タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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オサエロ

オサエロ

KKTプロデュース

テアトルBONBON(東京都)

2021/12/22 (水) ~ 2021/12/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

角田奈穂さんの初?プロデュース公演…非常に丁寧な制作で物語を紡ぐ。内容的には重く苦しいはずであるが、将来(今)に向かっての清々しいメッセージもあり、現代に刻印した心に残る感動作。
戦時中という人間不在とも言える時代を背景に、特攻隊員と幼なじみの淡くも悩ましい悲恋物語。時代と状況が許さない恋を実にきめ細やかに描き、場内から嗚咽が漏れる。お薦め。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台美術は客席に向かって八の字に広げた木柱 板壁造りの三角兵舎内。上手下手は寝所のような膝高の板敷、上手のみ布団が2組ある。

上演前は「♪ひこうき雲」が流れ、空への憧れと特攻隊の悲壮を重ねるという選曲の妙。物語は騒音と玉音放送が被り始まるが、そこに時代の隔世を表現する。人の噂も七十五日というが、戦後も75年を過ぎると平和が当たり前、戦禍の悲惨さが忘れ去られるのが怖い。
中原修(黒木文貴サン)のところへ沢口夏子(松木わかはサン)の孫である、小佐野(未依サン)が訪ね、祖母の手紙を渡すところから始まる。
修の懐述…特攻隊出撃前の日々、修、浅井勝彦(石田隼サン)がいる兵舎に幼なじみの夏子が世話係としてやって来る。修は夏子が好き、一方 夏子は勝彦に好意を抱いている。気心が知れているだけに気まずい三角関係、明日の命はないという極限の状況下で、告白など出来ない。しかし、ひょんな拍子に修は夏子に告白し、躊躇しながらも承諾を得てしまう。そして出撃の時を迎えるが…。

戦時中の人間不在について、隊員の柴田武夫(遠藤翔平サン)が上層部に向かって諫言し、体罰を受けたシーンを通して強烈な批判をする。「十死零生」という、作戦でも何でもない”特攻”。これが軍の作戦として実施されたところに その異常さがあった。極端な精神主義、科学的思考の欠如といった今では考えられない思考と行動。柴田の考えを支持した隊長・神田喜久雄(橋本全一サン)。隊員には他に 妻子がいる岡本昭二(小田洋輔サン)、独身純情の稲島陽一(池田謙信サン)といった、その時に居たであろう典型的な人物象を立ち上げ、色々な背景を観客に想像させる。
回想のラスト…出撃シーンで隊員(中原修以外)は舞台横一列になり旋回(転)して捌け(消え=死ぬ)る。タイトル「オサエロ」は、隊長からの訓示で敵艦に突撃するまで操縦桿を離さないの意。

女性観点として、夏子と同じように兵舎の手伝いをしている坂下昭代(新木美優サン)と稲島の淡い思いも描くが成就しない。新婚をイメージした甘ったれた願いー昭代に膝枕をせがむ稲島。昭代は死に逝く人との恋愛は辛く、思いを引き摺りたくない。そんな一途な面を見せる。これも当時ならではの考えと思われる。人物描写は、特攻隊員は家族に宛てた手紙・遺書の朗読という形で描く。広島県江田島市にある旧海軍兵学校を見学した際、読み見た心痛な記憶を呼び覚ます。

特攻隊員役の男優のキビキビした動作、それは単に軍服という外見だけではなく人の(生)死を感じさせる潔さ(諦念ではない)。女性は もんぺ姿で隊員の破けた靴下を繕う姿は儚い。手紙等を朗読する時や独白といった場面は、照明スポット(回転)で心象を浮き上がらせる。音響は物語の妨げにならない程度に流れる。物悲しいピアノの旋律が物語全体の雰囲気、印象付けをしており巧い。そして特攻隊員同士の話に「テンニンギク=天人菊」といった”特攻花”を連想させるなど会話に工夫を凝らし好感が持てる。
少し勿体ないのが、冒頭と最後に現れる現代(高齢者)の修。震える体を杖(操縦桿イメージか?)で支えているが、やはりぎこちなく違和感があった。
次回公演も楽しみにしております。
マンホールのUFOにのって

マンホールのUFOにのって

マチルダアパルトマン

OFF OFFシアター(東京都)

2021/12/22 (水) ~ 2021/12/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鬼才・池亀三太氏の世界観を堪能!
独特な世界観に翻弄され、流されないようにしがみ付くか、いや 黙って流されたりしたほうが楽しく観ることが出来る。この作品のユーモアには洗練された感覚がある。
表層的にはSFファンタジー風でありながら、どこか日常の光景ーー男子大学生のあるある行動といった見かける姿に親しみを覚える。主に前半は、男性目線、後半は女性目線であるが、全体を通して観ると、何故か甘酸っぱくも ほろ苦い青春グラフティといった印象。斜め上を行った奇抜さはあるが、終始 瑞々しい感覚的水準を保っていることに感心した。自分好みの作品である。
(上演時間1時間45分)

ネタバレBOX

舞台美術は、中央に大きな円形台、上手に別スペースがありベンチが1つ。周りの壁にはスナックや探偵事務所名が入った看板があり、或る街の光景を演出している。この雑多さがグラフティ(落書き)と思わせる。もちろん、円形台はUFOに見立てたマンホール。この上で別世界・別次元への飛行を妄想する。しかし覗いてみれば(覗かないけど)下水溝がある、という現実。これが前半・後半(男・女)の物語に通底する”物事”を指す。

この街の大学に通う、前半の主人公・へちま(宮地洸成サン)がUMA(謎の未確認動物)研究会に入部したり、偶然出会った後半の主人公・遥(松本みゆきサン)との奇妙な付き合い、コンビニ近くで知り合った女暴走族、遥の友人で気の強い女(後々、暴走族総長と分かる)と次々と知り合って行く。そして好みの女性がいればナンパもするという いたって普通の大学生の姿。時々、擬人化した犬や猫が現れSFファンタジーの様相を見せるが、UMA研究会というクッション(台詞にもある)を通して、人間=地球人も宇宙全体から捉えれば宇宙人、地球の生命体に区別など必要なかろうと言った大局的な観せ方は鋭い。現実とSFファンタジーの混在が実に巧い。

後半は、15年後の同じ街。へちま は街を去ったが、遥は相変わらず住み続けている。が、すっかり大人になった遥は何の変哲もない日々を過ごす。そんな時、暴走族総長だった むらさきが刑務所から出所してきた。昔話に懐かしさを覚えるが、以前と違い足を地にしっかりと着けて生きている。現実を手に入れたのか、夢を取り零したのかは分からない。
偶然、へちま との邂逅。彼は他の街で遥の知らない女性と”普通”に結婚していた。へちまの地に足を着けた現実、遥のまだ過去を引き摺っているかのような描きが対照的だ。

物語の観せ方も、ポップでクール、ベタでシュール、エンタメでアートといった相反するものが融合しているような感覚だ。一見、奇想天外に思えることでも不思議と受け入れてしまう面白さがある。夢だけでは生き難い現代社会の歪、しかし夢が無ければ面白味に欠ける人生、バランスを観せられたような気持だ。ただせっかくの えにしのギター、存在感があるのだから、もう少し効果的な活用が出来なかったのか、勿体ない。
自分的には懐かしき共感! ニヤニヤ系の笑いは、心と体にそっと寄り添うサプリメント・ドラマと言ってもよい、と思う。
次回公演(来週)も楽しみにしております。
疚しい理由2021

疚しい理由2021

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/22 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い! 物語は二転三転するが、芯はブレず濃密な描き方。しっかり観客の関心を掴み集中させるあたりは見事。
生命保険の営業マンが顧客の女性と一緒に、その女性の後輩の家を訪れ加入を勧める。ありがちな状況がいつの間にか きな臭くなるが、結局真相は観客の想像に委ねられる。散々 話の真偽を焦らしておきながら、表層的には放り投げるような結末に驚かされるが、そこがまた巧みなところ。
(上演時間55分) 【”K”チーム】

