諸国を遍歴する二人の騎士の物語
劇団テアトル・エコー
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2015/10/16 (金) ~ 2015/10/28 (水)公演終了
満足度★★★★
人生の年輪には勝てない
別役実フェスティバル参加作品。彼の不条理劇のうちでも非常に示唆に富んだ名作を、テアトル・エコーの名優たちが演じた。「殺さなければ、殺されるよ」。この舞台を貫くテーマは、戦争から遠い時代は「不条理劇」だったかもしれないが、戦争ができる法整備がなされた今は舞台の上でのできごとではなく、現実のことになっている。だから、これはもう不条理劇ではないのかもしれない。
当初のチラシには、「熊倉一雄と沖惇一郎、合わせて173歳の二人の騎士が『生きる手段』を忠告する残忍なドン・キホーテ」とある。ところがこの舞台の稽古が始まる前に、88歳の熊倉さんは入院。ゲゲゲの鬼太郎の主題歌でも知られたベテラン俳優は、この公演を前にして亡くなってしまった。
跡を受けたのは76歳の山下啓介。この老騎士コンビは激しい動きはまったくなく、激しいせりふもない。だが、腹に一物をもっているほかの登場人物を翻弄していく。この戯曲の老騎士は、役者としての経験と、長い人生の経験があればあるほど、この不条理劇の強烈さをにじみ出させていくのだろう。
やはり、人生の年輪には勝てないのだ。
ミュージカル『パッション』
新国立劇場
新国立劇場 中劇場(東京都)
2015/10/16 (金) ~ 2015/11/08 (日)公演終了
満足度★★★
至上の愛に泣けるか
ミュージカル界のプリンス井上芳雄の登場に、女性客で埋め尽くされた新国立劇場。すべて与えるだけの無償の愛を知ることになる主人公の兵士ジョルジオを演じた、井上の熱演に最後はスタオベだ。さて、あなたはこの至上の愛に涙することができるか。
ジョルジオに一目惚れをするフォスカは不治の病に冒されている。それでも執拗に追いかける姿ははっきり言ってストーカーだ。ジョルジオは、フォスカが上官のいとこゆえ、むげにもできず困り果てているが、常軌を逸するストーカー行為はどう見ても迷惑千万。さらに、「私なんか死んだ方がいいと思っているんでしょう」と言うフォスカは、その迷惑行為を自覚している。
だが、ある瞬間から、その形勢は逆転する。ジョルジオが「無償の愛」に気付くからだが、これに心を動かされるかどうかで、この物語へのめり込めるかどうかが決まるのではないか。
個人的には、フォスカを演じたシルビア・クラブが歌唱よりも演技で舞台を席巻したと思う。宮田慶子演出で大きな期待があったが、その演出も評価が分かれるところかもしれない。ツボにはまった人は、至上のミュージカルとなろう。
フォースタス FAUSTUS
演劇集団円
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2015/10/16 (金) ~ 2015/10/25 (日)公演終了
満足度★★★
パンクとマーロウ悲劇の相性
クリストファー・マーロウのフォースタス博士は、学問をやり尽くしても満たされることなく、悪魔に魂を売り渡して魔術の世界に入り、やりたい放題の快楽をむさぼる。こうしたところがパンクロックの世界観と相通じるところがあるのかもしれない。
だが、やはり凡人には難解であったか。特に、マーロウのフォースタスを知らないで劇場に行くと、感覚を刺激されてそのまま放り出されるような形になってしまうのではないか。
池亀未紘さんの元気いっぱいのかわいらしさ、よかったです。
放浪記
東宝
シアタークリエ(東京都)
2015/10/14 (水) ~ 2015/11/10 (火)公演終了
満足度★★★
今後の積み重ねに期待
森光子のライフワークである「放浪記」を国民的女優仲間由紀恵が引き継いだ。森光子の舞台を見ていないので何とも言えないが、ちょっとさわやかすぎる?林芙美子に多少の違和感を持った。
もっとも、この点は仲間由紀恵を後継者に選んだ時から覚悟していたものだとは思う。仲間は「新しい、パワフルな放浪記ができそう」と事前に話していたが、最初に登場したときは確かにはつらつとした感じで、日夏京子役の若村麻由美も元気いっぱいで若々しく、パワフルであるとは言える。
