エーデルワイス
ブス会*
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2019/02/27 (水) ~ 2019/03/10 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/02/27 (水) 19:00
座席1階
ペヤンヌマキは今回も、期待を裏切らない。悲しくもいとおしい女の人生は、舞台で輝いた。
ダメンズに巻き込まれる女はきわめてまじめに、正直に男に向き合っている。自分が頑張らなきゃとその身を犠牲にして。はたから見ればまともではないように見えるが、筋が通っている。そんな恋愛にアラフォーまでを捧げた姿を物悲しくも明るく、どこかさっぱりと描かれる。もちろん、笑いもしっかり取る。
鈴木砂羽がそのキャラクターを遺憾なく発揮している。自分としては、彼女の意外な側面を見た気がする。
ブス会のコンセプトには、一度ハマると抜けられない。今から次回作を期待してしまう、そんな中毒性がある。
花火鳴らそか ひらひら振ろか
劇団銅鑼
あうるすぽっと(東京都)
2019/02/15 (金) ~ 2019/02/21 (木)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/02/19 (火) 19:00
座席1階
お盆に、亡くなった家族が帰ってくる。おじいちゃんの親友(故人)の孫が離れに住んでいるという設定。話はややこしく、それ故のドタバタ劇もあるが、涙も誘う物語だ。
お盆の時だけ帰ってくるとされる故人たちだが、この世に残っている人たちにとってはお盆の間だけでいいから話したいと切に願う。もし、話すことができたらこんなこともあるかな、という話が次々に出てくる。認知症のおじいちゃんの存在は、光っている。久しぶりに帰って来た息子が認知症の妄想だと考えて施設に放り込もうとする展開はあり得ると思ったが、息子の無理解の描き方はちょっと度を超している。
ドタバタ劇かと思いきやの感動舞台だった。真冬の今でなく、お盆の夏に見たい舞台だ。
正造の石
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/02/14 (木) ~ 2019/02/25 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/02/14 (木) 18:30
座席1階
婦人活動家福田英子の家にお手伝いに入った女性、サチの人生を通して、足尾鉱山の鉱毒に汚染され水中に沈められた谷中村を描く物語。分かりやすい展開で進む。
作者の主張はラストシーンで語られる。今でこそ、自分たちはこうあらねばというメッセージだ。明治時代と今は比較しづらいかもしれないが、今の政府の方がずっと信用ならない。だから、サチのように勉強し続けなければひどい目に遭うのだ。
初日だったためか分からないが、音楽の入りなど、民藝らしからぬミスが目立ったのは残念。福田英子役の樫山文枝は体調不良だったのではないか。聴き取りにくかった。
いつもは安定感がある丹野郁弓の演出だが、今回は細切れすぎて、成功したとは言いがたい。
拝啓、衆議院議長様
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2019/02/06 (水) ~ 2019/02/11 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/02/06 (水) 19:00
座席1階
期待の演目である。あの事件をどう戯曲にするのか。あの古川健がどう切り込むのか。
舞台は、容疑者の弁護士の視点から語られる。死刑廃止を訴えている人権派弁護士という設定だ。接見に行くたびにに繰り返される容疑者、被告人の身勝手な主張に、さすがの人権派もこいつに生きていく資格なんてない、と弁護人を降りる決意をするところまで追い込まれる。
そんな彼が再び弁護団に戻る決意をするのはなぜか。そして、裁判の結末は。
殺された障害者の遺族、障害者施設で働く人たちなど、丁寧な取材をして練った戯曲だと思う。この舞台の主題である差別の本質についてどう結論付けるかは、客席に委ねられる。
