ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」

「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」

名取事務所

「劇」小劇場(東京都)

2023/11/17 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「慈善家-フィランスロピスト」

死ぬ程面白い。全く関係ないのだが『ハスラー2』を思い出した。格式高いハリウッドの名画のようで、ポール・ニューマンやマーティン・スコセッシがよく似合う。渋目の佳作。
カナダの劇作家ニコラス・ビヨンが名取事務所に書き下ろした新作。

この作品はアメリカの誰もが知る大手製薬会社パーデュー・ファーマ社の起こした「オピオイド危機」が元になっており、上演前からスクリーンにその旨を記した文章が流されている。

オピオイド(麻薬性鎮痛薬)系の医療用鎮痛剤「オキシコンチン」。モルヒネと同じく阿片を原料とする。元々は癌における鎮痛剤として使用され鎮痛作用と共に陶酔作用がある。中毒性依存性が高く、現在では各種麻薬中毒の入口と呼ばれる。

1995年、パーデュー・ファーマ社が「オキシコンチン」を中毒性のない奇跡の鎮痛剤と医療業界に猛烈に売り込んだ。どこのクリニックでも痛み止めとして簡単に処方されるまでに。1999年から2020年までに米国では約50万人が処方薬と違法オピオイドによって死亡。今も依存症に苦しむ人々が200〜300万人。千件以上の訴訟。被害者団体はオーナーであるサックラー・ファミリーこそ「死の罠」の仕掛け人だと告発する。処方鎮痛剤が引き金となって依存症が広まったのだと。
2017年10月、トランプ大統領はオピオイドの乱用に関する「全国的な公衆衛生の非常事態」を宣言。「国家の恥」であり、「人間の悲劇」とまで。

その総資産が140億ドル(約2兆円)といわれる米国の大富豪、サックラー・ファミリー。今作のモデルであろうモーティマー・デイビッド・サックラーは慈善活動により英国帝国勲章、ナイト&デイム・コマンダーを授与されている。美術館や大学への巨額の寄付によってサックラー・ファミリーは現代のメディチ家とまで称された。

現在、パーデュー・ファーマ社は8700億円の和解金を支払うことで破産申請中だが、創業家一族を不当に保護するものだと最高裁は無効を検討中。

大富豪の慈善家に藤田宗久(そうきゅう)氏。『ペリクリーズ』も凄かったが唯一無二。まるで映画を観てる気分。
古き付き合いの美術館館長に荒木真有美さん。
若きアシスタントに谷芙柚(ふゆ)さん。
敏腕弁護士に鬼頭典子さん。
美術館の傲慢で軽薄な理事に加藤頼氏。加藤剛の息子!

この5人にそれぞれ見せ場があり、A面B面裏返すようにあっと驚く別の一面がめくられる。後半になるにしたがって作者の仕掛けの周到さに感嘆。人間の世界はそんな甘っちょろいもんじゃないんだよ、と若き谷芙柚さんに突き付けるように。作家の純粋なるメッセージにも驚いた。もう今の日本人ではこんな作品を書けないだろう。余りに真実を舐め弄び過ぎた。
役者陣は全員次の作品も観たくなる凄腕ばかり。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

寄付者と非営利団体の間に交わされる見えない交換条件。大金の代わりに一体何を受け取ることが出来るのか?非営利団体側の懸念は自分達のイメージ。汚い金を受け取ったことへの付いて回るマイナス評価。寄付者のメリットは団体に無言の影響力を持つことや自分達に対しての肯定的な承認。ある種の口止め料。慈善事業の持つ社会的意味とはれっきとした商いであった。

加藤頼氏は若き柄本明の高嶋政伸風味。高畑裕太っぽい邪悪なオーラも感じた。クズのお手本。
鬼頭典子さんの寝返りっ振りは見事にハリウッド映画。こうでなくっちゃいけない。
荒木真有美さんの設定が面白い。ボンベイのスラム街出身の成り上がり。途端に興味を示した藤田宗久氏。「貧困に対する罪悪感への免罪符を私に求めたのよ!」凄い発想。
ある意味主人公である谷芙柚さん。パーティーに行こうとしていた私服が最高。厚底ローファー。

荒木真有美さんが藤田宗久氏の真意を暴くシーンに興奮したが内容がイマイチ期待外れ。
ラストの谷芙柚さんの「金よりも大切なものがある!」的展開には驚いた。凄く青臭い70年代のドラマみたい。悪い大人達の言いなりにはならない純粋な子供達の叫びみたいな。逆に作家が本気でそう思っているならば感心する。もうそんな気持ちも失くしてしまった。
サモエド

サモエド

なかないで、毒きのこちゃん

小劇場B1(東京都)

2023/11/15 (水) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前、時々風がピューッと吹き、紐を球状に丸めたような物体がコロコロと転がっていく。ステージ上は何となくメキシコの風景。
サモエドという犬種を知らなかった。イラスト、メチャクチャ良いなと思っていたら今川宇宙さんだった。

かなりイカれたキャラクター達が好き放題するコントが連なっている感じ。一応その団子の串として主人公富山えり子さんが筋となる。笑いはキャラのぶっ飛び具合の好き嫌いに二極化してしまい、若い女性客はニコニコ楽しそうに観ているが年配の人達は寝落ちしていた。

メキシコの田舎町、富山えり子さんは病院で「あと3日で爆発します」と診断される。キックボードに乗って知り合いに別れを告げて回ることに。職場のタコス屋ではコカイン中毒の植田祥平氏と波多野伶奈さん。ルチャリブレの会場では恋人のルチャドール、中田麦平氏と相棒の森耕作氏。家では父親の森田ガンツ氏、弟の岩原正典氏。マフィアを潰滅させて残党に命を狙われている友人、青木絵璃さんと芳田遥さん。皆号泣してくれるのだが何故か自分だけは泣けない。

富山えり子さんが一人ずば抜けて凄かった。このまま行けばかなりの女優になるだろう。ラスト、彼女が独り車を飛ばすシーンなど『グロリア』のジーナ・ローランズだ。一人で映画を演っている。
中田麦平氏は藤井隆とキラー・カーンを足したような魅力。馬鹿なことをやっていても妙に色っぽい。
青木絵璃さんは『濫吹』も凄かったが、森三中の黒沢かずこのような強キャラ。
波多野伶奈さんはアイドル顔。

ネタバレBOX

救ったサモエドを抱きかかえると、肉球が硬い。まさか死んでいるのでは?と悲鳴を上げる富山えり子さん。シーン変わって帰宅する車の運転中、「サモエドの肉球がこんなに硬いものだったなんて、私そんなことも知らなかったんだね。私、何も知らないことばかりだ・・・。」そこで初めて独り涙をボロボロ零す。凄く良いシーンだった。

キャラ系の笑いは余り好きではないので、ストーリーの中に笑いが欲しかった。マフィアの復讐やサモエドの誘拐、コカイン中毒の女優志望、ルチャドールのタイトルマッチ、全てのキャラの持つ伏線が爆発病のオチに見事に収斂されるように。オープニングの宇宙人ネタの回収だけでは弱い。
「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」

「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」

名取事務所

「劇」小劇場(東京都)

2023/11/17 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「屠殺人 ブッチャー」

クリスマス・イヴも更け、もう午前三時、カナダのオタワにある警察署。外は酷い雨。将校の軍服にサンタ帽の老人(髙山春夫氏)が椅子に座らされている。取り調べをしている警部(清水明彦氏)は早く帰りたくて仕方がない。全く英語が通じない老人、どうやら東欧のラヴィニア人らしい。そこに呼ばれてやって来る知的財産権がメインの弁護士(西尾友樹氏)。二人組の男がこの老人を警察署に置き去りにしたのだが、首から屠畜用フックが掛けられていてそこに弁護士の名刺が刺さっていたらしい。通訳(万里紗さん)が来るまでの間、二人はこの謎の老人について思い巡らす。

3回目の公演となるが髙山春夫氏だけは不動。
他の出演者も名取事務所公演に選ばれた本物ばかり。

タランティーノ系のパルプ・フィクション(安っぽい読み物)をイメージしていたら全く違った。途轍もなく鬱な人間論。西尾友樹氏が汗ダラダラ涙を流し声を枯らし必死に捲し立てる。整理の付かない感情と何一つ説得力を持たない理性にグチャグチャにされながら。最後に自分の拠り所となる思考の核は一体何なのか?
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

