天は蒼く燃えているか 公演情報 世界劇団「天は蒼く燃えているか」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2022/03/10 (木) 14:00

    観応え十分。お薦め。
    第10回せんがわ劇場演劇コンクール「オーディエンス賞受賞公演」。

    脚本のメッセージ、演出の緻密、演技の強靭、舞台技術の印象 そして舞台美術の奇抜さ、舞台要素のそれぞれが調和し、芸術性を高めている。公演は2020年2月に四都市ツアーをする予定であったが、コロナ禍により全公演が中止になっている。この劇団は、愛媛大学医学部 演劇部を母体に結成されており、代表の本坊由華子さんも現役の医師である。医者の「世界劇団」は なかなか公演を行うことが出来なかった。そんな事情を抱えながらの上演である。しかも東京公演は3回のみ。案内をいただかなかったら、危うく見逃すところであった。

    チラシには「世界劇団が全人類に捧げる人間賛歌」とあり、高邁な謳い文句のようであるが、それに見合った内容である。当日パンフに本坊さんは「私は、この世と深く対話したい」「真実の世界を描きたいと願う」とある。人は世の中の出来事や風潮に疑問を持ち、自分で考え行動する自立する力、一方、見えざる手のような神の啓示、その抗いきれない不思議 もっと言えば不条理かもしれない。その混沌とした世界観を舞台芸術として見事に昇華させている。

    ちなみに、色々な意味での「火」が表されるが、芥川龍之介の「アグニの神」をモチーフに描かれている。心の奥底に潜む傲慢は、紅蓮の炎で焼き尽くされそうだが、真摯になって見上げれば 蜘蛛の糸 ならぬ希望が蒼く見える、といった印象だ。全体的には抒情豊かな演出。万雷の拍手も肯ける。
    (上演時間1時間50分)

    ネタバレBOX

    招待公演。
    舞台美術は、ベット・椅子・本箱・箒・洗濯物・木枝、そして所々破けた布など、雑多な物が宙に吊るされている。それらが物語が進むにつれて少しづつ降りてくる。途中で突然布が幕状に広がり、人影として心象風景を映し出す。また宙にある本箱を傾け入っていた雑誌や書類を上から落とす。タイミングが狂えば役者の頭上に落下する。全ての物が舞台上に下ろされ、吊るしていたワイヤーが舞台上下に張られた形は、何かを操る・・そぅ見えざる手を連想させる。抗えない何かは、人が知らぬ間に少しずつ静かに忍び寄ってくる。そんな光景を緊張感をもって描く。時に突然(不慮)の出来事、自然災害などを、雑誌を落とすといった比喩で表しているようだ。

    物語は、東のはずれにある島(暗に日本)での出来事。ある処に今日と明日の狭間に占いをする老婆と軟禁されている娘(タエコ)を巡る話。狭間は生・死をも暗示する。他方、学校で教えることを信じて疑わない青年と何事にも疑問を呈し、自分で考える青年の話。この2つの話が交錯し、人間の本性、社会の欺瞞を暴く。娘と青年たちは同級生。

    軟禁されている娘は、視点を変えれば老婆の介護。介護は現実を見つめては出来ない辛いこと。だから別の人格(エレン)になることが必要。この世は一酸化炭素・二酸化炭素=環境汚染され、人の脳は小さくなる。一見 認知症を思わせるが、自立しない果ての姿のよう。後期高齢者という台詞、続けて死ぬに死ねない=無為に生かされているだけの刹那的な話に変容していく。

    考えない青年は、先生に教えられたとおり五輪賛成の行進をするが、万歳(バンザイ)の声に交じって微かに反対(ハンタイ)の声が聞こえ、いつの間に賛否が分からなくなる。先生は教師であり医師にもなるが、絶対間違えてはならない、もし間違えれば自分は火だるまになる。自縛するような強迫観念が怖い。

     辛い現実を見続けることは惨い、しかしそこから抜け出すことは出来ない。ならば全てに迎合した方が楽。一方、考えなければ環境汚染の悪化や繁栄の謳い文句に五輪を無条件に歓迎する。五輪の聖火、命の灯、誹謗の炎上、そして祈りの煙。何もかも崩壊し無に帰するようなラストだが…。

    照明は炎が燃えさかるような、幾本かの赤い照射、晴天を思わせる青い照射は対照的な場面を演出。波間か水の揺れのような回転照明が妖しく蠢く何かを表す。
    音響音楽は、大音量で流し高揚感を煽る一方、不穏・不気味な音で不安感を増す。役者の演技は一種のムーヴメントで、実態がある なしという曖昧な姿。しかし 肢体の動かし方は、幕に映し出された人影が実際の姿態と連動した効果を出すから不思議だ。まさしく、身体と言葉を燃やし、炎の創成期を紡ぎ出した。
    衣装はエスニック調で、何となく宗教性を感じてしまう。社会問題を背景に、人間を冷徹に見詰めた幻想怪奇譚イメージ。

    卑小と思いつつも、ラストのエピローグ的な場面は微かな希望を提示するために、取って付けたかのような印象を持ってしまった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/03/10 19:21

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