満足度★★★★
内容はタフだけれど
冒頭の映像や
台詞がとてもしたたかで、
場に満ちた何とも言えない薄っぺらさのなかに
登場人物たちの抱く
生きることへの感覚が鮮やかに浮かんできました。
、
ネタバレBOX
冒頭の映像が語る夢の世界のようなイメージが
美術というか舞台の装置と重なりあうように見える
冒頭のシーンが観る側を物語にしっかりと導いていくれる。
そのなかで、
どこか「わちゃわちゃ」していて、
けっこう薄っぺらくて・・・、
でもあちらこちらに尖った印象を持った
2流半のスナックの世界が展開していきます。
とてもコンパクトにつくられたそのお店に
女性たちの個性が収まりきらないくらい詰め込まれて・・・。
その中で、男が観てもチャラい男や、
不思議な生真面目さを感じさせる男が客として置かれる。
で、次第にさらけ出されていく男女の関係に
なんだろ、あからさまで抑制の効かない
男女の感情が醸し出されていきます。
全体の雰囲気に目を奪われ続けるというか、
舞台に作られたテンションにどっぷり浸されてはいるのですが、
その一方で女性たちの個性が
役者たちによってとてもナチュラルに作りこまれていて、
一人ずつの女性が観る側にとって
色となり質量となって積もっていく。
なんだろ、薄っぺらいのに立体感があって
多分男と女の視座で見えるものが違っているのだろうなぁと思える
会場の空気などもあって。
舞台の狭さが作りだす濃縮感や閉塞感、
個々の感情や、生身の人格のようなものが
だんだんに煮詰まっていく。、
下世話さの内側にある抜き身の感情のようなものが
煮崩れるように現れてきて
さらにぐぐっと舞台に引き込まれる・・。
正直、顰蹙を買いかねないお話ではあるのですが
奥さん第一で
店の女性全員とやってしまう男の気持ちや、
遠慮深く生真面目そうでも
店の女性と関係してしまう男の感じが
男としてわかってしまうんですよ・・・。
でも、考えてみれば
この物語の女性たちを観る女性も印象も
たぶん同じような感じなのだろうなと
思う。
観終わって、舞台を満たした熱はのこりつつ、
どこか冷徹な、作り手の達観が感じられて。
キャラクターたちの印象や想いが
観る側にとっても逃げ場のない切り口でやってくる。
お芝居としては
冒頭の印象を背負った女性の視点が貫かれ、
二人の男の感覚、
そして女性たち一人ずつが
重なることなく置かれていて。
作り手の手腕や役者たちの演技が
観る側をがっつりと取り込んで観たいな印象で
それはそれで秀逸なのですが、
もっとあからさまな肌触りが
感じられて。
いやぁ・・・、この劇団、いままで観ていなかったことを
かなり後悔したことでした。
満足度★★★★
さらに伸びる予感
プレビューを拝見。
戯曲そのものがとても面白いと感じられたし
いくつものぐぐっと引きつけられる表現もあって。
もっとも、プレビューでもあり、
まだ伸びる部分もいろいろにあるように思えた舞台でありました。
ネタバレBOX
よしんば、それが日韓合同のステージであっても、
言葉の問題での伝わらなさはほとんどありませんでした。
むしろ、逆に、2ヶ国語プロンプト付きということで
広がりが生まれた部分もあって。
中盤以降の検察官らしき男をめぐる狂騒には
ぞくっとくるようなグルーブ感も生まれていました。
ただ、前半の空気にはちょっと空気のばらつきもあって。
台詞を担う演者たちのお芝居には
完成度がしっかりと担保されているのですが、
それを支える背景をになう空気のコントロールが
多少怪しくなっているというか
上手く立ち上がったり制御されていないというか。
もっとも、このあたりは
プレビューから本番にいくうちに
きっちり作りこまれていく予感もあって。
でかめで量も工夫されたプロンプトや
韓国人役者たちの日本語の流暢さが
2ヶ国語作成の観る側にとっての壁を
すでに乗り越えてもおり、
本番がとても楽しみになりました。
満足度★★★★★
嫌悪に埋もれない感覚
感覚として
冷静に考えると受け入れにくいような表現が
あったりするにもかかわらず
それを目を逸らさせることなく
観客に見せきる力が舞台にはあって。
いろんな意味で体を張った役者たちが報われて
物理的な嫌悪の感覚に舞台がとどまることなく
そこからさらに奥にある
禍々しく、生々しく、温度と存在感をもって顕われる。
登場人物たちの内側に息づくものの
質感に目を瞠りました。
ネタバレBOX
冒頭、母親の先生に対する相談のシーン、
最初は唖然とし、次第におかしく笑っていたのですが、
そこにとどまることなく
揺らがない、同じトーンでの貫きがあって
やがて、観る側のバランスが軋む。
そこから塗り換わるシーンが
観る側の感覚をすっとずらしていきます。
気がつけば舞台を客観的に眺めているというよりは
その世界の色に染まりながら眺めている。
食事のシーンは、冷静に考えるとかなり衝撃的で・
嘔吐感がやってきてもおかしくないもの。
でも、それを目を逸らすことなく
むしろ、女性の咀嚼のあごの動きから
吐き出された食物の形状、
さらには、それを口にする役者達の淡々とした風情までを
見つめさせる役者力が舞台上をしっかりと支えて・・・。
一見安定した世界が崩れていく後半は
さらに観る側の目が舞台に釘付けにされる。
エロいとか醜いとかいう感覚が霧散しているわけではない。
レイプに近い女性のあられもない姿にしても、
金銭感覚の箍が外れた男の姿にしても、
衝撃的だし、
観る側をどす黒く染めるような質感に息を呑むし
前のめりになってみてしまうのですが、
でも、それがこの舞台のメインディッシュではない・・・。
その強さは色の強さが開く
さらなる感触がこの舞台にはあるのです。
支配する側の胡散臭さも、
その枠組みの中でうごめく人間の根源的な弱さというか
空気にとらわれつつ、それよりもなによりも、
表層のグロテスクさの内にあるものの感触に
がっつりととらわれる。
観る側が、目を見開いて
もろに、受け取ってしまうもの。
そして、そうさせる物語の密度や力・・・。
さらには役者の体の張り方・・・。
その排泄物が偽物であると理性ではわかっていても、
グラスにそれが満ちる刹那の密度が導く
ラストシーンの感覚やつきぬけから目を背けることができない。
この舞台の世界を全否定しきれないというか
ビターだけではないテイストをかぎつけてしまう