万里紗さんが美人すぎるかも。もっと普通のルックスの女性の方がしっくり来たのでは。逆に女性的な部分を全く感じさせない人の方が、後半の過去の体験談が生々しくなった。
架空のラヴィニア語が凄い出来。本当に一字一句完成された言葉を役者は発している。
ロマン・ポランスキーがシガニー・ウィーバーで映画化した戯曲『死と乙女』をモデルにしているのは間違いないだろう。復讐の方法として、ターゲットを愛する者に殺させる手法を選んだ組織。愛する身内にも生涯消せないトラウマを植え付ける為に。

自分は正しいものはこの世には存在しないと考えており、明らかに間違ったものだけは確実にある、と。正義を口にして、行動の拠り所にする者全ては因果律の迷宮に迷い込むことになる。正義の御旗で楽をした分、その後正義とは程遠い地点にまで彷徨い歩く羽目に。

こういう作品は死ぬ程観てきたので、内心「『24』みてえだな、流れが嘘臭えな」と感じていた。だが最後まで観るといろんな疑問点に一応合点が行くように出来ている。ラストカットは突き刺さる。ただ雑で乱暴な流れが勿体無くもある。もっと普遍的なテーマを扱っているのに劇画調の読み切りの感覚。

究極の戦争映画、『炎628』のラストのように作家にはとことんまで追求して貰いたかった気持もある。ナチス・ドイツに故郷を虐殺焦土にされた主人公の少年は道に落ちていたヒトラーの肖像写真を銃で撃ち抜く。撃つ度に逆回しで若返っていくヒトラーの写真。撃って撃って到頭赤ん坊の愛らしいヒトラーの写真に。少年は罪のない無垢な赤子に銃を構えたまま固まってしまうラスト。

「民族浄化」して、決して復讐されないように“敵”を丸ごと消滅させてきた人類の歴史。殺しても殺しても決して“敵”は無くならない。身内から仲間から家族から“敵”が次々に現れていく。無限の修羅地獄。

警察署を偽装するのは無理がある。
ハリウッド調の展開が嘘臭くてイマイチ乗り切れなかった点はあるが、語っているテーマはまさに今世界が目前に対峙している現実そのもの。彼女達の目的は復讐なのではない。自身の存在証明である。この世界に痛みを抱えた自分が確かに存在していることの証明。世界は無関心で何も聞かず興味を示さず、沈黙の圧力で何事もなかったかのように抑え込んでしまう。ガザのパレスチナ人の叫びがまさにそれ。まるでもう過ぎた事として勝手に全て終わらされてしまう。存在を叫ばなければ駄目だ。全てが無かったことにされてしまう。自分がいなかったことにされてしまう。言葉では誰も聞いてはくれないだろう。暴力しかないのか?
人は復讐をしなくてはならないが、もっとアウフヘーベンしたレヴェルの高い復讐を、本当の意味での復讐を。

焼肉のタレで有名なモランボン(社名は現北朝鮮の小高い丘、牡丹峰から)、朝鮮出身の創業者はこう語った。「自分の日本人への復讐、それは日本人の味覚に朝鮮料理の味を浸透させる事だった。」
生きてるうちが華なのよ TAIAI

生きてるうちが華なのよ TAIAI

グワィニャオン

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2023/11/15 (水) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

今作を観れた幸運に感謝。素晴らしい時間を過ごせた。
多分作り手の人達と自分が観てきたもの夢中になってきたものの多くが重なり合っているのだろう。何故今作を作りたかったのかが凄く理解出来た。
ジョージ・A・ロメロが産み出したジャンル、“ゾンビ映画”。1968年モノクロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は『デビルマン』の元ネタの一つだった。ルチオ・フルチの3部作、リチャード・マシスン原作の『地球最後の男オメガマン』、藤子・F・不二雄の『流血鬼』、相原コージの『Z 〜ゼット〜』、大槻ケンヂの『ステーシー』、amazarashiの『虚無病』。今作のノリは映画化もされた人気漫画『アイアムアヒーロー』っぽい。
全てが崩壊した世界で逆にハッキリしてくるのは自分自身。一体何を求めて生きてきたのか?何を世界に求めていたのか?

開幕の主人公、わたなべかずひろ氏が最高。若き日の坂上二郎と爆笑問題田中を合わせたようなキャラで、すぐに観客は作品世界に嵌まってしまう。マッチングアプリで浮気していることが同棲中の彼女(桃井絵理香さん)にバレて喧嘩。出て行った彼女はゾンビに噛まれて帰って来る。
この二人の関係性が泣ける。彼女の携帯のメモに自分の好きな所が100個記されており、それを読みながら主人公は落涙する。余りに二人の愛がリアルだと思ったら、本当の夫婦だった。

喫茶兼スナックのレトロな店に逃げ込んだ人々。吉田拓郎の『人間なんて』、『元気です。』のジャケットが飾られている時点で敬遠したい重い店。まさかのレーザーカラオケ。そこを基地としての対リビングデッド攻防戦。
婦人警官二人組、平安山彩(へんざんあや)さんと園山ひかりさんがやたらチャーミングだった。
僧侶の魚建氏は声が違うので別人かと思った。流石の声優、役柄によって全く声が違う。
作演出に加え東電の電気工事請負人、西村太佑氏は最早MARVEL並みのヒーロー。今や巨匠のピーター・ジャクソン監督『ブレインデッド』を思わせる活躍ぶり。何か梅沢富美男っぽかった。カッコイイ!

大口を開けたままの死人、橘佳祐氏も最高だった。この劇団、モブキャラの本気具合がヤバい。

“TAIAI”とは「逢いたい」を上手く伝えられないゾンビ語だと受け取った。
吉田拓郎の『今日までそして明日から』がテーマソング。
それは生者と死人が心で綴るラヴソング。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

主人公のモノローグが普通にブツブツ呟いているヤバイ奴だったことが判明し、後半はそのブツブツを玉城美来さんが引き継ぐ。渡辺利江子さんと上高涼楓(すずか)さんの母娘の物語、宮崎重信氏と関田豊枝さんの夫婦の物語。

ルチオ・フルチの『サンゲリア』はスピルバーグの『ジョーズ』が大ヒットしていたので「ゾンビVSジョーズ」を急遽売りに組み込んだ。ストーリーとは何の関係もない所でゾンビメイクの役者が海の中で鮫と格闘する。初めてこれを観た時は本当に感動したもの。自分がエンターテインメントに求めているものの一つがこれ。才能の無駄遣い。

タランティーノが大絶賛して再映までしたルチオ・フルチの『ビヨンド』。頭部を破壊しないとゾンビには効かない、と再三言われているにも関わらず皆が撃つのは胸。その理由は頭部を破壊する特殊効果には金が掛かる為、そう何度もやれないからだった・・・。

ちょっとラストの演出が暑苦しく、勿体無くも感じた。もっと違う斬り方があった筈。一々失ってみなければ有難みを感じ取れない人間の性(さが)。失くしてしまってから後悔することばかり。その性を生と死の破綻した世界で顕在化することこそが今作のテーマ。肉体はやがて腐り落ちるだろう。魂は精神は何処に消えるのか?どう仮想したら安らげるのか?優しかったあの人のあたたかな心は何処へ?死んだ人間と共に生きていく方法論。
剥愛

剥愛

ロ字ック

シアタートラム(東京都)

2023/11/10 (金) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

山間の田舎にある剥製の工房、片脚の不自由な父親(吉見一豊氏)が細々と続けている。家にいるのは家事手伝いの次女の瀬戸さおりさん、預かっている発達障害の親戚の子(岩男海史氏)、離婚して戻って来た無職の長女(さとうほなみさん)。
よく顔を出す近所の猫屋敷のおばちゃん(柿丸美智恵さん)。
そこに一人の男(山中聡氏)が訪ねて来る。

吉見一豊氏はゴジに見えた。
瀬戸さおりさんは辛気臭い女の役を黙々とこなす。ケケケケケとけたたましく笑うシーンが楳図かずお調。
主人公は岩男海史氏だろう。この作品をほぼ出突っ張りで担う。チック症や気に入った動作の繰り返し、かと思えば突然別の役に入ることも。

舞台美術は凄味のあるド迫力。自分達に纏わり付いて離れないもつれた糸にがんじがらめの人間達。宿命を自らの意志で覆すことは可能なのか?

