うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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『エンジェル・フォール騎士 ANGEL FALL KNIGHT』

『エンジェル・フォール騎士 ANGEL FALL KNIGHT』

無頼組合

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2017/01/27 (金) ~ 2017/01/30 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/01/27 (金)

久しぶりに観た風吹淳平は円熟味を増してますますいいキャラになってた。
定番の楽しみ、おなじみのキャラの安定感、それに今回は悪役が光った。
音野暁さんの冒頭の衝撃的な姿も楽しかったが、中盤からの存在感に圧倒された。
活劇の楽しさ満載、それにみんなあんなに歌が上手かったの!?とびっくり。
次回に続くような終わり方がまたニクい。
初日の硬さ故か、肝心なところで噛んだり台詞がかぶったりしたのがちょっと残念。


ネタバレBOX

「探偵小説さながら、喪服の女が依頼人としてやってくるような事件」を待っている
私立探偵・風吹淳平の事務所を、まさに喪服の女が訪れて事件は始まる。
クリーンなイメージで当選した女性市長の秘書だった堅物の男が
愛人と飛び降り心中というニュースが毎日報道されていたが、彼女はその妻だった。
夫の無実を晴らしてほしいというその依頼に調査を始めてまもなく
彼はひとりの男にぶち当たる。
それは風吹自身の過去にまつわる男だった…。

サウスベイシティという、金と欲にまみれた街で起こる事件。
クリーンな政治家の理想と無力感が良く伝わる展開で、
ハッピーエンドにならないところもかなりシビアなストーリーだった。
社会のリアルなダークさを描きながら暗くならないのは
からりとした風吹淳平のキャラクターと所々に差し込まれる笑いのおかげだ。
“時が止まって歌が始まる”という力技もそのひとつ。
B級活劇らしい荒唐無稽さと、理不尽な巨悪の実像がうまくミックスして
大変楽しいエンタメ作品になっている。

今回は風吹淳平の過去が改めて紹介され、私は初めて彼の前歴を知った。
そうだったのかぁ、という感慨で、改めて現在の彼を理解できたように思う。

人気シリーズには、優れた悪役が必要で
今回は特に音野暁さん(ロデオ★座★ヘヴン)がとても良かった。
冒頭の女装・歌・ダンスというこれまで観たことのない音野さんを見て
びっくりしたり感心したりしたが、中盤から悪役を生き生きと演じて見せた。
この方は目立たない市井に埋もれるような役も上手いが
冷静でありながら時に狂気を孕んだ一面を見せる役が素晴らしかった。
台詞の間とテンポがセンスのよさを感じさせる。

社会悪の犠牲となった桐山を演じた黒木尚典さん、“負け犬の矜持”とも言うべき
強い信念が伝わる熱演だった。
再会した淳平と実に楽しそうに拳を合わせる場面が印象的。
宿敵・泊役の滝澤信さん、銀髪が美しく細いあごに良く似合って敵役として完璧。
こういう魅力的な悪役がストーリーを面白くする。
クールさに加えもっとアクの強さが出ると、さらに強烈な印象を残すと思う。

次の12月公演を最後に終了するという「騎士(ナイト)シリーズ」。
シラカワさんの“ひときわ高く上がる長い脚”が生かされるような
新シリーズを期待したい。
カミサマの恋

カミサマの恋

ことのはbox

シアター風姿花伝(東京都)

2017/01/18 (水) ~ 2017/01/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/01/22 (日)

若干無理くりな感じはあるものの脚本が素晴らしい。
「カミサマ」とはつまり人の「苦」を知る者なのだろう。
「苦」を知って初めて言えることばがあるということを、道子は教えてくれる。
それを伝えることの大切さも。

ネタバレBOX

上手床の間のようなスペースに掛け軸、祭壇のような段々に白い布、太鼓。
下手にはソファと椅子、テーブルがあって客はまずここで相談事をする。
そして「カミサマ」にきいてみましょう、と祭壇の前へ移る。

「カミサマ」道子のところには引きこもりの息子のこと、嫁姑のことなど
様々な悩み事が持ち込まれる。
道子はそれを聞いて太鼓を叩いて神様にお尋ねし、神の言葉を伝える。
人々は神様のことばを素直に聞いて実行する。
ある日突然何年かぶりで道子の息子銀次郎が帰って来た。
道子自身の辛い過去がよみがえってくる…。

さすがに津軽弁は渡辺源四郎商店には敵わないが、努力の跡が感じられる。
太鼓を叩きながら歌うような神様へのお尋ねもユーモラスで、思わず笑ってしまう。
人生は“人の価値観を受容することの連続”だということが良く解る。
それが出来ずに悩み、衝突し、決裂するのだ。
人の価値観に耳を貸さない人々が、「カミサマ」道子のことばなら素直に聞く。
道子の「まず人の話を聴く」姿勢が秀逸で、固い表情がほぐれていく様が自然。
道子役木村望子さんのおばあさんぶりが素晴らしく、疲労感までが伝わって来た。

元引きこもりの青年が、修行中の由紀に友人の信一をよろしくと頼む場面。
引きこもりで学校へ行かなかった自分に、クラスの様子や行事のことを
返信が無くてもメールし続けた信一への感謝の気持ちがあふれていて
淡々とした台詞にボロ泣きした。
もしかしたら終盤の盛り上がりのシーンよりも、客席が泣いたかもしれない。
脚本の巧さと、役者の真摯な姿勢が見事に合致した場面だったと思う。

畑澤氏の教育者としてのものの見方が私は好きだ。
説教臭さを感じないでもないが、ユーモアと人の心への深い洞察力で
その普遍性に納得してしまう。
孤独な道子が人々に適切な助言をすることにより信頼を得て
だからまた人が集まってくる、という循環が温かくほっとする。
すべての人に先入観なしでまっすぐ向き合う道子の姿に、私も救われる思いがした。
メロン農家の罠

メロン農家の罠

桃尻犬

OFF OFFシアター(東京都)

2017/01/12 (木) ~ 2017/01/18 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/01/12 (木)

夢も現実も失敗も、怒涛の台詞でぶつけ合うのが心地よいのは
次第に露わになる“本音”が清々しいから。
ここまで言うから、あのラストかぁ!と妙に納得。
役者がキャラに上手くはまって大変楽しかった。
お兄ちゃんもお姉ちゃんも、アマンダもいいセン行ってる。
台詞と演出の一体感が素晴らしい。

ネタバレBOX

上手はメロン農家の居間、下手に突き出た雑然としたスペース、
ここがCDショップの事務所やら、車の中やらに変化する。
もう10年も毎年メロンを盗まれる農家、今年こそはと罠を仕掛けたりしている。
現在10歳の妹が生まれてすぐに母は家を出て、その後父が亡くなり
家を守るのは独身の兄と、結婚に踏み切れない姉。
万引きなんかするような妹を心配しながら暮らしている。
そこへ姉に結婚を迫る男や、元ホスト、中国人研修生、風俗店経営者らが関って
怒涛のラストへと突入していく…。

人の好い兄(森崎健吾)のキャラがリアルで切ない。
妹の幸せを願い、みんなの幸せを願い、自分も幸せになりたいと願う。
そんな素朴なキャラがぴったりの風貌で実直な兄を熱演、惹き込まれた。

