Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

661-680件 / 728件中
木の上の軍隊

木の上の軍隊

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/05/11 (土) ~ 2019/05/19 (日)公演終了

満足度★★★

沖縄戦が終わってから2年間も木の上に隠れ続けたふたりの兵士。村人たちが島に帰ってきたのを知って、若い現地兵が「戦争は終わったんじゃないかな」というのに、上官は「こんなでかい敵軍の宿営地があって、終わったわけがないじゃないか」という。そのとき、ぱっと、今の沖縄の米軍基地のことが思い浮かんだ。そうか、米軍基地が沖縄に居座り続けて、日本の戦争はまだ終わっていないのだと。
芝居では若い兵士が「日本は戦争に負けたとうことですよ」と、続くのだが。

再再演で私も3回目の観劇。上官が出征前に駆け込み結婚した醜女の妻を、初夜に抱こうとしなかったら、妻から「私にも選ぶ権利があるわ」と逆肘を食う場面は今回も笑ってしまった。

WILD

WILD

東京グローブ座

東京グローブ座(東京都)

2019/04/28 (日) ~ 2019/05/25 (土)公演終了

満足度★★★★

スノーデンをモチーフにした社会派戯曲ということで見に行った。3人の登場人物の、いったりきたりの、わかりにくい会話が延々と続くので、「これ、社会派なの?」と、いい加減じれてくると、最後に意外な結末が待っている。ジャニーズのイケメン・中島裕翔目当ての若い女性客で客席はいっぱい。

米国の追及を逃れてロシアのホテルに隠れ住む主人公のもとに、謎の女が現れ、「仲間になれば支援する」と持ちかける。女がいなくなったかと思うと、別の男が現れてやはり「仲間になれ」と。謎の二人の正体は? 主人公の選択は? と思わせられるが、会話は堂々巡りやすれ違いで、ほとんど話は進まない。
ネットの監視や、権力の介入の話もほのめかされる程度で、具体的に新味のある話はでてこない。

この戯曲の社会派たる所以は、個々のセリフや(スノーデンが暴露した)政府による監視・検閲活動への批判にあるのではない。最後の最後になって、私たちの足元の大地がぐらりと揺らぐように、周囲の現実がすべて不確かであることが明らかになる。観客も今まで見てきたことが全て崩れるような不安とめまいに襲われる。セリフではなく「舞台」そのものを通じて、現代の情報化社会がいかに不確かで不安定であるかを体験させる。


改訂版「埒もなく汚れなく」

改訂版「埒もなく汚れなく」

オフィスコットーネ

シアター711(東京都)

2019/05/09 (木) ~ 2019/05/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

孤高の劇作家・大竹野正則の評伝劇。天才は寡黙で正体がつかめないところが、天才だ。それを支える妻は、凡人ゆえに、身勝手が天才に振り回される悲哀を免れない。西尾友樹、占部房子の主演のお二人がよかった。とくに、夫婦げんかの場面。占部さんの悲痛な叫びは胸に刺さった。

ネタバレBOX

去年からオフィスコットーネの大竹野の芝居をいくつか見たが、いずれも大変ユニークで、面白い。趣向が破格で、人間を深く探っている。
終演後のトークで聞いたが、大竹野は存命中、全く無名だったそうだ。平日は仕事があるから、芝居は週末三日間の5ステージくらい、動員数は150-300人だったそうだ。この戯曲の水準から見て、信じられない数字だ。それが死後、戯曲集が出版され、ぐんぐん評価を高め、東京でも上演され、評伝劇さえ作られた。

大竹野は寡黙で一人になりたがったが、なぜかいつも周りに人が集まってきて、彼を支えていたそうだ。突然の海での遭難後も、その延長で、遺された人たちが大竹野の芝居を世に広めた。現代の石川啄木、宮沢賢治ではないだろうか。
ハムレット

ハムレット

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2019/05/09 (木) ~ 2019/06/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

