ブロッケンの妖怪
東宝芸能・キューブ
THEATRE1010(東京都)
2015/10/30 (金) ~ 2015/11/01 (日)公演終了
満足度★★★★
個性のぶつかりを彩った演出
竹中直人と生瀬勝久の二人で「竹生企画」というのを作ったという。旗揚げ公演が4年前、「ヴィラ・グランデ 青山~返り討ちの日曜日」。今回は第二弾といい、演出は再び倉持裕が担当した。
この作・演出の妙が、超個性派の二人を見事に輝かせたと言ってよい。ブロッケン現象をモチーフに作られた物語は、奇想天外とまではいえないかもしれないが、舞台での次の展開にワクワクさせられ、十分に楽しめる2時間だった。
また、今回が初舞台という佐々木希だが、役者としては力量が問われる設定なのに、演じ分けはお見事だった。次の舞台が待たれる出来だ。
映像も効果的に使い、舞台の妙である早替わりも存分に披露して、あっという間に時間が過ぎた。「あ~おもしろかった」と言える舞台だから、見て損はありませんよ。
西遊記
流山児★事務所
ザ・スズナリ(東京都)
2015/10/22 (木) ~ 2015/10/28 (水)公演終了
満足度★★★
踊る、歌う、西遊記
流山児★事務所の本領発揮の舞台。何度も何度も繰り返すデジャビュ・シーンに頭がしびれてくる。これでもかと脳天を突き刺す役者たちの姿に、満員の下北沢・スズナリが異次元に入っていく。
ただ、こういうテイストに拒絶感のある人がいるかもしれない。劇薬注意、という感じでしょうか。
これをひっさげて、アジア諸国を回るという。性別も、国籍も、年齢も超えるという流山児の挑戦に、アジアの演劇ファンはどんな反応なのか。期待したい。
オバケの太陽
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2015/10/23 (金) ~ 2015/10/30 (金)公演終了
満足度★★★★
東憲司さんの演出に拍手
ひまわりの花があふれた、昭和の香り漂う舞台で、物悲しくも一筋の希望が見える物語が進行する。劇団桟敷童子が炭鉱3部作と銘打った第一弾。
どの俳優もイキイキして、テンポのいい舞台だ。客演の青年座、尾身美詞もさすがの貫録。各劇団から集まった女優だけのユニット・オンナナの舞台も見たが、ひときわ輝いていた。
炭鉱町の記憶は遠くなりつつあるが、人間らしさで支えられていたのだ。ラストシーンであっと驚く展開をしてみせた、東憲司の演出も光った。11月から始まる2作目への期待も高まる。
谷間の女たち widows
劇団昴
あうるすぽっと(東京都)
2015/10/17 (土) ~ 2015/10/25 (日)公演終了
満足度★★★★
女たちの躍動を見よ!
主役は、老婆ソフィアを演じた久保田民絵さんである。だが、谷間の川で洗濯をする女たちは、どの人も夫か父か、兄弟かを連れ去られて行方知れずだ。群像劇というわけではないが、どの役の女性も強烈な存在感を発揮し、舞台で輝く。劇団昴の女優たちが総力を挙げている。
それは、舞台装置が非常にシンプルで、女たちの全身の演技が、せりふと共にあふれ出てストレートに伝わってくるからだ。最初は抑圧に沈黙していた女たちだが、愛する家族を返してほしい、死んでいるのなら遺体を埋葬させてほしい、そして、その結果を招いた人を処罰してほしいと、ごく当然の要求を口にし始める。
もう一つの見どころは、表面的には民主主義に理解がありそうな隊長と、抑圧し沈黙させることが平穏の鍵と考えている副官の対立である。女たちの変化によって、隊長はどう変わっていくのか。ここに男たちの現実を見る。
自意識が過剰で、物わかりの良さそうな権力者ほど怖い、という歴史の教訓を明確に示した舞台。別に、わが日本国の今の総理のことを皮肉っているわけではありませんよ。
リクレイムド ランド
Oi-SCALE
駅前劇場(東京都)
2015/10/21 (水) ~ 2015/10/26 (月)公演終了
満足度★★★
被害者家族の肖像
開演前から舞台袖にある二つのモニターで、死刑制度に賛成か反対かのインタビュー映像が流されている。この舞台が死刑制度をテーマにしているからなのだが、戯曲の中核を成すものは、被害者家族の「ある選択」だ。
