女学生とムッシュ・アンリ
加藤健一事務所
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2015/12/02 (水) ~ 2015/12/13 (日)公演終了
満足度★★★★
泣ける舞台です
笑い満載のカトケンの舞台なのだが、今回のフレンチ・コメディーは、人間の温かさを存分に描き、泣ける舞台に仕上がっている。
息子が勝手に、老いた父親が住むアパートのルームシェア広告を出す。ここに応募してきた女子大生。老人を加藤健一、女子大生を瀬戸早妃が演じる。
頑固で融通が利かず、自分勝手な老人を存分に見せつける加藤は言うまでもなく、瀬戸の演技も軽快であり、かつしっかりしていて見応えがある。
半年間練習したというピアノの腕前もしっかり披露。なかなかの多才ぶりだ。
モデル出身だけあって、タイトなミニに身を包んで老人の息子を誘惑する瀬戸にご注目。
加藤は「フレンチコメディはえぐいんです」と言っているが、まあ、父親がたまたま一緒に住んだルームメイトを使って息子を誘惑し、離婚にもって行かせようとする筋書きは確かにえぐいかも。でも、見終わった感はとてもさわやか。
お召し列車
燐光群
座・高円寺1(東京都)
2015/11/27 (金) ~ 2015/12/06 (日)公演終了
満足度★★★★
暗い過去ほど受け継ぐ努力が必要
お召し列車は天皇、皇后両陛下を運ぶ列車のことだが、ハンセン病の患者輸送でも、この言葉が使われていたという。まず、勉強させられる。
舞台は今度の東京五輪を引き合いに展開する。外国から来た人のおもてなし列車というお話を設定したのは興味深い。ハンセン病元患者を演じた渡辺美佐子さんは見事だった。
この戯曲のテーマでもあるが、加害の歴史とか、自国にとって暗い過去は、何よりも努力して、次に伝えていかなければならない。見終わって、そんなことを痛感させられる。
舞台は軽快に進行するが、重いテーマである。予習なしでタイトルから想像して見に行くと、ズシンと重すぎると感じる人もいるかもしれない。
洗い屋稼業
東北えびす
上野ストアハウス(東京都)
2015/11/25 (水) ~ 2015/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
レストラン地下で人生を考える
ゴーリキーの「どん底」とは違う。レストランの地下にある皿洗い職場に、人生を考えるお皿が山積みになっている。
全部で4人しか出てこない。しかも、洗い場の主任役は物語を引っ張り、さまざまな場面を演出する。相当な力量を問われるが、私が見た渡部ギュウは見事だった。
SENDAI座プロジェクトは、東日本大震災で大きな被害を受けたときも公演を打ち続けた。全国各地を回って被災地の声を発信し続けてのだ。今回も、モーリス・パニッチの戯曲をひっさげて、尼崎や名古屋でも公演してきた。上野の小劇場で、その心意気に触れた。
お母さんが一緒
ブス会*
ザ・スズナリ(東京都)
2015/11/19 (木) ~ 2015/11/30 (月)公演終了
満足度★★★★★
強烈トークバトルを楽しもう
ブス会初の家族劇とか。母親を喜ばせようと温泉旅館に行った三姉妹のバトルトークが強烈で、これがメチャクチャおもしろい。
よそでは絶対に見せないだろう本音が炸裂。息をつく間もなく激しく展開する。笑いに巻き込まれ、トークの展開に共感したり、反面教師だとズキッと来たり。恐らく、大半の男はビビる。女兄弟のない私には新鮮な感動すらあった。
脚本・演出のペヤンヌマキの痛快さは、今回も遺憾なく発揮されている。最後の落とし所も秀逸だ。
トスカ
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2015/11/17 (火) ~ 2015/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
代役でも大活躍!