ネタバレBOX

舞台セットは、シンプルであるが物語の展開、その場の空気を表現するような妖しい雰囲気を漂わす。暗幕で囲い、客席に対し斜めに渡した赤い通路が上手と下手に夫々延びる。真ん中も赤い敷物の部屋(ダイニングのイメージ)で、テーブル・イスが置かれている。背面は、数本の細い支柱に赤い紐が蜘蛛の糸のように張り巡らされている。何かに絡め取られそうな感じであり、台詞にある(物事に)縛られるのが嫌だ、を表しているようにも思える。後景は抽象的であるが、物語そのものは現実(具体)的で、その対比としての舞台美術は映える。

梗概…サスペンス・ミステリーの類であるから、詳細を書けばネタバレになる。タイトル「疚しい理由」、その説明に騙すか騙されるかとあるので、端緒だけ記すと”保険の加入”…それを巡って虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。筋立(脚本)は、保険の営業マン・中西隆明(浅見臣樹サン)と夫を亡くした高校時代の演劇部の先輩・野口陽子(星澤美緒サン)が新婚の後輩・水田綾乃(小野里芙莉サン)を訪問 勧誘している。綾乃は、当初の保険金額を大きく上回る逆提示し驚かせるが…。身近でリアリティがあるため、物語の世界に引き込まれ次の展開が気になる。状況が二転三転し、ラストまで目が離せない極上のサスペンスドラマ。

2006年に劇団「ブラジル」で初演したが、その時代背景、状況設定は色褪せることなく、心に蠢く疚しい感情が浮き立ってくる。騙す騙されるという心の綾のようなものが、赤紐の蜘蛛の巣で表現されているよう。この3人の(歪な)関係、誰が誰を誣いて陥れるのか。観客(自分)は、固唾を呑んで成り行きを見守っている覗き見者のような気分になる。

役者は関係性を見事に体現しており、緊密・迫力ある演技であった。典型的な保険セールスマンの中西。中西と関係がある陽子は、綾乃への高額保険を加入させたくない思い、しかし何時の間にか綾乃に翻弄され呆れと怒り、そして愚痴といった表情と態度を自在に変化させる。綾乃は、幼く純情そうな若妻から底知れない怖さを秘めた小悪魔に豹変する。穏やかな雰囲気から段々と不穏な空気が流れ出し…。ラストの依頼とその裏に隠された事情が透けてくると、もはや疚しい以上の疾(やま)しいかも。
次回公演も楽しみにしております。
¡LOS CASCABELITOS con 芋洗坂係長!

¡LOS CASCABELITOS con 芋洗坂係長!

大野環フラメンコアカデミア 「EL ANILLO」

タブラオ・フラメンコ・ガルロチ(東京都)

2021/12/20 (月) ~ 2021/12/20 (月)公演終了

実演鑑賞

一夜限りのエンターテイメントショー…大いに楽しめた!それに対する☆評価は無粋かな。
会場「タブラオ・フラメンコ・ガルロチ」は、新型コロナの影響で現在休業中、来(2022)年 新たに開業するという。今宵は「芋洗坂係長とフラメンコの抱腹絶倒コラボレーション!」と題し、特別にイベントを開催した。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

「大好評を博したお笑いとフラメンコの抱腹絶倒コラボライブが、満を持して開催決定!」と言うだけあって、なかなか仕込んだプログラムであった。

オープニングは、「伝説の振付師登場!」。もちろん芋洗坂係長が、Baileにダメ出しをし、自分勝手な振付を行い笑いを誘う。その後、改めてフラメンコを踊るが、言われた振付をさり気なく取り込んで、というか逆に元々のダンス振付を芋洗坂係長が面白く振付したように観せかけた趣向らしい。そして彼自身、座頭市に扮し仕込杖による居合(術)を観せるが、そこでも しっかり笑いを誘う。
フラメンコと言えば音楽。音楽隊コーナーとして、フラメンコではお馴染みのCante、そしてGuitarra、Percusionの見事な演奏が聴かれる。

メインは、4名Baile=ソロ・ダンス。代表的なブレリア、セラーナ、タラント、アレグリアスが見事に演じられる。最後のプログラムは、芋洗坂係長のオリジナル曲「風を浴びたい」をBaile全員で踊る。芋洗坂係長の体型がメタボーーそれを笑いネタとし 汗かきは風を浴びたいのだというシャレを取り入れた振付になっている。
最後まで観客を笑わせる、そのサービス精神に感謝・感激、そして満足した。
鈍色(ニビイロ)のヘルメット -20歳の闘争-

鈍色(ニビイロ)のヘルメット -20歳の闘争-

KUROGOKU

中板橋 新生館スタジオ(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

激動の時代の中で生きた若者たち、そして いつの時代にも出会う恋愛。全体としては「全共闘運動」、しかしその意匠を借りた恋愛劇のようでもあった。物語は東大全共闘の誕生、安田講堂での(機動隊との)攻防戦で最高潮というダイナミックな展開。熱く激した時代があったことを、一少女の軌跡を通して描いており、時代と人間がしっかり立ち上がってきた力作。
物語は、恋愛を「エーデルワイス」、闘争を「インターナショナル」、そして地続きの現在、そして未来へ向けての「友よ」という曲が端的に表している。
(上演時間1時間50分)2021.12.20追記

ネタバレBOX

ほぼ素舞台だが、「完全勝利まで闘い続行‼」「東大全共闘!」といった文字が立て看板等に書かれている。さらに後々、安田講堂攻防戦で使用する木箱がいくつか積まれているのみ。壁には闘争幕といったもの。板は継ぎ接ぎした板目で、会場全体で荒廃と闘争感を表す。

梗概…1965年高校2年生の時、主人公・小松原ミチコ(富川陽花サン)は友達の早川トモコ(守谷花梨サン)と映画『サウンド・オブ・ミュージック』を観た帰りにデモ隊と機動隊の衝突に巻き込まれ、投石でミチコは怪我を負う。その時、ミチコを介抱してくれたのが、東大生だった澤田カツトシ(小坂広夢サン)で、彼を慕い東大へ入学し、さらに東大全共闘へも加入するが…。

時代背景や当時の状況を伝えるのは、カメラマン助手であった加藤ヒトミ(松本みなみサン)、後々の語り部のような存在。また澤田の元彼女で女性解放運動を高らかに唱えていたのが野川サナエ(野田香保里サン)。彼女の言葉を借りれば、いずれ女性の大統領も誕生と言っていたが、日本では未だ女性の首相は誕生していない。ちなみに直近の世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ報告(対象153カ国)では、ジェンダー格差が少ない国の中で 日本は120位で下位のほうだ(分析の是非は別)。

演出の黒田瑞仁氏が、当日パンフの中で「地続きのはずが当時を生きていなければ決して知った顔もできないほどの距離を感じる時代」と書いており、確かに半世紀ほど前にあった事実は、歴史の中に埋没したかのようだ。物語では、ウーマン・リブといった台詞に象徴されるような、女性解放運動が(地続きの)今に続く。女性の社会進出は当時に比べれば進んだかもしれないが、それでも世界的に見ればお粗末なもの。

物語は、当時の出来事ー全共闘運動を直截的に描いても、当時を知らない人が観たらピンとこないかもしれない。それを2つの視点ーいつの時代でもあり得る恋愛話と女学生の成長譚、そして学生と機動隊が衝突した歴史的事件ーそれも「東大全共闘結成~東大安田講堂(攻防)事件」に焦点を当て、どちらも熱く描かれる。もちろんフィクションとドキュメンタリーという要素を混在させており、今を生きる我々に演劇としての面白さの中で伝える。出来れば事件の発端となった東大医学部の問題をもう少し紹介し、時代背景や思想だけではなく具体的な問題(現代にも通じる)を示したほうが取っつきやすい。