岡田将生のハムレットは、従来の憂鬱な悩めるハムレットではなく、活気あふれる行動的ハムレットであった。オフィーリアも、狂気にすごみがあった。回り舞台と、塔を配して高低差のある装置もすばらしい。オフィーリアとハムレットの衣装がどんどん変わっていくのも新鮮だった。その衣装はだんだん崩れていくもので、物語の進展をビジュアル化していた。有名な「生きるべきか、死ぬべきか」の独白場面を、塔の上で首を吊るかどうかという仕草で見せるなど、演出も見事だった。

王妃ガートルードは悪女なのか、事情を知らない罪のない女なのか、評価が分かれるところだが、今回は、罪のない浮気な女だった。それが無理がないように思う。

ノルウェーの王子フォーティンブラスの話は、最期以外カットされることが多いが、今回は冒頭と中盤でも出てくる。おかげで復讐のための軍拡という物語の背景がうかびあがり、そこに現代性を感じさせた。

休憩は別にして2時間半。通常の上演より短い。それでいて、カットを感じさせない。(でも、オフィーリアの死を報告するガートルードのセリフはカットされていると感じた。本来は凝った情景描写のある長いものだから。でも、カットしたほうがよかった。)上演台本もよくねられたもので、よかった。

名セリフをひとつ。「この世のタガが外れてしまった。それをただすために生まれてきたのだ。俺は」。故北条元一さんが論じたように、この「Time is out of joint. Set it right」(大要)に、この芝居の核心があると思った。そのためには、自分も含めた多くの犠牲が必要だったわけだが。

拳KEN ~土門拳とその弟子たち

拳KEN ~土門拳とその弟子たち

平石耕一事務所

シアターX(東京都)

2019/04/23 (火) ~ 2019/04/26 (金)公演終了

満足度★★★★

舞台の最前列に腰までの高さの黒い板(台幕?)をおき、人形劇のような出入りで俳優たちが動く、変わった演出だった。しかも音楽劇。いつもとは一味も二味も違う舞台経験だった。土門拳役の俳優・根岸光太郎は、平石耕一事務所の看板俳優で、今回も舞台の中心にどっしり構えて全体をよく引き締めていた。

ネタバレBOX

ラストの、死んだ親友が降らせてくれたかのように、室生寺に待ちに待った雪が降ってくる場面はぐっと来た。
ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」

ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」

アミューズ/フジテレビジョン/サンライズプロモーション東京

東急シアターオーブ(東京都)

2019/04/16 (火) ~ 2019/05/12 (日)公演終了

満足度★★★★

三浦春馬(とエンジェルス)の歌とダンスが抜群によい。小池徹平の歌も素晴らしく、とにかく日常を忘れてノリノリに楽しめる舞台だった。
イギリス製造業の倒産・失業の危機を、アブナイ(ショー)ビジネスに活路を見出すというのは「フル・モンティ」を連想した。パンフをみると、キンキ―ブーツの演出家はフル・モンティの演出もしていたそうで、なるほど!と納得した。第2次産業から第3次産業(サービス産業、特に娯楽ビジネス)へという歴史観は三谷幸喜の「日本の歴史」とも共通している。

人生問題の一つ一つの掘り下げをもう少し深めたら、去年の「メアリー・ポピンズ」に並ぶ、さらに感動を増す舞台になると思う。

良い子はみんなご褒美がもらえる

良い子はみんなご褒美がもらえる

パルコ・プロデュース

赤坂ACTシアター(東京都)

2019/04/20 (土) ~ 2019/05/07 (火)公演終了

満足度★★★

演劇を見たというより、コンサートに行ったという感じの舞台だった。音楽は、不安と憂鬱の現代音楽、オーケストラを認められた喜びの曲、大佐の登場に合わせた滑稽なほど大げさで荘厳な祝典曲、など意外とバラエティーのある音楽だった。それぞれに劇の内容を観客に伝える大きな役割を音楽が持っていた。

ただ台本は少々抽象的すぎて、ぴんと来ない。70年代のソ連での自由はく奪が、今の日本にどれだけ意味があるのか。もちろん大事な問題だと頭ではわかるのだが、体と心がついていかなかった。

ネタバレBOX

最後に、二人は大佐の勘違い(機転?)によって釈放される。政治犯のアレクサンドルが、楽器は何もできないんだと劇の始まりでは言っていたのに、最後に、オーケストラの指揮台に昇って、タクトを振る。そして調和の和音をオーケストラが奏でて大団円(ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」のように)となる。

