満足度★★★★
観る側にがっつりと・・・
物語がつながって輪になるというような
単純な話ではなく・・・。
繋がり自体よりも、つながりから浮かびあがる
それぞれのキャラクターの相容れない存在感に、
観る側を深く浸潤するような質感があって。
見せ方のうまさとも相まって
心地よい消耗を感じるほどに
見応えがありました。
ネタバレBOX
舞台の使い方がとても秀逸。
四方が客席の舞台を
布や紐をうまく使って場所に作り上げていきます。
一人の役者が順番に二人と交わる中で
キャラクターの色が
互いを補色とするように
実感を持って浮かび上がっていく。
二人のすべてが重なり合っていれば
何も見えない時間がそこにあるだけなのかも。
相容れないというか、ふたりが重なり合う部分の外側にこそ
ぞくっとするようなリアリティがあって。
キャラクターのすべてが、さらけ出されるのではなく、
うまく言えないのですがセックスに照らされる範囲での
それぞれの感覚が滲むように現れてくる。
互いのすれ合う部分から見えるものが
キャラクターの日常を広く俯瞰させたり
そのコアにある想いを細密に表したりするわけではないのですが、
にも関わらず舞台には
二人の時間それぞれが
鋭利な存在感に裏打ちされた
揮発していかない感覚として強く残るのです。
で、10のシーンが交わりで繋がれ重なっていく。
与えるもの、求めるもの、抑制、解放・・・。
欲望と理性の色やバランスの実存感に
じわじわと見る側が侵食されていきます。
役者はいずれも好演、
ひとつの色に染まらない個々の力を感じました。
ライティングや舞台上の映像が醸し出す
交わりの時間の不思議な質量もとても秀逸。
それと劇場入口のドアの扱いも
うまいと思いました。
最後のシーン、輪がつながったとき、
原点にある欲望と概念を表裏にした
メビウスの輪を一周したような感覚の
膨らみの厚さに気がついて。
初日の観劇で、
シーンによっては若干もっと詰まっていく余白を
感じたりもしましたが
これがさらに煮込まれていくとどうなるか
空恐ろしいような気もしたり。
満足度★★★★
法則が見えてからはもう・・・、
ずぶずぶに取り込まれてしまいました。
これ、面白い。
当日パンフにメモをしながら、
その法則と舞台の一致に
取り込まれて・・・。
エンディングが6つというのも
充分にありえると納得。
すごくしたたかな
エンターティメント性を内包した
お芝居だと思います。
ネタバレBOX
開演してからしばらくは
お芝居からやってくるある種の閉塞感に
息を潜める感じだったのですが
「0」が出たあたりから一気に面白くなりました。
当日パンフに
こじゃれたアナウンスで告げられる出目を書いていくうちに、
それだけで内容が出来るわけではないのですが
ある種の高揚感が膨らんできて、
どんどんとのめりこんでいきます。
部屋の壁を彩る照明の工夫や、
チップの存在が作り上げるさらなるゲーム性。
テーブルの図を見ながらわくわくする。
出目の数字とチップの効力と舞台の整合性が
美しいほどに貫かれていて
ぞくっとくる。
芝居のクオリティが
不条理にも思える、ルーレットの出目と舞台上の出来事を
しっかりとつなぎ支えていきます。
どんどんと広がり重なっていく世界観を背負うだけの力が
役者や演出にあって
観る側はそれゆえロジックの面白さに
無抵抗で身をゆだねていけるのです・。
ルーレット盤の近くで観ていたのですが
それまで静かに回りつづけていたものが
終盤は玉の踊る音が聞こえてきて、
舞台は溢れんばかりに膨らんで、
最後の出目・・・。
6つのエンディングがあるそうですが、
少なくとも私が見た回の終わりは
しっかりと物語を収束させていて、
満足感をもって心地よく拍手をすることができました。
この作品、本当にはまります。
時間が許せば、せめてもう一度くらい観にいきたいのですが
難しいか・・・。
満足度★★★★
言葉に丸めると単純だけれど
舞台から伝わってくるものがたりは
一言でXX感などと表現できそうなのですが、
でも、そこからウン千色のカラーサンプルにも含まれないような
色を感じてしまいました。
ネタバレBOX
たぶん数か月の時間軸の話であり
シンプルな物語なのだと思うのです。
冒頭のシーンに愕然として・・・。
でも、その突飛さが目立つような設定に
だんだんと物語がなじんでいく感じ。
あっけなくバイクの事故で死んだ恋人・・・。
そこに生まれる喪失感。
でも、その単純に割り切って言えない色が
この舞台にはあって・・・。
暖色でも寒色でもないその色・・・、
よしんば何千色のカラーサンプルがあったとしても
そのいずれとも違和感を感じるような
オクラとベーコンのソテーから生まれるその色・・・。
髪を切り落とすような感覚でやってくるその色・・・。
さらには付随するカラオケの空気感、
もっといえば、いっしょに東京で過ごした時間
最初に聴いた歌がリプライズされるとき、
その内容から唐突さが消え
表現や説明のできない
でも間違いなくそこに存在する感覚に
深く浸潤されたことでした
満足度★★★★
質感にすっとひっかかる
物語自体にひねりがあって
「こう来るか」というような感じなのですが、
もっとあざとく物語を進めても良いかも。
役者のキャラクター作りが
とてもしっかりしていて・・・。
また、舞台上のいくつかの質感には
惹かれるものがありました。
ネタバレBOX