ラストは安田講堂攻防の苛烈さ…客席に向かい、キャストが横一列に広がりヘルメットを被りゲバルト棒を持ち戦う姿。それぞれが掛け合う言葉が戦況を表す。刻々と変化する状況、そこに緊迫感と悲壮感が漂う。冒頭流れていた「インターナショナル」から機動隊突入前に歌う「友よ」へ変わり、歌詞の中で繰り返される「夜明けは近い」は、安田講堂(城)が直ぐに陥落せず、学生の反体制への意地を見せたことに繋がる。そこに当時の熱き想いが込められている。見事。
次回公演も楽しみにしております。
から騒ぎ

から騒ぎ

劇団東京座

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

丁寧に描いており、シェイクスピアらしいオクシモロンを思わせる会話もあり楽しめた。しかし、上演時間2時間45分(途中休憩10分含む)という長丁場、丁寧ではあるが同じような会話もあり、そこは割愛してストーリー重視の観せ方でも良かった、と思う。
公演の魅力は、戯曲の面白さはもちろんだが、それを現代風に分かり易く展開する。具体的には、印象に残るような場景演出と役者陣の情景描写(演技)が上手い。【Aチーム】

ネタバレBOX

舞台美術は、暗幕に囲われ所々に煉瓦柱、中央に窓に蔦が絡みついた東屋風の衝立があるだけのシンプルなもの。場景変化に対応するため簡素な作りだが、そこに煉瓦模様の布を被せ堅牢さ、時にバージンロードとなる赤絨毯を敷き 教会に見立てるなど自在に変化させ、しっかり観客を物語の世界へ誘う。

物語は2組の恋人同士を中心に展開する。領主ドン・ペドロの従者ベネディックとレオナート邸の知事弟アントーニオの娘ベアトリスが善意の策略にかかって互いに対する愛を告白する。一方、ドン・ペドロの異母弟ドン・ジョンの悪意の策略により、同じ従者クローディオは知事レオナートの娘ヒーローを不実だと思い込んで結婚の祭壇で拒絶する。修道士の機転の利いた窮余の策でその場を収める。その後、ベネディックやベアトリス達は誤解を正すため協力する。最後は2組が結ばれダンスで祝って終わる。

物語は、善意と悪意、二種類の騙しを通して対照的な恋を描き、騙しと知ったあとでも愛を貫く強靱な精神を称える。一方、悪意の仕打ちに弄ばれる脆さの中にも美しさを観せる。対照的な恋筋は、いづれもハッピーエンドで締め括り陽気で後味が良い。しかし、物語の本当の面白さは浮ついた恋物語に悪意を投げ込み、次の展開がどうなるのか気になる、といった関心を惹かせるところから始まる。登場場面も台詞も多くないが、ジョンの悪だくみが 大らかで陽気で満ちた舞台に強烈な痛みを与え、物語を単なる御伽噺から(現実)宮廷劇へ戻す。また、立ち聞きがこの作品では巧みに用いられている。ベネディックとベアトリスが自分についての噂話を立ち聞きしたことで、レオナートたちの好意的な罠に嵌ってお互いを好きになるという効果をもやらす。
シェイクスピアらしさは、恋など馬鹿げていると言わんばかりのベネディックとベアトリスの豹変振りに表されている。人は愛する人を憎み、いけないことを楽しむ。色んな思いが混在する雑多な世界。人間は矛盾するところが面白い。機械と違って理屈や理論では片づけられないのが人間で、恋に落ちるなどというのは反理性的な行為だが、その「おめでたさ」が喜劇の真骨頂であり祝祭性であろう。それが伝わる公演であった。

役者の台詞は 早口かつ滑らかだが、テクニック優先で気持が後まわし。敢えて表面的な可笑しさとして観せているかのようだ。場面としては照れ隠しであり激情した様子を表現する所。しかし台詞であって会話の言葉ではない。言葉という伝達に魂が入らなければ真意が通じない。何故か稽古の”台詞”といった感じで上手いが心に響かないのが残念。
公演全体としては、とても丁寧な描き、演出も工夫を凝らし コミカルでありドキッとする要素(教会の十字架が取れ落ちる)を取り入れる。音響は場面に合ったSE(闇夜の梟の鳴き声や水が滴り落ちる音)、さらにクラシック音楽等を流し情緒性を表現。照明と小道具は暗がりに篝火・松明といった幻想効果を出す。最後に主な役者の衣装も、暗幕の中でも照明に映える赤い上着という拘りが良い。
次回公演も楽しみにしております。
掌サイズのファンタジー

掌サイズのファンタジー

backseatplayer

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い! 30歳独身男、今までと これからの人生を考える。
いつか来た道だが、大人になったらそんな事も忘れてしまう、人間関係の機微。それが家族ともなれば、それなりに煩わしくもあり、疎ましく感じることもある。今の思いをしっかり伝えることの大切さ、それを少し斜めから切り込んだ世界観。その世界を覗いてみれば、生きるために必要な事が笑いの中に散りばめられている。祖父、父親、息子という男三世代が贈るヒューマンコメディ…ラスト、ポケットの中を探った手を開いてみれば、そこには掌サイズ(いっぱい)の幸せがある。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、少し高い平台が正面にあり、その上に黒板がある。板には色違いの箱馬が8つあるが、状況に応じて置く位置を変える。場面転換後、客席寄り中央にタバコ1箱(銘柄White iLL)が置かれ1本飛び出ている(チラシの図柄)。

主人公・落合楽空(藤代海サン)は、シンガーソングライターになるのが夢だが、30歳になった今ではバイトに明け暮れ、夢が萎みかけている。そんな時、父・秀樹(剣持直明サン)から亡くなった祖父・士郎(冨田浩児サン)の家を売却するので、片付けを手伝うよう電話がくる。祖父の家にあった先のタバコを吸った。気が付いたら この世とあの世の狭間の世界にいた。その世界の違いは衣装の別で表す。狭間世界は、上下ブルーデニム地の作業着みたい。ここにいるのは夢半ば、やり残して死んだ者ばかり、いつの日か生まれ変わった時に同じ轍を踏まないようにと…。何故か士郎と祖母・千鶴(真野未華サン)が若かりし頃の姿で出迎える。さらに存命だったはずの秀樹まで居る。これは夢か現実か判然とせず混乱する楽空に向かって、お前はまだ生きている。ただ生きていく上で必要な事を学ばせる。同時に疎遠だった父との蟠りの解消も果たす、という教訓臭と親子愛を描いた人情劇。

教わったのは「自由」「自信」「勇気」の3つ。夫々の必要性について、楽空に体験・事例研修させるといった観せ方。規制が作られた理由・原因を知り、その上で不必要な規制(精神的な束縛)からの解放。いつの間にか夢は萎み失いそうになるが、出来ると信じること。最後に誰に何を言われようとやり遂げる強い意志と勇気。楽(ラク)をすることが夢や幸せではない。自分らしさ、やりたい事が出来ることが楽(たの)しい人生。同じ「楽」でも意味合いが違う。父から、そんな願いを込めて名付けた名前「楽空」(実際は士郎が命名)であることを知らされる。藤代サンと剣持サンの気まずい父・子関係が実にリアル。特に 2人が同じ状況(車中)で夫々の立場から描いた場面は、そぅそぅと頷いてしまう。

箱馬は教室における座席であり、そこへの上り下りが躍動感を生み、理屈っぽくなりそうな会話に変化を付ける。駆け回る、囃し立てるといった姿は、小中学生の教室を連想させる。自分が子供の頃に思い描いた夢、親は足元を見つめた現実話、そこに親子のギャツプが生じるが、自分が親になったらいつの間にか同じような説得口調になっている。世代を超えての堂々巡りは、時に親子の確執を生む悲劇になる。公演では現実(理屈)の世界を少し離れた場所から眺める、そんな曖昧(ファンタジー?)さでテーマを浮き彫りにする巧さ。
次回公演も楽しみにしております。
眠れぬ姫は夢を見る