冒頭の「楽器は出来ない」という発言を、「音楽は出来ない」ととると、自らに枠・限界を設けていた最初の状態から、その枠を破って精神の自由を得たラストととる事も出来る。
作者は当時のソ連批判を強く意識して書いたらしいから、私の解釈が作者の意図と沿うのかどうかはわからない。ソ連的統制社会はそのままでも、考え方次第で自由は得られるとなってしまうから。
背中から四十分

背中から四十分

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2019/05/01 (水) ~ 2019/05/06 (月)公演終了

満足度★★★★

笑いあり、人生の影と光あり、思いがけない趣向あり、たいへんいい舞台だった。ホテルの男性客と女性マッサージ師のふたりが軸であるが、マッサージをネタに、こんな面白くて深い芝居が作れるのかと、発想の妙に感心した。
深夜のホテルの部屋に男がやってくる。やけに態度がでかくて、時間外に豪華な食事のルームサービスを要求し、マッサージも要求するかと思うと、遅れているツレと頻繁に携帯で連絡を取る。ホテルで待つツレというと、ちょっと危ない関係を考えてしまうが、マッサージの女性が現れることで、話は意外な展開に……。
畑澤聖吾さんの作・演出と、男性客の斎藤歩とマッサージ師の三上晴佳の、コミカルさと説得力のある演技に大きく拍手したい。1時間35分。

ヒトハミナ、ヒトナミノ

ヒトハミナ、ヒトナミノ

企画集団マッチポイント

駅前劇場(東京都)

2019/04/10 (水) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

障害者の入所施設を舞台に、障害者の「性」の問題、福祉・介護の現場が出会う矛盾を描く。シリアスになりやすい題材だが、あけっぴろげなおばさん主任(竹内都子)、出入りの太った金持ち社長(辰巳智秋)が、絶妙のツッコミをいれて、終始笑いが絶えない。出演者に合わせた当て書き(あるいは台本に合わせたキャスティング)が非常にはまっていたし、出演者も、それにこたえて、実に生き生きとしていた。
ほかの人も書いているが、インゲン豆の細かい胚芽とりという、膨大な単純作業の繰り返しが、会話劇の最中、ずっと続けられているわけだが、これは苦労が多くて報われることの少ない障害者介護の見事な隠喩としてみえた。
昨年9月の「逢いにいくの雨だけど」につづく、横山拓也作品の二回目の観劇。前作も、ジーンと考えさせられるものが後を引いた(今も続いている)が、今回も、障害者の性というだけでない、仕事と人生、夫婦の絆の問題、社会の不寛容の問題、地方と都会と、多面的な問題を映し出す舞台だった。全6場(多分)。100分休憩なし、割とコンパクトな芝居

障害者役の尾身美詞も、一途な雰囲気が良く出ていた。ロシアのチェチェンの中学校人質テロ事件を描いた「US/THEM わたしたちと彼ら」の、疲れを知らずに動き回る中学生役も圧倒されたが、今回は車いすに乗って時々出るだけなのに、存在感があった。

ネタバレBOX

自堕落で闇を抱えていると思えた男性職員(加藤虎ノ介)が、実は最も真摯に障害者の人生に寄り添っていたという、どんでん返し的なストーリーは、まったく予想外の展開だった。障害者の性の問題という第一段階から、障害者に限らない、性に限らない「愛」の問題、発達障害の人が直面する社会の壁という第二段階に、主題がグッと高まる。二重構造で、作品の奥行がさらに深まっていた。

若い職員役の税所ひかりも、初々しい新人職員を好演していた。あとで今回が初舞台とあって驚いた。
彼女の両親の交通事故が、実は母親の不倫絡みという、打明話は全く思いもしない話だった。舞台の背面に小さいけれど、目立つ陰影を加えた。隅々にも手を抜かないこうした細部も光っている。かつての同級生の男女が、別の相手と結婚後も付き合っているという設定は「逢いにいくの雨だけど」では核心部分だった。今回も少しそれに似ている。少しドキリとさせられた。
春のめざめ