個人的には、脳性まひと思われる障害者に寄り添う介護女性の本音に心を揺さぶられた。障害者介助の現実から目をそらせて単に共生とか社会的包摂とか言うだけでは、事件はまた繰り返される。一人一人の覚悟が問われる。
イーハトーボの劇列車
こまつ座
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/02/05 (火) ~ 2019/02/24 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/02/05 (火) 18:30
座席1階
ご存知宮沢賢治の物語。初日に拝見した。悲しいラストシーンだが、「思い残し切符」によってその悲しみが少しだけ希望に変わって受け継がれていくように思える。
井上ひさしはこの物語を丁寧に編んでいる。東北の農村の喜びや悲しみを、そして賢治が作ろうとしたユートピアを。全二幕、3時間半に及ぶ長い舞台も、思いがこもっているだけに食い入るようにみてしまう。
主演の宮沢賢治役、松田龍平は意外なことに舞台初出演という。彼らしい淡々とした演技で宮沢賢治らしいのだが、長丁場だけにちょっと棒読みっぽいところも。賢治の父親や賢治をつけてきた刑事役の山西惇は意図的だと思うが松田龍平よりかなり声が大きい。それはそれで成功していると思うが、むしろ、定番のテレビドラマ「相棒」のテイストでやったらどうかとも感じた。
どうぶつ会議
こまつ座
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/01/24 (木) ~ 2019/02/03 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/01/24 (木) 19:00
座席1階
井上ひさしの強いメッセージが込められてた舞台。子どもも大人も一緒に楽しむことができるのがいい。
戦争や公害など、動物や自然に暴虐を尽くす人間たちに対し、世界の動物たちが立ち上がる。アフリカで動物会議を開き、戦争を二度としないようにすることなどを示した書類にサインするよう求めるのだが。
全編を貫く手作り音楽が魅力的。舞台の役者たちがリードするが、客席と一緒に大合唱できる。
顕れ ~女神イニイエの涙~
SPAC-静岡県舞台芸術センター / コリーヌ国立劇場
静岡芸術劇場(静岡県)
2019/01/14 (月) ~ 2019/02/03 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/01/16 (水) 13:30
座席1階
静岡に出張し、日本初演、フランスからの凱旋公演を見た。中高生の演劇鑑賞会と同席したため、宮城聡芸術総監督自らの丁寧な前説があった。
アフリカ奴隷貿易に加担した原罪と向き合う舞台。先祖がその原罪に口を閉ざし、新たに生まれる人に入る魂たちが、輪廻を拒否する。その死生観というか、魂への考え方が日本人とそっくりなところに驚く。
宮城氏がク・ナウカで取り組み始めた二人一役の演出が堪能できる。言葉と身体の動きが引き裂かれているところに、なぜこんな面倒なことをと思うが、舞台が進行していくうちに違和感がなくなっていくのが不思議。そのゆったりとした動きが話者にくっついていく。神との対話を描く舞台で、その演出はとてもしっくりくる感じだ。
東京では味わえない舞台を堪能。来た甲斐があった。
夕闇、山を越える/宵闇、街に登る
JACROW
小劇場B1(東京都)
2018/12/20 (木) ~ 2018/12/27 (木)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/20 (木) 19:30
座席1階
田中角栄生誕100年。今太閤、コンピュータ付きブルドーザーともてはやされたが金権政治で失脚する。その人たらし、人間的魅力を佐藤内閣後の総裁選を巡る激しい権力闘争の中に描く。
