坂の上の家
(公財)可児市文化芸術振興財団
吉祥寺シアター(東京都)
2017/11/03 (金) ~ 2017/11/10 (金)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/11/03 (金) 14:00
座席1階
岐阜県可児市で制作されたということで、名産のバラが一輪ずつ、客席にあった。たくさん舞台を見てきたが、こんなプレゼントは初めてだった。
さて、長崎の夏、精霊流しを頭に浮かべながらの舞台である。淡々と進む家族の会話劇だからこそ、客席での想像は膨らんでいく。それを狙った演出だろう。何かを力を持って伝えていくという舞台ではない。それが何となく心地よい。
何というか、優しく効く薬のような舞台。じっくり反芻したい。
幻の国
劇団昴
Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)
2017/09/12 (火) ~ 2017/09/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/09/18 (月) 14:00
劇団チョコレートケーキの古川健さんは、歴史の舞台を切り取る演劇脚本では定評がある。今回、見に行った動機の一つは古川作品であるからだし、同劇団の日沢雄介さんの演出というのもある。
舞台は東ドイツ崩壊の前夜。一般家庭であるが、夫は秘密警察シュタージの幹部であり、妻は一般住民を監視する役目を夫から請け負っている。普通の人が普通の人を監視するという世の中は、珍しくない。日本では秘密保護法や安全保障関連法案ができても戦前の密告社会には戻らないだろう、と言う人は多いが、この舞台で描かれている悲劇は、昭和から平成に変わる直前の東ドイツでの出来事だ。日本人だけが「歴史の過ちは繰り返さない」と言い切れるはずはなく、そのあたりをこの舞台は訴えかけている。
二つのステージを切り取って2画面テレビのように連続していくテンポのいいステージだ。東独の歴史を知らなければ少し難解かもしれないが、分かりやすい舞台であることは、客層がかなり若いことからも証明できる。
主役のマリアを演じた落合るみさんの迫真の演技は涙を誘う。全身を振るわせて恐怖する瞬間を実に見事にやり切っている。女優主体で物語は動くのだが、シュタージの非正規雇用職員ララを演じた舘田悠悠さんも出色であった。
アトリエ
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋ホール(東京都)
2017/09/15 (金) ~ 2017/09/24 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/09/17 (日) 14:00
座席1階e列11番
価格5,500円
藤井ゴウさんの会話劇、キレはいいがちょっと長いなと感じる人もいるかもしれない。戦後のパリ街中の仕立て屋さんが舞台だが、あまりフランスっぽくないのがぴったりくる感じだった。
いつもの青年劇場と少しテイストが違うのが興味深い。しかし、舞台からはちゃんとメッセージは伝わってくる。働くということ。生きていくということ。自分で生き抜いていくということ。このあたりは、やっぱりこの劇団と私のお約束のようなものだ。
厳しい現実ではあるが、何となくホッとする。みんな、元気なんだな、と。
旗を高く掲げよ
劇団青年座
青年座劇場(東京都)
2017/07/28 (金) ~ 2017/08/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/08/06 (日) 14:00
座席1階
ピリッと心を突く社会派舞台を堪能させてくれる劇団チョコレートケーキの古川健さんに、老舗劇団青年座が声を掛けた。化学反応が起きた。青年座のテイストとは違う、新たなステージに融合したと言っていい。
テンポよく、分かりやすく進む舞台は、第二次大戦の歴史に疎くても入り込んでゆける。歴史を庶民の目で見ているからだ。そして、何よりも、庶民が歴史の流れを作っていることを教えてくれる。
知らなかった、ナチスにだまされた、と語らせている。だまされた原因は無関心であり思考停止であり、想像力の欠如だ。青年座の黒岩亮さんの演出も、うまく客席をリードしている。
硬派なタイトルはとっつきにくいかと思ったが、客席には若い人が多かった。新劇の老舗が化学反応で新たな道を持った、それを目撃した舞台だった。青年座の役者たちも見事に反応してみせた。
キョーボーですよ!