眠れぬ姫は夢を見る

サヨナラワーク

劇場HOPE(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

女優8名によるミステリアスな心象劇。その謎めきが、観客の関心を最後まで惹き続ける。物語は、役名ではなく出演者名のまま演じられるので、役柄はチラシ裏面の顔写真と名前を見れば一目瞭然。物語は2021年夏から10年前の2011年夏に遡り、ある事件を通して描いた女性の成長譚でもある。シンプルな舞台美術に鮮やかな色調のプロジェクション・マッピング、しかし それは図柄のみで 表し難い心の内を端的に示しているようだ。時代の往還はあるが、年月日が字幕表示されるので混乱することはない。公演では、女性の心象と成長する過程を楽しみたい。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、下手 客席に向かって二面の壁が広げられ、壁に沿うように夫々3箱馬が置かれているのみ。色調は白、ちなみに女優陣の衣装も薄淡色で、何となく浮遊感がある。その壁に幾何学模様のような図柄を映し出す。その意味合いは解らないが、色鮮やかなこともあり、状況変化であろうことにハッと思いを巡らせる効果はある。

アイドルグループに新規加入した南岡萌愛さんは、グループで一番の人気者、美澄優羽さんに憧れていた。いつも傍におり、彼女が引退を考えていることを知り、辞めないよう懇願するが…。いつしか優羽から疎まれるようになり、グループ内でも孤立を深めていく。そして優羽のストーカーに暴行を加えられ入院する。以降、人との接触を避け怖がるようになる。そして現れたのが(彩原)双葉さん、彼女は萌愛が寂しくなった時に現れる心の友。もう1人、暴行事件を取材している水野奈月さん、グループメンバーにインタビューすることで立ち上がる萌愛像、一方メンバーのぎこちない対応に違和感を覚えはじめる。

双葉との会話=自分の寂しさに向き合うことで心の傷を乗り越えようとする。それは双葉の存在を必要としないことを意味する。双葉の「さよなら」の言葉に被せるように「おやすみ」という。双葉は私にとってディア・マイ・フレンドという。いつかまた寂しい思いをし、再び必要となる時まで眠り夢見ること。奈月は、心の奥深くし記憶を押し込んだ自分自身。萌愛はメンバーが自分のことを取材する姿に戸惑いと悲しみを抱えていたことに気づく。色々な辛い思いを乗り越えて、夢であったコンサートへ…。

シンプルな舞台セットだが、何回か箱馬を変形させることで情景に変化をつけ飽きさせない工夫。重くなりがちな場面も、女性ならではのフワッとした柔らかさ、しなやかさで優しく観える。また照明は鮮やかな色彩中心に諧調させるなどの工夫で支える。女優陣は事務所代表、萌えキャラ、ツンデレ、愛嬌 といったキャラをそれぞれ、宮本朋美サン、桜羽萌子サン、杢原朱織サン、丹羽まなえサンが好演。
過去公演はオンラインシアターが中心。この演劇ユニットは新しい演劇のかたちを追求しているという。そう言えば、劇中で「ディア・マイ・フレンズ(ド)」「私は貝になりたい」などの映画タイトルが呟かれる。これもリスペクトしつつも否定し新しいエンタメに向っての活動表現なのか。「サヨナラは次のハローへの合言葉」という魅力あふれフレーズ…今後、楽しみな演劇ユニットに出会えてよかった。
次回公演も楽しみにしております。
「紅一点」

「紅一点」

演劇ユニット「みそじん」

ステージカフェ下北沢亭(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

全回取扱終了(完売)の超人気公演! 
マンションの大家兼管理人、住人のコミカル騒動を通して、人との触れ合いを描いたハートフルコメディ。久し振りの みそじん公演、楽しめた。今まで観てきたのが女優だけで、女性ならではの繊細であり、ちょっぴり棘のある物語だった。「紅一点」は、初めて男優が登場し、今までと違ったパワフルさが新しい魅力として加わった。ただ、観(魅)せるために、飛び道具、少し強引かなと 思える笑い(爆笑と言うよりはニヤニヤ系)への誘いは、観客の受け止めかた次第。自分は素直に笑わせてもらった。
(上演時間1時間20分)

ネタバレBOX

最前列は舞台近くにあり、エキサイティングシートとして案内していた。一瞬 観客参加型の場面があるのか訝しんだが、思い過ごしだった。マンションの部屋は基本的に同じ間取りという設定で、3話(部屋)の住人が巻き起こすドタバタを描きつつ、大家の目指す住人同士が助け合いが出来る環境を構築したい。昔ながらの長屋イメージ、住んでいる皆で子育て、調味料の貸し借りといった相互扶助的なマンション(管理)にしたい。

舞台美術は、基本的な間取りは同じであるが、部屋ごとの調度品等(小道具)は異なる。同じイメージなのは正面の窓、吊るされるカーテンと下手にある壁飾り(柄や趣向は違う)。3話の場面転換時は直ぐに暗転しない。スタッフ・キャストが薄明かりの中で、配置換えを行うなどし場所が違っても同じ時間が流れている、その観客の意識を逸らさない工夫が巧い。住人の衣装はもちろん、大石さんはメイクも変え、人物表現に工夫を凝らす。

物語ー各部屋の出来事は次のとおり。
第1話「藁藁Ⅱ」ー黒木知恵与の部屋
大家(生津徹サン)が住人・黒木知恵与(大石ともこサン)の部屋で藁を編む(イメージは しめ縄作り)ことを習ってみようと訪ねる話。2人で藁編の実演を行うが、大石さんが もたつく生津さんを 早く!早く!と煽る。2人のコミカルな遣り取りが笑える。
第2話「ごく普通の暮らしについて」ー野村翔太・さち子夫婦の部屋
離婚するため、さち子(大石サン)が荷造りをしているが、翔太(菊池豪サン)は納得していない。突然 さち子はフードファイターになるため渡米すると。引き留める夫、そんなところに引っ越しを手伝うため、さち子の弟/谷口雄二郎(田上晃吉サン)がやって来る。真意は子供が産めないため、自ら離婚を切り出し というありがちな話。
第3話「お部屋の秘密Ⅱ」ーセイジの部屋
3人組のバンド、セイジ(菊池サン)トオル(田上サン)ビリ子(大石サン)が、将来の見通しが立たないバンド活動に見切りをつけるか否かの言い争い。セイジとトオルは幼馴染で、なかなか話し出せないが、トオルとビリ子は付き合っている。セイジはメジャーデビュー出来そうな美味しい話があると聞き入れないが、結局トオルとビリ子は部屋を出て行く。

第1話は藁編の実演、第2話はダンボール箱への隠れ、第3話は流しソーメンという飛び道具。もちろん話(各部屋)の関連性はなく、オムニバス的な描き方。大家が強引に流しソーメンを始め、いつの間にか登場人物全員が集まり、大家のマンション管理の理想”人との触れ合いを大切にする”を聞く住人達。冒頭、大家は親から相続したマンションの家賃収入で生活でき、無理して煩わしい、嫌なこと、そんな道を選択する必要がない。でも生き甲斐みたいなものは、という大家の願望が強く伝わるラストシーン。
次回公演も楽しみにしております。
リーディング新派 in エンパク 『十三夜』

リーディング新派 in エンパク 『十三夜』

早稲田大学演劇博物館

大隈記念講堂小講堂(東京都)

2021/12/15 (水) ~ 2021/12/15 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2021年度秋季企画展「新派 SHIMPA――アヴァンギャルド演劇の水脈」関連公演として上演された樋口一葉の小説「十三夜」、奇しくも十三夜に近い十五日に拝聴。過去に何回か聴いたことがある朗読劇。