死刑は何のためにあるのか。犯罪の抑止か、それとも究極の「償い」か。それとも被害者による復讐の姿なのか。犯人は死んでも、殺された大切な人は戻ってはこない。大切な人であればあるほど、家族が究極の選択に走る可能性はあるだろう。
細かいところに異論はなくもないが、よく練られた台本だと思った。
追加:舞台とはあまり関係ないけれど、前説で「携帯電話の電源を切って」のアナウンスがなかった。そのためかどうかは分からないが、上演中に携帯電話の画面で時刻を見ているマナーの悪い客がいた。せっかくのいい舞台だったのに、とても残念。
モーツァルト/歌劇『フィガロの結婚』 ~庭師は見た!~ 新演出
東京芸術劇場
東京芸術劇場 コンサートホール(東京都)
2015/10/24 (土) ~ 2015/10/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
オペラと演劇の融合
制作発表の時に野田秀樹さんが言っていた、「オペラと演劇の融合」を十分に堪能できた。さらに、イタリア語と日本語のシームレスな歌唱、そしてせりふ。欧州で生まれ育ったオペラが、大和撫子と結婚したような舞台だった。
フィガロを「フィガ郎」とするネーミングは、発表の時は違和感を感じたけれど、実際に見てみるとすんなりというか、ぴったり来るから不思議だ。「庭師は見た!」という副題のように、庭師アントニオ(アントニ男)を狂言回しに使い、舞台は純和風。和風なんだけど、伯爵夫人の洋装はまったく違和感がなく溶け込んでいる。
このあたりが百戦錬磨の野田さんの演出だろう。さらに、オーケストラピットが客席からきちんと見えて、指揮者の井上道義さんのタクトも堪能できる。
見ないと損!と申し上げます。
諸国を遍歴する二人の騎士の物語
劇団テアトル・エコー
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2015/10/16 (金) ~ 2015/10/28 (水)公演終了
満足度★★★★
人生の年輪には勝てない
別役実フェスティバル参加作品。彼の不条理劇のうちでも非常に示唆に富んだ名作を、テアトル・エコーの名優たちが演じた。「殺さなければ、殺されるよ」。この舞台を貫くテーマは、戦争から遠い時代は「不条理劇」だったかもしれないが、戦争ができる法整備がなされた今は舞台の上でのできごとではなく、現実のことになっている。だから、これはもう不条理劇ではないのかもしれない。
当初のチラシには、「熊倉一雄と沖惇一郎、合わせて173歳の二人の騎士が『生きる手段』を忠告する残忍なドン・キホーテ」とある。ところがこの舞台の稽古が始まる前に、88歳の熊倉さんは入院。ゲゲゲの鬼太郎の主題歌でも知られたベテラン俳優は、この公演を前にして亡くなってしまった。
跡を受けたのは76歳の山下啓介。この老騎士コンビは激しい動きはまったくなく、激しいせりふもない。だが、腹に一物をもっているほかの登場人物を翻弄していく。この戯曲の老騎士は、役者としての経験と、長い人生の経験があればあるほど、この不条理劇の強烈さをにじみ出させていくのだろう。
やはり、人生の年輪には勝てないのだ。
ミュージカル『パッション』
新国立劇場
新国立劇場 中劇場(東京都)
2015/10/16 (金) ~ 2015/11/08 (日)公演終了
満足度★★★
至上の愛に泣けるか
ミュージカル界のプリンス井上芳雄の登場に、女性客で埋め尽くされた新国立劇場。すべて与えるだけの無償の愛を知ることになる主人公の兵士ジョルジオを演じた、井上の熱演に最後はスタオベだ。さて、あなたはこの至上の愛に涙することができるか。
ジョルジオに一目惚れをするフォスカは不治の病に冒されている。それでも執拗に追いかける姿ははっきり言ってストーカーだ。ジョルジオは、フォスカが上官のいとこゆえ、むげにもできず困り果てているが、常軌を逸するストーカー行為はどう見ても迷惑千万。さらに、「私なんか死んだ方がいいと思っているんでしょう」と言うフォスカは、その迷惑行為を自覚している。
だが、ある瞬間から、その形勢は逆転する。ジョルジオが「無償の愛」に気付くからだが、これに心を動かされるかどうかで、この物語へのめり込めるかどうかが決まるのではないか。