次第にエスカレートしていく姉(嶋谷佳恵)の言動も説得力がある。
登場した時は曖昧な返事をしながら意思表示の弱い人物像だったが
少しずつ不満を募らせて最後は大爆発、聴いていてスカッとした。

兄と妹が“本音トーク”でバトる演出が面白かった。
CDショップの夫婦が柔らかな関西弁で話すのも心地よい。
この脚本家は聴いても話しても生理的に心地よい台詞を繰り出す人だ。
相手を攻撃し罵倒する時でさえ、カタルシスを覚える。

下ネタや差別ネタは好みが別れるところだろうが
それも本音のひとつで、実はみんなが何かしら抱えていることだ。
最後、妹の暴挙が若干飛躍しすぎのような気がした。
ここまでのリアルな手触りが一気に漫画的になったようでちょっと残念。

初めて観た桃尻犬、面白い劇団だなあ。
隙の無い役者陣もキャラにはまって、生き生きと台詞を繰り出している。
台詞とテンポ、リズムが私的にはどストライク。
台詞と演出の一体感が素晴らしく、次の作品が楽しみになった。

コーラないんですけど

コーラないんですけど

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2016/12/30 (金) ~ 2017/01/02 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2016/12/30 (金)

三上晴佳さんと工藤良平さんにあて書きしたというだけあってドンピシャのキャラ。
少し歪んだ“日本の母子”が、“世界の現実”の濁流にのまれて行くさまが描かれる。
「この子の代わりに私が戦地へ…!」という愚かな母親がリアル。
それにしても音喜多咲子さん、3月に卒業式かってほどランドセル似合い過ぎ!

ネタバレBOX

母親が過剰な期待で次々と習い事をさせた結果、
ひとり息子はネットでゲームするだけの引きこもりになる。
何でもいいから仕事してほしい母親が持ってきた話は、
紛争地へ物資を運ぶという名目ながら実は戦闘員だった。
母子は厳しい現実を前にして、初めて引き離される。
そして数年後…。

母子の過去のやり取りが、役を入れ替えて演じられるのが面白い。
三上晴佳さんが幼い息子を、工藤良平さんが若い日の母親を演じる。
母子が互いに無邪気だった時代が描かれ、その行きついた先がこれか、と思わせる。
三上さんの子どもが絶品。
単に子どもの口調を真似るだけでなく、思考の幼さを表して巧み。

母親は常に傍にいるもの、そして拒絶するもの、と決めている引きこもり息子が
初めて社会に放り出されたらそこは紛争地域だった、というギャップの大きさ。
工藤良平さん演じる若い母親に深い思慮は無く、ただ愛情表現が
子どもの才能に期待して習い事をさせることに集中しているというアンバランス。
そして武器を携帯した男が普通にコンビニで買い物する近未来の日本、という設定。
すべては声高な変化ではなく、“日常の延長線上に存在する”ところが怖ろしい。

物流だけだと信じるノーテンキな日本は、やがて武器を持たされて
“やられる前にやらなければ殺される”状況に飲み込まれるだろう。
帰国した息子が目にした母親は、もう自分を息子だと認識すらできない。
老いた母親にかける言葉もない、息子の眼差しが本当に切ない。
近いうちにコーラやゲームなど人気商品は戦地でしか買えない、という
笑えない社会が現実になるかもしれないと思わせる。
作者の危機感がひしひしと伝わってくる作品。
ミカエル

ミカエル

MCR

駅前劇場(東京都)

2016/12/09 (金) ~ 2016/12/13 (火)公演終了

満足度★★★★

ガス爆発
主演の川島潤哉さんの演技に、観ている私も騙された。
こうまでしないと相手の気持ちは判らないということか。
そして判っても、それが幸せをもたらすわけではないということか。
櫻井さんの”個人の超身勝手な理屈に普遍性を見い出す”視点が素晴らしい。
主人公を取り巻くキャラの立ったユニークな人々が楽しい。
客入れ時から劇中まで、BGMが好き、3ブロックに分けた空間の使い方が上手い。
そして罵詈雑言は相変わらず“愛の証”。

ネタバレBOX

横長の舞台は3つに分割され、上手は友人の家、中央は喫茶店、下手はボロい部屋。
川島(川島潤哉)はマンションのガス爆発により記憶喪失となった。
妻の道子(外村道子)は、昔の楽しい思い出が残る部屋で暮らせば
記憶が戻るのではないかと考えて、懐かしのボロアパートに引っ越してくる。
ある日、町の喫茶店に入った川島は店の従業員飛鳥(後藤飛鳥)からひどく罵倒される。
記憶を失う前の川島は、いったいどんな男だったのか、そして飛鳥に何をしたのか…?

妻の前では理想のサラリーマンを演じ、飛鳥の前では奔放な自分をさらけ出す。
結果妻からは物足りなく思われ、飛鳥からは振り回されただけと言われてしまう。
求められる自分と本当の自分、使い分けは当人だけでなく相手をも疲弊させる。
そんな現代人の処世術を皮肉に眺める視線が鋭い。
周囲はただ面白がって情報収集するだけで、その心に寄り添うことはしない。

彼の記憶喪失が本物かどうかが、最後に明かされる構成なので
過去の再現シーンが無いことが物足りなさの理由かな。
だが再現シーンで男の二面性を鮮やかに見せるのも良い気がするけれど、
あくまで“川島自身”に添うかたちだったのも、それはそれでリアルな経過だった。

喫茶店のマスター(澤唯)が絶妙の立ち位置。
ダイナマイトボディ(古っ!)の伊達香苗さん、インパクト大!

ラスト、妻と愛人の対峙に思わず泣きそうになった。
一人の男の、全く違う面を愛した女二人が、傷つきながらもそれぞれを思いやる、
“会話しない会話”の妙が素晴らしかった。
これがあるから櫻井さんの罵詈雑言はやめられない。



「ヴルルの島 」

「ヴルルの島 」

おぼんろ

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2016/11/30 (水) ~ 2016/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

2回目の参加
前回とは反対側の席から観る。
ストーリーが判ったところで、今回は一人ひとりの台詞と声に集中して観たかった。
わかっているのにやっぱり泣けちゃうんだよなぁ。
それと今作品のビジュアルの美しさは必見。
一人ひとりの衣装やかつらなどがぴったりハマって、作品の世界観を見事に表現している。
創意工夫でしのいできた時代も素晴らしいが、このセンスと美しさも素晴らしい。


ネタバレBOX

おぼんろの魅力のひとつは、5人の役者さんがみな自立していることだと思う。
脚本の末原さんが生み出したイメージに対して、他の4人は与えられたキャラを
自分で構築していく、掘り下げていく、立ち上がらせ動かしていく。
演出は、その5本の糸を縒り合わせてひとつの世界を創り出す作業だ。
その結果がこの舞台であり、骨太なメッセージになる。

トリツキ(わかばやしめぐみ)がシオコショウ(さひがしジュンペイ)に言う、
「私はあなたがいないと生きていけないけど、あなたはそうじゃない、お勤めご苦労様」
という台詞には、「死んだお前の兄貴に、トリツキは俺が守ると約束したんだ」という
男に対する“寂しい抗議”のような女心がにじんでいる。
シオコショウもまた、“大切なものを奪われる恐怖”を知ったと告白する場面で
男の心情と弱さをストレートにさらけ出す。
こういうところに微妙な大人の味わいがあってとても好きだ。

