満足度★★★★★
鑑賞日2018/11/27 (火) 19:00
座席1階
犯罪加害者と被害者のそれぞれの家族にスポットを当てた物語。双方の家族の苦しみ、慟哭が交互に編まれる。
事件はあおり運転の末、被害者の車の前に割り込んで止め、車から降りた父、母、兄が加害者ともめているところにトラックが突っ込んで車に残った妹が死亡する。裁判で実刑になり、服役を終えたさらに数年たった時から物語が始まる。
脚本は社会の出来事に優しくも鋭い視線で舞台をつくる瀬戸山美咲。青年座が続けている若手劇作家とのタッグだ。この取り組みはこれまで、老舗青年座のテイストとうまく化学反応を起こして見応えのある舞台に仕上がっている。今回はミナモザの瀬戸山だけに期待値を上げながらシモキタに乗り込んだが、期待を裏切らない、秀逸なできだった。
司法の場ではかなり以前にけりがついていても、人の心は時間がたったからといってかたがつくものではない。悲しい現実、忘れたい事実に折り合いをつけながら被害者家族も加害者家族も生きている。残り火が再燃するように双方の家族が絡み合うとき、どんな思いが交錯するのか。
取材を尽くしたこの秀逸な脚本に命を吹き込んだのは、青年座黒岩亮の演出だ。客席に息もつかせず引き込んでいく役者たちのやりとり、舞台転換の時に音だけで事件を語る技巧。鍛え抜かれた役者たちの存在感も大きい。
見事な1時間40分だった。