冒頭のシーンからして意味深で、
なにかがはがれて
舞台上の世界の仕掛けが一つずつ明かされていくような感じ。
その持って行き方も
何段階かの切り返しがあって、
ついつい次はどう展開するのかと
舞台を見続けてしまいます。
役者たちがキャラクターをがっつり作っていきます。
びっくりするほど個性的だったり
目を見張ったり奪われたり・・・。
その秀逸さが
物語の枠組みからあふれてしまうような感じすらあって。
それに対して物語自体の流れの表し方が
若干弱い感じがしたり・・・。
物語上の変化というか仕掛けが、
キャラクターの個性に負けないようなけれんを持って描かれれば
キャラクターを表現する秀逸な力がさらに生きて
もっとぐいぐいと引っ張られたのではとも感じたことでした。
冒頭から床に転がされていた
ビー玉の使われた方はとてもインパクトがあって
そこに移される物の質感には
不思議な深さがありました。
すっと入ってくるのですが
なにげに刺さったとげのように残って。
物語の戻り方もしっかりとして
観ていて筋の通った感はあるのですが、
破綻がない物語ゆえに
キャラクターの個性に負けないだけの
個々のシーンをもっと縁取る演出が
欲しくなってしまうのです
こういうフェイクを内包した物語であるならば
場面ごとの色をもっとドラスティックに変える
仕組みが有った方がよいのかもしれません。
満足度★★★★★
時間を切り取る潔さ
一つの星の物語を語る中で、
永遠ではなく誕生から滅失までのピリオドを潔く定めたことで、
ヴィヴィドに刻まれる時間や
一つずつの刻みのうちに秘められた
いとおしい出来ことたちの質感が、瑞々しく浮かび上がってきたように思います。
年初のtoiでも感じた
圧倒的な時間の広がり方が、
今回の柴作品ではさらに進化を遂げていて・・。
この空間でしか体感しえないものに
強く心を揺さぶられてしまいました。
ネタバレBOX
楽日公演をみました。
劇場は大きな円形のスペースに置き換えられ
いろんな段組みに並べられた座席の
どこに座ろうかとかなりわくわく。
前説でも観客に時間を強く意識させる
工夫が施されていて。
時間をしたたかに編みこんだ説明というか。
そして、始まりのためのタイムスケジュール感に満ちた
4からのカウントダウン。
舞台にスタートの時間がやってきます。
それは宇宙の誕生を思わせるような闇の中からの
物語の始まり。
ラップを思わせるリズムや時報の音で
刻まれていく時間と
その時間を進んでいく家族の物語。
宇宙の物語と家族の物語が
ちいちゃん(地球のち?)を要のようにして重なり合い
ひとつの感覚を醸成していきます。
家族の繰り返しと変わっていくもの、
月と地球の関係の比喩。
蜜月の時間や離れていく距離、
配られていたアポロチョコレートの比喩も
凄く効果的で・・・。
先生の元で生徒がながめつづける星の行く末も
次第に観るものを導いていく。
限られた長さの時間軸があって
その中でのさまざまなことが
「刻まれていく時間」の中で動いていく感覚があるから、
ラップのリズムに弾まれたそれぞれの一片から
日々や時間の軽さと裏腹の
密度の高いとおしさが生まれていくのです。
さらには生まれて滅失していくものをながめる視座、
虚星の光への思い、
感じるものはすべて失われた時間の中にあるという感覚。
過ごした刹那がもうそこにはないことへの
切なさが広がります。
その距離を超越していく姿、自転車で宇宙を飛び越える姿には
何かを突き破るように溢れてくるものを感じて。
厳然とそこにある空間や時間を
さらに超越するような想いがやってきて
まるで何かが降りてくるようにうるっときました。
旨く表現できないほどの大きさを
両手に抱ることができた充実感とでも
いうのでしょうか。
ほんと、やられてしまいました。
満足度★★★★
シンプルな装置が生きる
シンプルな装置なのに
登場人物たちが
風景のなかにとてもくっきりと見えるお芝居でした。
その風景を作るト書き的な部分の
鮮やかさに耳を奪われました。
ネタバレBOX
役者たちがれぞれに醸し出すものは
それほど大きくない劇場を満たすのには十分すぎるほど。
しっかりと作られた装置では
きっと役者の作りだしたものが
広がる場を失い
逆に減じられてしまうのでしょうね・・・。
凛と語り伝えられるノルウェーの海辺の風景が
役者たちのお芝居と抜群のバランスで
観る側の心に展開していきます。
主人公の心情は
人生をそのまま載せたように重くも感じるのですが
それが風景のイメージと重なると
観る側がきちんと受け取れてしまう。
個々の想いが
風景の中で
輪郭を明らかにして広がっていくような感じ。
芸術家の悔恨や希望、
女性たちの想いは深く複雑なのにピュア。
それぞれにたっぷりと味わうことができました。
満足度★★★★
心が目を覚ます瞬間
どのくらいの上演時間だったかを
確認するのも忘れるほどに
がっつりと取り込まれ打ちのめされました。
では、どのくらい理解できたのかというと
見当もつきません。
そう思ったことに確証が持てません。
でも、舞台上の創意に引きずられ
質感と具体性と抽象性のはざまからあふれてくる質感に
背を向けることのできない吸引力があって・・・。
瞬きをする刹那も疎ましく感じるほどに
見入ってしまいました。
ネタバレBOX
ベットの上で
お互いに愛の言葉を交わす冒頭シーン。
出かける男・・・・。
ラブストーリー???
