龍昇企画 父と暮せば
ストアハウス
上野ストアハウス(東京都)
2023/01/25 (水) ~ 2023/01/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。
井上ひさし氏の脚本「父と暮せば」 それを西山水木さんの演出で観劇、ほんとうに感激した。広島への原爆投下から3年後の昭和23年7月、福吉美津江の家が舞台。この舞台セット(家)が見事に造作されており、そこで美津江(関根麻帆サン)と父(龍昇サン)の親子の情愛ー滋味ある会話劇が仄々と展開する。
勿論、脚本の力もあろうが、それを体現した二人の熱演が 生きた<人間ドラマ>を立ち上げている と言っても過言ではないだろう。
原爆投下という生き地獄を何とか生き延びた美津江、父も親友も、そして多くの知人友人が亡くなり、自分だけがという罪責感に苛まれている。だから自分は幸せになってはいけない、一方 気になる青年が現れ揺れる乙女心が微笑ましくもある。美津江の心は、人並みに幸せになりたい と 幸せになっては申し訳ないという感情に分かれてしまう。その内なる葛藤を、関根さんは見事に演じていた。父は、そんな娘を応援したいー娘の幸せを願わない親はいない。そんな大きく包み込むような優しさ愛情を、龍昇さんも見事に演じていた。父は死者であるが、美津江には見える。変な表現かもしれないが、死者にも関わらず何となく生き活きとしている。
全編 方言-広島弁での会話だが、物語の底流にある戦争の悲惨さ、もっと言えば反戦の思いは一地方(原爆投下は広島)だけの問題ではない。娘心の葛藤、娘の幸せを願う父心、そんなありふれた光景の中に、戦争と平和、そして命という重く尊いテーマが描かれた名作。その芯を見事に描き出した演出・西山水木さんの手腕。未見の作品であったことから、今後 同作を観るときの基準が本公演になる。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし)追記予定
マジックリアリズム
劇団龍門
シアターシャイン(東京都)
2023/01/25 (水) ~ 2023/01/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
冒頭 妖しげな雰囲気の中、1人の男が追い立てられるように登場するところから始まる。何となくノワール劇かと思わせるが、ラストに明かされる衝撃の真実、そこには心の深淵と未来への希望が…。舞台の世界観、そこが何処なのかといった関心を惹かせるところが実に巧い。
1人の男ー村手龍太 氏が緊迫と戸惑い、そして愁いといった違った表情の演技を観(魅)せる。命の選択と重み、その尊厳を切々に紡いだ感動作。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし)
【Realizmチーム】
『キレナイ/Dear Me!』
ラゾーナ川崎プラザソル
ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)
2023/01/21 (土) ~ 2023/01/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め 【Dear Me!】
川崎駅東口の繁華街ど真ん中にある夜間保育園、その名も「にしぐちほいくえん」が舞台。そこで働く人々と 子供を預ける親たちが織りなす人生模様、それを笑いと涙で綴る感動作。
保育園だが、大人びた子供が1人登場するだけで、基本 子供たちは登場しない。それでも そこが保育園であることが自ずと分かる演出が素晴らしい。そして保育園が抱える問題は時と場所に関係なく、そこで働く人と親にいろいろな問題や課題を負わせる。特に深夜保育というだけあって問題は深刻なはずだが…。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)
『キレナイ/Dear Me!』
ラゾーナ川崎プラザソル
ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)