個人的には、フォスカを演じたシルビア・クラブが歌唱よりも演技で舞台を席巻したと思う。宮田慶子演出で大きな期待があったが、その演出も評価が分かれるところかもしれない。ツボにはまった人は、至上のミュージカルとなろう。
フォースタス FAUSTUS
演劇集団円
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2015/10/16 (金) ~ 2015/10/25 (日)公演終了
満足度★★★
パンクとマーロウ悲劇の相性
クリストファー・マーロウのフォースタス博士は、学問をやり尽くしても満たされることなく、悪魔に魂を売り渡して魔術の世界に入り、やりたい放題の快楽をむさぼる。こうしたところがパンクロックの世界観と相通じるところがあるのかもしれない。
だが、やはり凡人には難解であったか。特に、マーロウのフォースタスを知らないで劇場に行くと、感覚を刺激されてそのまま放り出されるような形になってしまうのではないか。
池亀未紘さんの元気いっぱいのかわいらしさ、よかったです。
放浪記
東宝
シアタークリエ(東京都)
2015/10/14 (水) ~ 2015/11/10 (火)公演終了
満足度★★★
今後の積み重ねに期待
森光子のライフワークである「放浪記」を国民的女優仲間由紀恵が引き継いだ。森光子の舞台を見ていないので何とも言えないが、ちょっとさわやかすぎる?林芙美子に多少の違和感を持った。
もっとも、この点は仲間由紀恵を後継者に選んだ時から覚悟していたものだとは思う。仲間は「新しい、パワフルな放浪記ができそう」と事前に話していたが、最初に登場したときは確かにはつらつとした感じで、日夏京子役の若村麻由美も元気いっぱいで若々しく、パワフルであるとは言える。
だが、やはり彼女は華のある人だ。なにしろ美人だし、林芙美子の屈折した胸の内を出していくには、今後の舞台の積み重ねがものを言うのだと思う。まだ始まったばかりだし、この舞台が森光子のように人気を得て再演を繰り返し、仲間が林芙美子に近づいていくことを祈る。
でんぐり返しの後を継いで仲間が発案したという「側転」は、多少失敗だったか。失敗したときは、万歳をするなど、アドリブであの喜びぶりをカバーしてほしかった。
大作家になってから、年を経ての林芙美子の役作りは、若さが漂ってしまい、仲間由紀恵と言えども荷が重かったか。
演出も新しくなっていると思うが、3時間半という長さはともかく、途中休憩が多すぎて間延びする。さらに、舞台転換時の物音がバタバタとうるさくて、とても気になった。
暗闇演劇 「The Light of Darkness」
大川興業
ザ・スズナリ(東京都)
2015/10/10 (土) ~ 2015/10/12 (月)公演終了
満足度★★★
爆笑まで今一歩。
もう10年も歴史がある暗闇演劇。「暗所恐怖症の人はお申し出を」とのアナウンスや、いざというときのペンライトの配布など、初めての人はどんな強烈なものがでてくるのかと身構えるが、気楽に楽しめる。
笑える場面の連続だが、爆笑までは今一歩か。ただ、やっている役者さんの大変さは分かる。暗闇でどういう動きをしているかははっきり見えないが、スキー場の新雪に飛び込むところなど、その空気というか雰囲気で役者の熱が伝わってくる。これがスズナリという小劇場空間での醍醐味であり、大川豊の売りの一つとなっている暗闇演劇の積み重ねによる「技術」なんだろうね。
月の獣
俳優座劇場
俳優座劇場(東京都)
2015/10/04 (日) ~ 2015/10/13 (火)公演終了
満足度★★★★
家族になるために
文学座の石橋徹郎、小野事務所の占部房子の熱演が舞台をリードし、アルメニア人虐殺で心に深い傷を負いながらも生き残った男と女が家族になっていく姿を描く。
目の前で家族を殺された男の子、そして女の子。米国にたどり着いた男は同郷の女を妻に迎え、自分が子供時代に幸せだったような家族を作ろうとする。だが、その妻も虐殺で凄惨な過去を持つ。夫と生きようと自らを語り前に進もうとする妻。男は心の傷を奥深くしまいこんで家族の作り直しに努めるが、妻の痛みを理解できない。そんな二人を変えたのは、孤児院を逃げ出した少年だった。
演出の栗山民也がずっと前から温めていたという、リチャード・カリノスキーの台本をシンプルな舞台装置で展開した。力のある二人の俳優だからこそできた、悲しくも温かい舞台だ。