私が観劇した23日。第一幕が普通に終わり、第二幕開始時に、トスカ役のマリア・ホセ・シーリさんが体調不良で突然降板するとのアナウンス。リザーブの横山恵子さんの衣装調整のため「30分遅れます」とのこと。そうして始まった第二幕は、トスカが、強姦しようとしたスカルピアをナイフで刺し殺す場面など、物語が大きく動くが、横山さんは堂々たる演技と歌声を披露。第二幕終了時に幕間から登場し、大きな拍手を浴びた。主要な登場人物には、カバーの役者たちを置いているということを、今さらのように認識させられた。
「トスカ」はプッチーニオペラの中でもかなり演劇的、と言われる。今回、新国立劇場の舞台では、第一幕の教会の場面での舞台転換がとてもお見事。豪華絢爛なる舞台には、最初から目を奪われた。私のようなオペラ初心者でも楽しめます。
ミュージカル『HEADS UP !』
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2015/11/13 (金) ~ 2015/11/23 (月)公演終了
満足度★★★★★
劇場愛を共有できる
舞台の仕込みからバラシまで、普通の演劇では滅多に見られない裏方さんたちを主人公にしたミュージカル。「普段、僕たち(俳優)は裏方さんへのリスペクトが足りない」と言うラサール石井の渾身のステージ。
客席を巻き込んだ物語の展開、お客を楽しませようとするサービス精神。ラサールならではの展開だ。ノリが良くてギャグ満載。今回はさらに、ラサールが胸に持ち続けてきた「劇場への愛」が描かれる。
感動のラストシーンも。スタオベは当然の帰結だ。
ラスト・イン・ラプソディ
劇団俳優座
俳優座劇場(東京都)
2015/11/18 (水) ~ 2015/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
胸を打たれる人間模様
行き場のない患者を受け入れている診療所が舞台。入院できるベッドがあるので診療所というより病院か。実際にはあり得ない診療所であるが、患者たちの物語はリアルだ。
格差社会、そして貧困。どこの病院も受け入れないであろう人たちに、過去を持つ医師らスタッフが真正面から向き合う。患者たちはそれぞれ複座な事情を抱えているが、舞台は患者の今とこれからを中心に描かれる。
幅広い層を持つ俳優座の俳優たちだからこそ演じられる舞台。いかに死ぬかということは、どう生きるかということ。見る人の心に突きつけている、見事な舞台だ。
虹を渡る男たち
劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)
サンシャイン劇場(東京都)
2015/11/07 (土) ~ 2015/11/23 (月)公演終了
満足度★★★★
今回も笑えます
三宅裕司率いるスーパーエキセントリックシアターは、10代から60代までの幅広いメンバーで、「こなせない役はない」(三宅)という円熟期だ。ミュージカルコメディの先頭を行く心意気なんだろう。
今回はタイムトラベルがテーマだが、笑いのツボは多彩だ。また、このまま音楽番組に出てもいけるんじゃないか、という振り付けでのアイドルソングも楽しめる。
期待を裏切らない!ステージだ。
オレアナ
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2015/11/06 (金) ~ 2015/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
劇場帰りに白熱トークを
何とも後味の悪い舞台だった。舞台の出来が悪いわけではない。むしろ逆で、強烈な後味を残した田中哲司、志田未来の大熱演二人芝居に拍手だ。
訴訟社会のアメリカで書かれたから、と見切ることはできない。この戯曲は、セクハラ事件という以外にさまざまなことを提示している。見る人によって、きっと受け止めは千差万別であるに違いない。劇場帰りには、きっと白熱トークになる。このような舞台は、そうそうあるものではないのでは?
再びこの地を踏まず
文学座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2015/11/06 (金) ~ 2015/11/15 (日)公演終了
満足度★★★★
偉人の意外な素顔
野口英世と言えば、学校で教わる日本の偉人だ。大やけどの話、お母さんとの関わりなどで語られ、そういう側面でしか知らない人がほとんどではないか。
戯曲の前半は、とんでもない浪費家で大酒飲み、しかも女癖が悪いという意外な素顔で展開する。資料は踏まえていると思うが、マキノノゾミの創作も多少は入っているかな。米国留学資金を得るために資産家の娘と婚約して婚礼金をいただくというエピソードも。その後、米国人と結婚したということは、このお金(当時の金額で300円)は返したのだろうか?
