治天ノ君【次回公演は来年5月!】 公演情報 劇団チョコレートケーキ「治天ノ君【次回公演は来年5月!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    孤独な職業
    2013年の初演で衝撃を受けたあの作品にまた会えることが嬉しい。
    明治・大正・昭和の“時代を丸ごと担う天皇という職業”の過酷さと孤独が
    厳選された台詞と、側近たちの的確なキャラ造形によって浮き彫りになる。
    お辞儀の雄弁さをこれほど感じさせる作品を私はほかに知らない。
    原敬、四竈、有栖川宮のお辞儀には深い慟哭があり、どうしても涙が止まらない。

    ネタバレBOX

    舞台空間は大きくなったが、初演とセットはほぼ同じ。
    舞台上手奥から下手・手前に斜めに向いた玉座と、
    玉座から真っ直ぐ伸びる赤いじゅうたん。
    ここで天皇家親子の確執、時代を読んで蠢く側近たち、
    そして大正天皇の人柄を愛し、彼のために尽くそうとする人々が交差する。

    物語の中心に立ち、すべてを見渡して語るのは皇后節子(松本紀保)。
    明治天皇の「天皇は神である、人情を捨てよ」というスタンスと
    その強力なプレッシャーの中で新しい天皇像を模索する大正天皇、
    “明治の再来”を推進するため、父大正天皇を追い落としにかかる昭和天皇、
    という3代の天皇がくっきりと描かれる。
    彼らを取り巻く側近たちの思いもリアルで、原敬(青木シシャモ)や四竈(岡本篤)の
    大正天皇に対する敬愛と無念さに、泣けてならない。

    明治天皇役の谷仲恵補さん、感情を排した硬質な台詞が続いたあと
    後半で微妙な親心を滲ませるところが際立っていた。
    西尾友樹さんの大正天皇は、国民と共にありたいという真摯な姿勢と生来の明るさが
    病を得て尚伝わってくる繊細な演技が素晴らしい。
    冒頭台詞を言いながら動き回り過ぎる印象もあったが次第に落ち着いた。
    初演の時よりも障害を負ってからの身体表現や
    言語障害の表現は少若干抑えられたか。
    昭和天皇役の浅井伸治さん、側近の提言にたじろぎながらも
    父大正天皇を追い落として天皇の座に就く辺りから
    あの”ヒロヒト”に見えて来るから凄い。

    松本紀保さん、立ち姿と所作の美しさは言うまでもないが
    庶民とは別の次元の美しい台詞を違和感なく発する気品はこの方ならでは。
    語りと皇后役の切り替えも無理なく自然で、作品の要として素晴らしい。
    今回皇后の語尾の置き方(テンポと音程)がちょっと気になったけれど
    あの時代の皇室独特の言い回しなのかもしれない。

    キャスティングのはまり方が素晴らしいのでこれ以外の配役が考えられない。
    フィクションであると判っていながら、新しい歴史認識を提示するようなリアルな感触。
    ひとりの歴史上の人物を、これほど生き生きと立ち上がらせる
    演劇の力と可能性を改めて再確認させてくれる作品だと思う。
    それにしても、日本にひとりしかいない、誰とも共有できない責務である
    天皇とは、何と孤独な職業なのだろう。
    再演に心より感謝します。

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    2016/11/01 17:44

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