もう今から半世紀近く前の政治だから、若い世代のお客さんはこの舞台の面白さを倍増するために少し事前の予習があった方がいい。当時の自民党は派閥の領袖が争い、政策を競い合い、いい意味では活気があった。今の安倍一強のもの言えぬ政治とは違い、権謀術数あれど、日本をどうするのかということに論争があった。舞台では、歴代総理に名を連ねる男たちが登場するが、それぞれが個性的で、泥臭く描かれる。まぁ、権力闘争なのでそんな感じになるのだろうが。これにノスタルジーを感じてしまう昭和世代にはたまらない舞台だ。
もちろん金が乱れ飛ぶ当時の政治がいいわけじゃない。だが、表向きは何ごともないように見せかけて何でもありの問答無用の力づくでくる安倍政治を見ていると、人間らしい政治だったのかもと感じてしまうわけだ。
さて、田中角栄のダミ声、何を言っているか分からない大平、機を見るに敏な竹下、融通がきかない三木。それぞれの俳優がいい味を出して演じている。本人と似ているそぶりに笑いが起き、客席の満足度の高さを示した。
舞台回しに山口淑子を起用。これがツボを突いて成功している。有名人ばかり登場する政治群像劇は難しいのではと思ったりするが、シリーズ第2弾ということもあってか完成度は高い。
面白かった。体力があるお客さんは、第1弾と続けての鑑賞に挑戦してほしい。
リトル・ドラマー・ボーイ
演劇集団キャラメルボックス
サンシャイン劇場(東京都)
2018/12/15 (土) ~ 2018/12/25 (火)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2018/12/16 (日) 12:00
座席1階
劇作家の成井豊が書いているように、人気劇団キャラメルボックスが力を入れるクリスマス公演。タイトルからクリスマス仕様で、客席にその力でプレゼントを、という趣向。
久しぶりに見たキャラメルボックスの舞台だが、気のせいか今回は思い切り感動したとは言えません。主人公設定がどんな病気やけがも治してしまうヒーラーというところにあるのだろう。その超能力を使うと、確実に死が近づくという説明だったが、当然だけど要所要所では使ってしまう。このあたりが、物語の次が見えてしまい、ラストの感動を薄めてしまった気がする。
客席は2階席まで満員で、若いお客を中心に支えられているところが分かる。だからこそ丁寧な作りが望まれる。セリフが早速すぎて不明瞭なところがあったり、舞台転換もちょっと雑なところがあった。
ゼブラ
ONEOR8
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2018/12/04 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/09 (日) 15:00
座席1階
2005年初演のこの劇団自信作。再演にあたり、満を持しての登場だ。「大家さんと僕」で手塚治虫賞を受賞した異例の芸人、矢部太郎がいい味を出している。これから北海道や岩手などで地方公演もあるという。その地域の皆さん、見ないと損するぞ。
人気作とあって、本日千秋楽には午前中に追加公演が組まれた。客席を埋めた千秋楽のお客さんはちょっとおとなしかったようだが、かなり大笑いできる部分も多く、成功していると思う。普通なら、もっと笑いの渦が起きてもおかしくない。
ゼブラとは白黒のシマウマ。これがお葬式の白黒の幕につながるのだが、4姉妹それぞれに女手一つで育ててくれた亡くなった母親への思いが舞台に交錯する。この交わり方のテンポがよくて、まったく飽きさせない展開で舞台は進んでいく。認知症と思われる症状で入院して最期を迎えた母親の気持ちも涙を誘った。
やはり脚本の妙なのだろう。作・演出の田村孝裕は配られたパンフレットで「20年たってもソコソコの劇団」と謙遜するが、同時に書いている「底力」を見せつけている。4女それぞれの性格がおもしろいし、それぞれが大人になって抱えている事情も面白い。末っ子を元モーニング娘。の新垣里沙が演じている。まあまあの存在感だ。
あえて言えば、矢部太郎のために作ったとしか思えない最後の最後の部分は余計だった。わたし的に言わせてもらえば、その手前で暗転、幕切れにした方が感動が倍増した。
葬儀の生前予約、というのは今風だ。また数年後、例えば劇団30周年でもやってみてほしい。また、違った空気感で笑ったり泣いたりできるのではないか。