ネタバレBOX

大変申し訳ないが、全く面白くなかった。中身が空っぽ。何か意味ありげにごまかしているだけ。ラジオからイスラエルとパレスチナのニュースが流れるところでは頭がクラクラした。

パンクロックの奴隷だ 無政府主義の雰囲気
パンクロックの奴隷だ バレバレなんだぜ
パンクロックの奴隷だ 思想なき中産階級
パンクロックの奴隷だ エセアナーキストども

亜無亜危異「パンクロックの奴隷」
無駄な抵抗

無駄な抵抗

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/11/11 (土) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

最前はD列。
駅前の円形広場、何故かもうこの駅に電車が止まることはない。全て通過していくのみ。知らせも何もなくいつのまにかにそうなった。

シルクハットの大道芸人(浜田信也氏)は決して何もしない。「何もしない」ことをしているとうそぶく。

カフェの店長(大窪人衛氏)は電車が停車するよう署名活動を始めた。

この町に戻って来た元占い師のカウンセラー(松雪泰子さん)、予約した客(池谷のぶえさん)は学生時代の同級生。当時クラス内で特別視されていた彼女から、「あなたは人を殺す」という予言を受けたと言う。カウンセラーには全く記憶にない。客は今、歯科医で羽振りが良くホストにハマっている。孤独な彼女を心配する兄(盛隆二氏)。

町の名士である資産家の老人から依頼を受けている探偵(安井順平氏)。老人の孫(穂志もえかさん)はその中身が気になって仕方がない。

児童養護施設で共に育ったホスト(渡邊圭祐氏)と産んだ子供を施設に預けたシンママ(清水葉月さん)。こんな思いは絶対自分の子供にはさせないと誓った筈が同じ状況を繰り返す。

施設の前で捨てられていた赤子を拾った職員(森下創氏)は今、駅ビルの警備員に。

カウンセリングで掘り起こされる内容が『羊たちの沈黙』を思わせる。
挟まれる「こんな夢を見た」が効果的。

穂志もえかさんが永野芽郁と剛力彩芽を足したみたいな可愛らしさ。渡部豪太の妹みたいにも見えた。キャスティングセンスが良い。
清水葉月さんや穂志もえかさんの口調や内容がかなりリアル。それを受ける安井順平氏の対応もリアルで嘘臭くない。

大御所映画監督が余生に撮るエピローグのような作品。
かなりラディカルな煽りを込めている。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

カウンセラーが松雪泰子さんだとは最後まで気が付かなかった。
ガイドラインの筋としては、能力者の男が弟の女房に子供を産ませ、更にその産まれた娘を孕ませる近親相姦。しかも娘が産んだ子はホストになり、娘の担当となっている。ハインラインの「輪廻の蛇」のようなカルマ尽くし。

作家は因果律を超えた自己肯定を提唱。何もしなくてもいいんだよ、胸張って生きろ!と。ラディカルな提言で悩む苦しむ人間達に告げる。どうしようもなく駄目な自身を肯定しろ!ありのままでいいじゃないか!

※何か村上春樹っぽい。村上春樹のあの感覚は舞台が一番適しているのかも。
あなたはわたしに死を与えたートリカブト殺人事件ー

あなたはわたしに死を与えたートリカブト殺人事件ー

ISAWO BOOKSTORE

小劇場B1(東京都)

2023/11/08 (水) ~ 2023/11/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『トリカブト殺人事件』と聞いて連想するのは『本庄保険金殺人事件』。「だがこれ平成だしな。」と思っていたら全く知らない事件だった。
全く前知識のない事件だった為、非常に面白かった。1984年に三浦和義が妻に多額の保険を掛けて「疑惑の銃弾」で殺させたのではないか?と『ロス疑惑』報道が過熱。その余波で1986年のこの事件も大々的に注目されたのだろう。

新婚の妻との沖縄旅行、妻の友人3人も招待。石垣島に向かう那覇空港で、神谷力は「急用を思い出した」と別行動に。彼と別れて1時間40分後、妻は苦しみ出し救急車で病院に運ばれて死亡。行政解剖にあたった大野曜吉は死因を急性心筋梗塞と診断。しかし、神谷力の言動に何か不可解なものを感じる。
出会って4ヶ月で結婚、結婚して3ヶ月で死亡。四社で1億8500万円の生命保険に亡くなる二十日前に加入させていたこと。前妻二人も心筋梗塞、急性心不全で亡くなっていた。マスコミ(今作では週刊誌「WEEKLEY」)が騒ぎ出し、保険会社も支払いを保留する。

神谷力に是近敦之(あつし)氏。高知東生っぽくもあり、妙な魅力のある男をリアルに肉付け。
最大の敵となる大野曜吉医師に児島功一氏、見事に色気のある空間を作り出した。
主人公的ライターに佐野功氏、事件の真相を突き止める事ができるのか?
ライターの元カノで被害者の同僚に堤千穂さん。今作では工藤夕貴っぽかった。
記者他に虎玉大介氏。早変わり。
保険外交員他に上田尋さん。アンミカみたいな喋り。
被害者の弟だが、神谷力に恩義を感じている大学生に麻生竜司氏。彼の存在がただの犯罪再現ドラマにしないアクセントになった。喉仏が大きい。

神谷力と大野曜吉の対決、二人の研究者が法廷で向かい合うクライマックスは映画的。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

神谷力はただの金目当ての保険金殺人犯ではなく、ある種の化学者、研究者であったことが面白い。

小5の時、母親が大量の睡眠薬で自殺。神谷は小6から工場に住み込みで働いたという。父親は元東北大学工学部教授、化学者になりたかった神谷は苦学のもと、東北大学を受験するも失敗。個人的に実験用のアパートを借り、大学の研究室並みの実験機材を揃えマウスで実験していた。
トリカブト毒のアコニチンとフグ毒のテトロドトキシンには拮抗作用があることを知る。同時に服用すると症状が現れないが、フグ毒の方が体内から先に消える為、その後トリカブト毒の症状が現れること。この二つの毒の配合を調節することで、時限式トリカブト毒の開発に成功したのだ。

公判で大野曜吉がそのトリックを暴いた時、興奮する神谷。「実験にマウスは何匹使ったんですか?マウスは何匹?」アマチュアの自分の研究成果をプロの教授が認めてくれた喜び!

トリカブトの名の由来は花が烏帽子に似ているかららしい。タイトルはトリカブトの花言葉の一つ。母親へのメッセージだったのか。母親は(多分)38歳で亡くなり、妻二人も38歳だった。(最後の妻は33歳だったが)。
君は即ち春を吸ひこんだのだ

君は即ち春を吸ひこんだのだ

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2023/11/07 (火) ~ 2023/11/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

文句の付けようのない傑作。2016年初演。
国民的児童文学『ごんぎつね』は愛知県の作家、新美南吉(にいみなんきち)が1930年(昭和5年)、17歳の時に書いたもの。本名は新美正八。時代はずれるが宮沢賢治との共通点から「北の賢治、南の南吉」と並び称された。

悪戯好きの孤独なごんぎつねが村人の兵十に罪悪感を抱く。病気の母親の為に獲っていた鰻を逃がしてしまったのだ。母の葬儀の様子を見たごんぎつねは、贖罪の為に栗や松茸を兵十の家に隠れて届け続ける。ある日、忍び込んだごんぎつねに気付いた兵十は火縄銃で撃ち殺す。そこに積まれた栗。「お前だったのか」。