2023/01/21 (土) ~ 2023/01/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め 【キレナイ】
いろいろな意味で「キレナイ」人々を優しく、そして温かく見守るような物語。舞台は川崎にある美容室「PAZ」、そこで働く人が抱える青春事情ならぬ「精神事情」を問題として負わせる。しかし、けっして乗り越えられないコトではなく、それを克服しようとする姿が共感と感動を呼ぶ。
この美容室、あまり流行っていないというが、逆にそれが客の一人ひとりと向き合える時間になっている。店の人々と客との面白可笑しい会話がテンポ良く展開していく。
全体を通して癒やしと逞しさ。コロナ禍という閉塞状況だからこそ、この公演からは、地域に根ざし明るく強かに生きていく、を強く感じる。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)
血の婚礼
劇団東京座
中野スタジオあくとれ(東京都)
2023/01/19 (木) ~ 2023/01/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
未見の作品だが、戯曲の力…その物語性としての魅力 面白さは伝わってくる。しかし、それを十分に表現できていないところが勿体ない。話の展開は、構成(場面転換)の上手さも手伝って理解出来るが、その場面で描くべき内容の印象が弱く、物語の奥にある人の情念のようなものが感じられない。
舞台美術は手作り感あるもので、過去公演と同様に工夫を凝らす。特に今回は暗幕と白シーツを巧みに使い、妖しげな雰囲気を漂わしつつ、現実の生活(食事など)を表す。普通の人間が或る出来事(事情)によって、いとも簡単に起こした悲劇。それゆえ、台詞を含め 生身の人間むき出しの感情表現が求められる。台詞は時に詩の朗読のようであり抒情的に演じていたのかも知れないが、棒読みに聞こえた個所があり残念だ。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし)
かもめ
サブテレニアン
サブテレニアン(東京都)
2023/01/14 (土) ~ 2023/01/15 (日)公演終了
実演鑑賞
上演言語は韓国語、中央上部に字幕が映されるがト書きも含めた説明程度である。台詞をほとんど字幕にしていないことから、「かもめ」を観たことがある、または韓国語に堪能でないと 観劇は難しいのではないか。自分は何回か観ており、話は知っているつもりだが、それでも…。
「板橋ビューネ 2022/2023」の一公演として、韓国の東新大学校ミュージカル実用音楽学科の学生が朗読と独特なパフォーマンスで聴き観せる。身体的な動きは視覚で確認できるが、言語となると容易ではない。日常会話ではなく、演劇としての言葉<台詞>であり、独特な言い回しがある。勿論、日本語での「かもめ」でも、劇団〈公演〉毎の脚色があり、色々な演出によって違いを表現している。それゆえ時代や場所に関係なく、底流にある問題を見据えて長い間上演し続けられている。その最大の魅力は言葉である。例え韓国語上演であっても、もう少し字幕で補って場景を豊かにしてほしいところ。
「かもめ」は新旧の芸術論<方法論>の間で揺れ動く心の葛藤だろう。それを冒頭コスチャが自分の台本を投げ捨てるところから始まる。既成の芸術に敢然と立ち向かいマンネリズムを批判する。その過程の苦悩、一方 現実に立ち現れる恋愛に翻弄される別の意味での苦悩が描かれる。そんな味わい深い作品は、台詞の一言一句から感じられるもの。例え それが語感として聞き取れなくても、せめて物語の展開が分かるだけの字幕があれば…。
アフタートークで、演出のムン・チャンジュ氏は、朗読には台詞以外にト書きも入れていたと言う。その違いを学生(演者)がどう表現するか ということも聞き所であったらしいが、自分はそれ以前の問題であった。かつて韓国に留学とまではいかないが、遊学した程度の語学力では到底理解できなかったのは、自分の力のなさを嘆くしかない。
(上演時間1時間10分)
ベルを鳴らさなきゃ!