この作品は、昭和22(1947)年9月の三越劇場、久保田万太郎の脚色で新派によって劇化初演されたらしい。初代水谷八重子が自ら選んだ「八重子十種」にも数えられる名作という。今回はその大御所、水谷八重子の近くで学んだ波乃久里子さんが主人公のお関、歌舞伎の舞台にも立ったことがある新派の喜多村緑郎氏が幼なじみ・録之助を演じる。練達の俳優たちの情感あふれる朗読、そして生音調 目にすることが少ない道具での見事な情景描写に唸る。

幼なじみの恋路を照らす十三夜の月あかり――。声と音がつむぐ新派の世界に、言葉に耳をすます。
アフタートーク、波乃さんの開口一番は「緊張した!」だった。彼女ほどの大ベテランでも緊張するという、演じれば演じるほど奥が深い演劇の世界。いや~聴応えがあり、一夜限りの至福の時間。堪能。
(上演時間1時間30分 朗読+アフタートーク)

サド侯爵夫人

サド侯爵夫人

遊戯空間

銕仙会能楽研修所(東京都)

2021/12/11 (土) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「凄い!」公演を観劇した。そして感激した。
二日間、たったの2公演…前評判も高く、当日は開場前から長蛇の列、もちろん満席だ。上演時間も然る事ながら、充実・満足度は大作と呼ぶに相応しい。
原作は三島由紀夫、演出・美術は篠本賢一氏。謳い文句「能舞台でフランス貴族の物語を重ね合わせつつ西洋と東洋文化の衝突」は、外観こそシンプルであるが、描かれた内容は複雑な人間心奥をしっかり観せる。
(上演時間3時間35分 途中休憩20分含む)

ぶっかぶか

ぶっかぶか

ここ風

シアター711(東京都)

2021/12/08 (水) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い! お薦め。
ペンションを経営する夫婦とその兄や妹、そして3組の宿泊客が織り成す心裏(喜)劇。劇は心を揺さぶり、自信いや地震が劇場も揺さぶった(東京23区は震度3だったが、役者は平然と演技を続行、さすがだ)。
一人一人のキャラがユニークだが、どこにでも居そうな人物の特徴を強調させることで、強烈な性格を際立たせる上手さ。相手を思いやる心遣いが出来ず、蟠り、そして場の空気を読めないといった人々が抱える苦しみと哀しみ、それを心に押し込み、明るく元気よく振る舞う姿に可笑しみをおぼえる。
タイトル「ぶっかぶか」…人間、やはり身の丈に合った役割や立場でないと、居心地が悪く精神的に苦痛なのかなぁ。しかし、役者は役にピタッとはまっており見事。
(上演時間1時間55分)

ネタバレBOX

舞台美術は、古民家を改築したペンションの共用スペースをしっかり作り込み(敷居の跡あり)、物語の情景を支えている。上手に丸テーブルに椅子、中央が出入り口、下手に書架や窓があり外光が射し込む。薄がりに灯る傘電気が風情を漂わす。室内にも関わらず土足だが、スリッパにしたら動き難そう。

物語は、訳ありで不思議な3組の宿泊客を通して描いたハートフルコメディ。まずペンションにいる人々の紹介をしながら、早くもキャラを立ち上げる。ペンションの相馬修太郎・瑞希夫妻(香月健志サン・天野弘愛サン)、瑞希の兄・浅野陽介(牧野耕治サン)、妹・麻希(斉藤ゆきサン)が居候のように住んでいる。
宿泊客は3組だが、正確には1組の物置会社社長・観山勤(斉藤太一サン)とその兄・政生(後藤英樹サン)だけで、他の2組は必然の客・関根優真(はぎこサン)と偶然に宿泊することになった笠原裕也(三谷健秀サン)。

本来の客である観山勤は陽介がアップした動画を偶然観たところ、情緒不安定になってしまう。心配した政生が陽介の居場所を探し出し、静養と偽り弟を連れてくる。この動画、催眠効果を発揮するらしいのだが、陽介が逃げられた女房に向けて撮った動画で、「催眠を解く」ことを意図している。元はプロポーズの時「俺と結婚したくなる」と催眠術をかける真似をし、女房はフリをした。いなくなった女房に「催眠術を解いたから自由だ」という意の動画が、社長というプレッシャーに耐えきれずにいた勤の潜在意識を刺激し精神的な解放をもたらした。この兄弟は父・母の連れ子同士で血の繋がりはない。幼い時から比較されながら育つという愛憎が切々と語られる。

必然に客となった優真は、ペンション夫婦の妹・麻希が自分の双子の妹の墓参りに来た後を付けて来た。一年前、社員旅行で行った清里の寮の火事で優真の妹は焼死した。その後、麻希は会社を辞めた。妹が命を懸けて助けたかった友達・麻希に興味を持ち、ペンションまで来た。2人で話すうち、性格の違う妹がなぜ彼女を助けようとしたのか理解できたような心持。

偶然に宿泊することになった裕也、幼いころから耳が聞こえなくて放浪している。このペンション近くで木から落ちて怪我をしている勤を背負い、ここまで来た。大人になるにつれ不思議と耳が聞こえるようになり、身体的な変化は精神的な変化をもたらす。聞こえなくてもよいことが自然と耳に入り、人との関わり、距離感が掴めないもどかしさ。「ありがとう」と言われた相手から持参のスタンプを押印してもらう。取りあえず1万人(瑞希が1万人目)達成、新たに1万人と関わるスタンプ目標を持つ。

ペンションという人との出会いや関りが大切な仕事、それを訳ありな事情を抱えた人々を登場させ、人間関係というか人との距離感という描き難い微妙な事を実に巧く観せる。催眠術的な動画の件は、作・演出の霧島ロック氏がワン・シーンだけ登場し種明かしをするようで笑える。
次回公演も楽しみにしております。
『きみがゆえにわたし』 『咲く、白。』

『きみがゆえにわたし』 『咲く、白。』

踊る『熊谷拓明』カンパニー

あうるすぽっと(東京都)

2021/12/10 (金) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

2作品交互上演のうち『きみがゆえにわたし』観劇。
「咲く、白。」について、作・演出・振付の熊谷拓明氏とゲストで振付家・ダンサー・俳優の北尾亘氏がダンス披露を交えた、モノローグ、ダイアローグといった観せ方。これを公演にするのは無理がある。どちらかと言えばアフタートークで済ませる内容だ。
(上演時間1時間15分)

ネタバレBOX

招待公演。
舞台美術は、基本的に『咲く、白。』と同様。違いがあるとすれば、ソファーがひっ繰り返っていないことと、冷蔵庫が初めから舞台上にあることぐらい。2人がソファーやその他の場所で語らうが、普段通りの会話だろう。広い空間に2人だけで所在なさげだ。

熊谷氏が北尾氏に公演を観た感想を求めるが、口ごもる北尾氏。 次第に話題は互いの”踊り”や ”生きる”に及び、互いの価値観の根底にある歪みが浮き彫りになるらしいが…。さっぱり解からない。そして2人でダンスの競演やカラオケ・デュエットでの緩い笑い。あー勿体ない時間が過ぎる。
『きみがゆえにわたし』 『咲く、白。』

『きみがゆえにわたし』 『咲く、白。』

踊る『熊谷拓明』カンパニー

あうるすぽっと(東京都)

2021/12/10 (金) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2作品交互上演のうち『咲く、白。』を観劇。
物語とコンテンポラリーダンスの融合作品。
物語は自分の存在確認と心地良い居場所を求めて集まった男女7人が紡ぐ話。それをダンスを交えて観せるのだが、自分にはダンス・パフォーマンスの意味するところは読み取れない。ただ極めて身体表現(体力面も含め)の質が高いことは窺い知ることができる。
(上演時間1時間25分)