だが、やはり彼女は華のある人だ。なにしろ美人だし、林芙美子の屈折した胸の内を出していくには、今後の舞台の積み重ねがものを言うのだと思う。まだ始まったばかりだし、この舞台が森光子のように人気を得て再演を繰り返し、仲間が林芙美子に近づいていくことを祈る。
でんぐり返しの後を継いで仲間が発案したという「側転」は、多少失敗だったか。失敗したときは、万歳をするなど、アドリブであの喜びぶりをカバーしてほしかった。
大作家になってから、年を経ての林芙美子の役作りは、若さが漂ってしまい、仲間由紀恵と言えども荷が重かったか。
演出も新しくなっていると思うが、3時間半という長さはともかく、途中休憩が多すぎて間延びする。さらに、舞台転換時の物音がバタバタとうるさくて、とても気になった。
暗闇演劇 「The Light of Darkness」
大川興業
ザ・スズナリ(東京都)
2015/10/10 (土) ~ 2015/10/12 (月)公演終了
満足度★★★
爆笑まで今一歩。
もう10年も歴史がある暗闇演劇。「暗所恐怖症の人はお申し出を」とのアナウンスや、いざというときのペンライトの配布など、初めての人はどんな強烈なものがでてくるのかと身構えるが、気楽に楽しめる。
笑える場面の連続だが、爆笑までは今一歩か。ただ、やっている役者さんの大変さは分かる。暗闇でどういう動きをしているかははっきり見えないが、スキー場の新雪に飛び込むところなど、その空気というか雰囲気で役者の熱が伝わってくる。これがスズナリという小劇場空間での醍醐味であり、大川豊の売りの一つとなっている暗闇演劇の積み重ねによる「技術」なんだろうね。
月の獣
俳優座劇場
俳優座劇場(東京都)
2015/10/04 (日) ~ 2015/10/13 (火)公演終了
満足度★★★★
家族になるために
文学座の石橋徹郎、小野事務所の占部房子の熱演が舞台をリードし、アルメニア人虐殺で心に深い傷を負いながらも生き残った男と女が家族になっていく姿を描く。
目の前で家族を殺された男の子、そして女の子。米国にたどり着いた男は同郷の女を妻に迎え、自分が子供時代に幸せだったような家族を作ろうとする。だが、その妻も虐殺で凄惨な過去を持つ。夫と生きようと自らを語り前に進もうとする妻。男は心の傷を奥深くしまいこんで家族の作り直しに努めるが、妻の痛みを理解できない。そんな二人を変えたのは、孤児院を逃げ出した少年だった。
演出の栗山民也がずっと前から温めていたという、リチャード・カリノスキーの台本をシンプルな舞台装置で展開した。力のある二人の俳優だからこそできた、悲しくも温かい舞台だ。
マンザナ、わが町
こまつ座
紀伊國屋ホール(東京都)
2015/10/03 (土) ~ 2015/10/25 (日)公演終了
満足度★★★★
女性5人の魅力的舞台
太平洋戦争開始後、米国在住の日系人が強制的に集められた「マンザナ強制収容所」が舞台。元ジャーナリスト、女浪曲師、歌手、女優、舞台奇術師という女性5人が、収容所側から押しつけられた台本であるが、自分たちの思いや米国の独善的民主主義に向かう抗議などを、劇中劇で仕上げていくまでの物語。
女優5人だけしか登壇しないが、これがほかの舞台では見られないような化学反応を起こし、とても魅力的な舞台に仕上がっている。特に、元歌手を演じた一番若い笹本玲奈の熱演が光る。
浪曲師を演じた熊谷真実は浪曲など初めてだったというが、全編にわたる節回しのせりふをきっちり表現してみせた。
米国ではイエロー・モンキーと差別された日系人だが、日本では中国人や朝鮮人を侮蔑しているというところもきっちり描かれ、単なる収容所の差別的被害の物語ではないところが井上ひさし文学の目指すところでもあると思う。
いろいろなところで笑いを引き出す鵜山仁の演出もツボにはまっていた。個性的な女優5人の力を余すところなく引き出している。
ミュージカル「ラ・マンチャの男」
東宝
帝国劇場(東京都)
2015/10/04 (日) ~ 2015/10/27 (火)公演終了
満足度★★★★
松本幸四郎、渾身の舞台
この名作、初めて拝見。何よりも感動するのは、主役の松本幸四郎の極上の舞台である。
御年73歳。身のこなしがすごいのは、やはりさすがに歌舞伎俳優。それよりも、彼が登場したときにオーラがすごい。宮川浩、上條恒彦というベテランと合わせ、「一度は観ておきたい」舞台だ。
ほかにも見どころは満載。
個人的には、宝塚元トップスターの霧矢大夢のアルドンザも見事だった。色気が漂う舞台での立ち回り。さすがに宝塚の女優さんは違う、と再認識させられる。
父よ!