『泣いた赤鬼』もそうだが、自己犠牲的な純粋な優しさに人はひれ伏す。報われない優しさ。いつだって人間の魂が打ちのめされるのは暴力ではない。優しさだ。

時代は1938年(昭和13年)から。
東京外国語学校を卒業するも職はなく、病弱な身体に苦しみながらようやく女学校の教師に職を得る主人公、新見正八に立川義幸氏。霜降り明星・粗品にしか見えない。その痩せこけた裸体。
父親に樋口圭佑氏、クリスチャン・スレーター似。ぎこちなく体が踊り出す癖なんか見事。
継母に小林未来さん、手堅い。根岸さんとの遣り取りが見せ場。
MVPは幼馴染みの没落した士族の娘、根岸美利さん。女医として活躍しつつ、正八との間に二人にしか感じ取れないものが在ることを垣間見せる。胸や腰のラインを強調した役作りもいい。押し花の栞のエピソードが印象的。
その弟に佐々木優樹氏。女学生との遣り取りなど、彼を投入するポイントが上手い。
昔からの友人、田崎奏太氏。時代の流れの中で今では全く無意味な文学を語り合った日々。『アンナ・カレーニナ』のキノコのエピソードが良い。
女学生は17期生の一色紗英こと飯田桃子さん。お笑い要素満点で会場を沸かす。キャラ設定が『青い山脈』みたいで清々しい。ガチョウの鳴き真似。

死と生(恋)を凝視した新見正八の青春。流石の新国立劇場、舞台美術は最早芸術。縁側の先にある小さな庭、一本の大きな木がでんと立っている。ステージを挟むように配置された観客席。雑然と積まれた大量の書物。いろんな花を効果的に使う。あの時、本当は何を伝えたかったのか?結核の治療薬となるストレプトマイシンが発見されたのは1943年、彼の死んだ年だった。

タイトルの気持ちに観客をいざなっていく巧さ。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

結核で死んだ友達が折っていた折鶴を持って女学生が訪ねて来る。かつて友達は鳥が作った巣を覗く為、木に登ろうとした。だがその振動で巣は地面に落ちて卵は皆割れてしまう。哀しそうに上空を飛び回る親鳥。その贖罪の為に病床で鶴を折り続け死んでいったのだ。
女学生は新美に倣ってそれを童話にしようとする。友達が折った折鶴が命を持ち、親鳥と共に空に羽ばたいていくラストを。だが、実際に書いたものは全く違うものに。必死に謝る友達に親鳥は「そんなことあったかや?」とどこぞに飛び去ってしまう。

このエピソードが秀逸。
光への道は遠く

光への道は遠く

オフィスリコプロダクション株式会社

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/02 (木) ~ 2023/11/15 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

​「帝銀事件 ー獄窓の雪ー」

2020年初演。
ベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章が効果的。これを聴くと宿命に対し厳かに死んでいくモノクロの隊列を感じる。自分ではもうどうしようもないことを粛然と受け入れるしかない弱者。多かれ少なかれ人間誰もが無力で何一つ出来やしない。思えばこの世の出来事全てが謎だらけ。皆、その真実からひたすら目を背けてきただけ。見なければ無かったことになる、と固く信じて。

昔の自分は元731部隊の諏訪中佐が犯人だと信じ込んでいたが、最近の研究では全然そんな人物は該当しないことに驚いた。GHQの圧力で捜査にストップが掛かり、適当に容疑者をでっち上げたんじゃなかったのか?
熊井啓の映画を観たりした筈だがもう全く記憶にない。当時の警察は(今も?)本当であろうと嘘であろうと犯人をでっち上げて事件を終わらせてきた。真実の解明ではなく、対世間に対しての申し開き。冤罪だろうと無理矢理自白させてしまえば同じ事。兎に角終わらせること。

テンペラ画とは、卵と顔料(着色に用いる粉末)を混ぜて絵具を作り描画する技法。油絵より劣化が少ない。

昭和23年(1948年)1月26日、帝国銀行(現在の三井住友銀行)椎名町支店。閉店直後に現れた厚生省技官を名乗る男が赤痢の予防薬をそこにいた16人に飲ませる。薬は青酸化合物で12人死亡。現金と小切手、現在の価値で500万円程が盗まれていた。

偶然生き残った4人が犯人の男について供述する場面から開幕。
実質主人公でもある堂ノ下沙羅さん。表情が可愛らしくキャラクターのキャパが大きいのでいろんな役をやれそう。藤野涼子みたいな実力派。岸本加世子路線、井上ひさし系が合うのでは。表情一つでガラッと印象が変わる。華と陰、両方を併せ持つ。
初舞台のグラビアアイドル、桑島海空(くわじまみく)さんはコメディリリーフとして活躍。深刻な世界に笑いを注いで和ませてくれる。
その相方ともいえる杉浦一輝氏。名アシスト。
三原一太氏は一種異様な雰囲気でこの事件のおどろおどろしさを醸し出す。

権力の威圧感を纏った検事は妹尾青洸(せのおせいこう)氏。
暴力の匂いをぷんぷんさせる刑事に藤井陽人(あきと)氏。
孤立無援の弁護士に酒巻誉洋(たかひろ)氏。
そして平沢貞通は中田顕史郎氏。

毒物を飲まされて死にかかった堂ノ下沙羅さんが平沢貞通は犯人でないと一人証言する。嘘の犯人をでっち上げることは本当の犯人を逃がすこと。彼女の孤独な戦いが今作品のテーマ。
堂ノ下さん演ずる竹内正子は本当面白い人で、当時のインタビューを読んでも痛快な女傑。
その母親役はかんのひとみさん。

何故これ程冤罪事件が発生するのか?そして国家や警察検察は自らの誤りを認める事を一切しない。認めてしまえば前例となってかなりの訴訟を受ける恐怖からだろう。この国には真実を調査する機関が必要。建前と権力の自己正当化、弱肉強食の論理ではいつも弱者が泣き寝入り。今、人間は聞こえの良い嘘より真実を必要としている。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

堂ノ下沙羅さんは東京大空襲で父を亡くしていた。帝銀に現れた男がどことなく父の面影に似ていると思ってぼんやり眺めていた。だから、平沢ではないと確信できた。この設定が巧い。

平沢貞通の絵が必要。彼が獄中で描いた絵が物を言う。獄中生活39年で三千点余りの絵を描き続け獄死した。面会に成功した初対面のカメラマンに彼が言ったのは「今欲しいのは画材、特に色紙と麻紙です」。ラストに彼の獄中で描いた絵が大量に映し出されたら作品に説得力が出る。

当時、捜査主任だった甲斐文助刑事が捜査会議の時に書いたメモ「甲斐捜査手記」。
登戸研究所(旧第九陸軍技術研究所)所長、伴繁雄「帝銀で使われたのは登戸研が開発した青酸ニトリールに間違いない。犯人は提供先の誰かだろう。青酸ニトリールは遅効性の青酸化合物。5分で発症、10分で死亡。遺体には青酸しか残らない。集団自決用に開発。青酸カリは即効性で最初に飲んだ人が悶え苦しむ。それを見たら後の人が怖気づいてしまうので遅効性の物が必要とされた。揮発性が高く保存は瓶に入れグリセリン等の油分で上部を厚く覆う必要が有る。犯人が第一薬を飲んでも無事なのは上部の油分の所だけを飲んだからだろう。」

前年10月と事件の一週間前にも似たような出来事が別の銀行で起きていた。集団赤痢の予防薬を飲ませようとする謎の男。一度目は薬を飲ませたが何も起こらず、二度目は行員に疑われて退散。
平沢貞通は何らかの形でこれらの毒物事件に関与しており、そのことについては一生話すことはなかった。そこがこの事件を覆った昏いカーテン。事件後、平沢の偽名の口座に預金された13万4千円もの大金、現在の貨幣価値で300万円以上。平沢は春画(ポルノ浮世絵)を極秘に描いており、その報酬だったがそれを恥じて言わなかったと支援者達は考えている。

帝銀事件の実行犯は某歯科医〈奥山大助(庄助)や能口ヒロシなど仮名が付けられている〉を挙げる人が多い。平沢貞通は未遂事件の犯人で、グループの一員だったと。
光への道は遠く

光への道は遠く

オフィスリコプロダクション株式会社

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/02 (木) ~ 2023/11/15 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「夜明け前​ ー吉展ちゃん誘拐事件ー」

アフタートークのシークレットゲストが小出恵介氏。だが客層的にイマイチ沸かない。観客はこんな暗い昭和の犯罪史シリーズをわざわざ観に来る層だ。
黒澤明の『天国と地獄』の予告篇を観て、子供の誘拐を思い付いたというだけで心底暗くなる嫌な事件。2019年初演。

1963年(昭和38年)3月31日台東区の入谷で起きた4歳児の誘拐事件。2年3ヶ月後、小原保(こはらたもつ)32歳が逮捕されて死刑になった。仕事をクビになり、借金返済の為、実家の福島に金の無心に行くも結局顔を出せず仕舞い。戻った東京で事件を起こす。