ホシガリ(末原拓馬)とジャジャ(高橋倫平)の、次第に距離が縮まって行くあたりが良い。
ジャジャが語る島の歴史に、「しんどいな」というホシガリのぶっきらぼうな共感が
言葉少ないだけに深く伝わってくる。

アゲタガリ(藤井としもり)の台詞の一定の音程、鼻歌さえも計算された音程で
ロボットっぽく機械的でありながら台詞の絶妙な間が秀逸。
終盤「タスケテアゲル」と船を下りるアゲタガリに、ホシガリが大切な笛を渡したとき
「モラッテアゲル」と応じる台詞に万感の思いがこもると感じた人は多いと思う。
ボロ泣きさせる素晴らしい間のひとつだった。
アゲタガリ、どこかデヴィッド・ボウイを思わせるビジュアルが素敵。

どんな芝居も好みは分かれるものだが、おぼんろは唯一無二のスタイルを確立した。
次は“路上精神”と“劇団運営”の折り合いのつけ方だろう。
そこをどんな風に見せてくれるのか、主催の才能とセンスを信じて期待している。
この先メンバー5人が全身全霊で表現するものを見逃がしたくない。
「ヴルルの島 」

「ヴルルの島 」

おぼんろ

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2016/11/30 (水) ~ 2016/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

ロボットに笑いロボットに泣く
大変完成度の高い作品。ビジュアルと音楽の美しさ、陰影のあるキャラ、
ドラマチックなストーリー展開と、全てがそろった素晴らしいエンターテイメント。
ポンコツロボット「アゲタガリ」のキャラはとしもりさんの新たな当たり役だと思う。
無表情と少ない台詞でボロ泣きさせる、“ズルい”キャラだ。
別サイドからもう一度観たいと思わせる空間の使い方も秀逸。

ネタバレBOX

中央には小高いスペース、そこから四方に伸びる通路、
通路の先にもまた高さのあるアクティングスペースが設けられている。
いつもより少し広めのスペースで客席もゆったりしている。
役者が駆け抜ける風を感じながらの観劇が心地よい。

美しい世界にゴミは相応しくないと、人々はゴミ捨て場を探し
見つけた場所がヴルルの島だった。
原住民を殺戮して島を征服、そこにあらゆるゴミを船で運んで棄てるようになった。
その船に、追われる盗人ホシガリ(末原拓馬)が逃げ込む。
船はそのままヴルルの島へ到着、ホシガリはそこで奇妙な仲間たちと出会うことになる。
しかし彼らもまた哀しい歴史を背負い、復讐の炎は消えていなかった。
彼らの本心は、そしてホシガリの意外な出自が明らかになる…。

現実の世界を映すような“美しい世界とゴミの島”という設定がまず説得力ありまくり。
見たくない物は見えなくすればいい、欲しい物は奪ってやる、という現代人のエゴと
力で制圧され、幸せを奪われる弱者の心が見事なコントラストを見せる。
ホシガリの、奪っても奪っても「これは俺の欲しい物じゃない」という虚しさがあり、
生き残った原住民ジャジャの、復讐に燃えながらも
島の外の世界を見たいという素朴な欲求があって
みな矛盾と葛藤の中で生きていることをうかがわせる。

島の怪物“壊れかけの軍用ロボット”のキャラが素晴らしい。
藤井としもりさん演じるこのロボットは、「コレアゲル」とゴミのようなものをあげたがる。
スターウォーズに出てくるロボットみたいだが、寡黙で大事なことしか言わない。
素のとしもりさんを想像させて、どこか愛らしく、不器用な鼻歌は絶品。
彼の最期が、ターミネーターのシュワちゃんばりに自己犠牲を厭わず、
淡々と島に残る選択をするところにボロ泣きさせられた。
機械であるはずのアゲタガリが、完全にヒトと化している。
あれでラスト、もう一度あの鼻歌が流れたりしたら
泣いちゃって立ち上がれなかったと思う。
無表情なロボットのブレないキャラが、実はこの物語の中心だった気がする。

さひがしジュンペイさん演じる、元はヴルルの島を攻略した軍人で、
今はゴミを運ぶ船の船長が渋くて疲労感あり、でとても良かった。
初めて大切なものを失う恐怖に駆られるところ、ダークな顔でありながら
実はピュアな心を隠しているというキャラがぴったりでとても良かった。
メンバー5人が並んだ写真のビジュアルが素敵で、
この人の今後の役どころに期待が高まる。

わかばやしめぐみさんは、精霊(?)に憑りつかれる女と、憑りつく側の精霊の二役、
メリハリある台詞で演じ分けが見事。
全身真っ白な衣装も美しく、この点は予算が増えて楽しくなったなあ。
「トナカイ」と「仲居」には爆笑したが、こういうところにもめぐみさんのすごさが現れる。

高橋倫平さん演じる原住民のジャジャ、今回もまた普通の話し方が出来ない役で(笑)
大変だったとは思うけれど、衣装も可愛くて大好き。
相変わらず身体能力の高さをちらりと見せて、謎めいた存在の効果絶大。
復讐を貫くことが出来ない代わりに、仲間を得て新しい世界へ踏み出す、
でもその前にストレートに号泣するジャジャには感情移入せずにいられない。

末原拓馬さん演じる盗人「ホシガリ」は、稼業のわりに育ちの良さが出ていて
素の拓馬さんを彷彿とさせるキャラが面白い。
今回の作品には、身勝手な現代人の価値観に対する痛烈な批判と同時に
奪う側と奪われる側、双方の矛盾と葛藤が描かれている。
ファンタジーに人間の本質を潜ませる、この素晴らしいスタイルを、
これからもあっと驚く設定で見せて欲しいし、魅せてくれるものと期待している。

4人が島を脱出して無事帰れるといいなあ。
そして「アゲタガリ」がいつかどこかに流れ着いて、ガチャリと動き出さないかなあ、
とずっと思っている。




酔いどれシューベルト

酔いどれシューベルト

劇団東京イボンヌ

ムーブ町屋・ムーブホール(東京都)

2016/11/15 (火) ~ 2016/11/18 (金)公演終了

満足度★★★★

悪魔の名曲
曲作りに悩むシューベルトが悪魔と取引して、寿命と引き換えに
美しい曲を作ってもらう、という設定が良い。
芝居と歌のバランスもよく、エンタメとして大変楽しめた。
前半のぎこちなさ、特にコメディタッチの部分がやや無理くりな感じでもったいない。
悪魔が登場してからは、その台詞とキャラの魅力でグッと舞台が締まって面白くなった。

ネタバレBOX

舞台上段は小ぢんまりしたオーケストラとピアノ。
下段は町の酒場が設えてある。
思うように曲が作れないシューベルトは、1曲でも出版社が買ってくれたら
幼馴染にプロポーズしようと夢見ているが、思うようにいかず飲んだくれている。
そこへ悪魔がやって来て「寿命と引き換えに美しい曲を作ってやる」と囁く。
1曲に寿命1か月を差し出す、という条件で、彼は600曲の歌曲を始め
多くの曲を世に送り出し、成功を収める。
ところが幼馴染は、金のために好きでもない男のところへ嫁ぎ、
シューベルトは彼女を恨んで生きることを決意する。
やがてシューベルトの寿命があと1か月となったとき
彼の望みが叶えられて、幼馴染と再会する…。