マンザナ、わが町
こまつ座
紀伊國屋ホール(東京都)
2015/10/03 (土) ~ 2015/10/25 (日)公演終了
満足度★★★★
女性5人の魅力的舞台
太平洋戦争開始後、米国在住の日系人が強制的に集められた「マンザナ強制収容所」が舞台。元ジャーナリスト、女浪曲師、歌手、女優、舞台奇術師という女性5人が、収容所側から押しつけられた台本であるが、自分たちの思いや米国の独善的民主主義に向かう抗議などを、劇中劇で仕上げていくまでの物語。
女優5人だけしか登壇しないが、これがほかの舞台では見られないような化学反応を起こし、とても魅力的な舞台に仕上がっている。特に、元歌手を演じた一番若い笹本玲奈の熱演が光る。
浪曲師を演じた熊谷真実は浪曲など初めてだったというが、全編にわたる節回しのせりふをきっちり表現してみせた。
米国ではイエロー・モンキーと差別された日系人だが、日本では中国人や朝鮮人を侮蔑しているというところもきっちり描かれ、単なる収容所の差別的被害の物語ではないところが井上ひさし文学の目指すところでもあると思う。
いろいろなところで笑いを引き出す鵜山仁の演出もツボにはまっていた。個性的な女優5人の力を余すところなく引き出している。
ミュージカル「ラ・マンチャの男」
東宝
帝国劇場(東京都)
2015/10/04 (日) ~ 2015/10/27 (火)公演終了
満足度★★★★
松本幸四郎、渾身の舞台
この名作、初めて拝見。何よりも感動するのは、主役の松本幸四郎の極上の舞台である。
御年73歳。身のこなしがすごいのは、やはりさすがに歌舞伎俳優。それよりも、彼が登場したときにオーラがすごい。宮川浩、上條恒彦というベテランと合わせ、「一度は観ておきたい」舞台だ。
ほかにも見どころは満載。
個人的には、宝塚元トップスターの霧矢大夢のアルドンザも見事だった。色気が漂う舞台での立ち回り。さすがに宝塚の女優さんは違う、と再認識させられる。
父よ!
穂の国とよはし芸術劇場PLAT【指定管理者:(公財)豊橋文化振興財団】
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2015/10/02 (金) ~ 2015/10/12 (月)公演終了
満足度★★★★★
心から染み出る笑い
平田満、井上加奈子夫妻の「アル☆カンパニー」による舞台。平田さんが豊橋出身とのことで、2013年に「穂の国とよはし芸術劇場」のこけら落とし公演として上演された。その時も評判だったという舞台の再演だ。
実家で一人暮らしをする父親を誰が面倒見るのか。四人の男兄弟が実家に集まる。それぞれ、家庭や仕事でさまざまな問題を抱えている。長男は「老老介護になるから嫌だ」といい、二男は会社経営が忙しい、三男は離婚してそんな余裕なし、四男はしがない役者さん。だが、お父さんを引き取れない理由はそんなことではなかった。
この戯曲の秀逸なところは、結構深刻な話なんだけどわりと気軽にのぞき見ができて、しかも心にしみいるような笑いができること。このような戯曲を書いた、田村孝裕さんという作家に拍手を送りたい。
少女仮面2015
新宿梁山泊
ザ・スズナリ(東京都)
2015/09/30 (水) ~ 2015/10/07 (水)公演終了
満足度★★★★
李麗仙の迫力にびっくり
唐十郎の前妻・李麗仙が何と初演から45年の時を経て主演の春日野八千代を演じた。観劇したのは平日のお昼公演だが、半数以上は若い人たちで超満員。「満州」「甘粕大尉」などの言葉はほとんど知らないと思われる人たちを、魅了した。
30代、50代と春日野を演じた李麗仙は今、70代。だが、その迫力はまったく衰えていないと思う。宝塚にあこがれる少女・貝は文学座の松山愛佳で、松山の熱演も特筆だ。演出のキムスジンは李麗仙による「再演」を口にしたが、私はひょっとしてこの舞台は二度と見られないアングラ劇だ、と思いながら食い入るように見た。見ておくべき、と思う。
お約束の宇野亜喜良の美術は、地下の怪しげなカフェ、そして、吹雪の満州平野まで再現してみせた。
南河内万歳一座の鴨鈴女ら3人がセーラー服姿で客席に案内してくれる。
ダブリンの鐘つきカビ人間
パルコ・プロデュース