右足に障害を持つ犯人役は演出も兼ねる田島亮氏。今作では七人兄弟の六番目の設定だが実際は十一人兄弟の十番目(二人は生まれてすぐに死んでいる)。

公開された脅迫電話の東北訛の声が兄だと疑い、警察に届ける弟に五島三四郎氏。愛憎入り混じった兄弟関係。
その妻、奥野亮子さん。豪華。

MVPは犯人と同棲する愛人、山像(やまがた)かおりさん。男を信じるしかない老いた女の哀れさ。荒川区の一杯飲み屋「清香」の女将。犯人との情感溢れた遣り取りがこの作品を彩る。

テーマは『真人間』。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

犯人の母親と平塚八兵衛を登場させないことに拘りがあったのだろう。本来なら、かんのひとみさんは母親役だろうに。
福島の郷里をびっこを引きながら乞食のように歩く田島亮氏の絵が欲しい。真人間になりたくて真人間になれなかった男が荒れ野を独り彷徨う事件直前の絵。

今シリーズの影の主人公は平塚八兵衛刑事。本来、平塚八兵衛がアリバイをことごとく破り、追い詰めていくのがクライマックスになる話なのだが、彼は登場しない。代わりに犯人の家族達がコロスとなって四方八方から問い詰めていく。

平塚八兵衛達がアリバイ崩しの為に福島に行った折、犯人の母親が泥に頭を擦り付けて地べたに土下座してきた。「私は保をそんな人間に育てた覚えはないが、もし保がやっているんなら、早く真人間になって本当のことを言うように言ってやってくだせえ。」

犯人逮捕後の母親の手記「わしは吉展ちゃんのお母さんが吉展ちゃんを可愛がっていたように、お前を可愛がっていたつもりだ。お前はそれを考えたことはなかったのか。保よ、お前は地獄へ行け。わしも一緒に行ってやるから。」「どうか皆様、許して下さいとは言いません。只このお詫びを聞き届けて下さいまし。」
事実、犯人の死刑が確定すると母親は自殺した。

獄中で短歌を始めた犯人。ペンネームの福島誠一には「今度生まれ変わる時は愛する故郷で誠一筋に生きる人間に生まれ変わるのだ」という意味を込めた。

この事件で犯人を取り逃がし、身代金を奪われた失態から国民から警察は猛バッシングを受ける。この2ヶ月後に起きたのが有名な「狭山事件」、無理矢理怪しい奴を逮捕して事件解決をアピール。このような暴力的な解決法が乱発され、かなりの冤罪事件が起きることとなった。60年前、狭山事件で逮捕された石川一雄氏は仮出獄した今も「再審を求める抗議集会」を開いている。

大竹野正典氏が永山則夫を主人公に書いた『サヨナフ』や劇団チョコレートケーキなんかに比べるとぬるく感じてしまう。自分は脚本家の笠原和夫のファンなのだが、彼は調査魔で病的に題材について調べ尽くした。殆ど映画には使えない内容なのだが、自身の知識欲、好奇心を充たす為に何の取材か判らなくなる位徹底的にやった。その上で落とし込んだ脚本なので、匂わせたこと敢えて書かれなかったこと一つ一つに意味がある。そんな作品を観たい。
光への道は遠く

光への道は遠く

オフィスリコプロダクション株式会社

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/02 (木) ~ 2023/11/15 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「好男子の行方 ー三億円事件ー​」

開場は開演の30分前、自由席は前売りの整理番号順の入場。
2018年初演。

ステージをかなり狭めて使っている。これは狙いなんだろうが観ている方からすると収まりが悪い。もっと別の工夫をすべき。
昭和43年(1968年)12月10日、東京都府中でそれは起きた。日本信託銀行(現在の三菱UFJ信託銀行)国分寺支店から府中工場へ現金輸送車がボーナスを運搬中。25ミリの雷雨の中、午前9時22分頃、突如白バイ警官に車を止められる。「支店長宅が爆破された。車にダイナマイトが仕掛けられている可能性があるので確認して下さい。」だがそんなものは見当たらない。車の下に潜った警官は「ダイナマイトだ、逃げろ!」と叫んで乗っていた4人を退避させる。車の下からもうもうと白煙が上がる。その車に乗り込むと三億円の入ったジュラルミンケースと共にそのまま走り去った。
映画のオープニングのような鮮やかさ。若き犯人はピカレスクのヒーローとして一躍時代のスーパースターとなった。

事件の三日後、この現金輸送車に乗っていた4人が支店長室に呼ばれるところから舞台は開幕する。

支店長に若杉宏二氏。
次長に坂元貞美氏。
主人公的立ち位置の新入社員は銀(しろがね)ゲンタ氏。フルポン村上っぽい。
運転手に五島三四郎氏。
同乗者に杉木隆幸氏、筑波竜一氏、田中穂先氏。

MVPはノイローゼから奇妙な行動を取り続ける田中穂先氏。オウム真理教の青山弁護士を彷彿とさせる怪演。椅子の脚が一本折れるアクシデントもアドリブで乗り切った。

1975年、沢田研二が三億円事件の犯人役をやったドラマ『悪魔のようなあいつ』。脚本は長谷川和彦!大ヒットした主題歌「時の過ぎゆくままに」が流れるのは小ネタ。

世間体を気にする余り、嘘に嘘が重なっていく銀行コメディ。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

昭和50年代のホームドラマみたいなノリ。喜劇にしても中途半端。オチもイマイチ。時代の空気をラジオから流れるヒット曲だけに頼るのも安っぽい。三億円強奪場面と少年のお通夜は絵で観たかった。

三多摩地区の不良少年達の総称「立川グループ」。窃盗グループのリーダー格の一人、関根篤(仮名)19歳。父親が交通機動隊員(白バイ隊員)だったがグレて鑑別所に入ったり指名手配されたりしていた。第八方面部隊の父親のヘルメットは事件前年、盗難に遭っている。
1968年12月15日、刑事2名が自宅を訪問。母親が息子は不在だと告げる。その後帰宅した父親と関根篤の口論を張り込みの捜査員達が耳にした。午後11時半、119番通報。父親がイタチ駆除の為購入していた青酸カリで自殺。
妹宛に2通の遺書、そして何故か母親の書いた遺書も見付かった。母親が青酸カリによる心中を持ち掛け、関根篤だけが騙されて飲んだと言われている。

「立川グループ」の一人、関根篤の友人18歳のZ。時効寸前、別件の恐喝容疑で取り調べたが到頭何も話さなかった。事件以降、彼が使った金は一億円近く。事件前までは父親がずっと入院、母親の働くスナックに金を無心しに行く程金に困っていた。

新宿でスナックを経営していた26歳のゲイボーイKことY。関根篤と親交があり、彼のアリバイを語った。スナック白十字に朝まで一緒にいた、と。

「立川グループ」の溜り場だった福生のバー、「あんず」のマスターF、当時28歳。父親が警察官。事件後、フィリピンに移住しクラブを経営する優雅な生活。

一橋文哉の『三億円事件』なんかも読んできたが、写真家の水谷幹治氏のブログでの推理が正解なんじゃないかと思った。

ちなみに平塚八兵衛が真犯人と追っていて毎日新聞にリークした牛乳配達の男は逮捕された後、アリバイが証明され警察の大失態となる。これが平塚八兵衛最後の事件となった。

モンタージュの写真は調布市のブロック工事会社社長のもの。事件時には死亡しており、関根篤に似ていた為使用した。
『ぱんだのなきぼくろ』

『ぱんだのなきぼくろ』

ひみつまたたき

スタジオ空洞(東京都)

2023/11/02 (木) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

佐藤美輝さんは元アイドルと睨んだが違うようだ。ルックスが内田理央っぽく派手で目立つ。
さんなぎさんはお腹を出す衣装で異常に細い。この人モテるだろうな、という感じ。親近感と清潔感。整っているのに顔の印象がハッキリしないのも不思議。何か男が惹かれるものを全て持っている。

女性お笑いコンビ、『ハンテン』が解散するまでの数年間をダイジェストで。肝心のネタがイマイチ。台本を読み合わせているだけのように聞こえてつまらない。人を笑わせるということは本当に難しい。さんなぎさんはツッコミ向きじゃないんだろう。小山ごろーさんの方が良かったかも。とにかく観客を笑わせてくれないことにはこの世界に嵌まらない。