穂の国とよはし芸術劇場PLAT【指定管理者:(公財)豊橋文化振興財団】
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2015/10/02 (金) ~ 2015/10/12 (月)公演終了
満足度★★★★★
心から染み出る笑い
平田満、井上加奈子夫妻の「アル☆カンパニー」による舞台。平田さんが豊橋出身とのことで、2013年に「穂の国とよはし芸術劇場」のこけら落とし公演として上演された。その時も評判だったという舞台の再演だ。
実家で一人暮らしをする父親を誰が面倒見るのか。四人の男兄弟が実家に集まる。それぞれ、家庭や仕事でさまざまな問題を抱えている。長男は「老老介護になるから嫌だ」といい、二男は会社経営が忙しい、三男は離婚してそんな余裕なし、四男はしがない役者さん。だが、お父さんを引き取れない理由はそんなことではなかった。
この戯曲の秀逸なところは、結構深刻な話なんだけどわりと気軽にのぞき見ができて、しかも心にしみいるような笑いができること。このような戯曲を書いた、田村孝裕さんという作家に拍手を送りたい。
少女仮面2015
新宿梁山泊
ザ・スズナリ(東京都)
2015/09/30 (水) ~ 2015/10/07 (水)公演終了
満足度★★★★
李麗仙の迫力にびっくり
唐十郎の前妻・李麗仙が何と初演から45年の時を経て主演の春日野八千代を演じた。観劇したのは平日のお昼公演だが、半数以上は若い人たちで超満員。「満州」「甘粕大尉」などの言葉はほとんど知らないと思われる人たちを、魅了した。
30代、50代と春日野を演じた李麗仙は今、70代。だが、その迫力はまったく衰えていないと思う。宝塚にあこがれる少女・貝は文学座の松山愛佳で、松山の熱演も特筆だ。演出のキムスジンは李麗仙による「再演」を口にしたが、私はひょっとしてこの舞台は二度と見られないアングラ劇だ、と思いながら食い入るように見た。見ておくべき、と思う。
お約束の宇野亜喜良の美術は、地下の怪しげなカフェ、そして、吹雪の満州平野まで再現してみせた。
南河内万歳一座の鴨鈴女ら3人がセーラー服姿で客席に案内してくれる。
ダブリンの鐘つきカビ人間
パルコ・プロデュース
福岡市民会館(福岡県)
2015/11/04 (水) ~ 2015/11/04 (水)公演終了
満足度★★★
シェークスピア悲劇のような
東京・パルコ劇場で観劇。
後藤ひろひと氏が座長をしていた劇団遊気舎を退団したときに書いた作品という。今風にアレンジしてあると思うが、要所要所でちりばめられた笑いを取る部分がとても寒い結果に終わるところがあり、どうなることかとハラハラした。でも、最後はまるでシェークスピア悲劇を観ているかのような感じで結ばれる。
物語としてはとてもいい話だけに、若い観客向け?に笑いを意識して取らなくてもよかったのではないか。
せっかく実力派俳優をそろえたのに、何となく中途半端に終わってしまったのが残念。
黒いハンカチーフ
る・ひまわり
新国立劇場 中劇場(東京都)
2015/10/01 (木) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★
人気者がそろったが
わずか4日間の公演。千秋楽では、主演の矢崎広らが舞台挨拶をし、会場はスタンディングオベーションだった。
マキノノゾミが14年前に書いた、終戦からしばらくしての東京・新宿が舞台。だまし、だまされという展開がテンポ良く演じられ、飽きずに舞台に見入ることができる。
ただ、昭和30年前後の猥雑さと言うか、時代の空気が見せきれていないのが惜しい。今風の若い俳優さんたちを使っているからだとも言えるが、若いからといって時代の空気感を出せないはずがない。どこか、さわやかで、清潔感すら漂う舞台であるのは、若い女性客が中心の観客席にそういう形で見せようとしたのかもしれないが、違和感を感じる。矢崎演じる詐欺師たちや、売春防止法施行で職を失う女たちを、もっとリアルに見せてほしかった。
嫌われる勇気
ウォーキング・スタッフ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2015/09/26 (土) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
舞台で見せた「哲学」