でも、そこからは想像もできない展開に
翻弄されることになります。
舞台奥に大きく映し出されるパソコンの画像。
メディアプレーヤーのイメージ。
打ち入れられる短い文章・・・。
男が白衣をまとったことから
次第に心を病む女性と医師の関係が浮かび上がってきます。
100から7を引いていくことによって
自らの正気というか判断能力を確かめる女性。
観る者にそれが彼女の素の時間なのか、
あるいは彼女の内側に展開する時間なのかが
示されているようにも思えて・・・。
何度かけても留守電になる電話。
閉ざされた対人関係。
自己嫌悪や被害妄想、
大量に投与される薬、増減する体重・・・。
拒食や過食、睡眠や記憶の障害。
それが、たぶん医師が彼女に施した
物理的な治療の履歴。
薬がばらまかれる音、
冷徹にも思える白衣の医師のレポート。
一方で
その時間に覚醒した彼女の心が
次々と具象化されていきます。
医師のメンタルケアに起因するとみられる
患者のさまざまなイメージが
演劇的な表現を駆使して次々に現れてくる・・・。
ベットの上に築かれた
自分の言葉を離す(ボイスレコーダーを頭に見立てた)
不安定な人形。
彼女が求めるものと
医師が保とうとする距離・・・。
書きこまれた紙を互いに拾って読む時・・・。
時に彼女が書いたはずのメモは医師の思いにも思えて
また書類にしたレターサイズの紙には
彼女の想いとも思える言葉が書きこまれていたり・・・。
互いの理解と無理解の暗示にも思えて。
リストカットのイメージ。
死への誘いの説得力。
想いをふくらまされた風船が
ライターの火で破裂したり
ボールのやり取りが
いつしか彼女によって拒絶されたり・・・。
モラルや目標のようなことひとつずつを
我慢大会のように着こんでいく姿・・・。
それらのモラルによって線引きされた
他人が入れない空間・・・。
それが治療の一つの完成形なのかも。
そしてまた、その時間はやってきて。
覚醒の中で求める物は
治療では満たされることのない
なにかのようにも思えて。
抱きしめられるような愛なのか、
消え行ってしまうことなのか、
あるいはその両方なのか・・・。
最後のカーテンコールは女性だけ。
それは誰の物語かの
作り手からの提示にも思えて。
観終わって、
心のなかに残っていたのは
少なくとも絶望ではなかったです。
もっと捉えようがなく
醒めた、持ち重みのするなにか。
で、片づけ場所がわからない感じ・・・。
4.48からの72分にやってくる
仮の服を着せられたままのような自分の感覚が
舞台からずっと居座っていて・・・。
演劇的な創意や表現が
恐ろしいほど研がれているからこそ
伝わってきた何かだとは思うのですが・・・。
帰り道もその感覚がずっと抜けませんでした。
作り手側の意図と
全然見当違いの解釈をしているような気もするのですが、
なぜか抜けていかないのです。
満足度★★★★
すっきりしたこてこて感を超えてやってくるテイスト
苦味を隠し味にすっきりしたこてこて感のあるお芝居でした。
関西っぽい魅力をしっかり残しながら
こころをすっとさらっていくものがあって・・・。
高い水準で歌える役者や踊れる役者、
演じることができる役者の力・・・。
水面下の作りこみをがっつり感じる。
しっかりと後に残るものがある作品でした。
ネタバレBOX
タイトルのとおり、
ブルーシートの家に住む路上生活者たちと
青空カラオケのお店(?)のひと冬の話でした。
そこに飛田新地のおはこびさんや
えせ慈善団体、警察や市役所もからんで・・。
フェラガモの鞄を持つような商社のサラリーマンが
路上生活者になっていく姿に
ぞくっとくるようなリアリティがあって・・・。
緻密に描く心情と
ミュージカル仕立てなども駆使した
秀逸な戯画化、
下世話なシーンと人の心情をすっと浮かびあがらせる
密度のバランスが絶妙なのです。
路上生活者や底辺の女性たちの
群像劇ともいえるのですが
そのばらばらさとまとまりの質感が
すごくうまい。
難しいことは分からない的な割り切りに
圧倒的な説得力があって・・・。
結末も陰惨なだけではない
沁み入るような透明感があって・・・。
それは、
笑いやえげつなさで描かれるものの
重さを観客に静かに伝える力になって・・・。
役者たちのお芝居が持つ線の太さから
きめこまかな肌合いのペーソスが生まれるのも不思議。
劇団が持つパワーの多様性に改めて
瞠目したことでした。
