家族劇で、特に派手な展開がなくても魅力的なやりとりに引き込まれました。

イギリスの田舎町からロンドンに出て社会主義者の男性と恋仲になり進歩的な思想にかぶれた女性ビーティーが家族に恋人を紹介するために帰省し、身近な狭い世界しか見ようとしない家族達の態度に憤慨し、恋人からの受け売りの言葉を捲し立てるものの、実は自身も家族と同類であることを痛感し、それを踏まえた上で先へ行こうとする物語で、ビーティの苛々感と家族のげんなりとした雰囲気の対比がユーモラスに描かれていて、暖かみがありました。

主人公のビーティは理屈っぽい話題を喋り続け、演じ方によっては嫌なキャラクターになりそうですが、占部房子さんのボーイッシュな雰囲気によってチャーミングに感じられました。
ビーティの母を演じた渡辺えりさんが、いかにも田舎のお母さんといった感じで、コミカルな中に素朴な優しさが感じられました。

屏風の様に折り畳める壁は新聞が一面に貼られていて、その上に20世紀以降の大事件の新聞の見出しが大きくカラフルに書かれていて、この作品で描かれていることが特定の時代・国のことではないことを示す意図があったのだと思いますが、わざわざそこまでしなくても演技からそのメッセージが十分伝わっていると思いました。

大きなトランクの中の箱

大きなトランクの中の箱

庭劇団ペニノ

森下スタジオBスタジオ(東京都)

2013/04/12 (金) ~ 2013/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★

強烈な悪夢的世界観
凝ったディテールの美術を用いて受験生の性的オブセッションを奇妙且つ滑稽に描いた作品で、強烈な表現に圧倒されました。

父親を恐れつつ尊敬する感情がペニスに対してのオブセッションとなり、悪夢の様なイメージが展開していく物語で、ユーモアのあるシュールな変態性が際立っていました。
アトリエはこぶねで上演された3作品を1つに再構成したとのことで、3つのパートに分かれているのはなんとなく分かりましたが、様々なモチーフに関係性を持たせていて、継ぎ接ぎ感を感じさせませんでした。
女性との関係を想像させる、いわゆる「エロい」表現が皆無で、男性器にまつわるものばかりだったのが主人公の閉じた世界を象徴していてが印象的でした。

小物からセットまで、まるで美術作品の様な作り込みがされていて、素晴らしかったです。回り舞台には見えない作りになっていて、中盤で明るい中で舞台が回されるまでは、どのような仕組みになっているのかが分からず、まるで魔法のようでした。

舞台のBGMとして頻繁に用いられるクラシックの有名曲が、ただ情緒を演出するためだけに使われているのではなく、作品の構造や美術と関連していて、強い説得力がありました。
セットにスピーカーが組み込まれているので、音を出しながら舞台が回転すると独特の音響効果があり不思議な感覚が強調されていました。

穴

ケイタケイ

スタジオ・ムービングアース(東京都)

2013/04/20 (土) ~ 2013/04/21 (日)公演終了

満足度

祈りのダンス
カンパニーのメンバーがそれぞれ作ったソロ作品を、出演の順番はあらかじめ決めずにその場の雰囲気でステージに出て来て踊る形式で発表する公演でした。
多くの作品が静かに祈るようなテイストで、また短いシークエンスを繰り返すのみで展開に乏しいものが多かったので、頻繁に眠気を感じました。

11人が出演していましたが、出演順が不定だったので名前が分かりませんでした。

前半1番目
重心を不安定にした舞踏的な動きとエレクトリックジャズの組み合わせが新鮮でした。

2番目
鐘の音が鳴り響く中をゆっくり動き続けるだけで、展開がないので単調に感じられました。

3番目
嵐に向かって進む姿をストレートに描いた作品で、自分に酔っている感じが好みではありませんでした。

4番目
待機中のメンバーが波の音を出す楽器を鳴らす中、腕をクロスして祈るような動きが続き、単調に感じました。

5番目
頭を床につけて地面に祈るような動き、途中からアフリカ音楽が流れるものの動きにはあまり変化が感じられませんでした。

6番目
様々な感情の叫びを手前に座った2人がエコーのように繰り返したり、紙飛行機が投げ入れられたりと、他とは異質な作風でした。

後半1番目
精密にコントロールされた動きやフォルムがとても美しく、全体の構成としてもまとまりがあり、今回の公演の中で唯一ダンス作品としての完成度に達していると思いました。

2番目
風にそよぐような動きが繰り返され、終盤に異なる動きが現れるものの発展しないのが残念でした。

3番目
ゆっくりさまよい、途中から体に虫が着いたような仕草を繰り返しまた元の動きに戻っていく構成で、動きに魅力が感じられませんでした。

4番目
童謡的な音楽が流れる中を何かを探す様に歩き回り、ダンス的な動きはあまりありませんでした。

5番目
手前から奥に床をゆっくり転がる後に他のメンバーが紙風船を置いて行き、幻想的で美しかったものの、ダンスとしては単調に感じました。

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