だが、このトンデモ男には、人生の節目節目で支援者があった。これは野口の才能を見込んでというか、おそらく援助したいと思わせる人間的魅力があったのだろう。舞台ではそのあたりも含め、野口が相当な名声を得た後もなぜ危険を冒して、アフリカへ渡ってさらなる研究へと走ったのかが語られていく。
とても分かりやすい筋立て。盛り込まれているたくさんの笑い。楽しめる戯曲としてはとても完成度が高い。
野口が生まれ故郷の家の柱に刻みつけた文字である、タイトルの「再びこの地を踏まず」が舞台転換にうまく使われ、とてもかっこいい。
>(ダイナリィ)
カムカムミニキーナ
座・高円寺1(東京都)
2015/11/12 (木) ~ 2015/11/22 (日)公演終了
満足度★★★★
キテレツだが奥が深い
カムカム25周年記念として、莉奈らを客演に迎えて盛大なる舞台。何だか訳の分からない物語なのだが、政府が露骨な劇団つぶしに走る劇中劇なども盛り込まれていて、結構強烈。秘密保護法が施行されて、劇団関係者にイヤーな空気が流れているが、これが絵空事ではないかもしれないという警鐘も入っている。
プロレスリングのような舞台を客席が囲むスタイル。役者たちは3方のお客さんにいずれも真正面からの演技を見せるために、リングを駆け回る。小道具の使い方も、一方向のお客だけしか分からないなどということがないように工夫されている。さらに、舞台の下をあえて少し見切れるようなつくりにし、その周囲も役者を走り回らせて活用する。いわば「2階建て」の舞台は、蜷川幸雄の演出でも見たことがある。
それはともかく、有名俳優を輩出している元気のいい劇団だけあって、どの役者も切れがいい。ちょっと気を抜いていると、劇中劇の演出家から檄が飛ぶ。まあ、これも演技なのでしょうが。
からゆきさん
劇団青年座
紀伊國屋ホール(東京都)
2015/11/14 (土) ~ 2015/11/23 (月)公演終了
満足度★★★★
次の世代に受け継ぎたい舞台
青年座が四半世紀ぶりに上演する。「からゆきさん」と聞いて意味が分かる人が減りつつある今、次の世代に受け継いでいかなければならない舞台。俳優たちもそのつもりでの力演だ。劇団としての強い意思を感じた。
かつて西田敏行、高畑淳子という看板俳優たちが演じた舞台。今回は、やはり売り出し中の俳優が登板した。特に、各劇団の女優たちによるユニット「オンナナ」を立ち上げて劇団外でも活動の幅を広げる安藤瞳に注目した。娼館の女主人として冒頭から登場。美しさだけではない、貫禄も漂う演技だった。
男が都合良く女を捨てる、というだけでなく、国家が在外で貢献していた国民をあっさり切り捨てるという二重の構図。国家が国民を見捨てるというのはなにも戦前、戦争中の話ではない。からゆきさんたちが語る舞台は、そういう意味で特に、心に留め置きたい。
現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2015/11/08 (日) ~ 2015/11/21 (土)公演終了
満足度★★★★★
マキノノゾミの舞台に酔った!
原作は三島由紀夫の近代能楽集で、卒塔婆小町と熊野から。マキノノゾミがこれを大胆にアレンジして、魅惑の舞台に仕上げた。
舞台はネットカフェだ。いきなり、ももクロの強烈なメロディーで幕開け。渋谷・道玄坂のネットカフェに居着いた連中が主役である。中でも、いきなり仙人のような風貌で現れた一路真輝には度肝を抜かれる。
時空を超える「能」の世界よろしく、一路真輝があでやかなドレスで登場するときは、二・二六事件前夜だ。シンプルな演出もさることながら、ネットカフェに巣くう人たちの生態をベースに、ほかの登場人物も同様に時空を超えていく。
三島が舞台を見たら何と言うだろうか。演劇の持つ創造性、観客の想像力を大いに刺激する秀逸な舞台だと言える。
見ないと損しますよ。
桜の園
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2015/11/11 (水) ~ 2015/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
田中裕子の貫録勝ち
これまで多くの名女優が演じてきたラネーフスカヤを、今回は田中裕子が担った。金銭感覚がないお嬢様育ちの女主人の振る舞い、感情。さすがの貫録だ。
脇役たちも存在感を発揮。特に、ラネーフスカヤの兄を演じた文学座の石田圭祐は良かった。悲劇なのだが重くなり過ぎず、軽快な雰囲気もあるのは、小道具などをうまく使った鵜山仁演出の妙。
物語は事前に勉強していった方が楽しめると思います。
「タイタス・アンドロニカス」「女殺油地獄」
劇団山の手事情社
吉祥寺シアター(東京都)
2015/11/06 (金) ~ 2015/11/16 (月)公演終了
満足度★★★
残虐の海でうごめく人間
あまりに残虐ということでかつては海外で上演されなかったというシェークスピアの「タイタス・アンドロニカス」。スローモーションで役者を動かすなど、独特の動きで舞台を彩る安田雅弘が、どうこの戯曲を料理するのか、と思って吉祥寺へ出かけた。
