マクベス 公演情報 東京二期会「マクベス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    魔女達の喜劇
    通常の解釈と異なる奇抜なことをしつつも、分かり易く説得力があるというコンヴィチュニーさんらしさがはっきりと打ち出された演出で、エンターテインメント性と社会に対するメッセージ性のバランスが良く楽しめました。

    悲劇の物語にも関わらずヴェルディが作曲した音楽は妙に軽やかだったり和やかだったりするのに合わせて、皮肉的・喜劇的な面を強調しつつ、物語中で描かれる男性優位の権力闘争が現代でも止むことなく続いていることについて考えさせる演出でした。

    幕が開くとカラフルな現代的な格好をした魔女達の集まるキッチンで、そこに現代の軍服とベレー帽を身に付けたマクベス達が現れて始まり、スロープ状になった巨大な回り舞台を用いながら物語としては原作通りに展開しました。

    開演前から最後まで舞台手前の下手に、死者が出るたびに「正」の字記が書き加えられる黒板が置かれていたり、元々のト書きでは出て来ない場面にも頻繁に現れる魔女達はいかにも作り物な着け鼻をしていて、血は赤い手袋や紙吹雪で表現されたりと、意図的にチープでコミカルな表現を多用して、権力を巡って争う男達を嘲笑うかの様でした。
    魔女が様々な動物を材料に釜でスープを作る場面では、材料がパソコンや銃、放射性廃棄物等に置き換えれていたり、歴代の王の幻影が現れるシーンでは、先代の王を次の王が殺すシークエンスをシルエットで演じたりと、ブラックジョークが効いていました。

    シェイクスピアの原作にはなくヴェルディが書き足した、混乱の続く虐げられた祖国の状況を嘆く合唱のシーンでは、それまでのコミカルさが皆無で、客電の灯った客席を直立不動で凝視しながら歌い、現在でも戦乱が続いていることをシリアスに描いていて強く印象に残りました。
    普通なら、マクベスが倒された後に勇ましい大団円の合唱で終わるのですが、クライマックスの途中でオーケストラと合唱が演奏を止めて、セットが冒頭の魔女のキッチンに替わり、ラジカセから流れる録音を魔女達が聴いているシーンで終わるという大胆でシニカルな演出となっていて、壮大なエンディングを期待するオペラファンを挑発する態度がとても衝撃的でした。

    走りながらや、宙吊りの状態や、高い脚立の上で歌ったりと歌手にとっては過酷な演出でしたが、歌がおろそかにならずしっかりとした歌唱で、聴き応えがありました。荒々しさを感じさせるマクベス夫人を演じた板波利加さんと、気弱なマクベスを演じた小森輝彦さんの対比が良かったです。
    オーケストラもまとまりのあるドライブ感がある演奏で、気持ち良かったです。

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    2013/05/04 12:30

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