事務所のマネージャー役・小山ごろーさんは久本雅美系で何をしても受ける。凄腕。
元芸人の構成作家役・小鳥遊空(たかなしくう)氏はポイズンガールバンドの阿部っぽい。

上京してダンススクールで一緒になった二人。元ヤンのさんなぎさんと人見知りで孤独な佐藤美輝さん。デジャヴに拘る佐藤さんはさんなぎさんとお笑いコンビを組むことに。芸能事務所にスカウトされるも、ピンで天然キャラの佐藤さんだけがブレイク。暇なさんなぎさんは構成作家の仕事を手伝うように。佐藤さんはさんなぎさんが大好きで一緒に仕事をやりたいのだが、そうは行かない。

ネタバレBOX

ラストのネタ、『将来の夢』がよく出来ている。遣り取りに浮遊感があり、何処までも連想力が飛び散って果ては宇宙空間まで。このまま終わりで良かったような。

ファミレスで繰り返されるのは解散を告げるシーン。ここで全く思い入れなどない筈のさんなぎさんが予想外のダメージを喰らうべきだった。「何でこんな痛みを感じているんだろう、私?」、そこに観客もいろんなものを重ね合わせる。「Now and Then」のような気分になる。

ビートルズの最後の新曲、「Now and Then」。
1994年、ヨーコ・オノからポール・マッカートニーに手渡された「For Paul」と書かれた4曲入りのカセットテープ。(諸説ある)。
ジョン・レノンからポール・マッカートニーへのラブソングのようだ。

時々、君を恋しく思う
ああ、時々でいい
僕の傍に居て欲しい
いつでも僕のもとに戻って来て

※ジョン・レノンのデモテープにあったBメロをバッサリカット。タイトに刈り込んだマッカートニー・マジック。レノンのデモに魔法の粉を振り掛けている。シンプルに削り込んだ方が何度でも聴き直す為、名曲になるのだろう。ジョージ・ハリスンの間奏がまた良い。(※どうもポールがジョージ風に弾いたらしい)。
生前、ジョン・レノンがポール・マッカートニーに最後に告げた言葉は“Think about me every now and then, old friend”という。「古き友よ、時々は僕を思い出して」。
その言葉に思い入れのあるマッカートニー(81歳!)がラストの曲としてどうしてもこれを仕上げたかったんだろう。
2023年にビートルズとストーンズの新曲、しかも名曲を聴けるとは思わなかった!
皇国のダンサー

皇国のダンサー

劇団黒テント

ザ・スズナリ(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主演のダンサーが天才作曲家・服部良一氏の次男、服部吉次(よしつぐ)氏78歳!ジャニー喜多川から70年前に受けた性加害の告発で話題となった。「如何に沈黙することが恐ろしいことか。」は余りにも重い言葉。

前作『亡国のダンサー』から6年目、同テーマのリブートなのか、前作を観ていないので判断はつかない。
「大化の改新」と「システムとしての天皇制」がテーマのようにも。

スクリーンに投影される膨大な文章、映像、写真。地下鉄、コンクリート、灰色、雑踏。
「雨が降っていた」「ダンサーはどこへ」

謎の部屋で目を覚ます片岡哲也氏。ずっと倒れていたようだ。そこを管理する者達から極薄スマホのような端末を渡される。「自分の情報を登録するように」と。だが何度名前を入れてみても入力されない。閉ざされた部屋で何も出来ずじっとするのみ。
ある日、渡されたゴーグルを掛けると部屋の隅に女性(岡薫さん)が倒れている姿が見える。ずっとこの部屋にいたらしい。女性は更にもう一人の人物の気配を感じると言う。その老人こそ、服部吉次氏。フレッド・アステアのムードで軽やかに舞台を彩るステップ。
どうやらここは地下もある巨大なビルらしい。長い坂を登り切った先にある。窓から見える風景が妙に懐かしい。

別役実っぽく、押井守の『イノセンス』や大友克洋の『AKIRA』のようでもある。『アルファヴィル』や『未来世紀ブラジル』を連想させる近未来ディストピアの管理社会、無数に続く質問攻め。
問い掛けのされない答がそこらの床に雑然と転がっているが、誰もそんなものには見向きもしない。答ではなく、質問にしか人は興味を示さないからだ。

ネタバレBOX

序盤から眠りに落ちる客は多かった、まあテンポがのろいので面白くはない。ただ観客席はぎゅうぎゅう詰め。古くからのファンが詰め掛けているようだ。草薙素子とアムロ・レイの名前が唐突に出て来た時の異化効果が凄かった。(アムロ・レイは古すぎるが)。

現行プログラムを自ら書き換える為にサイバースペース内で「大化の改新(乙巳の変)」を行なう必要があった。それにはダンサーが必須。ダンサーを捜し続ける者達。

「乙巳の変(いっしのへん)」、645年に中大兄皇子と中臣鎌足等が蘇我入鹿を暗殺した政変。その後の改革を「大化の改新」と呼ぶ。このクーデターにより皇位を奪おうとまで画策していた最高権力者、蘇我家直系は絶えた。
その暗殺の際、用心深い入鹿を丸腰にしたのは俳優(わざひと)。俳優の滑稽な仕草に気を許し、つい剣を手渡してしまう。それが今作ではダンサーと呼ばれる存在。

滝本直子さんの亡き父(高校の教頭)、服部吉次氏。前妻の息子、片岡哲也氏。父の愛人、岡薫さん。サイバースペースのアバターとして侵入し、目的を遂行しなくてはならない。ダンサーは踊らねば。

※オウムのPSIヘッドギアが好き。
未開の議場 2023

未開の議場 2023

萩島商店街青年部

北とぴあ ペガサスホール(東京都)

2023/10/31 (火) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「ロックオンドアテンドサイド(?)」

チャップリンの名作『独裁者』に登場する架空の国トメニア。王子駅近くにある居酒屋「和奏酒 集っこ」ではそのトメニアの名物料理、タリッパを期間限定で食べることが出来る。ボルシチ系の長時間煮込んだ鍋料理、ローズマリーとレモンの風味。ポトフのように野菜の香りがムンとする。開演前からハマカワフミエさんが実際に作っていて、本当に匂いから美味そう。討論よりそっちにばかり気を取られる。

視覚障碍者の観客への試みとして、上演前に出演者による舞台の配置、服装や髪型の説明が入る。ラジオ・ドラマとして聴いても楽しめる作品のようだ。感想を聞いてみたい。
演出家の降板により、途中から演出協力として参加したのが須貝英氏。

架空の地方都市にある萩島町で、商店街青年部が主催する「萩島フェスタ」。トメニア人労働者が多数暮らすこの町で友好親善を深める為のイベントにしようと目論む面々。町役場の商工観光課は町おこしとして成功させたい。だがトメニア人のボランティアをスタッフに入れるかどうかで会議は揉め出し、雲行きは怪しくなる。更にメンバーの誰かがTwitter(X)に会議の悪口を書き込んでいるらしい。

トメニア人の設定には埼玉県川口市に2000人以上居住しているクルド人を想起。外国人との共生という近い将来日本に立ちはだかる大きなテーマ。もう他人ごとではなく、実際に日本人の意識改革が問われることになるのだろう。

NPO法人代表の原啓太氏はトメニア人に肩入れするばかりに感情的に喚き散らす男をリアルに肉付け。発達障害っぽい。自分だけが正しいと信じるが故、違う意見をヒステリックに否定して回る。全く会話が進まない。
地元のケーブルテレビ局から情報を発信するディレクター、コロブチカさん。森達也っぽい雰囲気で女子プロレスラーのようなガタイ。冷徹な目線。
MVPはカフェを経営しているハマカワフミエさん。今作で観るのは4作目だが、どの役にも同一性がなく、未だにどういう女優なのか全く掴めない。今作では辻希美みたいにひたすら可愛らしかった。

トメニアのことわざ、「ロックオンドアテンドサイド(?)」。「なるようになるさ」。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