満足度★★★★★
「プルーフ/証明」 いくつものトーンが重なって・・・。
登場人物間それぞれに
異なるトーンが作られて、
良い意味でまじりあうことなく
ある種の光をもって重なり合っていきます。
役者たちの演技にぶれがなく
個々のシーンに瑞々しさと質感があって
登場人物の想いや感情がまっすぐにやってくる。
深く豊かな密度を持ちながら
しっかりとエッジの立った、
出色のストレートプレイでありました。
ネタバレBOX
谷賢一氏が翻訳・演出を手がけたこの作品、
同じ翻訳でのコロブチカ版(黒澤世莉氏演出)を観ています。
その時には、一つの貫くような質感で舞台が満たされ、
個々の個性が同じ空気から深く滲みだしてくるような
印象がありました。
一方今回谷氏自身の演出では
個々の人物間に異なるトーンや質感があって。
3人が同時に舞台にあれば、3つのトーンがそこにあるのです。
それらの輝度が物語の進行に伴って、次第に高まっていく感じ。
ひとつに混じり合うのではなく、
互いを照らすようにして舞台の密度を高めていきます。
客入り時からすでに
主人公キャサリンの空気に取り込まれます。
机と椅子だけのシンプルな舞台に
彼女の時間が鮮やかに浮かび上がってくる。
重なっていく父親への愛憎、
数学者のハルとの距離感と歩み寄る中での互いの葛藤、
姉のクレアとの確執。
それらがいくつものトーンのなかで、
繊細かつ丁寧なだけではなく、
時には鮮やかに、あるいは恣意的なベクトルをもって
沈むように、突き刺さるように、弾けるように、包み込むように
描かれていきます。
役者が良いのですよ。
たとえば、
キャサリンや父親が持っている才能に対する
自身の感覚と外側からの見え方の差異なども
とてもしなやかに観る側へ伝わってきます。
かつて女性が発見したという
素数の定理に関する説明をさらっと行なうときの
キャサリンとのさりげなさに目を奪われて。
それが伏線となって自らの才能をもてあます彼女の姿や
才能をもたない者のとまどいが
よりヴィヴィドに観る側にやってきます。
役者が顕す刹那の感情の明確さが、
物語を膨らませる確かな力になっていく。
二日酔いのクレアから溢れる人間臭さが
彼女のまっとうな価値観や
キャサリンの想いの重ならない部分を顕わにしたり、
ハルが初めてキャサリンと出会うシーンでの緊張感が
再び出会う彼らの距離を作り出したり・・・。
さらには観るものを取り込んでいく
震えがくるほどの創意に溢れた表現手法達に目を瞠ります。
インナーイヤーのヘッドフォンを外す姿と音のリンク、
役者達の舞台への入り方やはけ方、
キスシーンの音楽とライティングの美しさ、
紅茶を注ぐ音が醸し出す時間、
最後に言葉を内包した闇が照らし出すその先の広がり・・・、&More。
シーンの一瞬に込められたものから、骨格のように作り上げられたものまで。
役者達の芝居の秀逸さが、
それらの表現に切れ味のあるニュアンスと力を与えていきます。
個々の役者が積み上げた感情には、
手練を生かすだけの奥行きがあるのです。
知っている物語なのに、
惹き込まれて、目を見開き、浸潤され、
ボリューム感を持った面白さに満たされて。
コマの関係でもう一度この作品を観るのが難しいことが凄く残念。
あと、うまく言えないのですが、
黒澤演出と谷演出、両方観たことから
同じ戯曲という土俵の上での優劣を感じるのではなく、
それぞれの演出の良さがやってきたことで
とても豊かな気持ちになれて。
何かが生かされれば何かが隠れる。
優れた戯曲と演出の関係にはそんな部分があるような気もして。
同じ素材からやってくる異なるテイストのすばらしさに
べたな表現ですが、
演劇っておもしろいとわくわく思ったことでした。
満足度★★★★
通して見えるものがある
1日のビフォーサイドに続いての観劇。
ひとつのドラマとしても完結しているのですが
明らかに両方を観ることによって伝わってくるものがありました。
時代感覚の秀逸さに舌を巻いたことでした。
ネタバレBOX
ビフォーサイドとほぼ同じ舞台のつくり。
ただ、その空気はかなりちがっていていました。
ビフォーで溢れていた
ビルに対する深い情念や怨念のようなものに変わって
もっとグローバルな視点と
ドライなテンションが舞台上に醸しだされていたように
思います。
とはいうものの、人が虚飾の価値を膨らませていくという
ベースの部分はがっつりと貫かれていて、
