『プルーフ/証明』 『心が目を覚ます瞬間~4.48サイコシスより~』 公演情報 DULL-COLORED POP「『プルーフ/証明』 『心が目を覚ます瞬間~4.48サイコシスより~』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「プルーフ/証明」 いくつものトーンが重なって・・・。
    登場人物間それぞれに
    異なるトーンが作られて、
    良い意味でまじりあうことなく
    ある種の光をもって重なり合っていきます。

    役者たちの演技にぶれがなく
    個々のシーンに瑞々しさと質感があって
    登場人物の想いや感情がまっすぐにやってくる。

    深く豊かな密度を持ちながら
    しっかりとエッジの立った、
    出色のストレートプレイでありました。


    ネタバレBOX

    谷賢一氏が翻訳・演出を手がけたこの作品、
    同じ翻訳でのコロブチカ版(黒澤世莉氏演出)を観ています。
    その時には、一つの貫くような質感で舞台が満たされ、
    個々の個性が同じ空気から深く滲みだしてくるような
    印象がありました。

    一方今回谷氏自身の演出では
    個々の人物間に異なるトーンや質感があって。
    3人が同時に舞台にあれば、3つのトーンがそこにあるのです。
    それらの輝度が物語の進行に伴って、次第に高まっていく感じ。
    ひとつに混じり合うのではなく、
    互いを照らすようにして舞台の密度を高めていきます。

    客入り時からすでに
    主人公キャサリンの空気に取り込まれます。
    机と椅子だけのシンプルな舞台に
    彼女の時間が鮮やかに浮かび上がってくる。
    重なっていく父親への愛憎、
    数学者のハルとの距離感と歩み寄る中での互いの葛藤、
    姉のクレアとの確執。
    それらがいくつものトーンのなかで、
    繊細かつ丁寧なだけではなく、
    時には鮮やかに、あるいは恣意的なベクトルをもって
    沈むように、突き刺さるように、弾けるように、包み込むように
    描かれていきます。

    役者が良いのですよ。
    たとえば、
    キャサリンや父親が持っている才能に対する
    自身の感覚と外側からの見え方の差異なども
    とてもしなやかに観る側へ伝わってきます。
    かつて女性が発見したという
    素数の定理に関する説明をさらっと行なうときの
    キャサリンとのさりげなさに目を奪われて。
    それが伏線となって自らの才能をもてあます彼女の姿や
    才能をもたない者のとまどいが
    よりヴィヴィドに観る側にやってきます。
    役者が顕す刹那の感情の明確さが、
    物語を膨らませる確かな力になっていく。

    二日酔いのクレアから溢れる人間臭さが
    彼女のまっとうな価値観や
    キャサリンの想いの重ならない部分を顕わにしたり、
    ハルが初めてキャサリンと出会うシーンでの緊張感が
    再び出会う彼らの距離を作り出したり・・・。

    さらには観るものを取り込んでいく
    震えがくるほどの創意に溢れた表現手法達に目を瞠ります。
    インナーイヤーのヘッドフォンを外す姿と音のリンク、
    役者達の舞台への入り方やはけ方、
    キスシーンの音楽とライティングの美しさ、
    紅茶を注ぐ音が醸し出す時間、
    最後に言葉を内包した闇が照らし出すその先の広がり・・・、&More。
    シーンの一瞬に込められたものから、骨格のように作り上げられたものまで。
    役者達の芝居の秀逸さが、
    それらの表現に切れ味のあるニュアンスと力を与えていきます。
    個々の役者が積み上げた感情には、
    手練を生かすだけの奥行きがあるのです。

    知っている物語なのに、
    惹き込まれて、目を見開き、浸潤され、
    ボリューム感を持った面白さに満たされて。
    コマの関係でもう一度この作品を観るのが難しいことが凄く残念。

    あと、うまく言えないのですが、
    黒澤演出と谷演出、両方観たことから
    同じ戯曲という土俵の上での優劣を感じるのではなく、
    それぞれの演出の良さがやってきたことで
    とても豊かな気持ちになれて。
    何かが生かされれば何かが隠れる。
    優れた戯曲と演出の関係にはそんな部分があるような気もして。

    同じ素材からやってくる異なるテイストのすばらしさに
    べたな表現ですが、
    演劇っておもしろいとわくわく思ったことでした。

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    2009/10/08 07:04

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