Route
北池袋 新生館シアター(東京都)
2023/01/13 (金) ~ 2023/01/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
物語は、ホテルのフロント そこに配属された新人ホテリエを通して、接客の難しさ、同時に楽しさ、遣り甲斐を見出すといった成長譚。
冒頭は、先輩社員が配属された新人3人に自己紹介とホテリエになりたかった理由を聞くシーンから始まる。少し硬い感じもしたが、このホテルへの就職<志望>動機を聞き出すことで、後々の接客シーンに繋げる上手さ。
一方、ホテリエならずとも 人としてどうなのかという問題行動・行為が気になるところ。気になるのが、ホテルという安心・安全を提供し宿泊してもらう、一方、客にしてみれば、いわば命を預ける場所である。そんな業種で行っていることに違和感を感じる。それが例え 笑い所であろうとも。むしろそこを笑い所にしているが…。
(上演時間1時間15分 途中休憩なし)
無人船
劇団 枕返し
中野スタジオあくとれ(東京都)
2023/01/13 (金) ~ 2023/01/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
シンプルな舞台美術だが、物語は迷宮・幻想を思わせるような内容である。その世界観が何なのかが 公演の肝であろう。この船は何処にいるのか、そして動いているのか否か。冒頭、舳先にどこともなく現れた人魚が座り、歌声を披露する。その美しさに誘われる様に次々と現れる人々、さらには妖怪までも…。
人魚は精霊・妖精なのか、それとも怪物・妖怪なのか。ここは、人魚伝説にある美しい歌声を聴いた船乗り・航海者は舵を取ることを忘れ船が事故に遭ったり、海中へ引きずり込まれたり、廃人同然の状態と化して人魚の住まう島に赴いて歌を聞き続ける、を連想した先にある難破船のようだ。
タイトル「無人船」…或る思いが募ると船が現れるが、その思いがなければ迷い込むこともない。しかし、人は思いを封じ込めておくことは出来ない。それこそが心の迷いであり、悩み苦しむ姿をした船のようだ。だから人が現れたり消えたりするという不思議な世界が出現する。
さて、当日パンフに主宰の喜三太拓也 氏が「未だ収まらぬパンデミックに、吹けば飛ぶような枕返しは大きく翻弄されています。不規則な波、まだ見えぬ光、そして軋む船体」とあり、船に重ねて苦悩の状況を記している。が、それでも「命を懸けた悪ふざけを体感して」とある。その自信と熱意が十分伝わる公演である。
(上演時間1時間25分 途中休憩なし)
Dramatic Jam 4
feblaboプロデュース
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2023/01/13 (金) ~ 2023/01/19 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
チームD観劇。
上演順は「紙風船より」「はこをつくる」(両 脚本・演出は池田智哉 氏)であるが、敢えて記載順は逆にする。この二作品を上演する意味を考えてみると、岸田國士〈作品〉へのオマージュであり、時代の要請でもあるような。
(上演時間1時間10分) 追記予定
ある生き物
中央大学第二演劇研究会
studio ZAP!(東京都)
2023/01/12 (木) ~ 2023/01/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
学生演劇は あまり観ないが、「舞台の演出の都合上、一部暴力的、性的な描写が含まれますが、ご容赦ください」の文句に惹かれ、どこまで描くのか興味津々だった。
典型的なノワール劇で、野球で言えば速球のストレートプレイであり、変化球はない。冒頭と最後のシーンから、もしかしたらと思ったが、力で押し切った感がある。
さて、観劇回以降は「座組内に体調不良者が出てしまったため、誠に勝手ではございますが、本日18時からの公演を中止とさせていただくこととなりました。」とある。観応えのある公演だけに残念だ。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)
ミュージカル『CATsLa』
呼華歌劇団KOHANA
すみだパークシアター倉(東京都)