質感は違っても、ビフォー同様に
ビルに関わる(った)個々のキャラクターからは
それぞれが持つ視野の範囲や、
範囲によって変わる思いの色が
くっきりと伝わってきてきました。
風水師やビルの元オーナーなど、
時間軸やグローバルな動きを見定めるキャラクターが
観客の視点を見晴らしの利くところになにげに導くあたりも
作劇のしたたかなところ。
ビルを巡っての
後ろ暗さを感じるような組織同士の擦れ合う切迫感だけではなく、
それらですら抗うことのかなわぬ
時代の揺らぎや振幅が重低音のような
存在感をもって伝わってきて。
また、アフターサイドだけでも
伝わってくるものはたくさんあるのですが
通しでみることによっての更なる膨らみも
間違いなく存在していました。
なんというか1+1=3になるような仕掛けが
いくつも折り込まれ機能していて。
バブルのころに建てられたビルのクロニクルと重なるように
この国の近過去から静かに強く揺らぎつづける今が
ぞくっとするような肌合いで浮かび上がってきます。
それらを具現化する役者達には、
さらに良くなる余白がありつつも
物語の肌触りを繊細に編み上げきるに十分な力を感じて。
両バージョン観終わって、
自分の生きてきた時代が
何時もと別角度からすっと見えて・・・、
慄然としたことでした。
満足度★★★★★
なぜこんなに伝わってくるのだろう
どこか軽妙な感じにつられて
最初は漫然と見ていたのですが、
たちまち舞台上の時間や
登場人物の想いに引き入れられて・・・。
しかも、一通りの物語にさらなる奥までがしっかりと用意されていて・・・。
声を立てるほどに笑ってしまっているのに
同じ時間に
どんどん心がキャラクターの想いに
満たされていく・・・。
凄い。
ネタバレBOX
東京芸術劇場の小ホールに
対面形式の舞台が設えられて、
とある家族の
祖母の死の直前から
葬儀に至る風景が描かれていきます。
彼女の最期の時間と葬儀の風景が、
2つの視点で繰り返して演じられていくのですが、
その効果にやられました。
アクリル板に描かれた二つの絵が繊細に重なって
平板だったものがたちまち立体感をもってやってくるような。
父母の個性の豊かさや
その育て方に確実に影響を受けた
子供たちのあけすけな想い。
泥を落としていない野菜の瑞々しさのようなものが
観客が身構える暇もなくどんどんと入ってきます。
意地を張りあったり、ためらったり
押し付けたり・・・。
地層のように積もった思いが露出していく中で
ひとりずつの
ナチュラルで不器用で、でもそれぞれに真摯さをもった個性に、
見る側の心が共振していく。
その行き場のなさ加減が
なんというか愛しむような実感とともに
観る側に満ちていきます。
家族の喧騒のなかでの
祖母の死の静寂なさりげなさにも
心を打たれました。
その透明感が
物語の裾野のように広がって
生きてのこる家族たちの姿を
一層鮮やかに浮かび上がらせて・・。
祖母の不自由な手を
棺の内に収める葬儀屋さんの
とまどいのおかしさが
素の色を与えるように
生々しい死の現実を呼び起こします。
繰り返し側の時間のなかで、
教会に棺桶を運ぶ場面。
泣きつづける長男の想いに
観る側もたまらないほど心を染められて・・・。
ちょっとした縁で入り込んできた
キリスト教会の価値観に
家族丸ごとはめられる時の滑稽さ・・・。
朗々とした牧師の讃美歌と
家族の戸惑いが積もって
どうしようもなくはじける姿に
抱えきれないほどのおかしさがこみあげてきて
そのあとに深く逃げ場のないペーソスが
不思議な突き抜け感とともにやってきて。
終演後しばらく呆然としておりました。
満足度★★★★
出汁がたっぷり効いたホラー
確かにホラーでした。
でも、しっかりとした骨組に
時代や人がしたたかに描かれていて。
舞台の切れと
出汁をたっぷり含んだ
単に怖いだけではない厚みに
この劇団の力量を感じました。
単品の作品としてもたっぷり楽しみ、
アフターサイドもすごく楽しみになりました。
満足度はアフターサイトを観てさらに上がる余白を
残しておくということで・・・。
ネタバレBOX
舞台装置を含めて
古い雑居ビルの雰囲気が細かく演じられていたのが
まず勝因かと・・・
時代というか、
不動産バブルの残滓や不況の時代の色までもが
役者たちによって
細かく舞台空間に織りあげられていて。
オーナー夫婦の醸し出す雰囲気が
淡々とした中で深く観る者を浸潤していきます。