劇団チャリT企画
新宿眼科画廊(東京都)
2017/06/09 (金) ~ 2017/06/13 (火)公演終了
満足度★★★★
圧倒的におもしろい‼︎
国会審議が大詰めの共謀罪。法律ができたらどうなるかを笑いと共に学べる。チャリTは、この国の危ない未来を見せるのが最高にうまい。しゃれも効いていて飽きさせない。
MOON
SPAC・静岡県舞台芸術センター
舞台芸術公園 野外劇場「有度」(静岡県)
2017/04/29 (土) ~ 2017/05/03 (水)公演終了
満足度★
鑑賞日2017/04/30 (日) 18:30
価格4,100円
観客がフルフェースのヘルメットを着用し、役者と舞台を作り上げる。しかも、夜の野外劇場だ。いやがおうにも期待は高まる。開園時間となり案内された劇場入り口にはずらりと並んだ白いヘルメットが。何が起きるのか。ワクワク感は最高潮に達した。
ここまで書いておいて申し訳ないが、はっきり言って期待外れだった。
勝手に盛り上がった私が悪かったのか。岸田国士賞を取ったばかりの最近売り出し中の異彩の劇作家という期待感もあったかもしれない。
演出家のメッセージは確実に伝わったと思う。だが、このワクワク感を2倍にも3倍にもして返してくれるのが演劇なのではないか。特に期待をせずに見れば(参加すれば)「なるほどそうか」という納得は得られると思います。
送り火
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2017/04/14 (金) ~ 2017/04/24 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/04/16 (日) 13:30
日色ともゑの澄んだたたずまい、身のこなし、台詞。経験を重ねた彼女らしいかっこたる存在が、この戯曲を光らせている。女優の力を目のあたりにできる、素晴らしい舞台だ。
ミュージカルお菓子放浪記
チーム・クレセント
あうるすぽっと(東京都)
2017/04/12 (水) ~ 2017/04/16 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/04/15 (土)
昨年亡くなった西村滋さんの自伝的小説を舞台化した。ミュージカルにしたことで、戦争孤児という今では重いテーマもすっと胸に入ってくる。もちろん原作にあるのだが、鋭い台詞が散りばめられている。軽快に進む舞台だが、戦争孤児という言葉を風化させないぞという、作り手の迫力がビンビン伝わってくる。
白い花を隠す
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2017/02/28 (火) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/05 (日) 14:00
座席1階
従軍慰安婦の国際市民法廷をめぐるNHK番組の改変事件を、家族の人間模様をうまく絡めて描いた力作だ。台本の完成度の高さに感動する。石原燃という劇作家はこれまで見たことはなかったけど、注目すべき社会派作家だ。
ドキュメンタリーは、現場の人たちの声をきちんと伝えることが最低限の基盤だ。それを政治的圧力によって時の政権が変えてしまうのは、表現の自由の侵害で立派な憲法違反だ。しかし、メディアの端くれといえども制作会社の社員たちにも生活がある。特に巨大なNHKから干されてしまえば、会社が行き詰まって「路頭に迷う」ことになる。プロデューサー一人では戦えない。組織が存亡を賭けて戦うのは、ましてや現実的ではないのである。こうやって表現の自由はねじ曲げられ、抑圧された物言えぬ社会が作られていくのだ。
石原氏はこの事件を題材に戯曲化するのに3年をかけたという。十分に温め、考え、完成度を高めた作品だ。これを演じたカンパニーの役者たちにも拍手を送りたい。
米国でトランプ政権がメディアと対決し、自由な言論が厳しい局面に立たされている今、この戯曲を世に問う意味は大きい。
炎 アンサンディ
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/03/19 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/03/04 (土) 18:00
座席1階
再演の舞台、今日が初日。戦火が絶えない中東の現実を本質的な部分で刻み込まれる。中東の人たちに門戸を閉ざすトランプ大統領に見てもらいたい力作だ。終わった瞬間から体が震えるような感覚になる。3時間半という長さを感じさせない濃密な舞台は、小空間のシアタートラムならではか。演出も見事だった。
たわけ者の血潮
