満足度★★★★
蛙の子は蛙
ドラマティックな照明やBGMを用いずに役者の演技力だけで引っ張っていくオーソドックスな演出による家族劇で、特に派手な展開がなくても魅力的なやりとりに引き込まれました。
イギリスの田舎町からロンドンに出て社会主義者の男性と恋仲になり進歩的な思想にかぶれた女性ビーティーが家族に恋人を紹介するために帰省し、身近な狭い世界しか見ようとしない家族達の態度に憤慨し、恋人からの受け売りの言葉を捲し立てるものの、実は自身も家族と同類であることを痛感し、それを踏まえた上で先へ行こうとする物語で、ビーティの苛々感と家族のげんなりとした雰囲気の対比がユーモラスに描かれていて、暖かみがありました。
主人公のビーティは理屈っぽい話題を喋り続け、演じ方によっては嫌なキャラクターになりそうですが、占部房子さんのボーイッシュな雰囲気によってチャーミングに感じられました。
ビーティの母を演じた渡辺えりさんが、いかにも田舎のお母さんといった感じで、コミカルな中に素朴な優しさが感じられました。
屏風の様に折り畳める壁は新聞が一面に貼られていて、その上に20世紀以降の大事件の新聞の見出しが大きくカラフルに書かれていて、この作品で描かれていることが特定の時代・国のことではないことを示す意図があったのだと思いますが、わざわざそこまでしなくても演技からそのメッセージが十分伝わっていると思いました。