不動産屋や入居者たちが織りなす
舞台の質感が絶妙。
対面式の客席は舞台と客席の仕切りを取り払って
同一の空気の中で
ビルにしがみつき追い込まれていく夫婦の心情を
ホラー仕立てで観る側に擦り込んでいきます。
時代のきしむ音や
夫婦それぞれの想いや、
常ならぬものの言葉のそれぞれに
しっかりとした理があって
真綿をしめるがごとく
場の空気を追い詰めていく。
終盤の切れがすごい。、
ホラーのテイストには
たっぷりとダシが効いていて・・・。
北京蝶々ならではの
時代への俯瞰と
一気に曝されるビルや人の過去、
重なっていく物語の骨格のしたたかさに
息を呑みました。
アフターサイドも是非に観たくなるような魅力も
たっぷりでありました。
満足度★★★★
ウィットにあふれたかわいさ
前半の子犬や赤ん坊を想像させるような
ウィットいっぱいの動きに微笑んでいるうちに
いくつも鋭い表現がやってきて、
ぐいぐいと押し切られてしまいました。
衣装も創意豊かで観客に眼福。
終盤の汗のにじんだ背中が本当に美しく思えました。
ネタバレBOX
イメージがわかりやすいというか
具象化されたさまざまなものが
豊かに伝わってくる。
風船などの使い方や
赤ん坊や子犬を彷彿とさせる動き・・・。
アクセントの牛とも幼女とも思える鳴き声。
観客に想像させるというよりは
観客の目線にきちんと持ってくるような感じで表現がされていて、
それゆえ、真剣勝負で構えてみるのではなく
リラックスしてやってくるものを楽しむことができました。
客入れ時のガールストークの音声からから始まって
前説にかぶるように始まった舞台。
そこからもう、広がるひろがる♪
はしゃいだり、駄々をこねたり
夢中になったり、想いを重ねたり・・・。
その中に女性的な思いが
シンプルかつ色とりどりに現される・。
観ていてその瑞々しさに惹かれてしまいます。
舞台を構成する力もたっぷりあって、
観る側のわくわく感が消えない。
舞台後方のスリットを思わせるような空間への出入り(通過)や
その上方の使い方も舞台を大きく広げて。
しかも、空間の広がりが舞台の希薄にすることなく
密度を保ったまま
観る側の視野を広げていきます。
彼女たちのユニゾンがすごくよいのですよ。
合わせ鏡に映るような単純に均一な同期ではなく、
同じ動きの心地よさのなかに、一人ずつの個性が画一化しないで残る・・。
同じ線を引くにも冷徹な一本線ではなくぬくもりのあるやわらかい線がうまれるような・・・。
複雑な動きや床での動作などでは、若干ばらつきもあるのですが、
それが暖かみになることはあってもべたつきにならないのは
個々のダンサーの芯の部分の動きが
ちいさなコンビネーションのずれ程度では
揺らがないほどの強さをもっているからかと。
衣裳の使い方も創意にあふれ、プチエロかわゆく、
紅が美しく楽しく・・・。
後半のダンスの濃度にも目を見張り・・・
べたな言い方ですが、
70分、たっぷりと楽しむことができました。
満足度★★★★★
想う側の必然が伝わって
物語はとてもわかりやすいのですが、
想う者の熱に
愚かさをがっつり凌駕するだけの必然があって。
その強く逃げられないようなテイストに
時間を忘れて見入ってしまいました。
終幕前のシーンからやってくる、
どこか醒めているのにぬぐいきれないような感覚が
ゆっくりと深く心に残って。
前回公演とは色の違った、
しかし前回同様に
強い印象の残る作品でありました。
ネタバレBOX
愚かな恋であっても
それが止められないことに
濃密な説得力があって、
ただ息を呑んでその行く末を見つめていく感じ。
働き蜂が憑かれたように働いて
一生に集めるという
ティースプーン一杯ぶんの蜜の重さや軽さが
冷徹に置かれて、
それゆえに
はちみつ屋の二人の想いの必然性も
有無を言わせぬ力を持って伝わってくるのです。
挿入される
はちみつ屋のお客様やメイド喫茶のエピソード達が織りなす「愛」の姿も、
したたかに物語に厚みを作っていく・・・。
負け続けた博打にすべてをかけようという感覚、
さらには
舞台が満ちる中で、
働き蜂が女王蜂に抱きしめられる時、
聴こえてくる羽音にぞくっときました。
自らが意図しないものまでを女王蜂に奪われたそのあとに、
蜜を失ったような愛を語り始める
終幕の二人の会話の質感もすごく研がれていて。
シャッターを叩く音が
二人の想いを観る側に
打ちつけていくようにも感じて。