殺戮、強姦、復讐。まともには取り組めない。目を引いたのは和服の衣装だ。布をうまく使って手首を切り落とした状態を表現するなど、多彩な工夫がある。さらに、役者の絶叫。スローモーションを得意とするこの劇団に、この演目はツボにはまるものなのかもしれない。
残虐の裏に見え隠れする人間の愚かさ。テロリストの作り方、という中身なので、受け入れがたいお客さんもいるかもしれない。
カイコ【全公演終了しました!!ご来場誠にありがとうございました!!】
くちびるの会
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2015/11/04 (水) ~ 2015/11/10 (火)公演終了
満足度★★★★
深夜徘徊の勧め
作・演出の山本タカが、公演パンフレットの中で「深夜徘徊の勧め」として、丑三つ時に家を出て自分の住んでいる町を想像を膨らませながら歩くことを勧めている。本作はこれをモチーフにして、回想列車という自らの過去をめぐる旅を描いている。
当然、思い出したくない過去もある。それを真正面から突きつけられるのはしんどいなあ、と思う。人間、都合の悪いことは忘れてしまうようにできているのだ。個人的にはあまり乗りたくない列車だな(笑)
新宿三丁目・スペース雑遊の小さな場所で、舞台装置はいすが2つあるだけ。シンプルこの上ない舞台だから、問われるのは役者の演技力だ。主役を演じた杉浦一輝は鴻上尚史の「虚構の劇団」から参加。そのほかの役者も、ごまかしのきかない状況の中でレベルの高さを示している。
海に響く軍靴
博品館劇場
博品館劇場(東京都)
2015/10/30 (金) ~ 2015/11/15 (日)公演終了
満足度★★★
HIDEBOHのタップダンスに注目
映画と演劇が融合したような舞台。原案の北野武が最初は映画でと思っていただけあり、紗幕を使った映画的な演出になっている。エンドロールもあって、そこにカーテンコールの拍手が続くというちょっと変わった体験ができる。
物語は非常にシンプル。何と言ってもメーンは、HIDEBOHとTamangpのタップダンスの共演だ。これを生で披露するために、演劇スタイルにしたようなものだろう。
そのためだろうが、演劇としてみると物足りなさを感じるかもしれない。その裏返しとして、とても分かりやすいストーリーにショー的な要素を楽しめる舞台である。
うしろの正面だあれ
山の羊舍
小劇場B1(東京都)
2015/11/04 (水) ~ 2015/11/08 (日)公演終了
満足度★★★★★
蟻地獄を演じる4人
舞台には、演劇集団円と文学座からの男女2人ずつの俳優。気の弱い男性が、姉妹と父がそれとなく、意図的に(笑)巻き起こす会話に絡め取られ、蟻地獄に落ちていく。個人的には、今年春から始まった「別役実フェスティバル」参加作品の中で1,2を争う不条理劇の秀作だと思う。
オールナイトフジのレギュラーで、声優としても知られる山崎美貴の妖艶かつ冷徹な美しさに引き込まれる。その妹役、谷川清美は眉毛を微妙に動かす絶妙な演技を見せてくれる。会場は自由席で座れる下北沢小劇場B1。ぜひ、前の方で観劇されることをお勧めします。
『いとしの儚-100DaysLove-』
劇団扉座
座・高円寺1(東京都)
2015/10/29 (木) ~ 2015/11/08 (日)公演終了
満足度★★★★
心を揺さぶる百日の夢
扉座主宰の横内謙介が書き、2000年に初演。その後、タイトルを変えていろんな劇団が上演してきた名作を、本家が15年ぶりに再演。まず、この物語が非常に心を揺さぶる展開だ。誰にでも分かりやすい芝居を目指すという扉座だが、劇場で夢を見ることができる秀作だ。
主役は博徒の鈴次郎と、その相手役儚(はかな)。鈴次郎を山中崇史、儚をこの舞台を熱望していたというMEGUMIが客演した。何よりも、この二人、特に山中の熱演がとても光る。MEGUMIにはかなり色っぽい演技を想像したのだが、むしろ透明感のあるまさに名前の通りのはなかさを現出する舞台に驚かされた。
さらに、操り人形がきわめて重要な役まわりで舞台を彩る。物語の世界に引き込む仕掛けがたくさんあって、十分に楽しめる2時間である。
ホフマン物語
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2015/10/30 (金) ~ 2015/11/03 (火)公演終了
満足度★★★★
エピローグにお楽しみ
舞台芸術監督の大原永子さんがスコティッシュ・バレエで活動していたころ、登場する女性全主役を踊った経験があり、今回はその経験を生かして若手を指導してきた。シーズンキックオフを飾る今回はエピローグまでの全幕が披露された。
ホフマンを取り巻く女たち。それぞれの幕で、個性豊かな表情を見せてくれた。特に、第二幕のアントニアを舞った米沢唯さんが見事だ。
エピローグが実は、一番の豪華な場面ではないか。ここでも分かるが、ホフマンよりも、それぞれの女たちが実はメーンキャストとして大きな存在感を示していた。