TRASHMASTERS
座・高円寺1(東京都)
2017/02/02 (木) ~ 2017/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/02/05 (日)
座席1階
中津留さんの新作を見たくて、久しぶりに東京に出てきた。舞台設定が特殊なのだが、ヘイト法案を軸にして展開する中津留ワールドは、今回も鋭い。曖昧さと軽さ、自分にだけ都合のいい言葉て空気が蔓延する今への直撃弾だ。相対する客席も相当な返り血を浴びる覚悟で臨む覚悟が必要だ。
SHAKESPEARE IN HOLLYWOOD~ハリウッドでシェイクスピアを~
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2016/08/31 (水) ~ 2016/09/14 (水)公演終了
満足度★★★★
知的なドタバタ劇
カトケン事務所の笑いは意表を突かれるものが多いが、今回もカトケンファン納得の笑いだ。シェークスピア戯曲の名セリフのパロディーがいい。
各劇団から意外な顔が出ているのも楽しい。中でも、カトケン舞台のフランス喜劇に初めて出て「カトケンさんに呼んでもらえるのが夢だった」などと語っていた瀬戸早妃が再び起用され、存在感を発揮している。
八百屋のお告げ
グループる・ばる
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2016/09/01 (木) ~ 2016/09/05 (月)公演終了
満足度★★★★★
元気の素がいっぱい
3回目の再演という。グループは30周年で、はや円熟の舞台である。新たな演出者を迎え一新したという今回は、元気の素が散りばめられた見事な舞台だった。
松金よね子ら3人の女優はぴったり息の合った軽妙なリズムで舞台を引っ張ったし、大谷亮介らゲストの男優3人もそれぞれ個性を発揮。リズムは
大きく振幅して客席を飽きさせない。
盛大なカーテンコールも納得だ。見てよかったと言える舞台。
狙撃兵
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2016/07/23 (土) ~ 2016/08/07 (日)公演終了
満足度★★★★
メタファーを撃ち抜く銃弾
カナダの劇作家ジョージ・ウォーカー作の原題「デッドメタファー」の日本初演。分かりやすい物語だが、隠喩(メタファー)の効いた味のある舞台だ。
デッドメタファー、すなわち死喩は、ある言葉が使われるうちに別の意味を持つようになって変質していくこと。除隊した元狙撃兵が、再び狙撃兵として雇われるとき、その銃弾は誰を狙い、何のために放たれるのか。簡潔な、分かりやすい舞台だけに、客席に放たれるメタファーに考え込むことになる。
俳優座の出演者たちはさすがの演じぶりだ。特に、狙撃兵の身重の妻を演じた野上綾花に拍手!
ゴンドララドンゴ
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2016/07/16 (土) ~ 2016/07/31 (日)公演終了
満足度★★★★
今回もズシリ、坂手ワールド
都会のビルで窓拭きに活躍するゴンドラをモチーフに、坂手洋二さんらしい硬派な社会派ネタを散りばめながら急テンポで展開する。今回は客席との心理戦のような舞台で、目が離せない。だから、結構ずっしりくる。覚悟して乗り込まないと、ずしっと疲れるかも。
でも、これが、練り上げられた坂手ワールドだ。だから、期待通りの舞台だった。ゴンドラという着想が見事だ。坂手劇を演じきった俳優陣に拍手。
改訂の巻「秘密の花園」
劇団唐組
駿府城公園 富士見広場(静岡県)
2016/06/18 (土) ~ 2016/06/19 (日)公演終了
満足度★★★★
昭和の匂い、徳川の公園で
唐組の名作「秘密の花園」は、静岡ならではの雰囲気で行われた。徳川家の駿府城という土地の空気、昭和の匂いが濃厚な舞台、平成生まれと思われる若い多くのお客様。42年ぶりという静岡公演は、時空を超えたかのような雰囲気の中、盛大な拍手が鳴りやまなかった。
高校の夏服を着た女の子たちからは、物語が分かんないけど、という笑いも出ていたが、そんなことは関係なさそうだ。昭和のギャグ、音楽、男と女の微妙なトーク。これらを水を浴びるように味わいながら、テントの中は世代を超えた熱量が盛り上がり、一人一人が舞台に向き合うという演劇の原点が鮮明になっていく。
唐組の舞台、次はいつ見られるのか。拍手の大きさには、そんな思いも込められている。
農業少女
劇団静火
七間町このみる劇場(静岡県)
2016/06/03 (金) ~ 2016/06/04 (土)公演終了
満足度★★★★
モモコの熱演に釘付け
15年ほど前、野田秀樹が書いた濃密な戯曲。静岡・七間町という濃密な街で、地元劇団静火が好演した。
松尾スズキが演出して、多部未華子が主役のモモコを演じたという記録がある。農業が大嫌いと九州を飛び出して東京行きの寝台特急に乗ったモモコは、ロリコン男に住まわせてもらいながらいかがわしい商売やボランティアなどさまざまなところに首を突っ込み、ウンコがウンコの臭いを消すという『農業少女』という銘柄の米を不登校の少女たちに作らせて儲ける、という策略に巻き込まれる。
野田MAPらしい、テンポよく意外な展開が続く戯曲だ。列車の音、携帯の着信音などSEまで自分たちでこなす静火の役者たちの、汗とつばの飛び散る熱演に心地よく巻き込まれる。特に、モモコの熱演に釘付けだ。千秋楽のモモコを演じたのは海野とも代。その小さな体からは想像がつかないような熱量が発せられていた。
静火はこれまで、シェークスピアなどに取り組んできた小劇団だったという。今年は野田作品をやると決めて、「農業少女」はその実験公演という位置付け。秋にやるのは野田MAPの第一回公演の演目「キル」。千秋楽のあいさつでは、この秋公演での出演者を客席から募集した。
東京・下北沢などの小劇場では、客席と舞台の距離が近いのが味なのだが、静火を率いる演出家の渡辺亮史氏は、この静岡・七間町を「下北沢にしたい」と意気込む。千秋楽で次回公演の出演を募るという劇団は、本家の下北沢以上にシモキタちっくである。七間町が静岡の演劇好きたちによってどんな化学反応を起こすか。これは見逃せない。
セールスマンの死
文学座
あうるすぽっと(東京都)
2013/02/22 (金) ~ 2013/03/05 (火)公演終了
満足度★★★★
悲しいがまっすぐな親子
時代に取り残された男のかたくななまでな生き方、そのようにしか生きられなかったピュアな男と家族の姿が胸を打つ。東京で見られなかった文学座の名舞台を、静岡の地方公演で拝見した。
どちらかというとアトリエ公演向きの舞台なのかもしれないが、今日のステージは2階席もいれれば1000人は入る大舞台だった。そんな広い空間でも後ろの方まで客席の目を引きつけ続ける演技はさすがだ。
仕事一筋に生き、リタイア後はローンの終わった家で菜園をして、結婚して家族を持った息子たちの訪問を楽しみに生きる。日本でも、現代でもありそうな普通の夢。しかも、自分の意見を曲げず、息子たちの意見を聴こうとしないいわゆる頑固おやじ。アーサーミラーの作品だが、かなり日本的というか、日本人の俳優たちが演じて味を出せる舞台だとも言える。
ラストシーン、高齢の女性客がハンカチを握りしめる姿が目立った。まっすぐな親子をまっすぐに演じた俳優たちに、拍手を送りたい。
パーマ屋スミレ
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2016/05/17 (火) ~ 2016/06/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
前向きに泣ける舞台
1960年代の九州、炭鉱町を舞台にした感動作。鄭義信の在日韓国人三部作の一つで、新国立劇場が一挙上演。三部作の中でもかなり悲劇的な物語だが、その涙はなぜか前向きな香りがして、心の底から見て良かったと思える。
東京五輪があり、高度成長の最中の日本で、石炭から石油へ世の中のエネルギーが変わる時代。その波に翻弄され、会社にも国家にも見捨てらた家族の人生。あの頃の出来事を歴史にしてしまうのはまだ早い。豊かになったはずの現代日本でも、会社や国家に捨てられて苦しんでいる家族への想像力が問われる。
この舞台は歴史を振り返っているわけではなく、私たちが気づかないでいる現実への扉となっている。
掛け値なしに見る価値のある舞台だ。俳優たちの実力が、それを支えている。
ブンナよ、木からおりてこい
劇団青年座
旧さいたま市民会館おおみや(埼玉県)
2016/05/21 (土) ~ 2016/05/21 (土)公演終了
満足度★★★★
ブンナが愛される理由
青年座が千回を超えてロングランを全国で続ける、劇団の歴史とも言える戯曲。水上勉原作を、時の演出家がアレンジして常に新たな舞台を築き上げてきた。いま、新国立劇場演劇芸術監督を務める宮田慶子も若いころから関わってきた。ずっと見たいと思っていた舞台を、ようやく大宮でつかまえることができた。
カエルたち小動物を主人公に、生きるとは何かを分かりやすく演じていく。客席からは「青大将は毎回、イケメン俳優がやるのよね」という声も。ずっと楽しみにしているファンがついている舞台の一つなのである。
他者の命をいただいて自分の命をつなぐ場面では、シャボン玉による美しい演出があった。見て良かったと思える舞台だ。