福岡市民会館(福岡県)
2015/11/04 (水) ~ 2015/11/04 (水)公演終了
満足度★★★
シェークスピア悲劇のような
東京・パルコ劇場で観劇。
後藤ひろひと氏が座長をしていた劇団遊気舎を退団したときに書いた作品という。今風にアレンジしてあると思うが、要所要所でちりばめられた笑いを取る部分がとても寒い結果に終わるところがあり、どうなることかとハラハラした。でも、最後はまるでシェークスピア悲劇を観ているかのような感じで結ばれる。
物語としてはとてもいい話だけに、若い観客向け?に笑いを意識して取らなくてもよかったのではないか。
せっかく実力派俳優をそろえたのに、何となく中途半端に終わってしまったのが残念。
黒いハンカチーフ
る・ひまわり
新国立劇場 中劇場(東京都)
2015/10/01 (木) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★
人気者がそろったが
わずか4日間の公演。千秋楽では、主演の矢崎広らが舞台挨拶をし、会場はスタンディングオベーションだった。
マキノノゾミが14年前に書いた、終戦からしばらくしての東京・新宿が舞台。だまし、だまされという展開がテンポ良く演じられ、飽きずに舞台に見入ることができる。
ただ、昭和30年前後の猥雑さと言うか、時代の空気が見せきれていないのが惜しい。今風の若い俳優さんたちを使っているからだとも言えるが、若いからといって時代の空気感を出せないはずがない。どこか、さわやかで、清潔感すら漂う舞台であるのは、若い女性客が中心の観客席にそういう形で見せようとしたのかもしれないが、違和感を感じる。矢崎演じる詐欺師たちや、売春防止法施行で職を失う女たちを、もっとリアルに見せてほしかった。
嫌われる勇気
ウォーキング・スタッフ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2015/09/26 (土) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
舞台で見せた「哲学」
「人は変わることができる」などというアドラーの心理学。自分で何とかできるところとできないところを区別し、自分のできるところをやり、ほかのところは他の人の仕事として目を向けない。
上記の部分は正確でないかもしれないが、アドラー心理学を教える大学の先生が、それを説明するくだりだ。このように、とっつきにくいとも思われる哲学の本を、舞台の上で戯曲化してしまったのがこの作品だ。果敢に挑戦した脚本・演出の和田憲明さんにまずは拍手を送りたい。
アドラーの教えを説明するところはあるが、この舞台の核心はそこではない。
何よりも、特に難しいことを考えなくても、ずっしりと心に残る物語を見せてくれたことだ。相当な力量を持って演じきった利重剛、愛加あゆ、黒沢はるから俳優さんたちに、大きな拍手を送りたい。
戯曲の力というものを見せてもらった気がする。
生涯
9PROJECT
劇場MOMO(東京都)
2015/09/29 (火) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★
秋の夜長に汗だくの熱演
つかこうへいの初期の作品を40年ぶり再演。北区つかこうへい劇団に所属していたメンバーが結成したユニットといい、演技の実力は折り紙付き。汗ほとばしる舞台に引き込まれる。
強烈な会話劇。狭い舞台を駆け回るようなアクションもある。40年前の上演もこんな感じだったのかどうかは分からないが、小劇場の舞台では、相当な迫力をもって迫ってくる。
長~いせりふも多く、役者さんは大変だ。つか作品の有名どころと比べると、時代がかったところもあるせいか、ついていけない人もいるかも。上の説明文には「あえて老醜をさらす」とあるが、俳優さんが若いせいか、老醜という感じはない。むしろ、健康な成人男子のはつらつとした勢いに圧倒されてしまう。やり過ぎ感がある、とでもいうのだろうか。このあたりが違和感のあるところ。
つか作品独特の笑いを期待してみたが、初期作品のせいだろうか。ちょっと物足りないように感じた。もっとも、主に笑いを取る作品ではないのだろうから、このあたりは筋違いの期待かも。