2023/01/13 (金) ~ 2023/01/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ミュージカル『CATsLa』…「まだ出会えていない新しい猫の物語を紡ぐミュージカルファンタジー」という謳い文句だけあって、物語を展開していくための演出が見どころであろう。擬人化したネコのメイクや衣裳、或る場所を表したファンタジー風の舞台美術・小物等が眼を楽しませてくれる。同時にグランドピアノの柔らかい生演奏(ピアニスト:海老根晃 氏)が優しく包むような雰囲気を漂わす。
ネコの或る世界観を通して人間との関りを温かく、時に厳しく断じるような描き方によって、今の「動物愛護の在り方」を考えさせる。人間には「人種」があるように、ネコにも「ネコ種」がある、同時に性格も一匹ずつ異なる。それをメイクや衣裳の違いで表す。勿論、生き方も様々であるが、そこには人間とは決定的に違う<関係の重要性>があることを強調している。そう 飼う飼われるという関係、確かに人間の歴史を遡れば合法的に売買(飼)していたこともあるが…。
前半は、ネコの種類や人間との歴史的な関(繋が)りを、後半は、迫り来る危機に立ち向かう様子という緩急ある展開。その意味<流れ>ではオーソドックスな劇作と言える。或る世界観は早い段階で明らかにし、その上で 生と死、現実と幻想、さらに人間(飼い主)との関わりーーそこに観える運命の残酷さ、滑稽さ、切なさ、そして生への微かな希望を描く。
地球の路地裏がネコの国、いつの間にか月の裏側にあるネコの国へ という説明から推察できるように〈非現実〉の世界。女優陣が煌びやかな<ネコ>衣裳で踊り、歌いという楽しませ方であるが、そこに描かれている〈現実〉は重い。それを表層的にはあまり感じさせない演出、そこに全く新しいミュージカルとしての魅力を秘める。それを支えているのが、ネコのショーブリーダーの監修、劇団四季の出演者にネコ所作のサポートを依頼する、そんな細かく丁寧な対応が実を結んでいる。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし)追記予定
燦燦SUN讃讃讃讃【1月7日~9日公演中止】
かまどキッチン
こまばアゴラ劇場(東京都)
2023/01/07 (土) ~ 2023/01/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
少し難解かも知れない⇨終演後 客席の囁(呟)き。説明にあった「一筋縄じゃいかない扉一枚先のフィクション!」は誇張ではない。クローゼットの中の服を擬人化して、その服が持つ特徴とでも言うのか、表現が難しいコトを表出していく。二項対立というほどではないが、何となく比べるような。
登場キャラクター<冒頭>は、白いTシャツ、Yシャツ、赤シャツ、青シャツ、黒シャツ、浅草で買ったシャツ、タンクトップ、そして???である。始まりのシーンは、何となく青春ドラマで見かける桟橋での別れを連想する。が、マイクでの歌や ラップを踏むような語り掛けから、季節の変化…衣替えの様子を説明。そこには必要・不必要という用途、さらには着合わせ〈コーディネート〉といった色使いの多様性ある服が重宝されるという“必然の区別”が生まれる。
クローゼットから出る…外出する服とクローゼットで眠り続ける服、その悲喜交々が垣間見える。同時に現状「維持」か「変化」するといった服、そこに流行という目に見えない壁(違い)が出来てくる。冒頭、登場キャラクターの色合いの意味するところを説明するが、そのうち「制服」と「改造制服」という常態と狂態の違い、そこに一律ではない個性を描く。それこそが流行と言わんばかりである。
服というキャラクターだけに「洗濯」と「選択」を掛け合わせた洒落た台詞。流行=選択される服だが、何らかの制約によって選択肢がないのが制服。没個性と声高に訴えてみたところで、他者が賛同してくれなければ、ただの変わり者になってしまう。公演は実に微妙な所を突いてくる。
奇妙な観〈着〉せ方であるが、説得力があり印象に残る。それは舞台美術の構造というか機能と相まっているよう。そこにクローゼット内で巻き起こるドタバタ活劇…画一性と多様性が混在し、それが必然であり矛盾するといった混沌とした世界観が立ち上がる。ただ全体的に表現が未消化…all-or-nothingのようで 間口が狭く感じられたのが勿体なかった。
しかし、何となく鋭さを感じさせるため、今後も注視したい。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし)追記予定
ほおずきの家
HOTSKY
座・高円寺1(東京都)