その恋、覚え無し
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2018/11/27 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/08 (土) 18:00
座席1階
桟敷童子の舞台いつも迫力がある。この演目はいつもに増して力強かった。嵐を表現する天井からの激しい流水の音に勝たないと聞こえないのだから、当然かもしれないが、役者さんは大変である。今回は4人の盲目祈祷師を演じた女優4人のパワーが際立っていた。
山岳信仰色濃い山里の物語。村の少女が失踪し、神隠しに遭ったのではと村の総力を挙げての山狩りが始まる。女漁師が水車に絡んで目にけがを負う事件が起き、舞台は緊迫度を増す。
以前の「オバケの太陽」でも度肝を抜かれたが、衝撃のラストシーンだ。目が見えない人は素晴らしい景色なんて見えないと考えがちだが、目で見るのでなく心で感じるものだと気付かされる。
グレイクリスマス
劇団民藝
三越劇場(東京都)
2018/12/07 (金) ~ 2018/12/19 (水)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/07 (金) 18:30
座席1階
この作品は、劇団民藝の魂を受け継ぐ名作だ。タイトルのグレイクリスマスは、白い雪が何もかも隠してしまう美しいホワイトクリスマスでなく、汚いものを隠すものがない雪の降らぬクリスマスという意味。何と示唆に富む一言。この舞台の底流にどっしりと構え、観るものの心に突き刺さる。
民藝の舞台は、前作の「時を接ぐ」に次いで歴史を見つめ直す作品。連続ヒットの仕上がりだ。
二度と戦争はしない。ピープル、国民に主権がある。占領軍民政部が心を砕いた日本国憲法だが、憲法は単なる言葉なのであって魂を吹き込み続けるのはピープル、国民次第なのだ、と。今この名作を再演する意味はここにあるのだろうが、私はこの舞台が描く人間のしたたかさ、あざとさ、悔しさという部分に惹かれた。
屋敷を接収され、生きる能力のない当主。その没落ぶりが面白く描かれる。米将校のホステス役を買って出るお嬢様たちの生命力はなかなかだ。限界を生きる姿は、今の平和に慣れた体にカツを入れる。
秀逸なのは、元男闘呼組の岡本健一だ。伯爵家に巣食ってうまく立ち回る在日朝鮮人の役だが、ナレーションも含めた舞台回しの役割を見事にこなした。
タイトル通り、毎年のクリスマスに舞台設定した脚本は歯切れがいい。「この演目だけは自分がやりたかった」と言ったという丹野郁弓の演出も良かった。
おかしな二人
劇団テアトル・エコー
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2018/12/01 (土) ~ 2018/12/12 (水)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2018/12/06 (木) 19:00
座席1階
ニール・サイモンの喜劇。荒れ放題の男の部屋で夜な夜な繰り広げられるポーカー。その部屋に妻子に三下り半を突きつけられた綺麗好きの男が転がり込む。何となく始まる二人の共同生活。とても合いそうにない二人なのだが、友情というか愛情が芽生え始め、仲間たちも応援する。
休憩を挟んで2時間半は少し長い。全編笑いに包まれ切れのいい台詞の応酬が続くだけに、もっとシャープにアレンジできなかったものか。だが、笑いの満足度は高い。R ICOら女性陣の演技も納得だ。セクシーさを前面に、視線を釘付け、あきさせない。
ここで苦情を一つ。劇団関係者と言葉を交わしていたからたぶん招待客だと思うが、大いびきを立てているのは顰蹙だ。せっかくの舞台が台無しだった。こういう喜劇でよく爆睡できるなと思うが、寝るなら静かに寝てほしい。星3つなのはそのせいです。
喜劇 有頂天団地
松竹
新橋演舞場(東京都)
2018/12/01 (土) ~ 2018/12/22 (土)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/12/03 (月) 16:30