ネタバレBOX

招待公演。
舞台美術は、白銀網のような幕が舞台の前後に吊るされ、場面に応じて上下に動く。板には緑の絨毯が何枚も敷き詰められ、その中央に3人掛けソファ(上演前は引っ繰り返っている)、上手に応接椅子2脚、下手にテーブル、後方に洗濯機、ごみ箱、スタンド等、雑然と色々な物が置かれている。さらに洗濯物が吊るされている。この場所はどこで、集まっている人々の関係性は、といった疑問が生じるが、物語の展開とともに明らかになる。この雑多な物は各人が持ち込んだもので、何故その物なのかは不明。

梗概…2014年3月末日。車両が頭上を行き交う高架下で、1人のホームレスが酒に酔ったサラリーマン3人に暴行を受け、殺害された。数日後、消しきれぬ彼の血痕の上に何枚もの緑の絨毯を敷き、思い思いの家具を持ち寄り暮す人々が現れた。人々は入れ代わり2021年12月。緑の絨毯の上で暮す男女7人は互いの価値観に足を踏み入れる事を嫌い、穏やかに過ごす時間を求め肩を寄せ合った。
ある日、7人の前に冷蔵庫を引きずる一人の男が現れる。妻との時間に息苦しさを感じここへ来た男と7人の暮らしは、やがて男が知らされる妻の"ある真実"により新しい未来へ加速する。男は、自分を否定すると、妻をも否定しているような錯覚に陥る。それだけ妻を愛していたのだが…。

ホームレスとは、単に帰る家が無いだけではなく、心に帰る家が無い人をいう。その意味では、高架下にいる7人は心の拠り所、安心できる場所がここしかない真のホームレスといえる。また、血痕が隠れるように敷いた緑の絨毯は平和の象徴のように言っているが、こちらも隠すだけという表面的な取り繕い。7人は互いに干渉し合わないから、その場限りの”関係”でしかない。自分のことは話し(知られ)たくないが、相手のことは詮索しがち。人間はなんてエゴな生きものだろうか。”白”という色は、純粋無垢といった好イメージを持つが、逆に何にも強調・主張しない無責任な色でもあるという。それが不干渉とでも言うのだろう。観せ方は極めて心象的で抽象度の高いもの。それだけに観客を選ぶかもしれない。ラスト、薄暗い中、ランタンの明かりに照らされて朗読される詩が心に響く。

音響は優しくピアノが奏でられ、時々 波の音、そして水が流れるといった静寂な空間イメージ。かと思えば高架下ということもあり耳障りな騒音、空想と現実の世界観を音響効果で表しているようだ。
物語の展開とダンスの関係性(表現したかったこと)は理解できないが、公演全体としては楽しめた。
次回公演も楽しみにしております。
夏への扉 2021

夏への扉 2021

enji

現代座会館(東京都)

2021/12/10 (金) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い! お薦め。
手の指の間から大切な思い出がポロポロと零れ落ちるが、その愛しい思いをそっと救い上げ、固く握りしめ楽しかった時を想像・回想する。ラストの明るく力強い台詞…「楽しい夏休みだった。私はこの思い出を一生忘れない!」は心に響く。寒風吹きすさぶ中、劇場へ向かったが、帰路は心が ほっこりするような心持になれる、そぅ心が温まる秀作なのだ。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台となるのがビートルズが来日した1966年、昭和の雰囲気が漂う喫茶店「セブン・ドアーズ」。店内セットで気になるのが、いくつもあるドア・・上手から「ヒルトン」「地下鉄」「病院」「国鉄」とあり、それぞれに所要時間が書かれている。カウンター、腰高スツール、テーブル等を設え、内装(レンガ壁)、壁に多くの写真を飾り 実に丁寧に作り込んでいる。何となく行ったことがあるような雰囲気の喫茶店、懐かしさを覚える。上部 後方には暗幕があり、それを開閉することで物語の時代・時季を表す。

この作品は2002年に初演、2006年に再演、さらに番外公演も実施しているという。何度も上演し(観)たくなるのが頷ける。公演でも2002年当時を思わせる携帯電話を使用するなど細かい配慮。主人公・桑野明日香は、母が亡くなり喪失感に苛まれている。その様子を心配する恋人の隆。或る冬の日、胡散臭い男が、癒しの香を売りに来る。彼女は「明日への活力がわく香」を所望し、それを嗅いだところ、’66年夏にタイムリープ・・「夏への扉」を開けたのだ。実はタイムパラドックスを避けるため、彼女が生まれる前、すなわち存在しない年代を描く(理屈ではなく)。両親や好きな叔父がまだ生きている。ビートルズが宿泊しているホテルの近くにあるこの喫茶店は賑やか。活気のある日々を満喫し、いつしか元の世界へ戻りたくないと…。

舞台美術の見事さはもちろん、時代の季節感を出すため、後方の暗幕を開閉する。冬の現在は暗幕で仄暗くどんよりとしている。一方、暗幕を開けた’66年は明るくカラッと晴れた青空を思わせる。衣装も時代や時季にあわせ着替える。外から店内に入ってきた父の顔は汗がいっぱい。明日香の後を追ってタイムリープした隆のワイシャツも汗で濡れている。2002年という未来だから分かる これからのこと、逆に1966年当時でしか知り得なかった事情が明かされ、自分が本当に愛され望まれて生まれた。今、亡くなった人々との楽しかった夏の日々は思い出しかない。しかし人は(楽しい)思い出だけでも生きていける。

音楽はもちろん、レコードで聴くビートルズや日本のグループサウンズの懐かしの曲が流れる。物語で登場する平本恵は、いつの時代でもいる熱烈なファンを表すが、ビートルズは特別な話題性をもっていたようだ。そう言えば、明日香が嗅いだ香は客席(2列目で観劇)にまで漂ってきた。その匂いこそが熱気臭のようなものか。
物語(脚本)の面白さ…人が持つ懐古、回顧、郷愁といった思いは、いつの時代になっても色褪せない輝きを放つ。それは自分のものでしかないのだから。ラストの明るく力強い台詞が心に響くのは、今となっては誰とも共有できないが、それでも過去に存在したことは事実。それを胸に刻み(思い出し)歩んでいくのだろう。
次回公演も楽しみにしております。
闇鍋音楽会vol.2 『The leg line』

闇鍋音楽会vol.2 『The leg line』

仮想定規

中野スタジオあくとれ(東京都)

2021/12/09 (木) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

感情のツボを擽るように刺激し、クスッと笑わす絶妙な面白さ。未見の劇団だったが、よい出会いが出来てラッキー。公演はショー的に魅せるといった印象が強く、その中にドラマを展開させる、という凝らし方。そこには観客を楽しませる、といったサービスが観て取れる。実際、途中で換気休憩を入れるが、その間も役者の1人が観客参加型のゲームを行い、正解者?にプレゼントを進呈。もちろん換気の必要もあるが、場面転換や着替えに要する時間でもあり、効率よく舞台運営をしている。上手い!
(上演時間1時間30分 途中休憩約10分) 

ネタバレBOX

舞台美術は、ぶら下がり健康器具の枠(キャスター付)のようなものが、客席側に3台、その後ろに2台置かれる。また客席と舞台の間に一㍍四方の板、その横にマイクが固定されている。これは劇中で2回タップダンスを踊るための仕掛けで、これがまた観(魅)せる。なお、タップダンスのテクニックは素晴らしいと思うが、少年・少女による演技は少し長いような(音楽の一曲と同様、ダンスにも仕舞があるのだろうか)。公演全体の流れが、一瞬止まり物語の世界観へ戻すには 力 が要ったのが少し残念。