シューベルトの幼馴染役の方、のどを痛めたか風邪か、苦しそうな声だったのが残念。
でも静謐なエンディングはとても良かったと思う。

前半が固く、台詞の応酬にぎこちなさが見られたのが、
せっかくのコメディが客席を巻き込めなかった理由だろうか。
役者陣は皆熱演なのに惜しい感じだった。
それがガラッと変わったのが、悪魔の登場シーン。
悪魔の台詞回しにキャラが乗って大変面白く、一気に惹き込まれた。
悪魔が曲を作る辺りから、挿入される歌とエピソードがリンクして舞台が濃密になった。
私は歌に関して素人だから専門的な事は判らないが、魔王の歌には豊かな表現力と
“悪の道の艶”があって、ドラマチックな展開に相応しい華を感じた。

“悪魔と取引した”と告白するシューベルトに、幼馴染が告げる台詞に説得力があった。
「悪魔が作ったのではない、悪魔も天使もあなたの心の中にいる」
その言葉に、音楽家としてのシューベルトはどれほど救われたことだろう。
“作曲家として認められたいがために、作曲家としての魂を売った”ことに
死ぬほど苦しんだに違いない彼が、最期にそれを聞いて安堵の眠りにつくシーン、
思わず涙がこぼれるラストだった。

私は初演を観ていないが、ストーリーが音楽家の本質を突いていて
とても深く、面白かった。
主人公のキャラ設定がもう少し繊細だったら、
時折大声を出すだけでなく、台詞で表現されていたら、
いしだ壱成さんの個性がさらに際立ったように思う。




月が大きく見えた日

月が大きく見えた日

The Stone Age ブライアント

サンモールスタジオ(東京都)

2016/11/08 (火) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

”逃げたい”本音
“逃げたい”人間の本音を鋭く突いて、観ている側にも緊張感が伝わってくる。
リアルな台詞の応酬に、同時進行で一緒に追いつめられて行く感じ。
これまでとちょっと違った役どころの常連役者陣も新鮮でとても良かった。
澤原剛生さんの“これって素なの?”と思うほどの挙動不審ぶりが自然で素晴らしい。
痛々しいほど純粋な青年の存在が、作品の中で問題提起を体現している。
同時に、シリアスな中に巧みに笑いを差し込んでくる間の良さも秀逸。

ネタバレBOX

舞台は古い団地の一室、正面にベランダと手すりが見える。
その向こうに空が広がっている。
中学教師の稲葉は、かつての自分と同じ天文少年の教え子から慕われていた。
ところがその教え子が飛び降り自殺してしまう、それも稲葉の部屋から…。
自分と同じ教師だった母が亡くなり、稲葉は母親の住んでいた団地に
逃げるように引っ越してくる。
亡くなった母の教え子や、自殺した少年の母親、付き合っている同僚の教師など
様々な人々が訪れるうち、次第に真実が明らかになってくる…。

長年貼ってあった紙の跡が残る壁など、団地の一室がリアルに再現された舞台。
特に舞台正面に広がるベランダと手すり、その向こうに広がる空が強い印象を残す。
照明によって空の色が変わり、時間の経過が見える。

希望する天文学部のある学校へ進学するために、この中学に入った少年は
いじめの事実を母親に知らせてくれるなと教師に口止めをする。
相談された教師も、目的を持った彼ならいじめに屈することなく頑張れると期待した。
効果的な助言もできない自分、その自分と天文学の話をすることがすべての少年、
稲葉がそれらに向き合うことが重くて怖くて逃げていた結果、最悪の結末を迎えたのだ。

稲葉役の末廣和也さん、「俺のしたことはそんなに悪い事ですか?」という
この期に及んでまだそんなこと言ってる教師像が超リアル。

亡き母の教え子でやはり飛び降り自殺を図ったという鰯駿介
(イワシとう名字がすごい!)を演じた澤原剛生さん、
その言葉にならない不安と緊張を見事に表現している。
彼の生き方そのもののような、挙動不審と情緒不安定ぶりから
怪しさを超えたピュアな心がビシビシ伝わってきて切なさでいっぱいになる。

唯一信頼し相談していた教師が約束の日に留守をしたために、
息子は絶望して自殺したのだと、教師を責める母親の狂気が本当に怖かった。
演じる仁瓶あすかさんの“あたしも人のせいにしたい”という台詞に実感があって
稲葉が「殺される」と感じるのがよくわかるような、
緊張感と憎悪の表現が素晴らしい。

稲葉の恋人である同僚教師役の徳永梓さん、稲葉よりも責任感が強く、
自責の念から教師を辞める潔癖さがよく表れていた。
可憐な容姿もとても素敵。

彼らの間に入る学校の教頭先生(でしたっけ?)を演じたアフリカン寺越さん、
いつもの熱血漢とは違って、上手く責任を回避して自分の立場を全うする、
世渡り上手な先生が上手い。
メリハリのある台詞のうち、力の抜けた台詞に要領の良さが出ていて良かった。

解決策の見出せない問題に、敢えて向き合おうとする作者に拍手。
天文学という浮世離れした趣味といい、ミステリアスなスーパームーンといい
実に効果的なアイテムだった。









パール食堂のマリア

パール食堂のマリア

青☆組

吉祥寺シアター(東京都)

2016/11/01 (火) ~ 2016/11/07 (月)公演終了

満足度★★★★★

孤独だがひとりぽっちではない
会場に足を踏み入れた途端目に入る美しい町。
階段による高さと奥行きのおかげで、群像劇に相応しいスペースが
いくつも用意されている。
皆死んだ者たちを想いながら生きている。
その苦悩と切なさが、他者への優しさにつながっていく。
緊張感と癒しの相乗作用で、どうしようもなく涙があふれた。


ネタバレBOX

昭和47年の横浜を舞台に、戦後28年経ってもその傷跡を引きずりながら
ささやかに生きる人々を描く群像劇。
野良猫の“ナナシ”(大西玲子)が時折狂言回し的役割を演じる。

パール食堂を切り盛りする父と長女、教師の次女、店で働く若いコック。
その向かいにはゲイの店主が営むバーがある。
教師の次女のクラスには、彼女を慕う少年、その母は美容院の経営が苦しくて
パール食堂のツケがたまっている。
食堂に出入りするストリップ小屋の経営者は、浮気を繰り返しては
看板踊り子をブチ切れさせている。
そして夕暮れに現れる、街娼でありながら「女王陛下」とも呼ばれる不思議な女。
丘の上にはたくさんの白い十字架があって、アメリカ兵とのあいのこが眠っている…。

誰もがうまくいかない人生を、それでも精一杯生きて、同時に誰かを守ろうとしている。
オカマバーの店主クレモンティーヌ(塚越健一)が、
死んだ野良猫の名前をいくつも挙げるが
ひょっとしてあれは丘に眠るあいのこの名前ではなかったか。
たぶん名前も与えられずに葬られただろうからそんなはずはないのに、
彼の名前を呼ぶ声には、喪った者への痛切な思いがこもっていた。
クレモンティーヌの示唆に富んだ言葉は少年を成長させ、観る者を癒す。

渋谷はるかさんが、街娼のほかいくつかの母親役を演じている。
どの母親も、子どもを守ろうとして守り切れなかった悲哀に満ちている。
街を彷徨う街娼は、全ての母親の悔いを引きずりながら、しずしずと歩く。