座席3階
渡辺えりとキムラ緑子を中心に繰り広げられるドタバタ喜劇。昭和の香りあふれる舞台設定、ギャグの数々で「これを見にきた」という客席を十二分に満足させた。
古くからの住宅街に土地を区切って小さな一戸建てが新築される。新旧住民の小さなあつれきと、奥様がたの近所付き合いが、笑いの主役だ。しかし、なぜか小学校低学年の子どもと一緒に学ぶおじいちゃん(笹野高史)がとにかく面白い。現実社会でもこんな学びは結構いいんじゃないかと思うような子どもたちとのやりとりだ。
還暦を過ぎた渡辺えりの軽快な立ち回り、実年齢よりずっと若い奥さんをかわいく演じてみせる女優魂というか、実力には感服する。本人いわく、菊池桃子ふうの奥さん像を設定したとか。体力的には相当厳しいだろうと思われる、主役たちの演技に注目だ。
幕間に流れる昭和歌謡の数々にも癒される。
梟倶楽部
Pカンパニー
西池袋・スタジオP(東京都)
2018/11/28 (水) ~ 2018/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/12/01 (土) 14:00
座席1階
Pカンパニーのアトリエ公演を初めて見た。池袋にちなんだ江戸川乱歩を原作に、お客がまるでなぞのスポットに迷い込んだような感覚で楽しめる。
特に女優たちの存在感がいい。須藤沙耶のくるくる変わる表情、機敏な立ち回り。セリフが短くイキイキとしている。アトリエならではの熱量を感じることができる。
シンプルな演出も効果的だ。初冬のひと時、池袋の異空間を堪能させてもらった。
評決-The Verdict-
劇団昴
あうるすぽっと(東京都)
2018/11/29 (木) ~ 2018/12/11 (火)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/11/29 (木) 19:00
座席1階
迫真の裁判劇だった。それだけに、休憩を含めて2時間半は少し辛い感じも。
医療過誤で植物状態になった娘と母が、病院を訴える。病院はボストンでも有数の規模で、医師たちは最善を尽くしたと反証する。裁判官も露骨に病院寄りの訴訟指揮で、資金力もない原告弁護士は窮地に追い込まれる。だが、あきらめることのない弁護士は、形成逆転につながる重要な証人を得る。
劇団の総力をあげたという熱演が続き、さすがだと感服する。だが今日は初日のためか、舞台回しにぎこちなさも見られた。
評決というタイトルだが、評決を下す陪審員席が最後まで空席だったのは気になる。原告と被告の対決に絞るなら、舞台装置に陪審員席はない方が良いのでは。
久しぶりの昴の舞台、堪能しました。
残り火
劇団青年座
ザ・スズナリ(東京都)
2018/11/22 (木) ~ 2018/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/11/27 (火) 19:00
座席1階
犯罪加害者と被害者のそれぞれの家族にスポットを当てた物語。双方の家族の苦しみ、慟哭が交互に編まれる。
事件はあおり運転の末、被害者の車の前に割り込んで止め、車から降りた父、母、兄が加害者ともめているところにトラックが突っ込んで車に残った妹が死亡する。裁判で実刑になり、服役を終えたさらに数年たった時から物語が始まる。
脚本は社会の出来事に優しくも鋭い視線で舞台をつくる瀬戸山美咲。青年座が続けている若手劇作家とのタッグだ。この取り組みはこれまで、老舗青年座のテイストとうまく化学反応を起こして見応えのある舞台に仕上がっている。今回はミナモザの瀬戸山だけに期待値を上げながらシモキタに乗り込んだが、期待を裏切らない、秀逸なできだった。
司法の場ではかなり以前にけりがついていても、人の心は時間がたったからといってかたがつくものではない。悲しい現実、忘れたい事実に折り合いをつけながら被害者家族も加害者家族も生きている。残り火が再燃するように双方の家族が絡み合うとき、どんな思いが交錯するのか。
取材を尽くしたこの秀逸な脚本に命を吹き込んだのは、青年座黒岩亮の演出だ。客席に息もつかせず引き込んでいく役者たちのやりとり、舞台転換の時に音だけで事件を語る技巧。鍛え抜かれた役者たちの存在感も大きい。