Twitterの犯人探し、町屋商店(いや、スーパーマチヤ)の安藤理樹氏がホワイトボードで謎を解いてみせる。犯人のアカウント名をアナグラムと見抜き、数字の94をダンテ『神曲』の第九圏、第四の円のジュデッカ、すなわちイスカリオテのユダであると!Q.E.D.(証明終了)!
コンビニ・ララマートの店長、湯田さん(石井舞さん)が慌てて否定。「適当に並べただけで、そんな厨二病みたいなことしないわよ!」
このシーンが一番好き。その後、無言を貫く安藤理樹氏は三四郎の小宮みたいでカッコイイ。

討論の行方は、トメニア人を嫌う石井舞さんを排除せず、嫌いな立場のまま参加させる。嫌いな人間も存在する、この世界の受容。その現実を現実として受け入れようと。

だが、ハマカワフミエさんには納得出来ない。「そんな催し物に価値はない。嫌いなままで無理して実行する行為に意味がない。内容の伴わない馴れ合いだ。皆でカタチだけ友好フェスティバルを演じてみせて何になる?それならばやらない方がいい。」
ここからやっと自分的には面白くなる議題なのだが、そこで終了。ここからは個々人で持ち帰るテーマ。

イスラエルとパレスチナの問題とだぶり、誰にも正解は選べない。俳優座が2月に演った『対話』がどれだけ素晴らしかったかを再確認。殺したくなる程憎んでいる人間との共存。だが現実は現実、何も選べないという選択を選ばされる。

元々は群馬県大泉町がモデルのよう。人口の二割が外国人。
フィアース5

フィアース5

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/10/27 (金) ~ 2023/10/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

猛烈な5人。フランスのラファエル・ボワテルさんが伝統的サーカスをオマージュし、「現代サーカス」の核となる“融合”を無声映画的に演出。テーマは日本のことわざ「七転び八起き」。5人に加え、クラウン的役回りの山本浩伸氏と技術監督的役回りの安本亜佐美さんが舞台を補佐する。

圧倒的体験。憂鬱なんて吹っ飛んでしまう。超絶身体能力の5人が目の前で神業を披露。バスター・キートンやジャッキー・チェンの世界観。香港功夫映画の組手、詠春拳のような動きが散りばめられている。痛快なパンクバンドのLIVEのように鮮烈。特殊能力を持って生まれたミュータントのような5人が、その能力に悩み苦しみながら宿命を背負って歩き出す。

①綱渡り、吉川健斗氏。冒頭から手に汗握るバランスの妙味で観客の心を鷲掴み。
②エアリアルフープ、長谷川愛実さん。空中から垂れ下がる輪っかに掴まり、まるで体重なんかないように高速回転し続ける。舞踊の域ではなく、体操競技のように。
③ジャグリング、目黒陽介氏。何かに取り憑かれたようにジャグリング(お手玉)を繰り返す。
④エアリアルロープ、アンブローズ・フー氏。浅沼圭さんとの二人羽織風演武ダンスも見事。
⑤ワイヤーワーク、浅沼圭さん。ステージ上に撒かれたパウダーの上でズルズル滑りながらの軟体ダンス。ハーネスを装着して皆に引っ張り上げられながらの空中舞踏。下半身に血が通わず、痺れて激痛らしい。

ジャッキー・チェンに夢中だった日々の事を思い出す。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

前半が余りにも凄すぎて後半は見慣れてきてしまう。「序破急」のスパイスが欲しい。
アフタートークで明らかになったのはわざとパウダーを撒いて床を滑りやすくする理由。非常に危険な為、出演者が本気になってそれに立ち向かう様を表現したかったとのこと。全員脚の筋肉がパンパンに腫れ上がっているそうだ。まさに成龍魂。
サンタクロースが歌ってくれた

サンタクロースが歌ってくれた

キャラメルボックス・ディスカバリーズ

新宿スターフィールド(東京都)

2023/10/26 (木) ~ 2023/10/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

(Xチーム)

全く期待していなかっただけに驚く程良く出来ていた。
ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』という傑作がある。大の映画ファンのミア・ファローが大好きな映画を観に毎日映画館に通い詰める。すると登場人物の一人がずっと自分を見詰めているミアのことが気になってくる。到頭スクリーンを抜け出てミアに話し掛けてしまう。映画内は登場人物が欠けた為、進行出来ずパニックに。そんなてんやわんやのコメディ。今作はそれを踏襲している。

『ハイカラ探偵物語』という映画を観に行く主人公(中尾彩絵〈さえ〉さん)。誘った友人(石森美咲さん)が来ないので遅れて一人で観始める。全く不人気でしかもクリスマス・イブの為、観客は主人公一人。内容は大正の華族の洋館に怪盗黒蜥蜴からの犯行予告。警部(田中のぶと氏)、若き日の芥川龍之介(辻合直澄氏)、平井太郎(後の江戸川乱歩)〈齋藤雄大氏〉がそれを阻止する為集まる。だが・・・、重要な登場人物が突然いなくなってしまった。どうも捕まるのが嫌で映画の外に逃げ出したらしい。

ヒロインの和田みなみさんが昔女優を目指していた知り合いに似ていて感慨深い。彼女はハッピーな展開を迎えて欲しいもの。
令嬢役の南澤さくらさんは白目を剝いて女・函波窓といった怪演。
警部役の田中のぶと氏は無声映画の一人アクションで場内を大いに沸かす。
石森美咲さんはベテランの手堅さ。
芥川龍之介の婚約者役の環幸乃さんは流石に場を回す。
挟まれるダンスが可愛らしい。

劇団の代表作と謳われるだけあって、工夫が凝らしてある。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

観客が主人公一人の為、大きなパニックにならないのが演劇らしいが勿体無くもある。映画から人が飛び出して来たのだから、とんでもない事件にならないとおかしい。まあその辺が難しい塩梅なのだが、この大事件の中でキャラクターの恋愛の真相解明の為に登場人物達が駆けずり回るアンバランスさを売りにしても良かった。
検察側の証人

検察側の証人

俳優座劇場

俳優座劇場(東京都)

2023/10/22 (日) ~ 2023/10/28 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1984年12月9日の日曜洋画劇場、『アガサ・クリスティの検察側の証人』が放送。1982年製作のTVドラマ版。今作にもの凄いインパクトがあって衝撃の結末としてこびり付いている。原作の小説を読み、名作と誉れ高いマレーネ・ディートリッヒ版の『情婦』も観た筈だが全く記憶にない。ファースト・インパクトが凄すぎたんだろう。あの時の衝撃を求めてもそれはもう無理。ウォーレン・ベイティの『ディック・トレイシー』でもマドンナが似たような役をやっていた。
今回もやはりあの時の衝撃を求めていたが、確認する作業になってしまったのは仕方がない。

だが初見の人には絶対的にお薦めする。
全く情報を入れずに観に行って欲しい。
創立79年劇団俳優座、六本木駅前の俳優座劇場は2025年4月末日に閉館。正念場に立つ老舗劇団が34年振りに絶対的自信作を世に問う。
これを観ずしてミステリーを語るなかれ。
逆にまだ未見の人が羨ましく思える程。
オリジナル中のオリジナル、必見。

重厚な役者山脈。舞台美術も小道具も文句の付けようがない。この座組に入れるだけで誇れる。
主演の法廷弁護士は金子由之氏。
付き従う事務弁護士に原康義氏。
二枚目の容疑者に釆澤靖起(うねざわやすゆき)氏。
そのドイツ人妻に永宝千晶(ながとみちあき)さん。
被害者の家政婦は井口恭子さん、流石の腕前。
凄腕検事に志村史人氏。「んんんんん」とウイッグを弄る癖だけで観客がどっと沸く。
法廷書記は武田知久氏。『犬と独裁者』のソソ役が強烈。普通に何をしても目立ってしまう異才。
法律事務所秘書の音道あいりさんはかなり印象を残した。

MVPが永宝千晶さんになるのは当然。小池栄子っぽい貫禄。彼女と観客の戦いになる戯曲なのだから。
何度でも観たい作品。

ネタバレBOX

ミステリーの女王、アガサ・クリスティの1925年発表の短編『検察側の証人』。犯罪者が罰せられないことを非難され1953年戯曲化の際、更にオチが付け加えられた。それが自分には不満で蛇足にしか思えない。
1957年ビリー・ワイルダー監督が『情婦』として映画化。その後も延々と作品化され続けている。

妻の自己犠牲的な純愛が胸を打つのだが、それすらも男に欺かれていたエピローグがつまらない。どんでん返しの為のどんでん返し。逆に文学性を損ねてしまい作品の質を落とす。こんな屑男を愛してしまった女の哀しさが主旋律なのに。

契約的に戯曲を弄れないのだろうが、容疑者と妻のドイツでの出会いなど映像化したいシーンは多々ある。ドイツ女が大戦後イギリスで生きることの辛さなど、想像するに余りある。ただのどんでん返しものとするには惜しい。
写真

写真

劇団普通

カフェムリウイ「屋上劇場」(東京都)

2023/10/19 (木) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「そうでしょうよ。」
「いい〜よ。」
「なにい?」
「な〜んだろ。」
「いいでしょうよ。」

後藤飛鳥さんは青春事情の『ちーちゃな世界』で若年性アルツハイマーの役が強烈だった。八木亜希子っぽい。
その夫、近藤強氏はやたらガタイがよく、晩年の木村政彦を思わせる。
後藤飛鳥さんの弟は用松亮氏、今作では岡田斗司夫っぽかった。

茨城の片田舎に家を建てた姉夫婦、子供はいない。自動車整備工場で働く独身の弟がたまに顔を出す。

旬の天才を味わえる稀有な空間。東京03がずっとやっていくとここに行き着くのでは。笑いを求めないコント。じゃあ何を求めるのか?それは観てのお楽しみ。

ネタバレBOX

やはり登場人物は先の話をする。老後、介護、その先は死。語るべき話なんて身の回りの細々とした出来事を話し終えたら、それしか残ってない。「誰かいい人いないのか?」「この先どうする気なんだ?」
滅びていく家族の話にやたら拘る作家。大丈夫、みんな滅びるよ。消えて無くなるよ。
「アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ」
DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

KUROGOKU

王子小劇場(東京都)

2023/10/18 (水) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

〈team L〉
流石に打ちのめされた。
1982年12月24日夜7時10分、横浜市の女子中学三年生3人が磯子駅近くのビルから次々と飛び降り自殺をした。ごく普通の明るい子達、全く理由も分からず。
遡って1977年6月25日夕方、愛知県の五条川で同じく中学三年生3人が手を繋いで川へ飛び込んだ。二人溺死。
今作は1983年初演。これらの事件の真相を如月小春さんなりに解き明かしてみせたもの。
尾崎豊のデビューは1983年12月、時代はまだ見ぬ新しい価値観を欲していた。

聖子ちゃんカットの平均的少女は松井愛民 (あみん)さん。ニコニコ誰とも何となく付き合える。
ガリ勉優等生は藤山ももこさん。医師になる使命感が強い。
マイルドヤンキーは柊みさ都さん。独りで在ることをを凝視する人生観。
幼児性の強い甘えん坊は石田梨乃さん。リアル。
委員長的責任感の元山日菜子さん。水トちゃんっぽい。

この5人が私立高校の寄宿舎で同部屋で暮らした一年間を、事件後の大人達が調査する。彼女達に一体何があったのかを。

この作品は今の女子中高生にこそ観せるべき。
一体自分達をずっと苦しめ続けているものの正体は何なのだろう?言語化出来ずずっと感じてきたもの。どうも何かが決定的におかしい。
「あ、海が白くなってきた!」

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

戦前の『死のう団事件』を思わせる少女達の呼び掛け。
自殺を完全に正当化する反転した主張は当時衝撃的だったろう。鶴見済の『完全自殺マニュアル』なんかもそうだった。そこに嘘がない。『囚われ』や『計らい』がない。『ライ麦畑でつかまえて』で一番印象に残るエピソード。寮で飛び降り自殺をした友達が着ていた、自分が貸したセーター。まるで自分の身代わりのように。

[team R]には身体ゲンゴロウの柳町明里さんが出演。気になる。
欲を言えば、傑作『ピクニック at ハンギング・ロック』のように消えていく少女達の永遠性を視覚的に表現して欲しかった。言葉では言い表せないものを顕現させる魔法。その余りの美しさに善も悪も溶けていく。

エレファントカシマシ『太陽ギラギラ』

どうした、その顔?皆楽しそうだよ
ああ、俺には分からない
ああ、本当に楽しいの?

空を飛ぶ鳥、愉しげで・・・
ああ、おそらく俺は幸せさ
本郷菊坂菊富士ホテル

本郷菊坂菊富士ホテル

劇団匂組

シアター711(東京都)

2023/10/18 (水) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

チケット受付、ド素人の仕切りで開演前からパニック。誰一人責任者がいない。中学生か?本当にこれ大丈夫なのか?誰もが不安に思いつつ茫洋と佇む。受付も全く始まらず、開場時間になっても混乱。質問に答えられる者は誰もいない。何故か衣装の洗濯とゴミ出し。
「ゲネプロが演出家の駄目出しで押して・・・。」
イライライライラしている人々。場慣れしたおばちゃんのお客さんが仕切って並ばせる。「いや、これ既に演劇が始まっているんじゃないのか?寺山修司の遣り口だ。」なんて思いつつ。

昔、神保町の馴染みの中華屋で海老のチリソース煮を頼んだ日のことを思い出す。随分待たされてやっと出た物は糞不味くてとても食えたもんじゃない。店長達が休みで中国人のバイトしかいなかったのだ。皆で話し合って何とか作ったらしい。会計の時、「半額でいいです。」と言われた。いや、作れないんなら注文の時そう言ってくれよ。開演前からそんな気分にさせるこの劇団。何でチケットを予約したのかもう思い出せない。

始まってみると随分しっかりとした舞台。よく纏めたな、と脚本に感心した。
1967年瀬戸内晴美の『鬼の栖(すみか)』、1974年 近藤富枝の『本郷菊富士ホテル―文壇資料』、1977年羽根田武夫の『鬼の宿帖』。1975年実相寺昭雄のTV番組「本郷菊富士ホテル 大正遁走曲」(『歴史はここに始まる』)。1998年森光子主演の舞台『本郷菊富士ホテル』。他にもドラマや劇画など無数に存在するこのホテルをテーマとした作品。どれも観たことがないのでどこまでオリジナルなのかは不明。
『美しきものの伝説』と時代背景、登場人物は重なるので観ていると判り易い。

大正3年開業の帝大(現・東大)近くの高級下宿屋「菊富士ホテル」。田舎から上京して来た金井由妃さんは地元の親友、飯沼りささんに逐一手紙を送る。「憧れの東京で女優になってやる」と。住み込みとなるホテルの女将は上杉二美さん。そこには当時を彩るスター達が逗留し訪れては去って行く。大杉栄(坂西良太氏)、伊藤野枝(俊えりさん)、竹久夢二(生亀一真氏)、お葉(兼平由佳理さん)、谷崎潤一郎(小磯一斉氏)、佐藤春夫(坂西良太氏二役)などなど。島村抱月と松井須磨子の芸術座で研究生をしている上村いそ(森田咲子さん)も重要な役回り。

MVPは上杉二美さん。お尻振り振り観客を沸かす。金の取れる腕を持ついい女優。
加えて主演の金井由妃さんと森田咲子さん、この3人が舞台を見事に回した。舞台上の空気感を担う名演。
変態性欲者の小磯一斉氏も名助演。

上村いそは水谷八重子がモデルなのか?と思ったが違うっぽい。結局誰にもなれなかった者達が時代の天才達と交わったひと時の宴。寂しさと侘びしさとほんの少しの誇らしさ。
女将の口癖「まあ、ええわいな。」がリフレイン。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

開演前SEは何故かエリック・クラプトン。
「嫌なニュースを聞いて憂鬱を蹴り飛ばしたい時にはコカインを!彼女は嘘をつかないよ。」

話はエピソードの垂れ流しに終始。そこにはやはり時代にボロボロにされた語り手が必須。「全てを失った今、思い出されるのはそう我が青春の『菊富士ホテル』!」でないと、ぐっと来ない。主人公が傍観者に徹している為、エピソードに味付けが足らない。全ての登場人物に交流を求められるも器用にかわすフォレスト・ガンプにした方が盛り上がった。(あの時ああしていれば運命は変わっていた、的な)。観た客に何を伝えたかったのかが散漫。ネタは面白いだけに残念。

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