春のめざめ

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2019/04/13 (土) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★

14歳の少女と、中学校(ギムナジウム)の少年たちの性の目覚めを描く。官能的にリアルに性が感じられる。しかしオトナたちの怯懦と無理解が悲劇をもたらす。何もない簡素な美術と、ホイップクリーム(?)を精液に見立てて壁に塗りたくるなど、シンボリックで無機的な演出だが、俳優たちの肉体と演技は生々しく、自慰シーンでは思いがけずこちらも熱くなってしまった。

思春期の純真さが規律と因習で潰されるのは、ヘッセの「車輪の下」を思わせる。ドイツ的主題なのだろうか。
いっぽう、この舞台をもっと微笑ましくロマンチックにしたのが「小さな恋のメロディー」。いずれも昔流行った作品だ。小学校で性教育が取り入れられ、多少は性意識がひらけてきた現代では、この芝居がこのまま青少年に訴えるというわけにはいかないだろう。
伊藤健太郎君目当ての女性客で会場はいっぱいだったが、どういう感想を持ったんだろうか。男目線の演劇だと思ったが。休憩なし2時間10分

ネタバレBOX

友人が落第を苦に自殺し、身ごもった少女も堕胎がもとで死ぬ。最後、感化院から逃亡した主人公も死ぬかと思うと、メフィストフェレス(らしき謎の男)に導かれ、社会へと旅立っていく。演出はうまかったが、超自然的存在を登場させないと、救いをしめせないのは弱点ではある。リアルを通せば悲観主義しかない、そこにせめてもの光を示したかった、作者の願望であり、妥協である。
新・正午浅草

新・正午浅草

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/04/17 (水) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★

淡々と死を待つ老人を見事に現前させた枯れた芝居。89歳の吉永仁郎の作・演出と、85歳の水谷貞雄が、79歳の死去直前の永井荷風を描いたのだから、枯れた老人芝居であることは、狙い通りの成功と言えるだろう。70分休憩15分65分の計2時間半
若いカメラマンが、かつての反骨の精神も加齢とともに弱まった荷風を批判するところで、活気付く。戦時中に菊池寛の挨拶絵お断り、芸術院会員も蹴った反骨ぶりも良かった。
同時に、昔の恋人のウタにも、濹東綺譚のモデルのユキにも、荷風が結局は冷たく去っていくところに、荷風の根っこにある冷淡さを感じた。その人生態度は、戦争にも反戦にも熱くならず、世を冷笑して過ごした覚めた姿勢と共通するだろう。

水谷の、スローな動作と、しわがれた台詞回しの、枯れぶりがうまかった。しかも、永井荷風によく似ていた。背広に下駄履きの冒頭から、似てると実感。それにしても、なぜ背広に下駄だったんだろうか。

かもめ

かもめ

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2019/04/11 (木) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★

おもしろかった。トム・ストッパードの台本は、チェーホフの原作をほぼ生かしているのだが、微妙にブラッシュアップしてあって、愛すべき凡人たちの、片思いのすれ違いの連鎖がくっきりと浮かび上がった。

まほろば

まほろば

梅田芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

蓬莱竜太の劇にはまってしまった。今回は、女性の生理と出産をめぐるなんてことない話なのに、その赤裸々ぶりと旧家の沽券がぶつかって、えも言われぬ笑いを弾けさせていた。ぶっちゃけた女の会話を男の作家が書いていることに驚き。6人の女優たちのはじけた演技に拍手かっさいをおくりたい。
基本は日常リアリズムにたったせりふ劇。ケレン味が命のつかこうへい芝居とは対極にある。でもじみというわけではなく、取っ組み合いの喧嘩がみせばになったり、はっちゃけた芝居だ。我々と等身大の登場人物それぞれの人生、喜怒哀楽、不安と迷い、悩みと願いを、笑いとともに体験する2時間だった。
パンフレットにこの芝居の特徴を捉えるいい言葉があった。「この『まほろば』はもう、女優さんたちがどのような”声”を出すか、そこに尽きると思うんですよ」(蓬莱)、「子供とか結婚とか、そういう話をただ田舎に戻ってきて家族がしているだけ」(演出・日澤雄介)「私は初演の時、一読して『これがドラマになるんだろうか』と思ったの。(略)ドラマとして作り上げたら、結局岸田戯曲賞を獲ってしまう作品に仕上がったわけだから、やっぱりものすごく根源的で、そしてドラマチックな話なんだなってその時思い知りました」(三田和代)。