若いコックが、年上の長女と一緒にこの店を継ぎたいと決意を告げるところ、
クレモンティーヌが、故郷の母親と一緒に作ったみかんを送ってくるところ、
そして病癒えた看板踊り子が、新入りの少女と一緒に
これからは中華そば屋でもやろうかと言うところ、
それぞれのここに至るまでを知れば、よかったなあと思うと同時に
涙があふれてどうしようもない。
みんな孤独を抱えているが、誰もがひとりぽっちでなくて良かったと
心からほっとした。
その中で、街娼だけが気掛かりでならないけれど…。

どの町にも、どの家にも、きっとマリアはいる。
涙を拭いて笑顔を見せて、誰かのためにご飯を作り、お茶を淹れて、
送り出し迎え入れる。
「枯れた芙蓉の花もいつかまた花を咲かせる」ように、くり返しくり返し…。

劇団化して最初の作品だそうだが、その後の青☆組の基礎となるものが
全て注ぎ込まれたような作品だと思った。
登場人物の健気さや強さ、儚さとしたたかさ等人間の普遍的な営みが丁寧に描かれ
同時にひっそりと消えて行ったものへの哀惜の念がにじむ。
この湿度のある空気は、青☆組ならではの心地よさであり、私が好きな理由だ。
劇団化5周年に再演してくださったことに感謝したい。





治天ノ君【次回公演は来年5月!】

治天ノ君【次回公演は来年5月!】

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2016/10/27 (木) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

孤独な職業
2013年の初演で衝撃を受けたあの作品にまた会えることが嬉しい。
明治・大正・昭和の“時代を丸ごと担う天皇という職業”の過酷さと孤独が
厳選された台詞と、側近たちの的確なキャラ造形によって浮き彫りになる。
お辞儀の雄弁さをこれほど感じさせる作品を私はほかに知らない。
原敬、四竈、有栖川宮のお辞儀には深い慟哭があり、どうしても涙が止まらない。

ネタバレBOX

舞台空間は大きくなったが、初演とセットはほぼ同じ。
舞台上手奥から下手・手前に斜めに向いた玉座と、
玉座から真っ直ぐ伸びる赤いじゅうたん。
ここで天皇家親子の確執、時代を読んで蠢く側近たち、
そして大正天皇の人柄を愛し、彼のために尽くそうとする人々が交差する。

物語の中心に立ち、すべてを見渡して語るのは皇后節子(松本紀保)。
明治天皇の「天皇は神である、人情を捨てよ」というスタンスと
その強力なプレッシャーの中で新しい天皇像を模索する大正天皇、
“明治の再来”を推進するため、父大正天皇を追い落としにかかる昭和天皇、
という3代の天皇がくっきりと描かれる。
彼らを取り巻く側近たちの思いもリアルで、原敬(青木シシャモ)や四竈(岡本篤)の
大正天皇に対する敬愛と無念さに、泣けてならない。

明治天皇役の谷仲恵補さん、感情を排した硬質な台詞が続いたあと
後半で微妙な親心を滲ませるところが際立っていた。
西尾友樹さんの大正天皇は、国民と共にありたいという真摯な姿勢と生来の明るさが
病を得て尚伝わってくる繊細な演技が素晴らしい。
冒頭台詞を言いながら動き回り過ぎる印象もあったが次第に落ち着いた。
初演の時よりも障害を負ってからの身体表現や
言語障害の表現は少若干抑えられたか。
昭和天皇役の浅井伸治さん、側近の提言にたじろぎながらも
父大正天皇を追い落として天皇の座に就く辺りから
あの”ヒロヒト”に見えて来るから凄い。

松本紀保さん、立ち姿と所作の美しさは言うまでもないが
庶民とは別の次元の美しい台詞を違和感なく発する気品はこの方ならでは。
語りと皇后役の切り替えも無理なく自然で、作品の要として素晴らしい。
今回皇后の語尾の置き方(テンポと音程)がちょっと気になったけれど
あの時代の皇室独特の言い回しなのかもしれない。

キャスティングのはまり方が素晴らしいのでこれ以外の配役が考えられない。
フィクションであると判っていながら、新しい歴史認識を提示するようなリアルな感触。
ひとりの歴史上の人物を、これほど生き生きと立ち上がらせる
演劇の力と可能性を改めて再確認させてくれる作品だと思う。
それにしても、日本にひとりしかいない、誰とも共有できない責務である
天皇とは、何と孤独な職業なのだろう。
再演に心より感謝します。

ここはカナダじゃない

ここはカナダじゃない

オイスターズ

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2016/10/22 (土) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★

気の毒可笑しい
ナンセンスコメディの面白さは、いかに登場人物がリアルに見えるかだと思う。
どんなにシュールな設定でも、彼の心情に共感した瞬間事態は現実となる。
田中くんの庶民的で素朴な感情が、ほろ苦く“気の毒可笑しい”。
舞台が広くて拡散した印象が残念、下北辺りの極小空間の方が似合う感じ。

ネタバレBOX

広い舞台は照明器具以外ほぼセット無し状態。
カナダの空港に降り立った田中くんと板谷くんの
高揚した気分と初めてのカナダへの期待…。
ところが迎えに来たガイドもタクシー運転手も日本人、
街の景色も広告も日本にそっくり、と“カナダ感”はゼロ。
「羽田から14時間ずっと窓の外を見ていた」田中くんは
ここが日本で、しかも出発した名古屋だとはどうしても認めることが出来ない。
ここはカナダだと自分に言い聞かせては、周囲のクールな分析に打ちひしがれる。
その繰り返しの中で出会うキャラが結構濃い目で面白い。

ここがカナダではないことが早い段階でネタバレ、観客は知りつつ観ている。
もしこれが、少しでも(カナダかな、名古屋かな?)という
観客にも“揺れる”時間があったらもっと面白かったかも、と思った。
名古屋のカナダっぽさ、カナダの名古屋っぽさ(そんなのあるかどうか知らないが)、
最近まで大橋巨泉さんもいたことだし、カナダと名古屋の意外な共通点を
無理くり並べて見せてくれたら面白いかなと、素人は思ったわけです。
狂犬百景(2016)

狂犬百景(2016)

MU

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2016/10/01 (土) ~ 2016/10/10 (月)公演終了

満足度★★★★

”狂人百景”
謎の狂犬病が蔓延して、犬にかまれた人間がゾンビ化するという事態が発生する。
ここで描かれるのは人を食う犬ではない。
“食われるかもしれない”という状況下で、次第に感情の振れ幅が大きくなり
狂気に至る人間の思考回路だ。
1~4話のうち、3話の緊張感が素晴らしかった。

ネタバレBOX

ウッディなブラインドが縦横に張り巡らされた背景、
その手前に椅子やラックを置き、薄明りの中で場転が整然と行われる。
客入れのBGMも静かで私は好きだ。
犬の吠え声などの効果音も“びっくりさせてやろう”ではなくて距離感が自然。

第一話・・・「お前のそういうのが嫌で別れたんだよ!」という元夫の言葉が最高!
持論を展開する元妻の押しつけがましさが上手い。
「大義名分を掲げて信じる道を説きまくる」めんどーくさい女っているいる。
犬にかまれて異常な状態になっていくにしてはのんびりした雰囲気。