梗概…突然の悪天候、そんな中で公演を行うために準備する楽屋が舞台。果たしてこんな荒天候の中、観客が来るのか。そもそも出演者も色々な事情で全員が集まっていない。もう直ぐ幕が上がるが…。ちなみに器具枠は鏡であり、衣装掛けを表す。さらに落雷で停電し、蓄電源とペンライト等で段取りを話し合う中、僧侶・電気工事人・デリバリー配達人など、公演に関係のない人々が次々に現れる。出演者は往年の歌手:サラ、地下アイドル:ジル、歌手niceの姉:米田、いつの間にかデリバリー配達人:bridgeがラッパーになっている。そして劇場支配人:和也という異色な取り合わせ。個性豊かな人々が何とか公演を実現しようと、その姿に電気工事人や住職がそれぞれの専門ー電源確保という専門技術、木魚等による音響ーという協力をし、何とか公演を行う。当日の観客がリアル観客としてライヴ公演を聴いた、ということ。出来れば、上演開始迄の切羽詰まった緊張感をもっと漂わせれば、緩急ある展開になり観客の集中力・・ハラハラドキドキ感が増したと思う。

器具枠に銀ラメ、リバーシブルで色鮮やかな5色の幕を掛け、可動し華やかな舞台を演出する。専門の楽器を利用することなく、歌はアカペラ「青い星」、音響は木魚や玩具、ダンボール箱への打突で味わいと特徴ある効果音で奏でる?という荒業。それが何とも可笑しみがあり印象深い。窮地にあっても演じる者の矜持といったものを表す。劇場支配人の小学生時代の思い出話は、例え観客1人(それが子供)であっても、役者は真剣に演ずる。また劇場は災害等が起きた時の避難場所でもあり、その意味では寺と同様だは蘊蓄話。

まさしく停電という闇設定の中での疑似公演ー闇鍋音楽会vol.2はleg lineを超えて踏み出す一歩になったように思う。次回公演も楽しみにしております。
時代絵巻AsH 特別公演 其ノ四『草乱~そうらん~』

時代絵巻AsH 特別公演 其ノ四『草乱~そうらん~』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2021/12/08 (水) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

観応え十分。
日本史的にも重要な意味合いを持つ「島原の乱」を時代絵巻AsHらしい、というか大胆で独創的な解釈によって紡ぐ壮大な物語。何を書いても すぐネタバレしてしまいそう。ただ、”戦うことは勝つことではなく、大切なものを守るため”という思いが強く伝わる内容だ。
緩急ある展開、抒情的な観せ方など、その丁寧な作劇は期待通り。そして過去公演以上に感情の揺さぶりが大きく、嗚咽する観客の多いこと。
もちろん創作劇だから史実と違うだろうが、一揆が起きた背景(概要)、用語集、人物相関図を掲載したパンフレット(他劇団であれば販売するような豪華版)が配付されるので、上演前に一読すれば一層理解が深まる。
(上演時間2時間30分 途中休憩15分含む)

ネタバレBOX

舞台美術は、時代絵巻AsHらしく正面に両開き襖、廊下や縁側・沓脱石がある典型的な日本家屋作り。下手に一段高くした別スペースを設え、外観は土塀や板塀など当時の雰囲気を漂わす。
物語の概要は、歴史の教科書のようであるが、登場人物の設定が大胆。冒頭は大阪城落城のおり、真田幸村が嫡男・大助に豊臣秀頼の子を託し落ち延ばす場面から始まる。この子が後の天草四郎として島原の乱の指導者になるという設定である。中心的な人物はこの四郎と幼馴染の子供たち、特に大助の息子・源次郎。公演は語り物を装うようだ。

厳しい年貢の取り立てに反発した蜂起であったが、島原藩、唐津藩(大名)は、幕府から統治能力を疑われることから、キリシタン弾圧と絡め農民一揆を宗教的な反乱へすり替えようとする思惑。クルスへの唾棄、踏絵といった試金石場面が痛ましい。同時に戦国浪人の不平不満を取り込んだ、別次元の思惑も絡ませるという大胆な発想。幕閣・農民という両観点を通して、不安定な世情という社会状況をそれとなく窺わせる。

元々はキリシタン大名の領地であった事情、両藩において先代が石高を水増して幕府に届け出ており、本来の年貢では納め切れない事情。物語は、その背景や悪政を点描し、一方 その地で暮らす農民の純朴な人柄を対比させることで、勧善懲悪といった分り易い構図を描く。歴史的にも色々な解釈がされている内容=島原の乱を演劇として面白く観せるところが見事!もっと言えば、幕藩体制が完全ではない3代将軍・家光やその側近を、あえて軽佻浮薄に描くことで武家社会の無責任を糾弾している。が、同じ幕臣でも老中・松平信綱を謹厳実直に描き、幕府内での人物像を固定化させない上手さ。立ち位置の異なる個々人の心情描写をきめ細やかに描く。

物語の雰囲気作りは、いつもながら見事。上演前は笛・太鼓といった和楽器。物語の場面に応じて、お囃子、ピアノ旋律といった和洋の音響の使い分けで緩急ある効果を演出。照明は明暗の諧調はもちろん、葉影やクルスに模った余韻。公演全体の調和が実に上手く、そして美しいといった印象だ。
次回公演も楽しみにしております。
発明家と探検家

発明家と探検家

Oi-SCALE

駅前劇場(東京都)

2021/12/03 (金) ~ 2021/12/08 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

自分好みで面白い! お薦め。
3つの物語。2つの例題と1つの問い。あなたの答えが真実であります様に…掘っても掘っても底深い人の心に迫ろうとする。
脚本は、オムニバスと言うか小説の連作集のような構成で、先々の展開を予測するのは難しく、というよりは予測不可能で、ミステリアスなところが魅力的。この物語を支えているのが圧倒的な演技力と存在感を出している村田充さんと林灰二さんの2人。
ちなみに自分が観た回は満席で、増席していたほどの人気ぶり。
(上演時間2時間弱 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台セットは少し高くした板(実験的で独特な世界観の表出)。その板を電飾したポール数本が囲み 同じように裸電球を吊るし舞台枠を表す。しかし基本は素舞台。その外側に半周するようにパイプ椅子が役者分 置かれている。上演前は空席だが、徐々に役者が現れ着席していく。上演前の薄暗い舞台、点灯した裸電球、中央のパイプ椅子の上にあるメトロノームの刻む音をスタンドマイクがひろう。同時に音響としての波音を流し耽美と静寂さを漂わす。この舞台雰囲気に飲み込まれる中、林さんが登場し前説、その巧みな話術に引き込まれたまま物語は始まる。先の2人以外、基本的に役者は黒衣装。そして物語に応じて小道具等を運び込み、衣装も変えて登場する。薄暗い中での場面転換は、役者の動きを観せることによって物語の分断をしない妙。

物語は、評判の占い師カワクボケイジ(村田充サン)のもとへやってくる客のそれぞれの相談事、占ってほしいことを通して展開していくスタイル。客ごとに内容が異なるが、3つの物語に共通した観せ方は同じ。人生の岐路に立ち大きな選択を迫られた登場人物が、何を信じるべきか悩み もがきながら下す決断を描いている。3つの物語から浮き彫りになる “真実をそれと裏付けるもの” を挑発的な内容を通して実感してほしいと…。

物語の具体的な構成は・・・
 第1話は、或る医師が妻の実家の援助で医院を開業しないかと持ち掛けられているが、それを受け入れると身持ちの良くない自分が縛られるような気がし、この話を受諾すべきか。
 第2話は、1冊で売れっ子作家になったが、2冊目が書けず編集者から、彼が尊敬する作家のある部分を模倣してはどうかとアドバイスを受け、困惑している。その尊敬していた作家は、複数の作家が作り上げた虚像であり、自分が目指す(書きたい題材)は何なのか。
 第3話は、オリンピックに出場出来そうだった有名なフィギュアスケート選手、妊娠しているが 同時に子宮癌にも罹患している。第1話の医師は癌手術の必要性を説明するが、彼女はどうしても子供を産みたいと。そこで医師は或る老人ホームに入居している先輩の元女医を紹介しアドバイスを求めるよう勧める。
 これら3つの話は、客から占い師に相談話をし将来を占ってもらうという共通の展開。占い師は、結論めいたことは言わず逆にどうしたいのか本音を聞き出そうとする。
 そして最後の話、精彩のない男が自身の身の上話を始め…。今まで占い師が出会った客とは違い、今度は占い師自身が身の上話をし、その結果招く悲劇。しかし精彩がなかった男が行動を起こし、罪を犯し肉体的な拘束、逆に精神的な自由を手に入れるという皮肉。こうしたらという命題めいたものが提示されるが…。3つの話と命題は、それぞれの内容が深く、考えさせるもの。自分に向き合い本当の自分とは、という自分探求ーそれが自分自身にとって一番つらく怖いことではないかーを描いている。ラスト、比喩的に用いられた”鏡に映る自分”は本当の自分ではない、という台詞が心に響く。