熱海殺人事件 LAST GENERATION 46

熱海殺人事件 LAST GENERATION 46

RUP

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★

言わずと知れたつかこうへいの代表作。膨大なセリフのマシンガントークの連続なのだが、ギャグと音楽と照明でメリハリをつける。名乗りと見栄の連続の末に、都会に出てきた女工と職工の、悲しい恋の叙情的場面が待っている。
つか芝居は、自然なリアリズムを追求する潮流に対する、もう一方の様式性と身体性を追求するタイプではないか。歌舞伎や野田秀樹に近いものを感じた。

LIFE LIFE LIFE

LIFE LIFE LIFE

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2019/04/06 (土) ~ 2019/04/30 (火)公演終了

満足度★★★★

二組の夫婦のウイットに富んだ社交的会話が、酒とイライラの力もあって、互いの弱点を刺激しあう、ジャブを応酬しあうボクシングのような一夜へと変わっていく。それでもシリアスというよりコミカルで、笑いの中で幕を閉じる。しゃれた脚本と、センスある演出家と、うまい役者がそろえば、たっぷりの笑いのなかに人生のほろ苦さも混じる、こんな口当たりの良い芝居ができますよ、という見本のような舞台。
似ている舞台としては、昨年見た加藤健一の徹底した笑いの「Out of Order」を思い出した。

若手と、その生殺与奪の権を握る上司のぶつかり合いという点では、先日の「ブルー/オレンジ」と通じるところもある。上司と部下の関係で互いの本音を、時にチクチクと、時にガツーンとぶつけ合う。惨めさも滑稽さもオープンにして笑いのめす闊達さは、日本には難しいだろう。それほど日本の上下関係は骨がらみというか、湿っぽくて陰気で、客観化しにくい

ネタバレBOX

他でも書いているように、同じシチュエーションから、それぞれ悲喜劇度の違う3つのバージョンを繰り返す。その違いの根本は、若い夫の性格と人生態度にあるように思った。心構えひとつで、どん底から希望の光まで3つのパターンがありますよと。
パターン1は、若い下っ端天文学者の夫が最初から最後まで、人事権を持つ上司に卑屈にへつらいきっている。それがために「運に見放された負け犬」と上司に影口を言われていたことに、大打撃を受ける。上司夫婦は勝ち誇って帰り、夫は妻にも見放されかけて終わる。これが45分で一番長く、実は、一番、見ていて笑える。面白い。やっぱり他人の不幸は蜜の味である。
二番目は、若い夫は地位は低いが精神的には自立的である。妻との関係も互いにリスペクトがあって良好。そのため、最後は、若い夫から上司に「あんたのような学会ハイソの人間の贅沢と傲慢には付き合いきれない」と先制攻撃する。上司とのあいだが決裂するのは同じだが、夫婦仲に危機を迎えるのは上司夫婦の方である。段田康則の上司は、あえなくともさかりえに不倫を断られるのも、若い夫の勝利と言える。このパターンから、大竹しのぶ演じる上司の妻が宇宙のロマンを語ったりして、意外な純な心の持ち主と描かれるのも興味深かった。
三番目は、最も円満で、実は最も面白みが乏しい(それでも十分面白いんだけれど)。外国の研究者に先を越されたらしいぞ、という上司の嫌がらせにも、若い夫はすでに情報を先に知っていて、逆に、優位に立つ。さらに友人からもっと詳しい話を電話で聞き、上司がくやしがるような、安心と確信を得る。「負け犬」でも「ダメ男」でもないのだから、平凡な幸福の予感で終わるのは当然である。
BLUE/ORANGE

BLUE/ORANGE

シーエイティプロデュース

DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京都)