第二話・・・“噛まれてゾンビになるかもしれない恐怖”より
“どうせ死ぬならその前にやっておきたいことがある”という人間の欲望が怖い。

第三話・・・4つの中で最も登場人物のキャラが濃く、シリアスに出ていて出色。
社会の不安を逆手にとり、同時進行でリアルな描写の漫画を描く漫画家が
作品のために「正当防衛」と称して犬狩りをし、
撮った画像から絵を起こす、という狂気。
彼を取り巻くボクサー崩れとファン上がりのアシスタント女性、編集者の4人が
血まみれで狂喜する様に戦慄が走る。
漫画家とボクサー崩れとの会話、ワケアリそうなライターとカメラマンの隠し撮り等
緊張感が途切れず、ぐいぐい惹き込まれた。
漫画家役の山崎カズユキさん、過去舞台を2度ほど拝見したが
今回は名前を見るまで分からなかった。
ノーマルな発言の裏に強烈な優越感や差別意識を持ち、
それに一点の疑問も抱かない、まさに“普通のようで狂人”が上手い。
カメラマン役の古屋敷悠さん、やはりこの人が出てくると台詞に緊張感が走る。
何かやりそう感満載。

第四話・・・3話までの“その後”が描かれる。
「動物愛護センター」と言いつつ実は“殺処分センター”として機能している現実に
打ちのめされながら働く人々。
そこにこれまでの登場人物がちらほら出入りしている。
3つのエピソードのまとめ方が面白かった。
犬をもらいに来るNPO法人さんのキャラが秀逸。
ポップンなら「犬の役」かもしれないが、今回は人間。
第二話とは打って変わってどーしよーもない、軽い男が素晴らしい。

ハセガワアユムさんは、グロい場面を想像させるのが巧みなので
さらりと言わせているが、一番震撼させたのはあの男だった、
というオチもまさに「狂人百景」だった。


『ストラック・アウト・ライフ』ご来場ありがとうございました!

『ストラック・アウト・ライフ』ご来場ありがとうございました!

ド・M(マリーシア)野郎の宴

Geki地下Liberty(東京都)

2016/08/25 (木) ~ 2016/08/28 (日)公演終了

満足度★★★★

人生3回裏
かつての高校球児たちが20年ぶりに集まる。
ただ懐かしいだけではない、屈託を抱えたまま時計を巻き戻す6人。
所々に“人生の価値観”が散りばめられていて、軽い話に終わらないのが良い。
オーソドックスな流れの中で思わずこちらもうるうるしてしまうシーンがある反面、
若干もどかしい場面や、台詞の噛みが見られたのは残念。
メンバーのチームワークの良さがそのまま表れていて
いくつになっても「男子の部活」っていいなあ、と思わせる。


ネタバレBOX

舞台は野球部の部室、正面にロッカー、手前にはベンチが4脚。
ヘタな字で書かれた手紙を受け取った、かつての高校球児6人が久々に集合する。
地元の少年野球チームの監督をしている明司(大浦力)、
そこでコーチをしている太陽丸(土屋洋樹)、
“ブ”のつく国で幸せに暮らしていた泰次(紀平悠樹)、
高校時代は補欠だったが、マイナーリーグで契約した京一(森優太)、
そしてかつてはピッチャーとキャッチャーとしてコンビを組んだのに
あることがきっかけで疎遠になっている勘介(森山匡)と俊夫(狩野健太郎)。
思い出をたぐり、懐かしさに浸りつつ6人は考え続ける。
一体この手紙を書いたのは誰なのか、何故今皆を集めたのか…。

適度な謎解きをはさみながら、最後は素直な心情にほろっとさせる、
そのストーリーはとても魅力的で登場人物ひとり一人に共感できるものがある。
泰次の鷹揚なキャラはとても素敵だし、幸せの定義を考えさせてくれる。
勘介と俊夫が素直に語るところでは、想定の範囲内にもかかわらず涙が出た。
思いがけない京一の告白とその後の展開は、この劇団らしい温かさと
“やっちゃえニッサン”的な前向き思考に満ちている。
男子の不器用な思考回路とダメっぷりが随所にあって、そこがまた好きなところ。

残念だったのは若干流れが滞る場面があったこと。
例えば“白い粉”は早々に客にネタバラシされていたにもかかわらず
かなりの時間を費やして(ひっぱたいたのは大変よかったけれど)
泰次の口から改めて言わせている。
すでに判っている観客からすると、力んだ台詞に期待値も笑いも半減してしまう。
種明かしは遅い方が良かったのではないか、もったいないと感じた。
もしくはもっとスリムに、ひっぱたいて短時間で種明かしとか。

また野球を知っている人にはすんなり入るかもしれないが、
疎い人には、勘介・俊夫の肝心な“屈託の理由”が解りづらい。
声を張らないリアルな会話はとても好きだが、効果的に届けるには
もう少し工夫が必要ではないかと思った。
もっと届けばもっと笑いが起こるはず、と思う台詞がいくつかあって
マジもったいない。

相変わらず可愛い受付のお嬢さんといい、案内の青年といい
制作さんが感じよくて、劇場も好きだし、本当に楽しい。
私の好きなフラワーカンパニーズの「元少年の歌」を思い出した(^^♪


ブラック祭2016

ブラック祭2016

メガバックスコレクション

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2016/08/11 (木) ~ 2016/08/21 (日)公演終了

満足度★★★★

全員邪鬼
作品冒頭に緊張感が感じられず、あれ?と思ったが
その後の“人間の本性”が露呈していく様はさすが。
パターンといい、キャラの設定といい、そのバリエーションの豊かさが
面白かった。
終盤BGMに台詞がかき消されて肝心なところが聞こえなかったのが残念。

ネタバレBOX

舞台上手に簡素なベッド、下手にソファとテーブル、椅子が2~3脚。
正面には重厚な扉。

明転するとすでに4人がそこにいる。
何者かに拉致されて来た日本人4人、誰もその理由を知らず敵の正体も不明。
上から目線の嫌味なビジネスマン藤崎(井上正樹)、
藤崎に嫌悪感むき出しで突っかかっていく坂本(福永樹)、
状況を把握しようと情報収集に懸命な研修医松田(さかもとあかね)、
皆の間に入って必死に穏やかに収めようとする荒井(石澤友規)、
そしてもう1人、全てを知り尽くしているかのように落ち着き払った女
まりか(青地萌)が入ってくる。

「みんなでここを出よう」と呼びかけるのもつかの間
ドアの隙間から落とされる手紙に翻弄され
彼らは生き延びるために、誰かを殺さなければならなくなる…。

パニック物のキモは「極限における人間の本性」だ。
その本性が露呈していくプロセスをさらに面白くするのがキャラの設定だが、
ひねくれ者が意外に純情だったり、正義派がもろくも崩れたりと
そのあたりの変化を劇的に見せるのは相変わらず巧い。

残念だったのは終盤肝心なところで台詞が聞き取れなかったこと。
初日のせいか、若干台詞を噛んでいたこと。
父親の手紙が読まれるところが解りにくかったこと…これは私だけかな?
傷口を縫合するシーンのリアルな感じはさすがメガバと思った。
うちの犬はサイコロを振るのをやめた

うちの犬はサイコロを振るのをやめた

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターサンモール(東京都)

2016/07/23 (土) ~ 2016/07/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

やっぱりすごい芝居
やっぱりすごい芝居だと思う。
再演で話の筋は判っているのに、同じように衝撃を受ける。
このアイデア、構成、ナンセンスと批判精神、そして被り物の存在感。
増田赤カブトさんの成長と、顔が小さくすっきりしたことに改めて感動する。
相変わらず誰だかわからないぬいぐるみが似合いすぎる加藤慎吾さん、
この芝居のシリアスな重みを一身に背負う横尾下下さんの凄み、
シンプルな舞台でスピーディーな場転と効果的な映像の使い方、
効果音のタイミングの良さ、キャバレーのダンスのレベルアップなど
「ん・・・?」と思うところをチャラにしてしまうパワーとドラマ性がある。
役者さんは大変だろうに、客入れの時間までエンタメに徹するところが好き。

ネタバレBOX

まだ大陸に満州国があった頃のこと、何でもありの中国にはしゃべる犬がいた…。
その犬ゴルバチョフは、旧日本軍の手術によって「未来を見通す能力」を植え付けられる。
この能力のせいで彼の人生は大きく変わり、ついには大きな決断をすることになる。
未来を見てしまった彼が最後に変えたかったのは、一人の少女の運命だった・・・。

「ちょっと、しょう油取って」という犬の第一声がいいんだな。
ニワトリやトカゲ、マッサージチェアがフツーにしゃべって人間と仕事したりする、
この“既成概念を強制的に取っ払う設定”がいい。
世界観が広がってその後の展開は超自由、人間って奴のダメっぷりが際立つ。

いつもながら笑っているうちに怖ろしい事実が明かされ、
ゴルバチョフの苦悩が浮き彫りになる。
幸福な生活がすべて頭の中の世界だったということ、その世界を変えるべく
身を挺してシヅ子を守ることを決める決断。
加藤慎吾さんの台詞は、軽さと重さのバランスが絶妙。
それまで一度も吠えなかった彼が、ラストシーンで一度だけ長く吠える。
その切なさ全開の演出が秀逸。

CR岡本物語さんの芸達者ぶりも素晴らしい。
グレーのカツラが素敵すぎ!(いつもこれでいいんじゃね?ってくらいです)
野口オリジナルさんが惜しげもなく晒す(ほぼ)裸体の美しさ、
ためらいのなさが潔く清々しいので台詞に説得力が増す。

客入れの時のパフォーマンスも(人馬一体のアレも好きですが)力が入っており、
ショートストーリーとしての完成度高し。
いい気になったミッキーマウスがUSJに引き抜かれるという話だが
ブラックな結末など吹原さんらしくて強烈な印象を残す。

吹原さんの作品は荒唐無稽でふざけているが、それはすべて
人間の黒い部分を描くため、その対極に置かれるものだ。
被り物は、手段であって目的ではない。
それがここまで鮮やかな劇団を私はほかに知らない。
だから脱いでもすごいんです。
次はR18に行くぞ。




ただしヤクザを除く

ただしヤクザを除く

笑の内閣

こまばアゴラ劇場(東京都)

2016/07/13 (水) ~ 2016/07/18 (月)公演終了

満足度★★★★

ヤクザの人権
ドタバタに笑っていると、結構マジな法律の話になって
「ほう!」「へえ、そーなのか」と感心してしまった。
「人権」に関する解釈など目からうろこの説得力。
底の浅い自己満足の人助けなど何の解決にもならないことを教えてくれる。
社会や政治家の矛盾、そして大衆の感覚にも疑問を呈する
その視点が素晴らしい。

ネタバレBOX

ピザマッチョの広島地区エリアマネージャーの住吉は
呉中央署の巡査部長稲川に呼び出され、
「今後ヤクザにピザを売らないように」と指導を受ける。
だが呉店に行ってみると、既に常連のヤクザから注文が入っており
今日は自分で取りにくるという。
正面からヤクザに話してみることにしたマネージャーだったが、
ヤクザにはヤクザの哀しい事情があった…。

B級のつくりとキャラで展開するのだが、
「ヤクザの人権を守ることが、全ての人の人権を守ることにつながる」
という視点が素晴らしく効いていて、そこがキモ。

誰からも好かれる人の人権は自然に守られるが、
「嫌われ者の人権は法律で守らなければ誰も守ってくれない」というのは
本当にそうだと思う。
容疑者への人権侵害、容疑者の身内への人権侵害、
不倫したタレントへの人権侵害…等々
社会は“好き嫌い”で人権を尊重したりないがしろにしたりする。
民主主義の未熟な社会においては、やはり法律で守る必要があるのだ、
という理論は説得力大。

ラスト、「ヤクザなんか辞めて普通の仕事をすればいいのよ」という皆の説得に
ヤクザが返す究極の一言で芝居は終わる。
「じゃ、元ヤクザを雇ってくれますか!?」
誰も答えられない、誰も解決できない、この問いがすべてという気がした。

アフタートークで高間氏が
「ヤクザという言葉を“演劇”に置き換えても通用するように書いた」
と発言していたのが可笑しかった。



ニッポン・サポート・センター

ニッポン・サポート・センター

青年団

吉祥寺シアター(東京都)

2016/06/23 (木) ~ 2016/07/11 (月)公演終了

満足度★★★★★

立ち上げる人、近所の人
力まず自然なやり取りに“あるある感”満載の登場人物、
あー、こういうことが日々あちこちで起こっているんだろうなと思わせる。
普通の会話がどうしてこんなに可笑しいのか不思議だ。
「NPOを立ち上げる人々」と「ボランティアする人々」がくっきりしていて
その温度差がリアルに可視化されているところが可笑しいんだな。
俗っぽい会話から日本の社会問題が透けて見えるような構造が素晴らしい。
山内健司さん、あのキャラはアテ書きなんでしょうか(笑)

ネタバレBOX

舞台は駆け込み寺型NPOの事務所。
日々様々な問題を抱えた人々が相談に来る。
受け容れる側は所長のほか、サブリーダーやカウンセラーなど。
事務所には近隣に住む人がサポーターとして待機しており、噂話に花が咲く毎日。
サブリーダーは、夫が盗撮の疑いで捕まり、職場に迷惑がかかるのを怖れている。
インターンの学生が2人来ていたり、DVが疑われる夫が訪ねてきたり、
サポーターの1人が義理の息子の再就職を市役所にツテのあるNPOに頼んだりと
小さな事務所は今日も多くの人が出入りしている・・・。

定点カメラで事務所の一日を撮り続けているかのような淡々とした視点。
時間内に結論を出そうとか、問題を一つでも解決させようとかいう
余計な力を排した結果、ごくごく自然で超リアルな手触り。

リアルなのは登場人物も同様で、NPO立ち上げから関わってきた人々と
サポーターと言う名でボランティアに来る近隣の人々との落差が大きいのも
現実的で“あるある感”満載。
超個人情報を扱う場所なのだが、噂話が飛び交い、噂の情報交換は活発。
客入れの時から、舞台で本を片手に碁を打つ悠々自適おじさんや
人はいいが“知りたがり・のぞきたがり”なおばちゃん精神全開のキャラ、
家業の床屋(?)が暇になるとここへ来て時間を潰す自称「髪結いの亭主」など
そのユルいたたずまいが、所長ら相談員の持つ緊張感とは対照的だ。
そのサポーターに「ありがとうございます」とひたすらお礼を言い続ける職員達。
現場でよく見る風景であり、つくづく“ボランティア”のあり方を考えさせる。

