満足度★★★
多層的で幻想的な時代劇
原作未読で、天狗党についても全く知識がなかったため、多少取っ付き難さを感じましたが、単なる時代劇ではなく、いくつもの時代が折り重なった怪奇的で幻想的な雰囲気の中で報復の連鎖の虚しさを描いていて印象的でした。
戦争の音~玉音放送~ジャズと時代を駆け抜ける様なコラージュ音響の後に、第二次世界大戦直後の時代設定で若い男女が山奥の宿に辿り着くところから始まり、幕末時代の人々の亡霊が当時、あるいはさらに若かった時代を再現し、時系列がシャッフルされる中、次第に登場人物達の呪われた関係が明らかになって行き、ラストでは舞台上で描かれていることが現代まで続いていると感じさせる物語で、シリアスなメッセージを抑制されたトーンで訴えていました。
中央が円形の回り舞台になっている真っ黒な舞台で、具象的なセットがないので、異なる時代の格好をした人が並んでいても、意外と違和感がありませんでした。黒い空間に赤い衣装や旗が並ぶ絵柄が美しかったです。
天井にあった美術は時折赤く照らされていましたが、どのような意味があるのか分からず、ビジュアル的にも効果が感じられず勿体なく思いました。
暗い雰囲気が強かったせいか、所々にあったユーモラスなシーンであまり笑いが起こらず少々空回り感がありましたが、くどくないので白けた感じにはならなかったのが良かったです。
白石加代子さんの迫力のある台詞が舞台を引き締めていて、素晴らしかったです。いくつもの役を演じた原田夏希さんは声の表情が硬くて、役柄の実直な性格は伝わって来ましたが、周りと溶け込んでいない様に感じました。