2023/01/11 (水) ~ 2023/01/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い お薦め。
脚本・釘本光さん、演出・横内謙介さん ということで楽しみにして観に行った。物語も面白いが、舞台美術が素晴らしくラストの演出効果を見事に引き出していた。そこにフライヤーの絵柄の意味合いが込められている。勿論、波の音などの音響、適宜 諧調していく照明、その舞台技術も印象的である。
フィクションとノンフィクションの境界線上にありそうな内容、いつの間にか異なる国籍・文化・境遇を乗り越えて、そんな感動作である。「ほうずきの家」は、九州の海沿いにある街の食堂の話である。亡くなった恋人の忘れ形見(一人娘)と暮らす女性、そして彼女を取り巻く人々との温かい交流。いつの間にか大切な人と共に生きていたい という思いを強くさせる。人種・性別・年齢など様々な違いがあっても、それでも共に生きていけるは、どんな誤解や憎しみよりも強靭な愛情へ昇華していく。
物語は、過去と現在を往還し 時代が変わっても信じることの大切さを伝える。そのことは 街の活況・衰退・復活といった様子の変化を描くことで、より一層 人の心の変わらない愛を印象付ける。殺伐としがちな現代社会、とりわけコロナ禍という閉塞感ある状況に温かい希望の光を灯すような…。
一方、食堂の女主人の亡くなった恋人、生前の彼の思いは差別・被差別という理不尽な世の中への怨嗟にあったのではないだろうか。今でも在る様なコトへの批判的な観点、きれいごとでは済まされない、といった思いを強くする。それは登場する人物の国籍等だけではなく、この国にいる全ての人に当てはまるのではないか。登場するのは皆 善人である。悪意(人)を潜ませることによって 逆に強調される不条理、そんなリアルが垣間見えたら、劇的にはどうなのか と思ってしまう。
理不尽な理由による別離、哀しい運命に翻弄された男女の愛の行く末が、一人娘の成長によって救われる。親(父)の愛情を知らずに育ち、不器用だが懸命に生きる娘の複雑な心情、それを温かく見守る母、それを情感たっぷりに演じた母の凪・みょんふぁサン、娘の真波・七味まゆ味サンの演技が素晴らしい。また2人を取り巻く個性豊かな人々と 街の風景(舞台美術)が相まって風土を巧く表していた。観応え十分。
(上演時間2時間 途中休憩なし)追記予定
恥ずかしくない人生
艶∞ポリス
新宿シアタートップス(東京都)
2023/01/07 (土) ~ 2023/01/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
自分に信念がないというか、嫌われるのが怖く いい子ちゃんとして育った女性とその周りの人々の人間模様を描いた物語。彼女の職業が留置所の留置担当官という設定が秀逸。そこにある檻は、自分の心の囚われの象徴である。逆に檻の中の被疑者の心は自由奔放といった対比で描いており、そこに見えない心の檻と実際にある檻の奇妙な面白さを表現する上手さ。
この留置所担当官(部長) 真山カヲル子役は、当初、今藤洋子さんが演じる予定であったが、稽古中の事故で降板した。そのことは劇団ホームページや本人のTwitterで知らせている。その代役として観た回から関絵里子さんが演じていた。前説では、急遽のことであり 台本を手に持っていることを説明していたが、敢えて言わなくても、何となく関係書類を持っているようで不自然さはない。逆に妙なリアリティが出るという演出の妙を感じる。
タイトル「恥ずかしくない人生」<フライヤー絵柄も囚われのよう>は、警察官であった父の最期の言葉、そのトラウマが心を縛り付ける。真面目に生きようとすればするほど、その呪縛に囚われ、逆に人に利用されるといった悪循環に陥る。それを留置所ではあってはならない「パワハラ」という台詞に集約させる。留置所という場所は打って付けの設定であり、更に 登場する男2人の身勝手さを描くことで女性の悲哀が…。色々な意味で対比させる事を描くことで、そこに内在する問題や課題が浮き彫りになる。
舞台美術も見事で、冒頭は留置所の外と内(職場)を表し 人間臭さ(衣裳を含め)ーそこに生身の女性を強調させているかのようだ。そして徐々に蝕まれる心の均衡、それは天井部の格子が…。実に緻密に計算された演出だ。そして 彼女を追い詰める職場の仲間や被疑者の面々、そのキャスト陣の確かな演技がこの公演を支えている。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし)追記予定