「人は変わることができる」などというアドラーの心理学。自分で何とかできるところとできないところを区別し、自分のできるところをやり、ほかのところは他の人の仕事として目を向けない。
上記の部分は正確でないかもしれないが、アドラー心理学を教える大学の先生が、それを説明するくだりだ。このように、とっつきにくいとも思われる哲学の本を、舞台の上で戯曲化してしまったのがこの作品だ。果敢に挑戦した脚本・演出の和田憲明さんにまずは拍手を送りたい。
アドラーの教えを説明するところはあるが、この舞台の核心はそこではない。
何よりも、特に難しいことを考えなくても、ずっしりと心に残る物語を見せてくれたことだ。相当な力量を持って演じきった利重剛、愛加あゆ、黒沢はるから俳優さんたちに、大きな拍手を送りたい。
戯曲の力というものを見せてもらった気がする。
生涯
9PROJECT
劇場MOMO(東京都)
2015/09/29 (火) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★
秋の夜長に汗だくの熱演
つかこうへいの初期の作品を40年ぶり再演。北区つかこうへい劇団に所属していたメンバーが結成したユニットといい、演技の実力は折り紙付き。汗ほとばしる舞台に引き込まれる。
強烈な会話劇。狭い舞台を駆け回るようなアクションもある。40年前の上演もこんな感じだったのかどうかは分からないが、小劇場の舞台では、相当な迫力をもって迫ってくる。
長~いせりふも多く、役者さんは大変だ。つか作品の有名どころと比べると、時代がかったところもあるせいか、ついていけない人もいるかも。上の説明文には「あえて老醜をさらす」とあるが、俳優さんが若いせいか、老醜という感じはない。むしろ、健康な成人男子のはつらつとした勢いに圧倒されてしまう。やり過ぎ感がある、とでもいうのだろうか。このあたりが違和感のあるところ。
つか作品独特の笑いを期待してみたが、初期作品のせいだろうか。ちょっと物足りないように感じた。もっとも、主に笑いを取る作品ではないのだろうから、このあたりは筋違いの期待かも。
ラインの黄金
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2015/10/01 (木) ~ 2015/10/17 (土)公演終了
満足度★★★★
とても演劇的なステージ
オペラのイメージを変えると言ったら大げさだが、ネオンサインを使ったり(ドイツ語なのに英語表記はご愛敬か)光線を駆使するなど、個人的感想だが蜷川幸雄さんの舞台を連想してしまった。
新国立劇場のシーズン開幕オペラで、ご存じワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の序夜で一幕もの。天上界の神々、地上界の巨人族、そして地底界のニーベルング族。三層構造の格差社会で、主人公アルベリヒは愛を捨てることで財力、すなわち権力を持とうとする。
字幕を読むのも結構大変な、とても演劇的なオペラだ。アリアや重唱、合唱などのオペラ音楽の型をとらず、オーケストラピットにはハープがずらりと並ぶなど、音楽としてもちょっと違うな、というステージだった。
RENT
東宝
シアタークリエ(東京都)
2015/09/08 (火) ~ 2015/10/09 (金)公演終了
満足度★★★★
客席との一体感、熱いミュージカル
ブロードウエイでも名高いこの作品。日本では再演で、今回は若手有望株の俳優村井良大が主演・マークを演じる。ルームメイトのロジャーには堂珍嘉邦とユナクのダブルキャスト。私が観た日は、堂珍君でした。
ほかにもジェニファーとかIVANとかソニンとか、個性的なメンバーが勢揃いの舞台。これを座長の村井君がよく引っ張って進めている。連日満員の人気は、古くからの「rent」ファンも納得してみているからだとも思われる。
ただ、マークは役柄が仲間たちのところを立ち回る形なので、村井は控えめな感じがしてならない。強烈なシーンがある堂珍や、エンジェル役の平間荘一とIVAN(ダブルキャスト)に食われてしまっているようにも感じる。でも、逆に言えばそれだけ、この群像劇はそれぞれの個性が遺憾なく発揮されて成功しているとも言える。
ラストシーンが終わった後のスタオベはお約束のようだ。でも、キャストたちの底抜けの明るさ、前向きさには、ためらいなく立って拍手ができるできばえだ。