2019/03/29 (金) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★

精神病院での、二人の白人医師と、一人の若い黒人患者の、3人のパワーとして面白く感じた。統合失調症の治療法をめぐる対立、正義と保身の対立という風に、どこかに正解を期待していると、肩透かしを食う。
階級・人種などの社会的背景を絡めた少人数のパワーゲームというのは、イギリス演劇が好きな主題なのだろうか。ピンター「管理人」「誰もいない国」、ヘア「スカイライト」と、最近見た舞台がいくつも連想される。
濃密な会話に2時間半(90分、休憩15分、65分)どっぷりつからせられる、見終わってくたくたになる芝居である。

ネタバレBOX

最後は、若手医師も自分のキャリアが、黒人患者のせいで台無しにされたとぶちぎれて、押し隠していた差別心をさらけ出す。一瞬だけれど、怖い一瞬だ。患者は家に帰り(治ったわけでもないのに)、のこった医師二人のゲームが続く。最初は若手が恭順しなおそうとしたが、上司に「ほんとはお前のこと嫌いなの」とはねつけられ、それならと若手が「管理委員会に上申書を出します」「書き方を教えてください」と徹底抗戦の構えに転じ(つつ、和戦も用意?)、幕。ハッピーエンドどころか、泥沼の戦いはまだ続く。
ミュージカル『はだしのゲン』

ミュージカル『はだしのゲン』

Pカンパニー

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2019/04/03 (水) ~ 2019/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

あれだけ有名な漫画を舞台にしてどうなるのかと、全く期待しないでいったが、予想を裏切る素晴らしい舞台だった。父との麦踏みの場面、病弱な母に食べさせる鯉をつかまえる場面など、コロス(黒子)たちが麦(!)や鯉を演じる破格の見立てを使うが、これがこの舞台の、肝である被爆の場面で生きてくる。最低限の装置でシンボリックに描くことで、観客の「想像力」でリアルな被爆シーンを立ち上げるのである。
 その後も、随所でそうしたシンボリックでありながら、リアルさを感じさせる演出がさえている。

 しかも本当に無駄がなくてテンポがいい。休憩なし1時間55分で戦前の幸せな暮らしから、被爆シーン、戦後の焼け跡から、母の出産と悲しい分かれ、新しい出発までを、見せる。ほかにも、被爆して自暴自棄になったが学生を立ち直らせる場面や、朝鮮人差別(加害者としての日本人の側面)の問題まで描いている。飛ばしたなー、という感じは全然なく、それぞれのシーンがたっぷりとした見ごたえ、歌の聞きごたえがあるから、大したものである。

 ゲン役のいまむら小穂(民芸)が、気合の刈り上げヘアで、実年齢を20歳以上若返らせる子ども役を見事に演じていた。舞台の成功の柱は彼女の元気なゲンに追うところ大きい。またゲンの弟と、新しい弟の二人の女優もやはりよかった。同じ女優の一人二役かと最初思うくらい、実際似ていて、びっくりした。
父母を演じた俳優座の加藤頼と有馬理恵のコンビもはまり役で、新しい持ち役になるものと思う。

著名な辛口劇評家も、終演後「本当によかったよ」としみじみ言っていた。友人も「心洗われる舞台」と言っていた。

ネタバレBOX

ゲンの父を「戦争に反対している非国民」と隣近所の人が批判するが、こんな戦争末期に反戦運動などするわけないし、何をもって「戦争に反対」というのか、少し首をかしげた。竹やり訓練や、空襲消火訓練に出てこない、日本はまけると話しているというくらいである。「戦争に反対」と、当時みなしただろうか? 少し現代の視点から意味を盛り込み過ぎでは? 「敗戦主義者」とか「非協力的」というくらいではないだろうか。
つながりのレシピ

つながりのレシピ

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

寂しいくせに強がりの男やもめが、亡妻に導かれるようにして、今まで見下していた元ホームレスの青年たちと、心通わせるようになる上質のホームドラマ。プライドだけが支えの実は弱い夫を、葛西和雄が好演。彼の何気ない一言、予想通りの頑迷ぶりに客席は笑いが絶えなかった。同時に、彼のいわば引き算の演技がすばらしく、何気ない所作でもなぜか涙腺が刺激されて、私はずっと涙目だった。私も薄っぺらな誇りを口実に、ふてくされている自分の姿を見出す気がしたからだろう。(友人は、葛西和雄のはげ上がった額もふくめ、向田ドラマの杉浦直樹のようだったと。そのとおりと、私も膝を打った。)

ケレン味ない正攻法のリアリズムで、自宅のパン屋は寅さんの団子屋のような人情あふれる日本人のふるさとに一変。笑いと涙でほんわか浄化されるような、まさに理想的な観劇体験だった。
相方の、亡妻のパン作り友達だった肝っ玉おばさんを藤木久美子が貫禄で演じた。とにかくいまの青年劇場の二枚看板のふたりがすばらしい。
モデルになったホームレス支援団体「てのはし」の年末年始の炊き出しを取材したばかりだったので、一層身近に感じられた。こういう活動に献身する人に改めて頭が下がる。
また元ホームレスや支援団体への、周囲の無理解の壁も描かれていた。「みんな仲良し、世はこともなし」では済まない複雑な日本の現実を考えさせるものだった。
統合失調症の幻聴に、「幻聴さん、幻聴さん。今日は私たちがいるから大丈夫です。安心してお帰りください」などという呪文は、病気をユーモアで包み込む素晴らしい知恵だった。生活保護が貧困ビジネスの餌食にならないように、受給者にまず「ハウジングファースト」というのも初めて知った。細部に丁寧な取材が生きていると感じた。
上演時間2時間5分(休憩なし)という手頃な長さも、客席では好評だった。

水の駅

水の駅

KUNIO

森下スタジオ(東京都)

2019/03/27 (水) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

この芝居のことは扇田昭彦『日本の現代演劇』(岩波新書)で知った。その絶賛ぶりで一度見たかったのが今回実現した。ただ、感想は「?」という感じ。セリフのない沈黙劇から意味を汲み取るのは難しい。そもそも言葉にできるならセリフにしたほうがいいわけで、ここでは言葉以前のなにかを感じるべきなのだろう。
舞台中央に壊れた蛇口があって、水が細く垂れ続けている。右奥から一人、あるいは二人と俳優が現れては、水を飲み、そこで何事かを演じて、また去っていく。その繰り返し。

人は来りて人は去る、それが輪廻のように続いていく、生命の無限の繰り返しを描いたともいえる。100人の観客がいたら100通りの解釈があっていい。
群衆たちのけんか騒ぎでは、一発の銃声(舞台ではびんた)で平和は破れる、平和のもろさを思った。しかし人間の戦争も、終わってしまえば一陣の嵐に過ぎない。「国破れて山河あり」「夏草や兵どもが夢のあと」である。
ぼろ服の疲れ切った男女が、服を脱ぎ棄てて沐浴し合う。そして憎しみも愛もそれまでになく高まって、半裸で絡み合う。この場面が一番印象的だった。水が与える生命力、あるいは浄化を感じた。

観終わった直後は、もういいと思ったが、こうして考えているとまた観たくなる。不思議な舞台である。

黄色い叫び

黄色い叫び

トム・プロジェクト

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2019/03/20 (水) ~ 2019/03/26 (火)公演終了

満足度★★★★

中津留劇は悲劇や大きな犠牲を払って終わることが多いのだが、この作は大水害に見舞われたことにより、人間同士の絆が深まり、友情も家族愛も再認識される。このハッピーエンドの後味の良さが2011年の初演含め、今度で4回も上演されてきた人気の秘密ではないだろうか。
最初の、地方と都会の「命の値段」の違いがあるから、地方の災害対策にお金をかけられないという議論は、地方の当人たちが言うところに切なさがある。
水害が起きた後半の、本音丸出しの独身農業男性の姿も滑稽で哀れで凄みがあった。ここまでやるかと驚いた。
ろうそくの火について「黄色く明るいのは、不完全燃焼しているからなんだ」と言うセリフが、不完全でいつも中途半端であがいている私のような人間にも、周りに役に立つところがあるのかなと励まされた。

このページのQRコードです。

拡大