この占い師、実は悪友 眞一郎(林灰二サン)がおり、その助けを借りて、よく当たるという評判を得ている。見料が5分10万円、誰かの紹介がなければ予約できない。この予約という一定の時間稼ぎがポイント。そして悪友と知りあった所が…。
内容は思索的で少し小難しいと思われたが、2人の台詞のやり取りにクスッと笑える、ちょっとポップさも感じる仕上がり。しかし「真実」に目を凝らし、様々な「真実」を逆(嘘・虚)から捉えた剥き出しの人間の底を描いた作品、観応えがあった。
次回公演も楽しみにしております。
スペキュレイティブ・フィクション!

スペキュレイティブ・フィクション!

NICE STALKER

ザ・スズナリ(東京都)

2021/12/01 (水) ~ 2021/12/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2021年冬…高校部活(SF研)を通して心の成長を描いた青春騒動記(喜)劇。恋愛の噓と本当、その虚実の駆け引きに怪異を絡め、SFの雰囲気らしく纏めた佳作。
「本当にあんたは、面白いね」は、ヒロインが主人公に向かって言った言葉。この公演も台詞同様に面白かった!
(上演時間2時間5分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、斜めに設えた板上にドアや窓を思わせる枠組みを吊るしたシンプルな造作(SF研 部室の設定)。上演前や薄暗い照明時には、枠にある電飾(点灯)が美しくもあり、少し妖しげ。下手奥にスクリーンがあり、劇中でSFに係る専門用語が発せられると、スクリーンに解説が映し出される。その解説文も難しいが、何となく言いたいことは解る。

物語は、SF研に所属している高校1年生の善雄善雄さんが先輩(2年生)の太田ナツキさんに恋心を抱き、何とか付き合ってもらおうと奮闘するが…。部活がSF研ということから専門用語が多く飛び出すが、(恋愛)心理や行為に絡めた用い方で、説明にあった「『科学』では定義することができない『不可怪』を再定義する思弁、熱弁、詭弁の数々。」は、告白時に用いた手法や行動そのもの。心は科学で説明しきれず、青春期の熱に浮かされた恋愛物語、それを怪異という視覚に捉えられない事で表現しようとしている。

主人公の善雄善雄さんの テライ と ケレン に満ちた表現の可笑しさ、ヒロインである太田ナツキさんの嘘か本当か曖昧で、思わせぶりな姿に翻弄される。2人の心情を中心に同級生や先輩、さらにはSF研顧問や保健室の教師を登場させ過去・現在・未来という時の流れを形成する。あくまでSF領域を逸脱させない巧みさ。登場人物一人ひとりを丁寧に描き、それぞれが抱えた どうしようもない 思いを救い上げる。しかし深刻に描くのではなく、あくまで軽妙さは失わない。

「これからが、今までを決める。」という決め台詞。善雄善雄さんが書いていた日記が未来ではベストセラー、記載内容が現実になるのであれば、噓の記載は正さなければならない。漫画の「未来日記」(サバイバルは別にして)のイメージを持たせる場面ーそれが居る筈のない妹・藤本海咲さんの不思議な存在と行動。青春期にある傷つきや悲しみ、もしくは喜びといった物語は容易に作れるかもしれないが、そこには既視感が付きまとう。それを出発点(前提)にし、すでに描き尽くされた物語にせず、その先の(現在のSFが将来、科学的に解明するような)新たな作品作りを目指しているようだ。
次回公演も楽しみにしております。
クラッシュ・ワルツ

クラッシュ・ワルツ

演劇集団池田塾

オメガ東京(東京都)

2021/12/01 (水) ~ 2021/12/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第19回劇作家協会新人戯曲賞受賞作品 (刈馬カオス氏<刈馬演劇設計社>)。
物語は3年前の交通事故をめぐって関係者、一見関係ないと思われる夫婦も加わって、それぞれが抱える秘密と悲しみ、やる瀬無さを感情の赴くままに激突させた会話劇。脚本の面白さはもちろんだが、物語を支えているのは5人の役者達の迫力と緊張感ある演技であろう。
(上演時間1時間15分)

ネタバレBOX

舞台はイガラシ家の和室(座敷)。上手に押入襖、下手が出入りする襖、中央に大きな座卓、壁側にミニ書棚、TVや座布団等が置かれ、物語を紡ぐには過不足なく作り上げている。

冒頭、この家の主婦・イガラシ タエ(飯田 問サン)が強引にクドウ リツコ(のりほサン)を家(和室)に連れ込む。何が何だか解らない彼女に向かって、今日は(交差点に)花を供えないでほしいと頼むところから物語が始まる。彼女は3年前に交通事故を起こし5歳の男の子(ケンタロウ-登場しない)を事故死させ、以降 毎日白い花を供えている。タエはこの女性を被害者・男の子の母親と勘違いした。この家(窓)から事故現場である交差点が見通せるという設定である。冒頭こそ、ドタバタとコミカル風に描いているが、そこに少年の母親・タケイ チハル(梶原生吹サン)そして離婚した元亭主(父親)・ミタ リョウスケ(田辺学サン)が登場し、直接の加害者・被害者が相対する構図へ。同時にこの家のイガラシ マサオ(もろいくやサン)が、この家を売却するにあたって事故に関わる悪評で、業者から買値を値切られている。それぞれが自分の事情や思惑を押し通そうとするが、もっともと思われる議論が綱引きのように…。1つの事故を巡り、交わるはずのなかった人間関係が生まれる。ぐるぐると回る濃密な会話劇は、それこそ奇妙なワルツそのもの。

人物描写…タエは、事故のあった交差点は人や車の往来が激しいわりに信号機もなく、危ないと思っていた。その危険を知らせる活動をしなかった(不作為の)後悔、自責の念。夫マリオは、何とか高値で売却するため、悪評の元である花を供えるのを止めてほしい。一見自己中心的と思える言動であるが、それはタエ(妻)のためという秘密を抱えている。リツコ(加害者)は花を供えることで贖罪しているかのようだが、チハル(母親)が一度も花を供えないことへの抗議のような気持。一方 チハルはリツコの行動を監視しており、事故以来、彼女の様子が激変したことに危惧を抱いている。リョウスケ(父親)は、リツコを絶対許さない、イガラシ家の売却減は彼女に補てんさせると主張。それぞれの正論らしき主張、しかし それが容易に収まらないという感情の衝突が見所。時に座卓を叩き激高する姿、また座敷に頭をこすり付ける謝罪姿といった、感情と行為の振幅が激しい演出は観応えがあった。それを役者陣は、キャラを立ち上げ、立場を鮮明にした見事なまでの表現、その演技に引き込まれた。

舞台技術として、隣家の子供が弾いているピアノ練習曲ー花のワルツーが、たどたどしいが、騒音とも 少しずつ上達しているとも思える。人の心の持ちようによって受け止め方が違う。そして音が聞こえないと心配という人の心の変化が登場人物の心情と重なるようで巧い。ラストは夫婦で踊るたどたどしいワルツがホッと心を和ませ余韻を残す。
次回公演も楽しみにしております。

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