なまえ(仮)
劇団夢現舎
新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)
2023/01/06 (金) ~ 2023/01/09 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
タイトルは「なまえ(仮)」であるが、どちらかと言えば「ことば」が持つ不思議な 力を色々な角度から切り取り、少し考えさせるような短編集。「ご観劇アンケート」には、それぞれにタイトルがあるが、すべて(仮)が付いている。各編ごとに繋がりは感じられないが、全編を通してみると「なまえ」という名の「ことば」が浮かび上がる。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし)
獄中蛮歌
生きることから逃げないために、あの日僕らは逃げ出した
四谷OUTBREAK!(東京都)
2022/12/28 (水) ~ 2022/12/29 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、パワフルな公演で、その熱量に圧倒される。
「生きることから逃げないために、あの日僕らは逃げ出した」は逆説的な言葉にすることで、現状打破を試みる力強いメッセージ性を発している。勿論、監獄からの脱走は比喩であり、その獄中とは慣れ親しんだ居心地の良い環境(場所)、もしくは忸怩たる思い…そう自分のことだ。現状(維持)か反発(刷新)か、7人の葛藤を熱い語り掛けで(ラップを踏むように)展開していく。劇中、何回も繰り返す「脱獄しよるときさ 誰か俺の服 引っ張ってなかった?」は”葛藤”を表す台詞として実に印象的であった。
この7人は時代や置かれた状況は区々で、一人ひとりに負わせた問題や課題によって 普遍的とも思える味わい深い内容に仕上がっている。鉄格子前後で、行くのか留まるのか、その揺れ動く心情を熱く激しく ぶつける様な演技は汗だく。しかし不思議と清々しさを感じてしまう。満員の会場は、外の極寒とは対照的に異様な熱気に包まれていた。
メッセージ、そのテーマは一人ひとりの内なる「叫び」であり、それまでの生き様ーー未練・後悔・トラウマといった自分自身に囚われた牢獄(呪縛)から脱することを意としている。それを外見の奇抜さ、白塗り化粧の顔、横縞の囚人服といったインパクトある観せ方で観客の関心を引き、一気にその世界観へ誘う。
生バンドーーギター、ピアノ、ドラムが観客の心を激しく揺さぶる。役者の大声(叫び)と共鳴するようで、地の底から唸るような声と音のコラボレーションは迫力があり圧倒される。勿論、バンドメンバーは化粧も衣装も同じ、ただ鉄格子の中にいることだけが異なる。この公演はライブハウスという場所でないと、その効果的な観(魅)せ方が出来ないのではないだろうか。そこに何となくコアなファンだけの<公演>になっているようで勿体なさを感じる。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)
青春の殺人者 令和版
アクターズ・ヴィジョン
梅ヶ丘BOX(東京都)
2022/12/22 (木) ~ 2022/12/30 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「青春の殺人者」は、実際に起こった事件に取材した芥川賞作家中上健次の小説『蛇淫』をもとに、両親を殺害した一青年の理由なき殺人を通して描いた特異な青春像。当時、内容や演技〈水谷豊、原田美枝子、市原悦子、内田良平など〉が話題になった映画だ。
公演は それの舞台化(令和版)、概要は映画のような展開である。勿論、映像と演劇という表現の違い、しかも47年前の映画である。比べるのも どうかと思ったが、説明に「映画史上に鮮やかな傷跡を残した伝説的映画」とあり、そのシナリオを改変して描いた とある。何となくではあるが、青春期の鬱屈もしくは無為的な生き方が伝わらないのが少し残念。精神面の描きが弱いが、逆に視覚として観せる親殺しの血〈肉〉体的なシーンは刺激があった。それをシンプルな舞台セットや衣装によって印象的に観せる巧さ。
また、映像画面によるアップの細かな表情には敵わないが、肌で感じる熱量や息づかい、その臨場感は生の演技〈芝居〉でなければ味わえない。
田村孟 氏の「傑作シナリオと格闘して出来た本作、現代の若者の在り方を考えるための一助になれば」とあることから、少し辛口になるが 気になったことを…。