役者たちも常ならぬものを感じるほどに秀逸で、
前回公演に続いて非常に印象の強い
出色の舞台でありました。
独創的な色をつなぐものが欲しい
多少の荒さはあっても
ひとつずつのシーンには
それぞれに個性的なテイストがあって
観ていて飽きることはありませんでした。
でも、
ひとつのシーンやラインに
他のシーンと絡んで広がっていく力が
もっとあればとも感じて。
面白かったり観る者に沁み入っていくテイストを感じるがゆえに、
さらに絡まり合った広がりが欲しくなりました。
ネタバレBOX
個々のシーンには独特のシュールな感じや
何とも言えない鋭さをもったペーソスが含まれていて
上演時間の長さも感じなかったし
観ていて飽きることはありませんでした。
役者のお芝居にも
十分な安定感とウィットがあって。
なにかを凌駕するような力量を
それぞれから感じて。
だから惜しいなとおもうのです。
微妙なストーリーラインにちょっとフラスト。
ドミノがもっとしっかり倒れていくような、
なにかがあれば
もっともっとたくさんのものが舞台から溢れだしそうな
感じがして・・・。
シーンをつなぐ糸がもっと太ければ
その乗数倍で
伝わってくるものがありそうな舞台。
初日だったということもあるのかもしれませんが
何かが舞台には満ちているだけに、
もっと繋ぐためのけれんがあればとも
思いました。
満足度★★★★★
幾重にも重なって
バーの雰囲気や
お酒の存在に
したたかに血縁の距離感を重ねて・・・・。
血のつながりが触媒のようになって
キャラクターが抱える思いが
幾重にもほどけていくのが圧巻。
またエピソードを包括する仕掛けのうまさにも
瞠目しました。
ネタバレBOX
こじゃれたバーを訪れた
3組の客の会話劇。
血縁をもった者通しの会話ということで
そこには他人とは異なった愛憎が含まれて・・・。
しかもバーという場所柄、
他の客もいて、でもお酒も入るということで
キャラクター達の想いが遠回りに滲みだし、
やがて常ならぬほどに溢れだすのが
すごくナチュラルに感じられるのです。
脚本がすごくよくて・・・。
からくり仕掛けのように
それぞれの想いが
さらに相手の想いを引き出しながら
積み重なっていきます。
時にはバーという場所が作る箍が
外れかけるほどに・・・。
でも、どれほど互いの思いが交錯しても
血が、何かをつなぎとめている。
捨てきれない、あるいは
切っても切りきれない糸の
質感の表現がほんとうにしなやかで・・・。
役者たちのお芝居にも
がっつりと観客を血縁感覚の内側に引きずり込む力があって。
一方で、冒頭から居つづけのバーテンや客が作りだす視線で
観客にも物語を俯瞰させるような視野を持たせた演出も
とても効果的でした。
彼らの存在には血縁の内側の視点では観客に見えないものを
すっと浮かび上がらせる力があって。
しかも彼らの存在があるから
舞台からやってくる想いの高まりが、
観客を凌駕してしまうのではなく、
バーの雰囲気に染められて
観客に入り込んでいくのです。
見る側にゆっくりとやってきてくれるからこそ
理解できる感覚がまちがいなくあって。
バーの雰囲気を断ち切ることなく
エピソードを重ねていくそのやり方も
実にしたたか・・・。
ちょいと事情があってジンジャエールをたしなみながらの観劇でしたが
心地よく、深く、ちょっとウェットな感覚でバーの雰囲気に浸りこんで、
たっぷりと物語を味わうことができました。
こういう作りこみの舞台、個人的には大好きです。
スタイリッシュな中の実直さ
CGなどを使ったスタイリッシュなテイストが
ペーソスゆたかな物語に織り込まれて・・・。
戯曲がしっかりと咀嚼され、
さらには役者たちの個性をうまく生かした
作品に仕上がっていました。
ネタバレBOX
WIPを拝見させていただいています。
その時には導入部分などの
もたつきを感じていたのですが、
本番では客入れの時点から
CGなどを使って雰囲気をソリッドに作ったことで
舞台の流れが定まり
物語が深く確実に広がっていきました。
役者たちの個性がうまく物語にのって
成長の記憶たちにひそむペーソスに
豊かな色を与えていきます。
一人ずつの役者から溢れる
ある種の生真面目さのようなものが
エピソードたちにしっかりとした重さを与えて
観る者に浸潤していく力になって・・・。
粗さや詰められる余白を
感じないわけではないのですが
ダンサーの女性が入って盛り上げたと思ったら