見事な1時間40分だった。
サイパンの約束
燐光群
座・高円寺1(東京都)
2018/11/23 (金) ~ 2018/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/11/26 (月) 19:00
座席1階
沖縄の人たちが入植し、先の戦争で苛烈な戦場になったサイパンの家族の物語。少女の記憶を元に映画を作るという設定で、現代日本の感覚も取り入れながら舞台が進む。
状況説明も役者にセリフとして語らせる坂手劇。朗読劇のようなので初めての人は戸惑うかもしれないが、テンポよく進んでいく。サイパンが刻んだ過酷な歴史は戦後が遠くなった今、思い出されることも減っている。沖縄の歴史と交錯させてこれを語り継ぐ手法は、二つの島を生きた人たちが日本という国家に下等民族扱いされ、蹂躙されてきた歴史を真正面から客席に突き付ける。
坂手劇の特徴は、これらを現代日本の政府に対する厳しい批判としてはっきり示していることだ。現代日本と「サイパンの約束」があるとしたら、我々はまだ、その約束を果たしきっていないと痛感させられる。
ナース・コール
劇団俳協
TACCS1179(東京都)
2018/11/21 (水) ~ 2018/11/25 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2018/11/21 (水) 19:30
座席1階
ナースコールというタイトルに、コメディかと勝手に想像した。基本的にはその路線だが、謎の感染症に病院あげて闘うなど今日的要素も盛り込み、見応えのある舞台に仕上がった。
さまざまな患者に真摯に対応する看護師たち。経営のことしか考えない事務当局との対立や、ブラックといえる勤務体制など、今の看護現場が抱える問題点も描かれる。ただ、ちょっと欲張り過ぎかもしれない。見ていて忙しい感じだ。
芝居だから仕方ないと言えばそれまでだが、危険な感染症患者を毛布にかぶせて担架ではこんだり、感染防止対策がしてなかったり、リアリティに欠けるところも気になった。アウトブレイク状態になったとき、医師一人に対応させるという筋書きは現実離れしている。
2時間ちょっとという舞台が長いというわけではないが、午後7時半開演は遠方の身にはつらい。
われらの星の時間
劇団俳優座
俳優座劇場(東京都)
2018/11/08 (木) ~ 2018/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/11/15 (木) 14:00
座席1階
ラッパ屋の鈴木聡が脚本を書き、オフィスクレッシェンドの佐藤徹也が演出を担当。軽い認知症の高齢者5人が集団脱走し、ハロウィンの街を仮装して歩き回る、という物語。認知症の人が「ぼけている」とき、どういう思考回路になっているのかを分かりやすく提示している。認知症の人にどう接するかを一般の人が学ぶのに、とてもいい教材になっている。
演出も見事だった。特によいのが、場面転換などの音楽にボレロを使っているところだ。最初はピアニシモから始まるボレロは最後、強烈な盛り上がりを見せて幕切れとなるのだが、この舞台も、物語と共にする音楽としてはまさにぴったりなのだ。
最後の方で、タイトルの謎解きもされる。丁寧なつくりだった。
介護や認知症問題を縦糸に、報道の在り方が横糸と成って紡がれる。テレビ局ではスポンサーや関係者に配慮して本当のことを伝える番組作りができなくなっているのかもしれないが、しがらみを振り切って新人ADとディレクターが奮闘する、という物語はそれなりにおもしろい。が、それが介護の物語と良好なパートナーになっているかという点では少し疑問が残る。これはこれで重要な問題だから、「報道の在り方」単独での舞台があっていいようなテーマだ。
さすが俳優座だけに、高齢者から若者まで役者揃い。せりふもよく通るし、間の取り方もしっかりしていて安心してみていられる。俳優座は「七人の墓友」でも高齢者問題をうまく切り取って舞台化した。この作品も鈴木聡の書き下ろしだ。次作にも期待したい。
終盤では感動で涙が出た。秀作だ。