死体を遺棄した後、車内での会話があまりにも淡々としており、気持の昂ぶりや これからの逃避行といった先行きの不安が伝わらない。殺人と逃避行を繋ぐ場面、そして回想へ といった構成の妙が活きてくる重要な場面でもある。また映画では、時代背景として学生運動や成田闘争を経ても、 社会〈世間〉は何も変わらないし、変えられないという絶望と無力感が垣間見えた。令和版ならば、コロナ禍という閉塞感を青春期の無為もしくは虚無感に重ね合わせるなど、別の観点でもっと尖った観せ方でもよかった。設定がスナックという飲食を伴う場所だけに なおさらである。
舞台では、映画の火事場シーンは描き難いと思うが、逆に これからの二人の道行きに余韻を残し 印象付けていた。
演技は激昂、悲哀、憐ぴ といった感情表現を観せるが、それでも穏やかな印象である。青春期の荒々しさ無軌道さをもっと強調してもよかった。全体的に温和しく無難な感じに仕上っていたように思う。
(上演時間1時間40分)【チームA】追記予定
ネバーランド
星降る湯の花
GINZA Lounge ZERO(東京都)
2022/12/27 (火) ~ 2022/12/27 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
公演は三話「人生はラン&ガンガンガン‼ver.松原」「あわてんぼうのサンタクロース」「どこにもない国」のオムニバス〈同一作者だが〉と大喜利。
タイトル「ネバーランド」はピーターパンをモチーフにしているようだが、公演全体としては12月を意識した内容になっている。25日のクリスマス、27日がピータパンの日らしい(知らなかった)。そして一話目は全員のお披露目であり、サブタイトルにある松原瑚春さんの独壇場のような話。走りの RUNであるが、何となく楽しいランランランを意識した内容になっている。
すべての作・演出は湯口智行氏、それぞれのテイストが異なり間口の広さを感じさせる。「あわてんぼうのサンタクロース」は面白可笑しさの中に哀切と愛情を描いた感動作。「どこにもない国」はピータパンの物語で夢と希望の冒険譚、その中に少し怖さを内包している。
それぞれに登場する人物(役者人)の素の横顔を紹介しているのが、「人生はラン&ガンガンガン‼ver.松原」である。この構成が絶妙で、後々印象に残るような巧さ。
(上演時間2時間 途中<換気・転換>休憩10分)
YEAR END MUSIC PARTY vol.2
MPinK(ミュージカルプロジェクトin神奈川)
ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)
2022/12/27 (火) ~ 2022/12/28 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
年末にパワフルな公演、来年に向けて元気をもらったような気分だ。
楽しさに包まれた2時間のミュージックレビューショー…音の力、人の力は本当に凄いし素晴らしい。そのコンセプトは「お客様〈観客〉も疲れる本番」だと言う。主宰の笹浦暢大 氏がMCを担当し、手拍子や無声による応援〈ポーズ〉を要請する。なかなかの盛り上がりをみせる。
あくまで、MPinKによる生バンドミュージカルコンサートであり、ミュージカル劇ではない。その代わりと言う訳ではないが、ダンス パフォーマンスはキレある表現、豊かな表情、そして様々な種類のバリエーション〈音楽含め〉が楽しめる。初めて観たが、魅力的な公演だった。
(公演時間2時間 途中休憩なし)
知らぬは探偵ただ1人
空想実現集団TOY'sBOX
北池袋 新生館シアター(東京都)
2022/12/22 (木) ~ 2022/12/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
物語は、終わることがない繰り返しの探偵小説または推理劇に込められた悲哀のよう。しかし けっして暗くなることはない。表層は面白可笑しく描かれているが、登場する人物は、いつも同じような役割で果てることはない。この不思議な世界観を読み解くことが出来るか、そこに公演の狙いがある。
中盤以降、なるほど 説明にあったメタフィクショナルコメディという意味が解り、それまでの疑問が解けるような気がするが…。事件は現実に起きているのか否か、その混沌とした状況を楽しむもの。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし)