Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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蒙古が襲来

蒙古が襲来

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2025/02/09 (日) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 良質なシチュエーション・コメディ。梶原善と宮地雅子カメの夫婦が住む苫屋に、遠くに行っていた兄トラジ・相島一之がひょっこり帰って来る。が、兄は家には遠慮してはいらない。兄の幼馴染の小林隆は村の仕切り屋で、「これから鎌倉の偉い人が来て話をする」と、庭に集会の準備をする。うさんくさい占い師のおばば・吉田羊がうろうろ。

 そこへ村長の西村まさ彦。さらにカメの元恋人の甲本雅裕が20年ぶり?に帰ってきて、小林隆は「カメには言わないように」と自分で言っておいて、あっさりカメに教える。つまり、最初っから三角関係のトラブルを起こしたいのである。この三角関係、梶原と甲本のいじましい再会が見どころ。

鎌倉の武士・小原雅人は「浜に外国人の死体があったはず、誰が隠した」と詮議する。それは蒙古が襲ってくる前触れだと。死体があったのかなかったのか、誰が知っているのかで、またひともめ。(ここらへんは2か月後に記憶で書いているので怪しい)

傀儡氏の二人組阿南健治と西田薫がやってきて、怪しげな見世物をし、小屋の中からは大宰府から来た貴族の客人の声(亡くなった伊藤俊人)「本当にすいませんでした」しか言わず、「ほかのことが言えないのか」と突っ込まれても「本当にすいませんでした」と。笑える。

ネタバレBOX

外国「ムクリ」の言葉というのは、実は「土佐弁」。朝鮮に流されたのではなく、土佐に流されただけとは笑えた。また、旅芸人も、大宰府からの偉い人も、実は島の防衛に駆り出された囚人たち。船が難破して漂着したのをいいことに、脱走を図っていた。

「いくさの火種を作っておいて、自分勝手に使いのものを追い返しておいて(それでいくさのそなえをしろ、ぎせいになってもしかたがないは)あまりに無責任ではないですか」
人はいつ死ぬかわからない、戦はいつ起きるか「いつかとはいまなのでございます」
みんな死んでしまった後に、吉田羊だけが残されて呟く「いくさとは、成し遂げたかもしれない可能性を絶ってしまうこと」。こうしたセリフに三谷幸喜の良識が見えた。敵の攻撃に備えて準備が大事、という軍拡擁護論に陥らないでよかった。
桜の園

桜の園

シス・カンパニー

世田谷パブリックシアター(東京都)

2024/12/08 (日) ~ 2024/12/27 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

荒川良々のロパーヒンが今までのロパーヒンとは雰囲気が違う。やり手ぶりが一切なくて、何かぼーっとした人のいいおじさん。池谷のぶえの女中ドゥニャーシャが、いつもクルクル踊っているお花畑的な感じで目立った。お高く気取った(と言ってもあまり露骨でなく、基本は不愛想)鈴木浩介のヤーシャもいい感じだった。

一方、天海祐希のラネーフスカヤ夫人はなぜか影が薄い。ただ、競売の日のパーティーで万年学生のトロフィーモフ(井上芳雄)とやり合うシークエンスは非常に印象的だった。トロフィーモフも1年前にみた成河の非現実的な理想家ぶりとは違った印象で、不器用だが人の好さを感じた。

わたしの紅皿

わたしの紅皿

劇団銅鑼

銅鑼アトリエ(東京都)

2025/03/19 (水) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

一人の女性の手記に基づく芝居と思っていたら、複数の人たちの投稿に基づくものだった。予想と作りが違っていたので少しとまどったが、それはそれでいい芝居だった。

「戦後に結婚して5年、今も夫が戦場の悪夢でうなされている」という投稿から始まる。これを書いた女性が主人公的な存在になり、夫との生活、実家の様子、夫の枕元に立つ戦友の夢などを辿っていく。後半になると、ほかの投稿がいくつも映写・朗読されて、戦後しばらくの生活をいろんな例から振り返る。主人公の実家の家族会議では朝鮮戦争・再軍備を支持する若者と、嫌悪する母親がぶつかりあう。

ネタバレBOX

一番感動したのは、若い20歳の青年の投稿。「太陽族」が話題になり、自分も毎日を仲間と気ままに遊んでいるが、墓参りに行った時に、周りの墓は自分と同じか近い年齢の人たちばかりだと気づいて、戦慄する。戦死した若者たちである。そのことを知って、自分の生活はこれでいいのかという思いにうそでなく、実感がこもっていた。

残念だったのは、復員した夫が、戦場帰りの昭和の男に見えないこと。どこがどう違うのか言えないが、すさんだうらぶれ感がしないと言おうか、現代の草食系男子に見えてしまうのである。

最後は、俳優が役を演じるのではなく、素の自分として、戦争を語り合う。悪くない演出だが、とってつけた感もある。「戦争を知らない」どころか「戦争は遠い彼方」の私たちを、もっと俎上に載せて「きれいごとでは済まない」とつっこんでほしかった。
月曜日の教師たち

月曜日の教師たち

Cucumber

ザ・スズナリ(東京都)

2025/04/03 (木) ~ 2025/04/15 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

このメンバーが書くものなら面白いだろうと思ったが、予想通りに面白かった。
ヨーコ先生(桑原裕子)の男好きの媚態、アイザワ(千葉雅子)の超マイペースの思考おしつけ、英語教師の高見沢の情けなさから犬にかまれ毒に当たる運の悪さ(逆にヨーコの悪運)等々。何度も爆笑させられた。美術教師ガウディ(岩松了)のひょうひょうとしたずるさもおかしい。ガウディに「えせ宮崎駿!」と悪口を浴びせるのも笑った。確かに似ている!

ネタバレBOX

ドタバタコメディで笑えるのだが、深みがない。人生の悲哀や社会的背景、人間の無力さなどがでてこない。それがあればチェーホフや井上ひさしになるのだが。
やなぎにツバメは

やなぎにツバメは

シス・カンパニー

紀伊國屋ホール(東京都)

2025/03/07 (金) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

作者もキャストも、最高の組み合わせで、見ないという選択肢はない芝居。期待にたがわず、笑い、笑い、笑いに、失望と寂しさもにじむいい舞台だった。
休憩なし1時間45分

ネタバレBOX

笑の多い中でも、特に二カ所。ひとつは娘の松岡茉優が、父の浅野和之に「ヴァージンロードを娘と歩く権利」と引き換えに、彼氏の開業資金800万をねだるところ。さらにすごいのは、大竹しのぶが、隠れた意図を持ちながら、元夫の浅野の「あの夜の過ち」を責めるところ。笑い転げた。いずれも浅野が絡んでおり、出番は少なめなのだが、浅野がキーパーソンだとわかる。
フロイス

フロイス

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2025/03/08 (土) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

少年時代にフロイスが見たユダヤ人の処刑から話ははじまる。火あぶりの直前、ザビエルが告解を聞き取り、ユダヤ人は処刑されたが救われた。この話がラストに思い起こされる。
九州から京に上り、信長と面会。しかし秀吉はキリスト教を禁止し、フロイスは長崎へ。二十八聖人の殉死もおきる。
フロイスは「日本人は主人は家臣を殺してもとがめられず、父は子や妻を殺すことができ、女は一番下。この国では命は軽い」などと書き送る。欧米人の日本報告というと、知性や礼儀に感心したものが多いと思っていたが、フロイスは少し違ったらしい。知性や礼儀についての報告は幕末に多いのかもしれない。

フロイスの風間俊介は「導く人」なので、あまり感情的にならない。感情的なのは、下女のかや(川床明日香)に露骨に好意を寄せられて、わざと距離を置くところくらい。
武士・道之助は、九州ではやけに騒々しいが、フロイスを監禁しているようにも見え、よくわからない。そのごキリシタンになったらしく、フロイスに従うが、京でキリシタン追放令が出て襲われた時、信徒がさかわらず死んでゆくのを見て「布教の敵は邪教の教えではない。甘美なる死だ」と気づく。その後、朝鮮出兵に参加し、鼻を削ぐ戦場の地獄を見て「神はいない」と嘆く。この嘆きは真に迫る痛々しさだった。
商人・惣五郎はトリックスターのように、他の人物とは異質の存在。キリスト教徒なのに、武器。火薬の商売で儲けるのも「俺がやらなければ誰か別の人がやるだけ」と平気。二十八人の処刑を前に、「聖人の遺骸は高値が付く」「その血を布にしみこませろ」と、悲劇も商売の種にしてしまう。演じる戸次重幸は明るくカラッとやって嫌味がなかった。
いつものこまつ座より笑いは少なめ。なかなかスタティックで難しい題材に取り組んだ挑戦作である。
2時間40分(休憩15分含む)

女性映画監督第一号

女性映画監督第一号

劇団印象-indian elephant-

吉祥寺シアター(東京都)

2025/02/08 (土) ~ 2025/02/11 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

出世作となったケストナー伝から、ずっと見ているが、今回はコミカルに笑えるところが多く、「蒲田行進曲」「青空」という、舞台で歌う音楽も多用して、表現の幅がまた広がった。しかも映画作りと女性の進出という柱のテーマが、ラストになって、満蒙開拓団の花嫁たちの悲劇にぐーっとシフトする。展開の意外さと複数のテーマを無理なくまとめた手腕はさすがである。

俳優たちも主役以外は、三役をやり、さらに劇中劇の黙劇の登場人物(名前はない)をいくつもやって、着替えに次ぐ着替えの大活躍である。9人の出演だが、十数人いるような誤解をしたくらいだ。主演の万里沙が数奇な運命に翻弄される板根を熱演。溝口健二の妻を演じた佐乃美千子がかわいい女の華やかさ、強さ、弱さを好演した。

ドイツの女学校の生徒たちを描いた「制服の処女」の内容を見せる黙劇は、白と黒の縞模様の制服で、面白い趣向だった。そのほか、人生の一場面一場面が書き割りにならずに生き生きしていて、楽しんでみられた。

ネタバレBOX

開拓団の女たちが映画撮影で使った「包丁」が、ソ連侵攻に立ち向かう「武器」になるところで、何の守りもなく放置されたことを象徴している。包丁を構えてずらっと並ぶ、悲壮な姿。知識としては知っている事柄を、舞台の上でスマートに見せたと思う。
教育

教育

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2025/02/07 (金) ~ 2025/02/15 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

マンスプレイニングを描いたような芝居。当時は、そんな言葉はなかったが、マン+エクスプレイニング(説明)の造語で、男が女に何かと説教をたれる性癖・構造を指す。若い娘のネリーに、最初は父が、次には、代わりに現れた上司の医師が、長々としゃべる。あまり対話はなく、とにかく男の台詞が長い。おんなのせりふといえば「…してあそばせ」などと、古くささが時折目立つ。上司が主人公にあれこれ言うところでは、谷崎潤一郎「痴人の愛」を連想した。若い娘を自分の子どものようにしようとして、逆に振り回されてしまう。

ネリーの出生の秘密をめぐっては、最後の第3場?で、母親エレーヌが、霊的妊娠の体験を語る。これが何を意味しているか。作者はカトリック作家だったなあと思い出した。

ネタバレBOX

ネリーは父の子なのか、父のなくなった親友の子なのか。父と母の言い分は対立するが、結論ははっきりしない。芝居にとっても、どちらでもいいような結末になる。母の言葉を信じるなら、死んだ恋人の霊によって妊娠した、のだが、主人公も観客も母の言葉そのままでは納得できない。考えられるのは、父の精子で妊娠したが、母の気持ちは亡き恋人にずっとあった。父はずっと疎外されてきて、娘を自分の子とは思えないということだろう。
太鼓たたいて笛ふいて

太鼓たたいて笛ふいて

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2024/11/01 (金) ~ 2024/11/30 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

大竹しのぶ以外はキャストを一新した舞台。歌える俳優が目立つ。音楽プロデューサー(福井晶一)のバリトンが印象的。母親役の高田聖子が娘役の大竹しのぶより10歳若いと知ってびっくりした。こま子役の天野はなも薄幸を見せつつ凛としていてよかった。文学座あたりの出身かと思ったら、イキウメで、意外だった。

「ひとりじゃない」「ハレルヤ」などカギとなる、口ずさみやすい曲は宇野誠一郎の「ひょっこりひょうたん島」挿入歌だとわかった。今回は、宇野誠一郎の劇中歌が大変気にいって、「ひょうたん島」のCDを入手して聞き直した。
同じく宇野作曲の「滅びるにはこの日本、あまりに素晴しすぎるから」の大竹しのぶの切々たる歌唱が圧巻だった。

諸国を遍歴する二人の騎士の物語

諸国を遍歴する二人の騎士の物語

劇団青年座

吉祥寺シアター(東京都)

2024/09/28 (土) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

最初はなんてことない話なのだが、途中からどんどん人が死んでゆく(殺されていく)。その殺し方がクールでブラック。

ネタバレBOX

最後は騎士二人だけが残った気がする。自分たちが死にたいのに死ねない退屈とあきらめでおわった……気がする(観劇後2カ月たつので、忘れてしまった)
ピローマン

ピローマン

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2024/10/03 (木) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

凄い芝居。戯曲も俳優も演出も。対面式舞台のシンプルな美術

ネタバレBOX

2年前に円が俳優座劇場でやった時、見なかったのだが、その後の評判がよかったので、英語の戯曲を入手して読んだ。すごい話だと思ったが、記憶では弟が兄を殺して終わりだった。ところが舞台を見て、それは1幕の終わりで、まだ2幕があるので、びっくりした。帰宅後、戯曲を引っ張り出したら、ちゃんと2幕まで線を引きながら読んでいた。1幕の兄殺しの衝撃で、2幕をすっかり忘れていたらしい。それが何よりの驚きだった。

それにしても、なぜ弟の作家は最後、警察に殺されたのだろうか。たぶん、10年以上前の父母殺しと、弟殺しの罪なのだろう。独裁国家だから、裁判にかける手間を省いて。
こんばんは、父さん

こんばんは、父さん

ニ兎社

俳優座劇場(東京都)

2024/12/06 (金) ~ 2024/12/26 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

闇金に終われる父(風間杜夫)と、取り立ての金髪青年(堅山隼太)、破産して身を隠す息子(萩原聖人)の3人のやり取り。落ちぶれているがプライドの高い父親と、意外なダメ息子の関係は、「セールスマンの死」のウイリー・ロ-マンを連想した。息子が、福島の第二工場に父を追いかけていくところなど、「セールスマンの死」のニューヨークのホテルで息子が父の浮気を知って、何もかも投げ出してしまう場面と重なった。

ネタバレBOX

永井愛の作品には珍しく、結末が結末らしくない。意外とまだ続く感じで終わる。

手ぶらで帰れない取り立て青年は、「ゆびわ」探しにすがるのだが、実はもう指環はない。すると、息子が奥の箱から高級腕時計を出してきて、渡す。息子の進学費用にするはずだったものを提供した。いわばその場しのぎである。このラストは物足りなく思った。途中「そんな取り立ての仕事なんてやめて、逃げろ」と勧めるように、もっとスカッとする解決をしてほしかった。贅沢かもしれないが。
白衛軍 The White Guard

白衛軍 The White Guard

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2024/12/03 (火) ~ 2024/12/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ロシア革命後の内戦期のウクライナ・キエフが舞台。時代は違うが、見ていると、コサックでウクライナ民族主義者の司令官ゲトマンが、ゼリンスキーに見える瞬間がいくつかある。ボリシェビキ軍(ロシア)に圧迫され(当面の敵は農民軍だが)、ドイツ軍(今なら西側諸国)を頼りにするところなど、今も変わらない。現代のゲトマンは逃げないけれど。