海外赴任から戻ってから会社を辞めた息子の再就職を頼むエピソード、
開発援助という名の下、自分の仕事に疑問を感じて行き詰まった義理の息子が
いかにも生真面目なきちんとスーツを着て話を聞きにくるシーンなど
本人の真剣さと親の期待、周囲の楽観などが
「実は市のゆるキャラの着ぐるみにはいる」仕事だという現実の前で
可笑しいやら気の毒やら現実はそううまくいかないよって感じで笑ってしまう。

舞台奥に3つ並ぶ“カラオケボックスの業者が作った(劇中の台詞から)”という
防音の相談室が秀逸。
渦中の人が中に入り、スタッフがブラインドを閉めた途端、
観客は自然と舞台手前に集中する。
時々相談室のドアが開くと中の会話が漏れ聞こえて、
そこでは話が継続して進行していると判る。
人物の出ハケ、話題の切り替え、話の同時進行という役割を担って
素晴らしく機能している。

真面目なだけに、自分の思いを真剣に伝えようとすると、
人はこんなに滑稽なものだということを、平田作品は示してくれる。
いつもながら役者さんの間の取り方がまた素晴らしくて、
これも笑いの大きな要因だと思う。






CALL AT の見える桟橋

CALL AT の見える桟橋

メガバックスコレクション

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2016/07/01 (金) ~ 2016/07/09 (土)公演終了

満足度★★★★★

見事な台詞の応酬 (Aを観劇)
シンプルだが良く出来たセットと、ユニークな異形の者たちが面白い。
キリマンジャロ伊藤さんと小早川知恵子さんによる
脚本の面白さを100%生かした見事な台詞の応酬が素晴らしい。
笑っているうちに、作者の死生観や哲学に裏打ちされた深い意図が浮き彫りになる。
これが、メガバックスコレクションの最大の魅力であり、強みだと思う。

ネタバレBOX

客席に足を踏み入れると、既に不思議な生き物たちが会話している。
意味は解らないが感情は伝わってくるような不思議な言葉に、
ファンタジックな雰囲気満載。
人間ではない彼らのうち、二人はセットの一部みたいに動けない状態。
檻の中にもひとり、正面には時々動く男が鎖につながれている。
何が始まるんだろう、とわくわくしながら開演を待つ。

暗転の後、この桟橋で4人の人間が次々と意識を取り戻す。
追っ手を振り切りながら車に乗っていた泥棒(キリマンジャロ伊藤)。
恋人を追いかけて時計台から転落したエンターテイナーの女(小早川知恵子)。
鉄棒から落ちて首から下が動かなくなり長く入院していた少女(久下綾香)。
戦場で、故郷へ帰る直前に撃たれた無線兵の男(松尾祥磨)。
ほどなく皆、自分が死んだことに気付いてここがどういう場所なのかを探り始める。
背が高く白塗りの顔をした男が、船で彼らをあの世へ連れて行くらしい。
そして異形の者たちはそれぞれ未練・嘘・夢・罪を主食としていることが分かる。
限られた時間内に戻れば生き返ることが出来ると知って、危険な賭けに出るか、
船の修理が終わったらおとなしくあの世へと旅立つか、4人の苦悩が始まる…。

似たような設定の物語は過去の作品にもあったのに
どうしてこんなに毎回感動するんだろう。
生への執着や、生きる意味を見出せないこと、大切な人を失った絶望、
そしてあと少しで助けられたのに、という後悔の念。
それらを抱えたまま突然命を絶たれた人間の心情が、
威勢のいい台詞の応酬の中に丁寧に織り込まれている。
この期に及んでまだ真実を隠そうとする心理も自然で共感を呼ぶ。

人間って弱い、だけど優しくて素敵だ。
いや、弱いからこそ優しいのかもしれない。
個々のエピソードが良く出来ていて、一人ひとりに感情移入できる。
作者の死生観や哲学が無かったら、エピソードがブレると思うが
生死を俯瞰するような視点が貫かれており、
結果的に一人ひとりの生きていた時間が鮮明に立ち上がる。

泥棒とエンターテイナーの台詞に含蓄とユーモア、
ラブコメのテイストがあって大変楽しかった。
死んだ方が自由に動けていい、と言う少女の本心と
最後の決断に至るプロセスには
説得力と愛情があふれていて涙があふれた。

鎖でつながれて人間の未練を食べる男(奈良勇治)、表情はほとんど見えないが
最初から最後までモンスターらしい言動が貫かれていて素晴らしかった。
死後の世界への案内人(卓巳)が無表情にも関わらず、実は真実を見る目と
温かな心を持っていることが伝わる微妙な台詞が巧い。
上司(?)からの電話に「はい、夫婦なので」と言う台詞には笑った。
紅白の小林幸子みたいに装置と化しているモンスター(鈴木ゆん・本澤雄太)が
異次元の世界観を表していて大変効果的。ころころ笑う声はBGMのよう。
嘘を食べるピンクの女(ザッちゃん)の、嘘の暴き方が痛快。
話を思いがけない方向へと転がすきっかけになるところが面白かった。
船の修理をする男(井上正樹)、人間なのにモンスター達に近しい感じが
良く出ていて面白かった。

改めて「HOTEL CALL AT」をもう一度観たいと思わせる作品だった。
メガバックスが次はどんな世界を提示してくれるのか、もう心待ちにしている。

逆光、影見えず

逆光、影見えず

MCR

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2016/06/24 (金) ~ 2016/07/03 (日)公演終了

満足度★★★★

オサム
主宰で作・演出の櫻井智也さんは20代の頃太宰作品にのめり込んだという。
その正面切って向き合う姿勢が存分に台詞に表れている。
もうすぐ死ぬからって、美しい過去ばかり出て来るわけじゃない、
っていうところがいい。
櫻井さん演じる医師のいい加減さが最高!

ネタバレBOX

ひとりの男が余命宣告されて、否応なしに自分の人生を振り返る。
時代を逆行して過去の出来事が再現されるのだが、
高校時代の彼が鼻持ちならないナルシストだったり、
友人の妻と付き合っていたことがあったりと、
ヤな奴の延長線上に現在があることが分かる。

死を前にした人間に対する周囲の戸惑いと、
「だけど生きてるうちにこれだけは言っておきたい」的な完結願望で
妻も友人たちも彼を囲んでぐるぐる周る。

妥協しないで正面から向き合うと、他者との会話はこうなっていくのだと見せてくれる。
私たちが日ごろ、人間関係の亀裂を怖れて回避していることをずんずんやらかしてくれる。
理屈を手放すことなく、幾重にも重ねてめんどくさい会話になっていくところが面白い。
これこそが“櫻井コミュニケーション”だと思う。

過去のオサムを演じた小野ゆたかさんの振り切れた芝居が面白かった。
堀靖明さんの眉根を寄せた顔と繰り出す台詞が好き。
櫻井智也さんは、お堅い職業ほどその人の本音をえぐり出すので、医師は最高!

欠陥人間に寄せる愛情と悲哀がないまぜになっているところ、
太宰とMCRの相性の良さを発見して嬉しくなった。


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