グッドバイ
キューブ
世田谷パブリックシアター(東京都)
2015/09/12 (土) ~ 2015/09/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
太宰もきっと笑っている
ご存じ太宰治の未完の遺作をケラが引き継いで戯曲に仕上げた。物語の展開、そして光線を駆使した舞台演出とダンス。「超スピードで展開する(予定)ゴキゲン(予定)な恋愛狂騒劇」とケラによるサイトの説明にあるとおり、その(予定)通りの舞台で、3時間たっぷり楽しめる。
ケラの信頼も厚い仲村トオルが、さすがにポイントを押さえたいい感じのスピード感で、軽快に舞台を引っ張る。さらに小池栄子が秀逸だ。「大食いで怪力の美女」(これは原作の設定)を存分に発揮。本妻、愛人たちを演じる水野美紀、門脇麦、夏帆など「美女群」もしっかりと役割を果たし、さらに脇役として二役、三役をこなしている。
太宰がラブコメにしようと書き始めたかどうかはともかく、このような楽しく意外なストーリー展開に、太宰もきっと大笑いしていることだろう。
カタルシツ『語る室』
イキウメ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2015/09/19 (土) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★
用意周到のミステリー
個人的には、イキウメの舞台は「関数ドミノ」「聖地X」に続いて3作目。今回も周到に用意されたシュールな舞台が待っていた。
一幕の中で、現在と過去がうまく回転する演出もいい。安井順平、中嶋朋子が期待通り舞台を彩った。そして何よりも、このシュールな原作がいい。映像でなく、リアルな舞台だからこそよりシュールに感じられる仕掛けがあちこちにあった。
時空を自由に飛び越えて想像を楽しみたい人には、お勧めの舞台です。
海辺のカフカ
ホリプロ
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2015/09/17 (木) ~ 2015/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★
アクリルケースが醸し出す村上春樹
村上春樹の名作を蜷川幸雄演出で舞台化した「海辺のカフカ」。ワールドツアーの凱旋で、蜷川さんの地元で公演中だ。
村上春樹の世界観をどう目の前に現出させるのか。ハルキストでなくても、ここが最大の注目点。蜷川さんはほかの舞台でも時々使う、アクリル板の透明な箱を使って、少年カフカの旅、高松の私立図書館、猫殺し、ホシノ君などを同時多発的に描いて見せた。
この物語のポイントとなる図書館の佐伯さんを演じたのは宮沢りえ。カフカに抜擢された古畑新之が若干頼りないところをカバーして、女神のような存在で舞台に君臨した。図書館の司書・大島を演じた藤木直人もなかなかのできばえだ。力強くあり、繊細でもあり、色気すら醸し出す難しい役を堂々とこなしているのは見事だった。
原作を読んでいて観る人と読まずにいきなり観る人では、物語の理解度に相当差が出たのではないかと危惧する。でも、そんなことは関係ないのかもしれない。この舞台のおもしろさは、物語の理解度ではなく、村上ワールドを彩るメタファーを、そのまま感じ取ればよいのだから。
そぞろの民
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2015/09/11 (金) ~ 2015/09/27 (日)公演終了
満足度★★★
容赦なく切りつける鋭さ
安保関連法案が参院で強行採決された後にこれを見たので、尋常でないライブ感があった。平和と外交問題を研究してきた父、そして三人の兄弟。日本人の一人一人に今の世の中を作ってきた責任がある。黙っているだけでは、協調性があるだけでは、責任を逃れることはできないのだ、と。
父親と三人の息子たちの言葉が、観る者にも、そしておそらく演じる者にも容赦なく切りつけるような鋭さを持って降り注ぐ。これがこの舞台のストレートな良さなのだが、毎日を何となく安住する方に、楽に生きようとしていることを自覚している私(たち)も血を流さざるを得ない。
突っ込みどころ満載の舞台ではあるが、さすがに中津留章仁さんの書き下ろしである。客席にも覚悟を突きつけているような気がした。