主人公一家の長兄(白衛軍指揮官)が「俺たちは戦わないで、酒におぼれてばかりだ」という自嘲には、滅びゆく者のどうしようもなさを描いたチェーホフに通じるものがある。トウルビン家に集まる白衛軍の人々は、ウクライナのロシア貴族なので、階級的民族的に旧時代の存在なのである。「俺たちが戦うのは、ツアーのため。ウクライナのためじゃない」というセリフもあるし、中の一人は「ニコライ二世は生きている」というフェイク情報にすがる。ろくでなしばかりの白衛軍を(若者の一途さは純粋だが)、戯画化しつつ、哀惜をこめてえがいている。その「白鳥の歌」が切々と迫ってくる。

これをソ連時代のモスクワでやった時、当然見て喜ぶのは旧貴族やインテリであって、労働者はそっぽを向いたということだ。批判的劇評ばかりだったらしいが、スターリンが気に入って上演できたとは、意外だ。スターリンは10数回もお忍びで見にきたとか。この登場人物たちの滅びゆく姿が、赤軍の力を裏返しの形で描いていると思ったらしい。それなら、そういう劇評を出すように指示してほしかったが。

1場 戦闘前夜のトウルビン家 2場 ゲトマン司令部 3場民衆派のペトルーラ軍の残忍(負傷兵を足手纏いと射殺し、ユダヤ人は共産主義者だと追い出す) 4場白衛軍司令部(士官学校)5場トウルビン家(1場と同じ) 6場 同、2ケ月後(赤軍勝利の祝砲の中)
元オペラ歌手の副官(上山竜治)の歌う声がいい。ふらっとやってきた従弟のラリオン(池岡亮介)の場違いな世間知らずぶりもよかった。
終盤、エレーナ(前田亜季)が「情熱なんて駄目よ。情熱のせいで私たち沈みそうになったんだから」と、軽挙をいさめるのが教訓的。
(アプトン版の戯曲翻訳は『悲劇喜劇』1月号掲載)

ネタバレBOX

ブルガーコフは池澤夏樹版世界文学全集で知った。「巨匠とマルガリータ」を読んだが、その中盤にある、精神病院の窓がノックされる場面を、加藤典洋が「ここでスターリンが電話してきたのだ」と解釈していて、びっくりした。この電話は実話で、ブルガーコフの数奇な人生の象徴的場面と言える。

去年、鈴木アツトが「犬と独裁者」という芝居でブルガーコフを描いた。それに触発され、去年「トウルビン家の日々」(=「白衛軍」)の小説と戯曲を読んだ。まさかその時はこれを舞台で日本で見られるとは思わなかった。今回の舞台は期待していたものだし、予備知識があったので、大変面白かった。(私の感想の背景として書いておきます)
天保十二年のシェイクスピア

天保十二年のシェイクスピア

東宝

日生劇場(東京都)

2024/12/09 (月) ~ 2024/12/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

4年前の藤田俊太郎演出の初演を見た時も「面白い!」と思ったが、今回も同様に面白かった。二度目(蜷川演出版のDVDも入れれば3度目)の観劇である。今回は音楽がいいと感じた。藤田版は「祝祭音楽劇」と銘打っているように、宮川彬良作曲・指揮の音楽が非常に雄弁に物語を引っ張っていく。冒頭とラストはロック民謡調、恋人同士のデュエットは演歌調、ヤクザの親分たちの歌はジャズ調と、曲想も多彩で豊かである。

初演と同じく3時間半(休憩20分)だが、全く飽きない。
唯月ふうかのドスのきいた女侠客と華やかなお嬢さんの一人二役が面白かった。

ネタバレBOX

シェイクスピアをパクった名場面集なのだが、「間違いの喜劇」から本歌取りした、双子の姉妹(唯月ふうか)を同一人物と勘違いする場面が、非常に笑える。「オセロー」の嫉妬から妻(土居ケイト)を殺し、自分(章平)も死ぬ場面は、コメディーが基本の本舞台の中では、シリアスな凄みをきちんと出していた。続く、ロミジュリからとった花魁と青年の死は、軽さがあった。
正三角関係

正三角関係

NODA・MAP

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2024/07/11 (木) ~ 2024/08/25 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★