アドリブの時間で舞台を素の雰囲気に戻したりと
舞台上にアップダウン感が作られているから
観ていて飽きない・・・。
戯曲のスピリットを演出がしっかりと
咀嚼しているのでしょうね・・・。
場のつなぎ方にも洒脱さがあって
WIPを拝見していたにも関わらず
時間を感じることなく楽しむことができました。
後半にぞくっとする
前半は多少散漫な印象があるのも事実。
しかし、後半、複数の異なった色づけをされた物語が重なり合って以降は
観る者を引きこむ力が生まれていたように思います
ネタバレBOX
生のバンドが入り
ダンサーを配した舞台づくり。
それらが、現と童話の世界と神話の世界を三つ編みに
綴っていきます。
前半はそれぞれに進む物語の連動があまり感じられないので
散漫な印象がありましたが
後半に三つの世界が重なり合うあたりから
一つの家族の姿が浮かび上がってきて、
一気に面白くなりました。
終わってみると、きちんとある種のペーソスが
見る側にしっかり残っていて・・・。
3世界の掛り にも、堅実さやうまさを感じて。
それだけに前半部分のルーズに感じる部分が惜しいと思う。
たとえば舞台を隅々までというか
広く使おうとしているような
感じがするのですが
もっと最初のシーンから舞台をタイトに使ってもらえれば
前半の密度が上がっていくような気がして・・・。
あかりももっとシャープな方がよいかと・・・。
照明や役者の方の立ち位置、ダンスの振付などの工夫で
もっと観客が舞台に取り込まれるような気がしました。
満足度★★★★
ここちよい揺らぎ感
その場の空気が
とても丁寧に揺すられていくような・・・。
カフェの空気に
身をゆだねながら
ちょいと常ならぬ時間に導かれてしまいました。
ネタバレBOX
木造のやわらかい雰囲気に満たされた喫茶店での公演。
開場時から
流れる時間がそのまま物語につながっていきます
手作り感いっぱいのカフェの雰囲気がそのまま借景になって・・・。
ふたりの女性の会話がすごくヴィヴィッド。
客入れ中から時々練習する
「三ツ矢サイダーの歌」
歌遊びのような感じなのですが
観客をちょっと楽しくさせるような
グルーブ感があって、観ていて心地よく・・・。
それはカフェに実存感を与えて。
その一方で
無口なマスター。
ずっと客入れ時から眠っている
役者さんのお芝居があったり・・。
途中で乱入してくる男が
雰囲気を変えると・・・。
こう、なんていうのか
個々の役者が自然な肌合いで織り込む
小さなお芝居のデフォルメが
古くて家の魂が宿るようなカフェを
妖の世界へとすこしずつずらしていく感じ。
ドアのきしみ音、窓ガラスの揺れる音。
コーヒーの味比べが物語のモチーフを
浮かび上がらせて・・・。
女性のお代の置き方もうまいなぁとおもう。
気がつけば常ならぬ世界に
やわらかくしっかりと取り込まれておりました。
余談です。
けっこう早めに行ったのですが
席の選択になやむ。
奥側の並びのできるだけ見切れのすくない
入り口側だと
役者の方の表情が一番よく見えるような気がします。
(私が座ったのかここ)
一方で物語全体を俯瞰するのであれば
入り口がわの席の方が良席かも・・・。
いずれにしてもこの近さで、
このクオリティのお芝居を観るのは
凄く贅沢なことかとおもいます。
満足度★★★★
粘り気少なめ、さらっと濃厚
この戯曲のスピリットをそのままに、
生きの良い役者が気持ちよく舞台を
務めておりました。
エンターティメント性もたっぷりで
肩の力を抜いて楽しむことができました。
ネタバレBOX
ものすごく昔に観たこの作品は
店員たちの悶々とした気持が
舞台全体のトーンを作っていたように思います。
それに比べて今回のバージョンは
遊び的な気持ちに舞台が満たされているように感じました。
女性が入ったことで華やかさが生まれた気がします。
男子校の色合いが共学校にかわったというか・・・。
役者がアカペラで歌えるのは強いなあとおもったり・・・。
キャンディーズあたりはまさに圧巻で・・・。
テンポがすごくよく、
なによりみていてすごく楽しい。
そのなかに淡いペーソスもちゃんと込められて・・・。
味付けも確か。
小難しいことなど考えずに
さらっと観るのに最高のお芝居かとおもいます。
*** *** ***
余談ですが
今でも、おまけのじゃがいもの芽をずっと取り続けるようなバージョンって
あるのでしょうかねぇ・・・。