1
笑顔。(すまいる)
劇団光希
「認知症」を真正面から描きながらも、笑顔を絶やすこと無くその先へと進んで行こうとする力強い作品。
家族にとってはどう向き合えば良いのか深刻な問題であり、その明確な答えを出すのは難しくとも、作品の中には沢山のヒントが詰まっていたのではないかと思います。
作品、劇団さん共に2017年の最も大きな出逢いでした。
2
豪雪(ごうせつ)
good morning N°5
コメディーという枠など一気に飛び越えたハイパーカオスショー。
入場時から既に、これから半端ないモノが始まるぞ、という空気に胸は高鳴り、実際始まれば劇場のキャパを超えまくったエネルギーが怒涛のように押し寄せてくる快感。
豪傑女優さん達で結成されたgood morning N°5は毎回いろんなゲストが参加されますが、どの役者さんもgood morning N°5色に染め上げられて驚きます。
今回も個性の強い役者さんはよりハイパワーに、イケメン俳優さんも、帝劇「モーツアルト!」の高橋由美子さんさえもgood morning N°5色に!
染めるgood morning N°5も凄いし、染められる役者さんも凄いと思います。
毎年恒例となったこの舞台に、感動しては前回公演DVDを購入して帰るという事を何度か繰り返していましたが、前回驚くほど女性観客率が高く「ひょっとして女性向け公演にシフトしている?」という思いと「でも男が観ても全然面白いしなー」という思いとで少々迷ったなか縁あって今回も観劇。
見逃さずに済んで本当によかったッ!男性観客もめちゃくちゃ増えていてブラボーッ!
観終わった後は元気いっぱい、お祓い効果ぐらいあるのではないかと。
恒例の前回公演DVDを購入し、もはや観念して株主加入へ。そう、これでいいのだ!迷う必要なし。
当然病みつきになる人は多いと見受けられ段々チケットが入手困難になっていくのではないかという心配はあるのですが、彼女達の並みならぬエンターテインメント精神と努力が大きく実ってくれると本当にいいなーと思います。
3
「緑のオウム亭ー1幕のグロテスク劇ー」
雷ストレンジャーズ
外は革命直前の物々しい状況。にもかかわらずエンタメボケした貴族達が「犯罪人ごっこ」に現を抜かし、挙句の果てに右往左往するであろう姿を苦々しく楽しむ予定の観劇でした。
ところが実際には、どれが本当の犯罪でどれが即興芝居なのか区別がつかなくなり頭が混乱してくる中、これはちょっとヤバいだろうという状況になった時、なんと自分自身も作中の一人の貴族と気持ちがリンクしてしまい「こんな面白い場面、めったに観られるものじゃないっ!もっともっと刺激をカモーン!」と欲求心に火がついてしまっていました。
自分にもこんな野次馬根性が潜んでいたとは。まさに貴族と一緒にエンタメ亡者に成り果てました。
まんまと演出の術中にはまったというわけです。
通常の場所以外に色々変わった所にも設置された座席。
舞台デザインからしてどの席から観ても面白そうで、どこに座ればよいか非常に悩ましいところ。
今回選んだ席の場合、何やら観客の私達も演出のひとつとして活用されていた様な気もしますが、それを含めて普段の観劇では中々無いアングルを楽しめました。
盗んできた宝飾品を女達がキャーキャー物色している場面で、チョイ太目の貴族が近くに座っていた女性客に「貴女も参加しませんか」と話しかけたのが聞こえてきて笑ってしまいました。
んなっっ出来るかっ!と心の中でツッコミを・・・もちろん丁重に断っていらっしゃいました。(笑)
4
60'sエレジー
劇団チョコレートケーキ
生きた昭和の歴史を見る事ができた。
演劇という概念を超え、当時の生活者のエネルギーと将来への不安を目の当たりにし、何故だかまだ序盤だというのに目頭が熱くなってきました。
口が悪いながらも思いやりに満ち、裕福でなくとも精神的豊かさを持った人々の心情に触れたからだろうか、それともその先を生きる者として、この家族の行く末をおぼろげながら予見してしまうからだろうか、どうしようもなく心が小刻みに震えてきてしまいます。
「もっと時代を読んでこうした方がいいのに」とか何度も主人に対してお節介にも助言したくなる部分が多々ありました。が、しかし観終わった後、要領がいいとか悪いとか関係無く、その激動の時代を信念を持って生き抜いてきた人々の生き様に対して尊敬の念を抱くしかありません。
そして、ただただ無防備に感動の渦に巻き込まれるしかありませんでした。
5
三編の様々な結末
東京ストーリーテラー
今まで朗読劇なるものを何度か観劇し、いずれも高レベルなものだったと思えますが、今回遂に出会えましたキングオブ朗読劇。
基本的に朗読者のビジュアル・表情がベースとなり登場人物のイメージ達が膨らみ、まるで流れ込むように物語の情景が頭の中に広がっていきます。
いずれも心の琴線に触れる作品ばかりで、不思議な空間に迷い込む第2話もよかったですが、明確な情景がしっかりと目に浮かぶ第1話・3話が突き刺さりました。
特に第3話『杉山さん』、娘の思春期的バトルモードには冒頭から笑いを堪えるのに必死だったのが、いつの間にか嗚咽を堪えるのに必死、に変わっていました。
溢れ出る涙でとてもじゃないが舞台を見ていられない状況でも耳から流れ込んでくるその情景。これが朗読劇の醍醐味かっ!と痛感しました。
通常の役者さんが喋る「台詞」に加えて、「心の声」が事細やかに表現できる朗読劇ならではの強みが、存分に発揮されていたと思います。
第1話が強烈なインパクトで余韻を残すために第2話はちょっと可哀想な配置だったかも。
6
ビートバン・ゴー!ゴー!
ジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン
全く異なる3つのオムニバス。
金子みすずじゃないけど「みんなちがって、みんないい」
オムニバスで全てが遜色なく面白いのは意外になかなか無い。
作品ごとにセットは素早く入れ替えられ、役者さんの使い回しは一切なく、何とも贅沢に楽しめました。
全ての役者さん各自に、最も得意とするキャラクターが与えられている様子で、生きたキャラクター陣は観ていて心地いいものです。
絶妙なシチュエーションの鉱脈を探し当てているのが3作品の共通点。
第1話 市民プールの事務室
Hな記録手帳の存在が若者の性欲をざわめかせる。
プール監視員のコスチュームが妙に生きる。
淫靡な雰囲気にちょっと気まずいけど、すごく面白い。
第2話 パチンコ店の駐輪場
欠落感ある人達の、いかがわしさ漂う出会いの数々。
ちょっと不幸、でも何だかおバカで平和な空間。
第3話 産婦人科病棟の一室
相部屋ゆえの感動と滑稽の混沌。
昔何かのイベントで加藤鷹がゲストで来ていて、完全なカリスマ的存在として君臨していた妙な空気感を思い出します。
7
ルート64
ハツビロコウ
ハツビロコウさんの作品は初めてでしたが、あえてセット等を抽象化し、全神経を役者さんの演技に集中するよう仕向けたうえ、登場人物の内面を抉り出して観せる感じは、何度か拝見したTHE・ガジラさんの流れを強く感じました。
犯罪を犯した当人が憑依しているが如く、役者さんの渾身の演技に対しては、観る側も真剣に向き合わなければ!と襟を正す思いで拝見させていただきました。
崇拝者を否定したくないが為、矛盾や拒絶感に無理矢理フタをして、それでも噴き出してしまう感情の塊に絶句!の連続でした。
おそまつに思える程のミス連続。
それを見るにつけ、この人達はやっぱり殺人など犯したくなかったんだなーと。
やめちまえばいいのに、というイライラ感と、引き返せない痛々しい想いが怒号と共に突き刺さります。
8
ある愛のかたち
ジ~パンズ
いろんな形の「愛」が描かれていました。
どれも世間的には嘲笑の的になってしまいそうな「愛」ばかりでしたが、概ね「愛」という事で、ここはどうかひとつ・・・。
そしてそれぞれの「愛」の関係性が繋がっていく面白さがたまりません。
都会に散らばる、ちょっと変わった日常を抜群のセンスで拾い上げたアダルトワールドな作品。
例えはヘタかもしれませんが、ひとつの屍をワサワサと踏みつけ、逞しく生きる虫たちの様な生命の力強さを感じました 皆「愛」を貪りながら。
9
金色夜叉『ゴールデンデビルVSフランケンシュタイン』
劇団ドガドガプラス
“初”ドガドガプラスさん観てきた・・・なんだかスゴイ達成感。
今までクラシカルなイメージが先行して敷居が高いのでは、と勝手に思っていましたが、賑やかでアットホームなお出迎えで一気に親近感。
笑える前説パフォーマンスに会場もくつろいだ雰囲気。
この感じなら気軽に楽しめる娯楽作品という事でOK。 かと思いきやそうそう単純ではなかった。
金色夜叉をベースにした登場人物はドガドガ風味に濃ゆく味付けされ、脇役に甘んじている役者さんは一人もいない。
フランケンシュタインへ繋がる流れも独特の世界観で、演出家のエネルギーと役者魂が渾然一体となり更には女優さんのお色気も相まって、観終わったときにはもうフラフラになっていました(笑)
とてもじゃないが「気楽」では済まないくらい盛り沢山だったなーと。
綺麗なお姉さん系の女優さんが非常に多く、そこはもっと外にアピールした方が絶対いいと思いました。
女達の情念、圧巻です。
いろんな意味で盛り沢山だったので消化しきれなかった思いも残りました。
日清戦争のからみは終盤に新聞記者の語った考察に帰結したという解釈でよかったのだろうかとか・・・
エンターテインメントに特化すれば、更に一般受けする作品になるとも思えますが、演出家さんの想いとのバランスが丁度よければBEST。
10
SIMPLY BECAUSE IMITATION -偽物だからこそ-
SECOND・N PRODUCE
あらすじとタイトルからひょっとして!と予想していた「彼女の秘密」がピッタリ合っていました。
「笑わせる」ことに相当熟練した劇団で、ちょっとしたトラブルも素早く笑いに取り込みます。
笑いのツボに一度ハマると次々とやって来るオモシロの波に、ただただ笑い転げてしまいました。
そこらじゅうで笑いが起こっているので変な遠慮をする必要も無く、とても良かった。
このイイ感じまでは、あらすじからはとても読みきれるものではありません。
台詞が逐一面白く、滑舌と絶妙な間合いが必須ですが森脇和成さんも堂々の主演っぷりで舞台にすっかり溶け込んでいました。
終盤では場内からすすり泣きがあちこちから聞こえてきます。
私としては「もうあと一層ほど深ければ完璧なんだけど」などと思いましたが「終始笑い転げておいて何を言っておる!」と天の声がツッコミをいれてきそうです。
公言どおり息もつかせぬ公演でした。