「カラマーゾフの兄弟」を下敷きに、父殺しの裁判劇(野田秀樹と竹中直人の一人二役の早変わりの繰り返しが面白い)の向こうから、何かが立ち上がってくる。

父と息子が奪い合った女性グルーシェンカ(=長澤まさみのアリヨシとの一人二役)と、長男富太郎(松本潤=熱演)の婚約者・生方莉奈(村岡希美)の二人の女性が出てくるが、生方に当たる人物はドストエフスキーの原作にいたかどうか覚えていない。

「大審問官」や少年コーリャの話はない。スメルジャコフもほんの端役になっているので、父殺しの犯人が誰だったのかは、原作を知らない人にはわかりにくいだろう。
今回は隠れた大テーマ以外にも、戦争中の竹やりでB29を落とす訓練のばかばかしさとか、科学者の軍事研究の倫理問題、軍需物資の横流しなど考えさせる素材がちりばめられている。アリヨシの同性愛の告白もある。

グルーシェンカは火薬につけた名前なのだという弁護士(野田秀樹)のツッコミがあり、男女関係・父と子の対立が、火薬・軍需物資をめぐる争奪とかぶらされているのも、今回の目立つ趣向である。生方と富太郎が婚約するのも火薬がらみのやり取りが関係しており、火薬の調達は、表面の父殺しの裏の重要なサブストーリーになっている。(結像が少し弱いが、でも最後の父殺しの真相で、生きてくる)

「一粒の麦、もししなずば…。一粒の麦がもし地に落ちて死ねば多くの実りをなす」のアリヨシのセリフが序盤、中盤、終盤で繰り返され、大きな意味を持つ。が、戦争の大量殺戮を語るこの作でどういう意味なのか、考えなければいけない。
12月2日夜に配信で鑑賞

ネタバレBOX

爆縮の火薬の仕掛けが早めにあり、光の公式E=mc2が出てくる。「長崎」という地名が中盤で出てきて、隠れたテーマがくっきりする。
8月9日が日めくりをめくるように近づいてくるとともに、人形峠(火薬原料の硝石が取れるとは知らなかった。もちろんウラニウムが取れる)と日本の原爆開発に関わる威番(いわん)の話も進行する。ソ連領事夫人ウワサスキー夫人(池谷のぶえ)の(大声で)もらすソ連の思惑もあり、日米ソの三国の糸が絡んでいく。彼女の超越した大げさな演技は、日本とは異質な存在であることを語り、舞台の幅を広げる。

最後に原子野に、赤ん坊を背負って立つ少女は「焼き場の少年」の写真を意識したもの。ロンドン公演に向けて、長崎を語る国際的イコンとして使っていたのだろう。
花火で「みんなが空を見上げるとき人は幸せになる」冒頭が、原爆で「空を見上げた時、人々が死んでいく」ラストの対比がこの作品の骨格である。
ロボット

ロボット

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2024/11/16 (土) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

100年前の戯曲とは思えない、現代と近未来を予見したところがいくつもある。
「一番役立つ労働者は?」…「安い労働者さ。給料上げろとか、疲れたとか言わない」と言うところで、まず資本主義批判と階級闘争のテーマがある。そんなロボットに何もかもやらせて人間は「好きなことだけする」と無能化していくのは「主人と奴隷」の弁証法そのものだ。
科学、進歩が人間を幸福にするのかと言う問題提起もそこに重なっている。ロボットが反乱を起こすのは「2001年宇宙の旅」のHALに繋がり、現在のAIの進化の行き着く先の暗示のようでもある。人類絶滅に直面するのは、核戦争の隠喩のように見える。

ロボットの反乱が新しい未来を切り開かないのは、視野の狭い革命への揶揄のようにも取れて、作者の複雑な社会主義観が垣間見える。
人類が子供を産まなくなる、という展開は絵現代の少子化を予見したように見える。

ということで、非常に知的思索的な芝居なのだが、ヒロインのヘレナをめぐる男たちの滑稽ぶりや、何かが起きそうな不穏な空気、ロボットに包囲されて生き残りのために死に物狂いになる姿など、見ていて面白いシーンもタップリある。メリハリつけて上演台本・演出と、渡辺いっけいのユーモアある芸達者がとくに笑いを産んでいた。

5、6年前に戯曲を読んだのだが、ロボット工場にインテリたちが見学に行くんだというおぼろな記憶しかなかった。それも誤りで、ヘレナ(朝夏まこと)が孤島のロボット工場に行き、案内されながら、人間そっくりのロボットに驚き、工場幹部の男たちに歓迎され、という出だしだった。ヘレナはどこかの社長令嬢で、実は人権擁護協会の代表で、ロボットの酷使、心を作らないことを批判している。この孤島の工場の人間たちの右往左往に限定したところが、芝居としては上手くて、成功している。

ネタバレBOX

ロボットの命を製造する秘密を、ヘレナが燃やしてしまい(なぜ燃やしたかは言わなかった。誰も問わなかった。展開の都合と、観客がおわかってくれるだろうという期待)、たった一人残った建築家は、ロボットたちに命じられても、新しいロボットを作れない。

ろぼっとのへれなと若い男のロボットの間に、「相手のために自分を犠牲にする、離れては生きていけない」という愛AIが生まれて、新しい命を予感させて終わる。

演出では、一人残った建築家を囲む壁(檻)を作り、「サイゴノニンゲン」という看板を立てて終わる。「命は不滅ではない。滅ぶものだと覚えておいてください」の訴えに、科学技術万能論と、戦争、争いあいへの警告が込められていた。
そのいのち

そのいのち

関西テレビ放送

世田谷パブリックシアター(東京都)

2024/11/09 (土) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

静かに地味に始まり、最初は佐藤二朗の「メタボ」を使ったギャグや、大げさな振る舞いが笑いをよぶ。ところが…それは水面下の憎悪と醜悪を隠した、偽りの静かさだった。…ということが最後に突き付けられる。衝撃的な舞台である。佐藤二朗の脚本だが、こんなすごい本を書くとは驚いた。

が軸。「その日の、2日前の午後4時〇分」とはじまる。「その日」とは何か。花の容体が急変?などと思う。ほかにもなぜ山田さんは薬剤師をやめたのか、夫は昔少年刑務所に入っていたが、それはなぜ?と、いくつかの疑問がでるが答えは不明のまな。

花の「賠償金(何の賠償か不明)」で家を建て、生活していることがわかる。夫は賠償金目当て?かと思うと、「愛しているからだよ」と臆面もなくいう。「その日の前日」に、花の「何ふぇち?」という変な突込みから、障害者の性の問題が浮かんできて、かなりきわどい場面も展開する。賠償金をめぐる確執がドラマになるのか、障害者問題が軸なのか、と思うと、「その日」に全く予想外の展開が待っていた。「障害者の性」は、思ってもいない形で、最後の悲劇のひきがねともなる。「その日」衝撃的事実が明らかになって、それまでの穏やかなリビングは一変してしまう。

ネタバレBOX

30年前に、15歳だった和清は、山田のダウン症の7歳の子を、「弱者のくせに」と殺した。山田は、8年の刑期を終えた和清が「償いのために、障害者女性と結婚して一生面倒を見る」というはなしを聞きつけ、復讐のため介護士になってきたのだ。

花は「この人は私には必要なの。許してあげて」と山田に頼み込み、山田も怒りをおさめたかのようだった。
しかし、障害者・弱者をさげすむことで自己のプライドを保ってきた和清の性格は変わらず、花に向けて「犬も濡れるんだよ」とうそぶく。それを聞いて、山田は…まさかの結末だった。

そして、エピローグ的に花が継父とともに、母と継父の家に引っ越す光景を描いて終わる。
セツアンの善人

セツアンの善人

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2024/10/16 (水) ~ 2024/11/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

娼婦のシェン・タから、いとこの男シュイ・タにかわる葵わかなの一人二役が面白い。仮面をし、衣装もルーズでパステルなシェン・タから、びしっとスマートなシュイ・タと違いが際立ち、めりはりがついた。
テキストレジーのせいか、冗長さはなくテンポよくすすんだ。
脇役もよかったが、とにかく葵わかながきらきら光っていた。

ネタバレBOX

先日の俳優座の「セチュアン」は、社会主義参加がいまはぴんと来ないと大きく変えていた。今回はセリフはほぼそのままである(歌が省かれたり短くはなっていた)。それで見ると、資本主義批判・社会主義参加という社会批判より、この世の中で善人であることは、どこまでいられるのかもつのか、という生き方の問いに収れんされると思う。

最後の裁判場面の中身が意外と印象うすい。最後だけは有名。「この世で善人では生きられません。助けてください」というシェン・テの願いに、神さまは「シュイ・タでいることを段々減らすのじゃ」というだけで、シュイ・タを全否定はしない。最後に老人役の小林勝也が、客席に「皆さんで考えてください。良い結末を、よい結末を」と呼びかけて終わる。

ただ、この劇の善人とは「他人に慈悲を施すこと」「困った人を助けること」に矮小化されている。俳優座の、いとこのシュイ・タを合理的な資本家として描いた芝居を見た後のせいか、この芝居の善人性がただのお人よしにみえてしまって、共感しきれない。「地獄への道は善意で敷き詰められている」とは社会主義者レーニンの言葉である。
芭蕉通夜舟

芭蕉通夜舟

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2024/10/14 (月) ~ 2024/10/26 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

12年前の公演は見てないので、初めて見た。三十六歌仙にちなんで、36景で描く芭蕉の生涯。こんなに場面転換が多いのは井上ひさしには珍しいと思ったが、実際見てみるとコントの連続のようで、「日本人のへそ」につながるつくりである。

ただし「芭蕉通夜舟」はほぼ一人芝居。内野聖陽が、硬軟取り混ぜ、おかしみや寂しさや決意などを豊かな表情と所作で見せた。セリフ量も膨大だし、内野の(文字通り)身体を張った大奮闘はすごかった。何度もある厠の場面のユーモアや、「俗世間から抜けきれない、脚を片方いれたまま」をごろっと土間にネッ転びながら、片方の足をお座敷の舞台にかけてしゃべるなど、芸も細かい。文机をひっくりかえすと、金隠し付きの便器になる小道具は秀逸だった。

一生の中でも「奥の細道」はいくつも場面を書けて、ボリュームがある。佐渡の場面では、内野が舞台を飛び出し、客席上の横の渡り廊下で演じる。客は首を上にひねって見上げるので、天井横に投影された光の群れを、まさに天の川のように見ることになる。

井上ひさし中期の作品だが、下ネタが多く、結構野卑。若いころの芭蕉が属した談林俳諧は言葉遊びがメインだそうで、ここでも初期の井上ひさし流のダジャレが多くて楽しめる。「わび・さび」を経て最後に芭蕉が辿り着いた境地が「俗っぽさ、滑稽、新しみ」というのも井上ひさしの信条と重なっている。井上ひさしにしては、わが意を得たりと思ったのではないか。しかし芭蕉の高みを目指す三つの要素が、世間に広まると通俗化して、ただの色気と悪ふざけになってしまうのが、今も変わらぬ、人間社会の悲しさだった。

奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話

奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話

イキウメ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/08/09 (金) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

おもしろかった。かつての「散歩する侵略者」のようなSF的異世界とは違う、日本の怪談的不思議世界をたっぷり味わえた。現世の話と思っていると、いつのまにか怪談の向こうの世界に入り込んでいく話の運びは絶品である。

イキウメおなじみの浜田信也(小説家)の異世界的存在感と、安井順平(警官)の現世的存在感の対比を軸に、短期で荒っぽい盛隆二(景観の同僚)と、会談の中のヒロイン役(「破られた約束」の新妻、「お貞の話」の恋人・生まれ変わり、「宿世の恋」のお露)を一手に引き受けた平井珠生がよかった。できればモダンスイマーズの生越千晴にもヒロイン役を割り当ててほしかったが。

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