自分に対する嫌悪感と、
さらには表現に対する不思議な充足感。
終演後、自分が感じたもの、
さらには自分が踏み込んで眺めたものを咀嚼して、
もう一度ゆっくりと深い衝撃にとらわれたことでした。
満足度★★★★
技量が増した
これまでも、作り手や演じての才を感じてはいましたが
それをささえる技量が顕著に進化しており
物語にアイデアを編みこみ
豊かに見せる力へと昇華していました。
ネタバレBOX
お味見とタマゴを1日でまとめて鑑賞。
役者の方は大変なのだろうなと思いつつ、
楽しんで見てしまいました。
・お味見公演
最後のデザートだけは再見でしたが、他の作品は初見。
いろんなバリエーションの作品があって
観ていて飽きることはなかったし、
なによりも、表現の品質にも、
これまでの劇団の公演と比較して一段上の安定感があって。
観る側が追いかけたり想像力で補ったりすることなく、
作品ごとの切れのようなものが、
したたかに作られていく。
なんだろ、観る側が受け止める舞台から
観る側がゆだねる舞台に品質が上がったように思えて。
シーンごとに作り上げられた切れが
貫かれてへたれない。
だからアイデアがくっきりと見える。コンテンツとしては下世話なものも
シニカルなものもあるのですが、
それらがぼやけずにくっきりと見えたことでありました。
・タマゴのひみつ
物語が、中学時代の一定期間に収められて
不要に広がったりふくらんだりしないことで
しっかりと伝わってくる肌触りや密度があって。
男子には一生わからないような感覚や、
大人になってしまえばきっと忘れてしまうようなことも、
中学生の目線というひとつの貫きがあることで
ぶれずにしなやかに伝わってくる。
役者たちがそれぞれに背負う人物も
同級生の記憶に残るがごとく
観る側に像を結ぶのです。
私のようないい歳したおっさんが観ても
子供から大人に変わるころの
その世代的な感覚の降りて来かたなどが伝わってくる。
生真面目な真摯さや
何かに届かないような薄っぺらさと
その世代的な揺らぎが
くっきりと一つの箱に納められて
観る側に渡される感じ。
視座の貫きが、
作り手のこれまでの作品に散見された、
作品の広がりによるばらつき感を払拭して
しなやかな密度を舞台上に作り出していく。
あの頃の思い出って
いろんな甘酸っぱさに美化されることも多いのですが
そういうパターンに陥ることもなく
しっかりとリアリティをもった
中学生の日々の肌触りを創り出す
ある意味作り手の本領を感じる作品でありました。
*** *** ****
アバウトな言い方ですが、
要は3人がそれぞれに進化したのだと思うのですよ。
3人それぞれの腕の上げ方に目を瞠るというか
彼女たちの精進が感じられる公演でありました。
満足度★★★★
これだけの人数をかけて
舞台があふれたり塗りこめられたりせずに
物語が疾走感とともに
展開していくのはすごい。
作り手の、舞台の舵取りのしなやかさと
役者たちの絶妙なお芝居の力加減や精緻さに
しっかりとつかまれました。
ネタバレBOX
物語自体は
けっこうはっちゃけているのですが、
役者がきちんと緻密に仕事をこなしていて
バラけた感じを観る側に与えず
作品としてしっかりと押し込んでいく。
結果、個々の役者の魅力を受け取りつつ
物語の疾走感に身をゆだねることができるという
観る側にとって幸せな状況が
作り出されて。
理屈ぬきに楽しむことができました。
こういう勢いや精緻さを作り出す底力があれば、
たとえば今東京の個性派女優さんなども巻き込んで
いろんな化学反応などを起こしてもらえると楽しそう。
単に関西の劇団を見たというにとどまらず
新しいなにかへの期待が高まる舞台でもありました。
いろいろと大変な部分も多いのでしょうけれど・・・・。、
次の首都圏での公演がとても楽しみです。
満足度★★★★
不思議と汗臭さのない男芝居
たっぷりの笑いもあるのですが、
実はかなりしたたかな作りのお芝居と感じました。
ネタバレBOX
冒頭、明転するまで、
がっつり男っぽい迫力で押している割には
姿を現した登場人物は意外に優男。
だから、ちょっとヘタレ系のコメディかなとも思ったのですが、
実はなかなかしたたかな作りでした。
前半はシチュエーションの面白さで持たせ、
中盤あたりからは、たとえば自縛霊を道具立てに
時間経過を作り上げていく。
さらには登場人物のバックグラウンドまでが
屋台崩しのように変わっていって。
南蛮言葉へのつっこみなどを徹底的に貫く面白さの一方で
物語の流れに従って
舞台のトーンを変えていくしたたかさがあって。
いろんなバランス感覚に秀でたお芝居だなぁと思う。
時間の感覚もほとんどなく、
飽きることなく
まるっと観てしまいました。
面白かったです。
満足度★★★★
プレビューとして
劇団員だけの公演だからこそのチャレンジなのか、
物語の組み上がりの秀逸のなかに
脚本が役者に求める場の質感や密度の細かい作りこみが
がっつりと折り込まれているように感じました。
この作品、なんとか時間を見つけて
公演期間の終盤に
もう一度拝見したいと思います。
終演時に感じたこの舞台の秀逸にとどまらない、
伸びしろというか、
公演の重なりの中でさらなる豊かさの醸成を、
予感させ、
期待させる「プレビュー」でありました。
ネタバレBOX
「プレビュー」ということだからでもないのでしょうけれど、
序盤は場に醸し出される空気に
役者が十分コントロールしきれていない
硬さのようなものが感じられて・・・。
しかし、役者たちの演技が精度を持って重なりだした中盤以降は
この作品、そして役者が作り上げる世界の
ビターさやウィット、ふくよかさ、
さらにはしなやかなエッジが生まれ
キャラクター達はもちろんのこと、
その場にはもういない
彼女たちを繋ぐ人物の面影の姿までが
肌触りとして感じられ、
深く浸潤されました。
したたかで秀逸な作品だと思う。
単に物語が組みあがっているというに
とどまらず
役者達が物語を成り立たせる以上の踏み込みを
自らの力で作りこんでいける
間口と奥行きがこの作品にはあって。
作品が役者を縛っての輝くのではなく
役者達が作品を踏み台にして刹那の輝きを作りあげる場が
この作品にはあるように思う。
終演後、
良い芝居を観たときの感覚にしっかりとみたされつつ、
役者たちが醸すであろう
さらなるものへの期待が生まれたことでした。
満足度★★★★
魔法のフォーマット
初演というか、同じフォーマットの作品も観ているのですが、
その面白さが今回も受け継がれていました。
これ・・・、ある意味作り手の創意が
自由自在に広げられるし
また、役者にとってもシチュエーションの中で
自らをいかようにも生かすことができる
魔法のフォーマットであることを再認識。
そんななか、個々の役者たちの編み上げる個性を
ガッツり楽しむことができました。
面白かったです。
ネタバレBOX
前回はちょっと危ない保父さんなども登場して
子供たちも幼稚園の世界に収まっていた感じがあったのですが、
今回は大人の存在が舞台の外にでたことで
よりいっそう子供の世界が広がった感じ・・・。
その分、キャラクターから
全体調和の箍がやや緩んで
個々の色がより強く舞台にひろがっていくように
感じられました。
この舞台、
全体の空気感も、回ごとにかなり違うのだろうなぁとおもう。
でも、そこが作品の魅力にも思えて。
ベースになるというか、ある程度作りこまれた世界や笑いは
舞台上にしっかりとおかれていて
観客を引き込む力や満足感などは担保されているのですが、
一方で役者たちが編みこんでいくような
余白というかスペースが間違いなく舞台にあって、
それぞれの役者の駆け引きのテンションのようなものが
面白い。
しかも、幼稚園児という魔法の前提があると
空気がまがまがしくなったりあざとくなったりしても
それらがむしろ作品のリアリティをくみ上げていく力に
なっていったりもして。
どこかけたたましいくらいの舞台に
取り込まれているうちに
なにか一人ずつの悪がきにも
愛着すら沸いてくる
けっこうどぎついし、当たりの強そうな舞台であるにもかかわらず
なにかうふっと笑いに満たされた感覚がやってくる。
そのなかに、人が生まれつき授けられていたり、
あるいは大人や子供同士のなかで染められていく
個性のテイストが生き生きと見る側にも伝わってくる。
いろんな可能性を持ったこのフォーマットの上での戦場を、
たっぷり楽しむことができました。
このフォーマット、今後も作り手の引き出しのひとつとして
さらに膨らめばよいなぁと思ったことでした。
満足度★★★★
鮮やかな個性の切り出し
作品に織り込まれた
色の異なるシュールさに惹かれて
あっという間の1時間。
役者たちの
現わす力のようなものがしっかりと機能して、
4つの作品それぞれに、
観る側の異なる感性が解き放たれた感じ。
おもしろかったです。
ネタバレBOX
・田渕彰展「エアデート 完全版」
冒頭のちょっとした客いじりをゲートウェイに
実から虚に踏みいる感じが
丁寧につくられていて、
すっと、エアデートの世界に観る側も封じ込められてしまう。
そのエアデートの
何とも言えない初心者マーク感が絶妙なのですが、
物語はその可笑しさでは終わらない。
その虚が解けてさらに踏み込む世界に力があって。
きっちりと持っていかれてしまいました。
・岡安慶子「恋愛で飯を喰う人」
風俗嬢、普通にことに及ぶと思いきや
ちょっと意外な展開が作り出されていきます。
一人芝居なのですが、
役者の瞳に映るものがしたたかに作りこまれているというか
視線の距離や焦点合わせが
息を呑むほどに安定していて。
だから、キャラクターが対する相手への
距離感や想いの移ろいや濃淡が浮くことなく
その場としての不条理な言葉が
見えない客を鏡とするように
質感をもって伝わってくる。
客が帰った後の、
行き先を失った視線に
彼女の素顔が浮かび上がる。
そこから垣間見える心情の
すこし醒めた感触を持った生々しさに
思わず息を呑みました。
・帯金ゆかり「狼少女、都会に降り立つ」
コンテンツ的にはワンアイデアのお芝居だと思うのですよ。
でも、演じ手がもつ表現力が
あれよという間に企画の瞬発力を凌駕して
世界を舞台に組み上げていく。
一つ間違えばとんでもなく薄っぺらい世界になりかねないものを
常に観る側に広がるものよりもたくさんのもので空間を満たし続ける
テンションというか力に圧倒されて。
身体の切れももちろんあるのでしょうけれど、
それにとどまらない、
元々場ごとの空気の色をすっと現出させ、
あるいは変化させていくような力が
人並み外れてあることは十分承知していて
でも、そうであっても
こういうベクトルにもその力を発揮できることは
けっこう驚き。
前のめりになって見入ってしまいました。
・森田祐吏 「たった一人の地球防衛軍」
恣意的な薄っぺらさが最初にあって、
苦笑系の笑いかなと思わせておいて・・・。
でも、それが、
ゆっくりと膨らんでいく
足腰をしっかりともった感覚に
しだいに塗り変わっていく。
演じ手の個性の強さが
演技を一つに留めるのではなく
彼が現わすニュアンスの間口の広さに繋がっていきます。
どこかトホホな地球防衛軍の姿に
実存感を裏打ちするお芝居の確かさが
薄っぺらかったキャラクターの心情に
次第に奥行きを与えていく。
気が付けば、
観る側は冒頭のベタで表層的な世界を足場にして
ひとりの男性の心情に
しっかりと取り込まれている。
演じ手には強くキャラを立てることができる力があるので
そちらが目立ってしまう舞台も拝見したことがあるのですが、
この役者のメインディッシュというか
性格俳優的な側面の秀逸や魅力を
改めて認識したことでした。
*** ***
いろんな毛色をしっかりと描き分けた
作・演出の力量も改めて再認識。
公演数の少なさがとてももったいなく感じたことでした。
満足度★★★★★
刹那を受け入れる、時間の肌触り
物語の設定自体に日常的でない部分もあったにもかかわらず、
個人的には、何本か観たこの劇団の長編のなかで、
一番ダイレクトに人物たちの想いを感じることができる作品でした。
しかも、単に刹那の感覚を現わすにとどまらず、
そこから豊かに広がっていくものがあって。
なんだろ、
人情劇的な甘さとかビターさとは少し異なるテイスト。
見つめ受け入れる時間や気づきの質感の
どこか淡々とした、でも生きることの奥行きを
しなやかに観る側に伝える語り口に深く心惹かれました。
ネタバレBOX
母親が「過失致死」を狙ってDVの父親を惹き殺したことを
淡々と子供たちに話す
冒頭の物語の展開には
若干驚かされてしまうのですが、
そこがくっきりと作りこまれていることで
物語全体がぶれることなく観る側に伝わってきます。
舞台となるタクシー会社の日常の描きこみや
家族たちの焦ることのない着実なキャラクターの組み上げが、
その唐突さをひとつのニュアンスに変える。
刑期を終え、約束した15年後に返ってきた母。
3人の子供や妹とその息子、
さらには従業員たちも含めて
それぞれの時間が少しずつ浮かび上がってきます。
家族の絆や従業員たちが抱くもの、
それらの解けかたは
作り手の作劇の力にしっかりと支えられていて、
15年の質感や、血のつながり、
愛憎などが舞台の肌触りに織り込まれ伝わってくる。
ウィットを織りんで紡ぎだされるエピソードが
観る側をしなやかに舞台の世界に導いてくれる・・・。
なんだろ、積み上がっていく観心地のようさのようなものがあって、
観る側が知らないうちに舞台の世界に胸襟を開いている感じ。
そして、この作品で一番惹かれるのが、
その空気感の満ち方を経て
終盤の物語から浮かび上がってくる部分。
表層の母親を迎える姿から
さらに踏み込んだところにあるそれぞれの
感情の一つに染まりきらない生々しさに息を呑む。
母親が父親から救ってくれたことと、
一方で母親の犯罪が生み出した波紋の狭間での
彼らたちの心情。
母親にしたって
息子のエロ本を意地になって読み続ける姿もおかしいのですが、
一方で、そんな母親が自らの頑なさに気がつく刹那の
淡々とした感じに
人が生きることの潮目のようなものがすっと浮かび上がって。
家族という意味では飛行船のエピソードにもやられた。
なんどか伏線が張られた後、終盤にやってくるそのシーンでは
かつての父親の暴力で指がまっすぐにならなくなった兄が指差すものを
妹がどこを指しているか分からないと笑う。
積み重ねがなければ無神経にすら思える
その、笑いのあけすけさから、
兄や妹が時をかけて
受け入れてきたもの、
いわば、家族が過ごしてきた時間への俯瞰が生まれて。
さりげない一シーンなのですが、
家族たちがそれぞれに抱いたものの
もつれがすっと解けるような変化に
心がひとりでに震えて落涙してしまう。
母子たちにとどまらず
ドライバーを裏の仕事の隠れ蓑にした男
愚直にまで息子を思う気持ちや、
母親の妹の義理の母への感情、
女性ドライバーの想いを寄せる人への感情・・・。
髪を切ることでふっと訪れた男の転機・・・。
それぞれが積み重ねた時間が
解き放たれる感触には
大仰さもなく、時にコミカルですらあり、
ドラマティックさや目がくらむほどに際立った色もないのですが、
でも、出来事のひとつずつが
それぞれに積み上がった時間として、
包み込むように観る側を揺らしてくれる。
役者たちの演技には
凝縮して作られる密度ではなく、
広がったり解けたりする中で
細部を描き出していくに十分すぎる解像度や精度があって、
キャラクターが抱いた時間の編み上げの精緻さや、
想いの色のうつろいが
ひと筆で描くようなラフさに似せた
精緻な細線の重なりで描き上げられていく。
そこから生まれる感触があるから
作り手の描き出すキャラクターひとつずつの想いが
トラムの大きな舞台であっても
ぼけたり大味になったりせずに
細密な肌触りとして観る側に伝わってくる。
シリアス一辺倒というわけではなく
息づまるように時間が流れるわけでもない。
描かれる世界のすべてが解け切るわけでもなく、
キャラクターたちの想いだって
(良い意味での)中途半端な変化だったりする。
でも、だからこそ、絶妙に編み込まれたウィットのなかに
時の繋がりや人が生きることの質感のうつろいが、
作り手の語り口とともにしなやかに沁み入ってきて・・・。
普段着を纏ったような余韻が
しっかりと残り、
作り手の描く深度のセンスというか感性に
浸潤されてしまったことでした。
満足度★★★★
筋力がついたみたい
初日、ソワレを拝見。
これまでのバナナ学園と比べても、
演じ手たちそれぞれに筋力がついた感じ。
きちんと身体で動けているというか、
小手先だけの動きではない
筋肉でつくった切れのようなものがあって
単に集団が醸し出すカオスだけではない、
ごまかしのない表現の強さのようなものを
舞台いっぱいに感じることができました。
ネタバレBOX
早めに入場できたのですが、
さすがに1列目に座る勇気はなく
2列目の通路側へ。
でも、その席でも
油断がならないくらいにいろいろなものがやってきて
ほんと、がっつり楽しい舞台でありました。
バナナ学園の劇団員については
あちらこちらの客演などを観て、
パフォーマーとしての側面ばかりではなく
ひとりひとりの舞台俳優としての秀逸さを知っているし、
客演陣にしてもそれはおなじことで、
他の舞台での印象が強く残っている
役者さんも多く出演されているのですが、
でも、昔、この集団を観た時に感じた
彼らが、役者の部活というか、
お遊びでやっているという感じは
もはやまったくなく、
バナナ学園というメソッドのために
別の筋肉が鍛え磨きあげられているように思えて・。
今回はその蓄積が、
舞台上のパフォーマンスの力を、
もう一段踏み上がらせた感じがする
以前の公演と比べても、
個々のパフォーマーたちの動きに、
もたつきや無駄がなくなり
その分舞台上で観客に見せる動きに
凄味が増した印象。
ひとつの所作から次の動作へ移る時の緩慢さがなくなり
筋肉が支えるような動きの切れがあるから
よしんばカオスが作られていても
そこに掴みどころのない膨らみだけではなく
恣意的な表現の力を感じることができるようになった・・・。
衣裳や道具立て、個々の刹那の表現もくっきりとして決まる。
それは、通路などでのパフォーマンス(?)にも言えることで、
シーンごとに舞台にリンクして、
投げっぱや空振りにならず
一つずつの表現(?)がなされていたように思えて。
まあ、従前の王子小劇場でのように
オールスタンディングの観客側を丸ごとかき回すような荒技は
劇場の構造上難しかったのかもしれませんが、
それでも、この集団ならではのパワーが生み出す
溢れだすような感情や高揚、
さらには混沌や、そこから昇華したペーソスまでを
腰を据えてしっかりと受け取ることができた。
さらには、舞台の外側のこと、
たとえば、スタッフワークなどの洗練もあって
作り手が留まらずに「バナナ学園」を
進化させていることを感じる公演でもありました。
しかも、彼らの筋力、
公演中にさらに鍛えられていくような予感もあって。
できれば終盤にもう一度観たいのですが・・・。
時間が取れるか・・・。
満足度★★★★
ドはまる
「何に?」と問われると
ものすごく説明しずらいのですが、
びっくりするほどはまってしまいました。
ネタバレBOX
いろいろと下世話、
あちらこちらオーバーアクション。
シーンごとに深いつながりもなく、
シュールな感じもする。
場に語られることに
飛びぬけた繊細さが感じられるわけではないし・・・・。
ニモカカワラズ
場の印象が残る。
ウシガエルの声が、踏み切りの音が、
ぞくっとくるようなヘタっぽさを細緻に編みこんだアカペラが・・・
さらにはラブホテルの入り口での男女のどや顔が
思いっきり観る側に刻み込まれる。
で、それらの空気が霧散したとき
すごくピュアな感じに心が満たされるのですよ。
馬鹿馬鹿しい歌詞、
ダンス的は身体の使い方とはいいがたい動き、
塗りこめられたような舞台の質感・・・、
でも、最後に舞台に吹く風に
心がすっと透き通る感じがする。
あからさまがピュアに昇華するような
不思議な感覚に包まれての終演。
多分、舞台上のさまざまなことが
観る側が気づかないほど緻密に
丹念に紡ぎあげられているのだと思うのですよ。
だから、色の強いシーンにくみ上げられた部分も
観る側に滓が残らない。
感覚的にもたれることなく、
ずっと舞台に見入ってしまう。
こういうパフォーマンスって
入り込むのに少々時間はかかるけれど、
一方で味を覚えたら
抜けられなくなってしまうような魅力があって。
なにか間違いなくくせになる予感。
マジでやられてしまいました。
満足度★★★★
抜群の切れ味とセンス
説明にあるように、すごくさくっとしているといえばその通りなのですが、
キャラクターたちの色が、実はとても緻密に作りこまれている印象。
奇想天外ではあるのですが、
その世界に乗っかった瞬間に
突き抜け方に圧倒されて・・・。
後半の展開にもがっつりと引き込まれました。
ネタバレBOX
偽悪的にラフにつくられた部分が、
一方で作り手や演じ手が、本当に緻密に作り上げた部分に
強い色を作り上げていて・・・。
悲嘆にくれるキャラクターが
本能に抗いきれない態で
でかいハンバーガーのチーズにかぶりつくだけでも
やたらに可笑しい。
モラルとなにげない煩悩のキャップが、
さらには、キャラクターのある種の貫きとともに
ぞくっとくるようなセンスと踏み込みで重ねられていきます。
役者たちの、ラフな感じを作り上げるに足りる、
極めて緻密な間の積み上げやテンションの作り方に
しっかりやられる。
舞台を支配する独特の雰囲気に
馴染んだ瞬間に
さまざまな可笑しさが幾重にもやってくる感じ。
多分人によってかなりの好き嫌いはでるのだろうけれど、
一度この味に嵌るとと病みつきになるような要素があって。
特に、終盤の女性が店を出ていこうとするシーンが秀逸で、
店から出られなくなる女性と
周りの描写には息を呑みました。
精神的な抑制の肌触りが鳥肌がぞくっとくるほどにリアルで、
キャラクターがコントロールしえないものの質感が
圧倒的な役者の演技力に支えられて伝わってくる。
可笑しい中に
ひきこもる人の踏み出せない感じや
周りの雰囲気がまさに圧巻。
ラフな印象に織り込まれた
作り手の細緻に想いを切り取る切れ味や
突き抜けたデフォルメのセンスに
瞠目しました。
満足度★★★★
たくさんの可能性
六本木エロナイトの回を拝見。
お芝居はとてもいろんな可能性をもった戯曲だと感じました。
演じ手のリズムや作りこみで、たくさんの広がりが生まれそうな感じ。
私の見た回では、
観る側の想像力を惹きだすことにはそれなりに成功していたのですが、
まだ、こなれきっていない部分も感じた。
でも、この回をはるかに凌駕するような
いろんな色が生まれてくる予感のある舞台でもありました。
ちなみに「つき」の方=音楽やダンス、ドリンク、場所、衣装なども秀逸で、
パフォーマンスとしても総合力を感じる催しでもありました。
ネタバレBOX
私が観た回の場所は元SM系のお店だったらしく
作りこまれた閉塞感と高さをもった場所。
壁面には齋藤明さんの大判の写真、
モノクロームの世界に閉じ込められたSM嬢たちの、
一人ずつにある種の時間を纏う生々しさがあって
その刹那の女性たち美しさに加えて
その感情や彼女たちがまとう感覚が
虚構と現実の端境の肌触りで伝わってきます。
・入場料880円ドリンクつき
ぐるっと回りと取り囲まれて
役者たちが物語を紡ぎ始める。
冒頭の物語の導入が、
技量を持ったパフォーマーによってなされたのはとても正解で
そのくっきりした語り口が、
空間に物語を導き入れる。
観る側と会場の空間がしなやかに一つの緊張感を持って
物語が動き出します。
役者の二人には比較的早いテンポの中に
すっとニュアンスを立ち上げる力があって、
空間をその場の色にすっと染めていく。
観る側にイメージが広がりきる前に
次のイメージが発せられるような感じが
変化していく二人のキャラクターを
観る側に追わせるリズムを創り出す。
物語自体は、不条理な部分もあって、
でも、シーンのピース単位でみると崩れがなく、
役者たちにもそれらを伝えるに足りる切れと安定した技量があって。
ただ、その切れやリズムを大切にする中で、
シーンごとの変化がやや乏しい印象。
一つのトーンの中で紡がれていく物語には
それなりの力があるのですが
戯曲としては
もっとシーンごとの落差や彩りの差があった方が
よしんば多少不安定さが生まれたとしても
観る側として伝わってくるものが多い感じがしました。
ベースのクオリティや勢いはきちんと作りこまれた舞台だったので、
もっと冒険があっても良いのかなと。
・Live
役者ふたりのトークショーのあと、R&B歌手AKITOSHIの
ライブがありました。
まだ、演劇の空気が残っている場に
世界をしっかりと作り上げる。
ノリをもちどこか少しだけけだるくて甘い雰囲気を醸しつつ
一方で夜の色香をしなやかに場の空気に織り込んで。
膨らみがしっかりと作られたLiveでありました。
・セクシーバーレスクダンサーズ Moulin Rouge パフォーマンス
バーレスクダンサーMoulin Rougeと
女優として最初に舞台を務めた2人のユニット。
ミュージカルなどでは、
比較的多用される形式のダンスだと思うのですが
こういうクローズなスペースで演じると
大きな舞台とは全く違った力を持っていることを実感。
パフォーマーが全体の空気を作り上げるのと逆のベクトルで
雰囲気がそれぞれのパフォーマーを引き立たせていく感じ。
場に一気にグルーブ感が生まれる。
肢体の魅力を強調するダンサーとしての動きのしなやかさ。
リズムに対してゆとりをもった動きとその精緻さには
観る側を前のめりにさせるような切れがあり
一方で恣意的にルーズな動きからは
それぞれのダンサーの個性をもった魅力があふれ出す。
一人ずつのダンスが醸し出すものが、
女性としての異なる美しさと粋と魅力に満ちていて、
だからこそ、そのユニゾンに、
重なりを凌駕する乗数での魔力を感じる。
会場の雰囲気までも味方につけて
たちまち観る側は虜にされて・・・。
もう、がっつりと嵌ってしまいました。
*** *** ***
ほんと、盛りだくさんの舞台に
たっぷりと満たされて。
メインディッシュのお芝居は、このユニットのレパートリーとして
今後も再演してほしいし
今回のように、日頃あまり触れることのない
表現に接する機会も
とても貴重に思えて。
また、芝居とダンスの衣裳が実に秀逸。
パフォーマンスのクオリティを支えることはもちろん、
衣裳によって表現する創意や芸術性があることを実感。
いろんな伸びしろを感じつつも
タップjり満たされたイベントでありました。
満足度★★★★★
時間の肌触りを伝える力
冒頭のひとつの感覚から
次第に広がっていく
その、真夜中の感覚に浸されて・・・。
作り手のこれまでの作品にも内包されていた精緻さが
従前にはなかった強度をもって
やってきました。
ネタバレBOX
冒頭の一つの想い、
それが線として他の想いに交わる。
繰り返しのなかで
少しずつ広がっていく感覚。
別の想いが置かれて、いくつもの感覚がさらに現れて
タイムスタンプが押されたその刹那の
俯瞰へと変わっていく。
ダンス的な豊かな感覚のニュアンスを持ったシークエンスが
舞台に生まれて
リズムが身体によって紡ぎだされ、
真夜中の、なにかが解き放たれた感覚が
舞台上に満ちていく。
その感覚をゲートウェイにして
キャラクターたちの一夜の時間軸が現れ、
次第に、3年前に尋ね人となった女性、
Kの存在が
原点の位置に置かれて
彼女との様々な距離が解けていくように
いくつもの記憶が紡がれていきます。
女性の5年前のKとの記憶、
断片的で曖昧な中にもKの感覚が浮かんでくるエピソード。
尋ね人へと変わる少し前のKとの係わり合いの記憶をいだく女性たち。
ノックの音、去っていく足音、電話・・・・。
あるいは夜の街を歩くKの兄
もしくは、Kの靴が置かれていた湖のほとりで
写真をとる男性・・・。
切り取ることができない
彼女の見ていた湖の風景の深さ。
さらには、別の家族のエピソード。
2時間後の始発を待つ女性との駅の風景。
駅舎に貼られた尋ね人のビラ、その中に兄が作ったKのビラ。
別の家族とKの重なりの質感が、
深夜の町の空気の同一性や広がりをかもし出していく。
まっすぐと尋ね人の彼女に向かうエピソードのベクトルや
そのベクトルと交差する別のエピソード。
真夜中の時間が歩みを進める中で
舞台上を進むいくつかのエピソードは
それぞれのニュアンスを貫くように交差し
町全体の時間の流れにKとの様々な距離が組み込まれて
観る側の体感的な時間をも引きずり込んでいく。
Kを原点として、
かかわりあっていくものの広がりは
もう、明けることのないような
それでも明けていくであろう
閉塞感を持った夜の肌触りや温度にたどりつく。
それでも進む真夜中の時間は
役者たちのさらなる身体の疲弊を強いて
一夜を過ごして夜明けを迎えたときの
解き放たれたような感覚にまでたどり着く。
それは、Kの記憶を消し去るように
町を出て行く女性の感覚に重なり、
Kの記憶に対する町の
繊細でかすかな
記憶の滅失のテイストにまでつながって。
終演、舞台上の役者たちだけではなく、
観ているだけの自分自身までが
空間の時間に流され、空気に運ばれて
明らかに消耗していた。
でも、そのことで感じ方がぼやけてしまったわけではなく
何かが麻痺したような感じや、
囚われた時間の重さや軽さに
自らがさらに覚醒したような感覚があって。
振り返れば
真夜中の世界に編み込まれていった
キャラクターたちのさまざまな記憶、
Kの兄の想いや、Kの兄を思う女性の気持ち、
Kにかかわった先輩や友人たち、
さらにはKと直接交わることのなかった家族の想いまでが
時間の流れに編みこまれていったにもかかわらず
個々のエピソードが質感を失うことなく
観る側にクリアに置かれている。
記憶と今の重なりや広がりが
それぞれの時間や空間の軸とともに
観る側に感覚のリアリティを育んでいて・・・。
劇団の他の作品がそうであったように
この作品も是非にもう一度見たいと思いました。
それは、なんだろ、よしんば辿りきっても
再び心に呼び戻したいと思う
人間のある種の本能にも思えて。
再びあの空間や時間を過ごす時
何が見え、感じることができるのか・・・。
週末に、がんばって再見したいと思います
満足度★★★★
少しだけ遠いけれど
会場までは、
駅からかなり距離がありましたが、
終わってみればそんなことは全く気にならず・・・。
ちょっと不思議なリアリティに溢れた空間。
刹那の雰囲気からほどけていく
アパートの住人たちそれぞれが抱くものの質感を
しっかりと感じることができました。
ネタバレBOX
昼間、野毛山動物園でイベントを見て、
地図の上ではそんなに距離がなかったので
気軽に歩き始めたら、物凄いアップダウンでびっくり。
で、少々バテながら会場につくと、
とてもよいスープの匂いにまずは心を惹かれます。
ちょっと小洒落ていて
風変わりデザイナーマンションの共用部分、
ギャラリーとしても使われたりしているそうで
高い天井も各部屋に通じる階段も、
シンプルでありながら不思議な雰囲気をかもし出していて。
開演を待つ間、二人の女性たちの会話がBGMのように流れて
聞くともなく聞いているその場の空気に観る側が浸されていく。
だから、開演後のその場の物語も
観る側の感覚との垣根を持たずに伝わってくるのです。
役者たちが作る素の表情が、
その場に馴染む。
デフォルメされているのですが、
だからこそ、しっかりとつたわってくるナチュラルさがあって、
役者達の演技、特に間の作り方に惹かれる。
シチュエーションの設定もしたたかだと思うのですよ。
通常の距離感より、少し近い隣人度どおしの関係は
観る側に刹那の空気の重なりやずれのようなものを与え、
それが、束ねられたりすっと乖離していくなかで
全くの他人どおしであれば霧散するものを
そのままある種のエッジをもった感情として
場に残していく。
気が付けば、場の空気は
彼らの日常の時間に解けて
それぞれのキャラクターが抱き、かかえるものが
観る側の印象をも染めていく。
それぞれが抱えているものがエッジを持ってみる側に
浮かび上がってくる。
その賃貸マンションや近隣に住み
パーティなどもすることや、
たとえば夫婦、ご近所の男どおしや女どおし、大家と店子・・・
いろんなベースがひとつの時間の中に編みこまれることで醸される空気、
でも、刹那の時間の流れは
単に集団の関係の肌触りにとどまらず
もっと個人の思いとしてみる側に置かれていくのです。
終盤、とても長い間があって、
時間が巻き戻され、
観客はその場をさらに俯瞰する位置にまでつれてこられる。
前半のエピソードに連なる時間が
刹那の描写を
それぞれの生きていくシーンの重なりに昇華させて。
ちょっとしたダンスのシークエンスや、
アカペラが作り出す時間も楽しく、
一方でそのアパートで過ごしつづける時間の感覚も
しっかりと伝わってきて。
終演時には
出来事の描写の先に描かれる
生きていく日々の質感のようなものに
強く浸潤されたことでした。
満足度★★★★
時代の肌触りのなかに
設定された市民劇場という場所を見せる力に役者たちの力が重なり、
とある時代の家族や社会のあり方や雰囲気が
切っ先を持ってやってくるお芝居でした。
そのテンションに引き込まれてがっつりと見てしまいました。
ネタバレBOX
入場してメインホールの客席に案内されるかと思いきや
冒頭からちょっと勝手が違っていて・・・。
でも、そのことによって、舞台となる場所を
観客としてではなく
その構造側からながめるような感覚が生まれて。
そこに、多分私のようなおっさんですらその匂いくらいしか知らない、
戦後の日本の家族や社会が大きく変革して行く時代の肌触りが
様々な寓意やデフォルメを織り交ぜて
舞台を満たしていきます。
劇場の管理人たちが担う、
どこか下世話で、小芝居に織り込んだりされるような
パターンや色をもった社会や生活の感覚。
消防所長や母親が背負う、
コンサバティブな権威や家庭の概念。
そのなかに揺れる、
記憶を失った父や子供たちの感覚も
単にステレオタイプな表現にとどまらない、
ある種の生々しさをもって描かれていく。
役者達の演技に、時代や概念を踏み越えて
活き活きした実感を立ち上げるに足りる豊かさがあって、
舞台が混沌とならず、
場のかりそめ感が上手く切り分けられ、構成されて
観る側に見晴らしを作り
場面の空気の先にある寓意が
観る側にあからさまなほどにつたわってくる。
気が付けば、
時代の様々な要素が醸し出す風情や感覚に
どこかPOPな実存感とともに囚われて、
そのなかで逃亡者たちが抗い、足掻く感覚の変遷や
やがては舞台に埋められてしまう男に作り手が委ねたものが
ふっと腑に落ちてしまうような感覚が訪れて。
多分、初演時の舞台の印象は、
もっとリアリティに富み、禍々しくもあり、
強い切っ先を持っていたとは思うのです。
でも、それは舞台のクオリティの問題ではなく、
むしろ、舞台の精度が高ければ高いほど
受け取る側の生きている時代と、作品が醸し出すものが
乖離するような構造になっていて。
でも、乖離していても、なおかつ心囚われる部分があり
それが観る側にテイストとしてしっかり残っていることに
この舞台の秀逸を感じる。
なんだろ、表層は古びていても
舞台上のテンションにも支えられて・・・。
舞台装置や美術、照明などによる作品の語り方にも
ぞくっとするような切れ味を感じて。
共感できるというのとは少し異なるのですが、
でも比較的長尺の舞台でありながら
時間を忘れてその行く先を追い求めるような感じがあって、
いくつもの場面はもちろんのこと、
作品全体としても面白かったです。
満足度★★★★★
洗練された喜劇の醍醐味
15minutes madeの時にも、惹かれた劇団でしたが、
今回その真の実力見せつけられました。
設定の上手さに加えて、喜劇の矜持を生かした作劇に
きっちりと閉じ込められて。
やられました。
ネタバレBOX
冒頭のタクシー運転手のキャラクターの作りこみ、
さらにはそれに付き合う客が感じるウザさから
こんな物語の展開になるとは想像もしなかった。
そこにもう一人の女性が加わって、
二人の素性が次第に明るみになるなかで
メインディッシュが姿を現わします。
二人の作家が、車内でとある俳優の死を惜しんで綴っていく
架空のドラマ。
タクシー内の空気がうまくコントロールされて、
戯れに物語を綴る質感が舞台に置かれ、
そこから、3人が嵌り込み
一場面ずつが組み上がっていく感じにもすいっと引きこまれていく。
作家が互いに抱く感情や、
作劇に対してある意味インセントな運転手のアイデアの可笑しさ。
それらによって色を変えていく
劇中劇自体の膨らみや可笑しさが
舞台の厚みを着実に作り上げていきます。
その世界と、ドラマを綴る3人の織り上がり方に
抜群のセンスがあって、
気が付けば、観る側も、
基本的に椅子4脚だけで綴られるドラマの視聴者として
その展開を見つめている。
一方で、物語の外枠である、タクシー内の密度や高揚感のようなものにも
心奪われていて・・・。
運転手によるドラマのキャラクターの
名前付けの可笑しさなどから、
しっかりとプロの二人の手腕が浮かび上がる。
二人の作家の作風の違いや
一方でプロの作家の作劇の矜持のようなものも
きっちりとドラマの密度や広がりを作って行きます。
ドラマの中のキャラクターたちの個性が
揺らぎながらもその場での実存感を醸し出していて
ドラマの展開が、ある種のグルーブ感にまで至る。
劇中劇の主人公やその同僚、あるいは上司にも
表層のデフォルメとは別の
しっかりとナチュラルな匂いというか実存感が残されていて。
それは受付の二人にしても同じこと。
それぞれの個性や内なる距離感までがきっちりと描かれていく。
キャビンアテンダントや旅館の仲居さんにしても
次第にキャラクターが広がっていく感じが
そのままドラマの雰囲気への繋がっていて。
部長の奥さんの醸し出す家庭のリアリティを持った肌触り。
恋人役的な同僚の女性のイノセントさの貫きなども圧巻。
単にシチュエーションに物語をプリントした生地の風合いではなく
ペルシャ絨毯のことく、
タクシーの会話と劇中劇が織り上げられて生まれた肌触りがあって。
タクシーの中とドラマでのそれぞれの伏線の回収も
時にはクロスオーバーして
しなやかに
なおかつ観る側を捉えるに足りる踏み込みがある。
それらを演じる役者たちのお芝居にも抜群の安定感。
なおかつ、キャラクターの色を保ちつつ
舞台の色の変化を無理なく創り出していく
切れと懐の深さのようなものがあって。
だから、舞台の厚みがベタつきや重さにならず
観る側にもたれない。
たとえば、終盤に、
作り手の想いを込めたシーンのなかで
主人公が相手の名前を呼ぶと
運転手によっていい加減に付けられた同姓のキャラクターが
またぞろ現れてしまうくだりなど
単品では思いっきりベタなギャグなのですが、
それを生かして大きな笑いにつなげる作りこみがこの舞台にはある。
ラストシーンも秀逸。
作家が降りるときの
タクシーのびっくりするような料金に、
観る側がどれだけその舞台にはまっていたのかも
さりげなく提示されて・・・。
なんだろ、歳がばれますが
昔々、ブレイク途上の東京サンシャインボーイズの
舞台に接した時のような満たされ感があって、
ああ、良いものを観たなぁと思う。
私が観た回は若干観客が少なかったですけれど、
この劇団には、頑張って東京公演を続けてほしい。
よしんば東京であっても、
もっと大きな箱で観客をいっぱいにする実力を
もった団体だと思います。
満足度★★★★
その場所に物語を置くちから
昭和の匂いを感じさせるような
おそらくは商家を改造したスペース。
三和土があって畳の奥間があって・・・。
そして2本の作品には
その雰囲気を良い意味でとりこんで
観る側に作品のふくらみとして残すだけの力がありました。
ネタバレBOX
・てがみ
すっと舞台が立ちあがる。
開演待ちの観客たちが醸していた空気をそのままに残して、
舞台となる空間の時間が流れ始める。
強いメリハリがあるわけでもなく
淡々と流れる時間。
でも、紋切り型の演劇の空間でないことで
空気の揺らぎのようなものが観る側にも伝わってきます。
なんだろ、過去から今を見つめる感覚と
今思う過去の記憶が交差するような感じがあって
でも、それらの感覚は
あからさまに語られるのではなく、
役者たちが醸し出す揺らぎや空気の差異として
観る側に伝わってくる。
観終わった後に、
よい意味で不思議な感覚の残る作品でした。
・奥村さんのお茄子
劇団員3人のうちのひとりが
それぞれに男優とともに演じる二人芝居。
私はAバージョンを拝見。
こちらも、ちょっと変わったテイストの二人芝居で、
妻の出産の知らせを待つ男のところに
女性が訪ねてくる。
宇宙人みたいなものらしい。
人間には似せているものの
細部の作りはいい加減で
靴が体の一部として作りこまれているらしく
新聞紙で足を靴ごと包んで座敷にあがったり・・・。
物語はある意味、奇想天外だったりもするのです。
でも、15年前のとある日のお昼の食事を思い出してくれという
宇宙人の無茶な要求から
人が何気に過ごしている時間の感覚や重さのようなものが
浮かび上がってきて。
会場の雰囲気が作るありふれた日々の質感と
宇宙人の無茶の狭間から、
無意識に過ごす日々の積み重なっている姿が
観る側に柔らかく鮮やかに伝わってくる。
物語のウィットや、役者の組み合わせが醸し出す
どこかアンマッチな(褒め言葉)テイストにも惹き寄せられ
一方で、単に面白かったというのとは一味違う感慨も残って。
観終わって、
結構シュールな部分を持った作品だったにもかかわらず、
心に余分なテンションが残らず
物語を受け取った心地の良さと
時間の感覚に対するすっと開けたような感触が残って。
そのあたりも
作り手の力なのだと思う。
「・・・茄子」については、他のバージョンのテイストはきっと違うと思うのですよ。
他のバージョンの出演者たちも、
よい役者たちであることを知っているだけに
観に行けないことが
この上もなく残念に思えたことでした。
満足度★★★★★
被ることなくかみあう個性
見ていて、なぜにここまでと思うくらい面白くて惹かれました。
ネタバレBOX
それほど複雑な物語構成でもなく、
ドラスティックな展開があるわけでもない。
ただ、設定自体に
現実離れしたものがあって、
それが自由にキャラクターたちの個性を解
き放っていきます。
役者たちがうまくキャラクターにのっているかんじ。
キャラクターと演じ手の味がそれぞれに表裏一体となって
場の雰囲気を編み込んでいく。
多分にコメディテイストなのに
観る側が、どこか距離を持たずに馴染んでしまうような魅力が
場の雰囲気にあって・・・。
そのなかで、どのキャラクターにも舞台上での居場所が担保され
それぞれが被ることをなく、
むしろ、他のキャラクターの細部を照らすような力があって。
父親の雰囲気、母親の強さ、娘の想い・・・、
そこには、ちょっとレトロな家庭の雰囲気があって、
彼らを取り巻く従業員や、出入りする人々にも
よしんばそれが手であっても、
場を満たすニュアンスが作られている。
しかも、役者のお芝居に切れがあるので
笑いがちゃんとエッジをもってやってくる
仕掛けがあったり、ライトの圧倒があったりと
メリハリが強い舞台ではあるのですが、
役者がそれに負けていない。
物語が奇想天外な方に流れても
観る側から乖離しない。
どんなベクトルであっても
そこには観る側が舞台にゆだねられるような
わくわくの安定感があって。
で、後味もよいのですよ。
ただ、笑ったとか感動したとかいうのではなく、
心がすっと透き通って満たされるような感じまでが醸されて。
総合力の舞台なのだろうなとは思うのです。
いろんな魅力を感じつつ、
それらが突出することなく
観る側を満たしていく感じが時間を忘れさせる・・・。
出色の舞台だったし、
作り手はもちろんのこと、役者たちの次の舞台を観たくなるような・・・。
本当に面白かったです。